朝食を終えた音無は講堂に艦娘たちを集め、今回挑む特別任務に就いて説明していた。
「皆、知っての通り現在戦闘状況に変化が生じようとしている。戦況は優勢に推移していたが、少し前に敵がガダルカナル島に集中攻撃を仕掛けてきた。ガダルカナル島を失う場合、我々と本土の繋がりに亀裂が生じる可能性が高い」
ガダルカナル島はかつての太平洋戦争においても、旧日本軍と米軍の奪い合いにおける天王山と言える場所だった。
ここに楔を打ち込まれるのは、戦略上よろしくないのは間違いない。
「そこで今回、俺たちに課せられたのは敵艦隊の撃滅だ。以前は相手の輸送部隊を潰して補給を絶てばよかったが……それは別の部隊が担当することになった。俺たちは今回初めて、特別な敵と真正面から戦うことになる」
音無が合図すると、秘書艦とは別の意味で秘書代わりと言える大淀がホワイトボードに描かれている海図に情報を書き込んでいく。
「まず俺たちがやらなければならないのは、敵艦隊の中でも前衛を務める『防空巡棲姫』の撃破だ。こいつは非常に高い対空戦闘能力を備えているらしくて、空母は攻撃要員としては連れて行けない。航空機が的になるばかりだからな」
現実的にはそれほど圧倒的に撃ち落とされるわけではないのだが、深海棲艦の中では大変高い撃墜能力を誇るのが防空巡棲姫とのことだ。着任間もない提督の艦戦部隊では全滅したという記録も残っている。
ネームド機(分かりやすく言えば江草隊や友永隊など)とその部隊であれば対空射撃回避能力も持ち合わせているが、できれば制空権を確保して確実に倒すことを優先とした編成にするべきだろう。
「なお、前衛付近に潜水艦及び空母の姿は確認できていないそうだ。それも踏まえて編成は以下の種別とする」
○ 正規空母(ただし、制空担当)
○ 弾着観測能力豊富な軽巡洋艦・重巡洋艦
○ 高速戦艦
と言ったところか。
それを見た霧島が眼鏡をキランと光らせた。
「なるほど。つまり頭脳(筋肉)で押すということですね」
「……言いたくないがそういうことだ。正直、当面の相手はパワーでのゴリ押しになる」
今回の難易度としては丙と言ったところで、ある程度練度上げ中の艦娘でも務まる予定である。
もっとも、最初は用心のためある程度高練度のメンバーを選出してちゃんと陣営を確認するつもりだが。
「最初の編成は以下とする」
○ 瑞鶴改二(震電改×3スロ・彩雲(東カロリン空)・補強増設に新型高温高圧缶)
○ 最上改二(15.5cm三連装砲改・10cm連装高角砲(砲架)・61cm五連装(酸素)魚雷発射管・瑞雲改二(六三四空・熟練)・熟練艦載機整備員)
○ 羽黒改二(203mm/53連装砲 due・8cm連装高角砲・61cm五連装(酸素)魚雷発射管・零式水上観測機・新型高温高圧缶)
○ IndianapolisMk.2(203mm/53連装砲 due・5Inch単装高角砲群・61cm五連装(酸素)魚雷発射管・Soc Seagal・新型高温高圧缶)
○ Scharnhorst Zwei(28cm三連装砲+Fumo25レーダー・10cm連装砲・533mm三連装魚雷発射管・Ar196改・一式徹甲弾改)
○ Dankelk改(33cm四連装砲duex・13cm四連装砲改・Late298B・13cm連装砲・一式徹甲弾改)
編成を見た鳥海が眼鏡をキラリと光らせる。
「なるほど。高速性を重視しつつ火力も、というところですね……瑞鶴さんは艦戦3スロと彩雲(東カロリン空)ですか?一応空母はいないそうですけど……空襲警戒ですね」
「あぁ。できれば艦隊自体は高火力と長射程を維持する方向で行きたい。だから最上には熟練艦載機整備員を、羽黒と衣笠にはザラとポーラの協力で大規模に改修した『203mm/53連装砲 due』を装備する」
「これ……見たことない装備なんですけど……大本営の装備図鑑にも載って無いような……」
大淀が『まさか……』とチャーと明石たちを見る。工廠要員一同は『ぴゅ~』と口笛を吹いていた……。
「……ま~たとんでもないというか変なものという外ないモノ作り出して……あぁ、なんでしょうねこの感じ……なんだか懐かしく思う自分がいますよ……」
大淀が遠い目をすると、古参メンバーも『うんうん』と頷いていた。新参メンバーたちは『え、え!?』と目を丸くしており、中期メンバーなどは『ようこそ、こちら側の世界へ』という某ネコ型ロボットのような『温かい目』で見守っているのだった。
なお、そんな『203mm/53連装砲 due』の能力は以下となる。
○ 火力+11・対空+2・装甲+2・回避+2・射程長
なんと、それまで何気に無視できなかった『命中-2』が消え、重巡洋艦であればデメリットなく長射程にすることができるようになったのだ。
さらにそれまで+になっていなかった装甲及び回避にも補正が付き、Zara級であればさらに火力+2、命中+2の補正が付く。
とはいえ、今回は本当の意味で『様子見』だ。
「瑞鶴、今回はお前に全てを任せる。ウチの最古参空母(鳳翔を除く)として、艦隊指揮は任せたぞ」
「任せてっ。ちゃんと任務を果たして見せるわっ」
「よし……総員出動!」
「了解‼」
――ガダルカナル島南西部
艦隊から発艦する偵察機が次々と敵艦隊発見の報告を行う。
「敵艦隊の内訳を整理するわね」
○ 軽巡ツ級・軽巡ホ級Elite・軽巡ホ級・駆逐イ級後期型×3
○ 軽巡ツ級・軽巡ト級Elite・軽巡ホ級・駆逐ロ級×3
○ 軽巡ツ級Elite・軽巡ホ級×3・駆逐イ級後期型×2
○ 防空巡棲姫・軽巡ツ級Elite・軽巡ト級Elite・駆逐ロ級Elite×3
「……いたわね。一番奥の方……小島の岬付近に防空巡棲姫がいる。厄介だわ……」
「なんとか引きずり出せるといいんですけど……」
「ハグロの言う通りですね。まずは前衛から蹴散らしていきたいと思います」
ScharnhorstもDankelkも頷いて賛成する。
「じゃあ……行きましょう!」
まずは最も近い艦隊に最上の瑞雲を飛ばし、制空権確保を確実なものとする。
幸い機数が少ないことと熟練機ということもあって撃墜はなく、それどころか駆逐イ級後期型1隻を撃沈することに成功した。
「よし!いい感じじゃない‼」
艦隊が接敵すると、その時点で敵はまだ気づいていなかった。
「気付かれないように接近して……丁字有利を取って……全艦有効射程!」
「今度こそ戦って見せるわ……Feu‼撃ちなさいっ‼」
5隻が一斉に砲撃すると少し遅れて水柱が上がり、敵艦隊に多数が着弾した。
「どう?」
すると、観測機から報告が上がってくる。
「よしっ、旗艦のツ級以外は沈んだわ‼幸先良いわね‼」
「ズイカク、少し離れるか?」
「……そうね。できるだけ敵の攻撃範囲に入らないようにしてもう一度攻撃しましょう。皆、増速して!」
こちらに気付いたツ級が追いかけてくるが、速力に大きく差があるため距離はグングン離れていく。
「再装填よし!観測機からの報告よし‼照準よし‼」
「撃ち方、始めてくださいーい‼」
再び全員の砲撃が炸裂し、一瞬煙で前が見えなくなる。だが、それでも観測機が上空を飛んでいるため報告は聞ける。
「敵旗艦……撃沈!」
まずは1つの艦隊を損害なく撃破できたことに安堵しつつ、再び敵艦隊を探して航行し始める。
「瑞鶴さん!敵艦隊が接近!同時接敵となりそうです‼」
羽黒の艦載機からの報告に一瞬顔を顰めた瑞鶴だったが、判断は早かった。
「だったら、制空権だけは確保するわよ‼ト級Eliteの艦隊に飛ばして‼」
「了解、いっけーっ‼」
最上が瑞雲を飛ばすと、やはり敵に航空機が全くいないこともあって容易に制空権は確保できた。
今回は確保に専念したことで敵艦を撃沈することはできなかったが、それもまた仕方がないと瑞鶴は割り切っている。
「戦い……行きますっ‼」
Indianapolisの言葉と共に2つの艦隊と戦うことになったが、まずはト級Eliteがいる艦隊に向かっていった。
敵艦隊が攻撃しようと身構えるが、丁字有利状態で中射程まで入ったところで敵艦隊の予想進路に向けて魚雷を発射する。
「その荷は置いてけぇ‼」
多数の魚雷が発射されるが、当然敵艦隊は避けようとする。そこに副砲を斉射し、敵艦隊の足並みを乱そうとした。
その時、うまく至近弾を出すことに成功し、敵艦隊が進路そのままにフラフラと蛇行し始めた。
「よし‼魚雷、そのまま……」
羽黒の望みは叶い、敵艦隊のど真ん中に必殺の酸素魚雷が多数突き刺さった。
駆逐艦2隻とト級Eliteがそれをモロに喰らって呆気なく轟沈すると、明らかに他の艦が狼狽えている。
そこに追い討ちの砲撃である。敵艦隊に向けて先程よりも鋭く砲弾が飛翔する。
「自沈なんてしないんだからっ‼」
ツ級を含めた残り艦隊はこれで轟沈し、再び敵艦隊を無傷で倒すことができた。
「なんだかこの感じ、久しぶりな気がするわね」
「あぁ。このところAdmiralとイチャイチャしてばかりだったからなぁ」
だが、残ったボス艦隊は明らかに異様な雰囲気を放っている。
まるで『ここは通さないぞ』という強い意志を感じるようだ。
「……提督さんの話だと、あの旗艦を倒せば先へ進めるのよね」
「はい。特別海域のように何度も倒す必要はなさそうということです」
いわゆる『ゲージがない』という奴だ。
「皆、相手はネームドの姫級よ。十分に注意してね。最上!」
「うん。僕も突撃するぞーっ」
瑞雲が飛び立ち、敵艦隊上空に到達した。制空権は確保できたので攻撃しようと急降下を開始したその瞬間、防空巡棲姫が異様なオーラを放ち始めた。
『対空砲ガ来ルゾ‼』
『総員警戒!』
妖精さんたちが警戒を強める中、敵艦隊から猛烈な対空砲火が上がり始めた。
それはこれまでのツ級とは比較にならないほど激しく、輪形陣ということもあってかなり濃密だった。
「っ……瑞雲4機、撃墜……」
「くっ……やっぱり姫級ともなると伊達じゃないわね……ま、だからって引き下がるわけにはいかないけどね」
瑞鶴が冷や汗を流しながらも不敵かつ凄みのある笑みを見せていた。
「皆、準備はいいわね?」
「今更だろ、ズイカク。俺らはAdmiralと共に海を解放するために戦っている。損傷を恐れて戦えるものかよ。かつての第三帝国海軍じゃあるまいし」
「えぇ。祖国のような優柔不断はもうごめんだわ」
ScharnhorstもDankelkも戦う意志を見せている。それぞれ祖国の海軍上層部が腑抜け極まりなかった醜態をさらしていたこともあってか、『戦う』ということに関して飢えている一面があったようだ。
Scharnhorstは少なくともこの鎮守府に艦娘として着任してからかなり実戦経験を積んでいるが、実を言うとDankelkはまだ本格的な主力艦隊に加わったことがなかった。
もっとも、そんな初の主力艦隊での実戦で共に戦うことになったのが敵対していたはずの第三帝国の巡洋戦艦で、今戦っている深海棲艦のモチーフがよりによって連合国側の防空巡洋艦というのも運命というか皮肉と言うべきか。
それを理解しているからか、瑞鶴も苦笑している。
「じゃあ、行きましょう!」
艦隊が接敵すると、一気に禍々しいオーラが増幅する。
「もう無様な負けはごめんです‼」
Dankelkの言葉と共に戦闘態勢に入るが、やはり『姫』の放つオーラは伊達ではないようだ。これまでも北方棲姫や装甲空母姫、港湾棲姫とも戦ってきた。
しかし、今回の相手はそれとは全く別種の『力』を感じる。
「……そういえば、水上艦タイプの姫と戦うのはまだ2度目ね」
「どんな相手でも構わねぇよ。全力でぶっ潰すまでさ」
敵の射程は恐らく『中』である。ならば、射程に入った瞬間にこちらも砲雷撃戦に入るしかない。
「皆、後は任せたわ」
「はい。分かりました‼」
中射程に入った瞬間、敵巡洋艦3隻が砲撃体勢に入った。
「海のモズクに変えて差し上げますわ‼」
Dankelkがどこか間違った日本語を言いつつも筆頭に砲撃を開始する。
だが、防空巡棲姫は攻撃をひらりとかわしてしまい、それ以外の艦に攻撃が命中していく。
「くっ、駆逐艦2隻。ザコだけか‼」
「攻撃、来ますっ‼」
羽黒の声と共に砲弾が着弾する。防空巡棲姫の砲弾はかなり散布界が荒いようで着弾しなかったが、ツ級の砲弾が最上に命中した。
「くそぉ、直撃かよぉ……冗談じゃないよぉ……」
最上が多数の砲弾を喰らい、一撃で中破してしまった。どうやら、防空巡棲姫の砲弾も何発か至近弾になっているらしく、それが被害をもたらしたらしい。
「ズイカク、もう魚雷ぶっ放すぞ‼」
「そうね。魚雷一斉射‼そののち副砲一斉射‼」
幸い防空巡棲姫はそれほど速くないこともあってか位置取りはうまくとれた。更に、相手の予想進路に向けて魚雷も発射できた。
あとは至近弾を出して混乱を呼べるかどうかである。
「撃て撃て撃て撃てぇ‼攻撃の暇を与えるなぁ‼」
「うふふふふふふふ!喰らえ喰らえ喰らえぇ‼」
普段の凛々しさが嘘のように、ScharnhorstとDankelkの声は荒っぽい。意外にもDankelkも戦闘時は言葉遣いが荒っぽくなるらしい。
その時、敵艦隊が足並みを乱し始めた。なんとか至近弾を出せたらしい。
「3、2、1……今!」
羽黒が声を上げた瞬間、敵艦隊に猛烈な水柱が挙がった。
『グウゥゥゥゥ‼ペイル・マーダーァァァァァァ‼』
事実として、連合軍は航跡が見えにくい酸素魚雷のことを大変恐れていたらしい。
実際に信管が鋭敏過ぎて誤爆・不発なども多かったそうだが、命中した時は大変な破壊力をもたらしたのだ。
第一次ソロモン海戦然り、ルンガ沖海戦然り、Yorktownに命中した伊169の潜水艦魚雷然りである。
やはり向こうも連合軍艦がモデルということだけあって、酸素魚雷は恐れているらしい。
そんな防空巡棲姫はなんとか中破まで追い込めた。これで戦闘力を大幅に削ぐことができたと言える。
さらに加えて随伴が全滅していた。
これならなんとか行けるかもしれない……そんな風に全員が感じ始めていた。
しかし……現実は非情だった。
「なんとか……なんとかアウトレンジから……」
「瑞鶴さん‼敵主力艦隊より5時の方向、別艦隊です‼」
「えぇ!?」
瑞鶴がそちらを見れば、確かに別動隊だ。どうやら島の中に隠れていたらしい。
「(しまったっ!航空偵察の弱点を突かれた‼)」
航空偵察は様々なものを見通せるが、隠れている相手や洞窟などに潜んでいる相手を見つけるのはかなり難しい。
中には枝葉を使って偽装工作をしている場合もあるため、そういった敵を見つけるにはかなり低高度で飛行して写真を撮影しなければならないのだ。
しかし、『彩雲』での高高度偵察ではそれができていなかった。
「くっ……敵随伴は……え!?なによあれ‼」
瑞鶴の目に飛び込んできたのは、異様過ぎる艦隊だった。
随伴は大したことがない。全員Elite級とは言え重巡洋艦2隻と残りは駆逐艦だったからだ。
だが、先頭を行くのは姫級だった。
Indianapolisがその顔を見て『ひっ』と呟いた。
「あれは……Northampton!?」
「それって確か……『ルンガ沖重巡棲姫』!?」
ルンガ沖重巡棲姫。
かつて日本海軍が駆逐艦を用いたネズミ輸送の際に遭遇した米艦隊の重巡洋艦が深海棲艦化した姿である。
『クククククク……トーキョーエクスプレス……ソシシテヤルヨォ‼』
「な、なんでガダルカナル島の近くにいるんですか!?」
「慌てたってどうにもならないわ‼各個に撃破するしかない‼まずは防空巡棲姫から……」
「敵艦発砲‼」
既に中距離に迫っていたルンガ沖重巡棲姫と『重巡リ級Elite』2隻が発砲してきたのだ。
「くっ、回避を……」
直後、瑞鶴に多数の命中弾が出た。一瞬瑞鶴の姿が爆発の炎と煙に包まれる。
「瑞鶴さん‼」
「くっ、ここまで来てっ……」
なんと、瑞鶴が一撃で大破してしまったのだ。幸いなのは既にボス戦であるためこれを倒せば撤退しても構わない。
だが、流石に姫級の一撃ということもあってかなり重かったらしい。
「くっ……砲雷撃戦の指揮を最上に移譲‼最上、指揮を任せるわ‼」
「分かった!いっけーっ‼」
全員の砲撃が防空巡棲姫に命中したその時、防空巡棲姫の下半身部分から猛烈な爆発が発生した。
「やった!ダンケルクさんの砲弾が水中炸裂したんだ‼」
防空巡棲姫は最後のあがきと言わんばかりに必死の形相でこちらに向かってこようとしていたが、浸水を防ぐことができなかったのかそのまま波に呑まれていく。
『イヤダヨォ……マタ……マタシズムノカヨォ……クソォッ……デモ……ナンカ……アタタ……カイ……』
その言葉を最後に防空巡棲姫は海に消えた。しかし、再び背後から砲弾が多数飛来し、水柱を上げる。
「ま、まだまだぁ‼皆、魚雷発射用意‼」
最上以外の3隻が発射態勢に入る中、さらに副砲を発射して混乱させる。
『グウゥゥゥゥ……ワルアガキヲォォォ……』
「5倍の相手だって、支えてみせます‼」
羽黒の合図と共に魚雷を発射した瞬間、副砲弾1発がルンガ沖重巡棲姫の喫水線下に命中、足並みを乱させた。
「お願い……当たってっ……」
羽黒が祈るように魚雷の行く先を見つめていると、ルンガ沖重巡棲姫が羽黒に視線を向けた。
「っ……‼」
狙われた、と直感した羽黒は回避できるように態勢を整えた直後、再び敵艦隊が発砲した。
「あぶねぇ‼」
直後、Scharnhorstが羽黒の前に出て庇ってくれた。Scharnhorstはもっとも堅牢なバイタルパートで砲弾を受け止めていた。
「シャ、シャルさん‼」
「へっ、舐めんなよ‼こちとら腐っても戦艦さ‼そんなへなへな弾が通るかぁ‼」
「うんうん。通じるのは提督の主砲でしょっ」
「その通り。Admiralの46cm砲だけ……って変なこと言わせるなっ‼」
実際Scharnhorstは主砲こそ28cm砲だが、その装甲防御力は一説によれば14インチ砲戦艦級とも言われている。
基本的にドイツの軍艦は『低攻撃力・高防御力』が特徴なのである。
そのため、Scharnhorstの損害は小破にすら至っていない。ケッコンカッコカリしているとはいえ、見事な堅牢さである。
「おぅモガーミ。もっとぶち込んでやるぞ‼」
「いいとも!五月雨を、集めて早しって……芭蕉だっけ?」
全員の砲撃が命中するかどうかという瞬間、水面下から大量の水柱が上がってきた。先程発射した魚雷が命中したのだ。
「やった!やりました‼」
この時点で随伴は全滅したが、ルンガ沖重巡棲姫はようやく装甲を破砕して小破に追い込んだところであった。
その後も砲撃を繰り返したが、中々決定打を与えられずに夜戦にもつれ込む。
「提督、夜戦に突入するよ」
『十分注意しろ。相手はまだ十分余力を残していると思う』
「うん、もちろんさ‼」
敵に向けて簡易探照灯が照射される。ルンガ沖重巡棲姫は『グウゥゥゥ……』と強い唸り声を上げてこちらを威嚇してきている。
だが、こちらも一歩も退くつもりはない。
直後、Scharnhorstの体が光り始めた。
「冷たい海に沈むのは……テメェだーっ‼」
5隻の砲撃が同時に着弾し、ルンガ沖重巡棲姫を一気に大破にまで追い込んだ。
「オラオラオラァ‼弾ぁ尽きるまでぶっ放せぇ‼」
全員が砲撃を繰り返し、大破したルンガ沖重巡棲姫は少しずつ破孔が広がっていた。そして遂に、喫水線下に致命傷となる大穴が空いた。
『グアアアァァァァ……‼ソシ、デキナカッタ……ノカ。デモ……ナンデ?ヒカリガミエル……マブ、シイ……!』
波間に消えていったルンガ沖重巡棲姫を見て、ようやく一同の顔が緩んできた。
「良かった……なんとか倒せた……」
「結構厳しかったですね。私、戦力になれてたでしょうか……」
「なに言ってんだDankelk。そんなことに疑問を持つヤツぁここにゃいねーよ。な、皆?」
Scharnhorstの問いに全員が『うん』と頷いた。
「っと、おいでなすったぜ」
そこには、2人の艦娘が立っていた。
「よ、よかった」
「……付いて行って、いい?」
「よろしいでしょうか?」
「えぇ。付いてきてちょうだい」
こうして、部隊は帰投する。
「How is everything?あたしは、Atlanta級防空巡洋艦、Atlanta。Brooklyn生まれ。あなた、提督さん?よろしくね」
「Nice meeting you.Northampton級一番艦、Northampton、ここに。あなたがAdmiral?ご一緒に参りましょう!」
「占守型海防艦一番艦!占守っす!司令、沿岸防御はこの占守に任せるっす!海を守る……海防艦っす!」
「司令、おはようございます‼択捉型海防艦一番艦、択捉です‼今日も頑張ります‼」
「海防艦、松輪です……あの、択捉ちゃん……私も…頑張ります」
「日振型海防艦、一番艦、日振!提督、日振型、着任しました‼頑張りますっ‼」
「伊号潜水艦、巡潜丙型の七番艦、伊四十七。ヨナって呼んでくださいな。ヨナですよ?うふふ、提督、いいですか?」
相も変らぬ大勢着任だったが、今まで見たことのない艦種が入っていた。もっとも、音無も本で読んで存在自体は知っていた。着任した人数は多かったが、音無を含めたその場の全員が注目したのは、背丈の割に明らかに突出しているAtlantaの胸部装甲(おっぱい)だった。
「なんというか、他の鎮守府で撮影した姿を見てはいたが、目の前で見ると凄い存在感だな」
そこは、チャーが補足する。
「なにしろ、軽巡と言っても少し小さめの6000t級の艦体に5インチ砲を集中配備しているから、そのアンバランスな部分が肉体に反映されてるんだな」
「ふん、どうせ提督さんもおっぱいあればいいんでしょ?うっすらだけど、他の私の記憶も伝わってきた。提督はほとんど私のおっぱいに夢中で、出撃させないで抱え込んでる色ボケも多いみたいだし」
しかし、自虐的なAtlantaのセリフを聞いた音無は、立ち上がって目の前に移動し、脳天直撃のチョップをかました。
「うぎゅっ⁉」
「確かにお前のおっぱいはすげぇ魅力的だよ。Saratogaや千歳の胸にしゃぶりついてるから、おっぱい好きは否定しない。けどな、最前線で遊ばせておく余裕はないだろう?しっかり戦ってもらうから覚悟しておけ」
音無は真っ直ぐAtlantaの眼を見て言い切った。その堂々とした態度を見て、Atlantaは目を見開き、直後にフッと笑みを浮かべた。
「そっか、あなたは私を戦力で見てくれるんだ。分かった、頑張ってみるね」
最初の自虐的な表情はどこへやら、可愛らしい笑顔を見せてくれたAtlantaの頭を音無はそっと撫でた。Atlantaとの挨拶を済ませると、音無は改めて海防艦たちの顔を見る。
「海防艦か。今までウチに来ていなかったけど……確か、大雑把に引っ括って対潜能力が高い子が多いんだよな」
「あぁ。と言っても、初期……特に占守型は対ソ連向けの北方沿岸警備だったんだ。だから存在意義としては『準駆逐艦』と言うべき立場なんだ」
「主砲の12cm砲が平射砲だってのもそこに理由があるんだよな」
「ほぇ~。よく知ってるっしゅね~」
こう見えて勤勉な音無である。基本的な情報はほとんど頭に入っている。
「日本の本格的な護衛艦という意味での海防艦って、確か鵜来型辺りからになるんだよな。主砲も高角砲になって、対潜兵器も大幅に増強されてって感じで」
「そうっしゅ。でも残念なことに、基本的に対応が泥縄的対応って感じは否めないっしゅね~。自分で言うのもあれだけど、生き延びたのは奇跡みたいっしゅ」
事実、日本の船団護衛に対する対応はかなり場当たり的というか泥縄的という外なく、同じ潜水艦に悩まされたイギリスとは雲泥の差……とまではいかないが、同盟国の援助もあったとはいえちゃんと立ち直ったイギリスとは比べ物にならないのだ。
「今後は工廠長……チャーが色々装備を見繕ってくれると思うから、それを使って近海警備に勤めて欲しい」
「おぅ、任せとけ」
それを聞いたAtlantaたちは明らかに混乱していた。
「え、ちょっと待って。この人、普通の人間でしょ?」
「そういうのって妖精さんのお仕事なのでは?」
それを聞いた秘書艦のSidneyと側にいた榛名が『あぁ、やっぱりね~』というこれまた温かい目で見守るのだった。
久しぶりの艦娘大混乱ですね(笑)