【SO3】聖王国の紅刃が堕ちるとき~背徳の淫紋から始まる英雄救済譚~【IF】 作:ばんどう
「…………アレン、待って……」
幻影のクレアに触れようとした瞬間。ネルの姿をした堕天使が肩を押さえてきた。
彼女の長いまつ毛が濡れて、潤んだ紫瞳がまっすぐこちらを見上げてくる。憂いを帯びた顔。アレンが首をかしげ、震える肩を抱き寄せ、『大丈夫』と言い聞かせるように背中を撫でても、彼女の瞳から不安は消えない。
化粧で赤らむ目尻が、表情とあいまって泣いているようにも見えた。
ネルのこんな顔は、見たことがない。いつも凛と前を見る視線はとろんと潤み、ぽってりとした飴色の唇が、口付けをねだるように近づいてくる。熱に浮かされたようなその顔を見ていると、自然に化粧で濡れ光る甘やかなふちどりに吸いついていた。彼女が震えながら身を寄せ、さらに強く、こちらの唇を食んできた。両腕をまわし、ぎゅっと抱きしめる。
「……なにが不安なんだ?」
口付けの合間に、耳元でささやく。そのかすかな刺激にすら、堕天使は官能に濡れた吐息を洩らし、アレンにしがみつく。
――本物のネルとは、全然違う。
堕天使の冷たい肌が、いまは上気して熱を帯びている。上半身裸のアレンと少しでも肌を重ねようと、細い腕を首に巻きつける。そこには一ミリの隙間もはさみたくないと言う執着が見えた。幼ささえ感じさせる甘えぶりに、アレンは胸のざらつきを感じる。一瞬、逃げるように視線を落とし――幻影の震えに気づくと、もう止まれなかった。
離さないで、と堕天使の全身が告げてくる。アレンは指先でドレスの裾をめくり、その細腰のやわらかな感触を味わう。彼女の『不安』は、本物のネルが抱える寂しさの影なのか。
傍らに、クレアの姿をした淫魔がいる。さきほどまでの挑発的な態度とは裏腹に、アレンにすがりつく堕天使を、唇を引き結んで見つめている。
幻でも痛みを感じるのか。堕天使の苦しみを理解しているような、罪悪感に湿った瞳だった。
堕天使は、アレンと淫魔が睦み合うこと自体に、怯えるような反応を見せるのだ。普段は冷静に『クレア博士』として助言をくれる本物のネルが、いまはただ、アレンの体にすがりついて、吐息ひとつでそのしなやかな肢体に震わせるなど、まるで現実とは結びつかない。
(これも、俺の感情を引き出すための『試練』なのか?)
月の紋章は淫紋だ。そのため、ふたりの幻影がみだらに誘惑してくるのも、こちらの思考を乱し、感情を揺さぶるのが目的だと思っていた。
だが煩悩と割り切るには、目のまえの幻影の感情は複雑すぎる。震える腕も、熱い吐息も、誰かを求めてやまない心の声そのものだ。
淫魔とエレナの言葉が脳裏をよぎった。
――私は、あなたを想って丁寧にこねあげられた、ある感情の結晶。
――それは聖なる祝福がゆがんだ呪い。魂の乖離を正し、三人の魂を共鳴させることで解けるわ。
(三人の、魂の共鳴……)
アレンはネルの両頬を包んだ。首にしがみついている彼女を上向かせる。切なく細められた紫瞳を真正面から見つめて、安心させるために小さく笑った。
「ネル。ひとの股間をさんざんいじくっておいて、いまさらなにを遠慮してるんだ?」
「っ……だって、それは」
冗談めかして言ったのに、ネルの顔からはさっと血の気が引いていった。弱々しい視線が外される。その頬を押さえてそっぽ向くのを許さず、尋ねた。
「それは?」
泣きそうな顔だった。護ってやりたいのに、泣かせたくなる。相反する感情が芽生えてくる。
ネルは言葉にできず、小さな唇を何度かはくはくと震わせたあと、耳まで真っ赤にしてかすれた声でささやいた。
「この幻影の体は、あんたのためにある……。けど、……あんたは私の気持ち、知らないまま優しくするから……」
視線を逸らして、アレンの胸に額を押し付ける。ぐりぐりと丸い頭で胸板を押してきてから、彼女は目いっぱい息を吸い込んで、ためらいがちに言った。
「…………そういうのがいちばん痛いって、わかってるくせに……」
すこしふてくされたような声だった。
聞き馴染んだネルの声音に、つい笑みがこぼれた。だがその肩先はまだ震えている。
「――お前の気持ち? 『離れたくない』以外にあるのか?」
「っ!」
「ちゃんと言葉にしてくれ。あいまいな話は苦手だって、お前が一番知ってるだろ」
ネルがはっと唇を引き結んだ。
『クレア博士』にはこれまで『あいまいな言葉たち』の翻訳をさんざん依頼してきたのだ。
アレンは一旦、幻影との会話を諦めて体を起こした。幻影は『優しくされると痛い』と告白してくるくせ、離れる気はまったくない。本物ネルの体など、身長と手足の長さ以外心当たりはないが、『魂の共鳴』を促す試練なら、この幻影はネルの本質を映し出しているはずなのだ。
ネルは長身でスレンダーな女性だ。筋肉で引き締まった肉体はいかにも女兵士らしく、男にはない、しなやかな優美さをたたえている。形よく突き出した乳肉の頂点は、大胆に開いたドレスの胸もとで、ぎりぎり隠されており、なよやかな首筋には黒いチョーカーがぴたりと巻きつく。黒いフリルがたっぷり付いたミニ丈の白いドレス姿は、彼女の健康的な肌と赤い髪によく映え、清楚でありながらも挑発的な色気を放つ。幻影のむきだしの細く白い肩と、コルセットに包まれた深くくびれた腰に手を添えて、丁重にベッドに横たえていった。
幻影――ネルが驚いた顔で見上げてくる。彼女の丸い頭を撫でている合間にベルトをほどき、さきほどの愛撫で勃起したペニスを解放した。
(……これは幻だが、本物につながる回路がどこかにある)
洞窟でのクレアの『発作』と同じ原理のはずだ。情欲におぼれるのは冷静さを欠くことと同じで、ある種の恐怖がアレンにはある。それでも――
「護って、とお前は言ったんだものな……」
ぽつりとつぶやくと、ネルが二重瞼をねっとりと上気させたまま、こちらを見上げてきた。紫瞳が涙できらめく。彼女の気弱そうな表情の合間から、すがるように唇を開くさまが、危うくも心の奥底にともる火をくすぐってくる。
ネルが身動きすると、清潔な肌の匂いと髪の匂いが溶け合った女の香りが立ちのぼった。肉茎が狂おしく跳ね、充血した雁首が、彼女の肉溝を覆う頼りない紐パンティを押しのける。引き締まって張りのある太もも。美しい丸みの半ばより下は白いストッキングに覆われ、しなやかに伸びる二本線を際立たせる。
その長い脚を左右に開き、よだれを垂らした女芯をぬろぬろと肉棒でたどった。ねっとりした軟肉はぷにぷにとやわらかく、表面をなぞるだけでも甘やかな刺激が伝わってくる。
ネルがびくりと震えた。とろけた紫瞳をまえに、かまわず一気に突き入れる。
「ん、ぁああっ……! ああっ!」
先端をめり込ませただけで、ネルが背筋を逸らして悲鳴をあげた。入り口のきつさはアレンも息を詰めるほどだ。娼館の嬢とは別物で、淫魔のつくりではない――気がする。
きつくはね返してくる女芯を、気合を込めて押し開いていく。しとどに濡れていても、ひだがぴっちりと折り重なった肉路は、とかく狭くてきつい。額から汗がにじみ出てくる。
「ぅっ、うぅっ!」
ネルは呼吸もできず苦しげに息を洩らしていた。抱きしめると、肩にすがりついてきて、指先が絡まった。
抜き差しのたびに、プチッ、プチッと肉層をこじあける感触がする。ネルに覆いかぶさりながら、ガーターベルトのレースを取り払って結合部を見た。まだ半ばだ。血は出ていない。代わりに花蜜でうっすら濡れた肉竿が激情を煽る。
控えめな幻影ネルの秘唇。その狭路に思わず呻いていた。余していた根元をずぶり、ずぶりと突き立てる。蜜ひだがやわらかくキュッキュッと吸いついてきて、すさまじい快感が背筋を走り抜けていく。
「くっ、ぅ、ネルっ……!」
「うぅっ……! んぅ、はぁっ……、アレンっ……! アレン……っ」
『行くぞ』と目で訴えると、ネルが苦しげに息を吐きながらも、何度もうなずいてくる。肉壁をずぶずぶと押し開いていくと、抜けた、と言う感触があった。ぐっしょり濡れた肉層へ食い込むと、あとはなめらかにぬちゅぬちゅと粘膜をすべっていく。
「あっ! あああぁっ!」
ネルが切なくあえぐ。アレンの腰を挟んだ太ももに力がこもり、白のストッキングに包まれたつま先がシーツを蹴った。
アレンはあまりの快美感に本格的な抽送を始めていた。ネルの背筋がピンと反り返って、ぶるぶると形のいい乳鞠が揺れる。彼女は肉槍を受け入れんとわずかに腰をあげ、男の欲望を全身で受け止める。
もはや気遣う余裕はなかった。
「あ、あ、あっ!」
ネルは苦しさをこらえるようにギュッと目をつむり、それでもつながった喜びをにじませた声音で、何度も名前をささやいてくる。絡まった指先をさらに強く握りしめた。きゅぅきゅぅと締め付けてくる肉路。ネルに対する愛おしさがこみ上げてきて、ミニドレスの胸もとを乱暴にはぎ取った。現れた白くまばゆい肉丘を握りしめる。豊かな量感がぴちぴちにかえってきて、息遣いが荒くなり、律動にも力が入る。
興奮と快楽が弾け、激しいピストン運動で女体を揺さぶった。ネルが快楽をどうにか逃がそうと首を振る。一方で肉ひだが次第に、ペニスにぴっちりと吸い付いてきて蜜部が悩ましく溶け始めていく。
「んっ、んっ、んっ、んっ! ぁぁん、ふぁあっ……!」
抜き差しするたび、ぬちゅぬちゅと肉ずれの音がする。もう痛みはそれほど感じていないようだ。あふれだす蜜液と、ねっとり巻き付く肉ひだの粒立った感触を、狂ったように味わい尽くす。
腰が抜けるかと錯覚するほどの強烈な快美感だった。
「ああっ、深い……っ、アレン……ふかいぃぃっ……!」
ネルが背中をのけぞらせた。アレンの名を呼ぶ声も切なげで甘い。白いストッキングで包まれた長い脚が腰に絡まり、身をよじっても吸い付いてくる。彼女の豊満な肉体で、アレンを最奥まで受け入れようとする。その健気さに胸がきゅぅっと締め付けられる。
「アレンっ、アレンっ……! あぁっ、ぁぁぁっ……。いま、だけっ……。……いまの、幻影の体でいいからっ……はああっ、んんっ……私を、愛して。私を、ちゃんと見て!」
「っ!」
アレンは獣じみた荒い呼吸をネルの首筋から耳に吐きかけた。舌を突き出してやわらかな肌をねっとりと舐めあげる。女体を激しく揺さぶり、深々と挿して、肉壁の淫らな熱と複雑にうねる感触を味わう。彼女が身悶えるたび、白い乳鞠の先端がぶるんぶるんと揺れ、艶めかしく光る。激しい摩擦で、肌を打ちつける粘着質な音が立つ。
ネルのつま先がピンと反り返り、びくびくと痙攣する。
「はああぁぁっ! ああっ! いいっ……あぅ、あっ!」
「ネルっ……もうっ……くっ……」
ネルの唇を奪った。唾液がまじわり、舌を絡ませあう。腰を振るたびに、肉同士が擦れてヌルついた音が生まれる。彼女のぬかるんだ蜜路に、熱く滾ったペニスをこすりつけて精を放ちたい。衝動が込み上げてくるも、どうにか堪える。
「ああぁっ! だめっ、もうっ……!」
「ネル……っ!」
「あああっ、アレンっ、アレンっ!」
狂ったように名前を呼んでくる彼女を見上げて、アレンは胸中ひとりごちた。
(――そうだよな)
試練を受けているときに、自分の胸を去来した言葉が脳裏をよぎる。
――……わからない。『愛』と言うには、感情がおぼつかない。ふたりにはいつも通り、元気に笑っていてほしい。ただそれだけでいいんだ。俺の、この感情は――。
(ちがう! ここまでさせておいて、俺はっ!)
言葉を濁していいわけがないのだ。いまなら理解できる。幻影のネル『優しさが痛い』と言い放った、その真意が。
「ネル……っ、好きだ」
「!」
アレンは腕の中にネルの体を抱きしめ、本気のピストン運動を始めた。肌と肌がぶつかりあう音が軽快に響く。ひときわ深く穿つと、ネルが白い喉をさらけ出す。
「ああっ! あっ、あ、あっ!」
「ネル……っ」
「アレンっ、……アレンっ!」
「愛してる。お前を、愛してる! お前を、これからも……っ!」
「っ! ……ああぁっ! だめっ、もうっ……、いっちゃうぅっ! アレン、アレン、アレンぅぅっ……!」
「う……ぐっ……!」
「ああああぁぁぁっ! ああっ、だめぇぇっ! い……くぅぅっ!」
ネルはつま先をピンと反らし、アレンの背中に爪を立てた。ぎゅっと抱きしめられるのと、ぎゅんと収縮した肉路に締め上げられるのはほぼ同時だ。
激しい締め付けに、アレンも下半身からどっと熱が噴き出していく。抱き合ったまま、心ゆくまで白濁液を注ぎ込んだ。
「ネル……。いままで、悪かった……」
すべてを出し切ったあと。射精後の脱力感で倒れ込みそうになるのを堪えて、ネルの汗ではりついた髪を払う。
彼女は荒く息を吐きながら、こちらを見て微笑んでいた。ようやく安心した顔。彼女の全身が光に包まれ、消える予感がして抱きしめるも、背中に生えていた堕天使の翼が見る間に消えていく。
「ネルっ!」
「……っ、う! ……んんっ……あんた……ちょっとは加減しなよ」
光のなかから、いつもの忍装束を着たネルが現れてきた。儚さはない。見慣れたネルの呆れた顔だ。彼女は小さく呻き、アレンを抱きしめ返してきた。
人肌の感触がよりじんわりと感じられて、知らぬ間に涙がこぼれる。
――目の前で人間が消えるさまを見せつけられるとトラウマになる、というのは本当らしい。
「いままで、悪かった……。ネル」
彼女の痩身を抱えあげ、ベッド上に座り込んでからその白い首筋に頬を寄せる。何度も謝っていると、ネルがふいに甘い声を洩らして、いまだつながったままの肉槍がきゅっと絞られた。
ふたりが同時に息を呑んだ。
「っ、ばか……。私が聞きたいのは
「ネル、――愛してる」
「っ……! 私だって、愛してる。アレン」
導かれるように唇を合わせる。やわらかいネルとの口付けが、これまで以上に幸せに満ちて、あたたかな気持ちが胸に広がっていく。
ネルが驚いたように離れて、こちらを見上げてきた。
「ぇあっ!? ……んた、まって……! また、おっきく……!」
「やっぱり、いつもの恰好のほうがいいな。お前は」
「ちょっ、待ちなって! アレン!」
ネルを抱えたまま腰を揺らすと、彼女は面白いようにうろたえた。ミニドレスもたいがい煽情的な格好だったが、やはりネルの忍装束は丈が短すぎる。
まばゆい太ももを撫でつけながら、とりとめのない考えが脳裏をよぎった。
(未開惑星の文化に口出しするのはどうかと思っていたが、今後、抑えられるか――?)
結合部をまじまじと観察すると、なぜか堕天使同様、このネルも黒い紐パンティを履いている。『あ、無理だな……』とアレンは悟った。
顔をまっかにして揺さぶられているネルは、さきほどまでと違って活き活きとして、紫瞳に灯る情欲だけが変わらない。
そのときだ。
「……アレンさん。あなたはやはり、ネルを受け入れるのね……」
傍らで見守っていた幻影のクレアが、そっと寄り添ってくる。
ネルが快楽にあえぎながらも警戒に眉を寄せた。その肉路の情熱的な吸いつきを堪能しながら、レザースーツ姿の幻影クレアを見ると、彼女は複雑そうに目を伏せたまま、言った。
「おめでとうございます……。あなたは見事、この試練を乗り越えられました。だから残すは、夢から醒めた、そのあとに――」
幻影のクレアの手のひらから光がほとばしり、鎖で囲われた天蓋付きのベッドが激しく揺れて、世界が壊れていく。
アレンはネルから素早く肉槍を抜き、抱きかかえると、『兼定』をイメージして手繰り寄せる。
だがそれよりも早く、世界は闇に呑まれていく。
「目覚めたさきで、またお会いしましょう。――最後の決着をつけるために」
暗闇の奥で、クレアの声が寂しく響いた。
次回更新は来週です。