銭形たちが一時的に帰投した数日後、音無の元に黒野からの手紙が来た。
手紙曰く、『急躍進を遂げている貴官の鎮守府に是非お邪魔して色々視察し、今後の参考にしたい。五日後、貴官の鎮守府を訪問したくお願い申し上げる』とのことだった。
もし手紙が来ないのであればこちらから招待状でも出そうかと思っていただけに、渡りに船であった。
「よし。向こうから来たいと言ってくれるなら願ったり叶ったりだ。これなら、黒野提督を誘い込めるな。資源の備蓄具合はどうだ?」
「はい。備蓄に余念はありません。少し前の大型艦建造の分の1.5倍近くは既に備蓄されています」
「伊勢、数値的には?」
「現在弾薬が10万25、燃料が7万921、鋼材が8万3214、ボーキサイトが8万738となっています」
「食料や消耗品の輸送、備蓄も進めている。前回襲撃で消耗した分についても取り戻しつつある。しかし、いい隠れ蓑にしたな、提督」
「まぁな。前回の奇襲では実際色々なモノがぶっ壊されて失われた。それを取り戻しておかないことには、安心して出撃させられねぇからな」
この数日間は黒野との決着に向けて準備をするので出撃を取りやめ、演習と遠征によって練度と資源の備蓄に当たっていた。
今後も大量の資源を浪費すると想定している音無は、この数日間を利用して資源の備蓄に当てていた。
さらに黒野を迎えるために色々な準備に追われる音無たち。特に、最近はより親密になっているからか、伊勢と日向が音無の傍にずっといる。そんな3人を微笑ましく思いながらも、ゆりが近付く。
「伊勢、日向。実はね、あなたたちに頼みたいことがあるの」
ゆりはどうやら、伊勢と日向に頼むつもりだったようだ。その言葉を聞いた2人はニコッと笑った。
「大丈夫だよ、ゆりさん」
「えっ?」
「私たちは知っている。あなたが憎まれ役を買って出ようとしたことを」
「誰から……あっ、千歳!」
そんなことを口外しそうな人物が1人しかいないことに気付いたゆりだったが、そうだと分かると逆に納得したようだ。
「そうだったの……ゴメンなさい。あなたたちのこと、見くびっていたわ」
「いいよ。その代わり……」
伊勢がゆりの頬を掴むと、なんといきなりキスしてきたのだ。
「むぐっ!?」
数秒ほどのディープキスを終えると、今度は日向が同じようにキスをしてくる。
「(なんでぇ!?どうしてアタシが伊勢と日向にキスされてんのぉ!?)」
日向もキスを終えると、唾液が『とろり』と糸を引く。それがあまりに淫靡で、音無ですら息を呑んでいた。
「ぷはっ……あ、アンタたちぃ……」
伊勢と日向は素早くゆりの耳元に迫る。
「ふふふっ。はい。ファーストキスいただきましたっ」
「これで、お相子だろう?」
ゆりは、自分が心の奥底に抱いている想いを見透かされた、と考えた。ファーストキスが女性から、しかも舌をねじ込まれる熱烈なものをされてしまい、ゆりは反論する気力さえも削がれてしまったのであった。
「もう……しょうがないわねぇ」
「えへへっ、ゆりさんも素直になった方がいいよ?」
「それ、あなたたちの経験?」
「まぁ、そうなるな」
その夜、音無は翔鶴、陸奥、そして萩風の3人と床を共にしていた。
「んむっ……てい、とくぅ……♡」
――じゅぼっ、じゅぼっ、ぐちゅっーー
翔鶴の膣には音無のペニスが出し入れされており、翔鶴とキスしながらの対面座位で音無が激しく翔鶴を突き上げている。
「(あぁんっ♡提督のオチンポぉ♡私の膣内をずぼずぼしてますぅ♡キスもいいっ♡すぐめろめろになってしまいますぅ♡)」
言葉にこそなっていないが、翔鶴の瞳には強烈なハートマークが浮かんでいる……ように見える。先程大量射精を受けてボテ腹にされた陸奥も萩風も笑うばかりだ。
「もうっ……提督ったら相変わらず激しいんだからぁ♡」
「うふふっ。司令官、翔鶴さんに夢中ですねぇ♡」
一見余裕そうに見えるが、2人も先程まで激しく貪られていたこともあってか、笑ってはいるが息も絶え絶えというのが正しい状態になっていた。
そして、音無もあっという間に限界が訪れる。
「むぐっ‼」
――びゅるるるるるるるるるるるっ‼どびゅびゅびゅびゅるるるるるっ‼――
「んひいぃぃぃぃぃぃぃぃっ♡提督のじゃぁめんドバドバぁっ♡おにゃかはれちゅしゅるうぅぅぅぅっ♡」
翔鶴がガクガクと仰け反りながら絶頂し、ムチムチだったお腹が一気に獲物を呑み込んだカエルのように膨れていく。
膨張した腹部の感触を肌に感じながら、音無は翔鶴の乳房に吸い付く。
「んむっ……んぐっ、んぐっ、んぐっ」
「ひいぃぃっ♡提督ぅ、もっと吸ってぇ♡翔鶴のタンク空っぽになるまで吸って下さいぃぃ……♡」
この後、さらに翔鶴や陸奥のアナルへの射精など一しきり激しい交わりを終えたのだが、音無は寝転がりながらなにかを考えているような顔になっていた。
「どうしました、提督?」
あっという間に絶頂から立ち直った翔鶴が、音無の胸元に顔を寄せながら問いかけた。
「いや。この後黒野提督とやり合うと思うとな……」
「緊張されますか?」
翔鶴が乳房とお腹を擦り付けてくると、音無は翔鶴の腰を抱き寄せて抱き着く。
「そうだな。人一人の人生をかけて戦うことになるかもしれないって思うと……緊張するよ。でもな、俺たちはかつて、そんな理不尽なことを色々経験していたんだ」
「それで死後の世界に行かれた……でしたね」
「あぁ。ゆりは強盗に兄妹を皆殺しにされて、日向は薬物に手を出して廃人寸前のところで事故に遭って……俺だけじゃない。皆それぞれに、色々苦しい思いを味わって来たんだ」
音無は『だから』と力強く続けた。
「そんな思いを、艦娘の皆には味合わせたくない。味わったとしても、その娘が立ち直れるように頑張りたい……贅沢かもしれないけど」
音無がそこまで言ったところで、反対の腕にも柔らかい感触が伝わってきた。見れば、陸奥が左腕に抱き着いてきたのだ。
「大丈夫よ。あなたなら……きっと皆を助けられる。そんな気がするの」
すると、今度はお腹の上に萩風がのしかかってきた。
「そうですよ。司令官ならきっと……きっとできます」
3人の言葉に音無もフッと笑う。
「皆……ありがとう。じゃ、まだまだするか」
「まぁ♡」
「あらあらあらぁ♡」
「うふふっ♡」
こうして、夜は更けていく。
翌日、音無は演習と遠征のための艦隊の指揮を執っていた。
もちろん艦娘たちとイチャイチャするのも忘れない。海域解放に出撃しないことを除けば変わらない日常だと内外に示すためである。
伊勢や日向など、鹵獲改装組も一部は間もなく改二になるだろうという練度まで上がってきている。
というか、皆の演習による練度上昇が著しく、中には一度も海域解放の戦いを経験せずに改二になるかという者もいるほどであった。
「伊勢と日向の改二か。これ以上に強化されるんだったら、増々前線に出てもらう可能性が高いってことか」
「そうだな。俺が生きてた頃にはもう実装されていたな。艤装を見れば、航空戦艦って名前が受け入れやすい姿だと思えるはずだ」
「そうか。一度は失った艤装、2人が喜ぶ姿を見るのが楽しみだ」
「自分が、じゃねぇのがお前らしいな」
横で音無の顔を見ていたチャーはニヤリと笑っていたが、音無は気にしなかった。その日の晩は加賀と鈴谷、妙高と如月を招いてたっぷり抱いたのだった。
次の日、音無は特設した射撃場で訓練をしていた。時間があればやっていたが、ここ数日は空母棲鬼の奇襲やその後始末もあってできていなかったので、久しぶりに来ていた。以前はグロック17を愛用していた音無だが、銃身を構成する強化プラスチックが調達できないため、調達可能であり、鋼板プレス加工で作れて弾数が多いワルサーP38を使用している。
屋根を作る時間がなかったので、壁に囲われただけの状態で射撃をする。マガジン1本分を撃ち終わったところで、何回か深呼吸をした。
「おやおや、随分熱心だな、音無さん?」
「日向(ひなた)」
音無を呼んだのは、日向だった。着任当初は風呂などで会話をする時間もあったが、艦娘と体の関係を持ち、特に鹵獲改装組との関係が深くなった頃から入浴は提督用の個人浴場を利用することが増えたため、大分顔を合わせる機会も減っていた。
「相変わらず……いい腕してんなぁ、お前は」
「俺としては、そんなつもりはないんだけど」
「お前が初めてオペレーションに参加した時の話をチャーにしたら驚いてたぜ。9mm口径でも、いきなり体の真ん中に当てられるのはセンスが無きゃ難しいってな。そんな話を聞くとさ、お前は本当に俺たちが持っていなかったものを色々持ってるなって」
「そんな、色々なんて……」
「あのゆりっぺに、あんなことを言わせるくらいにな」
「えっ?」
驚く音無を尻目に日向は続ける。
「この前の作戦会議の時、あいつは自分の体を好きにしていいって言ってたろ?あの世界にいた頃のゆりっぺじゃ、想像もできないようなセリフだ。そんなの、嫌いな奴には死んでも言いたくないと思うぜ、ゆりっぺみたいな女なら」
「日向、それって……」
音無が聞こうとすると、日向は自分のS&W・M645を構えて撃ち始めた。
「これでもさ、戦線の誰よりもゆりっぺを見てきたんだ。いくら俺がアホでもあいつの変化くらいは分かる。でも、ゆりっぺから言うまではそっとしておいてやってくれ」
「だったら、なんで言ったんだ?」
「今のお前は、艦娘と向き合うので手一杯だろう?せめてそれだけは分かっておいて欲しいと思ってよ。でも、ゆりっぺは強情だから、お前に言われても意地張って本当のこと言おうとしないだろ?」
「……確かに」
日向の指摘が尤もだったので、音無も苦笑いしていた。
「だから、ゆりっぺが素直になったら、受け入れてやってくれ」
「……ゆりが、その気だったらな」
音無は新しいマガジンを装填すると、日向とタイミングをずらして撃ち続けるのだった。
それからさらに2日が経過し、遂に黒野提督が鎮守府を訪問する日がやってきた。
音無は皆と朝食を摂りつつ、今日の秘書艦である神通から報告を受けていた。
「提督。近隣鎮守府とはいつでも連絡が取れます。また、銭形提督と鷹山提督たちも現在はボルネオ島に滞在中ですぐ出動できるようにしているとのことです」
「あの濃い人たちが集まっていると、却って警戒されるかもしれないけど」
「それですが、銭形提督に関してはその心配はないかと……」
「んっ?どういうことだ?」
「実はつい先ほど、銭形提督がこちらへ出向したのは、『本来の業務』に準ずるものだと連絡がありました」
「本来の業務……?まさか……」
「はい、未確認ではありますが、かの怪盗がここから程近い諸島群で目撃されたという情報が」
「あの、ルパン三世が、この海域の近くに……」
「それを調査するための臨時拠点として、ボルネオ島に滞在していると大本営には報告していらっしゃるようです」
「なるほど、元々インターポールのお墨付きがある仕事とあっては、いくら軍のお偉いさんでも迂闊に止めることはできないってことか。でも、偶然なのか?」
余りに都合がよすぎるタイミングに、音無は疑問に思ったらしい。
「それなのですが……私も気になって調べたんです。銭形提督は提督業の傍ら憲兵と言える仕事もやっていたのですが……銭形提督が目を付けた人物の元に何度もルパン三世が現れているんです」
「……偶然、じゃないな」
「はい」
音無はすぐに察しがついた。
銭形提督とルパン三世は宿敵であり、ライバルであり、そして長年の友でもある。
銭形提督によると、ルパン三世は日本で仕事をしていたところ、深海棲艦の跳梁で海外へ逃げることができなくなってしまったらしい。その結果、ルパン三世は狭い日本に閉じ込められてしまっているらしく、泥棒活動ができていないという。
なので、銭形や他の提督たちに少しでも頑張ってもらわなければならないのだが、そこはそれ。人の集まりともなればどこかしらに不届き者も出てくるのが常である。
それを銭形が取り締まると聞いて、その手助けをしているのだとすれば納得がいく。
渡航手段とて、案外大本営あたりが裏で手を回している可能性だってある。
「なるほどな。もしかしたら……俺たちも拝めるかもしれないな」
「え?」
「世紀の大泥棒、大怪盗ってやつをさ」
音無は笑う。なんとなくだが、そんな関係を羨ましく、そして面白いと思っている自分がいるのだ。
朝食を終えた音無は艦娘たちを講堂に集めた。
「本日正午、マニラを預かる黒野満雄提督が当鎮守府を訪れる。相手は俺たちよりも戦歴の長い熟達者だ。皆、失礼のないように頼むぞ」
全員が『了解‼』と高い声を上げる。
「なお、黒野提督にはウチの鎮守府の艦娘を代表して伊勢と日向に接待をしてもらう。皆はいつも通りの姿を見せてくれればいい」
ほとんどの艦娘はただ先輩提督が来る、くらいにしか考えていないが、千歳や鹵獲改装組は知っているし、神通や摩耶、鈴谷や大井などの古参はちゃんと聞かされている。
これは信用していないからではなく、古参のベテランのみに情報を共有することで腹芸をやりやすくするためだ。
大井などはむしろ猫を被ることが多いからか(姉の方が猫らしい、と言うツッコミは無しで)そういう腹芸も好きらしく、楽しみにしているようだ。
「うっふっふ……♪どうせやるなら激しく、美しく……あ、いえ。なんでもありません~」
ニコニコのいい笑顔で言うものだから、音無も流石に顔を引きつらせていた。
「(大井……そう言えばむしろこういう奴だったっけ。ま、いいけどな)」
鳳翔は間宮、伊良子と共に食事の準備を進めており、鈴谷や榛名は砲撃の、摩耶や五十鈴が対空戦闘について指導をしており、Pretoria CastleとSableが艦載機の訓練を行っている。
正しく、普段通りの光景である。
「これで、違和感を持たれなければいいんですが」
神通が不安そうに言うと、音無は神通の頭を『ポン』と撫でた。
「分からない。だからこそ、俺たちにできる全力を尽くすしかないんだ」
音無の言葉に力強さを感じたのか、神通は顔を赤らめつつ『コクリ』と頷くのだった。
そんなことで時間は進み、あっという間に正午になるころ、桟橋には小型の貨客船と言うべき船が停泊した。音無は伊勢たちと共に整列して出迎える。
中から数名の黒服の男が降りて来たかと思うと、周囲を確認している。
「(用心深いな。汚野提督の調査によると、深海棲艦が出現する前は防衛省の制服組だったのが、現場に出向するようになったって人物らしい。現場出身の人より、世渡りってものの方が得意なのかもしれないな。だとすれば、特殊刑事課の捜査力でも尻尾を出さないのも納得だな)」
数分程周囲を見ていた黒服の1人が船の中に向かって『どうぞ』と声をかけた。
すると船の中から、50代前半くらいと思しき、固太りのがっしりした体躯の男が降りてきた。音無の第一印象としては『欲の皮の突っ張った人物』だとは思うが、立ち姿には間違いのない貫禄がある。
音無は一歩前へ出て先んじて挨拶する。
「お初にお目にかかります。当タウイタウイ島鎮守府を預かっております、音無結弦と申します。こちらは本日の秘書艦を務める神通です」
「神通です。よろしくお願いいたします」
黒野は鷹揚に手を振ると『出迎え、ありがとう』と声を上げた。
声は低く、肉体も鍛えているようだ。声質的には某ひげ独身のあだ名を持つ声優に近い感じの声だろうか。
悪役だとすればよく似合っている。
「向こうから色々聞こえるが、演習の最中かね?」
「はい。ご存じとは思いますが、先日深海棲艦の夜襲を受けたばかりでして、用心に越したことはありません」
「その若さで大した心構えだ。最前線は頼れる者も少なく厳しいかもしれんが、励みたまえ」
「お心遣い、ありがとうございます。しかし、心労については幾分か軽減されております。このように、傍らについてくれる者たちがおりますので」
音無はそう言って、自分の一番側にいる千歳、そしてその横に並ぶ伊勢たちを見る。
「この度、黒野提督のご案内を務める」
「航空戦艦、伊勢です」
「同じく、日向です」
一歩前に出て頭を下げた伊勢と日向を見た黒野提督の目を、音無はジッと見ていた。それまではそれらしい眼つきで音無を見ていた黒野提督の眼が、一瞬で下品な眼つきに変わった。
その視線は伊勢と日向の大きく膨らんだ乳房に注がれている。
「(やっぱり、目を付けて来たか)」
「君たちかね、噂の鹵獲改装を施された先任時代の艦娘というのは?」
「はい」
「我々が至らぬばかりにあの方を失ったかと思うと、心苦しいです。音無提督は我々が心労を軽減しているとおっしゃってくださいましたが、お互い様と思っております。今の我々は、音無提督に全幅の信頼を持っております」
「それはそれは、一度は敵に拿捕され心を折られたと聞いたというが、そこから立ち直れる強い心を持つとは……音無提督の人間性が君たちを救った証拠だということか。その辺りの馴れ初めは、これまでの報告と併せてゆっくり聞かせてもらおう」
「はい。どうぞこちらへ」
音無はこの日のために調整した応接室……と言う名の部屋へ通す。
普段の応接室は洋風の部屋だが、今回用意した部屋は和風で、旅館の大部屋のようになっている。
この上座に黒野を座らせ、両隣を伊勢と日向に固めさせるのだ。
「さぁ、どうぞ。お付きの皆さんもどうぞお座りください」
黒服たちが座り込むと、控えていたらしいQueen MerryやPretoria Castleたちが素早く飲み物を配っていく。
「彼女たちも知らない艦娘だな。どういった艦種かな?」
「あちらの背の高い金髪の女性は輸送船、Queen Merryです。そちらの小柄なメイド服の女性は特設航空母艦Pretoria Castleといいます」
音無も段々英語の発音に慣れてきたらしく、スラスラと言えるようになってきている。
黒野は彼女たちのことも舐め回すように見ていた。
そこへScharnhorstやIndianapolisなど、これまで確認されていなかったという艦娘たちも姿を現して挨拶する。
「ドイツの巡洋戦艦に原爆部品を運んだ重巡、貨物船との砲撃戦で相撃ちになった軽巡か……いやはや、聞いてはいたが君のところには面白い子がたくさん来ているようだね」
「面白い、と言えるかどうかは分かりません。彼女たちは、私などの想像を絶する経験をしてきた者ばかりですから」
「おっと、これは失言だったな。失礼した。君たちをバカにするつもりはなかったんだ。許してくれ」
傲慢なだけかと思いきや、ちゃんと相手の気遣いもできる。やはり油断のならない人物であると音無は警戒レベルをさらに上げていた。
「いえ。彼女たちは確かに色々なことがありました。しかし、艦娘となって今この鎮守府でそれぞれに頑張ってくれているのも事実。その点はどうか評価してあげてほしいですね」
「あぁ、もちろんだ。皆いい顔をしているからなぁ」
一見穏やかそうに言っているが、Scharnhorstの胸元やQueen Merryの尻など、あちこちを見回しているのがよく分かる。
チラリと伊勢が音無の方を窺うと、音無は瞳を少しだけ動かした。
伊勢が敢えて黒野に近付き、胸を当てるようにして麦茶を注いだ。
「さぁ、どうぞ」
「おぉ、ありがとう」
『むにゅり』という柔らかい感触を感じたからか、明らかに黒野の鼻の下は伸びていた。お付きの黒服たちは『またか』と言わんばかりの顔をしている。
どうやらこれがいつものことで、彼らもそれに付き合わされている部分があるらしい。
「(上司と部下とは言え、世知辛いこったな)」
その姿を見た音無は、少しばかり彼らに同情していた。
その上で鎮守府の設立から現在に至るまでの話を進める。
流石に色ボケと思しき黒野もこの鎮守府が何度も襲撃を受けているということに関しては興味があったらしく、真面目に話を聞いていた。
そこは一応、歴戦の提督というところだろうか。
「しかし、1度目はともかく2度目はよく乗り切れたものだね。かなり危うかったと聞いているが……」
「はい。ボルネオ島の汚野提督たちが救援に来てくださいました……精神的には救援といえたかどうかは分かりませんが」
心底イヤそうに言うと、そこは同意見らしく『全くだ』と同意した。
流石にブラック鎮守府の罪を犯している提督といえども、公序良俗という奴はある程度心得ているらしい。
というか、特殊刑事課の面々が公然猥褻罪と言っていい風体なので当然と言えば当然だが。
どちらが犯罪者か、見た目だけなら分かったものではないのだ。
「(これだけ堂々として、おまけに相手を気遣う態度まで見せる。これまで目を付けられた人たちも、こういう態度で接せられて気を許したのかもしれない。やっぱり一筋縄じゃ行かないな……椎名、高松、皆も頼んだぞ。今頃は……)」
話は、2日前に遡る。高松たちは夜戦組と椎名を乗せて、ボートで海を渡っていた。目的地は、黒野提督が守るマニラ島鎮守府。ただし、タウイタウイ島から一直線ではなく、南からフィリピン諸島を迂回している。
タウイタウイ島からマニラ島までは約一千キロもあるので、ボートでは一日近くかかってしまう。しかし、海を真っ直ぐ進んではマニラ島鎮守府の索敵に引っかかってしまうので、フィリピン諸島を迂回してバレないようにする必要があるのだ。操縦する高松の休憩時間も確保しなければいけないので、さらに時間がかかるのだ。
しかも、船のタンクに積める燃料だけでは限度があるため、艦娘たちの食糧以外は全て燃料を積み込んでいる状態であるため、途中で補給もしながらの進行となる。
「索敵に引っかからないようにとしないといけませんから、余計に長く感じますね」
「申し訳ありません、高松さん。私たちも操縦できたらいいんですけど」
「いいえ、皆さんの仕事はマニラに接近してからですし、気にせず体を休めてください」
高松もすっかりボートの操縦に慣れているようで、かなり滑らかな運航だ。
そんな高松を見つつ、旗艦を任された鳥海が綾波に問う。
「綾波さん、聴音機や探信儀に反応はありますか?」
「いいえ。反応から察するに岩礁は多数あるようですが、潜水艦の反応はありません」
「情報によれば、この付近は海流の流れが速い上に突き出た岩も多いので水上艦艇……それも小型のモノ以外は航行し辛いという話があるそうです。深海棲艦もこの辺りには潜水艦を送り込んでいないそうです」
鳥海の言葉に高松も『なるほど』と頷いた。
「お陰で敵襲は水上警戒を厳としていればいいのでわかりやすいですね」
「ちょっと気が楽になるっぽい?」
ちなみに、なぜ川内が旗艦でないのかといえば、彼女は夜にならないと本格的なやる気を発揮しないからである。
いつの間にか付けられた『夜戦バカ』というあだ名は伊達ではない。鳥海や綾波以上に夜戦特化なのだ。
「もうしばらくかかります。夕立さんは綾波さんと交代して水中の監視を厳としてください。水上は私が見ますので」
今回鳥海には主砲、副砲、熟練見張り員、そして32号対水上電探改を装備している。
32号改は日本の電探としてはかなり能力が高く、日本の大型艦にフィットするために今回鳥海に装備されたのだ。
探照灯の担当は綾波に任せている。
ただ、できれば使わずにすめばそれに越したことはない。探照灯は使用した者が集中砲火を浴びる、諸刃の剣なのだ。
本当なら水上監視も川内に交代で手伝ってもらいたいのだが、『夜戦じゃないよ~』とだるそうにしているので諦めた。
そんなやり取りを交わしつつ、船は進む。するとボートに搭載した無線に通信が入る。
「はい、高松です」
『おぉ、感度良好か、高松君』
「その声は、銭形提督?」
無線の主は、高松も予想外の銭形提督であった。
「なにかありましたか?」
『いいや、君たちの作戦を尊重しようと思ったのだが、今どの辺りだ?』
銭形提督に問われて、高松は現在地の緯度と経度を伝える。
『そうか。なら、そこから東北東へ200キロほど移動できるかね?』
「はい、可能ですが?」
『いや、悔しいのだが知り合いが手を貸すと連絡してきおった。いや、誠に悔しい』
「そ、それは一体?」
『あいつは、「ちょっと友達の多い一般人」を気取っておるからなぁ』
「は、はぁ?」
『ともかく、これから伝える座標に向かってくれ。あと、ボルネオ島の提督方の友人の友人も協力してくれるそうだ』
「直接的でないのが少々信用できないのですが……」
『一度は凶悪犯検挙に協力してくれたそうだ。その人物も一緒にいる。そこでどうにかしてくれるそうだ』
「りょ、了解しました」
高松は指示通り、3時間半ほどをかけて指定された海域に向かった。すると、高松たちの進む先に巨大な艦影が見える。
「あ、あれは……」
「確か、ニミッツ級原子力攻撃空母……この世界の米軍では退役したという空母ではありませんか!」
高松たちの前に姿を見せたのは、アメリカ軍の原子力空母ニミッツ、しかもその一番艦である。現実ではいまだに現役だが、この物語では深海棲艦の跳梁によって退役が早まったと大淀から聞かされていた。
すると、ボートの無線に通信が入る。
『君たちが、マニラ潜入作戦のメンバーか?』
通信の相手は、かなり太く年季の入った声だった。歴戦の強者だということは、高松にも想像がついた。
「は、はい」
『今デリッククレーンでボートを引き上げる。待っておれ』
通信が切れると、誘導に従ってデリッククレーンの下につき、引き上げてもらった。すると、ボートを降りた高松たちの前に1人の女性が現れた。アメリカ人らしい金髪と高雄型で十分豊満な鳥海を圧倒する圧倒的なサイズの胸を持つ長身の女性だ。
「ハーイ。私はジョディー。よろしくね」
「た、高松です。よろしくお願いします。広報の方ですか?」
「いいえ、私は歴とした空母発艦員です」
「ワシの娘として恥ずかしくない訓練を積ませておる」
ジョディーと名乗る女性の後ろから、先ほど通信をしてきた野太い男性の声が聞こえた。
固太りだが見事な筋肉をして、負傷したのか片眼は眼帯を付けている。顔にもある無数の傷が、彼を歴戦の強者だと語っている。
「君たちのことは海パン刑事たちから聞いておる。ワシは合衆国陸軍の爆竜大佐だ」
爆竜大佐といえばアメリカ陸軍の精鋭・グリーンベレーに在籍する叩き上げの軍人で、挨拶代わりに銃を撃ちまくる危険人物だ。
「今回は愚か者を検挙するということで、海パン刑事たちから協力要請があった」
「こんなことにUSAの艦を使うというのは、甚だ不本意だがな」
爆竜の後ろから別の女性の声がしたので高松たちは視線を変えると、ジョディーを超えるメートルオーバーの爆乳をぶら下げた長身の女性が立っていた。
「こ、これがUSAですか……」
その姿を見て高松はもちろん、椎名や鳥海たちも絶句していた。
「こちらは貌丹邑(ばくにゅう)ヤークト・パンテル大佐。私の元上官です」
ジョディーが紹介したこの女性は、日本でも警察相手に軍人仕様の訓練をしたことで一部の者に知られた危険人物、通称爆乳大佐である。
あの葛飾区公園前派出所の不真面目な巡査長ですら、色気より危険を感じたと言えばその激しさがうかがえる。
そんな爆乳大佐は高松と椎名を見て微笑んだ。
「お前たちがマニラに向かうメンバーか。思ったよりいい顔をしている」
曲がりなりにも歴戦の人物からそう評されたことから、2人も自然と頭が下がる。
「しかし、それほどの方々がどうして……」
「ワシの知り合いが特殊刑事課の連中から連絡を受け、ワシらに繋いできおった」
「かつて、私はエンタープライズの艦長を務めていたのだが、エンタープライズは既に退役している。次に乗る船がまだ決まらなくてな。ジョディーの要請もあって、横須賀の基地で新兵共の訓練をしていた」
「このニミッツ級空母は?」
「遺憾ながら、艦載機を積んでも深海棲艦共に撃墜されるのが目に見えておるから、昨今の空母は輸送艦の役割を担っておるのだ。だから、外に護衛がいただろう?」
爆竜に指摘されて、高松は先ほど引き上げてもらった時のことを思い出す。誘導した時に、アメリカ軍の艦娘たちが護衛についていたことを。
「幸か不幸か、このニミッツも原隊復帰して横須賀へ輸送に来ていたのだ。そこに、彼らの連絡が来た」
「こんな状況で輸送任務中の船を出すなどどうかと思ったのだが、これの艦長が『頼まれたからどうしても』と言うのでな。しかし、あの下衆の眼差し、間違いなく女に頼まれたな。恐らくは……マリーンの誇りある軍人を骨抜きにしおって、あの女盗賊め……」
銭形提督が悔しがる、しかも女盗賊。高松はそれだけで、今回の手引きをした人物の正体が分かった。
ルパン三世と手を組ことが多い女盗賊、峰不二子に間違いない。
そんな飛行甲板上には『Fー35C』ライトニング艦上戦闘機や、『EAー18G』グラウラー電子戦機などの機体がずらりと並べられている。
だが、これはいわゆる飾りに近い。
だが、その中に違和感を覚える機体が駐機していた。
それを見ながら爆竜が続ける。
「すまんが、作戦にはワシや一同も参加させてもらう。君たちには『あれ』に乗って敵地に乗り込んでもらうつもりだ」
「あれは……まさかっ」
よく見ると、整備員の中にやたらと青髭の目立つ整備員がいることに気付いた高松と、珍しく椎名も冷や汗を流す。
その整備員が高松たちの視線に気づいたと思うと、ニヤリと笑って『ムーンライトパワー!』と叫びながら服を脱いだ。
他の面々が冷ややかな視線を送る中、どこからともなく現れた片割れが素早く幕を出す。
「説明しよう。月光提督はコスチュームを着替えることで、様々な特殊能力を発揮することができるのだ。それでは私も……」
そう言うと片割れも着替え始める。
もはやこの後の展開が予測できるメンバーはイヤそうな顔をするしかない。
着替え終わると無駄にキレッキレのポーズを取ってみせる。
「華麗な変身伊達じゃない‼月のエナジー背中に浴びて、正義のスティック闇を裂く‼空の事件は任せてもらおう!月よりの使者、月光刑事‼」
「同じく美茄子刑事‼」
「「ただいま見参‼」」
それを見た高松が珍しく叫んでいた。
「口上が長すぎますっ‼どれだけ尺を使えば気が済むんですかっ‼」
「大変な話なんだから、ページ使ったっていいだろう?」
「メタな発言をするなぁ!」
月光提督の話を聞いた貌丹邑は2人に鞭を打ち付けた。
「「月に代わってお仕置きされたあぁっ‼」」
情けない姿で飛んでいく2人を見て、『大丈夫でしょうか?』と頭を抱える高松だった。
「浅はかなり」
……おバカともなんとも言ってください。
でも、弟の提案で爆乳大佐も出したかったんですよね(^-^;