華麗に激しい夜を過ごした音無は、翌日に西方海域の入り口、『ジャム島』を攻略する作戦を立案していた。
西方海域はその他に『カレー洋制圧戦』、『リランカ島空襲』、『カスガダマ沖海戦』が存在する。
ここからは編成制限が多くなってきており、ジャム島攻略作戦は駆逐艦2隻以上、カレー洋制圧戦は軽巡1隻以上かつ駆逐艦2隻以上、リランカ島空襲は空母及び装甲空母2隻以上、重巡1隻以上というものだ
一番手強いカスガダマ沖海戦はなんの制限もないため、ここは思う存分の編成で挑めるが、それまでは制限のある中で頑張るしかない。
音無は艦娘たちを集めて今日の方針を話す。
「皆も聞いている通り、フィリピン担当であった黒野提督が逮捕されたことによって、西方海域の守りに綻びが生じている。それをカバーするために……ボルネオ島鎮守府と協力して西方海域へ乗り出すことになった」
最後にボルネオ島鎮守府の話をする時は若干イヤそうな顔をしていた。
艦娘たち、特に前任提督の時からいて『あの』ボルネオ提督三羽烏のことを色々知っている面々は『アハハ……』と苦笑していた。
「まず俺たちはジャム島に巣食う艦隊を撃滅する必要がある。だが、敵には潜水艦もいるとのことだ。そこでこの海域には潜水艦を討伐するのに大きな力を持つ駆逐艦を2隻以上編成する必要がある。よって、編成は以下とする」
○ 初月改(10cm連装高角砲+高射装置・10cm連装高角砲+高射装置・三式爆雷投射機・13号対空電探改・増設スロットに13号対空電探改)
○ ヴェールヌイ(12.7cm連装高角砲(後期型)・三式水中探信儀・三式爆雷投射機・増設スロットに22号対水上電探改四)
○ 瑞鶴改二(震電改×28・震電改×26・Aー1(中期型)×26・彩雲×13・増設スロットに33号対水上電探)
○ 千歳改二(Aー1(中期型)×24・Aー1(中期型)×16・Aー1(中期型)×11・Aー1(中期型)×9・増設スロットに熟練艦載機整備員)
○ 伊勢改二(41cm三連装砲改二・15.5cm三連装砲副砲改・彗星二二型(六三四空/熟練)×22・彗星二二型(六三四空/熟練)×22・彗星二二型(六三四空/熟練)×9・増設スロットに新型高温高圧缶)
○ 日向改二(41cm三連装砲改二・15.5cm三連装砲副砲改・瑞雲改二(六三四空)×24・瑞雲改二(六三四空)×12・瑞雲改二(六三四空)×11・増設スロットに新型高温高圧缶)
いつの間にかチャーが開発していた超強力な装備を多数装備している。
本来増設スロットに電探を装備できるのは一部の艦娘だけなのだが、チャーが調整してくれたのか大型電探も可能にしてしまっていた。
特に本来の伊勢と日向の改二の初期装備は『彗星二二型(六三四空)』と『瑞雲(六三四空)』だったはずなのだが、チャーが改二改装に備えて作っておいてくれたのである。
特に千歳が装備している『Aー1(中期型)』は、初期型に比べてエンジン出力の安定化及び細かい改装により搭載量が若干上昇していることによってさらに高い能力を得ている。
細かい要目は以下となる。
○ Aー1(中期型) 対空+7・爆装+17・雷装+14・対潜+10・索敵+9
わずかな数値の上昇と言ってしまえばそこまでだが、艦載機として搭載されればその数の分だけ差が広がる。例え1ポイントの上昇と言えども、馬鹿にはできないのだ。
「伊勢、日向。お前たちには色々我慢してもらいつつ頑張ってもらうことになるが……頼んだぞ‼」
「任せて、提督」
「今こそ瑞雲の真の力を見せてやろう」
2人はいつになくやる気だった。とにかく、西方海域を解放したら音無にたっぷりと甘えていいというお墨付きをもらっている為か、そのやる気が尋常ではないのだ。
音無は若干冷や汗をかきつつ、本日の秘書艦を務める榛名に聞いてみた。
「なぁ榛名。これ、不健全なやり方かな?」
だが、榛名は『クスクス』と笑っている。
「健全とか不健全とか、そんなことはどうだっていいじゃないですか」
「そう、かな?」
「はい。特に……鹵獲改装組の皆さんは普通の艦娘とは事情が違うんですから」
もっとも、そんなことを言いつつ自分は音無の腕に胸を押し付けて『あててんのよ』をしてくるあたり、榛名も伊達に古参ではないというところか。
なお、それを見ていた金剛が『むぅ、羨ましいデース!』と叫び、比叡が『ひえ~!』と叫んでいたのは言っちゃいけないお約束。
「じゃあ皆、頼んだぞ‼」
こうして、艦隊は一路ジャム島へ向けて出港した。
――ジャム島近辺
先頭を行く初月とヴェールヌイは電探の反応を探っている。
というのも、チャーからの事前情報で『潜水艦は探知されて一定時間が経過するか、こちらを発見することで潜航して攻撃態勢に入ってしまう。そうなると接敵するまで航空攻撃ができなくなる』と聞いていたことから、敵に探知される前に探知し、素早くアウトレンジで攻撃を仕掛けようという考えであった。
「む。電探に感あり。『重巡リ級Elite・軽巡ト級Elite×2・駆逐イ級Elite×3』の艦隊だ。瑞鶴、艦載機を頼む」
「分かったわ。アウトレンジで……決めたいわねっ‼」
瑞鶴、千歳、伊勢、日向から飛び立った艦載機は敵艦隊上空に到達する。敵に空母はいないためそのまま攻撃を開始する。
『ダレニモトメラレネェ!』
『ブッツブス!』
『ギセイトナレ!』
「戦果報告!軽巡ト級Elite1隻中破と重巡リ級Elite大破を除き、撃沈!」
「2隻残ってるな。接敵して倒そう」
「み~つけた!」
千歳の言葉と共に艦隊が接触するが、既に2隻ともボロボロだ。
「面倒だな。ここで殲滅させてもらう」
伊勢と日向の2人が敵の射程外から砲撃を放つと、これまでの演習と実戦での成果が出ているのか、1発で2隻に命中してあっという間に撃沈してしまった。
「まぁ、そうなるな」
ほんの一瞬で撃沈してしまった。MVPは当然日向である。
「そうか。やはりこれからは航空火力艦の時代だな。最上の奴も頑張っているか?」
海域の索敵に戻った直後、ヴェールヌイの水上電探に反応があった。
「電探に反応。これは……潜水艦だね『潜水カ級×3』か」
「皆さん、行きましょう!」
千歳の言葉を受けて全員が艦載機を発艦させる。
「よーし!伊勢航空隊、発艦始め‼」
扶桑たち航空戦艦及び伊勢たち改装航空戦艦の航空攻撃は軽空母と同等の扱いになるようで、水上艦への攻撃力も潜水艦への攻撃力も保有しているのだ。
特に、日向に搭載されている瑞雲系列は下手な艦載機より対潜値が高いため、潜水艦相手には結構役に立つのだ。
彗星二二型(六三四空/熟練)も対潜+5を持っているため、何気に九七式艦攻や流星の初期型よりも対潜能力は高いのだ。
そして、その成果が発揮されることになった。
「攻撃隊より報告。潜水艦隊全艦撃沈とのことです」
「……圧倒的、だね」
「私たちの能力というよりも、艦載機や装備の能力が強すぎるんだ」
他の面々も頷いているが、嬉しいというよりも脅威を感じているらしい。
だが無理もないだろう。本来であればこのような装備を多数身に着けていること自体が尋常ではないのだから。
一行は再び偵察に戻る。
すると、ヴェールヌイが声を上げた。
「電探に感あり。『重巡リ級FlagShip×2・空母ヲ級Elite×2・軽巡ト級Elite・駆逐ロ級Elite』の艦隊……主力艦隊だね」
一気に全員の顔が引き締まる。重巡リ級FlagShipが2隻というのはそれほどでもないが、空母が2隻いるのが気になるところ……となるはずだった。
「震電改なら、2スロ分でもたぶん行ける‼」
瑞鶴の言葉に全員が頷いた。
「日向、攻撃隊……発艦始め」
こちらの攻撃隊に気付いた敵艦隊からも直掩機が迎撃に向かってくるが、震電改の圧倒的な制空力の前に呆気なくバタバタと墜とされていった。
「制空権確保、戦果報告。重巡リ級FlagShip2隻以外轟沈。1隻小破、1隻中破、か。やはりFlagShipともなると耐久力が桁違いだな」
「あれだけの能力を持つ新装備でも削り切れないなんて……私たちの方がまだ新装備に慣れていないからかな?」
「まぁ、そうなるな」
ゆっくりと接近していくが、幸い敵艦隊は半壊以上と言える状態である。あとは別艦隊にちょっかいを出されないように注意しつつもう1回航空攻撃を行うもよし、接敵して叩くもよしである。
と、思っていたら敵艦隊がこちらの接近に気付いたらしくこちらへ向かってきた。初月はそれを見つつ指示を飛ばす。
「減速。少し疲労を抜いておこう。航空機の準備は?」
千歳の中から出てきた艦載機整備員の妖精さんが『アトチョット』と声をかける。
「これなら接敵直後に航空攻撃が可能になります。そうしたら……伊勢さん、日向さん」
通信を聞いていた音無は『え?』と疑問符を浮かべた。
「実は伊勢さんたちの改二には、『海空立体攻撃』と『瑞雲立体攻撃』という特殊攻撃があるんです。その威力は非常に高く、練度さえ上げていれば甲難度のボスクラスにも大打撃を与えることができるほどの破壊力があります」
『マジか!』
「他にも長門型の改二やNelson型、コロラドさんにも特殊攻撃があります。ただ、その中でも伊勢さんたちの攻撃はかなり高い能力を誇るんです」
『そりゃすごいな。発動条件ってあるのか?』
「あ、すみません。もう接敵します。でも……これなら立体攻撃を見ることができると思います」
『分かった。お前たちのことはモニターしているから、その様子を見させてもらうよ』
音無たちはメタ的な言い方をすればアーケード版の画面のようなものでモニタリングをしているため、戦闘状況もある程度見られる。
これは付き添っている妖精さんが撮影してくれているらしい。
通信が切れた直後、敵艦隊と接触する。そして接触した直後、千歳からAー1が飛び立って触接を始めた。
「敵艦隊発見だ……敵は多いぞ。砲戦用意、行くぞ!」
初月の声と共に戦闘状況を開始するが、相手は既にボロボロで、黒い煙を吐きながらこちらに向かってくる姿は痛々しいほどだった。
だが、それでも容赦する訳にはいかない。
航空攻撃を行おうとした時、日向が艦砲射撃の用意を始めた。
「面倒だな。ここで殲滅させてもらう」
瑞雲隊を含めた航空隊が発艦し、攻撃態勢に入ると同時に日向が主砲を発射した。
「お返しだ……行くぞ‼」
その結果、数値として言うならば900越えのダメージを敵2体に与えることに成功したのだった。
「まぁ、悪くない」
その威力は甚大で、これまで見てきた航空攻撃をはるかに凌ぐほどに見えた。
音無の隣ではゆりや直井も唖然としていた。
「ま、マジか……こんなすげぇ技あったのか……」
「完全に必殺技じゃない……」
「くっ、神たる僕の心をこれほど動かすとは……」
相も変わらず中二病丸出しの直井であった。
だが、確かにこの威力ならば期間限定海域の大ボスであろうとも大打撃を与えることができるという千歳の話も納得であった。
「ではこれより帰投……あ」
「艦娘だね」
近づいてきたのは、睦月型と思しき駆逐艦だった。
「どこかの鎮守府の艦隊ですか?」
「あぁ。そうだぞ」
「ではご一緒させてください」
「あぁ、付いて来い」
こうして艦隊は帰投する。
帰投した艦隊及び掃討・遠征の際に遭遇した艦娘が立ち並ぶ。
「あなたが司令官ですね。三日月です。どうぞお手柔らかにお願いします」
「陽炎型駆逐艦十番艦、時津風……出るよ」
「うち、浦風じゃ‼よろしくね!」
「秋月型防空駆逐艦、一番艦、秋月。ここに推参いたしました。お任せください‼」
「Buon Giorno~。ザラ級重巡の三番艦、ポーラです~。なんにでも挑戦したいお年頃~、頑張ります~」
「おはようございます!航空機搭載給油艦、速吸です!皆さんのサポート、頑張ります‼」
そして、最後は香取や鹿島と同じ格好をした少女だった。
「初めまして~。香取型練習巡洋艦の3番艦、香椎です~」
香取型練習巡洋艦の3番艦、香椎。
練習巡洋艦とは言うものの、姉たち同様に練習任務にはほとんど使われず船団護衛に駆り出された巡洋艦だった。
船団護衛に駆り出された香椎は多数の海防艦と共にヒ86船団(内訳は4隻のタンカーと6隻の貨物船)を守りながら航行していたが、米軍の機動部隊の爆撃・機銃掃射を受けて撃沈した船でもある。
その時爆弾計5発、魚雷も2発という、大型軽巡洋艦並みの船体(しかも構造は軍艦構造ではなく商船構造)の割に強烈な攻撃を喰らっていたという。
なお、この時の攻撃で輸送船団も全てが撃沈されるか、座礁放棄という形になっており、生き延びた護衛艦隊も鵜来、大東、27号だけだったという。
幼い海防艦を率いたことがあるからなのか、子供たちを引率する香取たちに近い雰囲気を放っているようだ。
要目は以下となる。
○ 耐久 36
○ 装甲 9
○ 回避 26
○ 搭載×3
○ 速力 低速
○ 射程 中
○ 火力 14
○ 雷装 12
○ 対空 16
○ 対潜 12
○ 索敵 11
○ 運 10
装備は以下となる。
○ 14cm連装砲
○ 12.7cm連装高角砲
○ 25mm連装機銃
姉の香取と同じ装備だが、対空と索敵に関してはわずかに能力が上である。
これは、機動部隊の猛攻に護衛艦隊で猛然と反撃したことに由来するようだ。
なお、声帯の妖精さんは姉たちと同じ人で1つ。
「じゃあ香取たちと同じように訓練で大きな力を発揮してくれるってことか」
「訓練ももちろんですが、必要とあれば遠征などにも赴きます。お任せください」
香椎は『ただ』と続けた。
「正直……航空機がすごく怖いので、対空装備を充実させていただけると嬉しいです」
「対空装備だな、安心しろ。ウチの工廠長がきっといい装備を見繕ってくれるから」
香椎が『工廠長?』と首を傾げたため、せっかくなのでまた新入りたちに見せてやることにした。
それを見ていたMinas ZyeraisとConte di Cavourが微笑んでいた。
「我らも通った道じゃな」
「歴史は繰り返す、ってねっ」
一同を案内して開発工廠へ赴くと、チャーと斎藤が相も変わらず装備を作りまくっていた。
今日はZaraとQueen・Merry、さらに伊58や島風、霧島が手伝っていた。
「お疲れ様です、提督」
「うふふっ。今日も色々できました」
「島風は早くいっぱい作ったよー‼」
「早ければいいってもんじゃないでち……」
「まぁまぁ、いいじゃないですか。さっ、提督。艦隊の頭脳たる私たちが手伝った装備、じっくりご覧になって下さい」
見れば、様々なものが並べられている。
「あっ、メリーの機関砲集中配備じゃないか。生産できたんだな」
「あぁ。かなり苦戦したがなんとか作れたぜ。これを摩耶にでも装備してやりゃ、かなり対空値があがるぜ」
他にも色々並んでいた。
○ Bofors40mm連装機関砲(集中配備)(火力+2・命中+5・対空+10)×3
○ SK+SGレーダー×2
○ 一式徹甲弾改×3
○ 潜水艦53cm艦首魚雷(8門)×3
○ 32号対水上電探改×2
○ 96式150cm探照灯×4
○ 新型高温高圧缶×6
○ 試製48cm三連装砲(火力+28・対空+7・命中+3・装甲+3・射程超長)×2
○ 二式120cm迫撃砲 集中配備×4
○ 対潜短魚雷(試作型)
○ 艦本式新設計 増設バルジ(中型艦)×2
○ 艦本式新設計 増設バルジ(大型艦)×4
○ 特大発動艇×3
○ 装甲艇(AB艇)×3
○ 武装大発×4
○ 装甲艇(Tー34砲塔型)
○ 一等輸送艦×5
○ 二等輸送艦×5
とまぁ、相も変わらず頭おかしい装備ばかりである。
武装大発は既存の大発動艇に機関銃や迫撃砲を搭載すれば簡単だが、装甲艇は音無も初めて見る装備だった。
「チャー。この装甲艇って確か、日本では陸軍が作らせて中国軍との戦いに投入した船、だったよな?」
「あぁ。日本軍は大発動艇だけでは中国軍との戦いで被害を出すことが多々あったことから、ある程度の装甲を有して機関銃に耐えられる船を急拵えで建造させたんだ」
装甲艇。
チャーの言う通り、日本陸軍が中国軍との戦いにおいて川から歩兵部隊を支援できるような船として作らせた兵器だった。
海軍ではそれを河川砲艦に任せていたが、陸軍は八九式中戦車の砲塔をそのまま利用して主砲塔とし、57mm戦車砲や搭載していた機関銃で支援をさせていたのだ。
幸いだったのが、当時八九式中戦車の砲塔は量産が始まっていた時期だったこともあって大量生産可能で、『前線からの要求にすぐ答え、要求性能を満たしたもの』として一部の書籍などでは『陸軍の傑作兵器の一つ』と扱っている本もある。
「これらがあれば特殊な深海棲艦、『PT小鬼』に対して有効打を与えることができる。また、陸上型深海棲艦に対しても高い打撃を与えることが可能になるだろう」
「この、一等輸送艦、二等輸送艦っていうのは?」
「日本海軍が考え出した、『敵の占領地に強襲揚陸し、短時間で車両を揚陸できる船』というコンセプトで作られた輸送艦さ。もしかして妖精さんに運用させるタイプが作れるんじゃないかと思っていたんだが……上手くいったよ」
「じゃあ、上陸作戦や特殊な地上型がいる時にはこれを随伴させればダメージを与えやすくなるってことか?」
「あぁ。艦娘化していなかったのは、恐らく名を残せるほどの活躍をできなかった、名持ちでなかったからじゃないかって思うぜ。海防艦なんかは番号でも戦果を挙げた奴、特徴ある奴なんかがいて艦娘化するだけの謂れがあったんだろうが」
「なるほどな。難しいもんだ」
ただし、それは現実において2023年までの話であった。2023年の『救援!小笠原兵団!』イベントにおいて、『第一〇一号輸送艦』として実装されることになるのだが、そんな彼女と出会うのはまだ未来の話。
一方、一等輸送艦の後部には大発動艇及び特大発動艇が、二等輸送艦には試験的に、だろうか、九七式中戦車や九五式軽戦車が搭載されていた。
「これなら『Tー34』だって2両か3両くらいは搭載できるぜ。元々ロジーナは攻撃力・防御力の割に小型で軽量なのも特徴だからな。ついでに同じ主砲を流用した『M24チャーフィー』でも作るかな?あれがあれば4両くらいは搭載できるだろう」
「確か、アメリカが作った最後の軽戦車、だっけ?」
「主砲こそシャーマン同様の75mm砲だが、防御力はかなり低い偵察向けの軽戦車だ。だから対戦車戦に用いるのは無茶なヤツさ。だが、当面支援に使うのなら十分すぎるし、戦後は自衛隊でも運用されていた経歴があるから旧軍兵でも馴染みやすいとは思う」
「よし。じゃあ次はそれを作る想定で頼むよ」
「あいよ、任せとけ」
本日着任したばかりの艦娘たちはそんなやり取りを見て『( ゚д゚)』という顔だ。思わず浦風が音無の袖を引いて尋ねた。
「提督さん、工廠長さんってフツーの人間さんなんじゃろ?」
「そうだが?それがどうかしたか?浦風」
「え、いや、その……」
一方、香椎は明らかに目を輝かせていた。
「すごいっ……これなら、これなら今度こそ守れます‼」
かつて米軍の爆撃機多数の猛攻を受けて、仲間の海防艦や守るべき存在だった輸送船諸共に沈められた香椎からすると、やはり対空装備の充実というのはなにをおいても優先して欲しいらしい。
「そういえば香取たちも遠征や掃討に出てもらったことはなかったな……これからは彼女たちにもたまにでいいから実戦に出てもらうか」
「流石に主力艦隊で行かせるのは無理があるから気を付けろよ?」
「あぁ。分かってる」
普通の鎮守府であれば聞かない『掃討』という単語が聞こえてきたことにも疑問を感じつつ、この日の工程は全て終了となった。
音無は旗艦を任せた初月からの報告書を読んで、香椎の登場以外に異常事態がなかったことにホッとしていた。
「……また、鹵獲改装された艦娘みたいなイレギュラーが出てこないとも限らない。皆には負担をかけるが……頑張ってもらわないとな」
すると、執務室の扉をノックする音が響いた。
「どうぞ」
扉を開けて入ってきたのはScharnhorstだった。
「よぅ、Admiral。グーテンターク」
「どうした、シャル?」
「いや。Admiralはまた色々難しいことを考えているみたいだが……」
見れば、Scharnhorstの手には皿が握られており、カットしたパイナップルが多数載っていた。
「あんまり煮詰めるとロクなことにならねぇっていつも他の奴らも言ってるだろ?だから……甘いモン食って少し緩めろって」
どうやら、また皆に気を遣わせてしまったらしいと気づいた音無だった。
「ありがとう。いただくよ」
「おぅ」
Scharnhorstは一見すると海賊風で気性の荒そうなタイプに見えるが、その実はとても繊細な女性である。
偵察機からの報告を受けてしっかり状況を判断し、必要とあればすぐさま戦術の変更を具申するなど、高い戦術眼を持っているのだ。
そんなScharnhorstはフォークにパイナップルを突き刺すと、音無の目の前に突き出した。
「ほれ、あ~ん」
「いや、そこまでは……」
「いいから、ほれ」
そこはかつて通商破壊に従事した艦だからか、押すべきところは押す強引さも心得ている。
「ったく……あむっ」
若干恥ずかしそうではあったものの、ちゃんと食べた姿を見たScharnhorstは『よし』と言って笑っていた。
「(こういうところ、正しく『お姉ちゃん』って感じだよな。俺が弟だったら、そんな気持ちだったんだろうか……)」
パイナップルは焼いてあるらしく、酸味控えめ、甘さが強めになっている。
「うん。甘いな」
「へへっ。フィリピン産の無農薬パイナップルさ。この間の一件の後で、あそこの後始末をしていた汚野提督たちからお裾分けってことでもらったんだよ」
「そりゃ美味いわけだ」
音無はScharnhorstが差し出したパイナップルを食べると、その甘酸っぱさに緊張していた心が解れていくのを感じた。
「ありがとな、シャル」
「いいってことよ。俺らがAdmiralを頼りにするように、Admiralも俺らのことを頼ってくれていいんだからよ」
Scharnhorstの屈託のない笑顔を見て、音無も思わず笑顔になる。
「そうだよな。俺ばかりが抱え込んでいてもしょうがないもんな」
すると、Scharnhorstがフォークを置き、音無の腕に抱き付いて『あててんのよ』を見舞ってきた。
「だから、さ。俺でよかったら……甘えて欲しいし、俺も甘えたい」
それを聞いて音無も、パブロフの犬のごとく下半身が反応していた。
「ったく……節操のない自分が情けないよ」
「俺は嬉しいけどな」
音無はScharnhorstと腕を組み、寝室へと向かうのだった。
やはりチャーに驚かされる面々であった……まぁ、そうなるな
次回は3月8日に投稿しようと思います