※この作品はR-18です。

音無提督の艦娘救済道~ハーレム仕立て   作:笠三和大

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今回は……皆さんが愛しつつも恐れているであろうあの『鯨』の登場です。
ふっふっふ……


強すぎる『鯨』

 伊勢と日向との熱すぎる夜を過ごした音無だったが……翌日、流石に目の下にできた大きなクマを見ると思うところはあった。

「……ははは。もうツッコむ気にもなれねーや」

 音無の両隣りでは伊勢と日向がバランスボール並みに腹を膨れさせた状態でスヤスヤと眠っている。

 2人とも昨日までのギラギラ状態はなくなったようで、顔つきも普段の穏やかなものに戻っていた。

 まぁ、一晩中……文字通り、つい先ほどまで熱々すぎるほどに体を交えていたのだから、当然と言えば当然だろう。

 音無は2人を寝かせたままシャワーを浴びに風呂場へ向かう。

 音を立てずにゆっくりと扉を開けると、音無の想像通りの人物が扉の前で待機していた。

「……毎度思うけど、なんでそんなに分かるんだ、千歳?」

「うふふっ。ちょうど朝日が昇る頃に提督は動き出しますからね♡」

「……それもそうか。悪いけど、背中流してくれるか?」

 いやらしい意味ではなく、本当に少しだけリラックスしたいのだ。ケダモノ状態の伊勢型姉妹とまぐわい続けていたせいで、かなり疲弊したらしい。

「えぇ、構いませんよ」

 その言葉通り、千歳はただ音無をいたわるように体を洗い、側にいてくれるのだった。

 

 

 それから1時間後、風呂から上がって朝食を終えた音無は港の一角で艦娘たちが演習に励んでいる姿を大淀と一緒に見物していた。

 今日は西方海域最後の難所、深海棲艦東洋艦隊の泊地攻撃のための休養日としたのだ。そのため、遠征と近辺の哨戒活動以外は行わないことになっている。

 各艦は砲雷撃戦、航空戦闘に対潜哨戒など、様々な分野の演習を行っている。それぞれのプロフェッショナルや古参メンバーが教官役となっているため、彼らの練度向上にもつながっているのだ。

特に空母たちはやる気十分である。また、今回は支援部隊として陸上戦力も繰り出し、側面から急襲させることも考えている。

 港湾棲姫が鎮座している区域の偵察図面を見て、海への守りは硬いが、陸の守りがそれほど硬くないことを見抜いた音無の計略であった。

「皆頑張ってるなぁ。これなら、今日また何人かケッコンカッコカリできそうだな」

「はい。皆さん提督に認めてほしいと思って頑張っているんですよ。それだけ、提督が魅力的だという証拠です」

「そうかぁ?俺なんてただヤリまくりのサルみたいなもんだと思ってるんだが」

「そんなことありませんよ。少なくとも……私は、提督のことをとても魅力的で素晴らしい方だと思っていますから」

 そう言いつつ、大淀は音無の腕を自分の胸に掻き抱いた。音無もそのようなことをされてなにも思わないわけではない。

 大淀の顔を見ると、大淀が目を閉じて『続き』を待っている。それに応えるべく唇を近づけて……

「……ん?」

 音無が急にピタリと止まったので、大淀が『むぅ』と不機嫌そうに頬を膨らませつつ問いかける。

「提督、どうされました?」

「いや、誰かに見られているような気がして……」

「え?今は皆演習中のはずですけど……」

 2人がキョロキョロと周囲を見渡すが、やはり誰も見ていない。

 その時、音無がなんとなくいった感じで真下を見てみると、海面から潜望鏡が1本突き出ているのが見えた。

「……ま、まさか!」

 直後、黄色く塗られた小型潜水艦が『ザバァ‼』と水しぶきを上げながら浮上し、ハッチが開いた。

そして……ハッチの中が光ると同時に『お約束のテーマ』がどこからともなく流れ出す。

「ターリラーリラー!海を愛し正義を守る‼誰が呼んだかポセイドン!タンスに入れるはタンスにゴン!私はボルネオ島三羽提督が1人、海野土座エ門!お茶目なヤシの木カットがトレードマークの……ドルフィン提督だっ‼」

「相変わらず口上が長いんですよぉ……」

 キレッキレのキメポーズを決めるドルフィン提督こと海野提督に、音無はもうげんなりした顔を見せてツッコミを入れるだけだった。

 一方、大淀は良いムードをぶち壊しにされたことに怒ったのか、涙目になりながら手に持った二式爆雷改二を次々と投げつけ始めた。

「どうしてあなた方はいつもいつも変な所で出てくるんですかー‼このっ、このっ、このーっ‼」

「わーっ、ま、待て待て待つんだ大淀君‼爆雷は、爆雷はイカンだろーっ!やめて、やめてくれーっ‼」

「こうしてやる、こうしてやる、こうしてやるーっ‼」

「お、落ち着け大淀‼一応上官、上官だからっ‼」

 投下された爆雷は潜水艦の近くで次々爆発するが、幸い至近弾ばかりでほとんど損傷はないようだ。音無が大淀を後ろから抑え込んだことで、ようやく大淀は爆雷投下を止めた。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……まったくもうっ‼」

 大淀はすっかり拗ねてしまい、プリプリと怒りながら鎮守府の方へ歩いて行ってしまった。

「やぁすまんすまん。まさか大淀君があそこまで怒るとは思わなくてな……というか音無君、君鋭すぎだろう。水の中からの視線に気付くとは……」

「じろじろ見られてりゃ気付きますって。なんでさっさと出てこなかったんですか?」

「仕方ないだろう。出ようかと思ったら君たちがいきなりラブシーンをおっぱじめるんだから……出るに出られんかったのだ」

 どうやら音無たちにも原因の一端があったようだ。それを言われると音無も流石に赤面するしかない。

「それは失礼を……で、本日はどんな用事ですか?というか、他の3人はどうされたんですか?いつも一緒じゃないですか」

 確かに、いつも一緒のはずの海パン刑事と月光刑事、美茄子刑事の姿が見えない。いつもなら無駄にタイミングを合わせてお約束の口上と共に『参上』するはずだ。

 すると、海野は今までになく顔を引き締めた。

 どうでもいいことだが、その顔があまりに真面目だったので音無は『普段からそういう顔をしてりゃいいのに』ということが頭に浮かんだ。

「実はな……いや、ここではなんだ。すまないが、上がらせてもらっていいかな?」

「え、えぇ。構いませんけど……」

 海野のただならぬ雰囲気に、音無も先程とは全く違う意味で嫌な予感がした。

 

 

 15分後、音無と艦娘を代表して千歳と、今日の秘書艦である鳥海が席に着く……知的っぽい感じの眼鏡キャラがいたのは本当に偶然であった。

控えていた金剛が手際よく紅茶を淹れ、Saratogaが得意のニュージャージーチョコレートケーキを出してくれた……本当は今日のおやつに皆と一緒に食べるつもりだったらしく、阿賀野と赤城がそれを聞いて楽しみにしていたそうだった。

 なので、仕方ないからHornetが2人を始めとするほかの艦娘のためにこれまた得意のアップルパイを焼いてくれることになる。

 せめてもの代わりだ。

「どうぞ、召し上がってください」

「いつもいつも、君の鎮守府ではおいしいものが食べられて嬉しい限りだ……うーん、紅茶もとてもいい香りがする。いい保存をしている証拠だな」

「ありがとうございます。で、本題に入っていいですか?」

 海野は一口ケーキを頬張ってから紅茶を飲み、喉を潤す。そして、その日の本題に入ることにした。

「では話を始めるとしよう。音無君は黒野提督の所にいた艦娘たちがどうなったか、覚えているかな?」

「ウチに移籍した艦娘以外は基本的に周辺鎮守府に着任したって聞きましたけど……他にもなにかあったんですか?」

 海野は今までになく真剣な表情のまま『ウム』と答えた。

「実はあの後、改めて黒野提督の鎮守府を捜索した結果、地下深くに独房のような場所が見つかったんだ」

「独房……まさか、艦娘を監禁していたってことですか?」

「そうだ。そこにいた艦娘は……どうも黒野本人も持てあましていたようで、記録によると一度も出撃したことがなく、着任してすぐに地下に監禁されたらしい」

「なっ……酷すぎる‼」

 控えていたSaratogaも思うところがあるのか、顔を顰めていた。

「まぁ、もちろんひどい話だ。だが、黒野の手記……これは本人がハッキングを恐れて個人的に書き記していた日記のようなんだが、それに書かれていたことだ。『あれはヤバい。ヤバすぎる』と……」

「え、あの黒野がですか!?」

 黒野満雄は短小だったおのれの逸物に自信が持てず、自分を過去にフッたことのある美女のようなタイプの艦娘を、提督権限で逆らえないようにして仲間の艦娘を改装して犯させるという歪んだ性癖の持ち主だった。

 だが、そんな黒野をして『ヤバい』と言わしめた艦娘がいるということに、音無はもちろんだが千歳たちですら驚いていた。

「そんなとんでもない艦娘がいるなんてな……で、その子はどうなったんですか?」

「あぁ。その子はつい先日発見されて大本営で保護された。そうしたら、だな……その……」

 いつもならばスパッと言いそうなドルフィン刑事が、やたら歯切れが悪いのだ。音無も疑問に思うが、なにか理由があるのだろうと思って続きを待つことにした。

「もしかして、その艦娘本人を巡ってトラブルがあったんですか?」

「うむ。黒野を逮捕するのに尽力した君のことを聞いたらしくてな。大本営のトップ……元帥に対して君の元に着任させてくれるように頼んできたんだ」

「あぁ、そういうことでしたか」

 ドルフィン刑事が言い淀んだのも理解できた。あの黒野がヤバいと言って監禁するほどの気性を持つ艦娘がうちに来て、上手くやっていけるかどうか、そもそも音無が受け入れてくれるかどうか自信がなかったのだろう。

 だが、音無からすれば変わった艦娘が来ることくらい、『なにを今更』という感じである。

「お任せください。自慢じゃありませんけど、ウチの鎮守府は鹵獲改装組やパラドックス艦娘を含めて変わり種揃いですから。今更1人や2人、変なのが来たってどうってことはありませんよ」

 堂々と言った音無だが、それでもドルフィン刑事は思うところがあるらしい。

「いや、そう言ってくれるのは嬉しいんだが……果たしてこの続きを聞いてもそう思ってくれるかどうか分からなくてな……」

「え、どういうことですか?」

 ドルフィン刑事は紅茶を一口含むと、ゆっくり息を吐いて再び話始める。

「実を言うと、大本営の決定でその子が君の元に着任する事はもう決定事項になっている。既に籍はこの鎮守府所属ということになっているのだ。そうしたらその子がな、君の元に着任するのに『ワガママを言うのですから、なにか手土産くらい持っていかないと』と言ったんだ」

「へぇ、気の回る子ですねぇ」

 だが、ドルフィン刑事が再び紅茶のカップを持った時、その手が少し震えていた。

「その子はな、そう言うと日々寝る間も惜しんで演習に打ち込み、実戦こそ経験しないままだが練度を最大近くまで上昇させたんだ。そして……」

 ここからが本題だったらしい。だが、ドルフィン刑事の顔色も悪くなっていることに気付いた音無は、ここに来て話が『自分が想定しているよりも深刻なのかもしれない』ということに気付いた。

 だが、もう後戻りはできなかった。

「お、驚かないで聞いてくれよ。その子は練度を最大近くまで向上させたのち、単身航海に出て『わざと』深海棲艦に鹵獲されたんだ」

「……えぇっ!?」

 まさか、自ら鹵獲されに行く艦娘がいるとは流石に想定外であった。千歳やSaratogaもあんぐりと口を開けて驚きの色を隠せない。

「そう。そしてその子曰く、深海棲艦の本拠地に連れて行かれた上で一定の改装を受けたところで……腹の中に隠し持っていた大量の爆弾と弾薬を吐き出して、周辺一帯にばら撒いたんだ」

「ば、爆弾と弾薬を腹の中に!?……た、確かに……正気の沙汰とは思えないですね……」

「そうして混乱させている隙に脱出し、我が方の勢力圏まで自力で航行してきたんだよ……私もその話を大本営から聞かされた時、『そんなバカなことがあるかっ‼』と思わず怒鳴ってしまったほどだった」

 だが、100%の変態おやじと称されても動じない鋼鉄の精神を持つドルフィン刑事がこれほど憔悴しているということは、間違いない事実なのだろう。

「そして彼女のもたらした情報により、深海棲艦の本拠地の詳細な情報が明らかになった。その頃には彼女が君の鎮守府に着任させられることは決定済みだったのだが……このこともあって大本営からは文句なしのゴーサインが出てしまったんだ」

「そうでしたか……じゃ、じゃあその子もウチの伊勢たちみたいに……」

「あぁ。『補給』の能力を持っている。おまけに深海棲艦の改装を受けたまま逃亡していたからか、戦闘力も下手な艦娘より高い……具体的には改装された重巡並みの能力を持っているんだ」

「そりゃ強そうだ……」

「これを聞いても、君はその子を受け入れてくれるかね?いや、大本営が決定してしまった以上、もはや君に選択の余地がないことは重々承知しているのだが……」

 要するに、大本営もあまりに危険なその艦娘を厄介払いしたかったらしい。

 だが、音無の答えは決まっていた。

「構いませんよ。多少変わった子でも、危ない子でも、ウチに来たいっていうのなら俺は歓迎します」

 それを聞いたドルフィン刑事は、やっと肩の荷が降りたと言わんばかりに息を吐いた。

「そうか。そう言ってくれると本当に助かる。では早速、彼女を連れてくるとしよう。あ、彼女は今私の鎮守府で待機してもらっているんだ」

「あ、それで海野提督が来られたんですね」

「まぁな。それでは私は……」

 

 

――コンコンッ――

 

 

「どうした?」

 扉を開けて入ってきたのは、今日の担当としてレーダー監視室にいたIndianapolisだった。

「し、失礼します。水上レーダーに反応がありました。艦娘か深海棲艦に近い『なにか』が南方からこちらに近付いてくるそうです」

「なに!?まさか奇襲か!?」

「か、かもしれません」

「分かった!当直の艦娘たちにすぐ迎撃の準備をさせろ‼俺もすぐ行く‼」

「は、はい!」

 Indianapolisと千歳たちが出ていくと、音無はポカンとしているドルフィン刑事の方を見直した。

「すみません、海野提督。緊急事態が発生しました。また後で!」

 音無も指揮を執るべく駆け出していく。

 一方、ドルフィン刑事は考え込んだ。

「南方から艦娘のような深海棲艦のようななにか……ま、まさか‼」

 彼にはなにか心当たりがあるらしく、彼も太い体を揺すって走り出したのだった。

 

 

 音無が桟橋に向かうと、既に艦娘たちが戦闘態勢を整えていた。

 即応部隊の摩耶、由良、那智、榛名、蒼龍、飛鷹の6名は洋上で待機しており、蒼龍と飛鷹の2名からは直掩機が発艦している。

 他の4名は砲雷撃戦にいつでも移行できるように態勢を整えていた。

 万が一隠れた敵艦隊……特に潜水艦が現れてもいいように、『瑞雲』を始めとする大量の水上機が対潜爆弾を抱えて直掩に当たっている。

 また、艤装を持ち出す暇のなかった天龍、龍田、叢雲などは艤装の一部である刀や薙刀を持って浜辺に立っている。

 皐月に至っては藤巻を見習ったのか、姉たちの前に立ってヤクザよろしく白木の鞘から短刀の刃を覗かせていた。

 彼らはいざとなれば、上陸してくる可能性のある敵に切り込んで白兵戦を展開する気であった。

 そんな彼らを支援するべくHornetたちアメリカ艦娘も自国製の銃器類を引っ張り出している。M2ブローニング重機関銃や、チャーが作らせた分隊支援火器MINIMI、さらに120mm迫撃砲まで持ち出してきた。

さらに妖精さんたちの操る戦車及び基地航空隊が発艦していた。

「皆、状況は?」

 桟橋で艦娘の指揮を執っていた長門と陸奥が答える。

「目標は間もなく目視圏内に入る。艤装展開や武装が間に合わない者は内陸部のトーチカに避難させた。一応、総員白兵戦の用意はさせている」

「万が一射程圏外からの攻撃……戦艦級の大口径砲が来てもいいように、基地航空隊の制空隊は全機、攻撃可能な機体も半数は上げているわ」

 見れば、上空を『一式陸上攻撃機』や『夜間戦闘機 月光』、『局地戦闘機 雷電』や『局地戦闘機 閃電』など、様々な航空機が乱舞している。

 滑走路の横を見れば、ジグザグに掘られた塹壕の中で妖精さんたちが待機している。万が一滑走路が損傷を負った場合、応急修復を行うためだ。

 高射砲、高射機関砲も多数が引き出されていた。見事な即応力である。

「流石はビッグセブン。一部の隙もない指揮だな」

「あの戦車を改造した対空戦車もある。ある程度機動的な戦闘も可能なはずだ」

 見れば、『Tー34』の車体に日本の『25mm単装機銃』を四角に連ねて作ったらしい対空戦車が空にその砲身を向けている。

 まるで、ドイツの対空戦車『ヴィルベルヴィント』のようだ。

「さぁ来い。2度は奇襲を許したが……3度目はない」

「いや、だったら提督は下がれ。なにかあったらどうする気だ」

「無駄よ、長門。こういう時の提督は梃子でも動かない男よ」

「む……ならば鳥海とサラ、提督を頼むぞ」

「分かりました。鳥海、全力でお守りします」

「えぇ。サラが提督には指一本触れさせません」

 全員が固唾を飲んでその『なにか』が現れるのを待った。

 

 

そして15分後、『それ』は姿を現した。

 

 

「……やはり、艦娘か?」

 真っ先に姿を確認した那智の言葉に、由良や摩耶も目を凝らす。

「確かに、そうみたいね。ねっ」

「あの格好……なんだぁ?戦闘艦じゃなさそうだぞ?」

 近づいて来たその艦娘らしい少女――少女と言うにはその豊か過ぎる胸部装甲が猛烈な自己主張をしているのだが――を見ると、確かに戦闘艦とは思えない雰囲気の艤装だった。

 そして、それを見た伊58と伊168が呟く。

「あれって、潜水母艦、でち?」

「え、えぇ。そうみたい、ね」

 その艦娘は最大警戒状態の艦娘たちの中に悠然と入ってくると、キョロキョロと周囲を見回した。

 そして桟橋に立つ音無を見た瞬間、弾けるような笑顔を見せた。

「あぁ、やっと……やっと会えた……」

 いきなりの行動に不審感を抱いた摩耶が『おい!』と声を荒げた。

「そこのお前!官姓名を名乗れ……」

 そう言って肩を掴んだ直後、摩耶は自分の天地がひっくり返るのを感じた。

「(え!?)」

 なにが起こったか理解もできないまま、摩耶は水面に倒れ込んだ。起き上がろうとした時、その艦娘が付きだした連装砲が摩耶の目の前に突き付けられる。

「摩耶さん‼」

 榛名たちが動こうとするが、その艦娘から放たれるオーラが強烈で、一歩でも動けば摩耶になにがあるか分からないということもあって思わず動きを止めてしまった。

「私と提督の対面を邪魔しないでくれませんか?」

「な、なに言ってやがる……」

 摩耶は強い視線で睨みつけるが、相手艦娘の闇をも吸い込むような瞳を見て、思わずたじろいでしまった。

 近い目をするものという意味では龍田がこのような目をすることがあるが、この艦娘の瞳はそれを凌駕するどす黒いオーラなのだ。

 摩耶と榛名、蒼龍は特にこの鎮守府でも古参の、既にケッコンカッコカリをし、120を超える非常に高い練度を誇る艦娘である。その3人が、ほとんど動くことができないという時点で相手の能力の高さがうかがえる。

 すると、ドタドタという足音と共にドルフィン刑事が息を切らせながら走ってきた。

「や、やはりお前だったか……迅鯨!鎮守府で待ってるように言っただろう‼」

 迅鯨と呼ばれた艦娘は微笑むと、ドルフィン刑事に一礼した。

「申し訳ありません。どうしても……どうしても音無提督に1秒でも早くお会いしたかったので、自分で来てしまいました♪」

 その顔は笑っているのだが、艦娘たちにはどこか異様に感じられたらしい。多くの艦娘が『うぅっ……』と怯んでいた。

 だが、迅鯨はそんな視線をものともせずに音無に近付く。

「あなたが音無提督ですね?」

「あぁ。俺が音無だ。君は迅鯨っていうのか?」

「はい。私、迅鯨型潜水母艦一番艦、迅鯨と申します」

 迅鯨はそう言うと音無に急に近付いた。艦娘たちは『あっ!』と叫んで音無を守ろうと駆けだしたが……その直後、迅鯨は音無を力強く抱きしめていた。

「提督、貴方に会えて……よかった。一緒に頑張っていきましょう!」

 それを見た摩耶は、覚えていた違和感の正体に気付いた。

「(そうかアイツ……提督への『想い』が強すぎるんだ……鹵獲改装組の連中ともまた違う……執着に近い感じ、だな……)」

 音無は驚いてこそいたが、いきなり迅鯨を引き剥がすようなことはしなかった。

 

 

しかし、その状態を許さない者もいた。

 千歳が音無と迅鯨の間に割って入ったのである。

 

 

「……なにをするんですか?私と提督の逢瀬を邪魔する気、ですか?」

 直後、迅鯨は目にもとまらぬ速さ――白兵戦を得意とする戦闘艦たちですら捉えるのが難しい速さ――で懐から包丁を引き抜き、千歳に突きつけようとした。

 しかし、千歳も負けていなかった。迅鯨より素早く糸を繰り出すと、迅鯨が包丁を千歳に突きつけようとした一瞬でそれを阻止し、手を縛り上げてしまったのだ。

 さらに千歳は空いて手で懐からワルサーP38を取り出して、逆に迅鯨の顔面に突き付けていた。

「嘘、だろ……?」

「千歳さんも迅鯨も……動きが見えなかった……」

 これまた練度の高いはずのScharnhorstと鈴谷の驚きは、他の艦娘の意見を代弁したようなものであった。

「離してください。あなたになんの権利があって私と提督の仲を邪魔するんですか?なぜ?どうして?」

「ごめんなさい。あなたが提督のことを好きでいてくれることは嬉しいわ。でもね、提督はあなただけのものではないの」

「どういうことですか?」

 千歳は暗い瞳を見せる迅鯨から全く目を逸らすことなく続ける。

「あなたがどれほど提督のことを想っているかは置いておいて、この鎮守府には、提督ナシではいられない艦娘が大勢います。その人たちは皆、とても深く提督のことを愛しています。もちろん、一部には『依存』という一面もあります。でも、それは拭いきれない後遺症や心の傷があってのことです。そんな艦娘たちにとっては提督が絶対に必要で……そして提督にとっても、多くの艦娘が必要なのです」

「あらそうなんですか?だったらこれからは私が提督の心の隙間をお埋めしますよ。だから……他の人たちは黙って見ていてくれませんか?」

 迅鯨は突き付けられた拳銃に怯むこともなく、千歳の拘束を解こうと体を動かしながら隙を伺っているようだった。

 その執念とでも言うべき妄執に、他の艦娘たちは全く動くことができない。

 一方、それでも千歳は譲らなかった。

「ダメです。提督はどれほど望んでも、もう心の底から会いたい人に会うことができないんです。この人の心に刻まれた傷は、たとえどれほどの月日が流れようとも、どれほどの女性からの愛を受け止めようとも、絶対に埋まることはありません」

「そんなことありません。私が絶対に、提督の全てを満たして差し上げます」

「思い上がるのも大概にしなさい。あなたに提督の……音無結弦という人のなにが分かるのかしら?あなたは動くことのできなかった自分を解き放つきっかけを作ってくれたこの人に対して自分を押し付けたいだけ、甘えたいだけよ。そんな艦娘に……この人は指一本触れさせられません」

 徹頭徹尾静かな言い合いだが、それだけに千歳の静かな怒りが伝わってくるようで、皆恐ろしい気持ちでいっぱいだった。

 気の弱い電や潮、羽黒などはもう今にも泣きそうだった。

いや、『一人前のレディー』のはずの暁に至ってはもう泣いているどころかちびっているようだ。股間を押さえている。

さりげなくヴェールヌイが姉の前に立って隠してくれている。流石の気配りである。

 そんな睨み合いを続ける千歳の背後には強大な龍が、迅鯨の背後にはシロナガスクジラのようなオーラが見えているような幻覚があった。

 すると、千歳と迅鯨の間に、神妙な顔の音無が割り込んだ。

「提督……」

 一瞬前の覇気が嘘のように、千歳の顔には音無を心配する様子が見えた。逆に、迅鯨の方は音無が助け舟を出してくれるのではないかと期待が滲み出ている。音無は迅鯨の顔を見ながら、ゆっくりと口を開けた。

「迅鯨、お前にとって俺はなんだ?」

「全てを差し出し尽くせるお方です」

「じゃあ、お前は俺のなにを知っている?」

「えっ?それはもちろん」

「俺はなにが好きだ?俺が掲げるこの鎮守府のモットーはなんだ?そもそも俺はどうしてこの鎮守府に着任した?」

「えっ、えっと……」

 突然質問のマシンガンが押し寄せて、先程まで皆を圧倒していた迅鯨が、まるでなにもできないただの少女のようにたじろいでいる。

「迅鯨。お前が俺を好きだと言ってくれるなら、俺も応えられるように努力したい。でもな、お前が俺のことを知らないで好きだと言ってるなら、お前の言葉に真実は宿らない」

「そ、それは……」

「だから、俺を知るためにこの鎮守府の全てを学べ。ここにいる皆は、俺の気持ちを知り、俺の思う結末を迎えるために、日々の鍛錬と俺との時間を大切にしてくれている。自慢かもしれないが、俺は家族のために金を稼いできたから分かるつもりだ。時に無償はありがたみを覚えるが、いつか相手に生きる気概を無くさせる」

「生きる、気概……」

「お前は俺に無償の愛を与えるというのなら、いつか俺はそれに甘えてお前が望む音無結弦じゃなくなるだろう。それが嫌なら、お前の愛を無償ではなく価値あるものに変えて見せろ。その覚悟を持つことができて、初めてお前は千歳の言葉を否定できる」

「提督……」

 先程の千歳とも違う、静かながら強い意志がこもった言葉。その言葉は迅鯨の心に『すぅっ』と隙間風のようにすんなり入ってきた。

 

 

 そして、不意に微笑んだ。

 

 

「……あぁ、本当に提督はお話通りの方だったのですね……嬉しいです」

「「え?」」

 音無と千歳が驚くが、迅鯨は笑みを崩さない。

「提督は艦娘それぞれのことを想い、尊重する……とても素晴らしい、優しく強いお方だと聞いていました。本当ならば、私だけを見てほしいというところです。でも、千歳さんの言葉を聞き、提督のお言葉を聞いて思いました。『私はまだ、この人のことを全然分かっていなかった』、『だからこそ、もっと知りたい。愛したい』と……」

「迅鯨……」

 ようやく迅鯨が力を抜いたことを感じた千歳が、糸を緩めて束縛を解く。

「ワガママを言って申し訳ありませんでした。改めまして迅鯨、着任いたします」

 この言葉を聞いて千歳も、ようやく穏やかな笑みを見せた。どうやら、今の音無と艦娘たちの関係を迅鯨なりに納得してくれたらしい。

「あぁ、よろしく頼むよ」

「それと、着任早々で申し訳ないのですが……」

「あぁ、そういえば練度が最大近くになっているんだっけ?」

「はい。ですので、その……」

 その続きを察した摩耶が流石に黙っていられなかったのか、大声を上げた。

「ちょっと待てよ‼まさか、会って間もないのにケッコンカッコカリしようってのかぁ!?いくらなんでも虫が良すぎるってもんだろうがよぉ‼」

 先程脅されて委縮してしまった自分のことを思い出したからか、余計にキツイ口調になってしまっているようだ。

 榛名が『摩耶さん』と止めようとするが、摩耶も一歩も引く気配がない。

「認めねーぞ‼この指輪はな、あたしらが提督ともっと深く繋がりたいって、ずっと一緒にいてそう思ったからこそ少しでも早くこの指輪に見合う艦娘になるって決めたから得られたモノなんだ‼それを……それをぽっと出のヤツがしゃしゃり出ていきなり指輪だぁ!?ふざけんじゃねーぞ‼」

 だが、摩耶の怒りももっともである。実際、摩耶以外でも瑞鶴や如月、大井や意外にも扶桑と山城が摩耶と同じような顔をしていた。

「摩耶さんの言葉を全て肯定する気じゃないけど、あたしも同意見な部分があるわ。思い上がるのも大概にしてほしいわね」

「ったく、新入りが生意気言ってんじゃないわよ」

「うぉ、大井っちが久しぶりにキレてる……」

「でも、残念ですが摩耶さんの言うことも理解できます」

「えぇ。私も姉様と同じです。私は姉さまのことを一番に愛しているつもりですが……そんな私たちのことを温かく見守ってくれる提督のことも、強く信頼しているつもりですから」

「そうよねぇ。『いくらなんでも』っていう摩耶さんの言葉、分かる気がするわぁ」

 他の艦娘たちはあまりのことにオロオロしている者ばかりである。榛名も思うところはあるようだが、ここまで他の艦娘と険悪になったことがないせいかどう止めたらいいのか分からないようだ。

 音無と千歳も流石にここまで来るとどのように止めたものかと悩んでしまう。

 すると、意外な所から声が上がった。誰かと思えば、事態をずっと黙って見守っていたゆりであった。

「だったら、迅鯨がもたらしたっていう深海棲艦の本拠地に関する情報を聞くっていうのはどう?内容次第では、それは皆がこれまで音無君のためにって頑張ってきたことと同等水準のネタかもしれないわよ?」

「確かにそうだよな。艦娘は深海棲艦を駆逐して平和な海を取り戻すための存在なんだから、敵根拠地の情報が明瞭になるっていうのはとても大きな話だと思うぜ」

 ゆりの言葉に日向が続き、他の戦線メンバーや一部の艦娘も頷いた。

 それを聞いた千歳が『分かりました』と引き継いだ。

「迅鯨さん。あなたの得た情報を、今ここで開示して下さい。その内容次第では、皆さんも認めてくれるかもしれません」

 深海棲艦の本拠地の場所は今まで明らかになっていなかった。神出鬼没の深海棲艦がどこから来るのか、これまでは誰にも捜索できなかったのである。

「……分かりました。ではお話ししましょう。第一に、深海棲艦の本拠地の正体は……」

 迅鯨が瞳を閉じて大きく息深呼吸をして、そして再び開く。

 

 

「ハワイ諸島のオアフ島、因縁の地です」

 

 

 その言葉を聞いた艦娘たち……特に、一航戦と二航戦の面々は驚いた。

「それって、まさか……」

「いえ、納得と言えば納得、ですね」

「でも、それって……」

「ヤバくない?」

 迅鯨は再び笑みを浮かべて続けた。

 

 

「そうです。場所はオアフ島、パールハーバー……我が連合艦隊が戦火の口火を切った場所……真珠湾です」

 驚愕の事実。それは、艦娘全員を驚かせるのには十分すぎた。




次回は、迅鯨になにがあったのかを語ります。
ちょっとえっちです
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