【SO3】聖王国の紅刃が堕ちるとき~背徳の淫紋から始まる英雄救済譚~【IF】 作:ばんどう
荒い呼吸。獣めいた鋭い視線が、クレアにあの洞窟の続きを思い起こさせる。
「ん、んんぅ……。ふっ……ちゅっ、んんぅっ……」
唇を何度も重ね合わせながら、服のうえから胸を撫でさすられる。茶色いサーコート状の前後に垂れる修道服は、白くまばゆい肩をむき出しにして、横になってもなお、ボリュームのある乳肉の全容をたっぷりと包み込んでいる。軍服よりもやわらかい素材でできたそれは、アレンの長い指が肉鞠のふちをねっとりとたどるたび、さらさらと衣擦れの音を立てて羞恥心を煽る。
その修道服を留めている剣帯付きコルセットが、夜着と思いゆるめていたせいか、いまにも外れそうになっていた。
「んんぅっ」
細い眉を下げて、クレアはさりげなく深いスリットの入ったヒップのあたりに手をやった。肉鞠をかざる指先が、ぷるんぷるん揺れる乳肉を追うたび、修道服のスリットが乱れ、むっちりとした太ももが、月明かりに照らされながら、衣の隙間からいやらしくのぞいていくのだ。
ふと、アレンの視線がスリットから覗く太ももに吸い寄せられているのに気づいた。
(や……だめ、そんなところ……見ちゃ……)
激しく愛撫されているわけではないのに、丸みのあるクレアの肢体は修道服をつるりと払いとしていく。熱い吐息が頬にかかるたび、じわじわとクレアの体にも熱がともっていく。
とっさに脚を閉じようとして、太ももをすり合わせる。くちゅりと粘着質な水音ともに下着の舟底が冷たくなっていることに気づいた。
(ぁ……。どうして、こんなに……!)
頬が、熱い。視界がぼんやりとにじんでくる。
汗ばんだ首筋にアレンが、ふーっ、と息を吹きかけた。
「は……んっ……」
見れば、彼のこめかみにも玉の汗が浮かんでいる。わずかに細められた目が、燃えるような欲に耐えているようにも見えた。クレアの背筋がぴんと反り、脚の内側がひとりでに締まる。
長い銀髪は月明かりに照って、つややかに濡れ光る。
クレアの肌はシミひとつない陶器のような白さで、手を這わせれば吸いつきそうなほど滑らかだ。
施力を取り戻したいま、肌の瑞々しさを際立たせるように青い施文がたっぷりとした肉付きのいい腿から、丸みを帯びた小さな膝まで続いていく。──さらにその下、驚くほどスッと細く引き締まった脛が、足首にかけて優雅な二本線を描く。細身なのにまろやかな肢体は、体勢の変化にあわせてふくらはぎの筋が淡く浮き上がり、隠しきれない色気を帯びていた。
「んんんっ」
キスをしながら、クレアが恥ずかしくて眉根を寄せる。アレンの手のひらが、知らぬ間に量感のあるヒップのすぐ傍をかすめてきて、体がびくりと痙攣する。
ふいに、額に口付けられた。
「んぅっ……?」
またキスをすると思っていたのに、思わぬところに唇を当てられて、クレアが首をかしげた。アレンを見上げる。彼はクレアの銀の後頭部を愛おしそうに撫でながら、また額に口付けて、そこから唇を滑らせ、思わず目を閉じたまぶたにもキスを落としてきた。
その動きのやわらかさに、クレアの心臓が跳ねる。
(……こ、れ……っ)
風の試練で、幻影に触れていたときとはまったく違う動きだ。
快楽を追おうとするのではなく、壊れ物を扱うようにクレアの体の反応を確かめている。その証拠に、安易に脱がしてこない。覚悟したのに、極部に触れてこない。
「アレンさ……」
「こわいですか?」
尋ねられて、ハッとした。そうだった。自分に触れてくるとき、アレンは必ず確認してくる。怖くないか。己の欲望の攻撃性を自覚しているような、許しを請うような言葉だ。幻影には向けなかった気遣いに気づくと、クレアはふと顔が燃えるような羞恥に包まれた。
まるで心の奥まで覗かれている気がしてくる。
(なんで……こんなふうに、大切にされたらっ……)
下腹部の奥が、じん、と疼いた。まだ直接触れられていないのに、身体だけが先に、熱を帯びる。
激しい愛撫をされたわけでもない。ただ自分だけがアレンにこんなことをされているのだ、と思うと、胸の奥から温かな感情がじわり、じわりと広がってくる。
これはネルでさえ知らない。
本物の体で触れ合った、クレアでしか知り得ないアレンなのだ。
(こ、こんなの……。好きにならないなんて、むりっ……!)
予想外のときめきに、心臓が早鳴っている。この内心の身もだえを、アレンは感じていないのか。涼しい顔で、それでいて情熱的な瞳で、服のうえから胸もと、手の甲に、それぞれクレアの体をいたわるように口付けてくる。クレアの心がふわりと浮き上がった。自分のすべてを預けてもいいと思えるほど、すでに心がほどけている。
優しく頬を撫でられただけで、体がひくついてしまう。
クレアはアレンの手のひらに頬ずりしながら、甘え切った声でささやいた。
「もっと……、やさしくして……」
自然とこぼれた甘えた言葉に、アレンが微笑むのが嬉しい。
渇望や、焦りではない。
(こんな気持ち、知らなかった……)
口にしていないのに、アレンは『愛しい』と指先で触れてくるたび、唇でクレアの肌をたどるたび、告げているような気がする。
幻影との交わりを目にして、あれほどの熱を知ってしまったら、男女の関わりを持たないと『アレンの特別』にはなれないと焦っていた。
月の紋章に縛られたアレンを解放したいという純粋な願いと、『行かないで』という葛藤があった。淫紋がなければ彼はいまも、クレアを怒らせたかと怯えた視線を向けてくるだろう。あの日々に戻るのがつらい。
それなのに、
「クレアさん、脱いでいただけませんか」
言葉の意味が理解できずに、固まった。
アレンは変わらず微笑んでいる。だが、その獰猛な視線は雄弁に男の欲望を物語る。何を言われたのか、理解してくると、途端に全身に血がめぐった。
クレアの鼓動が、激しく高鳴る。
それだけで、息苦しくなった。
「じ、自分で……、ですか?」
「だめ?」
確かめてくる割に、断られるとは思っていない口ぶりだ。
優しく甘やかしてくれる男だと思っていたのに、急に大胆な提案をされて、思わず両頬に手を当てた。熱い。ぷるぷると震えているクレアを、アレンは楽しげに見つめている。その視線は、乱れたサーコートと緩んだコルセットの隙間を捉えている。まるで、その下の素肌をすでに見透かしているかのようだ。
(はうぅぅっ……! ずるぃっ……!)
抵抗する言葉は、喉の奥で溶けて消えていた。
恥ずかしいのに嬉しい。思うように転がされて悔しい。けれど、見せたい。
クレアは混乱しながらも、長椅子に横たわった態勢からゆっくりと起き上がって、震える指でコルセットに手をかけた。いつも身に着けているのに、緊張しているからか。留め具をうまく外せない。カチ、カチッ……と金具が擦れる小さな音が、やけに大きく耳に残る。
すぐ傍に寄り添ったアレンが、首筋にキスを落としてくる。その刺激に体が震えて、余計に集中できない。
「ア、アレンさ……」
「続けて」
吐息が耳にかかって、脳が痺れるような震えに襲われた。抗議しようと言葉を探すも、うまく唇が動かない。ただ甘い息をこぼし、敏感な耳元で低く囁かれて、クレアは(うぅうううっ)と心のなかで呻るほかない。
欲しがっているのがバレてしまうのが恥ずかしい。
(絶対、年下じゃないっ……!)
ここまで動じないのは、クレアより経験があるからだろう。
そう考えると、悔しさばかりでなく、胸が苦しくなる。
(……どうして、私ばかり恥ずかしがって……)
アレンの横顔を盗み見る。見慣れているはずなのに、知らない表情。じっと見ていると、いとおしさがこみ上げてきて、気づけば頬に口付けていた。
アレンが目を丸くして、クレアを見る。その口許が静かに緩んで、頬がたやすく赤らんでいく。
(ふふっ)
満足して、コルセットを外した。
茶色いサーコートまで取り払ってしまうと、あまり色気のない下着姿になる。デザイン性のない白い胸当てと、ローライズのパンティ。アレンは一切脱いでいないのに、自分だけさらけ出されてしまったようで、どうしよう、と腕で胸当てを押さえながら視線をさまよわせる。
ふいに、むき出しの肩を引き寄せられた。
「……かわいい」
ほとんど無意識に発せられたアレンの言葉に、息が詰まった。クレアを抱きしめ、首筋に寄りかかってくるアレンの頭を両手で抱えてかき混ぜた。
はからずも豊満な双丘で、迎え入れるような態勢になってしまう。
やわらかな胸元に、アレンの金髪がさらりとこぼれる。胸当て越しだが谷間に顔を埋めるような態勢になったアレンは動かない。ただ耳まで赤くして、胸当ての隙間から素肌に触れる吐息と、髪の感触がくすぐったくて、クレアの背骨から腰にかけて痺れが走った。
(わ、わわ……っ)
思った以上に大胆なことをしてしまって、頭がくらくらする。同時に、不思議な多幸感に満たされる。
ふとアレンが胸当てのかかっていない素肌に吸いついてきて、クレアがびくりと体を震わせた。
唇のやわらかな感触が、雪白の肌に焼け残る。
「ひゃうっ」
たっぷりと重量のある乳肉。その豊かなお椀型のふくらみを、ゆっくりとわし掴まれた。汗ばんで、胸当てが貼り付いた肌。アレンの手の大きさに、心臓が早鳴る。
谷間の素肌にまたキスをされ、見上げられると、息が詰まった。
赤い舌先が谷間のなかほどから鎖骨に向けて、肉鞠の内縁をたどるようにじっくりと生温かく這い上がり、ぬるりと肌を湿した。
頭の芯から痺れてしまう。クレアが快感をこらえるように目を閉じて身悶える。
「ふぅ、んんっ……! だ、め……」
「だめ?」
尋ねながら胸当てごと肉鞠のふちを甘噛されて、クレアは悶え、アレンに身を預けた。体に力が入らない。くたくたになったクレアの頭をアレンが撫でてくる。彼はふと自分の左手首に刻まれた施文と、クレアの右手首に刻まれた施文とを重ねるようにふたりの手首を隣り合わせた。
耳元でささやいてくる。
「そういえば……力を、返してくれるんでしたね」
「……?」
どうするの? と視線で問うクレアの額に、アレンは静かに口付ける。
わずかに目を伏せた彼の視線に、凛としたものが宿った。施力が、集う。
「アレンさ……」
「月神イリスの恩寵を賜りて、常闇の深淵、月下の幽光、わが血潮に宿る因果を繋ぎたまえ」
使えないはずの施術を編んでいることに驚きながらも、戦っているときの精悍な目つきにドキリとした。
低く落ち着いた彼の声。揃えたふたりの手首に刻まれた紋章が青く輝き、手首からふたりの奥深くへと、やわらかな熱が体に、心に、しみ渡っていく。
(なに……これ……? アレンさんの、施力……?)
多幸感に包まれたまま、クレアは首を傾げた。体をアレンに預けたまま、彼の言葉が夢の出来事のように聴いている。
やがて光が晴れ、礼拝堂の夜の静寂があたりを包み込んでいった。
「んっ……」
いまの光だ。きっとネルにも届いてしまっただろう。
それでも終わらせたくなくて、無意識に体を寄せた。するとアレンもまた、強く、抱きしめ返してくる。
「脱がせても、いいですか?」
アレンに問われて、即答できない。
白い胸当ては、ツンと角だった肉鞠の先端に押されて、その控えめな乳輪の淡さをわずかに透けて見せている。
(あぁあああっ……、でも)
自然と涙があふれてきて、胸当てにかかった彼の指に口付けた。
『いい』と言いたいのに、ネルに見られてしまうかも、という羞恥がこの行為にブレーキを掛けている。
アレンが少し戸惑ったあと、言った。
「クレア」
「ひゃうっ」
べつに耳元でささやかれたわけでもないのに飛び跳ねた。クレアは暴れる心臓を手で押さえる。その手許に口付けられて、ますます逃げ場がないことを自覚した。
ゆっくりと胸当てにかかったアレンの指が、肉鞠を包む白い布をじわじわとずり下げていく。
「あ、……ぁっ……!」
そのたびにクレアの頬が赤く染まり、胸当てに乳首がこすれる繊細な感触に、びくびくと体が震える。ところがもう少しで先端が見えるという手前で、アレンの指が動きを止めた。
じっとクレアを見つめている。
クレアは下唇を噛み締めて、視線を反らした。
(どうして……こんなこと、アレンさんにされてるって、思うだけで……)
もじもじと太ももをすり合わせる。胸の頂きが、痺れるほどにさらなる刺激を求めている。
(ネルに見られたらどうしよう……でも、もっと触れてほしい……)
アレンは動かない。ただ布越しに肉鞠の全体を、つー、とたどってくるのみだ。
腰が震える。体の奥が痺れている。
緊張で唇を湿した。言葉にするのは、とても勇気がいる。
きっと『やめて』と言えば、アレンはここで止まるだろう。だがクレア自身が、もう、こらえきれない。
唇がひとところに定まらない。涙があふれてくる。
それでもクレアは、『その言葉』を口にしていた。
「アレンさん、おねがい……。いまは、今だけは……私だけを見て」
あと2話か3話くらいクレアさんターンです。