私の名は迅鯨。迅鯨型潜水母艦の1番艦です。
私がいつ、艦娘になったのかという記憶はありません。
気付いた時には海の上を航行して、『私は迅鯨』という感覚になっていました。
ある時私は、黒野提督の艦隊に出会い、彼の元に着任しました。
しかし私は、黒野提督に『危険分子』と判断されてしまい、彼の鎮守府の地下にある独房に収監されてしまいました。
まぁ、彼の元に着任した艦娘たちが異常な目に遭わされていたことを考えると、監禁とどちらがマシだったのかと言うところは非常に難しいのですが……。
それから何年にも渡って、私は死なない程度に生かされる、生きながらにして死んでいるような日々を過ごしていました。
そんなある日、思わぬ転機が訪れました。
黒野提督が各地の憲兵を兼ねた提督たち――見た目は『あれ』でも、歴とした元エリート警察官だそうですが――に逮捕され、彼の元で虐げられていた艦娘たちもそのほぼ全てが解放されたのです。
私も時間がかかりましたが、黒野提督の自供によって見つけてもらい、ようやく解放してもらいました。
その時私は、黒野提督逮捕のきっかけを作った人の話を聞きました。
その人の名前は、音無結弦。
この人が変態提督とあぶない提督たちを動かして黒野提督を罠に嵌め、逮捕するきっかけを作ったというのです。
その話は私の担当になった海野提督……ドルフィン刑事から聞きました。
「彼は普通ならば想像もできないよう大胆かつ繊細な計画を立て、さらに迫真の演技で黒野を欺き、彼に大きな隙を作らせることに成功した。私は長く警察官をやっているが、彼ほどの人物を私は他に見たことがない」
海野提督を始めとする憲兵提督たちは、変態・変人であることを除けば優秀且つ人格者と言ってもいい方でした。そんな人が手放しに褒め称える音無結弦という人物……私はその時点で、とても強い興味を抱きました。
その後、音無結弦を知る人たち……汚野提督、月光提督、美茄子提督などの面識ある人たちに話を聞き、増々彼に会いたい、彼の元に着任したいと思うようになりました。
音無提督が艦娘をとても愛する人であると聞き、黒野提督と違って私のことも愛してくれるのではないかと思いました。
だからこそ、彼の元に着任して私を抱いて欲しい。そう願うようになりました。
その旨を、海野提督を通じて大本営の元帥に相談したところ、『別に構わない』と許可が出ました。
正確には、大本営でも私の処遇を決めかねていたようで厄介払いの意味合いもあったようでした。
それでもいい。音無提督のことをもっと知りたい。触れあいたい。私の中で、その感情が日に日に強くなっていきました。
しかし、私はふと思いました。
艦娘だからと言って、そして大本営の命令だからと言って、いきなり押しかけても迷惑をかけるだけだろう、と考えたのです。
それに、どうせ着任するならば他の艦娘たちよりも深く愛して欲しい。
それならば、なにか手土産を……それも、古参の艦娘たちをも『あっ』と言わせるほどの戦果をもたらす必要があると思いました。
そんな時、東方を偵察に行った艦隊から『深海棲艦の大群に襲われた』、『空母や補給艦の艦娘が攫われそうになった』という話を聞き、私はあることを思い出しました。
それはタウイタウイ島の先任提督の艦娘の何人かが鹵獲された時、北東の方へ連れて行かれる姿を連合軍の偵察機が目撃した、というものでした。
それを聞いて私はさらに思いました。
太平洋に、深海棲艦にとって重要ななにかがあるのではないのか、と。
事実、最初の深海棲艦が確認されたのは、日本とアメリカでは太平洋側だったということを私は調べて知りました。
しかしそこからあっという間に世界中に広がって、いつの間にか各地で神出鬼没に出現するようになったことから、多くの軍人、専門家たちもどこが深海棲艦の本拠地なのか見当がつかないようでした。
深海棲艦の中にはかつて沈んだ船の魂を持っている個体もいるようで、大西洋側でもよく見られました。
そして、太平洋戦争以前の戦い……具体的にはラプラタ沖海戦やドイツ・イギリス海軍の戦いで沈んだ船の方が真珠湾攻撃よりも時系列的には先だったから、それもあって多くの専門家たちも頭を悩ませたのです。
それでも私は、深海棲艦の本拠地が太平洋側のどこか、それも島嶼部にあるのではないかと考えました。
恐らく、各鎮守府の組織的な行動もあって追い詰められている深海棲艦は様々な手段を用いて少しでも優位に立とうとしているのだろうと想像をしました。
そう思っていた時、太平洋の島嶼部で、深海棲艦の現れるような強い思念を宿しそうな島で、深海棲艦出没の当初から連絡が取れなくなっていた場所のことを思い出したのです。
それが、ハワイ諸島でした。
そこで私は、常識外れの作戦を考えました。
数日後、私は艤装を展開して太平洋を航行していました。
主砲と機銃の弾薬は一切持ち込まず、一部を除いて全て航行用の燃料に回しました。
想定している『とある目的』のためにお腹を文字通りいっぱいの状態にしているため、足もかなり重いです。
いつ吐くか、漏れ出すか、分かったものではありませんでした。
でも、私の想像が正しければ、きっと……そう思っていました。
ハワイ諸島西部沖合200km、そのポイントを偵察していた時に艦隊が深海棲艦に襲われたと聞いていたので、その付近をウロウロしていました。
そうしたら……案の定、私が想像していた通りでした。
多数の深海棲艦がいきなり現れ、私を取り囲みました。
私は補給艦。つまり、鹵獲改装するにはうってつけの艦種でした。
予想通り、彼らは私を拘束すると装備していた艤装を引き剥がして私を連れて行きました。そしてこれも想像通り、場所はそれなりに近いミッドウェー諸島ではなく、ハワイ諸島の方でした。
私はハワイ諸島のオアフ島に連れて行かれました。かつて観光客で賑わっていたであろう美しい浜辺はどこにもなく、記念艦として保管されていたはずの戦艦『Missouri』の姿もありませんでした。
空は固まった血液のようなドス黒い雲に覆われており、この世の全てを呪うかのような雰囲気を漂わせていました。
ゲームやアニメのようなサブカルチャーに詳しい方ならば『魔王城のお膝元みたいな雰囲気だ』と称するかもしれません。
島の周辺は空母棲姫や戦艦棲姫と言った強大な力を持つ姫級……それもかなり強化されたタイプがウロウロしていました。
中には、重巡棲姫が軽巡棲姫に駆逐棲姫4体を連れている、或いは空母棲姫と戦艦棲姫がコンビを組んでいるという地獄のような光景まで広がっていました。
私は島の奥へ連れて行かれると、黒い靄のかかった人型の『なにか』が蠢いていました。それらは深海棲艦の艤装を調整し、海へ送り出していました。
そして彼らは私をドックに据え付けると、私を深海棲艦向けの補給艦に改装する手術を開始しました。
言葉は分かりませんでしたが、彼らは彼らで必要なことだからやっている、という感じでした。
私の肛門からチューブのようなモノがねじ込まれ、私の腸の中を犯していきました。
――じゅぶぶっ……――
「うぅぅっ……こ、これが、鹵獲改装っ……」
直腸と結腸の中間あたりで止まり、そこから端末が少しずつ体の中に侵蝕してくるのが分かりました。
頭の中も染められそうな異様な感触。
大本営にあった情報から、ここで『精神も抑え込む端末を接続されて深海棲艦側の補給艦とする、ついでに艦娘の姿を残した肉の盾とするという悪辣な手術である』と書かれていました。
まぁ、大腸まで入ってこなかったのは幸いでした。こちらの仕掛けがバレる恐れがあったので、事前情報が正しかったのは本当にありがたかったです。
そんなことを考えている間に、乳房にも端末が挿し込まれ、補給燃料を分泌できるように改装されました。
元々艦娘の中でも大きめだった私の乳房はさらに大きくなり、気付いた時にはもうパンパンに張り詰めていました。
補給液である母乳で満たされたのでしょう。結果、フワフワと柔らかかった私の乳房が、重力に逆らったことで乳首がツンと上を向いてしまう程になっていました。
段々と体のあちこちを改装されていく感触。でも、私の心はまだ全然平気でした。
私の精神を先に汚染しなかったのは、私の変貌する体を見せつけることで私の心をへし折ろうという魂胆だったのでしょう。
しかし、私はただひたすらに隙を伺っていました。
深海棲艦の技術屋たちが少し目を離した隙に、私は腹の中に仕込んでおいたもの……大量の爆薬を吐き出しました。
補給艦として元々許容量の大きな内臓を持っていた私でしたが、流石に食べ物以外のモノを、しかも長時間お腹に詰め込んでおくのは流石に苦しかったです。
でも、これも全ては音無提督に認めてもらい、一員としていただくためと思い、その一瞬の隙を見逃さなかったのです。
私は艦娘のパワーを用いて胃袋から爆薬を持ち上げて口の中で細かくちぎり、吐き出しながら壁に叩きつけたのです。
爆薬はその衝撃を合図として、周囲を巻き込む大爆発を起こしました。
これは創作上の武器や道具を現実にしたいという変わり者の技術者たちが作り出した、『ガムの中』に仕込まれた超高性能爆薬です。少量でも噛めば噛むほど威力が増すという、あるアニメに登場したような使い道の難しい存在……どちらかというと『ガラクタ』のような代物でした。
ですが、私はそれを使わせてもらうことにしたのです。
幸いそのガム爆弾は、艦娘の消化能力を以てしても消化できない素材でできていたため、しっかり噛んでから飲み込み、文字通り『たっぷり』と腹の中に蓄えておいたのです。
その衝撃波は強烈で、私の拘束具も一緒に破損しました。
その騒ぎに乗じて私は走り、脱出しました……ついでに、腹の中に残しておいた爆薬を次々吐き出して施設を崩壊させたのはちょっとやり過ぎだったかもしれませんが。
その際、私を追いかけようとした深海棲艦たちを最奥の間にいた『なにか』が止めていました。
チラリと見たその姿は、少なくとも『上半身は』人間の女性のように見えました。
しかしその下半身は肉塊に覆われており、間違いなく『異形』と呼ぶにふさわしいものでした。その下半身からは多数の深海棲艦が艤装を付けない姿で産み落とされていたのです。
駆逐艦や重巡どころか、戦艦や空母までもそこから産まれていました。
あれこそが、深海棲艦の母体と言うべきか親玉と言うべき存在だと私は推測しました。
そう判断した私はそのまま奴らが保管していた艤装を奪って展開し、発揮できる全速力で脱出しました。
相手の慢心だったのか、それとも私がまだなにかを持っているのかと警戒したのかは分かりませんでしたが、お陰で逃げることができました。
海へ出て逃走する途中、私は念を入れて……少々、いえかなり品のない話ですが、これまた大腸の中に溜め込んでおいた機雷を肛門からウンチみたいにプリプリとひり出して投下しておきました。
そう、私は爆薬と機雷を胃袋と腸に詰め込んでいたせいで、改装もされていないのにお腹がパンパンに膨らんでいたのです。
吐くか漏れるかということもそうですが、お腹が破裂するかもしれない状態という点では本当にギリギリの作戦でした……これを作戦と言っていいのかどうかは分かりません。
後から考えると、作戦を考えるようなタイプの人たちからすると『穴だらけの作戦だろう』と言われかねませんでした……まぁ、成功したので結果オーライです。
そんなあからさまに変な私を、深海棲艦側も特に怪しむ様子がなかったのは幸いでした。いえ、彼らにそんな感情があるのかどうかも怪しいところですが……。
本来私は潜水母艦ですが、潜水艦の中には機雷敷設の任に就く艦もありました。特に欧州の方では、Uボートが大英帝国の港湾設備や河口近くに大量の機雷を潜水艦で敷設したそうです。そうなれば、そんな子たちのために補給をするのも潜水母艦の役目です。
それもあって私は機雷を腸詰め状態にしておけたのです……無茶苦茶と言って下さっていいです。全ては音無提督の下に着任しても恥ずかしくない戦果を得るためです。
無理矢理の投下・敷設ではありましたが、全部吐き出してひり出したお陰でお腹の中は空っぽ。完全にスッキリしていました。
ある意味、異物を大量にお腹に詰め込んでいたからこそ精神汚染される暇もなかったのかもしれません。
そんなことは無いかもしれませんが……まぁ、細かいことは良いでしょう。
それはさておき。
私が投下した機雷に触れた敵艦の中には中大破する者もあったようで、私を追撃する様子はありませんでした。
相手の航空機による攻撃を警戒していたのですが、その時間は夜になった上、私が航行し始めた直後に急な大雨が降ったのも私に幸いしました。
いえ、実を言えば天気予報を事前に、入念に確認したことである程度予測を付けていたというのもありましたが……お陰で私は味方の勢力圏内であるミッドウェー諸島まで逃れることができました。
そこで私が見たことを報告し、改めて大本営に戻りました。
大本営も私のやったことには驚きましたが、報告にはそれ以上の驚きを見せました。
大本営でもハワイ諸島を始めとする周辺の島嶼部に深海棲艦の本拠地が存在するのではないかと考えてはいたようですが、正確な場所までは分かっていませんでした。
そんな時に私が敵中枢に関する情報をもたらしたことで、大本営も今後の反抗作戦に関する方針が固まったようでした。
そのことを称賛された私は、改めて音無提督のタウイタウイ島鎮守府に配属してもらえることになりました。
事前に大本営が配置を決定して籍を入れてくれたからには、私がやることは決まっていました。
音無提督の下には非常に高い練度の艦娘たちが揃っており、中にはこれまで各国でも確認できなかった艦娘たちも多数現れていると言います。
ならば、私も着任してすぐに即戦力となれるような存在でなければならないと思いました。
そこで私は大本営の許可を得て単独で砲撃、対空戦闘などの様々な演習に励みました。
しばらく時間を要しましたが、短期間で集中的に演習を行った結果、私は瞬く間に練度が向上しました。
どうやらこれは、深海棲艦に鹵獲改装されたのも影響していたようです。
さらに敵本拠地の重要な情報をもたらした功績から、大本営直属の技術者たちによって艤装及び機関などの調整を施してもらい、私向けの特別なものを用意してもらいました。
元帥曰く、『君が命を賭けて、その身の健常性と引き換えにもたらした情報は砂漠における慈雨である。それに報いるのは当然のことだ』とのことでした。
やはり、努力する者には相応の成果が出るのです。
結果、私の主兵装は大幅に改良された『14cm連装砲改二』となりました。これは元来の14cm砲が50口径だったところを大幅に延長して60口径としたものです。
これにより初速が上がるのみならず射程が大幅に延伸されたことによって最大仰角状態では長射程となり、しかも中射程であれば命中精度が大幅に向上するというおまけつきでした。
弾速が上がるということは当然命中した際の加速度も高いため、威力も向上します。いくら長砲身化しても散布界が荒くなってしまっては意味がないのですが、そこは砲填兵器の鬼、ドイツのクルップ社の記憶を持つ技術者妖精さんたちが調整を施してくれたおかげで、最大射程近辺でもかなり散布界を狭めることに成功しました。
これをタウイタウイ島鎮守府でも実現できれば、巡洋艦クラスの戦闘力は大幅に向上するでしょう。
さらに対空用の機関砲として25mm三連装機銃の集中配備型を、さらに14号対空電探改二という強力な装備までいただきました。
また、本来の私の主機関の馬力では高速力を発揮できなかったのですが、ドイツの技術者と一緒に調整を施してくれたおかげで、私の速力は22ノットから29ノットという高速まで上昇しました。
もちろん、機関の馬力上昇だけではなく、最新鋭のディーゼルエンジンの採用や船体の形状の改良なども行いました。
さらに元帥は『音無提督の力になるだろう』と言って他にも試験的な兵装の設計図などを持たせてくれました。
中には噴進式戦闘機や噴進機構を用いた兵器の設計図もありました。噴進機構、つまりロケット兵器というわけです。
かつての第三帝国が保有していた『Ⅴ2ロケット』のような、戦略兵器に近いものを艦娘の装備で作れれば、敵泊地に対する先制攻撃にも役立つでしょう。
何故大本営が今までその存在を隠匿していたのかは分かりませんが……まぁ、私にとってはどうでもいいことです。
これがあれば、さらに音無提督の力は増すでしょう。
それを携え、私はひとまずボルネオ島の海野提督の下へ送られました。
彼が潜水艦たちを従える提督だからというのもあったのでしょう。
音無提督が西方海域の攻略に乗り出したため、その解放が終わってから私を連れて行くと言ってくれたためです。
でも、私はそれまでずっと我慢をしていた反動からか、とにかく音無提督に会いたくて仕方がなくなってしまいました。
それでも西方海域の解放が終わるまでは、となんとか堪えていました。それまでは、毎晩自分を慰めるばかりでとても切ない日々でした。
そんな時、音無提督が装甲空母姫を倒した、しかもそれまで確認されていなかった戦艦棲鬼までも打倒し、残すは東洋艦隊の泊地だけとなったと聞きました。
事実上西方海域は『ほぼ』解放されたため、自ら音無提督に会いに行くことにしました。
海野提督にも内緒だったのは、音無提督をより驚かせたかったから。それによって、私を強く印象付けたかったのです。
まぁ、お陰でかなり海野提督には驚かれてしまいましたが。
「……ということです」
「……マジ?なんか色々ツッコミどころ満載な感じだけど……迅鯨が色々な思いを持ってウチに来てくれたことはよく分かったよ」
音無がチラリと後方を確認すると、千歳を始めとした艦娘たちが真っ青な顔になっていた。
先程まで強気な態度で噛みついていた摩耶たちですら、その顔色は悪かった。
「まさかとはと思いましたが……でも、納得と言えば納得ですね」
「真珠湾、か。くそったれ、戦果があまりに栄光的だっただけに、後々のヤなことばかりが思い出されるぜ」
しかし、これは大きな情報であった。ドルフィン刑事も事前に聞いていたようだが、それでも渋い顔をしていた。
「私も最初は驚いた。かつて帝国海軍の『栄光の始まり』の場所であり『凋落への第一歩』でもあった場所が、深海棲艦の本拠地だったとは……」
「でも、これで今後の方針は明らかになりました。我々が目標とするべき場所が判明した……そうですよね」
それを聞いた千歳は大きく頷いた。そして、摩耶たちも青い顔をしつつ頷いた。
「これほどの情報……確かに、迅鯨さんの成し遂げたことは尋常ではありません。それは認めなければいけません。そうでしょう?皆さん」
千歳の言葉には重みがあり、鳳翔や榛名たちも反論はない。
「Fletcherでは小鬼くらいしか生ませることができなかった。だけど、鬼や姫級の深海棲艦を産むような母体があるとしたら、その比じゃないくらい重要な存在だと判断するべきだ。決めつけるのは危険だけど……その母体を倒せれば他の深海棲艦も消える、可能性がある」
その言葉にこれまでのデータを確認していた鳥海、霧島、大淀が頷く。
「あり得ないとは言い切れません。海域を支配する首魁の深海棲艦が滅ぼされる、或いは撤退する状態となった場合、その海域の深海棲艦のほとんどが消滅します」
「少なくとも、解放した海域に出現する深海棲艦のほとんどは偵察のための雑魚ばかりになりますね。だとすれば、提督の立てた仮説も十分にあり得ます」
「これまで掃討艦隊として出撃させていた艦隊もほとんどは雑魚としか交戦していませんから、既存のデータ通りということであれば十分可能性はありますね」
「どうでもいいけど大淀たち、ここぞとばかりに知的っぽいキャラ出してきたな……」
「決まっているじゃないですか、日向(ひなた)さん。眼鏡とは……知性の証なのですよ」
高松が眼鏡を『キラリ』と陽光に反射させると、竹山も『その通り』と言わんばかりに頷いた。
彼らもSSSの眼鏡キャラである……ただし、どちらも間違いなく『アホ』だが。
ちなみに艦娘の世界において、『眼鏡』と『知性』と書いて『筋力』と『物理』というイメージが強いのだが、これは全て、眼鏡系の艦娘の性格、戦果などの由来からか、脳筋キャラがほとんどというところからである。
大淀もああ見えて米軍の泊地に艦砲射撃を敢行したことがあり、霧島、鳥海は言わずもがなである。
まぁ、そう述べている高松自身も眼鏡で知的に見せかけた肉体派の『着痩せするマッチョ』だったりするので、ある意味彼女たちとは相性がいいのかもしれない。
「しかし、だとすると……これから我々はハワイ方面へ進撃する方針を固める、ということですか?」
千歳が尋ねると、音無は首を横に振った。
「いや、決めつけるのは早計だ。そもそも、東洋艦隊や南方海域の敵も残っている。後方に憂いを残したままではいけないからな。それらを排除してからになる」
南方海域には最大クラスの難敵、南方棲戦姫が、さらにミッドウェー諸島付近の中部海域には空母棲姫や駆逐棲姫、さらに離島棲姫と集積地棲姫と姫級が多数存在している。それを放置しておいては色々とマズい。
「まぁ、今の音無君の所なら南方棲戦姫だろうが空母棲姫だろうがふっとばしそうな気がするな。今更ながら君のところの艦娘たちの能力の高さは尋常じゃないからな~……」
ドルフィン刑事の呆れ顔に音無を始めとする艦娘とSSSメンバーは『そらしっ』と目を逸らすしかない。
変態に呆れられるという時点で色々ぶっ飛んでいるのは間違いない。
「だとすれば、迅鯨の情報を基にすると……ハワイ方面に進撃するための準備を今の内に進めないといけないな。揚陸艦や大発動艇の類ももっと揃えないと」
「まだ増やす気ですか!?」
千歳が音無の慎重ぶりに珍しく驚くが、戦線メンバーも『うんうん』と頷いている。
「そういうことなら、大発運べる一等輸送艦もっと作っとかないとな。あ、二等輸送艦も作っておくから、強襲揚陸はやりやすくしておくよ」
「頼むぜ、工廠長殿」
「じゃ、俺らも上陸を支援するために、白兵戦の訓練でもしますかね」
「幸いハワイはタウイタウイと同じ『島』という環境ですから、訓練には最適ですね」
「うむ。今こそ、我ら戦線の本当の力を見せる時だな」
「Go To The Oahu Island」
日向や松下五段たちもやる気十分らしく、それぞれできる準備を始めるようだ。
迅鯨は音無に関する情報はある程度得ていたようだが、死んだ世界戦線のことについてはあまり分かっていなかったらしくポカンとしている。
「気にするな迅鯨。俺たちはいわゆる『アホの集団』だからな」
「それ言っちまうか?音無さんよ~」
日向が音無の首に腕を回して『うりうり~』と絡んでくるが、音無も『いいだろ~、事実なんだから』と楽しげに返していた。
直井も側で『音無さんのおっしゃる通りだ、愚民ども』といつもの調子である。
そんな音無たちのじゃれ合いを見ていた迅鯨は、なんとなく胸が暖かくなるような錯覚を覚えていた。
すると、千歳が彼女の肩に手を乗せる。
「変な人たちでしょう?でも、私たちにとっては、最高の提督と、その仲間たちなの。あなたもこれからは、その一員ですからね♪」
「仲間……そう、ですよね。ありがとうございます」
迅鯨は改めて音無とチャーに大本営から持たされたあれこれを見せた。
「これは……『Fー86D』セイバードッグの設計図だと!?バカな!こんな装備は艦これにないはず‼こっちはイギリスの『シーヴェノム』の設計図じゃねぇか‼あっ、『Aー4』スカイホークの設計図もある‼」
「こっちは対艦誘導弾の……ハープーンって読むのか?」
「あぁ、まだ射程50kmの初期型だが……こんなものまで……」
いったい大本営が音無たちになにをさせようとしているのか、なにを期待しているのかよく分からない、近代的な代物が多い。
特にジェット艦載機は既存の空母ではほぼ使用不可能である。
加賀改二護や翔鶴型の改二甲、さらにEssex級航空母艦などであれば使用可能だろうが、既存航空母艦のほぼ全てを時代遅れにしかねない装備品であった。
「……だからこいつも入ってるのか。これだけ随分と進んだ技術じゃねーか」
「え、この飛行機か?なんて言うんだよ」
チャーが見せたのは、『SeaHarrier』と書かれた設計図だった。
「米英軍で採用された短距離離陸及び垂直着陸を可能としたジェット戦闘機、『AVー8』シーハリアーだ。これがあれば、蒼龍たち中型航空母艦でも甲板を改装すれば十分に使えるぞ……」
「色々ツッコミどころはあるけど、大本営がくれるって言うならもらっておこうじゃないのよ。使えるものは存分に使わないとね~。おーっほっほっほっほっほっ♪」
「ゆりっぺさんはやはり悪魔のような人だ……‼」
高松の言葉に他の戦線メンバーも『うんうん』と頷く。
「では海野提督。迅鯨の身柄、確かに預かりました」
「うむ。こちらもちゃんと引き渡せてよかったよ。迅鯨、達者でな」
「はい。海野提督もお世話になりました。汚野提督たちにもどうぞよろしくお伝えください」
「あぁ、もちろんだ。では私はこれで失礼するよ。ドルフィンたち、帰るぞ~」
――ポッポーッ――
ドルフィン刑事がパイプを吹かすと、どこからともなく現れたイルカたちがまるで護衛のように潜水艦の周りを取り囲んできた。
「では今日の所はこれにて、さらばだ‼」
こうして、騒がしい変態おやじは帰っていった。
その日の夜は重要な情報を得られたことと迅鯨の着任祝いということで、皆で大量の料理を作ることになった。
間宮と伊良子に加えて、艦娘たちもそれぞれ得意分野で手伝っている。
「では皆。改めて深海棲艦の本拠地が判明し、俺たちにもその情報がもたらされた。いずれ起こるであろう最後の決戦に向けて、皆も着実に練度を上げて欲しい。それでは……この海に平和と自由を‼」
「「「この海に平和と自由を‼」」」
艦娘たちが乾杯して食事を始めると、迅鯨も潜水母艦というには多めの食事をモリモリと食べ始めた。
「迅鯨さんって結構食べるんですね~」
「大鯨ちゃんより食べるっぽい?」
吹雪と夕立に効かれた迅鯨は笑って答える。
「鹵獲改装の影響ですよ。母乳の補充もあっていっぱい食べないと持たないんです。あぁ……今から夜戦が楽しみです♪」
「あ、そ、そうです、か……」
吹雪が顔を赤くして俯くと、夕立も『すごい会話っぽい~……』と同じように顔を赤くしていた。
流石に鹵獲改装組としては少なめな伊勢たちよりもさらに少ないとはいえ、それでも下手な戦艦・空母より多めの食事量を余裕で平らげているのだ。
驚くなという方に無理がある。
「じゃあ迅鯨さんは今夜司令官さんとセックスするんですか?」
「そうですねぇ……提督が『いい』と言ってくれれば……♡」
少なくとも、本人はすっかりやる気である。補給担当でもある鹵獲改装艦娘ということならば長時間の『夜戦』も可能だ。
「だったらぁ、他にも2人くらいいた方がより分散されて長時間相手してもらえるわよぉ」
如月の言葉に迅鯨が考えこむ。すると、『ズイ』と身を乗り出してきた艦娘がいた。
誰あろう、金剛であった。
「だったら、いよいよワタシも夜戦デビューデース!」
直後、比叡が『ひえー!』とムンクの叫びのような顔をして絶叫した。
だが、音無と関係を持ちたい者はこれでとどまらない。
「もし提督さえご迷惑でなければ……夜戦、お付き合いしたいですね」
そしてとどめは艦娘としては最も建造された年代の古い金剛と、全ての空母の母とも言われる鳳翔だったのだ。
皆の視線が音無の方に集中する。
「……よし。今夜は3人とするか」
「Oh!やりました~‼」
「うふふっ、よろしくお願いしますね♪」
はい。次回は迅鯨を交えた大規模夜戦です。
さーてどうなることやら……