音無の元に着任した翌日、Atlantaはその異様さに驚かされていた。
「うわ、なにこれ……」
彼女が行ってみた工廠では、妖精さんたちに加えて明石、夕張、さらにUnicornなどの『工廠組』と呼ばれている艦娘たちが動き回っている。
そして、別の場所ではつなぎを着た男性工員も多くいる。武器開発を担当しているギルドのメンバーのことだ。その中で髭を生やした男……チャーがAtlantaの装備である『5inch連装両用砲(集中配備)』を改修しているようだった。
「……よし、こんな感じだな。ほれ、持ってみな」
「え、ちょっと待って。これ……もしかしてGFCS Mk.37!?こ、こんなすごいの作れるの!?っていうか、もう主砲と一体化させてる!?」
「まぁな。なんとかモノにできたぜ」
「えぇ……」
こうしてAtlantaは着任直後に『5inch連装両用砲改(集中配備)&GFCS Mk.37With近接信管』を2つも手に入れたのだった。
これにより本家と比較して対空値+8、命中+10、火力+5という頭おかしい数値を叩きだしているのだ。
近接信管のお陰でそれらの数値上昇に拍車がかかっているのである。
これにはAtlantaも唖然とするほかない。
「……嘘でしょ?」
さらに『SG+SKレーダー』も装備させてもらった。こうして演習に参加したAtlantaは、早速その威力を見せつけることになった。
飛来してきた艦載機隊を相手に、Atlantaは防空演習を開始する。
本来Atlantaの対空カットインは主砲2つでレティクル3つが出てきて砲撃できるというものである(アーケード仕様)。もちろん秋月型や摩耶改二より高い防空能力を誇るため、2023年に登場して以来すでに高い使用率を誇る。
だが、この時披露された対空カットイン……いや、対空弾幕はそれを遥かに上回るものであった。
「叩き落とせ。Fire,Fire!」
その時、Atlantaから多数の砲弾及び機銃弾が空へとばら撒かれた。いや、ばら撒かれたというのはあくまでそう見えるだけのことである。
実際には射撃指揮装置及びレーダーによる照準もあってかなりしっかりと狙いを定めているのだ。
しかも接近した砲弾は全て近接信管を装備しているため、その命中率は既存の高角砲とは比較にならないほどに高くなっている。
「(すごい、すごいよこれ!本当ならこんなの、練度を上げても手に入らないのに!こんなの作れるんだ‼)」
Atlantaは興奮気味に主砲と機銃を撃ち続けていた。いつの間にか、すっかり演習に夢中になっていた。普段は重くなりがちな瞼が、この時はくっきりと開いていたと言えばその差がよく分かるだろう。
その結果、演習で飛ばされた多数の艦載機が撃墜判定を出されたのだった。
中には『江草隊』、『友永隊』といった人外・外道の域に片足を突っ込んだと言われている連中も例外ではなかった。
本来、『ネームド機』と呼ばれる航空隊は対空射撃回避能力があるはずなのだが、それすらもまるで意味をなさないと言わんばかりの猛烈過ぎる『対空弾幕カットイン』であった。
妖精さんも完全に驚いたらしい。これまで最も対空弾幕が激しかった摩耶と秋月を足して二で割らないほどの濃密ぶりだったから当然と言えば当然かもしれない。
『ヤーラーレーター!』
『ナンジャコレー!?』
『アッ、ヨケラレナ……イィッ!?』
『ンギョエエエェェェー‼』
その後は対艦向けの砲撃演習ということで並べられた多数の目標相手に、Atlantaが砲撃を開始する。
「チッ、来んな、来んなよ!」
Atlantaの装備している本来の5inch連装両用砲は38口径127mm砲だが、チャーの改修により口径を50口径まで延長し、初速と命中率を大幅に高めることに成功していた。
元々この5インチ砲は対空砲としては優秀だが、実は散布界が粗いという弱点があるため水上戦闘ではどちらかというと『下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる』に近い部分がある……と言う意見もある。
しかし、初速を高めることで散布界を狭めることに成功し、さらに砲弾の運動エネルギーが上昇することによって威力自体も向上する。
これでやっと1門当たりで日本の駆逐艦と同等の火力を得たことになる。
「すごい……こんなにすごいの知らない……工廠長さん、ありがとう。これならいっぱい戦えるよ」
本来ダウナー気味のAtlantaだが、それを吹き飛ばすくらい嬉しそうにチャーにお礼を言う姿はかなりカワイイ。
「礼はいらねぇよ。もし礼を言いたいなら、それはお前らのことを考えてる音無に直接言ってくれ」
それを言われてAtlantaは『あ……』と声を上げた。
「……提督さんって、いつもあんな感じなの?」
「ん、あんなっていうのは……」
「その……視線はスケベだけどすごく皆のことを考えてくれてるっていうか……あたしみたいな中途半端な奴でもちゃんと戦力にしてくれるっていうか……その……」
顔を赤くしてモジモジして、巨乳をプルプルと震わせているAtlantaを見たチャーは『あぁ、もう堕ちかけてるな』と思わず苦笑していた。
明らかに音無のジゴロっぷりにデレ始めているのだ。
「音無のスケベに関しちゃ悪く思わないでやってくれ。あれはいわゆる不可抗力だ」
「え?」
チャーはようやく真剣な顔をすると、『コホン』と咳払いして話始めた。
「執務室にSaratogaたちがいただろう?お前は他の艦娘の姿までは知らなかっただろうが、今の彼女たちの体は本来のスタイルより全体がふくよかになっている」
「え……そうなの?」
「Saratogaと加賀と翔鶴、伊勢と日向はここの先任提督の時代の艦娘でな、戦闘の最中にやられて鹵獲されたんだ。その後、その許容量を利用した輸送艦に改装された。ある特別任務であいつらを発見してから、音無は着任していた病院船・氷川丸と手術をしたんだ。手術自体は成功したんだが、後遺症で出るようになった母乳に強い強精作用がある。男はすげぇ勃起するし、女は滅茶苦茶性的快感を得やすくなっちまった」
「そんなことになってたの……」
「元々、初めてヤッた相手が千歳だったから、音無は巨乳に反応するようになっていたのは事実だ。しかし、鹵獲改装組の補給を受けるようになって音無の精力はさらに増した。その結果、大抵の女には反応するようになっちまった」
「そっか、それだけは提督さんでもどうしようもないんだ」
「ああ、生理現象のようなものになってるからな。今じゃ補給なしでも連続10発、しかも1ℓ近くの射精を毎回できるそうだ」
「それ、体がもつの?っていうか本当に生物……?」
「水分の確保さえしていりゃな。その不足する栄養を補給するためにも鹵獲組から補給する。すると溜まるからヤる。その循環って訳だ。ま、ある程度で互いに区切りは付けているみたいだけどな」
「日本で言う、堂々巡りに近いってこと?」
「よく知ってるな。ま、そんなもんさ。でも……」
チャーは優しくAtlantaの肩を『ポン』と叩いた。
「あいつの艦娘と、俺たち仲間を思ってくれる心は本物だ。だからって訳じゃないが……多少のスケベ心は寛大に見てやってほしい。なにより、あいつは言って来た相手以外とは夜を共にしちゃいない。相手の気持ちを大切にしてるところは信じてくれ。頼んだぜ」
「……うん、分かった」
実際、チャーの見立て通りAtlantaは既に音無に惹かれ始めていた。だが、だからこそ千歳を始めとする艦娘たちの多くが音無と関係を持っているということを聞いて若干気後れしてしまう部分があった。
その結果、『特別編 戸惑いの防空巡』に繋がることになるのだが……
それはさておき、Atlantaは演習を重ねることで早く実戦に出られるようになりたいと強く願うようになるのだった。
なお、その夜音無が多数の艦娘と体を交える姿を見て『あわわわわわ……』と顔を真っ赤にしつついずれ自分もあのようになりたいと思うようになるのだった。
その翌日、音無はガダルカナル島防衛のため、次の段階に進もうとしていた。
「……これが次に控えている敵か。これって確か、『集積地棲姫』だったな」
「あぁ。地上型深海棲艦の一種で、高い攻撃力を誇るんだが……実は体力が多い割にかなり撃たれ弱い」
「え、そうなのか?」
そう。実は集積地棲姫は攻撃力が高く体力も多いものの、かなり装甲値は弱いというか撃たれ弱いのだ。
三式弾やWG42などを使えば、かなりのダメージを期待できるのが特徴である。
ただ……問題もあった。
「偵察で判明したことだが、敵が控えているこの場所近辺にはやはり空母はいない。だが……厄介なことにこの集積地棲姫がいる近辺は結構水深が浅いこともあって戦艦の運用が不可能なんだ」
「そうか、出撃制限か」
戦艦が出撃できれば三式弾カットインと対地攻撃を両立できるのだが、それはできないとのことである。
だが、そうなればやり方は限られる。
「チャー、航巡と摩耶を呼んでくれ。装備は……」
「わかってるって。言うと思ったよ……ただ、今回は近辺に数は少ないが潜水艦も遊弋しているんだ。せめて、駆逐艦か軽巡を1隻か2隻入れるつもりで行け」
「分かった。じゃあ編成は……」
編成は以下となる。
○ 朝潮改二丁(WG42・特大発動艇&戦車11連隊+陸戦隊(超・熟練)・二式対潜迫撃砲(集中配備)・25mm三連装機銃(集中配備))
○ 大淀改二(15.5cm三連装砲改・紫雲改・特大発動艇&Ⅲ号突撃砲G型+陸戦隊・二式対潜迫撃砲(集中配備)・WG42)
○ 利根改二(20.3cm連装砲(3号)・WG42・三式弾改二・10cm連装高角砲(砲架)・Bofors40mm機関砲)
○ 筑摩改二(20.3cm連装砲(3号)・WG42・三式弾改二・10cm連装高角砲(砲架)・Bofors40mm機関砲)
○ 摩耶改二(20.3cm連装砲(3号)・10cm連装高角砲(砲架)・三式弾改二(近接信管装備)・Bofors40mm機関砲(集中配備))
○ 加賀改二(震電改・震電改・零式艦戦53型(岩本隊)・震電改・彩雲(東カロリン空))
空母がいないとはいえ、集積地棲姫自身が航空機を保有していることもあって対空要員に加賀改二と摩耶改二が、残りの面々は対地及び対潜攻撃要員だ。
本来であれば特化している対地・対潜装備を用意したいところなのだが、潜水艦がいるためにこの迫撃砲にしたのだ。
なお、大淀改二に装備されている『特大発動艇&Ⅲ号突撃砲G型+陸戦隊』はチャーが『特大発動艇&Ⅲ号戦車+陸戦隊』を大改修して作り出した新装備である。
元々『Ⅲ号突撃砲』が『Ⅲ号戦車』の車体を用いて製造された戦闘車両であることから『Ⅲ突』への改造もできるだろうと考えたチャーがⅢ号戦車を改造し、Ⅲ突にしたのである。
戦車砲が60口径50mm戦車砲から76mm砲に強化されているため、高い制圧力を叩きだすことができる代物である。
なお、戦車砲自体は互換性を持たせるために『Tー34(76mm)』のそれと同じにしてあるのも特徴だ。いくら妖精さんの装備の補給がやりやすいとはいえ、一本化、あるいはそれに近い状態にしておくに越したことは無いからである。
軟目標相手には榴弾を、トーチカなどの堅固な相手には徹甲弾を撃ち込むことによる両立も可能となっている。
「集積地棲姫は撃たれ弱いが高い火力が特徴という。周辺にはPT小鬼群もいるらしいから、十分に注意してくれ。朝潮、今回はお前に旗艦を任せる。潜水艦も浅い海域で動き辛いとは思うが……くれぐれも油断しないでくれ」
「はい!駆逐艦朝潮、旗艦の任を拝命しました‼この度の海域、絶対に集積地棲姫を倒して解放して見せます‼」
相変わらず真面目な様子で、思わず音無も微笑ましくなってその頭を『ナデナデ』と優しく撫でるのだった。
「んにゅ……し、司令官……いつまでも朝潮を子供扱いしないでください……♪ん……んにゃぁぁ……♡」
口調は厳しいように聞こえるが、実際には顔を赤らめてモジモジして、さらにニヤニヤを隠せないという顔をして最後には甘えた声を出していることもあって全く説得力はない。
他の皆も『カワイイなぁ』という目で見守っていた。
朝潮ちゃん可愛いよ、朝潮ちゃん。
「よし、総員出動‼」
――ガダルカナル島近郊 大陸棚群島部
朝潮は巡航速度で航行しつつ簡易聴音機で水中の音を拾っている。本来大戦中の聴音機及び探信儀では航行中に潜水艦の音を拾うことはできないのだが、チャーが色々調整してくれたおかげでなんとか航行中でも音を拾うことができるようになっていた。
「航行中でも音が拾えるのは本当にありがたいですね。動きながら音を拾えるお陰で、回避行動が楽になりそうです」
「タービン機関は速度こそ優れてるけど即応性って意味じゃディーゼルには負けるからなー。その点香取たちはスゲーや」
摩耶の言葉通りである。現代のガスタービン機関は即応性に優れており、加速性能を含めて昭和のタービン機関とは比べ物にならない性能を発揮する。
ディーゼル機関もまた然りである。昭和のそれは振動が大きく静粛性という意味では非常に不利だったが、現代では原子力以外の潜水艦では主機関として使われるくらいに能力が向上している。
なお、ディーゼル機関は始動がスムーズなので停泊状態からスムーズに出港できるため、空襲などから他の船より速く避難できるという一面もある。
「でも、最高速度は……っ、水中音探知!」
全員が声を潜め、朝潮の言葉に耳を傾ける。
「スクリュー音……いたっ!潜水艦3隻‼対潜戦闘用意‼陣形、単横陣に‼」
朝潮が多数の迫撃砲が取り付けられた甲板を取り出すと、大淀も同じように準備する。
「頼んだぜ朝潮、大淀」
「うむ。お主らが頼りじゃ」
「もし仕留められなかったら提督からお仕置きしてもらわないとですね~」
「えっ、お、お仕置き!?そ、そんなごほ……破廉恥なのはぁっ!」
「大淀さん、今ご褒美と言いかけましたね。まぁ、否定はしませんが(むふー)」
「静かにしてくださいっ‼」
真面目な朝潮に叱られてしまい、シュンとなる一同。やはり真面目な朝潮はこういう話を嫌うのか……と思っている一同だが、当の朝潮はというと……
「(ししし司令官にお仕置き……お仕置き……な、なんなのでしょうこのイケナイ感じはっ!?なぜか……なぜか興奮してしまいますっ‼)」
真面目過ぎるが故に逆に色々考えてしまい、心拍数……もとい機関の回転数が上昇しているのだった。
「っと、いけませんいけません。攻撃用意‼」
大淀と共に狙いを定め、位置を特定する。
「てーっ‼」
――ドドドンッ‼――
妖精さんたちが迫撃砲の拉縄を引くと、一斉に砲弾が飛び出していき、鈍い水音と共に砲弾が水中に落ちると、調整した深度で砲弾が爆発する。
「どうじゃ?」
「……あっ、圧潰音探知……2隻撃沈確実!……いえ、2隻分に見せかけただけかも……聴音ができるようになるまで雷跡に注意してください!」
「おぅ!」
「了解じゃ!」
潜水艦への対抗策がない一同が前方周辺を警戒するが、相手も混乱しているのか魚雷を撃ってくる気配はなかった。
「次弾装填良し‼」
「てーっ‼」
――ドドドンッ‼――
再び砲弾が落下し、調整された深度で爆発を起こした。今度は先ほどよりも高い水柱が上がったように思えていた。
「これは……圧潰音2つ!」
「それってつまり……」
「……もう少しだけ……着底音、それに……」
多数の油と、腕らしきものや多数の肉片が浮かび上がってきた。これは間違いなく潜水艦型深海棲艦の一部であろう。
しかも、1隻から上がってくるにはかなり多い量であった。
「……撃沈、確実。2隻とも」
その言葉を聞いた一同は『ほぅ』と息を吐いた。
「やれやれ。潜水艦の相手という奴は緊張させられるのぉ。直井副提督殿の元で動いている対潜哨戒班はいつもこんな思いをしておるのか」
「しかも鎮守府近海の中でも特に潜水艦が出没しやすい箇所ですからねー。この比じゃないと思いますよー」
筑摩の言葉に改めてその場にいる全員が怯えるのだった。特に日本軍は潜水艦によって輸送船ばかりか駆逐艦、巡洋艦、戦艦に空母まで撃沈させられていることを考えれば『潜水艦アレルギー』と言われても納得がいくだろう。
「よし。では先へ進みます」
再び目標地点へ向けて航行していくが、目標までの道中でさらに5隻もの潜水艦を沈めてみせた。
朝潮改二丁の元々対潜能力が高めになっていることもあって、本人たちの想像以上にうまく対潜掃討ができているようだった。
さらに、どうやらPT小鬼群の哨戒網にも引っかからなかったらしい。
「間もなく目標地点です。敵は集積地棲姫とその取り巻きの浮遊要塞。十分注意しましょう!加賀さん、摩耶さん」
「えぇ。戦闘機での迎撃はお任せください(むふー)」
「おぅ。敵機は全部あたしがぶっ潰す‼まだまだ新入りに負けねーってところを見せてやるっ!」
「大丈夫ですよ~、摩耶さんなら十分負けませんから~……能力もおっぱいも~」
「そうそう揺れりゃプルプル、でもハリだって~……変なこと言わせてんじゃねぇっ‼」
「お主の自爆じゃろが⁉デカいからって調子に乗りおって!」
「いいじゃないのぉ。利根姉さんも跳ねれば揺れるしぃ」
「揺れるほどないんじゃいっ!」
「自虐かよ⁉」
「静かにしてくださぁい!」
またも困った顔で叫んだ朝潮であった。もはやコント同然である。
なお、その光景を少し離れていたところ……具体的には聴音機と魚雷の範囲外で見ていた潜水カ級が2隻。
『……コウゲキスル?』
『マテ、アワテルナ。コレハカンムスノワナダ』
こうしてカ級2隻は海域を離れていったのだった……。
「敵航空機飛来!摩耶さん‼」
向かって来た航空機はまず震電改と零式艦戦53型(岩本隊)の迎撃を受け、一気にその数を減らしていく。
制空権は完全に確保できた状態である。
「おぅ!ぶっ殺されてぇか‼」
摩耶の艤装から高角砲弾と機銃弾が多数発射されると、それはまるで光のシャワーとでも言うべきほどの密度となって敵機に襲い掛かった。
敵機も高い能力を持っているはずなのだが、練度の高い防空巡洋艦と化した摩耶の前では無意味であった。
「ふっふーん♪」
摩耶のドヤ顔にイラついたのか、集積地棲姫はすぐに次を送り込んできた。だが、それは加賀の戦闘機隊と摩耶の防空網の前に全て撃墜されたのだった。
「では、接敵します‼」
幸い随伴艦隊はいないようで、集積地棲姫のみである。
『オノレェェェェ……セッカクアツメタブッシ……ヤラセハシナイヨォ‼』
青白い肌に眼鏡をかけ、ヘッドホンを着けた女性がこちらを睨みつけてくるが、艦載機が尽きていることもあって先制での航空攻撃はできなくなっている。
集積地棲姫は砲撃も試みているが散布界が粗いようで、全て遠弾ばかりである。しかし、集積地棲姫の周囲はPT小鬼群が固めている。彼らは盾にこそならないが集積地棲姫の代わりに魚雷を発射してくるため、接近するには十分注意が必要である。
これが事前の情報であった。
「副砲、撃ち方始めーっ‼」
朝潮と加賀以外の4隻が副砲を撃ち込むと何発か集積地棲姫及び要塞に命中する。しかし、今回は至近弾を出すことができなかった。
それでもその隙に至近距離まで接近すると、単縦陣で全員が並ぶように横向きになり、砲撃を開始する。
「まだまだ、筑摩の奴には負けんぞっ‼」
放たれた砲弾とロケット弾は一部集積地棲姫に向かうはずだったのだが、やはりと言うべきか浮遊要塞が集積地棲姫を守るように展開して『庇う』行動を起こした。
それでも庇った浮遊要塞は一撃で爆発四散したため、全く無駄という訳ではなかった。今の一撃だけで2基の要塞が爆発して消え、さらに1基が大破したのは幸いだったと言えよう。
「気ぃ抜くな‼砲撃くるぞぉ‼」
摩耶の言葉通り、集積地棲姫も再び砲撃を開始した。その砲撃は先ほどの比ではなく正確であり、今度は摩耶に命中した。
「摩耶!」
「んだよぉ、クソがぁっ‼」
流石に装甲値の薄さの代わりに攻撃力が高いというのは伊達ではなく、すでにケッコン済みで練度も130近い摩耶がクリティカルヒットを叩きだされ、一撃で中破にまで追い込まれていた。
戦艦と比べても遜色のない、非常に高い攻撃力に思わず冷や汗を流す一同だったが、だからと言って怯んでもいられない。
「右弦、砲戦用意‼」
筑摩の言葉と共に再び砲弾とロケット弾が放たれると、今度は1基の要塞を潰した上に庇った要塞を貫通してくれた弾があった。
貫通弾を喰らった集積地棲姫は強烈な衝撃に身悶えし、『ギャアアァァァッ‼』と苦しそうな声を上げた。
今の一撃だけで小破状態である『混乱』に追い込めたらしく、明らかに狙いがズレ始めていた。
「今の内です‼少しでも体力を多く削りましょう‼」
朝潮の言葉に乗るように全員が艦隊運動を行い、敵の攻撃をかわしつつ砲撃を続行する。だが、もちろんそればかりですまない時もあった。
「っ、雷跡確認っ‼回避運動っ‼」
岸に立つPT小鬼群から放たれた魚雷を朝潮が素早く見極めたため、一時的に沖合へ退避して魚雷をかわして見せた。
「へっ、そんなノロノロ魚雷が当たってたまるかよぉ‼ぶち当てたけりゃ酸素魚雷でも持ってきやがれぇ‼」
「摩耶さん、中破しながら強がってもあまりカッコ良くないですよ~」
「っるせぇ!ノリだよノリ‼」
そうこうしつつ砲撃を繰り返しているうちになんとか要塞を全滅させ、さらに集積地棲姫を『損害』状態まで追い込むことはできた。
だが、そこで夜戦時間になってしまう。
「司令官。朝潮戦隊、夜戦に突入します‼」
『出し惜しみはなしだ‼戦車もぶち込んでやれ‼』
「はいっ‼」
夜戦に入った直後、朝潮は大発を発進させた。
「この海域から出て行け‼」
朝潮から発進した特大発動艇が揚陸地点に辿り着くと、すぐに戦車隊と陸戦隊が飛び出していく。
『ウテーッ‼』
陸戦隊の迫撃砲と戦車隊の榴弾が直撃すると、集積地棲姫にダメージが加わってさらに動きが鈍くなる。
「皆さん、一斉に!」
「全砲門、よーく狙って……てーっ‼」
大淀を筆頭に全員が砲撃すると、ようやく猛烈な爆炎の中に集積地棲姫が消えていったのだった。
「良かったぁ……」
「やりました♪」
これで深海棲艦の補給路を断つことができた。あとは、残存している敵主力艦隊を打ち破るのみである。
「あっ、艦娘ですね……一緒に来てください。司令官に紹介します」
「あっ!ありがとうございます!」
その艦娘を連れ、艦隊は帰投する。
「My name is Helena.St.Louis class軽巡洋艦二番艦USS CL Helena よろしくね!」
「占守型海防艦、その二番艦、国後。なにそれ?違うけど?そうね、クナって……呼んでもらってもいいけど」
「択捉型海防艦!三番艦の佐渡様だぜ。シ・レ・い。よろしくな!ヒヒ!」
「御蔵型海防艦、一番艦、御蔵。着任します。提督、御蔵型、何卒宜しくお願い致します。体は小さいですが、力の限り務めます」
「提督、迅鯨型潜水母艦二番艦、長鯨です!」
最後に着任した艦娘の名乗りを聞いた音無……はともかく艦娘たちが『ひぃっ‼』と声を上げて後ずさった。
「あ、迅鯨の妹か。道理でよく似てると思った……」
服の雰囲気はもちろん、母艦と名の付く艦隊に恥じない胸部装甲(おっぱい)とムチムチ具合は迅鯨の妹であると音無は感じていた。
「はい!いつも姉が大変お世話になっています‼はいっ!潜水艦のお世話は私にお任せですよ?」
長鯨のフレンドリーな雰囲気にもかかわらず、艦娘たちは若干引いたままだ。
迅鯨は着任してからとにかく音無とイチャつこうとしょっちゅうアピールしてきているため、他の艦娘もとっつきにくい印象があるようだ。
「……あの、この鎮守府でも姉がなにか問題を……?」
「えぇと、まぁその……問題だらけと言うべきかなんというか……」
出撃した大淀に代わって秘書艦をしている妙高が冷や汗を流しながら頬をかくと、音無は動じることなく答える。
「最初は皆のイメージ通りの受け答えだったよ。普段は強気な摩耶が、真っ青になって後ろに下がったくらいだったからな」
音無がそんな話をした頃、入渠していた摩耶が背筋を震わせていたと音無は後で大淀から聞いた。
「でもな、ちゃんと顔見て話をさせて、俺のどこが好きか考えさせるようにした」
「すご、私の知る姉さんなら慕っている場合あっという間に色気と押しの強さで提督を黙らせているのに……」
「「「「「脅迫犯か⁉」」」」」
思わずその場にいた艦娘たちがそうツッコミを入れた。
「俺は少し前に記憶を失っていた時期があってな。分からないことほど怖いものがないってのを肌で痛感している。だから、迅鯨には俺を知らないまま好きでいてほしくなかったんだ。迅鯨には、俺を知って、なんで俺を好きな自分なのかを知ってもらいたいと思っている」
ほんの少し話を聞いただけで、音無は迅鯨を嫌っているわけではないということを長鯨は察した。こういう人物なら、姉を無碍にするようなことは無いだろうと思えた。
「ありがとうございます、姉を受け入れてくれて。ついでに、私も受け入れていただけると幸いです」
「ついでなんてことは言わない。ここは猫の手も借りたい最前線だ。皆大切な戦力で、仲間だよ。頼りにしてるぜ、長鯨」
「っ!……はいっ!」
てっきり潜水母艦なんていらないと言われると思っていたので、長鯨は頬を震わせながら笑みを浮かべ、敬礼をした。
他の面々も『ほっ』と一息つくのだった。
「これで残るは敵艦隊主力部隊のみか……遠征で少しでも足止めしておくか」
「え?一気に攻撃しないんですか、提督?」
疑問を浮かべた妙高に音無は『そうだな』と動じることなく答えた。
「今攻勢を仕掛ければ、前衛と補給地点がやられていることで備えている敵の真っただ中に突っ込む形になる。なら、皆の疲労や損傷を少しでも回復させておきたいな」
「あぁ、それも一理ありますね」
「それに、時間を置けば備えている敵にも肩透かしを食らわせることができる。逆に潜水艦を派遣して夜襲させて、敵の力を削ぐというのもいいと思ってる」
「えぇ……そこまで考えてらっしゃったのですか……」
「敵に少しでも損害を与えて、緊張の限界に達せさせるのも戦略の1つさ。向こうがそこまで考えてくれるくらい知的ならいいけどな」
「なるほど……了解しました、では本日はこのくらいにしておくということで」
「あぁ。悪いけどイムヤを呼んでくれ。敵主力艦隊にちょっかいをかけてもらう」
「わかりました。イムヤさんたちに通達しておきますね」
イムヤたち潜水艦娘はこれまで出番がなかったのだが、ここにきてようやく出番と言えることになりそうだ。
「確か、チャーが調整してくれた夜間型瑞雲があったよな。あれも搭載しよう。あれと同時に攻撃させれば高い戦果を得られるはずだ。敵の場所に関しては月光に探らせて……」
そんな音無が指示を出している光景を、じーっと見つめている艦娘がいた。誰あろう、Atlantaであった。
「……よし」
果たして、彼女の考えやいかに……
次の話は3年近く前にこの話を書いた頃に一緒に書いた、Atlantaドロップ祈願の時の特別編です。
オチは……あります。