※この作品はR-18です。

仁の世を目指す者は今日も猫を追う   作:ニコール

9 / 15
始まり

翌日、私と猫煌は婚礼の儀を執り行った。

義兄弟の雲長や翼徳を始め、義勇兵として共に戦った仲間たちが盛大に祝ってくれた。

そして宴会が終わり、夜更けに再び二人で何度も名前と愛を囁き交わした。

 

それはもう毎晩のことだった。

私は猫煌を誰にも渡したくない一心で、彼女をこの腕で抱きしめ、彼女の身と心を自分の色に染めていき、終いには甘く蕩けている彼女の中に、自分の欲を何度も注ぎ込んだ。

 

そんな行為を繰り返してから数日が経った頃、陶謙殿からの救援を求む書簡が私の元に届き、私たちは陶謙殿のもとへ向かった。

 

「おぉ……。劉備殿と猫煌殿、そして義兄弟のお二方。よくぞおいでくださった。そのご活躍や人望の篤さは聞き及んでおります」

 

陶謙殿は私たちが到着するとすぐに出迎えてくれた。その様子は、私たちが来たおかげなのか、険しい表情から少し柔らかくなっていた。

 

「お久しぶりです、陶謙殿。救援を求む書簡を送るほど、なにかあったのですか?」

 

「……皆さんに来てもらったのは他でもない。この徐州を守っていただきたいのだ。兗州の曹操が力をつけ、この徐州を脅かしている。私のような老骨では守り切る自信がなくてな……」

 

陶謙殿は申し訳なさそうな表情で、私たちにお願いしてきた。

 

「……陶謙殿ほどの方に請うていただけるとは、恐れ多いことです。この劉玄徳、若輩ながら徐州の安寧のため、力を尽くしましょう」

 

「しかし、州の牧から呼び出されるとは、兄者も有名になったもんだぜ。安心しな、曹操なんざ軽くひねってやらぁ!」

 

翼徳は自信満々に、陶謙殿に答えた。

 

「うむ。我らの刃にて、徐州を乱す悪逆を一掃せん。兄者と姉上の篤志、この地より広めましょうぞ」

「困っている人がいたら助けるのは当たり前だ、なぁ?玄徳」

「そうだな。目の前の困っている人を救っていけば、いずれ必ず平穏な世を迎えるはず。猫煌、雲長、翼徳。まずは徐州に泰平をもたらすのだ」

 

私の言葉に、猫煌、雲長、翼徳は納得したような様子を見せた。

 

そして私たちは、曹操が動き出すまで陶謙殿のもとに数日いた。すると、陶謙殿の元へ伝令兵が曹操の情報を持ってきた。

 

「劉備殿、いよいよ曹操がこの城へ向けて大軍勢を動かしてきた。奴らの通った後には草一本残らぬという報告です。……なんというすさまじい行軍か」

 

陶謙殿の言葉に、雲長は何か疑問を持った表情で話し始めた。

 

「妙でござるな。確かに先の戦での曹操殿の攻勢は苛烈を極めておられた。されど、むやみに暴虐を振るわれる御仁ではなかったはず」

 

雲長の言葉に、陶謙殿は何か知っているようで、少し申し訳なさそうに話し始めた。

 

「その理由はわかっておる。先日、曹操の父である曹嵩殿が徐州で殺された。我が配下の手によってな……」

「あぁん?じゃぁ、曹操にとっては、おめぇは父親の仇ってわけか?」

 

陶謙殿の言葉に、翼徳は少し眉に皺を寄せた。

 

「だが、曹嵩殿を殺したのは、私の命によるものではない。曹嵩殿の財に目をくらんだ兵が勝手に起こしたものなのだ」

「はぁ、自分らで攻め込まれる理由を作るなんて……そんな言い分、あの曹操に通じるわけないな」

 

猫煌は溜息混じりで陶謙殿に呆れた様子を見せた。

 

「曹嵩殿を殺めた罪は許されるものではありません。しかし、その報いとして罪なき民たちを虐げ、蹂躙するなど、絶対にあってはならぬ!」

「さよう、いかなる理由があろうと、義を見失いいたずらに世を脅かす輩は討ち果たしましょうぞ」

「おうよ!曹操なんざに俺たちは負けねぇ!」

「おぉ!私が頼れるのは劉備殿たちだけだ。よろしく頼みましたぞ」

 

私たちは早速馬に乗り、城をあとにして曹操軍が向かってくる場所へと進軍した。

 

「曹操殿の無念は分かるが、非道は許されぬ。なんとしても陶謙殿と徐州の民を守り抜くぞ」

 

馬を走らせながら、私たちは徐州の民を城に避難させるように誘導していった。そして、曹操軍が陣を張っている城へと辿り着いた。

 

「さて、玄徳。どうする?相手はあの曹操だ。簡単には城の中には入れないぞ」

 

確かにあの曹操だ、そう簡単には城の中には入れないだろう。何か策を考えなくては……。

私が頭の中で策を練っていると、猫煌がある提案をした。

 

「軍で城の中に入るのは難しい。ならば、私が上手く潜入して内側から門を開けるのはどうだ?」

 

猫煌はやる気満々で私に話すが、それは猫煌を危険な目に晒すことだ。ましてやあの曹操だ、あの男が侵入した彼女をほおっておくことなんてしない。

 

「駄目だ」

「なんでだよ!」

「お前は怪我を治したばかりだ、ましては……」

「それでもだ、今この状況が続けば私たちは曹操軍にやられてしまう。それに、民を一刻も早く救いたくはないのかよ!」

 

そうだ、猫煌の言うとおりだ……私は徐州の民を救いたい。

しかし、その半分は猫煌を危険な目に合わせたくないというのが本音だ。

本来ならば、公孫瓚殿のところに置いておけばよかったものの、彼女を置いて行くことなんてできなかった。

そんな私の心配する気持ちは、今目の前にいる彼女には知ることもない。

 

「玄徳」

 

しかし、ここで猫煌と口論しても意味がない。

私は、自分の感情を押し殺して彼女の策に乗った。

 

「わかった。その策で行こう……」

 

「玄徳!」

 

私の返答に、猫煌は嬉しそうな表情を浮かべた。そんな彼女に、私は一つだけ誓ってもらいたかった。

 

「猫煌、約束してくれ」

「約束?」

 

「あぁ、前みたいに無茶は絶対にするな。お前はもう一人じゃない。私の大切な妻なのだから」

 

私は真っ直ぐと彼女を見つめると、彼女の瞳はブレることもなく、ただ真っ直ぐに私を見ていた。

 

「分かった。前みたいに無茶もしない。それに、必ずお前の元に帰ってくるよ」

 

そう言って猫煌は、馬から降りると素早く城の方へ向かって行った。

 

「猫煌……」

「兄者、姉上のことが心配なのですか?」

「雲長。あぁ。あいつは小さい頃から自分を犠牲にして、目の前の者を助けようとする。先の戦でも猫煌は私を助けるために無茶をした。彼女にここまで無茶をさせるとは、私は本当に情けないな」

「兄者、自分を情けないとは言わないでください。姉上は兄者や民を思って策を述べ、行動に移した。そんな行動をとれる者は、そうはいないと拙者は思います」

 

雲長の言葉は優しくも少し叱っているようだった。

もしかしたら、私は猫煌を思うあまり自分を卑下していたのかもしれない。

雲長や翼徳、共についてきた仲間たちは私を慕い、ここにいる。

なら、私も先の戦のように彼女を信じよう。

猫煌の合図があるまで、私達は暫く待つことにした。

 

そして、しばらく待ったその時だった。

 

ドォンと爆発音が聞こえ、それと同時に城塞の門が開かれた。

 

「猫煌……!門が開かれた!皆、かの地を攻め、これを摂取する!進め!」

 

私の掛け声と共に馬を走らせ、一斉に城へ攻め込んだ。城内にいる曹操軍の兵たちの攻撃をかわしながら、一気に曹操がいるところへ向かった。

 

「玄徳!」

 

上の方から猫煌の声が聞こえ、見上げれば彼女が私と平行するように屋根の上を駆けていた。

 

「猫煌!無事か!」

「あぁ!途中、危うい場面もあったがなんとか!それより玄徳、曹操ならこの先にいる!」

 

猫煌は敵の矢を上手くかわしながら、私たちを追ってくる背後の敵を弓で討ち取っていく。

 

「先に行け!私は後から向かう!」

「分かった……危険を感じたらすぐに逃げろ!」

 

私の言葉に猫煌は軽く頷き、それを見た私は馬をさらに走らせ奥の方へ向かった。そして、あの男の姿が見えた。

 

「曹操!」

「……やはり来たか。陶謙に与し、私の前に立つか。義に生きる男よ」

 

私は馬から飛び降り、そのまま曹操に向けて剣を振りかざした。曹操に刃が当たる寸前、彼は剣を抜き、それを素早く受け止めた。

 

「……志だけで私を止められると思うな」

 

曹操の力は強く、攻撃を受け流しながら隙を作ろうとするが、この男は隙すら作らせてくれない。

 

「この戦の策は完璧だったが、どうやらお前のところの赤猫が門を破壊したようだな」

「それがどうした!」

「……実に惜しい女ということだ」

 

曹操が意味ありげな言葉を口にしたその時、背後から伝令兵らしき兵が大声で曹操に伝えてきた。

 

「荀彧様より伝令!至急、許昌へお戻りくださいとのこと!」

「……今は退くしかないな」

 

曹操は私から間合いを素早くとった。

 

「劉備よ、お前とはまた会うことになるだろう」

 

そう言うと、曹操は兵を連れてそのまま撤退していった。

 

「なんだったんだ……」

 

曹操が戻らざるを得ないことが許昌で起きたのか? そんなことよりも、どうにか徐州を守り抜くことはできた。できたんだが、どうも曹操のあの言葉が引っかかる。「実に惜しい女」という言葉からして、曹操は猫煌を欲しているのが見える。やはり、あの男は猫煌にとって危険な存在だ。できるだけ彼女をあの男に近づけさせないようにしなければ。

 

そう考えていると、背後から猫煌の声が聞こえてきた。

 

「玄徳、大丈夫か!」

「あぁ、私はなんとか。皆は大丈夫か?」

「負傷者もいるが、死者はいない。なんとか最小限に抑えられた」

「そうか。なら、早く陶謙殿の元へ戻り、曹操殿が撤退したことを伝えなければ」

 

私たちは負傷者の手当をし、すぐに陶謙殿の元へと向かった。

 

「おぉ! 劉備殿、猫煌殿、関羽殿、張飛殿! 伝令兵から詳細は聞いております。この陶恭組、感謝に耐えません!」

「陶謙殿、油断はできませんぞ。敵は我らに負けたというより、何やら急な事情が発生して撤退した様子であった。何かよからぬ企みでなければよいが……」

「まぁ、いいじゃねぇーか! どっちにしたって追っ払ったんだからよ」

 

何か疑問に思う雲長とは別に、翼徳はさっぱりした様子を見せた。

 

「そなたたちを頼ったわしの目に狂いはなかった。劉備殿、このおいぼれの頼みをもう一つ聞いてくださらぬか?」

 

陶謙殿は真剣な表情で、私に話しかけてきた。

 

「頼みですか? 私でよければ」

 

陶謙殿の様子を見て、私は彼の頼みを聞くことにした。

 

「どうかその救国の志をもって、徐州の主となっていただきたい」

 

陶謙殿の口から出たのは意外な言葉だった。あまりの申し出に私は少し答えるのに間があり、陶謙殿に答えた。

 

「陶謙殿……そのような大役、とても私のような青二才には……。それに、徐州は守られましたが、多くの民が犠牲に……」

「劉備殿、これはわしだけのためではない。その徐州の民のためでもある」

 

陶謙殿は優しく話を続けた。

 

「この地を外敵から守り、民を思った内政を行う……それを正しく行える者は多くないのだ。劉備殿、そなたにはそれができる。どうか、引き受けてほしい」

 

陶謙殿は私に頭を下げてお願いしてきた。

 

「兄者、陶謙殿がこれほど頼んでおられるのです。引き受けてはいかがか」

「そうだ、兄者ならやれるぜ!」

 

周りにここまで言われたらやるしかないと思い、私は陶謙殿の任を引き受けることにした。

 

「陶謙殿、若輩ながらこの劉玄徳、徐州牧の任、お受けいたします」

「ありがたい!これで、この地も末永く繁栄するだろう。わしの胸につかえていたものもすべてなくなった。劉備殿、後は頼みましたぞ」

 

一方、曹操軍では――。

 

伝令兵から詳細を聞かされた私たちは馬を走らせた。

 

「陳宮め、やはり信用ならなかったか。董卓のみならず、俺たちまで裏切るとはな」

「ある意味では、誰よりも信じられる男だ。あの男は、どこまでも己の欲に忠実だ。陳宮が裏切りを選んだのは、その欲を満たすものを私の道に見出せなかったからだ。我らの道は分かたれたのだ」

 

私の言葉に夏侯惇は少し不満げな様子を見せたが、今のこの状況で言うこともない。私が突き進む道で、許昌が落とされるのは痛いことだ。私たちは許昌で奇襲をかけた呂布をなんとか撤退させることができた。

 

「追わなくていいのか、孟徳?」

「あぁ。先の徐州の戦もそうだが、今回の呂布によって兵の負傷者が増えた。それに、あの男を止めるのは不可能に近い。同盟を組んで倒すしか他ならない」

「…同盟だと?」

 

私の言葉に夏侯惇は少し眉を顰めた。

 

「あの男には陳宮がいる。あの男の考えなら、このまま徐州のほうに行き、何かしらするだろう」

「しかし、徐州にはあの劉備がいるのではないのか?」

「あぁ、あの劉備がいるからこそだ。あの陳宮なら、劉備の仁の志でさえ利用する。そこを我々が助ける」

「……あの男はあまり気に食わないが、お前がそこまで考えているなら、俺は何も言わん」

 

夏侯惇は私の考えに少し溜息をつくものの、納得した様子を見せた。

 

「明日、今後の動きについて軍議する。今日は皆、ゆっくり休め」

「お前もだ、ここ最近まともに休めてないだろう」

「ふむ…そうだな」

 

戦続きで、まともに休めてないのは確かだ。ここは夏侯惇の言葉に甘えて、休むためそのまま自室に戻り、防具と剣を置いた。

 

久しぶりに戻ってきた自室は薄暗く物静かだ。

出迎えをする妻子もいない私にとっては普通のこと……本来ならこの歳になれば妻を迎え入れてもおかしくはないのだが、どうもそんな気持ちが沸かない。

いや、沸かないんじゃない……私の中で妻にするべき女が決まっているからだ。

 

「猫煌」

 

彼女の名を呼んでも、意味がないことは知っている。だが、それほど彼女のことが愛おしく思ってしまっている……彼女の雪のように白く、桃のように柔らかい肌。猫のように、そう簡単に私に懐かない様子、すべてが愛おしい。

 

彼女に対する感情が徐々に欲となり、次第に自身の下半身が熱くなっていることに気付いた。

 

「……」

 

私はそのまま寝台に腰掛け、自身の下半身をさらけ出し、欲のままに勃っていたそれにゆっくりと触れた。

自慰行為経験は一応あるが、ここ最近欲情したことなんてなかった。

それほどまでに、彼女が私の心を掴めたと言えるのだろう……。

 

「猫煌……」

 

彼女の姿、声、そして自分の唇を重ねたあの夜を思い出しながら、それを握った手をゆっくりと動かした。

あの男が猫煌を抱いていると考えていると、腹の内から嫉妬と欲が、混ざり気持ち悪い感情が溢れそうになる。

もし、彼女をこの手で抱けたのならどう抱こうか?

頭の中で、彼女を抱く想像をすればするほど、自身の握った手が早くなっていく。

 

「孟徳」

 

あの低くも女らしい声で私の名を呼んでほしい、そして私も彼女の名を呼んで愛したい。

彼女の事だ、猫みたいに嫌と拒むだろうか? それでも構わず抱いてしまえたら、どれほどいいだろう。

そんな、どこまでも自分勝手で欲望だらけの想像が止まらず、私は手の中に欲を吐き出した。

 

「はぁ…はぁ……猫煌」

 

そう呟きながら、私は手の中にある白濁の液体を手拭いで拭き取り、それを屑籠に捨てた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。