アレは嘘だ(土下座)
詳しくはあとがきで説明します。
世界を暗躍する組織。名前を持たないその集団は便宜上としては組織のパーソナルカラーとして「黒の組織」と呼ばれている。
所属する構成員は様々で一般人に紛れ込んだ凄腕のプログラマーから日本で有名なアナウンサー、世界的な自動車メーカーの会長まで様々だ。
「…はぁ」
そしてその一人。
これまた有名な世界的大女優のクリス・ヴィンヤード。
ボスのお気に入りで幹部の中でも別枠として扱われたりする彼女を嫌う構成員も少なくない。
「ここまで気が進まない任務も初めてね…」
気に入らない任務ならサボタージュしたり、あるいは自分に妄信的なカルバドスなどのメンバーに任せたりもしていた。
しかし、そうも言ってられないことはある。
「なんで、あの女の…」
気が進まない理由は二つあり、一つはそれのいわゆる依頼人。
組織の中でも有名な話だが「ベルモットはシェリーを嫌っている」という話だ。もちろんそれに間違いもなく、それどころか殺したいほどだ。
だが、シェリーが組織にとって重要な薬の研究をしているため、殺せずにいるという状況だった。
そんな相手の依頼――正確に言えば、直接的ではないがその研究に関係しての仕事なのだ。気が進むわけもない。
「……しかも、有希子のね…」
もう一つの理由。
仕事の内容は簡単に言えば「アポトキシンを使用した人間が死亡したかの調査」ということだ。
人体実験がまだされてない改良されたアポトキシンをジンが勝手に持ち出して使用した。これ自体はもういつものことだからということになっている。
問題はその相手、つまりは薬を飲ましたのは工藤新一という高校生探偵だった。
表向きに死亡したシャロンの交友については既に捨て置くものだが、有希子とは言わば
とどのつまり、有希子を呼びだすのにクリスの顔を使うのはとても有効だった。
「…はぁ」
気が進まないのはそこだ。割り切っているとはいえ、親友が子供を失って落ち込む姿を見て嘲笑うほどベルモットは冷酷でもない。
それにこれからすることも気が進まないことの一つだ。
ため息を隠すかのように、可愛らしい店員が運んできた喫茶店としてはいい豆を使ったコーヒーを飲んだ。
するとカランカランとドアベルを鳴らして一組の親子がやってきた。
「いらっしゃい、あれ。有希子さん?」
「こんにちは梓ちゃん。待ち合わせなんだけど…」
予想外にも店員と顔見知りお呼びだした相手である工藤有希子がやってきた。
店の奥にいるサングラスをかけたベルモットことクリス・ヴィンヤードに気づくと幼い次男を連れてやってきた。
「お久しぶり、ね?」
「ええ、急に呼びだして悪かったわね」
有希子からしたら去年亡くなった親友の娘が突然会いたいと連絡を入れてきたから不審に思っても仕方ない。
だが、先ほども言ったようにこれは組織が工藤邸の中から工藤新一の生存を調べる調査のために有希子を家からおびき出す必要があったからだ。
工藤新一についての調査をしているうえである事実を掴んだ組織は、その情報をベルモットに持たせて呼びだすことを命じてきたのだ。
「おねーさん、だれぇ?」
「初めましてリトルエンジェル。私はクリス。ママとはお友達なの」
「りと…?ぼく、しんじだよ?」
意味が分かってないようでコテと首を傾ける姿に思わずキュンとして「ん゛ぅ゛」と妙な声を出してしまうクリス。
すると、先ほど梓と呼ばれた店員が注文を取りに来たから「コーヒーとオレンジジュース」と言ってから「で」と有紀子がクリスを見る。
「呼びだした理由、何かしら?急に大事な話があるって」
「…ちょっと、子供には…」
「はい、コーヒーです。ねえ新士君。新しいケーキを作ってみたんだ、よければ食べる?」
「けーき!」
丁度よくコーヒーを運んできた梓は会話が聞こえたのか新士をテーブルからカウンターへと促そうとする。
その気使いに有希子は「ありがとうね、梓ちゃん」と新士を送り出した。
「ごめんなさいね、そこまで配慮できてなかった」
「いいのよ。いつもならお隣さんにお願いするんだけど留守だったから。それで、何かあったの?」
いよいよ本題、クリスは持参していた封筒を有希子の前に置く。
中身を見ろということなのだろうと思い、封を開けると隠し撮りをしているのだろうか写真が入っていた。
「これ…!」
「悪いのだけど、合成とかじゃないわ」
そこに映るのは有希子の夫、優作だ。
彼は今、「
そろそろ撮影も佳境という話で間もなく帰国の目途が立つと言っていた。
「母の知り合いのジャーナリストにタレコミがあったらしくて、張り込んで撮影したそうよ」
それは次男である新士とは直接会ったこともないが撮影を抜け出すこともできないため、やっと会えることを楽しみにしているはずの男が離れた国の家で裸の女とキスをしている写真だった。
「…この女は、誰?」
「ハウスキーパーだそうよ。かれこれ2年半ぐらい工藤優作の家の家事掃除をしているみたい」
説明を聞いてわなワナワナと震える有希子。
梓という店員は離れた位置のカウンターで新士に「ケーキおいしい?」と優しく対応してくれているが、話が聞こえてるのか少し心配そうだ。
無邪気に「おいしー!」と笑う新士の声が、居たたまれなかった。
「…教えて、なんで私にコレを?」
「少し前、母の遺品整理をしたときに日記を見つけて…あなたのことが書いてあったの。誰かの弟子入りの時に出会ってからの親友だって。…私、10年前に母にひどいことをしてずっと謝りたかった。けど、意地張って…去年亡くなったとき、深く後悔したの。それで…もし、母がこの話を聞いたら、貴女に知らせると思って」
つまりは亡くなった母への罪滅ぼしというべき行動だ。
もちろんシャロンの正体もクリスの正体もベルモットであるため、そんな気持ちは欠片もない。
だが、有希子に知らせたいというのは本心だった。だから、それを嘘で固めてこうした形にしたわけだ。
「…ありがと、クリス」
「よければ、弁護士も紹介するわ。ハリウッドスターの浮気や離婚を取り扱った腕利きがいるの」
「知り合いに日本で一番の弁護士がいるの。家族ぐるみの付き合いがあるから優作のことも知ってるし、最近も新士の誕生日を一緒に祝ったりもしたわ」
つまりは工藤家の揉め事なら頼りになるというわけだ。しかも息子の誕生日にも同席してるとなると相当深い仲だろう。
ともあれ、本来の目的である工藤邸から有希子を離すのはもう十分だろうと思い「何かあれば連絡を頂戴、力になるわ」と言ってコーヒー代として万札を置いていった。
「どうでした?」
「あなたには関係ないでしょ」
「ええ、ですがあの工藤優作のスキャンダルとなると探り屋でなくても興味があるもので…」
ポアロを出て乗り込んだRX-7で送迎役のバーボンが興味深そうに聞いてくる。
とはいえ、確かに工藤有希子と工藤優作の夫婦のスキャンダルに興味を持つのは仕方のないことだ。
それまでに二人の知名度が高い。
「どうもこうも、後を決めるのはあの夫婦。組織としてはあくまで有希子を家からおびき出すだけでそれ以降はノータッチよ、詮索はしないでちょうだい」
「つれないですね…。それにしても、愛妻家で知られる工藤優作が不倫とは」
「男なんてみんなケダモノってことよ」
履き捨てるように言うベルモット。過去、その美貌に下心を持って近づく男は星の数ほどいた。
それがあってか異性に対して強く思うことがあるようだ。
否定しようにも、これ以上深くつついて不機嫌になるのも憚れるバーボンは「手厳しいですね」と流すことにしながら内心で大きなため息をういた。
「(自身が幼児化して、失踪という形になって心配してる母と弟がいるのに父親は海外で不倫…新一君になんて説明するか…)」
公安預かりで親友が面倒を見ている工藤家の長男。知らせないわけにもいかないが、追い打ちをかけるようで気が重い。
だが、黙っていても工藤優作ほどのビッグネームが離婚ないし、不倫の事実が公になれば日本でも話題になる。
工藤家とは一切の接触禁止となっているが、ニュースにでもなれば自分や
そうなる前に説明をする必要があった。
「ところで組織としては不倫の事実は公表しないにしても、どこからかマスコミに嗅ぎつけられる可能性はあるんですか?」
「有希子には悪いけど、工藤優作は女を見る目がないわ。例のハウスキーパー、SNSでそのことを匂わせる投稿をしてるそうよ。自分の素性や工藤優作の名前は伏せてるけど」
今の時代、僅かな情報から身バレすることは多々ある。それこそどこからメールの内容が流出するのかもわからないのだ。
そう考えたらハウスキーパーの投稿から工藤優作とのつながりを察知し、パパラッチが押し掛けるのも時間の問題ともいえる。
そうなれば日本の有希子にもメディアが来るだろう。
「「………(はぁ)」」
バカな女に手を出したものだと、珍しく二人の内心が重なった。
「有希子さん…」
クリスが退店したポアロ。新士はいまだにケーキに舌鼓を打っておりご機嫌だった。
ワナワナと震える有希子に梓が声を掛けると――
「やった、やったわ!梓ちゃん!」
「ええ、よかったですね!」
共に喜び合った。
今更ながらこの二人の共通点は「梓の友人の栗山の上司の英理が有希子の親友」という遠回りなものと、もう一つある。
「これで博士と一緒になれるわね!英理にも教えないと!」
「ええ、私も緑もずっと待ってました!」
全員が阿笠博士の女ということだ。梓は正確には栗山の(レズ百合カップルという意味で)女なのだが、その栗山が阿笠の女であるため一緒に頂かれることが多いのだ。
とにかく、博士の女たちはいつでも共に添い遂げる決心をしているのだが有希子だけは夫がいるためそれが叶わなかった。
「はぁ、ずぅーっと英理がうらやましかったぁ」
同じように元人妻で小五郎と離婚した英理をずっと羨んでいた。いっそのこと、自分も離婚をと思っていたが阿笠に止められていた。
「けど、さすがにこれは納得してくれますって!」
「そうね、あのインポが原因なら疑う余地がないし❤」
もしも理由もなく、あるいは不倫などの疑いがあるのなら優作は周囲の人間を疑うだろう。
それでバレたら面倒になると離婚を許さなかった。
だが今回は優作による他責だ、そうなれば有希子の不倫を疑う者などいない。
気分ルンルン、ケーキを食べてご機嫌な新士と一緒に帰宅――ではなく、阿笠邸へとお邪魔する。
早速離婚についての話をするためだ。ちなみに新士は到着早々お眠になりお昼寝をしている。
「マジか」
思わず特徴的な老人のような喋り方が抜けるほどの反応を阿笠はした。正直、彼は離婚に賛成していたとはいえ優作に不審に思われることなくする方法がなくて諦めていた。
それが棚から牡丹餅というべきか、予想外の話になったと思っていた。
「ね、ね!これならいいでしょ、離婚しても!」
「ふむ…(新一がコナンになって大体1カ月…、そろそろかと思ってたが、まさかこんな手で有希子を家から追い出すとは…)」
原作でも期間を開けての調査については言及していた。
ちなみに新一が薬を飲まされた後に新士の米花保育園のお泊り会に有希子が同伴した際に組織の人間が調べに入ったのは知っていた。
おそらく次も何かしらの手段か、不在になる日を狙って調べに来ると思っていたが「工藤優作の不倫の相談」というまさかの爆弾に阿笠も驚いていた。
「(さすがに組織が合成とかチープな手段を使うとは思えんし…わざわざベルモットが出張ってきたとこを見れば…本物か、あるいはハウスキーパーはハニトラじゃろうな…となると…)」
仮にこれが合成で有希子が騒いでマスコミ沙汰になった際に情報元としてクリスを名指しすれば、世界的有名な推理作家を陥れようとしたハリウッド女優という名誉棄損だ。
いくらクリスが活動休止する予定だとしても騒ぎになるのは組織も避けたいはずだ。
組織としてはこのまま家庭内の話で終わり、というのが好ましいだろう。
もし優作が「不倫なんてしてない」と主張すればそこから先は有希子と優作の泥沼の家庭内裁判になるが組織は関係ない。
「(それなら、利用されてもらうかの)」
「諸君、おはよう」
「あ、ああ…」
「おはようございます…」
の撮影も大詰め。スタジオに到着してスタッフたちに挨拶をする優作だがどこか返答がぎこちない。
もうかれこれ一緒に映画を作って3年も経過するのになぜか距離があるのに優作は違和感を感じる。
「ミスター優作、プロデューサーがおよびです」
「なに?分かった」
ADの一人に呼ばれて共にプロデューサーがいるオフィスへと向かう。
その後ろ姿をコソコソとスタッフが何かしらの話をしてるのを感じているが、謎を求める探求心というべきか、何を話してるのか推理する方に『楽しさ』を感じている優作はあえて何も聞かなかった。
「(明らかにトークテーマは私、それは間違いはない。しかし、表情を見る限りではいい感じではないな…私の行いについて?)」
考えるも、残念ながらシンキングタイムは少なく推理の組み立て途中でプロデューサーオフィスについてしまった。
ADが扉を開けて「どうぞ」と入室を促すために施行を切り上げて入ればプロデューサーと監督、それと製作スポンサーの責任者がそろっていた。
「これはこれは、製作の三権がそろい踏みとは。私に話があると?」
「ええ、ミスター優作。時に、君は日本に子供がいるのだろう?」
プロデューサーの言葉に、最初は続編についての打ち合わせかと考えたが「その話か」と思った。
新一の失踪については有希子が捜索願を出して自身は帰国しようと思ったが契約は契約のため例外が認められなかった。
何人か、それこそ優作のファンだと言ってくれた俳優も抗議してくれたが「その際の違約金はだれが払うんだ?」と言われて優作も従うしかなかった。
「ええ、ご存じの通りどこにいるのかも」
「そうではない。もう一人、確か今年3歳だったか?」
確かにもう一人、渡米する前に身籠り、その後に出産した第二子。
まだこの手で抱き上げたこともなく、テレビ電話での会話だけしかしたことがない。
行方不明の新一のことならともかく、なぜ新士についての話が出るのか。
「生まれた後は契約を早く終わらせて抱き上げたい、と言ってたいそうだな」
「それが?生まれた我が子を抱き上げたいと思うのは親として当然ではないでしょうかね」
「だったら、これは、なんだ!!!」
突然総監督が声を荒げたかと思えば叩きつけるようにタブレットをテーブルに投げる。
どうやらネットニュースの記事で投稿が先ほどになっていた。その内容は――
「私の…不倫記事…!?」
『映画撮影のために妻子を日本に残して単身渡米した工藤優作が、現地で雇ったハウスキーパーと蜜月の仲になっている』というものだ。
ご丁寧なことに写真まで添えられており、あまりにもポルノティックすぎるためか女性の方は軽いモザイクがかけられていた。
しかし、間違いなくそこは優作の今の邸宅で、ハウスキーパーの女性との不倫行為の真っ最中のものだ。
「これについては?覚えは?」
「そ、れは…」
「まあ、あるのだろう。これだけではない、その女性が貴様との不倫をSNSで呟いていたアカウントまで特定された」
「なんだと!?」
まさかハウスキーパーがSNSで発信していたとは予想していなかった。
既にアカウントは削除されているのだろうが、ネットに情報が残り続けるのがこのご時世。
スクリーンショットを取られている可能性は十分ある。
「それで?貴様…どうするつもりだ?」
重々しく口を開くスポンサー。
ネットニュースのコメントには「合成か?」「まさか、あの工藤優作が?」と半信半疑なコメントもあるが、「さいてー!」と侮蔑する反応や「先生はそんな人じゃない!」と庇う声も入り乱れている。
しかし、それは今後の優作の行動一つで大きく変わる。
「写真がディープフェイクだと言い張るのもいい、それは紛れもなく自分で一時の過ちだったと謝罪するのもいい。しかし、問題は不倫が事実である以上、映画への影響だ。貴様の家庭内問題に我々を巻き込むつもりか?」
「そ、それは…」
「総監督と同等の権限を与えた貴様もよく理解してるだろう。作品は9割方仕上がり、上映日の宣伝も試写会の手筈も整えた。我々はそこまでの投資を済ませている。それがここにきて原作者の不倫だと?チープすぎる展開だ」
スポンサーはあくまで出資に対するリターンを期待して資金を出す。
そして作品が不祥事による炎上などによる興行収入の低下の場合は当人に対して賠償を請求することもある。
もちろん優作は既に世界で有名な小説作家、財力も並ではないがそれとこれとは話は別だ。
「我々の資金で制作し、貴様の名で売ったこの映画が、貴様の名でコケるというなら──我々は、その損失すべてを、貴様一人に請求する。それを含めた契約だ。違うか?」
冷徹な声が圧を持って工藤優作の胸を抉った。反論しようと開いた口は乾いて唾はなく、指先は僅かに震えている。
「……私は、ただ……」
絞り出すような言葉が喉に絡まり、続かない。
かつて万単位の読者をページに縫いとめた文筆の魔術も、今やこの部屋では無力だった。
テーブルの上で組んでいた両手をゆっくりと持ち上げ、肘をテーブルに乗せたまま、組んだ指を唇の前へと添える。
指先の向こうから、プロデューサーが静かに口を開いた。
「ミスター優作。貴方が情熱をもって【作品制作】という、終わりの見えないゴールを目指し、3年間我々とともに闘ってきたことは疑いない。だが、メディアが発信した情報によって、この映画を【
とどのつまり、遠回しの降板勧告だった。
それから優作は、どうやってスタジオを出たのか覚えてない。
自分の運転する車にマスコミがカメラを向けていたようだったが、振りほどくようにして飛び出し、途中でバイクに乗ったパパラッチが家の前まで追いかけてきた。
ガレージに車を停め、エンジンを切って、それからしばらく呆然としていた。
「そうだ…電話…」
優作の頭に時差という考えはなかった。この時間、すでに日本は深夜で有希子が既に寝てる可能性もあった。
だが、そんなことも考慮できないほどに追い詰められていた。
「っ……」
いつもなら愛する妻と子に電話がすることが待ち遠しかったはずの呼び出し中の音が、いつまでも終わらないでくれと祈るような心地だった。
だが、まだ起きていたと幸いと思うか、あるいは繋がってしまったと不幸と思うか、それはもはや工藤優作以外には分からない。
「も、もしもし…」
『…こんな時間に電話を掛けるなんて、本当だったのね』
ここでやっと優作に日本時間では今は深夜2時ぐらいだという考えが浮かんだ。
しかし、気づいたところ今何の救いにもならない。それどころか先ほどの有希子のセリフにさらに優作の顔が青ざめる。
「も、もう日本にも…?」
『ええ…ニュースサイトに載ってる。明日の朝になればテレビでも流れるでしょうね』
いつもよりも冷たく、責め立てるような話し声に優作は受話器を置きたくなっていた。
だが、それよりもやらなけれならないことはある。
「有希子、聞いてくれ」
『不倫、してたの?』
言い訳をする前に、誤魔化そうと言葉を並べる前に有希子が有無を言わさずに切り込んだ。
もうしらばっくれることも、とぼけることもできないと悟り、優作は「…ああ」と頷いた。
『いつから?』
「2年前…彼女が誕生日を迎えた時に、それを祝って酒を飲んで…朝になったら、ベッドに…」
つまりはそれは「酔った勢いでうっかり」という、酒を飲んだことによる酒を飲んだことによる前後不覚の過ち。
もちろん、それについては優作の落ち度でハウスキーパーとは関係をそれっきりにするつもりだった。
「けど、それから…迫られた。最初は公表しない代わりにとか、そう言って…」
『それを2年間ずっと?その間に一度でも優作から求めたことは?』
「…………ある」
正直に言えばご無沙汰だった。優作は紳士であろうとする。そのため妻以外の人間と肌を重ねるつもりはなかった。
しかし、渡米してからは製作のストレスに妻と子に会えない寂しさ、小説家としての執筆もある。
男として溜まるモノがあった。デリヘルや風俗なんかも考えたがそんなものを呼んだらそれこそスキャンダルになると思った。
そう言う意味ではハウスキーパーとして家を出入りしている彼女は都合がよかった。
「すまない有希子…」
『…後の話は英理として』
「なっ、有希子…!?」
妃英理とは家族ぐるみの付き合いのため、彼女が弁護士と言うことも知っている。
なにしろ自身の作品のネタに阿笠博士のアイデアを使わせてもらった際にそれらの著作権についての判断を依頼したこともある。
今ここで有希子が英理の名前を出したのは友人としてではなく弁護人としてでだろう。
「待ってくれ!」
『新ちゃんがどれほど寂しい思いをしてたと思うの?新一があんなことになって、お兄ちゃんが帰ってこないって泣いたこともあるのに、貴方はアメリカで若い女とパコパコしてたぁ!?ふざけないで!!』
「誤解だ有希子!新一がいなくなってからは一度も」
『新一がいたらまだ続けてたっていうの!?』
思わず失言をした。そう、不倫は不倫。妻以外に不貞を働いた事実に息子の失踪は関係ない。
謝ろうとするも『もうかけてこないで!』と電話が切られた。
かけ直そう、と思っても指が動かない。
妻を裏切ってきた男としては、あまりにもふさわしく、惨めな気持ちに涙を流すことも許されないのに溢れ出てしまった。
「まったく、仕方のない妻じゃの。優作君が可哀そうじゃな」
「にへへぇ~♥♥ちがうもーん♥♥私は離婚したからぁー❤❤」
深夜2時の工藤邸。
リビングでは通話を終えて阿笠のモノを股でくわえる善がっていた。
もちろんまだ離婚調停も始まってないのだが、有希子の中ではすでに離婚が決まっているようだった。
「ほら、あのインポのことはもういいって♥♥そ・れ・よ・り♥もっともぉっとザーメン頂戴♥♥明日からマスコミやクソガキの前で【夫に不倫をされて可哀そうな元妻】を演じないといけないからごほーびごほーび♥♥」
「ほっほっほ。相変わらずの甘えん坊じゃな」
「んひぃっ♥ふっかぁぃぃ♥♥あっあっ♥♥出来ちゃう❤❤二人目♥妊娠しちゃうかもぉぉぉぉぉお♥♥」
色々とどうしてこうなった…
最初、優作と有希子を離婚させるために美人局にでも合わせて不倫をでっちあげさせようかと思っていたが手段がないなぁ…と思ってたら感想でハートワン様とのコメントで「優作が自分から不倫をする展開」というアイデアが浮かんでそれを採用しようと思っていました。
ただ、どうしてもそれで1話とることになるけどタイミングもないし、単発ネタとしてはだいぶ短いしなぁ…と悩んでいたら先に灰原の話を書いてるときに二度の工藤邸の調査についての話が出てきました。
正直にいうと実害はほぼほぼないため介入して止める理由はなかったんですよね。ただ原作と違って有希子と新士がいるから、まあ組織が調べるときは不在の日を狙うか或いは「なんか覚えのない懸賞で旅行が当たってる」とかで無理に誘い出すかにすればいいやと。
ふと思ったのが優作の不倫の話をどうやって知るか。単純にニュースで知るってことにするのは唐突で前振りとかも必要だし、誰かから知らされるか――と思ってたら先ほどの組織の話と混ざり合って「ベルモットから知らされる」という展開を思いついた。
あとは作中の流れで作れたのはいいとして――最後に「いえーい!博士と正式に付き合えた記念で孕ましてぇ!」という展開にするつもりが文字数が…
ただベルモットからの相談と優作のクビ通告される優作の話を入れたらカツカツで…ぐぬぬ…
とまあ、そう言うわけで「優作の不倫による他責で有希子が離婚」という原作崩壊が開始しました。
一応設定というか流れは以下
工藤優作
単身の渡米による寂しさと発散できない性欲にムラムラしてるところ雇ったハウスキーパーのことが気になり始めていた。そして、本当に彼女の誕生日を祝うために出した酒で悪酔いして手を出してしまう。
酔っていたがそのことを覚えており、翌日謝罪して和解や示談を持ち出すも逆に「奥さんいなくて溜まってたんですよね」「私でよければ抜きますよ」と煽られる。
有希子への裏切りに最初は我慢していたが、再びたまる性欲に彼女から襲われる形で再びベッドイン。そこからはタガが外れてしまい不倫関係となる。
優作本人は性処理の一環としてだが、これが不倫だということも認識していた。
また、映画製作終了後は多額のお金を口留めとして、おそらく続編のために再び渡米するときにもお願いしようとしていた。
しかし、スキャンダルの発覚により追放される形で製作から降板。パパラッチから逃げるように帰国するもそこでもメディアに迫られ、英理からは有希子からの伝言で「新士君の安全のために帰ってこないで」と言われてしまいホテルに雲隠れする。
その後は有希子の起こした離婚調停に異議を申し立てるも世間からの大バッシングと、SNSに散らばる明らかな物証から勝ち目がないため弁護人が雇えず結局離婚が成立し、「生まれる前の契約による事情があるとはいえ3年間、ひとりで育てきた母親にある」とされ新士の親権も得られなかった。(また、新士が環境の変化によるメンタルのストレスも考慮して本来なら財産分与で家も売却して折半するはずだがそれと同等の金額を優作に支払うことで有希子名義となった)
結果、家も子供も失う。
出版社からもスキャンダルによる炎上を恐れて、またこれまでの契約に対してルーズだった優作に対しての新規契約を行わずに業界から干される。
しかし、頭脳明晰なのは変わらないため安室の依頼で組織を追う捜査協力することに。
そこで再開する小さくなった長男に声をかけるも「浮気は本当なのか?」と疑心の目を向けられて事実から否定も言い訳もできなかったことで白い目で見られ、その後に「新一」と呼びかけるも「ボク、コナンだよ、おじさん」と言われ、父親としての何かしらの発言をしようとすると「ボクのパパはこっちだもん」と諸伏に抱き着くことで本当に何もかも失ったことを改めて自覚して老け込む。
工藤有希子→藤峰有希子
夫の不倫による他責により離婚。
その後は次男の新士の親権を得て工藤邸改め藤峰邸でシングルマザーとして生活を始める――
その裏ではほぼほぼ阿笠との不倫に興じる。
ちなみにほかの女性たちと同じようにマンションに入ることも勧められるが「博士の家から離れるのは嫌!」ということで優作にお金を渡すことで家の名義を手に入れる。
離婚調停が落ち着くまではマスコミに対応する日々が続くためストレスがたまるが、博士とのセックスで発散しており第三子の懐妊が判明する日が近い、かも?
工藤新士→藤峰新士
両親が離婚するも、3歳のために離婚についてよくわかっておらず、直接会ったことのない父親についても「よくわからない」としか言えない。
とどのつまり、母と自分の名字が変わっただけで本人からしたら何も変わってない。
離婚調停のために事前に「パパに会いたかったら会えるけど、会いたい?」と家庭裁判所調査官がリスニングしたところ「パパ、ぼく、きらいだから、会いたくない」と答えたため面会交流の権利も発生しなくなった。
なお、このたび3歳の新士少年は初恋を知り、その相手は母に連れられて行った知り合いのお姉さんが働く喫茶店で出会った綺麗な外国人美女。
ただし、LikeとLoveの違いが分からないため自覚するのはしばらく後のこと。
工藤新一(江戸川コナン)
アメリカでスキャンダルが広がり、日本でメディアが取り上げる前に安室と諸伏から優作の不倫について知らされる。
最初は「悪い冗談だ」「何かの間違い」だと思っていたが安室に「君の死亡について組織が周囲の人間を調べてるときに判明した」「組織が捏造するメリットは何もない」と言われ、その後の報道から信じるようになった。
その後、公安に協力者として連れてこられた優作に「浮気はほんと?」と聞き、ハッキリと否定しなかったことから能力は信用するが人間性は拒絶するようになる。
仮に元の姿に戻ったら二度と優作とは顔を合わせることはないと決心した。
説明が長いッ!!
これ全部作中でやるならもう一話ほどR18要素がない上に説明ばかりになってグダグダになるから此処で留めさせて貰います。
ちなみに有希子が渡米せずに日本に残ってるので新一をNYに誘ってもないのでシャロンとも出会ってないですし通り魔と遭遇もしてないです。
そのため、コナンが「銀の弾丸」でもないですし蘭がベルモットの宝物でもないです。
最終的には有希子は藤峰姓になり、新士も親権は有希子が持つため藤峰新士に。
本来なら新一も優作の他責による離婚のため有希子側に親権が渡るのだが『失踪中』のため旧姓のまま共同親権というかたちになる。
(もちろん、有希子は新一の親権を得るつもりはない)
あとメディアも新一の失踪について知ることになり優作および有希子にマイクを向けるが、優作はそれに付随する不倫についての質問を答えないように逃げる一方で有希子は毅然とした態度で「ある日、帰ってこなくなったんです。原因も分かりません。本人は渡米することを拒否してましたが、もしかしたら夫のことでどこか思うことがあって反発したのかもしれません」というようなコメントを発表したため表向きには「家出」という形に落ち着く。
(コナンは「俺は家出なんてしてねぇ!」と騒ぐがなにも事情を知らなければ失踪か家出だと思うし、下手に事件に巻き込まれたように思われないのなら逆に有希子のコメントは好都合だと諸伏に言われて渋々納得する)
それと「新一は未成年なんです。私と夫の問題について、もしも探し出したとしてもあの子のためにマイクを向けることはやめてください」という発言から世論は有希子サイドに傾いた。
一応、優作も同様に未成年であることと、一応有希子に反論して「新一の家出に私たち夫婦の問題は関係ない」とする声明を発表するが、火に油となった。
あとついでにオマケ
クリス・ヴィンヤード
組織幹部【ベルモット】
任務をお気に入り特権でサボったりしていたが今回は「工藤有希子と面識がある」と言うことで選ばれる。
シャロンとしても有希子とは親友であったため、他の組織の人間と関わらせるのは嫌だったため引き受けた。
気の乗らない任務ではあったがそこで出会ったリトルエンジェルを癒しに感じるが、その初恋相手になってることは知らない。
新士の初恋となったのは本当になんとなく。
もしかしたら設定を生かせずに修正するかも?
降谷零&諸伏景光
ベルモットが有希子を家からおびき出すために工藤優作の不倫の情報に驚愕する。
半信半疑だったが米国の情報を仕入れるルートがないため裏を取るのに時間がかかるがその間に誰かに(犯人:博士)情報をリークされてネット民の解析班が女性のSNSまで探し当ててしまう。
優作の帰国に身柄を確保してマスコミからのシャットアウトを条件として公安協力者としての正式要請をする。
その後、優作の希望で新一と対面させるが息子からの信用メーターが逆に振り切れてる状況に「そりゃそうだよな」とため息をつく。
組織壊滅に私情を挟まないようにとは思うがさすがに息子からの拒絶に老け込んだ優作を憐れに思う。
ちなみに諸伏は最初は表向きの親子関係や新一がどことなく他人行儀なことに距離を感じていたが今回の一件と新一が優作に当てつけのように諸伏のことを父親として慕うことに父性が芽生えて、ぎこちないながらも父親として接するようになる。
…今更だけど、トロピカルランドで死体確認してないのに死亡認定するのガバすぎね??
新一が死体になってないことなんて普通にバレるだろうに…
この世界だと公安が裏で手を回してるかな?身元不明遺体の発見の情報だけ流して新一だとは判明してないとか。
念のためにもう一度言いますが、ハウスキーパーとの不倫には組織はノータッチです。
単純に工藤新一の周囲を調べるために優作張り込んでたらたまたま、という感じです。
これで強請るということも択ではあったけど個人の財力だから…
…ワンチャン、有希子と博士の不倫も組織に知られてるかも?
あ、それと一つ。今回の時間軸なんですが2度目の工藤邸調査の前、つまりは明美がジンに撃たれるよりも前になります。
そのため、作中順番が前後してますが…しばらくしたら入れ替えるかな?
さて、予告よりもR18要素もなかったため、次回は13日に投稿予定です。