【SO3】聖王国の紅刃が堕ちるとき~背徳の淫紋から始まる英雄救済譚~【IF】 作:ばんどう
「くそっ! 全然出られないじゃないか!」
ネルが水晶でできた壁を短刀の柄で殴りつける。乾いた音が立ち、勢いよく跳ね返った刃に、ネルの痩身が揺れた。クレアも同様に、両手で握った柄を力任せに壁に叩きつけるもびくともしない。
「まずいわ……。いまの私たちじゃ、まともに戦うこともできない」
「ったく、あいつの刀ならこんな壁――」
言いかけて、ネルが息を呑んだ。
月明かりが、ふたりの背中から差し込んでいる。白亜の石柱でできた回廊は、透明な水晶板で仕切られ、内側の円形広間を眺めることはできても降りることはかなわない。その広間の中心に、天蓋付きのベッドが鎮座していた。
黒い鎖にがんじがらめにされた禍々しい天蓋をネルは見ている。
その視線の先を追うと、ベッド中央でアレンが組み敷かれているのを見つけた。いつも着ているカーキ色のジャケットは脱ぎ捨てられ、彼の体に二体の幻影がまとわりついている。さきほど石室で見た、レザースーツ姿の淫魔と、ミニドレス姿の堕天使だ。
幻影クレアは赤い角をまっすぐに生やし、胸もとのレザーを取り払っていた。見事な釣り鐘型の白い乳房がレザースーツの合間から燭光に照らされ、浮かび上がっている。両手脚を包むレザーの硬い光沢が、しなやかな腹の白さを引き立て、女体を妖しく彩る。淫魔はアレンの鼻面に豊かな乳鞠を押し付けては腰をくねらせる。甘い声を振りまき、愛おしそうに彼の頭を抱きしめている。
一方でミニドレスをまとう幻影ネルは、赤い頭の左右から生える巻貝に似た黒い角を振って、アレンの腰にまたがっていた。首もとの黒いチョーカーから伸びる交差した二本の黒い紐がミニドレスの上乳がこぼれる胸元をなんとか引き止めている。ドレスのウエストはコルセット状で、その左右からフリルがたくさんついたパニエがすらりとした太ももを彩る。白いレース付きガーターベルトから覗くローライズのパンティもやはり黒い紐製で、彼女はそのパンティの舟底をアレンの股間にこすりつけていた。
「なっ……! ぁ……っ!」
あまりに予想外のみだらな光景に、クレアは顔を真っ赤にして両手で口許を覆った。衝撃が強すぎて言葉にならない。
ネルも気圧されて、後ずさっている。
「ぁ、あいつら……!」
天蓋付きのベッドから、男女の熱い息遣いが聞こえてくる。
淫魔は水晶越しのクレアたちに気がつくと、こちらを見て微笑み、アレンの耳たぶに吸い付いた。
『……ねえ……見て、アレン。あんたに触れられただけで、こんなになっちゃった……』
堕天使が、背中の黒い翼を軽く羽ばたかせ、引き締まった両脚を開いていく。ほの暗い薄闇に沈む黒いパンティの舟底に、湿り気を帯びた二枚貝の形が、うっすらと浮かび上がっていた。堕天使の白い指先がそこにかかると、まるで焦らすように細いクロッチをずらしていく。
アレンの牡の部分が、ぴくりと震えた。
『ねえ、アレンさん……。私も、気持ちよくなりたい……』
淫魔があらわになった乳房をわしづかまれ、甘い声をあげる。洞窟で、クレアがされたように乳肉の突起をちゅっ、ちゅと音を立てて吸われると感極まったように首を振って喜び、もう片方の肉鞠をこねまわされる。
淫魔は湿った唇でアレンの耳たぶから首筋を口付けていくと、白い指先で彼の胸板をさすった。
『ふふ……。アレンさんの心臓の音、とても速いです……。こんなにドキドキして……』
「………………や、めて……」
クレアは無意識につぶやいていた。拳を握りしめる。
淫魔が体を起こし、今度はアレンの唇に軽く口付ける。彼女は陶酔した瞳のまま、アレンの胸に指を這わせた。
『こうして肌を重ねると、はっきりと伝わります……。アレンさんが、私に興奮してくれてるって……。私も、心臓が破裂しちゃいそうです……』
淫魔の指が胸のあたりを這い回る。その指先が、彼の乳首に触れた。
「……そのひとに、触らないで……」
『あっ……。ふふ……。ここも、こんなに硬くなって……。私で興奮してくれているのですね……』
淫魔の指は乳首をこね回しながら、もうひとつの乳首に口を寄せていく。濡れた舌がそれを捉えて舐め上げ、アレンが顎を反らして低く呻いた。
『……っ、クレアさん……それ、は!』
『心配しないで、アレンさん。……すぐに、なにも考えられなくなるくらい、気持ちよくしてあげますから』
淫魔が興奮を隠せない様子で、アレンのシャツを取り払い、鍛え抜かれた胸筋に触れた。淫魔の手は温かく弾力があり、やわらかい。その感触にアレンの肌が粟立っている。
『アレン、私も……。あんたに触れたい……』
堕天使の唇が淫魔とは逆の乳首を捉え、小さな舌がその先端をちろちろと舐める。
『ネルッ、……待っ……!』
堕天使の両脚はアレンの腰にまとわりつき、屹立した剛直が布越しに堕天使の陰唇をこすり上げる。堕天使は嬉しそうに甘い声を洩らし、アレンの乳首にふるいついていく。
水晶の壁越しに眺めるネルは息を呑み、顔を真っ赤にしながら目を離せずにいた。
(……あいつ、
女として見られているなど、これまで思ったことがない。
訓練はいつもフェイトやクリフと同じものを課されてきたし、ソフィアやクレアにはする気遣いを、ネルには一切向けてこない。
なのにいま、幻影とは言え、ネルの姿をした相手に翻弄されている。クレアの幻影だけでなく、ネルの幻影にまで切ない視線を送っている事実に、ネルの心臓がおかしくなるほど大きな音を立てている。
『ねえ……、アレンも私のここ……いじって?』
甘えた声でねだりながら、堕天使がくびれた腰をくねらせる。そのたびに彼女の紐パンの細い舟底が、アレンの牡をこすり上げた。
アレンが小さく笑って、堕天使の腰を引き寄せ、そのみずみずしい唇にキスをする。
『アレン、私のここを触って……』
堕天使が焦れたように腰を上げ、下着をずらした。茂みの奥に秘められた、控えめな縦割れがはっきりと見える。彼女のどぎついサーモンピンクのひだの合間から、とろーっと粘性を帯びた透明な雫が滴り落ちてくる。秘芯はすでに十分すぎるほど濡れそぼり、アレンを待ちわびるようにひくついていた。
『ねえ……、いじって?』
堕天使の涙混じりの懇願してくるも、アレンは動かない。淫魔よりもさらに細く引き締まったウエストからヒップのラインをなで上げ、現れた蜜壺の様子を眺めている。
堕天使の顔が途端に不安で曇っていく。ネルですら、息を呑んだ。
(……やっぱり)
クレアでなければ、愛されないのだろうか。
そう思った矢先に、突拍子もないことを聞いてくる。
『なかは、淫魔なのか?』
『えっ?』
真剣な顔で尋ねられ、堕天使が目を丸くしたまま、またたいた。アレンが甘いささやきに誘われるまま、彼女の蜜壺に指を這わせる。堕天使の縦割れは熱く、やわらかくアレンの指を包み込んでいく。
『いくら幻影とはいえ、お前が痛がるのは見たくない』
『あっ……。そこ、いいっ……。もっと、いじってぇ』
堕天使が余裕なくアレンの首に腕を回し、腰をくねらせた。その淫らな動きに誘われるように、アレンが長い指で二枚貝の浅瀬をくすぐっている。
アレンがじっと堕天使の紫色の瞳を見つめる。情欲に濡れてもなお、堕天使の――幻影を通してネルの苦痛を見逃すまいとするような真剣な眼差しだ。
堕天使が感極まって目を細め、しなだれかかった。彼女を抱きとめ、背中に添えた手がいたわるように少しまえまでネルにもあった、背中の赤い施文を撫でている。
(バカっ……!)
そのあまりに優しい手つきに、ネルは思わず視線をそらした。体の奥に知らない熱がこもって、自分自身を抱きしめる。無意識に太ももをすり合わせていた。
隣のクレアは立っていられず、床に手をついて、哀しげに目の前の光景を見つめている。震える唇は引き締められ、物言いたげな頬が紅潮している。
クレアも興奮しているのは明らかだ。だが洞窟の一件以来、ネルより現実事として捉えられる情事に、悔しさの滲んだ視線が、幻影たちとアレンにそそがれているのだ。
『アレンさん、私も……。いじってください……』
淫魔が切なくねだる。堕天使を体に乗せたまま、淫魔に手を伸ばし腰を抱えて引き寄せると、拗ねた淫魔の唇を軽く吸う。「もっと」とねだるように口付けてくる淫魔に答えつつ、腰に据えた手をすべらせた。
淫魔の肌を包む黒いレザースーツは、肩から腰、尻の丸みにかけてのしなやかな肉付きを、まるで濃厚なタールを流し込んだかのような妖しい光沢で塗りつぶしながら、その輪郭をより鮮やかに浮かび上がらせている。肌に吸いつくレザーの艶が、背中でハート型に大胆に開いた切れ目から覗く、なよやかな肩甲骨のくぼみに視線をくぎ付けにさせる。さらにその下、ヒップの上でうごめく赤い尻尾の根元に覗く儚げな雪白の肌を際立たせ、見る者の理性をじわじわとむしばむような淫靡な色気をふりまいていた。
堕天使よりも肉感のある腰回りを撫でていると、淫魔が恥じらうように目を背ける。
『あっ……。アレンさん、そんな……。おなかばかりいじったら、恥ずかしい……』
『ふふ……。クレア、可愛い』
堕天使がアレンの胸板から手を伸ばして、彼がそうしているように、淫魔のへその穴をくりくりといじる。
『やんっ……。ネルまで、そんなとこ、いじらないで……。くすぐったい……』
淫魔が身をよじって悶えた。その恥じらう仕草が、アレンの肉欲までも刺激する。
悔しさを噛みしめていたクレアですら、見入っていた。言葉も発さず、ただ固唾を呑み込む彼女は、微笑みながらもぐつぐつと煮えたぎり始めているアレンの視線に、自ら囚われようとしている。
その琥珀色の瞳は、彼女もまた、洞窟の続きを望むかのように切なく揺れていた。