それを言わないでくださいな……
翌日、朝食を摂った音無はガダルカナル島周辺の海図を見ながら作戦を考えていた。つい先日に潜水艦隊による支援攻撃をさせたため、近辺の戦力はある程度ではあるが漸減させることができているはずであった。
それを想定して敵艦隊の数の把握と編成の決断をしなければならない。
傍らでは本日の秘書艦を務めている初月がメモを纏めていた。
「今回の敵と戦うのに連合艦隊を組む必要がある、か……初めてだな、連合艦隊は」
「敵の主力艦隊も12隻いるからな。こちらもそれに対応できる数を揃えられる状態ということか……確かに厳しいな」
これが本当の戦争であれば『近い水準ならとにかく圧倒的な数を揃えた方が強い』のだが、『艦隊これくしょん』の出撃に関するルールではそのパワーバランスがかなり厳しく制限されているようだ。
「敵主力艦隊が『北方水姫・空母ヲ級FlagShip・戦艦ル級FlagShip改・戦艦タ級FlagShip・重巡リ級FlagShip改・駆逐ナ級後期型』と『戦艦ル級FlagShip×2・軽巡ト級×2・駆逐ハ級FlagShip』か……かなり重厚な布陣になっているな。まぁ、航空攻撃をしてくるのが本命の主力艦隊だけって言うのがせめてもの救いか」
「うん、そうだな。ところで提督、どんな編成にするつもりだ?」
「……既に決めている。相手のことを考えると、空母機動部隊でしっかり制空権を取っておきたい」
「機動部隊か……第一艦隊が空母2隻以上、戦艦系列2隻まで、だったな」
「あぁ、だからこうするつもりだ」
第一艦隊
○ 瑞鶴改二
○ 翔鶴改二
○ 最上改二
○ 初月改
○ 伊勢改二
○ 日向改二
第二艦隊
○ 由良改二
○ 萩風改二
○ プレムダ(元ドゥブロヴニク)
○ 鳥海改二
○ Gneisenau Zwei
○ マラート ヌオヴァ(改二)
なお、『萩風改二』は本来の……と言うより2023年現在(執筆当時)の艦これには存在しない『If改装』であり、基本的な性能は陽炎型改二と同じだが、PTボートを倒したことがあることもあってか天霧改二同様に『PTボート特効』を持っている。
また、初期装備は以下となる。
○ 12.7cm連装砲C型改二
○ 22号対水上電探改四(後期調整型)
○ 熟練見張り員
萩風が夜戦でレーダー照準射撃が元で沈んだことからか、同じようにレーダーを含めた索敵能力を充実させた装備編成のようだ。
なお、当然補強増設をしているため、補強増設の枠に熟練見張り員を、開いた3スロ目には『四連装(酸素)魚雷発射管(後期型)』を装備することでフィット補正もありかなり高い能力を発揮するようになっている。
「ありがとうございます、司令官っ。これで私、もう夜も怖くありませんっ」
ヒマワリが咲くような笑顔で笑いながら抱き着いてくる萩風を抱きしめてやる音無だったが、下半身はしっかりと『乳風』と呼ばれる豊満な乳房に反応している。
大概の面々は『まぁ、そうだよねぇ』という某ネコ型ロボットのごとき『温かい目』で見ているのだった。
ちなみにプレムダがいるのは、本人の希望であった。
本人曰く、『私ならきっと、力になれると思うから』とのことだが、これは本人がヨーロッパ艦娘の1隻で特効があると考えられるからである。
ちなみにチャーに言わせれば『ソ連艦が相手ってことならタシュケントでもいればなぁ』ということらしい。
タシュケントは確かにソ連の嚮導駆逐艦だが、実は生まれはイタリアという中々数奇な艦でもある。
音無は編成にあたって艦娘たちの希望もある程度聞きつつ、『これはいい』と思った編成を組む。第1艦隊は完全に空母機動部隊とその直掩となる艦娘ばかりである。
特に初月は防空の直掩として腕を振るってもらうつもりである。なにせ初月はSSS鎮守府で最も古参の秋月型ということもあって、最も練度が高い。
特別海域の空母直掩は彼女に任せようという音無の厚い信頼であった。
「皆。この戦いを終えて、マラートのお姉ちゃんを救う。頼むぞ‼」
「任せてよっ、提督さん!」
「由良、頑張っちゃいますねっ。ねっ」
それぞれ旗艦を任せた2人は自信たっぷりに頷く。これまで音無の下で鍛え上げて来たその実力を、いかんなく発揮するつもりであった。
――ガダルカナル島近辺
艦隊から多数の索敵機が飛び立っている。改装航空戦艦である伊勢と日向には多数の『瑞雲改二(六三四空)』が搭載されている。
東西南北全てをカバーするこの物量は、それだけで脅威と言えよう。中には故障する機もなくはないが、最上に搭載されている『熟練艦載機整備員』の力で素早く整備、復帰できるようにしてくれているので問題ない。
「あ、偵察機より入電。前衛艦隊発見だって!『軽母ヌ級FlagShip1・軽巡ト級FlagShip×2・駆逐ハ級Elite×3』の艦隊だよ‼」
「正しく前衛だな。瑞鶴、どうする?」
日向に問われた瑞鶴は『決まってるじゃない』と正規空母としてとは薄いと言われる胸(失礼)を張る。
「相手がこっちに気付いていないなら、やっぱアウトレンジしなくっちゃ‼」
「そう言うと思った」
「まぁ、そうなるな」
伊勢も日向も、最上たちも苦笑しているがこれが瑞鶴という少女なのである。
「じゃあ行きますか。伊勢航空隊、発艦始め‼」
手筈はこうだ。まず先行して戦闘機が飛んでいき、敵上空の直掩機を一気に殲滅する。
そしてその後艦爆が突っ込んで航空甲板を破壊し、最後に艦攻が魚雷攻撃を見舞う。
元々空母艦載機の戦いというのは艦戦・艦爆・艦攻の3種類が共に飛んでいき、敵艦隊上空に到達すると戦闘機が敵直掩隊と戦闘し、その隙を縫うように攻撃隊が攻撃を仕掛けるというものであった。
これは同水準の相手に取るべき方法だと音無は考えていたため、こちらに『震電改』及び『零式艦戦53型(岩本隊)』のような圧倒的制空力を持つチームが存在する場合には別の方法を取るべきだという発案であった。
つまり、『先に敵戦闘機を潰して、次の直掩が出てくる前に空母の甲板や対空火器を潰してしまえば、敵の防空能力が大幅に減殺されて必殺の航空魚雷を叩きこみやすくなる』という考え方である。
音無はこれを『艦戦先行強襲戦法』と名付け、このところ空母艦娘たちに訓練させていた。
最初こそこれまでと違う戦い方に戸惑うことも多かった艦娘たちだったが、訓練を続けるうちにいつの間にかすっかりそちらに慣れつつあった。
事実、これならば戦闘機隊が持ち前の高速力と高高度からの速度差を発揮しやすくなるため、性能差をさらに広げやすくなる可能性が高いのだ。
ただしこれは、相手に高性能の電探がないことが前提である。
そこで音無がさらに考えたのが、妨害電波装置によるレーダー妨害戦法であった。
まずは実験として基地航空隊に配備されている中でも長距離航行可能な『Bー25』及び『一式陸上攻撃機』のような機体に大きな改造を施し、電波妨害システムを取り付けたのだ。
また、空母で運用するためにアメリカ式の小型レーダー妨害電波装置を搭載したSkyRaiderも搭載している。
この機体が先行して飛び回りながら敵のレーダーを妨害する妨害電波を発し、その隙に戦闘機隊が侵入して攻撃すれば相手に気付かれる可能性がぐっと減る。
第二次世界大戦水準の能力を持つ艦娘たちの運用でそこまで考え着くあたり、音無の思考回路の明晰さが窺える。
一方でこちらはレーダー妨害を受けにくくするためにレーダー波の波長をさらに進歩させたものとなっている。
現在明らかになっている限りだが、深海棲艦が使用していると思しきレーダー波がかなり感覚の広いメートル波長なのに対して、SSS鎮守府の方はかなり小さなミリ波長とすることで、相手はレーダーを塞がれつつ自分たちは運用可能という状態を作り出すことに成功していた。
そして、その効果は絶大だった。
敵艦隊上空に到達した震電改部隊と岩本隊は高高度を活かして一気に強襲をかけた。上空警戒していたはずの敵直掩隊は軽空母ということもあって数が少なく、ほぼ一瞬で全てが薙ぎ鎌で刈り取られてしまったかのように撃墜された。
軽母ヌ級は慌てて口を開けようとしたが、まず震電改の30mm機関砲を多数食らい、発艦を妨害されてしまう。さらに直後に襲来していた瑞雲改二のロケット弾が数発命中すると、もう中破して艦載機運用が不可能になってしまった。
制空隊の損害はなんと脅威の0であった。
そこに瑞雲に続くように爆装したSkyRaiderが突っ込んでくる。SkyRaiderの翼下にも5インチロケット弾が多数搭載されており、急降下爆撃の前段階と言わんばかりに多数が発射された。
多数命中したロケット弾は当たり所が良かったのか、駆逐艦1隻を大爆発の後炎上、再び爆発が起きた時には駆逐艦が海の底に沈んでいった。
恐らく、魚雷発射管に命中して魚雷に誘爆したのだろう。
そして急降下爆撃で強力な800kg徹甲爆弾を次々と叩きつけると、元々装甲の貧弱な駆逐艦は呆気なく爆発炎上、2隻ともほぼ一瞬で沈んでしまった。
軽巡ト級だけはそれなりの対空砲火を上げていたが、これもその多くがロケット弾と爆弾、機銃掃射で無力化されていく。
敵戦力の8割を無効化したところで本命の雷撃隊が突入していき、必要と思われる魚雷を多数投下していく。
かわされることも想定して、時間差で多少ばらつきを出すところにミソがある。
その結果、攻撃隊もSkyRaiderが3機被弾しただけで敵艦隊を殲滅することに成功していた。
いくら性能差と高攻撃力があるとはいえ、あまりにも強烈すぎる戦果である。
「敵艦隊全滅!やったぁ‼」
「うわぁ、ここまでやると流石に凄いねぇ……僕の瑞雲も活躍したようでよかったよ。ね、日向さん」
「ふっ、当然だ。なにせ瑞雲なのだからな」
日向がドヤ顔をするが、いつものことなので皆無反応である。
付いてきている第2艦隊の面々も完全に苦笑していた。
その後も3つの敵艦隊に遭遇したが、どれも接敵前に航空攻撃で全滅、或いは無力化することに成功していたため、艦隊には全く傷がついていない状態であった。
艦載機に関しても主力に辿り着くまでの損害は制空隊の岩本隊が2機撃墜、2機が損傷、攻撃隊ではSkyRaiderが4機損傷、1機撃墜されただけという状態である。
敢えて言おう。『圧倒的ではないか、我が軍は』と言うところか。
だが、ガダルカナル島が近付くにつれて一同の顔には緊張が走る。
なぜなら、明らかに暗雲が垂れ込めてきているのだ。恐らく『姫』級が放つ特殊なオーラのせいだろう。
「いよいよね……伊勢さんたちの偵察機からの報告は?」
「ちょっと待って……来た!敵主力艦隊発見!『北方水姫・空母ヲ級FlagShip改・戦艦ル級FlagShip改・軽巡ツ級Elite・駆逐ナ級FlagShip×2』及び……げっ!」
「どうしたの?」
「……随伴艦隊に『欧州装甲空母棲姫・戦艦タ級FlagShip×2・重巡ネ級×2・軽巡ト級Elite』がいる……どっちもメッチャ厄介なんだけど!?」
「事前情報と違う艦隊か……工廠長の言う通り、パラドックス現象が起きている影響かしらね。でも、だからって逃げるわけにはいかないわ」
「そうだね。できれば主力だけでも先に削っておきたいから、見つからないうちに反復攻撃できればベストかな?」
「瑞鶴、どうする?」
初月の言葉に瑞鶴は『だーかーら』と笑って見せた。
「それにはやっぱり、アウトレンジでしょっ‼」
「やっぱり言うと思った(笑)」
「まぁ、そうなるな」
そんな漫才染みたやり取りをしつつ、再び艦載機を発艦させる。損傷した機体の一部は艦内の予備パーツなどである程度修繕が見込めたため、機数が少しだけ回復している。
「日向航空隊、発艦始め‼」
先頭を切る制空隊が飛んでいくが、北方水姫と空母ヲ級FlagShip改から艦載機が飛び出してくる。
空母ヲ級FlagShip改の艦載機は白い玉に羽が生えたような通称『タコヤキ』、『ネコ』とも呼ばれる強化型のタイプであった。
かなり航空能力が高いのが特徴で、岩本隊などの高性能部隊でもかなり苦戦させられるのが特徴だ。
しかし、震電改も岩本隊も臆することなく高高度から攻撃を仕掛けていく。
幸いなことにレーダー妨害をしていた影響なのか、敵の対応は明らかに遅かった。直掩隊が迎撃をしようとする前に震電改の30mm機関砲が次々と火を噴く。
短砲身とはいえ12.7mm、20mmよりも射程の長い30mmは敵よりも先に攻撃を仕掛けることができる。
敵艦載機は自分たちの射程に入る前に次々と粉砕されていくうえ、攻撃を避けようとしたところで今度は運動性能の高い岩本隊の零式艦戦53型が距離を詰めて、必殺の20mmを叩きこむ。
それによって敵直掩隊は完全に混乱に陥ってしまった。
その後で艦娘の艦載機隊……まずは急降下爆撃を担当するSkyRaiderと瑞雲改二(六三四空)が敵の対空砲火を避けつつ敵艦隊に突っ込んでいく。
まずは手始めにとロケット弾と機銃掃射で一気に対空砲火を漸減させ、さらに胴体下の500kg爆弾及び800kg爆弾を次々と叩きつけていく。
彼らの『知識』にある艦娘たちの攻撃とはレベルの違う威力に目を白黒させる北方水姫たちだが、それでも必死になって対空砲火を撃ち続ける。
だが皮肉なことに、対空能力が高いのは軽巡ツ級Eliteのみということもあり、全体としては対処が追いついていない。それでも、ツ級Eliteだけは負けじと猛烈な対空砲火を上げてきた。
しかし、そのツ級Eliteが800kg爆弾で大破すると一気に対空砲火の密度が薄くなってしまう。
そこに対空砲火を潜り抜けて来た多数の爆弾とロケット弾が叩きつけられていき、さらにその後魚雷を抱えたSkyRaiderが多数の魚雷を叩きこんだことで、次々と敵艦は中大破していく。
それでも旗艦である北方水姫は弩級戦艦クラスと雖も深海棲艦としての堅牢さ故か小破にとどまっている。
「段々新型艦載機の運用にも慣れて来たみたいね。まさか姫級と強化型深海棲艦のいる艦隊相手に一度の攻撃でここまでの戦果を挙げられてるなんて思いもしなかったわ」
繰り返しにはなるが、北方水姫が小破、戦艦ル級FlagShip改が中破で残っている状態である。
「反復攻撃すれば主力艦隊『は』倒せるけど……そうなると、あの欧州装甲空母棲姫が撤退してどこかで悪さするかもしれないのよね……こうなったら、損害覚悟で接敵して、先に弱った北方水姫を倒す。そして一気に随伴艦隊に攻撃を仕掛けないと……伊勢さん、日向さん。悪いけど接敵したらすぐに立体攻撃をして欲しいの」
「なるほどね。それで一気に主力を潰して、そこから随伴艦隊を潰そうってことね。空母も怖いけど……艦娘にとっては戦艦の砲撃も厄介だわ。とりあえず突っ込んで行くしかないわね」
「だが、本来私たち戦艦は傷付いても戦う存在だ。だから、傷付くことを恐れてはいられないな」
「戦艦が簡単に沈むか‼ってやつね」
伊勢と日向の言葉に一同も頷く。皆覚悟はできているようだ。
「初月、防空は任せたわよ。第2艦隊は一応ブレムダに防空装備を持たせているけど……正直、あなたにかかってるわ」
「あぁ、任せてくれ瑞鶴。今度も守ってみせるさ」
ボーイッシュな顔立ちの初月が笑いながら前歯を『キラン』と光らせると、大変画になる姿であった。
その姿に頼もしさを覚えつつ、艦隊は突入する。
「敵艦隊発見。両舷一杯‼」
北方水姫はこちらを視認するや否や、すぐに攻撃準備をしてきた。しかも、ある程度艦載機が残っているらしく航空機発艦の用意をしている。
『ニガサナイヨォォォォ……チャクテイスルノハオマエラダァ‼』
「このままじゃマズい‼伊勢さん、日向さん‼」
「よし‼」
伊勢が北方水姫よりも早く攻撃態勢に入る。伊勢の思考が一気に加速している。
いわば、某カブトムシ仮面ライダーの『クロック○ップ』のような状態だと言えば分かりやすいだろうか。
今、北方水姫の動きが伊勢の眼にはとても緩やかに見えている。
「よし!伊勢航空隊、発艦始め‼」
伊勢から発艦した彗星隊が急降下体勢に入ると同時に、伊勢が『41cm三連装砲改二』の砲撃体勢に入る。
「さぁ、行っちゃいましょうか‼」
放たれた砲弾は、まるで吸い込まれるように北方水姫に向かっていく。しかし、そこで戦艦ル級FlagShip改が前へ出て庇ってきた。
集中砲火を受けたル級FlagShip改は猛烈な爆発と共に瞬時に轟沈したが、北方水姫は中破でとどまっていた。
『オ、オノレェェェ……ツブシテヤルヨォ‼』
「っ、やるじゃない‼」
「後方の随伴艦隊、航空攻撃の模様‼狙いは……第一艦隊!」
「初月っ‼」
瑞鶴の掛声と共に初月の体が金色のオーラに包まれる。
「僕が行こう。撃てっ、撃てっ‼」
不気味な音と共に襲来する敵編隊だが、相手が装甲空母ということもあってか搭載数自体はそれほど多くなさそうなのが救いであった。
初月には『13号対空電探改+22号対水上電探改四(後期調整型)』が搭載されている。
これはチャーが『マストにセットで設置できないか』と研究していたら出来上がったもので、今や全ての22号と13号をこれに集約しようと奮闘中である。
これをやるだけで水上・対空電探が共に使えるという計算になるのだからそれは当然のことだろう。
索敵能力と精度が大幅に増している電探、さらに高射装置によって狙いを定めると、初月が猛烈な対空砲火を放ち始める。
『長十糎砲ちゃん』も引き締まった顔で連続砲撃を続けており、敵機が瞬く間に擦り減っていった。
そして……最後の1機が直前に迫ったところで機銃が火を噴き、敵機を穴だらけにしてこれも撃墜することに成功する。
「悪くないな」
一方艦隊は既に中距離に入っており、副砲の連続発射による猛烈な攻撃を始めていた。撃沈こそできないものの、敵を大破にまで追い込めれば戦闘力は大幅に削がれる。
『ギャアアアアァァァァ‼イタイ、イタイイィィィィッ‼』
「喚くな、同志姉上‼今……楽にしてやるっ‼」
直後、日向とマラートの身体が金色に光り始めた。
「面倒だな、これで決めさせてもらう」
「私は戦艦だ!その本分、見せてやるともっ‼」
既に短距離に入っていた艦隊からは、駆逐艦を含めて一斉に砲撃が放たれる。その多数が命中し、北方水姫は大破にまで追い込まれた。
そこに連合艦隊の連続砲撃が次々と着弾し、一気に体力を削り切った。
北方水姫は炎の中で断末魔をあげながら水の中へと消えていったのだった……。
「や、やった‼」
「でも皆さん、まだ随伴艦隊が……」
萩風の言葉が終わるか終わらないかと言うところで、第一艦隊に多数の命中弾が出てしまった。
「くっ……当ててくるな」
「この私が被弾するなんて‼誘爆を防いで‼」
既に敵随伴艦隊も中距離に迫っており、戦艦と巡洋艦の砲撃が命中して日向と瑞鶴が中破してしまった。
欧州装甲空母棲姫以外の5隻が全て中射程ということと、重巡ネ級が存在することもあってその火力はかなり高い。
しかし、攻撃に気付いた一同はすぐに方向を変えて副砲を発射し始めた。
「このこのこのぉっ‼傷付いたらシャルお姉様に合わせる顔がありませんわ‼」
「よくも日向を……倍返しよっ‼」
さらに第二艦隊と最上が敵の進路上にばらまくようにして魚雷を発射した。
敵艦隊に魚雷が到達した瞬間、鳥海の魚雷が青白い発光現象を起こした。これこそアーケード版における『魚雷カットイン』である(ブラウザ版では夜戦で発生するヤツだが、それとは別)。
カットインのお陰で強化された魚雷が命中した敵随伴艦隊はネ級1隻とト級Eliteが轟沈、タ級FlagShipが2隻とも中破し、欧州装甲空母棲姫が小破した。
そこで短距離に詰めると、再び敵の巡洋艦が砲撃してきた。今度はGneisenauに砲弾が集中し、彼女を中破させてしまう。
「んぎょえぇぇっ!?う、動いていればなんとかなりますわっ‼」
すると、翔鶴の妖精さんが翔鶴に『ぐっ』とサムズアップしてみせる。
「よし……直掩隊も、攻撃隊の援護に回って‼」
果たしてその言葉通りに、翔鶴と伊勢の攻撃隊が一気に展開し、敵艦隊に猛攻を仕掛けていく。これまで小破だった欧州装甲空母棲姫もまた、これによって大破にまで追い込まれてしまった。
また、ようやくネ級も全滅し、ト級Eliteも沈んだ。
残るはタ級FlagShipと欧州装甲空母棲姫だけである。
そこで砲撃しようとした時、最上と萩風の体が光り出した。
「今の僕は負けないよっ。甘い甘い‼」
「攻撃開始‼撃ち方始めっ……もう、負けませんっ‼」
2人のダブルカットインから砲撃が始まり、暴風のごとき砲弾の爆発とその衝撃波が敵艦隊を襲った。
最初の一撃でタ級FlagShipが沈み、欧州装甲空母棲姫も空母以外の全員から攻撃を受けたことで体力が擦り減っていき、遂に限界を迎えたのか大きな泡を立てながら沈んでいったのだった……。
「や、やったぁ……」
「結構危なかったですね。ねっ」
瑞鶴と由良の言葉に他の面々も力なく頷いていた。
その直後、近辺でも多数の爆発が発生している様子が確認できた。
「近辺の艦隊も攻撃を開始したみたいね。これなら……ガダルカナル島は守り切れると思うわ」
すると、2人の艦娘が水平線の彼方から姿を現した。
1人は白い髪を持つ、南方という環境を考慮するとかなり暑そうに見える格好の女性。
もう1人はコンパウンドボウを持った金髪の女性だった。
「どこかの艦隊か?」
「……えぇ。あなたたちを待ってたわ」
「?……あっ、同志妹‼な、なぜこんな所に!?」
白い髪の女性に声をかけられたマラートがようやく微笑みを見せた。
「それを説明するためにも、ぜひ付いてきて欲しい。同志姉上」
こうして、2人の艦娘を伴って艦隊は帰投した。
「貴様が提督というヤツか。ふん、ガングート級一番艦、ガングートだ……いい面構えだ。いいだろう」
「私がAircraft Carrier HMS Victorious。お前が提督か。よかろう。お前と征こうか、この海を‼」
「丁型海防艦、第三〇号、みとです。よろしくお願いします。みとのできる限り……皆さんをお守りするつもりです」
「Buongiorの!イタリア生まれの最新鋭軽巡Giuseppe Garibaldiだ。長いって?そうだな。Garibaldiでいいよ。よろしくな」
「あ、あたし、あたしが八丈よ。そ、占守型。海防艦ねハチ?んー、まあ、いっか。そう呼ばせてあげる。よろしくね」
「択捉型海防艦、対馬。ここに。南方航路防衛用に建造されたこの体……存分に働くつもりですから。楽しみに……ね♪」
最後の対馬の姿を見た瞬間、マラートの説明を待たずに立ち上がり、音無は対馬と名乗る少女を抱き上げて叫んでいた。
「どうした如月!?もっと縮んでぇっ!?」
「あらあら司令かぁん、如月はぁ、ここですよぉ?」
「如月が2人!?これが建造のパラドックス現象かぁ!?それともブラウザ版にあると言われる同じ艦娘が2人いることができるってヤツかぁ!?」
「ちょっと待って意味が分からない」
眼をグルグルと回してかなり混乱しているらしい音無を見て、伊勢たちは思わずクスクスと笑っていた。
「提督。対馬ちゃんは駆逐艦じゃなくて、本人の言う通り択捉型の海防艦ですよ。まぁ……お色気キャラって意味じゃよく似てますけどね。それより提督、もう1人忘れてますよ?」
「え?……あ、悪い悪い。ちょっとインパクトが強すぎてな」
音無の視線の先には、少しイムヤに似た雰囲気のスクール水着を着た少女が立っていた。
「い、いえ。お気遣いなく。改めまして。私は伊号潜水艦の海大7型が1隻、伊176です!」
「伊176……そっか。イムヤたちと同じで太平洋戦争時の新鋭だった航洋型潜水艦か」
「はい!自慢じゃありませんけど……私こう見えて、すごい戦歴持ってるんですよ‼自慢してもいいでしょうか?」
どうやら自慢したいと思いつつ、それを許可してもらうことが大事という軍人らしい考え方らしい。
自分を誇りに思う一方で、その誇りを押し付けるようなことをしてはいけないということなのだろうか。
見た目がスクール水着なのであれなのだが、明るくそれでいて真面目な子らしい。
「そうだな。俺も君の名前は初めて聞いたから、詳しく教えてくれよ」
「はっ。輸送を始めとする様々な任務に就いていましたが……なんと言っても一番の自慢は、米軍の潜水艦を沈めたことです‼」
「……当時の潜水艦が同じ潜水艦を沈めたのか!?」
その通り。
伊176は米軍のGateau級潜水艦、『Coobina』を見つけて魚雷3本を発射し2本を命中させ、同艦を撃沈するという大戦果を挙げたのである。
これは日本の潜水艦史でもほとんど類を見ない話であり、他にはオランダのK16を沈めた伊166、そしてアメリカの沿岸で伊25によって沈められたソ連のL16のみである。
なので、正しく類いまれなる戦果と言って過言でないだろう。
「へぇ……そりゃ大したもんだな」
数値のほとんどはイムヤと同レベルだが、レーダーを有しているはずのCoobinaより先んじて敵を発見しているからか索敵の数値と運の数値が高めとなっている。
特に運は初期値で30とかなり高めになっている。
日本の潜水艦がアメリカの潜水艦に沈められた例は多々あるものの、日本の潜水艦がアメリカの潜水艦『を』沈めたのはこの伊176だけということも考えれば、その数値も大げさではないのかもしれない。
「うん。ウチは特に潜水艦が不足しているからな。色々頑張ってくれると助かるよ。悪いけど、演習したら早速あれこれやってもらうからな」
「はいっ。お任せくださいっ」
ちなみに声帯の妖精さんはBismarckやZ1たちと同じ人で1つ。え、なぜかって?イムヤの中の人があるロボットアニメでBismarckの中の人と対になる『歌姫』を演じていたからである。
こうして、またも新たな仲間を多数加えたSSS鎮守府であった。
なお、今回の件で戦略上重要なガダルカナル島を守ることができたことに大本営も大変感謝しているらしく、報酬ということでまだこの鎮守府に着任していない艦娘を派遣してくれるとのことであった。
近くのボルネオ島までは空路で運び、そこから航行してもらうという。
その夜、音無は食堂で夕食を取ろうと入って『お』と意外そうな声を上げた。
「あれ?今夜は藤巻が手伝ってるのか?」
「へっへっへ。たまーにはこう言うところでも仕事しねーとな。自分で言うのもなんだが、できることくらいやらねーと」
見れば、味噌汁を作っているらしい。
「俺特製の豚汁だ。バターをたっぷり使ってるんでちょっと洋風になってるのがミソだぜ」
「味噌汁だけにか?」
「へへへっ。つまんね~ギャグですんません、ってなっ」
他にも洋風豚汁に合わせたらしいメニューということなのか、鶏の照り焼きを始めとする様々な料理が並んでいる。
「鳳翔さんが銀シャリもたっぷり炊いてくれましたから、美味しくいただけますね……じゅるり」
チラリと横を見れば、赤城と加賀がみっともなく涎を垂らして辛抱たまらんと言わんばかりに舌なめずりしていた……人、これを『一航戦の埃』という。
音無が席に着くと皆が手を合わせて『いただきます』と食事を始めた。今日音無の隣に座っているのは、秘書艦である初月と今日の旗艦を勤めた瑞鶴だった。
「そういえば提督さん、今夜は誰とヤるの?」
「もはや毎晩誰かを抱くのは決定なんだな……ま、ヤル気満々だけどな。1人はもう決めてるんだ」
「ほぅ。提督が既に決めてるというのは珍しいな」
「あぁ、それな。まぁ、本人から申し出があったからな。それがマラートだよ」
基本的に艦娘たちの申請でその夜のセックスの相手を決めていることを考えれば、確かに珍しいだろう。
「おぉ、遂に提督はロシア美人もモノにするのか。いずれは七つの海を制覇するのかもしれないな」
「残るはイタリア艦娘とフレンチ艦娘かな?」
「はてさて、提督はどこまでハーレム道を突き進むのやら」
気安い仲ということもあってか、2人とも言いたい放題である。
すると、近くにいた隼鷹が手を挙げた。
「あ~、じゃあアタシ提督とセックスする~。なんかたのしそ~」
「……提督、差し支えなければ私も同衾します。その、あくまで隼鷹がおバカやらかさないようにということなので……隼鷹のついででいいので……」
姉の飛鷹も顔を赤くしつつ言うあたり、満更でもないようだ。
「じゃあ補給は……あぁ、そうだ。今夜は伊勢に頼もうかな」
「いいよ~、任せて~」
すると、もう1人……イタリア艦娘のMaestraleが手を挙げた。
「あっ、あのぉ……私も、お願いしますっ」
「お、Maestraleもか。いいぞ、多い方が楽しいからな。あっはっはっは」
「音無君が段々壊れてきた……」
「今更だっての、ゆりっぺさんや」
こうして、この夜の『担当』が決まるのだった。
伊176については日本の対潜戦闘に関する書籍を読んだ時に初めて知りまして、思わずビックリしましたね。
それ以外にも伊25がソ連の潜水艦を沈めたとか、特設輸送船『鹿野丸』が明治時代製の8cm砲でグルニオンという潜水艦を沈めたとか……世の中とは驚きばっかりです。