【SO3】聖王国の紅刃が堕ちるとき~背徳の淫紋から始まる英雄救済譚~【IF】 作:ばんどう
ちりちりと、理性と欲望の綱渡りをしていた。
普段、おだやかに微笑むクレアが、ぐずぐずに蕩けた目で見つめて、身を預けてきた時点で、欲望に軍配があがりつつあったのだが。
――女の子の体はね、とってもデリケートなのよ?
十八のとき、先輩軍人に放り込まれた娼館で、サキュバスとヒューマンの混血嬢が教えてくれた言葉がよみがえる。たった一度きりのレクチャーで、たしかに気持ちはいいし人体はこうなっていたのかと謎に感動したが、時間と体力を消費しすぎると結論し、切り捨てた過去だ。
連邦最強の精鋭軍人として生き残るためには、『力』こそなにより重要だったのだ。
重要だったのだが――
(……わ、わからないっ……!)
見たこともない、艶っぽく火照ったクレアの顔。鉄壁の理性がその心情を読み図ろうと思考をフル回転させても、欲しい結論に至れない。ただ肉欲が、もう好きにこの娘を暴こうとざわめく。
命がけの戦場などいくらでも渡ってきたのに、ただ目の前の女性が、いまは怖くてたまらない。
レクチャーしてくれた嬢の一言が、ぎりぎり理性を繋ぎとめる。
――知ってる、少尉さん? ヒューマンの女は好きな相手とのセックスじゃないと、心が傷つくのよ。本人も知らないところで、深く、深くね。
だからアタシを大事に愛して、と吹き込まれ、ガチガチになって手ほどきを受けたあのとき。
すべてが終わったあと「アタシ、サキュバスも入っているからホントは乱暴なのも大丈夫ナノ。だからマタ来テ♡」とからかい混じりに笑われたときは、こいつは悪魔だ、としみじみ思った。
興奮と緊張は、そのときの比ではない。
いまは、まったく失敗が許されない相手なのだ。
とはいえ状況を打破するには、おそらくクレアの母乳を飲むしかない。
(ありえないことだが……かすかに紋章力を感じる……)
気づいたのは、頬にはねたクレアの母乳らしき粘液を舐めとったときだ。これはいったいなんなんだろう、と好奇心から口にした。
甘ったるく、股間にずくんと響く不思議な味。
ブラックベリィや精神活性剤とはちがう、わずかに紋章力が自分の体に湧く感覚があった。ならば、とクレアの乳首から直接母乳を飲みくだせば、ほんの少しだが紋章力が戻ったのだ。
手首に刻まれた紋章陣は、これらの行為の末になんらかの作用を起こすのだろう。
絶対に傷つけてはいけない相手に対して、『力』を言い訳に、その身体を求めていないか。
冷静な自分の問いに、めずしく答えが出せなかった。
ただ、紋章力を戻す鍵がアレンにとって母乳ということは、クレアは――逆の立場を考えかけて、努めて思考から追い払う。すくなくとも、いま、そんな余裕はない。
股間のこわばりがいよいよ苦しくなってきて、ズボンをくつろげる。無意識に逸物をこすっていた。これまで見たことないほど張りつめたそれに解放感と苦い感情を覚える。
(くそっ、このままではっ……!)
苛立ちに思考が焦れてくる。
クレアの香り、表情、艶めいた声に、狂わされている。自制したいのに、軍服のサーコートを乳房の谷間に押し込めて自慰を始めた姿を見たとき、殺す気だろうか、と思った。性的欲求との綱渡りがつらすぎる。
とはいえ、
――アレンさんなら、必ず帰ってきてくれると信じていましたから。
そう言って微笑んでくれた彼女を、絶対に傷つけてはならない――いま流されれば、自分を『ひと』として受け入れてくれた相手を今度こそ失ってしまう。
それだけは、心が耐えきれない。
だからこうして慎重に、慎重にクレアの反応をうかがいながら触れているのに、彼女は声を押し殺して、すがるような目を向けてくる。もしかして本当に自分を? と何度か血迷いかけたが、おそらく手首の紋章でクレアの思考も狂っているのだろう。
問題は、どこまで理性が残っているかということだ。
(いっそ、すべて忘れてしまえばいいものを)
気を取り直して、たっぷりとした左の乳肉を手のひら全体でもち上げる。クレアの形の良い乳房は重みがあって、染みひとつない美しい雪のようだ。息が浅くなる。なんとかこらえて、いくらかこぼれてべとべとに乳房を塗らす彼女の母乳をていねいに舐めとっていく。
「んっ、んぅっっ…………っ!」
くったりしていた彼女がくぐもった声をあげるのが、たまらない。そのくびれたウエストがくねりだすのを見て、無意識に左手でつかんで固定する。
(だめだ、余計なことは……)
自分を失いたくない。
根源的な恐怖の一方で、クレアが腕を伸ばして求めてくる仕草に、しびれるほどの感動を覚えている。
——守りたい。
守りたいから触れてはいけない。わかっているのに、心が揺らぐ。
なにがこうまで自分を駆り立てるのか、アレンにはわからない。この感情の名前に覚えがない。
「アレンさ、ん……」
甘ったるく微笑むクレアを見て、胸が熱くなった。
——応えたい。
溢れてくる渇望に戸惑いながら、ぷっくりとした薄紅の突起を親指でくりくりといじって押しつぶした。乳首の形がかわるほど強く押せば、清楚な女司令官が喉をそらせて悩ましげな吐息をもらす。
あれほど対応に困っていた女性を、いま思うように転がしているのだ。いつもは戦場で感じる支配力を、向けてはいけない相手に向けてしまっている。
わかっていて、離さない。離れられない。
この肌の吸い付きを、ぬくもりを、自分だけが知っている。
後ろ暗い征服欲が、股間をぱんぱんに張りつめさせていく。
左の乳房にしゃぶりついた。
「はあぁっ! ああぁあっ……!」
乳輪ごと口に含み、舌全体で舐め上げ、前歯で甘噛みする。クレアの腰がまた浮き上がり、雄々しく勃った肉棒の先端が女司令官の引き締まったウエストをねっとりとたどる。
思わぬ刺激に呻きかけ、息を呑んだ。
このまま、彼女にすがって堕ちてしまいたい——。
一瞬、あり得ない考えがよぎった。息が浅い。理性を失う恐怖と、無力な現状を打破する、欲望を正当化するすべ。
(……クレア、さん)
自分の弱さに、頬が引きつった。
恋人でもない娘の頬を優しく撫でると、クレアが愛おしげに抱きしめてくる。ただそれだけで、ためらいが消え、抗いきれない欲望が燃え上がってくる。
(……違う。俺は、このひとを)
この先に踏み込みたいのは、欲望と言い切らない。
失う恐怖に、勝ちたいだけだ。
覚悟を決めて乳輪ごと強く吸い上げると、クレアの体がふたたび痙攣しはじめた。さらに乳首を舌で転がしながら甘噛みすると、ひときわ大きな悲鳴をあげてのけぞった。
「あああっ!」
鼻腔をくすぐる甘い香りがより濃くなる。くわえた突起はその硬度と体積を増し、しゃぶればしゃぶった分だけ出てくる蜜の美味さにもう夢中で吸い続けていた。
もはや耳に届くのは彼女の声だけだ。
股間は暴発寸前で、喘ぐクレアに合わせて発射しようというのか、急速に上り詰めていく。
「あっ! あああぁああっ!」
クレアが感極まったように絶叫し、ぷしゃっと音を立てて秘所から透明な潮を噴き出す。それと同時にアレンも肉棒をにぎる手を早め、いまも吸い続けている母乳がそのままストレートに尿道に流れているかと錯覚するほど強烈な射精感がこみあげてくるのを感じた。呻く。
(…………出るっ!)
腰が抜けるような肉悦と、みっともなく大量のザーメンをまき散らす痴態。その白濁液は容赦なく女司令官のすべらかな太ももとウエストをべっとりと汚し、勢い余って彼女の顎にまで飛び散っていった。
「はっ、はっ、はっ、は」
ようやく吐精が終わったアレンは、ここでクレアの乳首から唇を離し、足りなくなった酸素を求めて小刻みに息を吸う。
さすがに我慢し過ぎた。
引くほど、射精してしまっている。
「はぁ……っ、はぁ……ん……」
クレアは焦点の合わない瞳で、横になったままか細く息をしている。
くたくたになった四肢は、まったく力が入っておらず、おのれの精液に汚されたウエストが呼吸に合わせて上下するさまがとてつもない卑猥だ。
アレンはごくりと喉を鳴らした。
(だめだ、いまなにを……)
これ以上は絶対に道を踏み外す自信があった。いま、ある程度だが紋章力は戻っている。
出るべきだ。一刻も早く。
呼吸を整え、自分の上着を脱いで、汚してしまったクレアのあれそれをぬぐう。すさまじい後ろめたさと妙な興奮を感じながら、クレアにもサーコートを着せてやる。
乳液でサーコートも下着もぐずぐずだが、帰りは馬車に乗らねばならないのだ。
(たしか、洞窟の近くに川があったはずだ。……無事につければだが)
クレアを背負い、愛刀を片手に持つ。クレアは疲れたのか、すよすよと寝息を立てていた。その寝顔を見つめて可愛いと頬がほころぶのを抑える。
ゆっくりと、安堵の息を吐いた。
(——……止まれた……。いや、そう言い張りたいだけだな。せめて、彼女が傷ついていないことを祈ろう……)
壊した祠と、手首の紋章を順に見て、まあ無理だろうな、とあきらめの感情がよぎった。
目覚めた彼女は、泣いてしまうだろうか。
想像すると、胸が痛んだ。かすかな期待は、抱くだけで図々しい気がする。
そして状況報告もある。アレンは長く軍人をやってきたが、生まれてはじめて、今回自分の身に起きた事象を説明できる気がしなかった。