【SO3】聖王国の紅刃が堕ちるとき~背徳の淫紋から始まる英雄救済譚~【IF】 作:ばんどう
数合、立ち合った時点で明確に差が出ていた。
フェイトの背中から
フェイトは鉄パイプの先をアレンに向けて、悠然と言い放った。
「どうやら力が出せないようだな……。だが、貴様が弱くなっていようが関係ない! 悪魔よ、天に
芝居がかった動きのフェイトに対して、アレンの体はボロボロだった。愛刀《兼定》で攻撃を防ぐことはできても、フェイトの余りある力の残滓で確実に傷を負ってしまう。
だが、アレンの口許に浮かんでいるのは笑みだ。
「……お前の
「馬鹿め! 悪魔を弱体化させているその手首の紋章を、僕が解くわけないだろう!」
「悪魔かお前は!」
「お前
フェイトが両腕を広げ、これ見よがしに全力を示してくる。圧倒的な紋章力は気流を起こし、フェイトの青い髪がなびいて広がった。
アレンが剣尖を下げたまま、腰を沈めて一気に踏み込んだ。
「どうしたっ! ぬるいぞ!」
アレンの電光石火の打ち込みを、フェイトが枝でも払うように跳ね上げる。剣戟の火花が立った。いつもは力で圧倒できる剛刀の刃が、簡単にはじき返されてくる。ならばとアレンが連撃勝負を仕掛けるも――押せない。
「ぐっ!」
「いまのお前なぞ片手で充分!」
言葉通り、フェイトが鉄パイプをひときわ輝かせるや、大上段に構えたそれを片手で鋭く振り下ろす。たったそれだけで払い上げた剛刀の刃が、アレンの体ごと後方に吹き飛んでいった。
(くっ! やはり練気がなければ、キツい……っ!)
「無影一閃」
離れた距離を一瞬でゼロにするフェイトの移動技。スレイヤーヴォイド。アレンが気づいたときには遅い。赤黒い風がアレンのすぐ傍で渦巻くや、抜き打ったフェイトの鉄パイプが白く光っている。
(まず――っ!)
抜刀? をとっさに
「お、のれっ……!」
フェイトを睨みながら、アレンが立っていられず、その場にくずおれた。
一方のフェイトは鉄パイプを払って、剛刀を見据え、舌打っていた。
「忌々しい刀だ……! 僕の
「ま、だまだっ……!」
アレンが震える膝をなだめ、突き刺した剛刀を杖に血みどろのなか立ち上がる。
フェイトが首を振った。
「諦めろ。この勝負、先は見えた」
アレンは聞く耳を持たない。ゆっくりと息を吐き切り、呼吸を整えるや剛刀に手をかけたまま、わずかに腰を落とす。
これまで、フェイトとは数え切れないくらいに『兼定の切れ味か』『フェイトの能力か』を競い合ってきた。その土俵をみずから降りるなど、こんな状況でもなければ考えもしなかったことだ。
だが。
(この兼定をもってフェイト相手に正面突破を諦めるなど、本当に不本意だが――仕方がない)
アレンの気配が変わったのを察して、フェイトが片眉を上げた。
「なんだ、その目は? いまのお前に、なにができるって……言うんだぁああ!」
とどめとばかりに白い光の斬線がアレンの頭上から飛び込んできた。フェイト得意の《ブレードリアクター》。
「ぉをっ!」
渾身の力で剛刀を打ち下ろした。フェイトの
のけ反ったフェイトが、呻いた。
「き、さま……! 僕の
「この世に、斬れぬものなし」
「おのれ兼定っ……! つくづく忌々しい刀だ! だがもう! 二度とその刀は僕に届かないっ!」
羽音が立った。
白い翼を広げフェイトが上空に飛び立ち、能力を高めていく。最強の一撃を放とうというのだ。
フェイトの頭上に白い紋章陣が幾重にも生じ、光のなかから現れた少女天使が、フェイトの背中で盃をかかげるように目を閉じたまま両手を天にかざす。
少女の手のひらのうえで、
「これに堪えられるものなら、堪えてみろ! アレン! 刀は無事でも、お前はタダではすまんぞぉおおおっ!」
見る者が見れば『神の奇跡』としか言いようのない神聖な光をまえに、アレンは薄笑った。
「馬鹿め、それが狙いだ」
「なにっ!」
「その最強の破壊の力、イセリアル・ブラストならば俺の左腕に刻まれた紋章陣を確実に破壊できる! ……しっかり決めろよ、フェイト。しくじれば、死ぬのはお前だ」
上空で、フェイトの顔がゆがんだ。
「き、さ、まぁあああ……っ! 僕のほうが圧倒的に有利だって言うのに、どこまでも見下しやがって! 許せねえ! ――喰らえ! イセリアル・ブラストォオオオ!」
「勝負!」
目を見開いたアレンが、兼定を握りこむ。算段は簡単だ。
(やつの光に左手を当てた瞬間に朱雀を解放し、仕留める!)
ひりつく空気。強烈な紋章力の塊がこちらに襲いくるその瞬間。
「――ダメですよ?」
「え……?」
しなやかな指が頬に触れてきた。ゾクリと背筋に悪寒が走る間に何者かに背中から抱きしめられ、耳打ちされた気がした。
(しまった!)
土壇場で気を逸らした失態に舌打ちし頭上を睨み上げたとき、上空に浮かんでいたフェイトが額を撃ち抜かれたかのように反転して――翼を広げたまま床に落ちていった。
「え?」
事態が呑み込めず、アレンが目を丸める。
轟音を立てて落ちたフェイトが、すぐに起き上がって慌てて左右を見渡した。
「なんだいまのはっ!? あの高度に、いったいどうやって攻撃をっ?」
「ぐっ……!」
アレンの左手首の紋章陣から引きつれた痛みが走る。手首を抑えてうずくまると、まぶたの裏に、クレアとネルの顔が浮かんだ。――どこか、苦しげなふたりの顔。
「どうした、アレン」
フェイトが素早く寄ってくる。
アレンが首を振り、兼定を納めるや立ち上がった。
「……わからない。だが、いったん城に戻る」
「一緒に行ってやろうか?」
「……それはありがたいが、ありがたくない気もする」
「どっちだよ!」
「ありがたいと思っておきたいところではある」
月の紋章がもたらす異常に、アレンが答えにならない返答をしていると、フェイトが回復紋章術をかけてきて、頭の後ろで両手を組みながら呆れたように言った。
「相変わらずわっけわかんないなー、お前」
「……まあ、お前がいれば、なにがあっても萎えるか……」
「あ、お前いま失礼なこと考えたろ! 僕ぁそういうのに敏感なんだぞ! 訂正しろ!」
呑気にぷりぷり怒っている戦友を尻目に、アレンは手首の紋章陣を睨み、ひとりごちた。
「………
さきほど、フェイトを一撃で無力化させた謎の力。アレンに触れてきた謎の声。それらがこの紋章陣から発せられたものであることは間違いない。
明確な『敵』を見つけて、アレンの蒼瞳に冷たい殺気がよぎっていた。