なにせ……ゲフンゲフン
僕は直井文人。一言で言えば『神』である。
かつては……まぁ、色々あった。
兄のこと、父のこと、父から受け継ごうとした陶芸のこと、そして自分のこと。
それらを経て、僕は死んだ後に死後の世界という場所へ飛ばされた。
そこは異様な世界であり、異常な世界だった。
僕はその世界を、神になる者を選ぶための世界だと考えた。
なので、僕は神になるべく様々な行動をとった。
神の遣いなどと言われていた『天使』こと立華かなでを蹴落とそうとしたこと、立華と敵対していた『死んだ世界戦線』という反抗組織を追い詰めたことなど。
一見優等生の僕だったが、あの世界において優等生でいることはあの世界から消える……俗にいえば成仏することを意味する。
神になる僕が、そのようなことがあってはならなかった。
なので、僕は陰で一般生徒をいたぶることで存在を維持していた。本来であれば愚民をいたぶる趣味はないのだが、まぁ僕が神になるためだ。致し方のないことだっただろう。
そんな僕は自分の行いを疑問に思うこともなく、ただひたすらに自分を神にするべく行動していた。
だが……そんな僕に光明が差した。
それこそが、音無さんとの出会いだった。
あの方は自分の仲間に偽りの救いをもたらそうとしていた僕を諭し、なにもなかったと思っていた僕の人生もまた本物であると告げてくれた。
誰かに自分の人生が無意味なものではなかったと認められた……あの言葉がどれほど嬉しかったことか。
だから僕は決めた。あの方に……音無さんにずっと付いて行くと。
だが、その当の音無さんは死後の世界に着いた時点で記憶をなくしており、僕の催眠術を用いてその記憶を呼び起こすことに成功した。
音無さんの心には、妹さんを救えなかった後悔と、妹さんのように難病に苦しむ人を救うために医者になりたかったのにそれが果たせなかったという無念があった。
だが、そんな自分の人生にも、間違いなくなにかしらの意味があったことに気付いた、と後に言っていた。
それがなんだったのかは……結局僕も推し量れないままだったが。
音無さんはその後、戦線の愚民どもを満足させてやるべく色々と骨を折り、彼らを満足させてやり、成仏させてやったのだ。
なんという慈悲深さだろう。僕さえいなければ、音無さんこそがあの世界の神に相応しいお方なのではないか。少なくとも、僕はそう思うくらいに感動していた。
しかし、神はあまりにも残酷だった。
音無さんに新しい人生を歩ませる上で、記憶や経験を持ったまま転生させて、苛烈極まりない戦場へと送り込んだのだ。
しかも、共に歩めると思っていた立華かなでとも理由があったとはいえ、音無さんと別れさせたらしい。
『深海棲艦』と呼ばれる異形の怪物どもが跋扈する世界で、音無さんは『艦娘』と呼ばれる船の記憶を持つ少女たちを指揮して戦う『提督』となった。
僕もまた、音無さんの補佐をする副提督として日夜鎮守府近辺の警戒活動として対潜哨戒に当たっている。
そんな音無さんには、戦いに身を投じる中で初恋だった立華かなでに代わって愛する人ができた。
彼女は前任提督の頃からの数少ない生き残りで、水上機母艦から軽空母へと進化した千歳という女性だった。
彼女は女性らしく出るところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいて柔らかそうな肢体ももちろん魅力的だが、精神の方面でも母性豊かで、音無さんの強いところも弱いところも包み込み愛している。
僕みたいに、音無さんのことを盲目的に信じ、付いて行こうとしているのとはまた違った意味での献身だろう。
音無さんも今やそんな千歳のことを心から信頼しているようで、初めて肉体関係を持った女性とのことだ。その姿はもはや、長年連れ添った熟年夫婦のようにすら見えるようになってきた。
正直に言おう。僕は彼女に嫉妬している。
音無さんの隣に立つのは、本来僕のはずだった。
それを、ぽっと出のあの女に奪われた……そんな風に考えた時期もわずかではあるが……間違いなくあった。
だがふと気が付いた。僕もまた、あの戦線の連中からすれば『ぽっと出の輩』だったことに。きっと、音無さんならばそのように言うだろうとも。
確かに僕は神だ。それは誰にも否定しようがない。
だが、鎮守府では基本的に艦娘が提督の身の回りの世話をしている。特に音無さんは千歳を始め、既に多くの艦娘が音無さんに抱かれている。
そのせい、ということもないが……僕が音無さんに近付く暇がない。
最初は音無さんにべったりだった艦娘たちに注意したこともあったが、あまりに高圧的ということで音無さんに注意されたものだ。
だからこそ気付いた。仮に千歳や、艦娘たちに八つ当たりするような真似をすることは、間違いなくみっともないのだと。
そんなことを考えているうちに気が付いた。
僕は、音無さんのことを愛していたのだと。
男同士とか、同性だとか、そんなことは関係なかった。
ただただ1人の人間として、あの人の持つ心意気と人柄に惚れていたのだ。
あの人が望むのならば、僕はどんなことでもできるだろう。
そして同時に、僕はあの人にずっと見ていてほしいと思っていた。
あの人が僕の活躍を見て、僕の存在を認識してくれている。そして時折褒めてくれる。それだけで十分だ、と……。
だが、そうもいかないのが人間という奴の性だ。
そのうち僕は、艦娘たちと音無さんが纏う雰囲気が変わり始めたことに気が付いた。
それは、先程も言った音無さんと千歳を始めとする艦娘たちが肉体関係を持ったことだった。
音無さんが彼女たちを見る目が明らかに変わっていた。
優しく見守るような視線もあるのは間違いないが、その中に間違いなく肉欲が交じるようになった。
それを見て思った。『僕もあのような目で見て欲しい』、『僕のことも思い切り抱いて欲しい』と。
変だと言いたい奴には言わせてやればいい。僕も音無さんに出会ったことで『愛とは性別や常識ではない』ということを理解したのだ。
その昔、衆道が一般的だった戦国時代などはこのような思いを抱くことは当たり前だったのだということを、今更ながらに深く理解した。
かの武田信玄など、男色の小姓相手のラブレターまで見つかっているほどなのだから、当時の武将にとっては一種のステータスだったに違いない。
まぁ、それはさておき。僕自身が音無さんのことを深く愛しているということについてはどんな輩にもとやかくは言わせるつもりはない。
なので、それからの僕は毎晩、念入りに体を洗うようになった。特に、尻は念入りに。
もちろん、音無さんが僕に声をかけてくれることなどないのは分かっている。
音無さんは普通に女性が好きで、男が抱いて欲しいなどと言っても否定はしないだろうが『それは……』と困惑するだろうから。
それでも、なんとなくそうしたくなったのだ。
そんなある日、僕は夜遅く就寝する前に音無さんの部屋を訪ねていた。
というのも、その日の哨戒において沈めた深海棲艦の中に『ソ級FlagShip』という強力なタイプが存在したため、艦娘たちから上げられた報告とその脅威度を僕がまとめたからだ。
「……なるほどな。潜水艦の新型、か。魚雷の威力や射程よりも、探知されづらい能力を持っているっていうのが厄介だな」
「既存の聴音機や探信儀でも辛うじて探知することはできましたが……正直、水上機を含めた航空隊の哨戒がなければ完璧に見つけることは難しかったでしょう。敵も徐々に強化されつつあるように思います」
「そうだな。チャー……いや、斎藤に頼んで、新型の探知装置を考えてもらおう。アイツなら強力な奴を作れるだろうからな。哨戒を疎かにして、鎮守府や周辺に被害が出るようなことになったら元も子もないからな」
この鎮守府近辺には常に深海棲艦の潜水艦隊が張り付いているため、それらを徹底的に駆逐することが重要だ。
他の鎮守府では港湾の周辺を守ることが精一杯のようだが、僕の率いる対潜哨戒艦隊はボルネオ島北部付近まで手を伸ばして哨戒させている。
そうしなければならないほどに数が多いのだ。
逆に言えば、敵もそれだけ自分たちと敵対する相手の情報を集めることを重視しているということだろう。
まるで、かつてそれができなかったからこそ躍起になって情報を集めているかのようにすら思えてくる。
しかも稀にだが、空母から発艦したと思しき艦載機も高高度から鎮守府に対して偵察に来ることがある。
もっとも、今鎮守府に配備されている迎撃機である『夜間戦闘機 月光(超・熟練)』や『局地戦闘機 閃電改』よりは低い限度らしく、基本的にそれらによるスクランブルで駆除できているのが幸いだ。
あのヒゲ(チャー)曰く、『月光はまだまだ改良の余地があるから、もうちょっとすればさらに強力なタイプを出せると思う』とのことだ。
あの変態をまだ強化する気なのかとも思うが、頼りになる存在が増えることに異存はない。それは音無さんを守ることにも繋がるのだから。
音無さんはいつものように真面目な顔をしている。その心中では、艦娘たちがいかに傷つかずに済むかを常に考えているのだろう。
その引き締まった表情は、男の僕から見ても惚れ惚れするほどにカッコいい。
だからこそ僕も、自分の仕事には手を抜かずに頑張っているつもりだ。
「ありがとう、直井。お前がいつも正確で詳細な報告書を提出してくれるから助かるよ」
「いいえ。艦娘たちを守ることは音無さんの心を安らげることでもありますから」
あぁ。本当にこの人はどこまでも優しい人だ。既に200人を優に超えている艦娘たちのことを、できる限り1人ずつ考えようとしている。
もちろん、音無さん1人で本格的に面倒を見れる人数は限られている。
特に深く心を砕いているとすれば、千歳以外では深海棲艦に鹵獲され、改装された5人の艦娘だろうか。
どいつもこいつも改装の影響でムチムチの卑猥な体つきになっており、音無さんはほぼ毎晩最低でも1人の相手をしてやっているようだ。
他人事ながら、よくも体が持つものだと驚くばかりだ。やはり音無さんこそ神に愛されているのか、神そのものなのかもしれないとすら思う。
「いつもありがとうな。これを少しでも活かさないと……」
音無さんが僕に見せる笑顔。確かにいい笑顔だが、その視線の中に僕に対する欲情は見られない。
当然のことだった。音無さんは普通の男性だ。そんなことは分かっている。分かっている、はず、なのだが……
「え、直井?」
「あ、あれ……?」
僕はいつの間にか、涙を流していた。自分でも気付かぬうちに、感情が抑えきれなくなっていたのだ。
突然のことに、思わず僕は狼狽してしまった。涙を止めたくても、とめどなく溢れてきてしまう。
「ぼ、僕は、その……」
こんな無様な姿を、音無さんに見せる訳にはいかない。僕は急いで立ち去ろうとしたが、音無さんに腕をしっかりと、しかし優しく掴まれた。
「どうした、直井。なにか悩みがあるなら話してくれ」
優しい。しかししっかりとした強い意志を感じる言葉。
かつてと全く変わらない……いや、かつてあの世界にいた時よりもはるかに威厳と重みが増しているように思える。
やはり……認めたくはないが、艦娘たちの指揮を執るようになったからだろう。
音無さん自らも銃や無反動砲を取り、鎮守府に襲来した深海棲艦と戦ったことだってある。その姿はとても凛々しく、これぞ指揮官と思わされるに十分な戦いぶりだった。
何度も艦娘の危ない場面を見て、救ってきたからこそ、こういった堂々たる態度を取ることができるのだろう。
「ぼ、僕は……」
それなのに、僕は感情の昂ぶりを抑えられないからか、言葉を上手く紡ぐことすらできなくなっていた。
全く、これでは神失格だな。
すると、音無さんは僕の体を掴んでしっかりと顔を向けてきた。
「嘘をつくな。お前のその顔、ただごとじゃないって言っているのと同じだ」
どうやら、音無さんには僕ごときの考え……いや、表情はお見通しらしい。
でも、それが不愉快ではない。むしろ、『もっと僕のことを見て欲しい』とすら思えるのだから不思議だ。
だから、僕は俯きながら、それでもハッキリと言った。
「……この言葉を続けたら、音無さんは、今までの僕との在り方でいられなくなってしまいます……」
先述したように音無さんも同性間における愛情を否定するようなことはしないだろう。だが、それを自分に向けられたと理解すれば間違いなく困惑するはずだ。
音無さんは、その言葉を聞いても僕の顔を見続けていてくれた。
「それでも、お前が抱えている悩みをそのまま放置しておくことの方が俺には辛い。できることならちゃんと話して欲しい」
その瞳はしっかりとした力を持っており、思わず僕は『うっ』と仰け反ってしまった。音無さんは、僕のことを、こんなにも大事に思ってくれている。
だから……僕も意を決して話をすることにした。だが、怖い。だからこそ、僕は思わず目を瞑ってしまった。
「僕は……僕は音無さんのことが……」
心の中で僕の理性が『やめろ』と叫んでいる。しかし、音無さんがこう言ってくれたのだから、と別の心が推し進める。
「僕は……音無さんのことが、1人の人間として好きです……いいえ、愛しています」
「直井……」
流石に音無さんも驚いたようで、目を見開いていた。
僕は恐る恐る音無さんの顔を見ると驚いてはいた……だが、そこに嫌悪の色はなかった。
「……そう、なのか。いや、なんとなくお前の目つきや呼び方とかでなんとなく普通の人の感覚とは違うっていうのは分かってたけど……」
頬をポリポリと掻く音無さんの姿を見ると、やはり僕を嫌がるような素振りは見えない。やはり、この人はこういう人だ。
日向(ひなた)のアホがそれっぽいことを言うと『コレなのか?』と念を押すことがある。だが、僕に対しては僕が熱意や熱情を見せてもそういう言葉を発しなかった。
僕が一生懸命なことを、音無さんなりに分かっていてくれたからなのだと思いたい。
「そっか。お前は……俺のことを……」
「……気持ち悪いと思わないのですか?」
「え?」
音無さんは本気で僕のことを嫌悪していない。それは見ればわかる。
だが、それでもつい聞いてしまった。
音無さんは……いつもと変わらない、優しい顔をしていた。
「まぁ、確かに普通じゃないのかもしれないけどさ。こう言っちゃなんだけどな、艦娘の皆を見ているとそんなこと気にすることの方がおかしく感じるよ。ほら、大井と北上とか、赤城と加賀とか、最上と三隈とか、扶桑と山城とかさ」
そう。艦娘は自分の姉妹艦や他の艦娘に対して姉妹感情以上に強い想いを抱いている者が多数いる。
それを言えば金剛と比叡、五航戦姉妹や古鷹ペア、そもそも音無さんの愛する千歳も妹の千代田が激烈なシスコンである。
流石に性的欲望を抱いているレベルまで行くと大井、比叡など限られては来るが、同性に対する愛情が強い艦娘たちの在り方を見ていることは、音無さんの同性愛に対する考え方を大きく変えていたようだ。
「本当に……本当にそう思ってくれますか?」
思わず直井が聞き返すと、音無さんは『あぁ、まぁな』と微笑んだ。
「まぁ、色々あるだろうけど……人のことをどんな風に想うかは人それぞれさ。俺だってかなでのことが好きだったけど、今は千歳や鈴谷、他にも色々な艦娘たちのことを想うようになったからな」
流石に照れ臭いのか『浮気ばっかりの俺がなにか言えた口じゃないかもしれないけどな』と苦笑いした。
「だから、さ。お前が俺のことをどう思うかっていうところについては、俺がなにか言える立場じゃないと思う。それに……」
音無さんが僕の頭を『ポン』と撫で始めた。
「人に『好きだ』って言われて『イヤだ』って言うとしたら、それは……よっぽどそいつのことが嫌いな場合だけだろ」
音無さんの言葉を受けた僕は、再び涙を流していた。しかし、その目は嬉しそうな色を滲ませていたのだろう。
音無さんも自然と笑顔を見せてくれていた。
「本当に……本当にいいんですか?」
「あぁ。艦娘が良くてお前がダメ、っていうのはなにか違うだろ?」
あぁ。ズルい。この人はどれだけ僕を惚れさせる気なのだろうか。
でも、それがいいんだ。
僕は思わず音無さんの胸に飛び込んだ。
音無さんは……嫌がりもせずに僕を抱きしめてくれた。
「……なぁ、直井。一つ提案があるんだが」
「は、はい?」
思わず聞き返してしまう僕。鏡を見れば、神らしからぬ間の抜けた顔をしていることだろう。
音無さんはそんな僕の心の内を知ってか知らずか続ける。
「お前って確か昔、お兄ちゃんがいたんだよな?」
「え、えぇ。確かに兄がいました」
音無さんは僕の顔を見ると、『どうだろう?』と言わんばかりの顔をした。
「俺たち、『兄弟』にならないか?」
「兄弟、ですか……?」
音無さんの言葉の意味が分からず、思わずオウム返しに聞き返してしまう。
「あぁ。俺には妹がいて、お前にはお兄ちゃんがいた。だから、さ。昔の人じゃないけど、『義兄弟』って奴さ」
「あぁ。聞いたことがあります」
三国志における劉備玄徳、関羽雲長、張飛翼徳の桃園の誓い、水滸伝の中核を担う梁山泊の男たちと言えば分かりやすいだろう。
日本においても任侠の世界では昔よくあったという。
「生まれた日は違えども、同じ日に死ねることを祈る、とまでは言わないけど、それでも俺たちが、これからも仲良くできればいいな、って思ったんだけど……ダメかな?」
恋愛関係にはなれないかもしれない。
でも、音無さんなりに僕とのより深い関係を、それも艦娘とは違った形の関係を考えてくれた。
それだけで僕は、とても嬉しかった。流れる涙で顔をくしゃくしゃにしてしまうくらいには……。
だから、思わず僕はこう答えていた。
「はいっ。嬉しいです……『義兄さん』っ……」
「そっか。じゃあこれからもヨロシクな、『文人』」
僕たちは改めて抱き合った……。
「……か、書けたぁ~……」
「秋雲~、お疲れ様~」
「Coffee入ったわよ、秋雲センセ」
ここは鎮守府のある一角。
椅子に座っていたのは、陽炎型駆逐艦15番艦の秋雲と、夕雲型駆逐艦2番艦の巻雲、そしてYorktown級航空母艦3番艦のHornetだった。
さらに、若干腐り気味の気がある仲村ゆりもハァハァしながら同人誌を読んでいた。
「それにしても……よくこんなネタ思いついたよね~」
「後半はずっと提督と直井副提督がイチャイチャする話……正直に言って濃密、ね」
ここまで秋雲が描いた場面はほんの序の口、そこから裸の男2人が絡み合う濃厚な絵面は、中々にHornetの心を刺激していた。
ゆりもまた、興奮して仕方がないという状態らしく、『タマリマセンワー』と鼻血を流しながら読み漁っている。
「でも大丈夫なの~?こんなの提督さんに見られたらお仕置きものじゃないかな~?」
「あ~大丈夫大丈夫。こっち見てみ~」
秋雲が差し出したもう1冊に描かれていたのは、音無と千歳がイチャイチャする『普通』の18禁『ウス=イ=ホン』だった。
もっとも、リアルな音無のネタなので大量射精による精液ボテ腹や母乳プレイなどのネタがたっぷりなので『普通』と言えるかどうかは分からないが……。
「表向きはこっちを出すの。どうせなら見てほしいからね~」
実は少し前、音無に秋雲がお願いしていたことがあったのだ。
「え、マンガを描かせてほしい?」
「そうそうっ。皆それなりに楽しそうにしているけどさ~、やっぱりもっと色々な娯楽があってもいいと思うんだよね~」
「それがマンガ、か?」
秋雲はかつて、炎上するHornetを乗員がスケッチしていたという逸話があり、それが元となって『絵を描くのが好き』、『マンガを描くのが好き』という性格になっているのだ。
もっともその際に僚艦の巻雲の乗員に『お前夜に探照灯まで点けてなにしてんだっ!?』とツッコまれたのは言ってはいけない話。
この縁から秋雲は巻雲及び風雲との縁が深い艦娘でもあり、改二になれば探照灯の運用でボーナス数値も付く。
「そうそうっ。ね、いいでしょ?いいでしょ?」
「まぁ……自分に余裕のある範囲で描けるなら……別に自由時間は好きにして構わないぞ?」
「やったぁっ。ありがとっ、提督っ♪」
こうして秋雲は手始めにとページが少なくて済む同人誌を描き始めたのだ。
最初はまともな作品を描こうとしていたのだが、音無と直井が親しげに話しているのを見て火が付いたらしく、途中から『やおい』系の同人誌になってしまったのだ。
ついでを言うと、音無の見ていないところで直井が音無の名前を呼びながらイケないことをしている姿も目撃してしまったのだ。
もっとも、途中で『普通』のエロ作品を描きだしてカモフラージュに使おうというあたり、頭のどこかで冷静な部分があったようだが。
「あ、巻雲~、音直本は右の段ボールに入れといてね~。音千本は左だから~」
「わかった~」
巻雲は多数印刷された本をわたわたしつつも入れていく。
ただし、この時秋雲も巻雲も、Hornetもゆりも気付いていなかったのだが、1冊だけ音直本が音千本に紛れてしまったのだ。
翌日、執務室で音無は秋雲が書いたという音無と千歳のイチャイチャ本、名前を『千の弦を結ぶ夜』という同人誌を見ていた。自分と千歳が熱烈に絡み合っている姿を見て、千歳は顔の熱が増していく。
「……ほぼ俺のリアルなセックスじゃねーか……まるで生で見たみたいに描いていやがるぞ……」
「あ、あははははは……流石にこうして描かれたと思うと恥ずかしいですね……」
音無と千歳、そして今日の秘書艦の金剛が『む~っ』と言いながら読んでいる。
「テートク~っ!こうなったらワタシとも熱ーいNight Battleをして欲しいデース!」
「イヤ、まぁ、それはその、追い追いな……」
ここで済めば平和なひと時だったのだが、問題はその段ボールの中から千歳がもう1冊の本を拾い上げていたことだった。
「あら、もう一種類本が……『捏ね上げる兄弟愛』?」
「え?」
音無も近付くと、表紙に自分と直井が描かれているではないか。
「なんだこりゃ?秋雲の奴なにを描く気でいたんだ……?」
3人がページをめくってみると、徐々に顔が赤くなり、音無は真っ青になっていった。
全部読み終えた直後、音無は無表情で立ち上がっていた。
「……ちょっと出てくる。用事を思い出した」
千歳も金剛も、止めることができず『……』と沈黙しながら冷や汗を流すばかりである。
「え、えぇと、その……お気を付けて……」
「テ、テートクゥ……その……頑張る、デース……?」
音無は一瞬振り返るととても爽やかな笑顔を見せて出ていったが、その爽やかすぎる笑顔が、逆に怖い千歳と金剛だった。
その頃、秋雲は巻雲からその状況を聞いていた。
「え!?提督の方に音直本が!?」
「ご、ゴメン秋雲~!冊数を数え直したら1冊足りなくて……もしかしたら、昨日段ボールに詰める時に間違えて入っちゃったのかも~!」
秋雲はこの後起こりうる可能性を考慮して真っ青になり、『ヤバい、ヤバい……』と呟きながら冷や汗をダラダラと流すのだった。
その数分後、音無が勢いよく秋雲の使っている部屋に飛び込んできた。
どこから調達してきたのか、音無は自衛隊(海なので海上自衛隊の青い迷彩服)の格好をし、右手には64式小銃を、左手には最近の愛用品であるワルサーP38を持って、鬼のごとき形相で飛び込んできたのだった。
「秋雲はどこだ‼あのクサレ味噌はどこへ行ったー‼」
「愛を捏ね上げる方法を学ぶと言ってAritaに旅立ちましたー‼」
居合わせたとはいえ、こんな風に叫ばざるを得なかったHornetも哀れであった。
その後、コッソリと逃げようとした秋雲を音無と、たまたま一緒に探していた大淀と共に武器を持って追いかけ回すことになったのだった。
なお、大淀の手にはどこから調達したのか『約束された勝利の剣』と書かれた金色の大剣が握られていたという。
ちゃんとご丁寧に衣装まで整えて。
「秋雲おぉぉぉ、覚悟しろぉぉぉぉっ‼」
「なにがマンガを描かせてですか、この破廉恥いぃぃぃっ!」
「ぎああぁぁぁっ!大淀さんのネタまで来たああぁぁぁっ!」
大淀さんのネタは『某グランドなオーダーの年末特番アニメ』を見ればお分かりになる方も多いかと……。
なお、余談だがBL同人誌の1冊がいつの間にか行方不明になっており、その行方が知れないとかなんとか……。
はい、このオチのためのネタでした。
ただし、直井君本人は……まぁ、お察しください