果たして、なにが起きるのか……
ゆりとの初夜を無事済ませた音無は、改めてリランカ島の攻略に乗り出した。
結果として、リランカ島周辺の艦隊の攻略はそれほど難しくはなかったのだが、攻略の後で思わぬ事態が生じた。
「え、深海棲艦の陸上部隊がまだ健在?」
「はい。偵察機の撮影した写真をご覧ください」
大淀から手渡された写真を見ると、艦船らしい存在はほとんど確認できないが、確かに陸地側に黒く蠢くものが多数確認された。
恐らく、以前の襲撃の際にも繰り出された深海側の妖精と、深海側の戦車だろう。
「これは……空爆じゃ殲滅できないのか?」
「はい。残念ですが……それどころか、爆撃機の何機かは敵の対空砲火によって撃墜されています」
「相当強固な防衛ラインを築いているようだな……これを放っておくわけにはいかないな」
「はい。こちらも相応の陸上戦力を用意するべきでしょう。また、それを護衛するための戦力もです」
また、以前チャーが開発してくれた『一等輸送艦』と『二等輸送艦』を使えば、多数の戦力を上陸させられるだろう。
「敵艦隊は存在するのか?」
「偵察機によると、わずかに生き延びた潜水艦とPT小鬼群がいるそうです」
「PT小鬼群って確か……大本のモデルはアメリカの魚雷艇、って奴だったよな?」
「はい。基本的にかなり小型で高速なこともあって、攻撃が当たり辛いのが特徴です。駆逐艦の主砲や機銃、それに熟練見張り員など一部の装備が特効扱いとなります」
PT小鬼群。
史実におけるアメリカが使用した魚雷艇に酷似した能力を持つ超小型深海棲艦で、基本的に機銃が主砲であるため砲撃力はしょっぱいを通り越してお寒いレベルなのだが、魚雷を多数撃ち込まれると厄介である。
日本の大発動艇を中心とした輸送部隊に襲い掛かり、機銃掃射などで甚大な被害をもたらしたこともあるのだ。
大淀の話した通り、駆逐艦の主砲や副砲でないと命中し辛いという特徴を持つため、駆逐艦や副砲をガン積みできる艦娘がいると便利である。
「なるほど……じゃあ、これら小鬼群を排除してからじゃないと上陸は難しいな」
「反撃は間違いなくあると思います。ただ、早くて小回りが利くと言っても所詮船、それも紙装甲ですから、航空機には弱いですね。情報によれば、『一式戦 隼(爆装型)』という装備の効果が高いそうですが……ウチならそれより瑞雲や爆装零観あたりの効果が高いかもしれませんね」
音無の元でチャーが作り出した、或いは一部の特殊な艦娘が持参する装備も十分に強力だ。
今回は駆逐艦を中心とした編成となるだろう。
「……よし。編成を考えないとな。いや、だったら……」
音無は大淀をしっかりと見据えた。
「今回のリランカ島、俺たち戦線メンバーも上陸する」
「えぇっ!?」
最前線の戦場に提督が赴くなど、聞いたことがない。大淀は慌てて止めようと考えたが、音無は本気のようだ。
「ゆりとも相談しないとな」
「あ、あの、提督‼本気ですか!?」
大淀は止めようとするが、音無は『あぁ』と頷く。
「こういう占領戦って、空爆や艦砲射撃だけじゃケリがつかない、ちゃんと陸上戦力を使わないといけないって聞いているぞ」
「それはそうですが……でしたら、それこそあきつ丸さんたちに任せるべきです!」
「……そうなんだろうな。だが、なんとなくそれじゃダメな気がするんだ。改めて防衛部隊が来るまでは俺たちが守備隊の代わりくらいはしなくちゃいけないだろう」
「で、ですが!」
大淀は心配で仕方ないようだが、音無の意思は固いようだ。
「何故だか知らないが……行かなきゃいけない気がするんだ」
これまで音無は、戦場に赴くような話をしたことがない。それは、艦娘たちに強い信頼を寄せているからだ。しかし、音無は言いしれない焦燥感を覚えていた。それ故に、自分で『真の戦場』を見なければいけないと思っていたのだ。
「……分かりました。ですが、それならば白兵戦にもある程度対応できる艦娘を連れて行って下さいね」
大淀としてもリスクを排除しなければいけないのは間違いないと理解しているので、それを許可するしかなかった。
そのため、今回の編成は連合艦隊となっていて、以下となる。
第一艦隊
○ 千歳甲(水上機母艦にコンバート、装備は瑞雲改二六三四空(熟練)×12、12.7cm連装高角砲(後期型)、大発動艇(89式中戦車+陸戦隊))
○ 天霧改二丁(12.7cm連装砲C型改二・25mm三連装機銃 集中配備・Hedgehog)
○ 朝潮改二丁(12.7cm連装砲B型改四・Bofors 40mm連装機関砲 集中配備・Type124 ASDIC)
○ Queen・Merry改(QF 4.7Inch砲Mk.XⅡ改・特大発動艇+戦車第十一連隊(超・熟練)・Bofors40mm連装機関砲 集中配備)
○ 長門改二(41cm三連装砲改二・10cm連装高角砲改+増設機銃・特大発動艇・三式弾改二)
○ あきつ丸改(オ号観測機+10cm連装高角砲(砲架)・特大発動艇・特大発動艇)
第二艦隊
○ 荒潮改二
○ 満潮改二
○ 村雨改二
○ 海風改二
○ 霞改二乙
○ 千代田航改二
この編成により多数の陸上戦力を上陸させることで、防衛線を築き上げるつもりであった。
なお、長門改二が装備している『三式弾改二』は三式弾に新たにチャーが開発した近接信管を搭載したものである(ブラウザ版の本家とは別の装備)。
相手が大口径砲の命中し辛いPT小鬼群と聞き、三式弾改二の爆風と爆炎で吹き飛ばすつもりであった。
史実で三式弾はそのように使われたことがないが、効力と効果範囲の広さから効果があるだろうとチャーが判断したのだ。
数値は以下となる。
○ 三式弾改二 火力+5・対空+15・命中+8・回避+3
音無が改めて大本営に打電したところ、近隣の鎮守府及び海軍から部隊を派遣してもらうため、3日間は守ってほしいとのことであった。
「3日か……長いような、短いような……まぁ、関係ないか」
そんな音無を見て天霧が『ニヤリ』と笑いながら背中を叩く。
「そうだぜ、提督。長いか短いかなんてどーでもいいい‼やるかやられるかだ‼」
「やられちゃダメだろ!」
ツッコミを入れるが、そのお陰で少し緊張がほぐれた音無だった。
翌日、音無たちは船の上にいた。
天霧たち航行するメンバーを除いた、白兵戦をするためのメンバーは武装だけを持って船に乗っている。
刀を持った伊勢、日向、天龍、薙刀を持った龍田。さらに銃を持ったSaratoga、Hornet。
さらに日向、藤巻、大山、高松、松下、椎名、そしてTKがついて来る。
藤巻は長ドスとH&KのUSP、大山はSIG SAUERのP226を、高松はデザートイーグルを、松下はMG42(ヒトラーの電動ノコギリ)を、TKはFN ブローニング・ハイパワーを2丁、日向がS&W M645を、椎名がいつもの短刀と苦無を持っている。
これらは全て、『死後の世界』で彼らがそれぞれ得意としていた武器である。
なんで一応軍所属の音無たちがこんなに多様な装備を持てるか、タウイタウイ島の鉱脈で採れた鋼材を溢れさせない、という名目でチャーが勝手に作ったのだ。
大本営に報告はしていないが、音無としては自分たちのモチベーションが上がることに文句はないのでそのままにしている。
音無たちが出発しようとしたその時、『ちょっと待ったぁっ‼』という声が響いてきた。
見れば、KrissベクターSMGとベレッタ92F(シルバーモデル)を持ったゆりが駆け寄ってきた。
さらに後ろにはいつものハルバードを持った野田も付いてきている。
「あんたたち!こんなオイシイ場面にこのアタシを置いていくつもりかしら?」
「ゆりっぺが行くなら俺も行く‼当然のことだっ‼」
思わぬ話だったが、音無はすぐに考えをまとめた。
「分かった。2人にも付いてきてもらおう。鎮守府のことは直井と岩沢、それにサポートでひさ子に任せるつもりだ。早く乗れよ‼」
音無も64式小銃にワルサーP38を持った姿でニヤリと笑っている。
2人を追加した一同は、リンガの近くにあるというリランカ島へ向かうことになった。
途中のブルネイ泊地で補給を済ませ、そこから西へ進むのだ。
「目指すはリランカ島!行くぞ‼」
それから2日間をかけて、リランカ島の東方50kmに到着した音無たちは、既に爆撃を行っている基地航空隊からの報告を受けていた。
「報告によると、既に敵戦力のほとんどが壊滅したようです。ただ、近海にわずかばかり潜水艦が遊弋しているそうです」
「総員、対潜警戒を厳となせ。空は直掩隊と基地航空隊が守ってくれる。皆は海の中に集中するんだ」
艦娘たちは『了解‼』と言ってそれぞれ探信儀を起動する。
すると、朝潮が真っ先に潜水艦を発見し、推定座標に『Hedgehog』を撃ち込んだ。
「どうかしら?」
隣で荒潮が聴音機を使って様子を確かめている。
すると、水の中で爆発音が響き渡る。『Hedgehog』の弾頭は命中しなければ爆発しない仕組みになっているため、爆発すると逆に全ての弾が爆発するようになっている。
すると、荒潮が『あっ』と声を上げた。
「圧壊音……金属が軋む音……それに気泡の音。撃沈確実かと思います」
「他に確認できるか?」
周囲を『SkyRaider』が飛び回っており、手を出すことはほぼ不可能に見える。
その後は潜水艦に出くわすこともなく島に近付くことができた。
だが、島までの距離が15kmを切ったところで、島の方からなにかが近付いてきた。電探画面にそれらしい輝点が多数映し出される。
「提督!電探に反応あり‼PT小鬼群です‼」
「総員、砲雷撃戦用意‼」
駆逐艦たちに加えて千代田も機銃と高角砲を発射する態勢に入る。水上機母艦も自衛用に機銃と高角砲を装備しているため、多少の反撃くらいはできる。
――キヒャハハハッ……キャハハハハハッ……――
奇声を上げながら接近してくるPT小鬼群の姿は、他の深海棲艦と比べても異様である。皆も初めて見るらしいPT小鬼群に『うっ』と呻き声をあげていた。
だが、長門は全く怯んでいなかった。
「主砲、三式弾装填‼全主砲、一斉射‼てーっ‼」
長門は通常弾では効果がないと判断し、先述の三式弾改二を装備していた。
発射された三式弾改二は、群れていたPT小鬼群に接近したところでレーダー波により信管が発動し、大爆発を起こした。
――ギヒャァッ!?グヒャァッ!?――
これにより1発につき5体以上の小鬼群が吹き飛ばされていた。
「怯むな駆逐艦たち!この長門に続けっ‼」
かつてのビッグセブンの一角、普段は駆逐艦を見てハアハア言っている姿ばかり見ているので、その堂々たる姿に思わず一同は鼓舞されていた。
千歳も思わず『流石ですね』と呟いていた。
艦隊はそれぞれ目標にした小鬼に次々発砲する。
小口径砲のみならず機関砲も次々発射されて、命中する度に小鬼が沈んでいく。
すると、艦隊から天霧が飛び出していった。
「突撃一択だぁ‼」
天霧がクルクルと回転しながら乱れ撃ちと言わんばかりに主砲と機銃を撃ちまくっているが、その姿はまるでガン=カタを見ているかのようであった。
「オラオラオラァッ‼深海棲艦の力はそんなもんかぁっ‼」
天霧に群がろうとした小鬼群は次々と砲火に絡めとられるように沈んでいく。
「すげぇ……天霧改二丁が小鬼特効とは言うが、ここまで擦り減らすとはな……」
だが、戦場を俯瞰していた伊勢が気付く。
「ねぇ提督。思ったんだけど……偵察の時より小鬼の数が増えてない?」
「……あぁ。俺も思った」
藤巻たちも船の両舷に取りつけた7.62mm機関銃を次々発射して小鬼を倒しているが、それでも多いのだ。
「見たところ……今の時点で50以上は倒したぞ。事前の情報では40前後だったはず……どこから現れた?」
PT小鬼群は大本が100tほどしか排水量のない小型艇なので、航続距離もたかが知れている。
この近辺に深海棲艦の根城が他に存在しないこともあって、まるで島から湧き出て来たかのような錯覚を覚えた。
だが、千歳から発艦していた偵察機が驚愕の情報を持ち帰ってきた。
「提督‼島から次々と小鬼が海に飛び出してきているそうです‼ペースはそれほど早くないようですが……まだ来ます‼」
「総員、警戒を厳となせ‼一応『洋上補給』を持ってきたから、多少なら補給が利く‼使い切るつもりで撃ちまくれ‼」
「了解‼」
そうこうしているうちに徐々に島影が大きくなっていく。小鬼群を減らすペースが早かったこともあってか、ちょろちょろ湧いては来るもののそれほど脅威ではなかった。
「よし。このまま島に上陸する!総員、大発用意‼」
島まで200mを切ったところで次々と大発動艇が発進し、さらに後方から付いて来た一等輸送艦と二等輸送艦が続いていく。
途中で一等輸送艦も大発動艇を降ろし、発進させる。
「陸戦隊が上陸し、安全を確保できたら俺たちも上陸する。皆、頼むぞ‼」
「応よ‼」
「任せておけっ‼」
「そのための筋肉ですからぁっ‼」
それから数分後、大発動艇の一陣が到着し、妖精さんたちが次々上陸していく。
さらに砂浜に乗り上げた輸送艦からは次々と『Tー34(76mm)』が前進し、歩兵たちに周囲を守られながら進み出す。
と、林の奥から水に入ろうとしたらしい小鬼がヨタヨタと歩いてきた。
『Tー34』の1台が狙いを定めると、一撃で仕留めて見せた。
至近距離での76mm戦車砲の徹甲弾はかなり効いたようで、たった一発で木端微塵に吹き飛んでしまった。
「ふへぇ、流石だなぁ……」
「下手に体の一部が残ったりしたらエグイ絵面になってたから、この方が精神衛生上としてはいいかもね。大山君はエグイものを見たら吐くだろうし」
「うぅっ、言い返せないなぁ……」
大山とゆりの言葉に頷きつつ、妖精さんたちの合図を待つ。
すると、妖精さんが光信号を送ってきた。
「『上陸サレタシ』。提督殿、参りましょう!」
「よし。あきつ丸、お前の力、見せてやれっ‼」
「ははぁっ‼」
あきつ丸は陸に近付いて艤装を一度放棄すると、乗り上げた音無たちのモーターボートに載せた。
それとは逆に、音無たちが武器を持って上陸していく。
一同が上陸したことを確認した妖精さんたちの一部は先行して進み出した。
また、一部の部隊は砂浜に残って橋頭堡の確保に勤しむことになる。
「行こう」
音無の目の前では『九七式中戦車(旧砲塔)』がゆっくり進んでおり、中々壮観な姿である……その傍らで堂々と歩いているのが、海パン一丁の妖精さんでなければ。
「……ま、もう慣れたけどな」
ゆっくりとした歩みで進む一同は常に全周警戒を心掛けている。伊達にかつて、立華かなでと戦うために技術を磨いてきたわけではないのだ。
すると、薮の中から10体ほどの黒い人形のようなものが飛び出してきた。
『テキシュウ‼』
妖精さんの叫びで戦車たちが素早く砲塔を旋回し、機銃を掃射する。歩兵妖精さんたちも次々と銃を発射して討ち取っていった。
それでも接近してきた敵には銃剣を付けた妖精さんが白兵戦を挑み、見事な銃剣術でこれを討ち取ってみせる。
倒れた敵はそのまま黒い霧となって消えていくが、それが余計に不気味さを醸し出している。
「うえぇっ……まるで幽霊だぜ……」
「なに言ってんの藤巻君。艦娘だってある意味幽霊みたいなもんだし、アタシらだって転生したとはいえ幽霊の親戚みたいなものよ」
ゆりの言葉に『言われて見りゃそっか』と納得する藤巻。
そんなことがその後も3回ほど繰り返された。
中には木の上に潜んでいた者もおり、妖精さんが1人、それでやられてしまった。
また、野田の肩に飛び降りて来た敵の銃剣らしいものが刺さりかけたが、野田の驚異的な反射神経で事なきを得ていた。回避したせいで、危うく野田のハルバードの刃が日向の足を切断するところだった。
「てめぇ、味方ごと斬る気かよ!?」
「け、計算のうちだ」
「嘘コケ!だったら目を見て威張れっ!」
「危ない危ない……こりゃ本当に一片の油断もならないわね……」
さらに進むと、今度は温存されていたらしい深海側の戦車が飛び出してきた。
見た感じは軽戦車のようだが、勢いよく突進してくる。
すると、『Tー34』が主砲を発射し、一撃で仕留めてみせる。軽戦車レベルの装甲では、対戦車戦闘を考慮して設計された76mm砲の前では無力であった。
「……まだ、奥があるな」
「もう少し行けば軍がかつて使っていた施設があるはずであります。敵はそこを拠点としているのやもしれませぬ」
あきつ丸の言葉に頷いたその時、左右から同時に敵が襲い掛かってきた。
「応戦しろっ‼」
音無はすかさず構えていた64式小銃を発砲、ゆりたちも次々と銃撃して応戦する。高松はグローブを着けていた拳で眼前に迫っていた小鬼を殴り飛ばし、藤巻は久しぶりに長ドスを抜いて斬り伏せている。
敵は歩兵と戦車が入り混じっているようで、歩調を合わせて進撃してくるからか、速度はそれほど速くない。
だが、現れざまに1発を『Tー34』に向けて撃ち込んできた。幸い被弾軽始を重視した丸っこい砲塔が砲弾を『ガキン!』と弾いて見せた。
お返しと言わんばかりに76mm砲弾が発射され、敵戦車を粉砕する。さらに『九七式中戦車』の短砲身57mm戦車砲が敵歩兵部隊に着弾し、榴弾の猛烈な爆発で吹き飛ばす。
音無たちも各個に背中を守り合い、銃を撃ちまくる。
見れば、椎名も苦無を飛ばして敵戦車を弾き飛ばしていた。藤巻や野田は刃物で戦車を串刺しにしていく。
「へへっ。艦娘用の鋼材でメッキした武器だ、よく効くぜっ‼」
あきつ丸も『M1ガーランド』を撃っているが、以前同様に銃弾は敵の目の前で炸裂し、敵歩兵を吹き飛ばした。
「……クリア」
「オールクリアね」
ホッと息を着くと、音無たちは進軍を再開する。それから15分ほど歩くと、ようやく林を抜けることができた。林を抜けた先には、タウイタウイの鎮守府と似たレンガ造りの建物が姿を見せた。
「驚いたな。それほど損壊してないぞ」
松下の指摘通り、多少壁に亀裂などは入っているが、軋んでいる様子なども見られない。
「敵が使用しているってことかしらね?」
「多分、な」
建物のほとんどは当初のままと言える外観だが、壁の一部はケーブルのようなものが這っている。音無と伊勢たちはケーブルらしき部品の構造に見覚えがあった。
「音無さん、心当たりがある、という顔をしていますが?」
「心当たりもなにも、大きさは全然違うが、あのケーブルは伊勢たちを改装した深海艤装とほぼ同じものだ」
それを聞いて、Saratogaの横にいたHornetはギリッと歯を鳴らす。
「これのせいで、Saraは……」
Hornetが苛立ちを覚えていることに気付き、SaratogaはHornetの手の上に自分の手を置く。
「ありがとう、私のために怒ってくれて。でも、私は後悔していないわ。お陰で提督とご縁を結ぶことができたのですから」
「Sara……」
音無は2人の会話を聞いたところで、フウと息をつく。
「あきつ丸、先頭は任せる。あの半開きになっている正面玄関から侵入できないか確認しろ」
「承知いたしました」
あきつ丸の視界にも入っている玄関口は、押戸になっている扉2枚のうち1枚が半開きになっている。あきつ丸は抜き足差し足で接近し、扉の中に銃を構える。5秒ほど経過しても迎撃されなかったので、音無たちに手招きをする。
あきつ丸に合流した音無も中を見ようとするが、1m先がようやく見えるほどの暗さだ。すると、付いて来た天龍が探照灯(自分の眼)を照射した。
「どうだ、これで見えるか?」
「おぉ、助かったぜ」
天龍の傍を歩兵たちが守り、灯りを確保する。
「中にもかなりいるはずだ。注意しろ」
音無を中心に囲み、一挙手一投足を確認しながら建物の中に入っていった。
しばらく進んでいると、奥から異臭がし始めた。
「うっ……」
「なんだか生臭いわね……」
それでも奥へ進むと、暗がりから『ペタ、ペタ』となにかを引きずるような、濡れた音が聞こえてきた。
「警戒!」
天龍が音のした方へ探照灯を向けると、小鬼がゆっくりと歩いてきた。
音無が指示を飛ばす前に龍田が飛び出すと、持っていた薙刀で一閃し真っ二つにしてしまった。
「……この島の小鬼は、この施設から出てきていたのか?」
「可能性は高いわね。でも、なんだかあの小鬼、海の奴も小さいけどもっと小さかったような……」
「確かにな。動きも今までの以上にヨタヨタしてたし……」
音無、ゆり、日向(ひなた)が話をしている間にも、奥からわずかだが小鬼が歩いてきた。
こちらに襲い掛かろうとしても、音無の前に立った龍田や伊勢たちがバッタバッタと切り捨てていくが、半端に斬られたものの呻き声で逆に不気味さが増す。
すると、不意に野田が呟いた。
「なんだか……生まれたばかりの赤ん坊みたいだな」
その一言に音無がハッとした。
「そうか。生まれていたんだ」
「え、どういうこと?」
音無は視線を先の闇に向けたまま答える。
「多分だけど、この先にPT小鬼群を生み出している設備かなにかがあるんだ。深海棲艦側はこの島を、周囲に対する攻撃の前進基地にするつもりだっただろう。こっちの輸送戦力を叩くのに使うつもりだったのか、艦娘の戦力を減衰させることで深海側の艦隊決戦に有利になるように運ぼうとしたのかは分からないが……いずれにしても、この奥にそのロクでもない『なにか』があるはずだ」
音無の立てた仮説に、伊勢やSaratogaたちは嫌な予感がした。
「まさか、艦娘をそういった生産に使用している、ということはある、でしょうか?」
「お前たちという前例があるんだ。そういう奴がいないって保証はない」
その一言に一同の顔に緊張が走り、緊張感を孕んだまま奥へと進む。
すると、生臭い臭いがさらに強くなってきた。
「うぅっ……ひでぇ臭いだ」
藤巻の言葉に誰も応じないが、その心中は一致していた。
「この奥だ」
すると、天井からなにかが落ちて来てSaratogaの胸元に飛びついてきた。
「キャァッ!?」
それは天井にくっ付いていたらしいPT小鬼だったようで、最後の抵抗と言わんばかりにSaratogaの乳房に噛みついてきた。
「痛っ‼……もうっ!」
Saratogaは胸元の小鬼を振り払う。落ちた小鬼は逃げようとするが、伊勢の振るった海軍刀の一閃で真っ二つにされてしまった。
「サラ、大丈夫か‼」
「え、えぇ……もうっ。私のオッパイに噛みついていいのは提督だけなのにっ」
「ここで言うことじゃねぇ‼」
Saratogaの赤裸々な言葉に、藤巻たちも顔を赤くしながら背けるしかない。
しかし、この抵抗を最後に敵は姿を消した。
そして遂に一番奥の部屋……元々は提督の執務室だったらしい場所に着いた。しかし壁側の窓は雨戸らしい板で塞がれ、室内は真っ暗だ。天龍が探照灯を付けてくれてなければ中の確認をすることも難しかっただろう。
「ここは……」
「恐らく、提督の執務室です。私たちの鎮守府と造りが似ていますから」
扉は開いており、闇が広がっている。探るために天龍が覗き込む。
「……提督、奥になにかあるぜ」
音無は持ってきた大型の電灯を取り出した。
「龍田、これをぶら下げられるところに括り付けてくれ。灯り代わりにする」
「は~い」
天龍が周囲を警戒しつつ龍田が灯りを設置すると、部屋が一気に明るくなった。
そして、その奥にキラリと輝く金色の『なにか』が見えた。
「あれは……艦娘か!?」
敵はいないようだと判断した音無が飛び込むと、一同も素早く続く。伊勢と日向は退路の確保のために入り口に陣取った。
音無がその艦娘らしい少女に近付く。少女の腹部は大きく膨らんでいる。
「おい、大丈夫か!?」
少女は『うぅっ……』と呻く。よく見れば眼帯で目を、さらに口には管のようなものが突っ込まれていた。
恐らく、これで補給していたのだろう。
すると、少女の体が『ビクン』と震える。直後、少女の股間からボタボタと粘り気のある液体が垂れた。
「これは……」
そして、少女がブルブルと震えると共に股間が『ぐぱぁ』と開く。そこから出てきたのは、音無の想像通りPT小鬼だった。
――ギイィィィ……――
音無は迷わずその小鬼を引きずり出すと、持っていた銃を押し付けて撃ち込み、小鬼を消滅させた。
「提督……やっぱり……」
「あぁ。想像は正しかったみたいだ。この艦娘が……小鬼どもを生み出していた苗床だったんだ」
はてさて、いったい苗床にされていたのは誰なのか……次回のタイトルにヒントがあります