空母の会議室に入った一同は、爆竜大佐の話を聞くことになった。
「ではこれより作戦を説明する。第一に椎名君、そして艦娘たちは闇夜に紛れた『月光』に移送してもらう。窮屈とは思うが、爆弾倉の中に入っていてもらうつもりだ」
「ポイントを通過する際に爆弾倉を開き、君たちを投下する。パラシュートはこちらで用意した。安心してくれたまえ」
元々月光提督の『夜間戦闘機 月光』は、哨戒のために近隣鎮守府上空を飛び回ることも多いので、怪しまれずに上空までいけるという寸法だ。
「なお、高松君は日が暮れる前に先んじて船を出し、鎮守府の近くまで接近して潜んでもらう。幸い、マニラ島鎮守府の沖合に小島がある。そこは無人島で、黒野も手を出していない島だ。ここに隠せばかなり見つかりにくいだろう」
確かに湾の沖合2キロほどという近い場所に、人が住むには小さすぎると言っていい小島があった。
これは大雑把な地図では分からない情報である。
「なるほど。このような場所があったのですね」
「うむ。鎮守府捜索に使える時間はそれほど長くはないだろう。多く見積もって30分あればいい方のはずだ」
爆竜が椎名の方を見ると、彼女も同意見らしく『コクリ』と頷いていた。
「もしそれでも見つからない場合は……強硬手段として、違法改装された艦娘を、言い方は悪いが拉致して絶対的な証拠とする」
「大佐は既に情報を得られておられたのですね?」
「あぁ。銭形殿から聞いている。心配無用だ」
爆竜は『次に』と言って新たにポイントを指定する。
「高松君は指定した時間に船を出し、椎名君たちを回収せよ。船に戻ってきたら縄梯子で月光に乗ってもらい、タウイタウイ島へ戻ってもらう。こうすれば時間を大幅に短縮できるだろう」
「その時高松君には悪いが、美茄子と共に後部座席に座ってもらう」
「構いません……ですが、どうしてここまでしてくださるのですか?」
すると、爆竜が『ふっ』と笑った。
「海パン刑事の仲間……そいつとは腐れ縁でな。ワシにとっては友人であり、時にライバルにもなった男だった。そいつが『あいつらが頼みごとをしてくる時点でただ事じゃあない。もし可能であれば力を貸してやって欲しい』と言って来たんだ。あの、人にモノを頼むなどほとんどしない輩が、な……」
アメリカ軍の凄腕と言える軍人を動かすような人物、高松はその人間の恐ろしさを感じるのだった。だがそれだけに、それに応えようという爆竜大佐も素晴らしい人物であると感じている。
「だから気にするな。もしなにか返してくれようと思うのであれば、音無提督と共に一日も早く海を解放してくれ」
「え、海を、ですか?」
「そうだ。海と空が解放されれば、またかつてのように皆が色々な国を行き来し、そして笑顔が戻る。ロシアや中国のように深海棲艦の封鎖など屁とも思わずにユーラシア大陸で好き勝手やっとる連中もいるようだが、そんな奴らの好きにもさせん」
中国とロシアは、ユーラシア大陸に繋がっている国々との繋がりを強くすることで生き延びていた。
だが、アフリカやアメリカ大陸との繋がりが断ち切られたのは痛手らしく、実は結構綱渡りの状況が続いているらしい。
「まぁ、中露のことに関しちゃワシの意見も交じっとるから一概には言えんが……それでも、かつてのように海を自由に渡れる世界が戻って来ることを祈っているのだ。そのためにも、人類の防波堤たる艦娘を辱める愚かな提督を見過ごすわけにはいかんのだよ」
爆竜も貌丹邑も、ジョディも月光たちも強い意志を宿した瞳でこちらを見ている。
そんな彼らの想いを背負っているのかと思うと、改めて責任の重大さを感じる高松たちであった。
「頼んだぞ」
「はいっ‼」
高松は先んじて潜むべく椎名たちより早く出発する。
それから少し経過して、夕方に休憩を終えた椎名以下5名が『月光』の爆弾倉に潜り込む。
「このパイロンの部分に細工を施してな。この紐を引けば外れるようになっている。いいか?間違いなく爆弾倉が開いてから引くんだぞ?そうしなければとっても痛い思いをするはずだっ」
「わかった」
椎名たちが収まると爆弾倉が閉められる。
元々『夜間戦闘機 月光』は500kgまでの爆弾を積むことが想定されている……まして月光提督たちの機体は現代技術で魔改造されているためか、艤装を装備した艦娘4人と椎名が爆弾倉に入っても影響はないらしい。
「よし、発艦準備だっ‼」
月光が発進位置に着くと、管制員たちが最終チェックを開始する。
さらにエンジンを回転させて始動させる。
――ブルン、ブルン、ブルルルルルルルルルルルッ‼――
『Check Clear.All Green.Good Lac』
「月光提督、発進するっ‼」
蒸気カタパルトによって勢いよく押し出された『月光』は『ニミッツ』から飛び出すと同時に風を掴み、『フワリ』と空へ舞い上がっていく。
甲板の上に立っていた者たちは帽子を振ってその姿を見送っていた。
その2時間半後、『月光』はマニラ上空に到着していた。
「ここだな……美茄子、爆弾倉展開!」
「了解‼」
合図と共に爆弾倉が開く。それを見た椎名が後ろに『行くぞっ‼』と声をかけた。
椎名を先頭に艦娘4人が次々と爆弾倉から飛び出していく。
そして上空でパラシュートを開くと、マニラ鎮守府の建物の裏手にある小山の方へと降りていく。
電探やサーチライトは起動しているようだが、少なくとも降りてくる椎名たちに反応する様子はなかった。
椎名たちは山の中腹に降りると素早くパラシュートを纏めた。
椎名が地図と鎮守府の見取り図を見ながら指示を出す。
「川内は私と共に建物内へ侵入し、黒野提督の執務室を調べる。綾波と夕立は、証拠となる艦娘……『Z3』を捜索するんだ」
「了解」
「鳥海はここで待機すること」
「わかりました」
周りに響かない小さい声で返事をして、それぞれが作戦行動に移った。
まずは椎名と川内が鎮守府の建物へ入り込んだ。見れば、深海棲艦に対する対策はなされているようだが人間や艦娘が入ることに関してはザル同然のようだ。
「……監視カメラすらないのか」
椎名と川内がゆっくり進むと、誰かが向こうから歩いてくる。
廊下の陰に潜んでみれば、重巡洋艦『高雄』だった。フラフラとした足取りであり、服も着ておらず瞳にも覇気が感じられない。
気付かれないかと思った直後、曲がり角でこちらを見た。
椎名は刹那と言うべき速度で飛び出すと、高雄のみぞおちに強烈な一撃を見舞った。
「かはっ……」
倒れ込みそうになる高雄を素早く支え、廊下の陰に寝かせた。
「ボーっとしているように見えても艦娘は艦娘か。流石にカンが鋭い」
「ま、戦うための存在だから、ね」
見ると、高雄の太腿に白く粘っこい液体が付着していた。
おそらく、先ほどまで情事の真っ最中だったのだろう。それも、違法改装艦娘との。
2人が強い怒りを覚えつつ2階へ上がり、さらに奥へ進む。すると、一際立派な扉が見えた。タウイタウイ島の鎮守府と同じ、提督の執務室の扉だ。
椎名がゆっくり扉を開けて中をのぞくと、誰もいない。
「よし。川内、悪いが外を見張っていてくれ」
「了解っ」
椎名が提督机に近付くと、流石に引き出しは警戒していたのか鍵がかかっていた。
だがそこは忍びとしての修業を積んだ椎名である。素早くピッキングを行い、物の数秒で鍵を開けてしまった。
「よし」
短く言うと椎名はペンライトを口に加えて引き出しの中に入っていた様々な書類を見る。そこには確かに、大本営の一部幹部に対する贈賄の記録や、艦娘の違法改装に関する情報・記録がかかれていた。
「……あとはできれば、改装された本人を確保できれば御の字か」
すると、外で一瞬物音がした。
椎名が今手に入れた資料を懐にしまって飛び出すと、川内が黒服を着た大柄の男に当て身を喰らわせていた。
「ゴメンっ、見つかったっ‼」
「声は?」
先程の様子では声を出される前に制圧できたようだが、ちゃんと聞かなければ分からない。
「大丈夫。声は出されてないよ」
ホッとしつつ川内を連れて執務室をあとにする。階段を降りると、踊り場の陰で夕立が待っていた。
「綾波ちゃんが違法改装の子、見つけたっぽい!」
夕立に案内されたのは、小窓が付いた小さな部屋。だが、そこは竹山がハッキングで見つけた映像データにあった部屋であり、先ほど高雄が出てきた部屋でもあった。
部屋の扉をゆっくり開けると、部屋の中央に置かれたベッドに全裸で座り込んでいる艦娘がいた。映像にも映っていた。間違いなく、ドイツ海軍駆逐艦『Z3』だ。
「この鎮守府のZ3だな?」
椎名が問いかけると、Z3は焦点の合わない瞳で椎名を見てきた。
「だ、誰……?」
「私はお前を助けに来た。お前の味方だ」
「みか、た……?」
すると、椎名が『ギュッ』とZ3を抱きしめた。
「今まで辛かっただろう……苦しかっただろう。だが、それも今日で、今で終わりだ。私たちと共に行こう」
すると、Z3の瞳に色が戻る。その瞳が、潤みだす。
「いいの……?私は……一緒に行っていいの……?」
椎名はZ3の眼をしっかりと見た。
「あぁ。お前の居場所はここではない。だから……行くぞ‼」
椎名が素早くZ3をお姫様抱っこすると、外へ飛び出した。というのも、部屋の外から格闘する物音が聞こえ始めたのだ。
「川内‼」
飛び出すと、一部の艦娘と黒服がこちらに侵入しようとしていたのだ。
川内たちはその相手と戦っていた。見れば、川内たちの足元で震えている艦娘がいたのだ。
間違いない。映像にもあった『Maestrale』であった。
「ゴメンっ‼この子が助けてって言って来たからっ‼」
「理解した。目をっ‼」
椎名が投げたモノを閃光弾と思ったらしい相手側は目を瞑ったが、実際には違った。
「くらえっ‼」
川内、綾波、夕立も艤装から大量の煙幕を噴き出したのだ。
――ボッフウウゥゥゥゥゥゥゥゥッ‼――
「艦娘が照らしてばかりと思ったら大間違いっ‼」
「軍艦が煙幕使うのも当たり前っぽい‼」
椎名が駆けると川内がMaestraleを抱きかかえ、素早く走り出す。
さらに夕立が主砲から照明弾を撃ち上げた。鳥海に対して『見つかった。海岸へ急ぎ走れ』の合図である。
「急ぐぞっ‼」
鎮守府の表へ飛び出すと、駆け寄ってきた鳥海と合流した。鳥海は体躯こそ大きいが、こう見えてかなり足が速いのだ。
だが、それに感心してもいられない。
敵側の警備陣や艦娘がわらわらと飛び出してきたのだ。
すると、沖合から疾走する影を見つけた。高松のボートである。
高松は持っていたライトで合図する。
「急げっ‼船に乗るぞっ‼」
煙幕を撃ちまくっている川内が最後まで残って身構える。黒服たちがサブマシンガンなどを構えて追撃しようとしたが、頭上から音楽が聞こえて止まってしまった。
「お、おいっ……」
「この音楽って……」
重厚なオーケストラの伴奏が聞こえると、併せてプロペラの音が高松たちの耳にも入って来る。そして、誘導弾まで装備したAHー64D、アパッチ・ロングボウが姿を見せた。
「退路は確保してやる。急げ」
「爆竜大佐!?」
高松が驚いたのも無理はない。ニミッツ級空母に待機しているはずの爆竜大佐が、自慢のアパッチで飛んできたのから。
「少しはワシにも暴れさせてもらおうか。初めましてだ!」
爆竜大佐は挨拶代わりにアパッチのトリガーを引き、人間が当たればその箇所が蒸発するという30mmチェーンガンを発砲する。軍人ならその恐ろしさは百も承知で、黒服たちは雲の子を散らすように逃げ回る。
「今のうちだ。早く脱出しろ」
黒服たちが爆竜大佐のお遊びに右往左往している間に、川内が砂浜の浅いところまで来たボートに皆が飛び乗った。
「へへ~ん。あ~ばよ~、なーんてねっ♪」
敵の艦娘たちが出撃準備に走り出し、爆竜の攻撃を掻い潜った黒服たちが拳銃を発砲するが、今度は先ほどと真逆の方法を用いた。
「探照灯、照射始めっ‼」
綾波、夕立、川内が探照灯を照射して舐めるように岸辺を照らすと、あまりに明るすぎる光量で目くらましにした。
たまたま真正面に立っていた敵方の霧島、Romaなどがモロにこれを受けて『目が‼目がぁ~‼』と叫んでいた。
「三十六計逃げるに如かず‼」
高松が反転180度で沖合へ猛スピードで船を走らせる。
こうして、高松たちはいくつかの証拠書類と違法改装された艦娘2名を確保することに成功したのだった。
「爆竜大佐へ、こちら高松。黒野提督の鎮守府より証拠物件を入手しました‼」
『こちら爆竜。よくやった‼あの雑魚共は引き受ける。合流座標へ急がれたし‼』
「了解‼」
こうして、夜の急襲撃はわずかな時間で終了したのだった。
一方、こちらはタウイタウイ島。黒野提督を歓迎するという名目で、広場に料理をたっぷりと並べて宴会を催していた。
ミートパイやピザ、子牛のカツレツなど、国際色溢れる料理に黒野や護衛の黒服たちも舌鼓を打っている。
また、広場の奥には舞台が設えてあり、なんとガルデモが歌っているのだ。
那珂が『那珂ちゃんも歌いたかった~』と言っているが、これはほぼ無視する。
「いかがですか?うちの料理は」
「いやぁ驚いた。まさか今時、これほどグローバルな料理を味わえるとはなぁ」
「ウチは各国の艦娘が集まってますし、料理上手な子も多いので、毎日が楽しいですよ」
黒野の隣では伊勢が素早くお酌をしている。
日向はそれとなく背中にくっつき、豊満な胸元を当てていた。
怪しまれるかとも思ったが、想像以上にスケベらしく鼻の下を伸ばしっぱなしであった。
あとで知ったことなのだが、彼はこれまで様々な提督を更迭させてきたことから、『自分が裏で手を回せばどんな輩でも左遷できる』という慢心が生まれていたのである。
そしてそれを音無が理解して、自分の機嫌を取ろうとしていると都合のいい方に解釈していたのだ。
お陰で先程から順調すぎるくらいに計画が進んでいる。
「それにしても音無君……その、なんだ。伊勢君と日向君はいつもこうなのかね?」
「えぇ。彼女たちは鹵獲改装の影響もあってか、かなり性欲が強くなり、感度が上がってしまっているようでして……私ができる限り相手をしてやってはいますが……いやはやなんとも、毎朝腰が痛くて仕方ありません」
「はっはっは。ハーレムなど、男冥利に尽きるというものじゃないか?」
「とんでもない。一説によるとハーレムというのは、セックスを抜きにするからこそ楽しいもの、という話もあるくらいですよ。ですが……」
音無が珍しいゲスな顔を見せ、黒野に耳打ちした。
「もし提督さえよろしければ、今夜はこの2人、可愛がってやってはくれませんか?」
「なに、いいのか!?」
音無はニタリと笑いながら頷く。その顔はまるで、普段からゲス系のキャラに慣れているかのような雰囲気だった。
「えぇ。先程も申しました通り、私だけでは身が持ちませんのでねぇ。へっへっへ」
アニメ・ラノベ好きな秋雲はその顔を『聖杯戦争のワカメ君か、強いものの味方をしたがる救いのヒーロー(笑)みたいだった』と評したという。
というか、役者過ぎる。
演技だと分かっていても、伊勢と日向でさえ『なんてゲス顔なんだろう……』と若干驚いていた。
加賀に至っては、『これはこれで……アリですね』などと危ないことをほざいている。
「つきましては、私の身になにか問題が起こりそうになった時に些少でよろしいので支援をしていただけると助かるのですが……」
「なるほど、そういうことか。いやぁ音無君。君は潔癖症なんじゃないかと思っていたが……案外清濁併せ呑むタイプなんだねぇ」
「こう見えて結構えげつないことに慣れてましてね。へへっ」
これは本心である。あのゆりの下での様々な理不尽と激闘を思えば、そんなことを演じるくらいは容易いのだ。
「よしよし。君みたいな物分かりのいい子はいいもんだ。私もできることはしようじゃないか」
「ありがとうございます。今後ともよしなに。伊勢、日向、黒野提督をご案内しろ」
「んもうっ」
「あとで埋め合わせだぞ」
そう言いつつ2人は黒野の手を取って寝室へ連れて行く。
黒野がいなくなってから30分ほどが経過したところで、壇上に立っている岩沢にアイコンタクトを送った。
その合図を受けて、岩沢がエレキギターを強烈に『ジャジャーンッ‼』とかき鳴らした。
直後、いきなり照明が落ちる。
「わっ!?」
「な、なんだっ!?」
そして、ドカ、バキという音が多数広場から聞こえてきた。
ものの1分ほどで照明が戻ると、そこにはボロボロになって縛り上げられた黒服たちの姿があった。ゆりたち戦線のメインメンバーは、死後の世界で広大な地下空間ギルドでの夜間戦闘に近い経験を積んでいるので、月明かりさえあればどうにかなる。
「き、貴様らぁ……」
「お前らのことろくでなしだと思っているが、そんな黒野にあそこまで信じ込ませるとは……俺も大層な悪人だな」
「いいんじゃないんですか?」
そう言って、大淀が笑みを浮かべながら音無の横に並ぶ。
「所詮人間に完全な善人も悪人もおりません。提督の素敵な部分は、私たちが知っていますから」
満面の笑みを浮かべながらそう言ってくれる大淀に、音無は『ありがとう』と言った。
傍らでは、ゆりを始めとする戦線メンバーが『ニッ』と笑って立っている。
「音無君、雑魚は片付けたわよ。伊勢たちのトコに行ってあげなさい」
「あぁ、すまねぇ‼」
音無は熊野丸と天龍、龍田を連れて鎮守府の中に飛び込んでいく。
寝室に近付くと、先程まで音無に大きい態度を取っていたとは思えない『ひあぁぁぁっ!』という黒野の情けない声が聞こえてきた。時間は少し前に遡る。
黒野を個室に招いた伊勢たちは、両脇から黒野の体にすり寄っていた。黒野は基準以上に膨張している伊勢の胸部装甲をまじまじと見ている。
「提督は良くも悪くも自分を守るためなら手段を選びませんから」
「我々としても、この身くらいで提督の将来が安泰になるなら、多少身を売ってもお釣りがくるというもの」
思ったより物分かりがいい連中だと、黒野は胸の内で感心している。
「で、では伊勢君。早速噂の補給というのを……」
そう言って黒野は伊勢の服を脱がせるため、襟首に右手をかけようとする。しかし、伊勢がその手を強く握って止めた。
「あたしたちをお宅の高雄さんたちみたいに手籠めにしようったって、そうはいかないよ」
伊勢の言葉を合図に、日向が黒野の左手を握る。
「我々の補給を受けたいというのなら、提督殿の自慢の主砲を見せてもらおうではないか」
「えっ、なに!?」
自分の動きを止められただけならまだしも、自分の元にいる艦娘の情報を上げられた。この時点で、黒野はやっと思い至った。
「き、貴様ら私をはめたのか!?」
「まあ、そうなるな」
「ネタは上がってるの。今更気付いても、遅いけどねっ!」
伊勢は自信満々な表情で立ち上がり、日向と共に黒野の体を持ち上げた。黒野のズボンのベルトに手をかけて、一息に脱がせるのだった。
腕を放されたもののついでに下半身も曝け出された黒野は、そこから伊勢に押し倒されてペニスを扱かれた。それから10分と経たないうちに情けない声を上げながら部屋を出ようとした。そこを、音無に見つかったのだ。
「あっ、提督。見てよこれ~」
「こいつの主砲、駆逐艦以下だぞ。扱いただけですぐ漏らした。挿入れたらあっという間に果てそうだぞ」
2人の姿を見るに、挿入すらしていないらしい。
「やっぱりな。黒野提督、あんたの趣味は……百合、レズ……それも、ふたなりによる豊満系の女性を強姦させるって奴だったんだな」
黒野はヒーヒーという疲労困憊のままだ。だが音無は続ける。
「あんたのデータを調べさせてもらった。あんたの男性機能、かなり弱いそうじゃないか。だが……あんたのデータの中には男性器を生やさせられたつるペタ系……もといボーイッシュ系艦娘が豊満系の艦娘を抱いている写真や映像ばかりだった」
「ど、どうしてそれをぉ……」
「ネット環境さえ繋がってりゃいくらでもデータを根こそぎ盗んでくれるハッカーがウチにはいましてね。ま、そいつにかかればチョチョイのチョイ、ってやつですよ」
そのくせなぜ伊勢と日向を始めとする鹵獲改装組に興味を示していたのか。それについても理由がつかめていた。
「あんたもウチのデータをハッキングしていたらしいな。ウチのハッカーが調べてくれたよ。そのデータの中には俺の身体測定のデータもあった。俺の男性器のサイズが着任当初より肥大化していることをあんたは知った。そして……」
音無は片膝立ちになりながら黒野の前に顔を突き出した。
「それが、千歳や鹵獲改装組による補給の効能だということも知っていた。あんたは自分の逸物に尋常じゃないコンプレックスを持っていた。女性経験の失敗かなにかは知らないが、滋養強壮剤などを摂取しても改善の見込みがない。それなのに艦娘たちの指揮を執る立場になってしまった」
音無の推測が当たっているらしく、黒野は『ぐぬぬ』と唇を噛んでいる。
「中には曙や大井みたいに悪態をついて来る艦娘もいるから、知られた時の立場を危ぶんだ。そんな時、深海棲艦によって改装された加賀たちのことを突き止め、大本営に提出した手術のデータを手に入れた。あんたは自分の下にいる一部の艦娘にあってはならない手術を施し、他の艦娘を犯させることで支配欲を満たした。ゆくゆくは鹵獲改装組を手中に収めて補給を受ければ、自分も巨根に……なんて思っていたんじゃないのか?」
「くぅ、わ、悪いか!ずっと女共に汚いモノを見るような目で見られて来た!そういう女を自分の身体でどうにかしてやりたいとずっと思っていた!お前には分かるまい!私の悩みなど!」
黒野が言いたい放題言っている間にあきつ丸が拳銃を、天龍と龍田は刀と薙刀(状の艤装)を突き付けて黒野を牽制している。
だが、熊野丸が一瞬音無の方を見て指示を仰ごうとした隙を黒野は見逃さなかった。
「くっ‼」
熊野丸を突き飛ばして天龍にぶつけ、龍田を突き飛ばして音無に押し付けた。
「うぉっ!?」
「きゃっ!」
黒野は下半身丸出しのまま走り出し、外へ飛び出した。
だが、そこには縛られた黒服たちと共に、もっと恐ろしい者が立っていた。
「お、お前はっ‼」
その男は広場の照明を背に、堂々と……ネクタイと靴、靴下と海パン以外は全裸と言っていい恰好で立っていた。
「股間のモッコリ伊達じゃない!陸に事件が起きた時、海パン一つで全て解決!特殊刑事課、三羽烏の1人!海パン刑事‼久々参上‼」
「き、汚野提督ぅ‼」
汚野提督、もとい海パン刑事が久しぶりの名乗りを上げた。
「黒野提督、観念するんだな。貴様の悪行もここまでだ!」
黒野は反射的に海の方へ駆け出すが、海からも声がする。
「○も知ら~○い~南の○で~……」
「う、歌?」
直後、黄色い小型潜水艦がいきなり浮上し、ハッチが開く。そして、眩い光と共に『なにか』が飛び出してきた。
「ラーリラーリラー!海を愛し正義を守る‼誰が呼んだかポセイドン!タンスに入れるはタンスにゴン!私は水上警察隊隊長、海野土座エ門!お茶目なヤシの木カットがトレードマークの……ドルフィン刑事だっ‼」
潜水艦の周囲を取り囲んだイルカたちがライトで照らす中、海野提督、もといドルフィン刑事が嬉しそうな顔をした。
「う、海野提督まで!?お前たちがいるということは……まさか!?」
「ハーッハッハッハァッ!」
「こ、この笑い声は……」
黒野提督が嫌そうな顔をしながら空を仰ぐと、軽快な音楽を流し高らかな笑い声をあげるセーラー服の青髭オヤジが『夜間戦闘機 月光』の翼に仁王立ちしていた。
「華麗な変身伊達じゃ……」
すると、突然音楽が止まってしまい、格好よくポーズをとっていた月光提督、もとい月光刑事が口上を言えなくなってしまった。
「お、おい美茄子っ!せっかくの口上がぁ……」
しかし、音楽を止めたのは美茄子刑事ではなく、後部座席に同乗していた高松だった。
「すみません、先刻聞きましたのでもうよろしいかと」
「海パンたちはやったのにぃぃっ!」
「というわけですので、すみませんがよろしくお願いします」
「ん、んむぅ……やむを得ん」
月光刑事は操縦席に戻ると、爆弾倉を開ける。
「夜戦艦隊、降下用意!」
「降下用意!」
爆弾倉が開くと、椎名たちがアイコンタクトをする。
「降下ぁ!」
鳥海が号令を発すると、5人が爆弾倉から飛び出し、高松も一瞬遅れて飛び出した。体を開いてバランスを取ると、限界高度でパラシュートを開く。
秋雲だけは『どこの猫目怪盗!?』と叫んでいたが、皆無視した。
その姿を、音無たちも捉えた。
「椎名、高松!」
高松たちも音無たちを視界に捉えると、着地直前にパラシュートを切り離した。幾千もの激戦を潜り抜けて来た戦線メンバーの高松たちにとって、これくらいは造作もなかった。
「無事だったか。首尾は?」
「あちらに」
高松が指さした先には、少女を抱きかかえる鳥海と川内が立っていた。
「鳥海、川内、ご苦労だった!彼女たちだな?」
「はい。間違いありません」
黒野は気付いていた。
「お、お前たちは……ウチのZ3とMaestrale!」
「2人とも、俺はタウイタウイ島の音無提督だ。お前たちがされたこと、ここで洗いざらいぶちまけていいぞ」
黒野がなおも抵抗しようとすると、足元に銃弾が2発飛び込んできた。
「静かにするんだベイビー」
「ちょっとでもヘンなマネしようもんなら……血ぃ見っど」
「た、鷹山提督に大下提督!?あんたたちまでっ……」
2人はニヒルにニヤリと笑う。さらに、バラバラとプロペラの音を響かせ、AHー64Dが降下してくる。そのダウンウォッシュの隙に黒野は逃げようとするが、開いたガラス窓から飛び出してきた鞭が絡んでくる。AHー64Dの操縦席と副座席から、爆竜大佐と貌丹邑大佐が降りてきた。
「ば、爆竜大佐に爆乳大佐!?」
「ここまでだな、痴れ者」
「ワシの銃弾を受けたくなければ、大人しく法の裁きを受けるのだな」
「女の子を泣かせる悪党は、野放しにできないからな」
「イッツ、ショータイム!」
音無は2人の肩を抱き、安心させるように背中を撫でた。
Z3が椎名の方を見ると、椎名も静かに頷いた。
「私は……私は、元々フィリピン諸島の南の方にある鎮守府の所属でした。私たちの『提督』は、私たち艦娘のことをとても大切にしてくれていました……でも」
Z3は『キッ』と黒野の方を睨みつけた。
「私たちの『提督』は、有りもしない嫌疑をかけられて更迭されました。その後私は、いつの間にか異動手続きが為されていて黒野提督の元に異動となりました」
一瞬言葉に詰まったが、音無は『続けて』と優しく声をかけた。
「大丈夫。例え君の思いを阻む者がいても、俺たちが必ず跳ね返す。だから、君のためにも、君が想った人のためにも、ここで立ち止まらないでくれ」
音無が優しく、しかし強く言うと、Z3は唇を震わせながら口を開いた。
「私は異動させられてから、工廠で異様な改装を施されました。そこには……倒したはずの深海棲艦の艤装や部品などが多数保管されていました」
「やめろ!それ以上喋……」
「黙れぇ!」
黒野がZ3を止めようとしたが、汚野が背中を押して倒れ込ませる。
「それ以上抵抗するなら、私が裸になって相手をしよう」
「ひぃっ‼」
音無と川内は汚野の『必殺技』を見たことがあるため、こちらもこちらで嫌そうな顔をする。
ただし、高松はむしろ残念そうな顔だったが。
あれは喰らわなくとも、見るだけでSAN値が削られる代物だ。
「マックス、あの外道は気にするな。俺の眼だけを見ろ」
Z3は音無の眼を見る。Z3にとってその目は黒野の欲望に濁った眼とは異なり、強い意志で輝いている……ように見えた。
「は、はい。その深海棲艦……輸送ワ級のパーツを流用して、私の体に……」
Z3は音無の、そして皆の目の前でパンツを脱ぎ、自分の服をたくし上げた。
そこには、見紛うことなき立派な男根がぶら下がっていた。まだ勃起していないと思われるそれは、駆逐艦と言われた黒野のモノ以上の大きさだ。これで勃起したら、相応の大きさになるのは間違いないだろう。
「私の体にこんなものを付けて、高雄さんや飛鷹さん、山城さんや翔鶴さんみたいなおっぱい大きい人を犯させました……皆さん、すごくいい人たちなのに……」
そこで扶桑でなく山城の名前が出てくるあたり、被害担当艦なのかもしれない。
音無の鎮守府に所属する山城も『別の私とは言えそんな目に……不幸だわ……』と呟いていた。
「なぜか……なぜかおっぱい大きい艦娘を見ると、すごく興奮してしまいます。そして、これを挿入してメチャクチャにしてしまいたくなってしまいます……これまで、皆に酷いことばかり、してきました……」
話していると罪悪感が湧き上がるらしく、Z3はこみ上げる涙を抑えられない。
「いけないことだって分かってるのに、キレイな体を見て止められなくなって、あんなこと……皆の辛そうな顔、見たくないのに……」
すると、音無はZ3をそっと抱き締めた。
「心が嫌だと思っても、反応しちまうのが性欲ってものだ。辛かったと思うけど、生き物としてはある意味正しい反応なんだ。でもその涙は、君が心から高雄たちを大切に思っていた証拠だ。その気持ちを、忘れないでくれ」
Z3の優しくそう言うと、音無は彼女を抱きながら黒野を睨む。
「お前は、ワ級の艤装を利用したんだな?」
「な、なんの話だ……」
「加賀たちに施された鹵獲改装は、装着者の快楽神経を刺激して補給剤を分泌しやすくする機能が備わっていた。それは、本来のワ級の艤装と同じものだろうというのがうちの工廠長の見解だ。お前がそれを利用したって言うなら、マックスの改装は彼女の性欲を掻き立てるような細工がしてあるんじゃないのか?彼女の肉体の変化が艤装にも及んでいれば、艤装を調べれば精神のパラメーターをコントロールしているかが分かるはずだ」
音無の指摘が正しいのか、黒野は『ぐぅっ』と苦しそうに唸っている。どうやら、音無の考えは大筋で当たっているらしい。
それを聞いていた汚野たちも憤懣やるかたないと言う顔をしていた。
「なんというお下劣さか」
「まったく。人間の恥さらしとは貴様のような輩を言うのだな」
「我らのように」
「心清らかにあれないものか」
『どの口がほざくか』と言わんばかりに鷹山と大下が4人を冷めた目で見ている。
もっとも、この2人だって危なさという意味では大概だが。
人、これを『五十歩百歩』という。
「お、おのれぇ……」
「女々しいぞ、黒野ぉ‼」
野太い声に振り向けば、第三種軍装に身を包み、憲兵を従えた男が立っていた。
「ぜ、銭形提督……」
「黒野満雄‼贈収賄、恐喝、パワーハラスメント、セクシャルハラスメント、さらに人権侵害など諸々の容疑で、逮捕するーっ‼」
これが一番の決め手となったようで、黒野は『くそっ……』と言って力を抜いた。
銭形の背後に立っていた憲兵たちが黒野を始めとした一味を取り押さえ、連行していく。
「……これで、よかったのかな」
「あ、あの……」
音無が下を見れば、顔を真っ赤にしながら音無に『ぎゅっ』と抱き着いているZ3がいる。
音無もようやく自分がZ3を力強く抱きしめていて離れられなくなっていることに気付いて『あ』と言いつつ彼女を放してあげた。
もっとも、Z3は音無から離れた直後若干残念そうな顔をしていた……ように見えた。
これにより、『黒野事変』は終了した。
と、言うわけでまるで水戸黄門の如く色々なメンバーが集まって悪党退治となりました。
やるとなったらどこまでも、って感じですね(^-^;