まぁ、アーケード版でもブラウザ版でも装備と練度さえ整っていれば比較的どうにかなるんですけどね……
仲間や装備も整えつつ、音無はカスガダマ沖海戦の準備を終えようとしていた。
「よし。これで問題ないだろう」
音無の目の前には、6人の艦娘が並んでいた。
今回の編成は以下となる。
○ 鈴谷改二(20.3cm連装砲(3号)・10cm連装高角砲(砲架)・瑞雲改二(熟練)×7・瑞雲改二(熟練)×11+熟練艦載機整備員)
○ 翔鶴改二(3スロット震電改・1スロット『Aー1(中期型)』+新型高温高圧缶)
○ 瑞鶴改二(全スロット『Aー1(中期型)』+新型高温高圧缶)
○ 五十鈴改二(12.7cm連装高角砲改二・Bofors 40mm機関砲(集中配備)・Hedgehog(初期型)+SK+SGレーダー)
○ 扶桑改二(41cm三連装改二・12.7cm連装高角砲・瑞雲改二(×9)・瑞雲改二(×23)+新型高温高圧缶)
○ 山城改二(扶桑改二と同様)
初めての主力艦隊メンバーである五十鈴改二は対空カットインに加えて、万が一航空攻撃で潜水艦を仕留めきれなかった時の対潜攻撃要員である。
五十鈴改二は潜水艦に対して高い戦闘力を誇る上に対空能力も高いため、マルチロールな運用が可能である。
本当であれば『203mm//53連装砲』で長射程にした摩耶辺りを連れて行きたいところなのだが、潜水艦のことも考慮してまずは五十鈴改二に出てもらうことにしたのだ。
しかも五十鈴改二はHedgehogを運用できるため、遭遇した瞬間に強烈な一撃を叩きこむことができる。
「ふふふっ。十分だわ、これで戦える!ありがとね、司令官♪」
初めて主力艦隊として出撃できることが余程嬉しいのか、五十鈴は音無の腕に抱き付いてきた。軽巡とは思えないレベルの立派な巨乳が音無の腕に抱き付いた衝撃で『ぐにゅうぅっ』と歪み、思わず『うおぉぉっ』と音無を慌てさせた。
「……五十鈴、ちょっと提督にくっつき過ぎじゃないかな?」
「五十鈴姉さん……羨ましいなぁ……」
長良と名取の2人が羨望の目で姉妹を見る。音無はそんな若干冷たい視線を甘んじて受けるほかなかったのだった。
「と、とにかく、艦隊出港!」
「(逃げた)」
「(逃げましたね)」
そんな音無の姿を見た秘書艦のZ3と千歳の心中は一致するのだった……ただし、マックスが若干の呆れを含んでいるのに対して千歳は微笑ましげだったが。
――カスガダマ沖海域
「……今のところ近辺には潜水艦がいるくらいだね。航空隊飛ばそっか」
「そうですね。行けるかしら?」
扶桑たちが瑞雲を飛ばすと、発見した潜水艦隊に襲い掛かる。
『ブッツブス!』
『ブッタタク‼』
『センスイカン、コロス!』
潜水艦に悩まされた日本軍の兵士たちの魂が宿る妖精さんだからか、潜水艦を攻撃する意思はかなり強いようだ。
瑞雲改二とSkyRaiderの投下した多数の対潜爆弾は潜水艦隊に降り注ぎ、次々と沈めていく。
本来正規空母の攻撃は潜水艦には効果が薄い(そもそもブラウザ版では正規空母は攻撃しない)のだが、SkyRaiderの高い搭載能力から繰り出される爆弾は、その能力差を大きく縮めていた。
「す、すごい……こんなに呆気なく潜水艦が沈むなんて……」
「昔は察知するだけでも大変だったのにねー」
鈴谷の言葉に五十鈴も同調する。
更に進むと、別の水上艦隊を発見した。
「内訳は『戦艦タ級Elite、重巡リ級FlagShip、重巡リ級Elite2隻、駆逐ハ級Elite2隻』だって」
「艦載機の準備はできてるわ。いつでも出せる‼」
瑞鶴の言葉に鈴谷が頷くと、一同が航空隊を発艦させる。
「アウトレンジで……決めたいわねっ‼」
発艦した艦載機には大量の爆弾と大型の航空魚雷が抱えられている。
敵艦隊に接近した航空隊は邪魔を受けることなく制空権を確保し、攻撃を開始する。
『コラシメテヤリナサイ!』
『セイバイ!』
SkyRaiderは急降下爆撃と雷撃の両方をこなせる高性能攻撃機である。両方からの攻撃を受けた敵艦隊はほとんどなにもできないまま攻撃を受け続けた。
しかし、それでも旗艦の戦艦タ級が中破状態ではあるが生き延びていた。
「これは避けられないね。接敵して、直接倒そう!」
「そうね。姉様に仇なす輩は根絶やしにしてやるんだから……」
「まったくもう。山城さんは相変わらずね」
相も変わらぬ山城のブレない姿にむしろホッとする一同であった。
接敵した直後、ボロボロの姿でありながらタ級がこちらに向かってきた。だが、弾着観測機を飛ばしたことで、相手よりも射程を伸ばすことができている。
つまり、よりアウトレンジから攻撃できるのだ。
「主砲、副砲、よーく狙って……撃てーっ‼」
山城の掛け声と共に放たれた砲弾は多数タ級に着弾し、強烈な断末魔と共に海の底へと引きずり込んで行った。
「ほっ……なんとか今のところ損傷ありませんね」
「対空砲火でちょっとだけ瑞雲が墜とされたくらいかな?」
SkyRaiderは、アメリカ機らしくそれなりに打たれ強い。多少の機関砲程度では撃墜されないのだ。
すると、扶桑の下に偵察機から報告が来る。
「偵察機より入電!敵主力艦隊発見。内訳は『装甲空母鬼、浮遊要塞3基、さらに随伴艦隊として戦艦タ級FlagShip1隻、重巡リ級Elite1隻、駆逐ニ級Elite2隻』とのことです」
「来たね。主力艦隊が」
以前襲来した際に戦った空母棲鬼とは違う、本格的に海域を支配する『鬼』との戦いである。一同の顔にも緊張が走る。
「艦載機の準備、できてるわ‼」
「こちらも行けます。瑞雲隊は発艦準備良しです」
「姉さまも戦っているのかしら?」
同じ艦隊にいるくせにヘンなことを言いつつ、一同が艦載機を発艦させる。
震電改のみならず、制空値の付いているSkyRaiderと瑞雲の制空値も加わっているため、その勢いで一気に攻勢をかける。
今回のSkyRaiderは爆装状態であるため、魚雷よりも多数の爆弾を積める。日本の基準では、3t近い爆弾を搭載できる本機は重爆撃機並みの扱いになる。
巨大で重量級の機体を、これまたパワフルな液冷エンジンで飛ばす。
アメリカの技術は恐るべしである。
そんなことを瑞鶴が考えている間にも、敵艦隊に攻撃が集中する。
元々装甲空母鬼の随伴である浮遊要塞には、航空攻撃を含めて魚雷が命中しない。正確に言うと、接敵した後の場合は本体に命中しそうな魚雷を要塞が庇う行動はとる。
だが、航空魚雷は全て『miss』扱いとなってしまう。そこで爆撃も雷撃も両方できるSkyRaiderならではの攻撃が行われたのだ。
多数の爆弾が要塞と装甲空母鬼に命中し、猛烈な爆発を起こす。その光景を偵察に飛ばした瑞雲が確認してくれている。
「攻撃の戦果確認。全要塞撃沈、装甲空母鬼中破です」
「えっ……1回の攻撃でこの戦果?」
鬼クラスの相手にたった1回の攻撃で出る戦果ではない。震電改の圧倒的な制空力とそれを補佐するSkyRaider、さらにそれをカバーするように瑞雲が攻撃したことで、強烈な攻撃となったのである。
また、妖精さんたちがこのモーレツ装備に慣れてきたというのも大きい。
「……ねぇ、これもう1回やったら撃沈できちゃうんじゃない?」
だがその時、攻撃でこちらの位置を察知したのか装甲空母鬼の偵察機が頭上へ飛来した。
「!……空爆来るわよっ‼」
五十鈴の声に全員が備え、翔鶴が直掩隊を飛ばす。
直掩隊が8割近い敵機を墜とすものの、少数がこちらへと向かってきた。すると、五十鈴の体が光り出す。
「バカね!撃ってくれって言ってるの?」
五十鈴が高角砲と機銃を撃ちまくると、防空に特化している艦である摩耶ほどではないが少しずつ敵機が墜ちていく。五十鈴は防空・対潜もこなせるマルチロール艦なので、ある意味『器用貧乏』に近いのだ。
だがそれ故に、カスガダマ沖のように多様性を求められる現場において、五十鈴改二はとても強い(少なくとも、ブラウザ版準拠ならば)。
最後の敵機が機銃に絡めとられると、煙を吐きながら海へ落ちていった。
「いいんじゃない?」
敵機を全て撃ち落とした五十鈴は誇らしげで、張った胸が『ぽよん』とよく弾むのだった。
「どうしましょうか?装甲空母鬼を倒せば随伴艦隊は撤退しますが……」
翔鶴の言葉に旗艦の鈴谷は即答した。
「できれば残しておきたくないからね……航空攻撃の準備が整ってからあえて接敵しよう。そして敵艦隊を全て叩くの」
鈴谷の勇ましいとも無謀ともとれる言葉に、全員は強く頷いた。
これは決して蛮勇や慢心ではない。冷静な分析の上に成り立った『自信』と、敵に容赦してはいけないという『徹底』である。
そして攻撃準備が整ったところで敵艦隊に接近する。装甲空母鬼も気付いた様で、こちらへ向かってきた。その後方には、戦艦タ級FlagShipを旗艦とする複縦陣の艦隊が続いている。
「エンジン、あったまって参りましたぁ‼」
敵艦隊と接触した直後、扶桑から瑞雲が1機飛び立っていく。触接の開始だ。
接敵した直後、艦体態勢を整えて丁字有利状態にする。装甲空母鬼はそこを狙って航空攻撃の準備を始めるが、その直後に五十鈴以外の3人の射程に入った。
「主砲、よく狙って……撃てーっ‼」
放たれた41cm砲弾と20.3cm砲弾多数が装甲空母鬼に命中した。そして驚くべきことに、装甲空母鬼がそれだけで轟沈してしまったのだ。
攻撃によって体勢を崩した装甲空母鬼は、そのまま爆炎を上げて斜めになりながら海の底へ沈んで行った。
「姉さまっ♪」
嬉しそうな山城だが、敵艦隊はまだ残っている。すぐに戦艦タ級が発砲準備に入った。
だが、鈴谷が素早く転舵して敵の射程圏外に出たことで、発砲は空振りに終わる。そしてその隙に航空攻撃を開始した。
「伊勢、日向には、負けたくないの……!」
扶桑の言葉と共に150機以上の艦載機が襲い掛かると、猛烈な魚雷攻撃によってタ級とリ級を沈めることに成功した。
残りは駆逐艦2隻だけとなっており、敵艦隊は完全に浮足立っている。
残った駆逐艦は『それでも』と言わんばかりに勢いよく吶喊してくるが、中距離でもギリギリ魚雷の射程圏内であるため、問題はない。
「うりゃぁ‼」
中射程に入ったところで全員の装填が終わったため、今度は全員が砲撃する……五十鈴改二の装備している『SK+SGレーダー』は射程距離を『中距離』に伸ばすことが出来る装備であるため、五十鈴改二の短射程を伸ばしてくれているのだ。
砲弾は全て向かってくる駆逐艦2隻に連続して命中し、あっという間に海の藻屑へと変えてしまった。
「やーるじゃん♪」
まさかの完全勝利であった。
鬼クラスという強敵を相手に、ハッキリ言って速力と防御力的には『お荷物』と言える存在の扶桑と山城を連れていながらも、どの敵からも一撃も負うことなく倒せたのは僥倖である。
すると、五十鈴が声を上げた。
「電探に感あり。これは……艦娘ね」
見えてきたのは、大きな艤装を身に着けた、外国人らしい艦娘だった。
「どこかの艦隊かしら?」
「そうだよー。ついて来る?」
その艦娘は鷹揚に頷くと、鈴谷たちに付いて行った。
帰投した艦隊が、この日であった艦娘を報告する。
「BonJour!Enchantee Je m appelle Commandant Teste 提督、どうぞよろしくお願いします」
「あ、あたし…夕雲型…駆逐艦…十三番艦……ちゃ、着任…しました……は、浜波……です。あの…あの……あたしは……」
「よお!あたいは、夕雲型駆逐艦、十六番艦の朝霜さ。覚えといてよ。忘れんなよ……なぁ‼」
「秋月型防空駆逐艦、一番艦秋月。ここに推参いたしました。お任せください!」
「おはようございます!航空機搭載給油艦、速吸です!皆さんのサポート、頑張ります‼」
そして、残りはデータにない艦娘であった。
「BonJour。私は自由の国で練習巡洋艦を務めていました、Jeanne Dulkと申します」
Jeanne Dulk
第一次世界大戦の際に装甲巡洋艦を酷使したことで練習用の巡洋艦が不足したフランスが建造した、練習専門の巡洋艦である。
司令塔・弾薬庫以外に防御用の装甲を持っていない上に、航空機射出用のカタパルトも搭載していない。
だがそれでも水上機は運用可能で、クレーンから海面に下ろして運用するという方法を取っていた。
第二次世界大戦ではフランス銀行の金塊をカナダへ届ける輸送任務や、1943年6月以降は自由フランス軍に所属して25ノットというそこそこの船速と練習艦ゆえの人員収容能力を活かした輸送を行っていた。
戦後まで生き延びて解体されているため、天寿を全うできたタイプと言えるだろう。
勇ましい戦乙女の名前の割には地味な戦歴である(フランス艦の戦歴が戦艦ジャン・バールなど一部を除いてほぼ地味というのは言っちゃいけないお約束)。
要目は以下となる。
○ 耐久 35
○ 装甲 8
○ 回避 29
○ 搭載 2
○ 速力 低速
○ 射程 中
○ 火力 15
○ 雷装 12
○ 対空 13
○ 対潜 18
○ 索敵 10
○ 運 30
全体的には香取型に近いくらいの能力である。
装備は以下となる。
○ 15.5cm連装砲(火力+3・命中+2・対空+1)
○ 55cm魚雷発射管(雷装+2・命中+1)
○ 無装備(×2)
しかも輸送任務についていた経歴から、改装すると『大発動艇』・『特大発動艇』系列に加えて甲標的類も運用可能となる。
また、改装すると4スロットになるため低速ながら運用の幅が広がるのも特徴である。
「へぇ~……低速でも色々できるマルチロールタイプなんだな」
「上陸作戦の訓練に付き合ってもらうとよさそうですね」
イラストレーターはCommandant Testeと同じで、声帯の妖精さんはルノーFTに乗るフランス系学校のお嬢様隊長の声で1つ。
続いては陽炎型のような、高校生らしい体躯を持つ少女だった。
「初めまして。私はPolandの駆逐艦、ブリスカヴィツィアと申します」
「ポーランド!?今度は東欧の国か……どんどんグローバル化するな……ウチ」
ブリスカヴィツィア
ポーランドがイギリスのサミュエル・ホワイト社に発注した大型駆逐艦である。
39ノットという高速力と共に12cm単装砲1基、連装砲3基という重武装を備えていたが、残念なことにトップヘビー気味なのが最大の弱点だった。
基本的にはバルト海での運用を想定された作りだったからとも言われている。
二次大戦が開戦した後はイギリスに逃れ姉妹艦のグロムと共に自由ポーランド軍として活動する。
グロムは1940年にノルウェーで戦没しているが、ブリスカヴィツィアは大戦を生き延びている。
しかもその後グディニアにおいて博物館として現存しているという幸運艦でもある。
要目は以下となる。
○ 耐久 16
○ 装甲 6
○ 回避 48
○ 搭載 0
○ 火力 12
○ 雷装 20
○ 対空 15
○ 対潜 18
○ 索敵 6
○ 運 30
装備は以下となる。
○ 12.7cm連装砲
○ 55cm三連装魚雷発射管
改装するとさらに『Bofors 40mm連装機関砲』を持参する。改装により対空の数値は大幅に上昇する。
「へぇ。Queen MerryやTexasみたいに今も残っている船なのかぁ」
「そう考えるとすごいですよね……」
自分は味方の機雷で沈んでいるZ3からすると、そんな強運が羨ましいようだ。
イラストレーターは天霧や狭霧と同じ人で、声帯の妖精さんは天津風や伊26とおなじ人で1つ。
そんな彼女たちを見送ると、入れ替わるように氷川丸が飛び込んできた。
「提督‼フレッチャーさんが目を覚ましました‼」
「おっ、やっとか……ずっと眠ってたからな」
「やっぱり、改装が深かったことが原因でしょうか?」
Z3も鹵獲改装組ではないが、黒野提督によって違法な改装をされた身である。他人事とは思えないのだろう。
「よし、行くか」
音無が医務室へ向かうと、ベッドの上にFletcherが座っていた。だが、その顔はどこか青白い。
「Fletcher。自分がいまどういう状況か、分かるか?」
Fletcherは『コクリ』と頷いたが、その直後にそれまでのことを思い出したらしく、『ひっ』と言いながらガタガタと震え始めた。
音無はFletcherの肩をそっと抱いた。
「あっ、あっ、ひっ……」
「大丈夫。大丈夫だ、Fletcher。ここにお前の敵はいない。それに、お前の痛みを分かる艦娘もいる」
音無はそう言うと、後ろで胸を撫で下ろして笑みを浮かべたSaratogaの顔を見る。Pennsylvaniaの時もSaratogaや長門を引き合いに出したが、今回の場合は彼女でなければ伝わらないことがある。
「Sister Sara?」
「はい、Fletcher。私もあなたと同じように、深海棲艦に改装された艦娘です」
Saratogaは優しく声をかける。その笑顔を見たからか、自分と同じ鹵獲改装組という事実を知って共感したからか、Fletcherは震えが収まっていた。
音無に抱きしめられたことで彼女は少し落ち着いたようだが、それでも息が若干荒くなっている。
「わっ、私、はっ……」
「大丈夫。もう、大丈夫だ」
音無の力強い腕の感触にも関わらず、Fletcherはずっと震えている。
「はぁ、はぁ、はぁ……も、申し訳ありません……」
ようやく顔を上げたFletcherの顔は涙に濡れており、相当な恐怖を味わったことが窺える。
「私は……私はずっと……小鬼を産まされて……」
「あぁ。もう大丈夫だ。お前の体を蝕んでいた深海棲艦の装置はもう取り外した。高速修復材も使ったから、ちゃんと艦娘としての体に戻っているはずだ。多少の後遺症は残るかもしれないが……それでも、あんなおぞましいモノを産み落とすようなことはもう起こらない」
その言葉を聞いてついに緊張の糸が切れてしまったのか、Fletcherは泣き出してしまった。
結局、Fletcherは5分近く泣き続けた。
その間音無はずっと、彼女を抱きしめ続けていた。来ている制服がFletcherの涙ですっかり濡れてしまったが、音無は気にする様子もない。
「ひくっ、ひくっ、ひくっ……す、すみません、提督……服が……」
「気にするな。お前たちが受けた苦しみに比べれば、どうってことはないさ」
すると、Z3がFletcherの手を握ってきた。
「私も、心ない男の悪意によって異常な姿にさせられた。でも、音無提督のお陰で元の艦娘に戻ることができたの。だから、あなたもこれからはこの提督の下で頑張ればいい」
「あなた、ドイツのZ3?」
「そう。船だった時は敵だったけど……これからは、仲間だから」
Z3の言葉に音無も頷く。
「かつては色々なこともあっただろうし、艦娘になってからも辛い……なんていう言葉じゃ表しきれないくらいに酷い目に遭ったと思う。でも、生きることを諦めないでほしい」
「生きることを、諦めない……」
「そうだ。俺にできる限りのことはする。支えられることも、助けてやれることもあるはずだ。だって、俺は提督だからな」
音無がはにかんだ笑顔を見せると、Fletcherは『ぽわっ』と顔を赤くしながらもようやく微笑んだ。
「提督……ありがとうございます。改めまして、Fletcher級駆逐艦ネームシップ、Fletcher、着任しました」
「マザー・フレッチャーだっけ?頼りにしているぞ」
「マザー、ですか?いえいえそんな……皆さんのお役に立てるよう、頑張りますね」
こうして、さらに新たな仲間が加わることになるのだった。
その夜、音無は千歳と大淀、さらにゆりを呼んで話をしていた。
「じゃあ、フレッチャーの後遺症は母乳の分泌だけじゃないんだ?」
「あぁ。俺が感じた限りなんだが……どうやらPT小鬼を産まされていた苗床だったということからか、加賀たち以上に快楽神経が増強されているようだ」
「ようだ、ということは……まだ検証はしていないのですか?」
「そうだ。まぁ、フレッチャーとセックスするようなことにでもなれば分かるかもしれないけど……他にもなにかあるかもしれないな」
「要経過観察、ですね」
Fletcherのことは周辺鎮守府に通達しておく。似たような存在が見つかった場合には音無に報告して欲しいからである。
ボルネオ島の特殊提督三羽烏と銭形提督、それに鷹山・大下両提督であれば、その辺りはすぐに察してくれるだろう。
「皆、今日もお疲れだった。明日もカスガダマ沖で引き続き戦ってもらう。装甲空母鬼はある程度倒すと今度は『姫』に進化するらしいから、十分に注意しないとな」
今の装備と艦娘たちの練度があれば十分太刀打ちできると千歳も大淀も考えているが、音無の慎重さは大事だと思っているのでそれ以上は言わない。
音無は3人と別れるとそのまま寝室へ向かう。
「ふあぁぁ……明日も、頑張らないとな」
はい。ようやくFletcherが目を覚ましました。
そしてそんな彼女の痛みと苦しみを分かってあげられるメンバーがいるのも、この鎮守府の特徴ですね。
次回は6月28日に投稿しようと思います。