港湾棲姫を倒して西方海域を完全に開放した音無たちは、ここでほんの僅かだが小休止することにした。
それは、以前岩沢から頼まれていたライブを開催すると同時に、普段頑張ってくれているみんなで楽しめる慰労会をしようということであった。
色々なメンバーで準備を進めて、料理や出し物を決める。
特に岩沢は久しぶりに思い切り歌えるということもあってか、かなりノリノリで準備を進めているのであった。
「あ~、そこ!そのアンプはもうちょっと右にずらして!そう、そうするともっと音が響くから‼あ、そっちのマイクはもう少し手前に!」
とまぁ、こんな感じでライブに関してずっと陣頭指揮を執っているのだ。
そして相方のひさ子もやたらと乗り気で、岩沢のフォローをしつつあちこちを駆け回っていた。
また、艦娘たちも自分の得意な料理を作る、或いは歌の練習をするなど、慰労会に向けて頑張っていた。
その結果、港湾棲姫を倒してから2週間ほどで全ての準備が整ったのだった。
そして迎えた慰労会当日。
夕方4時から、音無を囲んで一同が集う。
「皆、出撃、遠征、演習、掃討と休みなく働いてもらって、本当にありがとう。大本営曰く、俺たちの周辺の半分以上の海域を解放することに成功したそうだ。これで今まで抑圧されていた人やモノの流れが復活して、世界が動き出す」
残るは南方海域と中部海域、そしていくつかの小規模な海域とハワイ諸島である。
「今日はとにかく飲んで騒いでいい。いわゆる無礼講だ。ただし、今日が終わったら大本営から言われているガダルカナル島近辺の敵勢力に攻撃をかけるための特別作戦を発令する」
これまでも遠征艦隊でチマチマと削ってはいたが、やはり姫級深海棲艦がいることもあってかなり手強いようで、未だに決定打を与えられていない。
遠征艦隊から聞くところによると、旗艦の北方水姫とは別にかなり能力の高い防空艦がいるらしく、軽巡ツ級以上の防空性能を誇ることから航空攻撃が決定打とならないほどの能力だそうだ。
しかもその砲門数という数の暴力を活かしてこちらに絶え間ない攻撃を見舞ってくるため、中々手強いらしい。
チャーはその正体についてある程度の推測を立てていた。
「防空艦の正体だが……恐らくだが、防空巡棲姫だろうな」
「防空巡洋艦ってことか。軽巡ツ級の姫版、って言ったところか?」
「まぁ、その認識で間違ってはいないな。元々ツ級が軽巡としてはかなり強力な部類に属する深海棲艦だが……防空巡棲姫はその能力が一段と強化されている。下手な航空部隊じゃ呆気なく叩き落とされるぞ」
「マジか……」
「ネタバレになるがその元となった船はアメリカのAtlanta級防空巡洋艦と言ってな。8千t前後の船体に5Inch連装両用砲を8基搭載している重武装艦だ」
「Atlanta級か……なんかこうして見ると、結構バランス悪そうだな」
音無西的にチャーはニヤリと笑って『鋭いな』と返した。
「Atlanta級は満載排水量8000t前後だが嚮導艦としての立場も持たされていたからか魚雷兵装も搭載されていた。だが、あれこれと積んだ結果兵装過大とトップヘビー気味のこともあって復元性が悪かったうえ、5Inch連装両用砲は対空砲としては傑作だったが対水上戦闘では日本の駆逐艦にすら劣ると専らの評判だった」
Atlanta級はこのスペースに余裕がなかったという事実を反映してか、艦これにおいても初期・改どちらも3スロットという窮屈さを持つ。
しかも、水上偵察機が搭載できないことから弾着観測射撃もできないのでその点も火力不足を加速させている。
主砲2基と対空電探を乗せてしまえばそれで埋まってしまうのだ(ただし、ブラウザ版では補強増設があるため、これで『多少は』カバー可能とも思われる)。
実艦はこれに傑作と言われたBofors40mm機関砲を搭載したかったらしいが、スペースがないことから断念され、真の意味での防空艦としては中途半端な存在になってしまっている。
そのため、5番艦からは砲塔2機を撤去し、9番艦以降は雷装まで廃している。
結果、軍縮条約の影響を気にしなくてよくなったアメリカ海軍はAtlanta級の建造を11隻で打ち切り、次のCleveland級に移行することになるのだった。
戦時体制ということとアメリカの増産体制もあって、Cleveland級は派生型のFargo級及びその船体を流用したIndipenndenns級軽空母を含めれば38隻という莫大な数となっている。
なお、Atlanta級9番艦のJunooは第二次世界大戦後、朝鮮戦争にも参加している武勲艦でもあるが、なんとネームシップのAtlantaは日本軍との戦いの最中に沈んでいる。
「なるほどなぁ……でもそう考えると妙だよな。北方水姫はソ連のガングート級なんだろう?一緒に行動したことのないはずのアメリカ艦をモチーフにした深海棲艦と行動を共にしているっていうのはなぁ……」
「ま、そこはそれ。パラドックスの影響じゃねぇかな。あり得なかった編成や戦い方なんて言うのも出てきているのかもしれねぇ。そもそもソ連艦が南方に出てきたことなんて史実じゃあり得なかったからな。それを言っちまえば『なんでもあり』なんだろうよ」
事実、これまでもカスガダマ沖や港湾棲姫との戦いでそれを目の当たりにしているため、音無も『なるほどな』とすんなり納得できた。
「でもそう考えると、この方面に攻撃を集中させた方がいいかもな。中途半端な状態にしたままじゃこちらも大きな被害を受ける可能性がある。」
「あぁ。こいつらは放っておくとかなり厄介だ。場合によっては……ハワイ攻勢にも大きな影響を及ぼすぞ」
「……だな。鎮守府近辺の守りを固めつつ、相手には徹底攻勢をかけた方がいいと思う」
そこで音無は、この慰労会が終了した翌日からそちらの敵部隊に対して攻勢をかけることにしたのだ。
そのため、今日は徹底的に楽しんでもらう。
「だから、今日だけは本当に交代で、全員が楽しんで欲しい。そして死んだ世界戦線の皆。色ボケまくって色々頭おかしくなってきた俺だけど、いつも頑張ってくれている皆への感謝は忘れていないつもりだ」
音無の言葉に、ゆりを始めとする戦線メンバーもニヤリと笑う。
「改めて、本当にありがとう。それじゃあ……乾杯!」
「「「乾杯‼」」」
その言葉と共に、艦娘と戦線メンバーが談笑しながら飲食を始めた……中には早速、悪酔いしている吞兵衛共もいるようだが。
「あへぇ~♪提督がいっぱーい……えひゃひゃひゃひゃひゃ♪」
「ヒャッハー!この一杯のために生きてるって感じだよなぁ‼」
後ろでは彼女たちの姉が『ゴゴゴゴゴゴゴ……』と物凄いオーラを出しながら笑っているのだった……当然、目は笑っていない。
一方、岩沢は早速準備を終えたらしく、真っ先に舞台に立った。
『皆‼鎮守府立ち上げからここまで、ほとんど歌を歌えなかった!だから、今日は皆に聞いて欲しい‼まずは……『Crow Song!』』
ハイテンションな曲が流れ出すと、ノリのいい駆逐艦の子たちなどはすぐにリズムを取り始めた。
「ちょ、これすごいわね‼」
「キタコレ‼」
「ふえぇ……テンションすごいぃ……」
「ホント、すごいわねぇ」
その後も『Archemy』、『Million Star』、『Hungry Song』、『Hot Meal』を、さらにユイが交代して『Thousand Enemies』、『Shine Days』、『23:50』、『Run With Wolves』、『Morning Dreamer』、『Rain Song』、『Answer Song』、『Day Game』、『Storm Song』、『Highest Life』と立て続けに歌った。
そして岩沢が再び交代して、今度は『God Bless You』、『My Song』を披露した。
最後2曲のバラード調の歌には、艦娘たちもしんみりと感じ入るものがあったのか、一部には涙を流す艦娘もいた。
ガルデモが一通り歌い終えると、岩沢が素早く舞台から飛び降りると同時に今度は那珂が飛び出してきた。
「さーて、しんみりしたのはここまで~‼今度は那珂ちゃん、いっくよー‼『恋の2ー4ー11』‼」
那珂を筆頭に金剛型四姉妹、加賀、赤城と翔鶴などなど、自分の得意とする持ち歌を披露していた。
中には、萩風の『夢の○てまで』や、五十鈴の『○命前夜』、Scharnhorstの『願○~I ○eli○ve』、『Fi○m~続○のヒロ○ン~』、Admiral Sheeaの『2 h○ndred o○er』など、声帯の妖精さんネタと言える歌も多数披露された。
また、戦線メンバーからもゆりが歌ってみたが、意外なことにゆりは音痴だったことがそこで明らかになり、皆に笑われてしまった。
また、物真似も披露されたのだが、一番大ウケしたのがまさかのあきつ丸だった。
「では物真似をするであります‼『提督殿に駆け寄ってきた時の直井副提督殿』‼」
コホンと咳払いすると、顔も作って見事そっくりになった。
「うぉとなしさぁ~ん‼」
この似姿には全員ツボにはまったらしく、会場が大爆笑に包まれたのだった。
当の直井はと言えば『ぼぼぼ僕はあんな品のない顔はしませーん‼』とのことだったが、日向(ひなた)や藤巻たちからは『メッチャそっくり!』と大いに評判となり、ますます不機嫌にさせるのだった。
なので、あとで音無が頭を撫でてやってフォローしたという。
他にも隠し芸や手品など、様々な持ちネタで皆賑わうのだった。
思う存分歌えた岩沢も、大騒ぎできた艦娘たちも、それぞれに思い思いの楽しみ方をするのだった。
そして、大騒ぎが終わった翌日。
一部の艦娘を中心にした片付けを終えて、その日はこれまた出撃せずにのんびり過ごしていた。音無も最低限の執務だけにするつもりで、珍くスローペースな仕事ぶりであった。
「ふぅ……たまにはこういう日があってもいいよな」
「そうですねぇ。こんな日がずっと続けばいいのに……」
今日の秘書艦は扶桑であった。扶桑も元々内地でひっそりとしていたことからか、平和な日々というものをとても愛しているのだ。
戦艦として本来投じられるべきだった戦いに赴くことができなかったという歯痒い思いもあったが、同時に平和を享受していたことも大切に思っているのだ。
仕事を手伝っていた霧島や鳥海たちもどこか穏やかな笑顔である……どうでもいいことだが、なぜか眼鏡艦娘ばかりが書類仕事を手伝ってくれている。
頭脳派揃い(自称)だからだろうか。
「本当に……たまにはこうして戦いを忘れるというのも大事だと思います」
「えぇ。私の計算が正しければ、このようにオンオフを切り替えるというのは精神衛生上でもよろしいことですから」
本当に、普段の真剣な雰囲気もどこへやら。のほほんとした感じである。
「っと、もうお昼かぁ。皆、そろそろ飯にしようか」
「そうですね。そろそろ間宮さんたちも支度を終えている頃でしょうからね」
扶桑たちと連れ立って食堂へ向かうと、新入りも古参もなく皆で色々話あっていた。なお、新入りのまるゆも笑顔で同じ陸軍所属の熊野丸やあきつ丸たちと楽しそうに話をしていた。
駆逐艦と比較しても小柄で幼い雰囲気のまるゆがニコニコしながら話をしている姿は、音無としてもとても微笑ましく感じる。
「間宮、鳳翔さん。お待たせ」
「あら、提督。もう支度できてますよ」
今日は簡単だが、野菜炒めや味噌汁など、落ち着くメニューばかりであった。
なお、吞兵衛共は当然のごとく二日酔いであった……この鎮守府ではお上品に飲むはずの千歳でさえそうだった。
『うあぁ~……』と二日酔いの苦しみに呻きながらテーブルに突っ伏して千代田に背中を撫でられている光景は中々に珍しい。
音無が席に着き、扶桑が隣に座ったので誰がもう片方の隣に座ろうかと考えていた時、珍しい人が隣に座った。
「よぉ、音無。隣いいか?」
「へっ……ひさ子?」
ガルデモのサブリーダーであり、岩沢のストッパーでもあるひさ子である。
音無とは縁浅からぬ彼女が隣に座ったということに、ゆりや彼女の事情を知る鹵獲改装組の面々がニヤリと笑う。
あの穏やかな翔鶴ですら、ニヤニヤを隠せないという感じで笑っていた。
ひさ子が音無の隣に座ると、普段のヤンキー的な意味での凛々しさからは考えられない穏やかな顔で『いただきます』と言って食べ始めた。
「……うん、うまいな」
「そりゃそうさ。間宮と鳳翔さんの謹製だぜ」
そんな他愛もない会話を交わしつつ、食事を続けていた、
音無がチラリとひさ子の顔を見ると、なにか言いたいことがあるような顔をしているように感じられた。
音無も艦娘たちと接することで、ある程度ではあるが女心、人の言いたいことというものが分かるようになりつつあった。
なので、音無がひさ子に言いやすくなるようにと思って口を開こうとした時、ひさ子が急に『あ~っ!』と声を上げながら頭をガシガシと引っ掻いた。
そして徐に立ち上がると、音無を『キッ』と強い眼差しで見据えた。
「悪い音無!うじうじするのは性に合わない‼だからハッキリ言う‼アタシ、音無のこと好きだっ‼だから、今夜抱いてくれっ‼」
「ホントにド直球だなぁ‼」
ある意味天霧を彷彿とさせるそのド直球さにツッコミを入れてしまったが、ひさ子も顔を真っ赤にしてプルプルと震えながらの告白だったことから、強く思いきっての言葉だということが伝わった。
当然ながら、ひさ子の事情を知らなかった艦娘たちは『おぉ』とか『きゃあ』という声を上げている。
「も、もちろん……今まで準備はしてきたから、大丈夫、だと思う……」
「えっ、準備って……もしかして、皆から母乳もらってたのか?」
音無の大量射精を受け止めるためには、艦娘の……特に鹵獲改装組の出す母乳を飲むことである程度だが臓器の許容量を増やすことが重要である。
艦娘であればそもそもある程度提督との性行為に対する許容量が大きい(小柄な如月が音無の大量射精を受け止めきれている時点で分かるだろうか)が、人間はそうもいかないので臓器の許容量を増やす事前準備が必要になるのだ。
ひさ子はそれをしていたというのだ。
「……具体的に、いつから?」
「……西方海域の攻略を始めた頃から、かな」
「それって……1ヶ月近く前じゃないか。そんな前から……」
ひさ子は『それだけじゃない』と続けた。
「お、音無のことが気になり始めたのは……あの世界にいた頃から、だよ……悪いかっ」
それを聞いた瞬間、音無はもちろんだが近くで聞いていた戦線メンバーたちも驚いていた。
特に岩沢は『自分の知らないひさ子の顔があったのか』と言わんばかりな驚愕の……どちらかと言うと表情の薄いはずの顔を驚きに満たした表情である。
以前ひさ子の想い自体に気付いていたとは言っていたが、そのひさ子がこのような顔をすると言うのは驚きだったらしい。
「……えぇと俺、そんな惚れられるようなことしたか?」
それを聞いて、ひさ子は『んぎっ』と赤かった顔をさらに赤くした上で『ヤケクソ』と言わんばかりに言った。
「わ、忘れたとは言わせねーぞ‼い、岩沢がいなくなっちまった後!アタシが色々ギリギリだった時‼お前なにも言わずに側にいてくれたじゃねーか‼」
「え、あの時か!?」
音無だってそのことは忘れていなかった。後輩たちの前では気丈に振舞っていたひさ子が、音無と2人きりになった時にポロポロ涙をと流し、そのまま音無に抱き着いて過去のことを話したという『あの時』のことである。
「アタシはっ……相棒だった岩沢がいなくなってすごく悲しくて……でもっ、後輩共の前じゃそんな泣き言言えないって思ってっ……でも、お前は……お前はそんなアタシの心を察してくれて、アタシの感情を受け止めてくれたじゃねぇかっ……」
そして音無もまた、あの時のことを思い出すと今になって顔を赤くするのだった。
「(マジか!?お、俺……そんなところでひさ子に気にされてたのか……で、でも……それっていわゆる吊り橋効果ってやつなんじゃ……)」
すると、復活したらしい千歳が音無の肩を『トントン』と叩いた。
「(提督。ひさ子さんの気持ちはそんな柔なものじゃありませんよ。ずっと長い間温め続けた……とても一途な想いですよ)」
「(心読むのはえ~よ‼)」
この間、わずか0.5秒。
もはや一瞬のアイコンタクトでこれほどの意思疎通ができるくらいに、音無と千歳は通じ合っているのだ。
しかし、そんな相通じ合う音無と千歳に気付かないくらい、ひさ子は追い詰められていたようだ。
「は、初めてだったんだぞ、父さん以外の男の前で泣いたの……」
顔を赤くしながらそんな告白をするひさ子の顔を見て、普段から卓を囲っている藤巻たちは茫然としている。
「マジかよ……あのひさ子まで音無に惚れてたのか……」
「ま、まぁ、納得いかないと言えばウソになるがな……」
「……マジかいな……」
あのTKですら、明らかに驚いている。しかし、皆はそのTKに驚いた。
「TKがフツーに日本語喋った!?」
「しかも関西弁だと!?」
「謎だらけだったのに謎が増えやがったぜ‼」
まぁ、アホ共はさておき。
だからこそ、ひさ子は音無の袖をしっかりと掴んでいる。
「だ、だからさ……アタシにとって、お前は本当に……岩沢とは全く別な意味で特別な存在なんだよ……今を逃したら、もう言えなくなるかもしれないって思ったら……もう、気持ちが抑えられなくて……」
ひさ子の瞳を見れば、冗談ではないということがよく分かる。そして、今の時点で一歩も退くつもりがないということも。
「……本当なんだな」
「あぁ、もちろんさ」
ゆりの時と同じであった。少なくとも、ずっと準備をしていたことを考えればその意志は固いのだろう。
「分かったよ。じゃあ今夜、俺の使っている大浴場に来てくれ。扶桑、手間になってすまないが……」
「はい。今宵の夜伽人員はこちらで選出を……」
すると、艦娘の中から手が挙がった。
「え、フレッチャー?」
「はい、どうか私も、その1人に加えてください」
そう、以前リランカ島でPT小鬼を生み出すために囚われていたFletcherであった。彼女は治療を終えてからずっと今日までは経過観察状態だったのだ。
確かに音無の手術によって彼女の深海棲艦艤装はしっかりと引き剥がしたが、実はいくつかの後遺症が見られたのだ。
まず1つは、伊勢たち鹵獲改装組と同じ母乳の分泌。ただし、補給艦への改装ではなかったことからか、その分泌量は伊勢たちよりも少ない上、乳房の肥大化もしていない……それでも駆逐艦としてはかなりの大きさであることに変わりないが。
これは生み出されていたPT小鬼の燃料使用量が他の深海棲艦に比べると明らかに少ないからでもあった。
しかし、もう1つが大きな問題だった。
それは、Fletcherの胎内から1日に1度、卵が産まれるようになったのだ。調べてみると、その中からは妖精さんと装備が出てきたのだ。
出てきた瞬間『よぉ』とか『コンニチワ』とか声を上げる栗や松ぼっくりのゆるいキャンプのような絵面が浮かんだという。
驚くことに、囚われていた時に生み出していたPT小鬼と同じ魚雷艇こと米軍のPTボートだけでなく、連合国系の武装を含めた妖精さんたちだったのだ。
ブローニングM2重機関銃(日本の物は当時デッドコピー品であったため性能はオリジナルには遠く及ばなかったと言われている)やエリコン20mm機関砲、アリゲーター水陸両用戦車やSGレーダー(初期型)、533mm五連装魚雷発射管などである。
タマゴから装備と妖精さんが出てきた瞬間を見た時、思わず音無が『チョコエッグの中身かよ‼』とツッコミを入れて、当のFletcherを含めた周囲を噴き出させたのは今でも皆覚えている。
チャーがそれを研究し、今ではその多くが量産体制に入っている。アメリ艦娘以外の艦娘たちもその電子機器や武器の能力の高さには驚かされており、レーダーやソナー類は大変重宝されていた。
そして、時間が経過するごとに1日に1個だったのが2日に1個、3日に1個と段々減り、今では1週間に1個にまで減ったのだ。
そんな経過もあって、Fletcherはいよいよ音無との『夜戦』に参加したいと思ったのである。
「えぇと、俺は構わないけど……」
音無が千歳の方をチラリと見ると、千歳もニコリと微笑んだ。
「分かった。じゃあ1人はフレッチャーで決定だな。えぇと、あとは……」
「はいはーい!じゃあ私、立候補しまーす‼」
元気に声を上げたのは軽空母の祥鳳だった。彼女もなんやかんやで古参の一員だが、ここぞとばかりに声を上げたのだ。
元々軽空母ということもあってあまり最前線に出ることはできないが、近海の対潜哨戒や近隣戦線に対する航空機輸送などの遠征、さらに鎮守府近辺における防空警戒などに尽力してくれており、その能力は軽空母といえども侮れないくらいに高いのだ。
今では本家には存在しない改二へと変貌しており、瑞鳳同様護衛空母の特性を持つ『改二乙』にコンバート改装できるようになっていた。
そんな、ある意味で意外な人物の参戦に、その場にざわめきが走る。さらに、その隣からも手が挙がった。
「じゃ、じゃぁ瑞鳳も!瑞鳳も提督とえっちしたい‼」
更に声を上げたのはその当の祥鳳の妹である瑞鳳である。祥鳳に続いてそのまま着任し、史実でほとんど一緒にいられなかったこともあってかこの鎮守府ではなにかと一緒にいることが多い、祥鳳だけでなく空母の皆にとって可愛い妹である。
なお、そんな彼女の愛読書は『艦載機図録』。特に、九九式艦上爆撃機を見てニヤニヤしていることが多いという。
なぜなら彼女曰く、『九九艦爆は脚が可愛いのよ、脚が』だからだ。彼女はいわゆる『脚フェチ』らしい。
最初こそ音無は九九艦爆という存在は機体が古いということと蒼龍の『江草隊』が大活躍していたことしかよく分かっていなかったが、様々な航空機を見るにつれて、なんとなく足のカバーが可愛い、と呟いたら瑞鳳がとても喜んでくれたのである。
それ以来、時折だが玉子焼きも作ってくれるようになった。
そう、全瑞鳳推し提督必見の、『玉子焼き、たべりゅ?』である。
あの嫁一筋のチャーですらそれを初めて聞いた時、『これが伝説のたべりゅ教の教祖様のお言葉か……』と呟いていたと言えばその衝撃が伝わるだろうか。
なお、艦これには瑞雲教を始めとしてぽいぽい教、かもかも教、ムツリム等々、様々な艦娘にまつわる宗教があるのはご存知の通りだが、この鎮守府ではやはり瑞雲教が最大勢力となっている。
なぜかと言えば、教祖たる日向と大司教たる最上、上層部2人が揃って音無に抱かれているからである。
もっとも、音無本人はその事実を知らないのだが。
閑話休題。
すると、全く別の所からも手が挙がった。誰かと思えば、鴉の濡れ羽と言うべき真っ黒な髪の毛と、見事な美乳を持つ駆逐艦の少女、磯風であった。
『乳風』と称される彼女の美乳は、成熟した駆逐艦好きの間では有名である。
「早い者勝ちということなら、この磯風も一度提督と手合わせして見たかった。ぜひ夜戦に参加したい」
「なんでそんな仰々しい言い方なんだよ‼あと手合わせってなにの手合わせだっ‼」
「む?なにかおかしなことを言っただろうか……?」
音無がツッコみ、磯風がキョトンとするが、仲良しである友人の浜風が『気にしたら負けですから』とフォローと言うべきなのかよく分からないフォローを入れてくれた。
確かに磯風は武人気質なところがあるが、それにしてもどこかズレている。これに関しては陽炎を含めた姉たちも『アハハ……』と苦笑するばかりであった。
だが、ここまで来てまさかの5人である。かつて摩耶と天龍たちとした時ですら4人だったことを考えれば、最高人数にかなり近いと言えるだろう。
以前ゆりを抱く時に鹵獲改装組5人を含めた面々と超濃厚な一夜を過ごしたことがあったので、あれには流石に及ばないが。
「……今夜はすげぇ大所帯になりそうだな……」
「ま、今更言いっこなしだぜ、音無さんよ」
日向(ひなた)がニヤニヤしながら肩を叩くと、音無も諦めたように『ハハハ……』と乾いた笑い声をあげるのだった。
だが、母乳の出るFletcherを補給担当にして他のメンバーを相手すれば十分に『回る』だろう。
「……も~こうなったらヤケだ‼5人まとめてかかってこいやぁ‼」
「遂に音無さんがおかしくなられた……」
いつもなら音無の色々なリアクションを『流石は音無さん!』と喜んでいる直井ですら、音無のやけっぱち発言は茫然と見ていることしかできなかった。
だが、それも致し方ないだろう。こうも様々な艦娘たちが『我も我も』と寄ってくるとなれば、生半可なことでは済まないのは間違いないのだから。
鹵獲改装組の相手も含めて、どう足掻いても本来であれば音無1人の手に余るくらいの話である。
それを考えれば、むべなるかなという奴である。
「提督……とても人気があるんですね……」
「とにかくメチャクチャモテるってのはよく分かったわ……」
「まぁ、そうなるな」
天城や葛城のような新人たちは完全に唖然としており、音無がどれほどとんでもない存在なのかということを見せつけられたのだった。
で、その夜のこと。
「おぉぉ……この大浴場初めて入ったけど、こんな見事だったのか……」
「やっぱり普通の風呂とは違うってことか」
ひさ子は脱ぐ前に風呂場を覗いていた。いきなり脱ぐのはやはり恥ずかしかったらしく、心の準備という意味合いもあったようだ。
「そりゃそうさ。女子風呂も広いけど結構いっぱいだからさ」
「あ~……戦線だけでも女子メンバー十数人以上いるしなー」
岩沢やひさ子などが濃すぎるだけで、戦線メンバーの中には女子も結構いる。彼女たちは普段鎮守府の掃除・洗濯や鳳翔、間宮たちの手伝いをしてくれている。
曰く、『野郎共が資源調達するならあたしたちが労うくらいしてあげないとね~』とのことだそうだが、一部ではメンバー同士でお付き合いしている者も居るらしい。
どうやら、音無と艦娘たちに影響を受けたそうだ。
「あのー、ひさ子さん。脱がないんですか?」
祥鳳が悪気なく聞くと、ひさ子は顔を赤くして固まってしまった。
「そ、そりゃ脱がなきゃ風呂に入れないもんな……着衣入浴でエロいことなんて妙にハードル高いし……」
「誰がそんなことするって言ったよ‼っていうか今までしたことないぞ‼どこでそんな情報仕入れたっ‼」
「え、この前もらった秋雲の同人誌だけど……音無と服着た千歳が風呂の中でイチャイチャしてるマンガだった」
「あの大バカヤロウめ……」
音無は心の中で『あいつ、またお仕置きだな』と決めたのだった。
正直、秋雲の妄想という名のリビドーの深さには呆れるばかりであった。
とはいえ、言う通り脱がないことには始まらない。
「んしょっと……」
ひさ子が服を脱ぐと、ハリのある乳房が『ぷるるんっ』と元気よく飛び出してきた。
その大きさと強烈な弾み方に、瑞鳳が思わず目を剥いていた。
「お、おっきい……」
瑞鳳が自分のつるペタ乳房を『ぺたぺた』と撫でる。瑞鳳の顔がいきなり『チーン』という音がしそうなほどにガックリしたモノに変わる。
「だ、大丈夫よ瑞鳳!まだこれから!これからだからっ‼」
「そうだぞ。それに、乳の大きさが女の魅力と決まったわけではない」
祥鳳と磯風が慰めるが、脱いだ2人の胸も大変けしからんことになっている。
すると、瑞鳳が『キッ』と2人の巨乳美乳を睨むと、それぞれを『べしべしべしべしべし!』と思い切りビンタするのだった……。
「ちょ、痛い、痛いわよ瑞鳳ってばぁ!」
「な、なぜ怒る!?なぜ怒っているんだ!?」
しょうもないやり取りの3人を見た音無はお湯を被りながら1人ごちる。
「……大丈夫か?これ」
最後は完全にオチです。他意はない……つもりです