推理パートはほぼ蛇足で原作と同じなので【※】をcontrol + Fの文章検索で飛ばしたら読み飛ばせます。
【藤峰有希子】【妃英理】【フサエ・キャンベル】【妃蘭】【鈴木朋子】【鈴木綾子】【鈴木園子】【大岡紅葉】【越水七槻】【香坂夏美】【榎本梓】【栗山緑】【遠山和葉】【宮野明美】【灰原哀】【吉田歩美】【小林澄子】【松本小百合】【世良真純】
共通点はなにか?と聞かれて答えれる人間はほぼいない。
唯一答えれるとしたら阿笠博士が「ワシが
そう、その通り。
本来なら全く違う人生を歩むはずだった彼女達だが阿笠博士の手によりそれが変わり果ててしまった。
だが、それはあくまで阿笠博士の意志でだ。
「はい、おっけー!」
これは阿笠博士の意図しない運命の曲がり方をした女性の話。
「いや~、今日も良かったよ夏美ちゃん」
「ありがとうございます❤」
「夏美さ~ん!」
AVセットの撮影を終えて監督が主演だったAV女優に声をかける。
今回は主演は夏美だったが、その他にも多くのAV女優が参加していた。
彼女たちは夏美とは違うAVタレント事務所の所属だが、それでも夏美のことを慕っていた。
「今日はありがとうね」
「いえいえ!一緒に撮影出来て嬉しかったです!」
「私も!夏美さんの演技、チョーエロくて…!」
AV女優の大半はお金かスカウト、もしくは(洗脳を施した)夏美のように性行為が大好きで就職している。
彼女たちにとって美人かつエロい体の夏美の演技はとても興奮するのだ。
「あ、そうだわ!試作品のケーキをつくるのだけど、今度よければ感想を聞かせてもらってもいいかしら?」
「夏美さんのケーキ!?」
「いただきます!仲間内ですごい評判なんで食べてみたかったんですよ!」
夏美が兼業としてパティシエをしてることは誰もが知っている。しかもその店の客と言うAV女優も少なくはない。
その試作となれば甘いものに目がない彼女たちは目を輝かせる。
それに夏美は微笑んで「それじゃあ、来週の撮影に持ってくるわ」と約束をしてくれたことにAV女優たちは「やったー!」とハイタッチをした。
「ふふっ…あら?」
慕われることに悪い気がしない夏美が笑いながら現場を後にしようとしたときに、目についたのは沈んだ様子の新人AV女優。
基本的に撮影に負担が大きいAV女優に対してはアフターケアなどはしっかりとされる。
だが、彼女だけはまるで腫物のように避けられているのだ。
いじめなどではない、ただ単純に【近寄りがたい】理由があるからだ。
「ヨーコさん」
「あっ…お疲れ様です…」
憔悴し切った様子の新人AV女優、
彼女は1カ月ほど前に発生した殺人事件の容疑者の一人だった。
それは
しかも警察としてはヨーコを重要参考人として疑っており、20日ほど留置して徹底的に調べるほどだった。
だが、その間に世論では「沖野ヨーコ逮捕まで秒読みか!?」といった憶測が飛び交った。
結果としては逮捕に至るまでの証拠が見つからず釈放されたが、番組や仕事は相次いで降板。
これ以上の炎上を恐れた事務所にほぼ厄介払いされるようにして、移籍の話を持ってきた【ピンクムーン】という評判が悪いAVタレント事務所に移された。
誰の目にも見える転落人生は、弱さを見せることがない沖野ヨーコの明るさを消すほどだった。
「ヨーコさんも、撮影お疲れ様。クタクタになったよね」
「いえ、私は…ただ、裸になる役だったから…」
今回の作品は超能力を持つ男が女を好き勝手にするという内容。
メインは夏美を洗脳したりというものだが、【女性を並べて吟味する】と言うシーンでヨーコも数合わせとして参加していた。
彼女がAV女優としてデビューしてそれほどだが、何度か仕事をしたことがある夏美は日に日に彼女が沈んだ表情を見せるようになった気がしていた。
「ねえ、ヨーコさん。お茶でもしない?」
「あっ…ここ…」
「もしかして来たことがあるのかしら?」
業界の先輩だからか、ヨーコは乗り気ではないが誘いを受けて夏美とおしゃべりをすることに。
夏美の行きつけの喫茶店へ、と言うことで向かえばその場所に来たことがあるようだった。
「お店じゃなくて、上の探偵事務所に…」
「そうなんだ。このお店のお茶はとてもおいしいのよ」
扉を開けてカランカランとドアベルが鳴りながら入店すれば夏美と同じマンションに住む榎本梓が「いらっしゃいませ」と笑顔で迎える。
店内にはほかに客はいないようで二人はカウンターに座った。
「はい、紅茶とケーキです。ごゆっくり」
「ありがとう」
「ありがとうございます……」
差し出されたお茶菓子を前にヨーコは「おいしそう」と小さく呟いてフォークで少し小さく切り取って食べる。
梓も二人の会話には邪魔しないように奥へと引っ込んだ。
「最近はどう?慣れたかな」
「…はい、少しだけ……」
「そう、よかった」と言いつつもヨーコの顔はどこか憂鬱に沈んでいるのに夏美はその原因が何なのか薄々察していた。
そもそもの話、沖野ヨーコは若手人気タレントの筆頭として名前が挙がる存在だった。
それが今や、AV業界の新人。それが当人が望んでなった、ということではないのは見て取れる。
「ヨーコさん。私ね、少し前までパリでお菓子職人として働いてたの」
「え、そう、なんですか…?」
急になぜ夏美が自分の身の上を話し出すのか。
AV業界で人当たりが良く人気がある夏美がパティシエを兼業してるのは軽く耳にしていた。
「そこでね、最初は日本人ってことで差別を受けてたの」
「それは…」
容易に想像はできる。海外ではある種異質な者に対して排他的になること。
日本だって和菓子業界に外国人が入れば奇怪な目で見られる。
「辛くは、なかったんですか?」
「もちろん辛かったわ。泣きたかったし、惨めに思ったこともある。だけど、夢だったから」
「夢…」
そうだ、夢。自分もアイドルになることが夢で頑張ってきていた。
それをほぼ叶えたと言っても過言ではない。だが、その先が今だとしたら自分の頑張りは何だったのだろうか。
「それに、辛くてもパリで仕事してたのも今となったら運がよかったと思う」
「どうしてですか…?」
「パリで出会った人のおかげでもう一つの夢だったAV女優を日本で出来るきっかけができたの。多分あのままだったらお菓子職人とAV女優を両立なんてできなかったんじゃないかしら」
さも当然のように言うがお菓子職人とAV女優という夢が両極端すぎる。
しかし、精神的に余裕があまりないヨーコはそれを指摘する考えはなかった。
「だから、ヨーコさんも辛い今も後でよかったことになるはず」
「…そう、でしょうか」
「ええ、きっと。例えば…そう、私と出会ったこと。良ければその事件を私の知り合いの優秀な探偵さんに調べてもらうとか」
「うん、大体の予測はついたよ」
探偵事務所に着くとノートパソコンを開いていた七槻が出迎えた。
早速相談を、と思ったがどういうわけか七槻は事件についての情報を既に入手していたそうだ。
「もう?けどどうやって事件の情報を…?」
「事件当事者の話だけでなく捜査資料も知りたかったから妃先生に相談したら担当検事が知り合いらしくて資料を送ってもらったんだ」
そう言って「ほら」と七槻がノートパソコンの画面を向ければ【沖野ヨーコ宅殺人事件捜査資料】と書かれたPDFが表示されていた。
本来部外者にこういうのを見せるのはグレーだったのだが英理の人柄か担当検事との信頼関係があったために送ってもらえたそうだ。
「それで犯人は誰なのかしら?」
「あくまでまだ目星。それで沖野さんにいくつか確認を取りたいんだけど…」
「構わないです、それで犯人がわかるなら…」
自分の容疑が晴れるならと、ヨーコは快くOKを出す。
そして、七槻は事件についての情報を改めて整理しながら聞いた。
「被害者の藤江さんとの関係について。沖野さんは学生時代の恋人だったが相手からフラれたと」
「…はい。けど私が有名になったぐらいからヨリを戻そうって…けど、怖くて…今の部屋に…」
「その後は会っては無いんですね?」
その質問にヨーコは頷く。
しかし藤江の日記の最後には「誤解を解きに会いに行く」という文章で終わっていた。
警察はそれで藤江が復縁を迫って争いになったときにヨーコが刺殺したと考えたようだ。
「もう一つ、部屋になぜか池澤ゆう子のイヤリングがあったと」
「はい。後日、警察の事情聴取の時に…私はイヤリングを付けないですし、ゆう子さんがしてたイヤリングに似てたから…」
「それじゃあ、池澤さんって方が犯人なのでは?」
話を聞いていた夏美がそう考える。
しかし、警察も最初は池澤ゆう子を容疑者の一人として考えたが「現場には行ったことがない」と証言して死亡推定時刻にはカラオケをしていたというアリバイがあった。
証言通りにカラオケ店に入店している記録と映像もあり、警察は「池澤ゆう子に犯行を偽装するためにイヤリングを置いたのでは」と推理したようだ。
「そういえば、ヨーコさんのアリバイは…」
「その時はバラエティの収録を終えて次の収録まで時間があったので仮眠を…その頃、誰かに監視されてる感じがして…不審な人もいて、碌に寝れなかったから楽屋で…」
つまり、ヨーコにはアリバイはなかった。
変装をしてテレビ局を抜け出し、殺害後に戻ってきた、と警察は考えていた。
死亡推定時刻より前だが現場近くで似た人物の目撃証言があったため警察はヨーコの証言を疑っていることも調書に書いてあった。
ちなみにヨーコの仮眠中マネージャーの山岸は番組プロデューサーとの打ち合わせをしていたため容疑から外れる。
「分かりました。それじゃあ行きましょう」
「え?」
「行くって…どこにですか?」
話を聞き終えてノートパソコンを閉じて立ち上がる七槻に夏美とヨーコが首をかしげる。
「もちろん【真相究明】だよ」
※
―沖野ヨーコの部屋―
あの日からヨーコはホテルに寝泊まりしており事件現場は警察が調べた時のままだった。
規制線の中には呼びだし主の七槻と当事者の一人であるヨーコを含めて6人いる。
「あのですね、警察も暇では…」
「僕も、仕事が…」
「すぐに終わりますよ」
英理に「事件について重要な話がある」と呼びだされた担当刑事の目暮警部と部下の高木、そして沖野ヨーコの元マネージャーである山岸が呼ばれた。
山岸はヨーコが事務所を移った後に別のアイドルの担当になったのだが、ヨーコに対して見捨てたという引き目があるのかチラチラと見るが、ヨーコは山岸の方を見ようともしない。
「ちょっと!私は無関係でしょ!」
そしてもう一人、例のイヤリングの持ち主である池澤ゆう子が悪態をついており高木が「まあまあ」と何とか宥めていた。
「これで全員ですね」
「あの、遺体を見つけた時の探偵さんは…」
一応関係者と言えばヨーコがストーカー被害の調査を依頼したという探偵がいた。
偶然にもそれが七槻とこの場にはいない夏美もよく知る英理の元旦那で蘭の父親と言うことはさすがに知らなかったが。
「その人は今回の件にあまり関係がないので呼んでないですね」
「はぁ!?私も無関係なんだけど!!」
「いえ、関係ありますよ。池澤さん」
なぜ第一発見者の探偵ではなく自分が呼ばれたのかと騒ぐゆう子に七槻はそう冷静に返す。
しかし、ゆう子はそれが癪に障ったのか「犯人はこの女でしょうが!私は無関係!!」とヨーコを指さしてさらに騒ぐ。
「池澤さん、あなた本当はここに来たことがありますよね、それも何度も…そして事件のあった日も」
「ないわよ!!イヤリングはあの女が私に罪を擦り付けるために盗んだものに違いないわ!!」
「いえ、アナタはこの部屋に侵入した際にイヤリングを落とした。証拠はトイレ。そこに行けばあなたも納得するでしょう」
全員が「トイレ?」となぜ七槻がそう言ったのか首をかしげる。
現場はリビングでトイレも警察が調べたか何もなかったはずだ。
「トイレに何があるっていうのよ!」
「すぐにわかりますよ。見てください」
そこまで言われたら、とゆう子は苛立ったようにして廊下に出てトイレを開ける。
しかし、そこは事件当時のままのトイレがあるだけだった。
「なにがあるっていうのよ、ここに!」
「なにもないですよ」
「あのぉ、越水さん?ふざけてるようなら…」
「ただ、なぜあなた、トイレの場所が分かったんです?」
「「「「!!!」」」」
一向に説明をしない七槻に目暮が少し呆れを見せたところで出た発言に誰もが息をのんだ。
トイレの前で池澤もハッとしたようにして虚を突かれていた。
「な、何でって…それは…」
「廊下にはほかに寝室や脱衣所の扉もある。それなのにあなたは迷うことなくトイレを開けた。沖野さん、彼女はこの部屋に来たことはないんですよね?」
「え、ええ…ないです。一度も」
来たことがないのにトイレの場所が分かった。普通に考えてあり得ないことだ。
それはつまりゆう子はここに来たことがあるということだ。
「おそらく、沖野さんの周囲にいた不審者もあなたですね?スキャンダルで強請るか、あるいは当時ドラマの主役を勝ち取ったことに対しての妬みかは分からないですが」
「ゆ、ゆう子さん…」
「正直に話した方がいいですよ。今だと住居侵入で多少のスキャンダルで済みますが虚偽による証言は警察も殺人の容疑の一人と」
「は、入ったわ!!ええ、入ったわよ!!」
急いで証言を覆すゆう子。彼女の眼には殺人容疑がかけられたアイドルーーつまり沖野ヨーコの転落を目の当たりにしていた。
今度は自分の番と言われるとすべてを正直に話すしかなかった。
「た、探偵さんの言う通りドラマの主役を取られて…それで嫌がらせを…でも、平気な顔をして頭にきたからスキャンダルのネタを…」
「事件の日、ここに来ましたよね?」
「それは…きっ、来たわ…昼に、そしたら男が突然後ろから襲い掛かってきて…!!」
「「お、襲い掛かってきた!?」」
その証言に目暮と高木が驚く。もしや、被害者の藤江が沖野ヨーコと間違えて池澤ゆう子に乱暴をしようとして誤って刺したのではと。
それを察してか「違う!殺してない!!それで逃げて、カラオケルームで震えてたの!」と慌てて弁明する。
しかし疑いの目を向けられて震えるゆう子を遮るように、七槻はその間に割って入った。
「ボクの推察ですがそれは正しいでしょう。前提として、事件現場から池澤さんの指紋は発見されていない。つまりは手袋をしている…まあ、忍び込む際に着用するというのは心理としてはおかしくはない。」
「え、ええ…してたわ」
「ですが凶器の包丁の柄には沖野さんの指紋。凶器はもともとこの部屋にあったとするなら沖野さんが普段から使っているため指紋がついている。だから沖野さんを犯人に仕立てよう、というのを襲われて抵抗してるなかで考えるのはまず不可能だ。それと、【ヨーコさんが仮眠を取ってた時間に事件現場付近にいた】という証言もおそらくは池澤さんです。偶然にも髪型や背格好も似ている、部屋に忍び込むのに多少顔を隠していたとしたら間違えても不思議ではない」
「それは…そうだが…」
警察は目撃証言からヨーコのアリバイを不成立としていた。しかしそれが覆されたとするならヨーコの第一容疑も揺らぐ。
そしてゆう子の犯行も状況的には不自然で不可能だとするといったい誰が犯人なのか。
次に七槻は元マネジャーの山岸を見る。
「山岸さん。これあくまで確認です。それ自体が犯罪ではないのですが今回の事件で大きなカギとなる証言なので正直に答えてください」
「な、なんですか…?」
「沖野さんの話では学生時代に藤江さんにフラれたと。それ…あなたが介入してたのでは?」
「!!」
「ど、どいうこと?」
図星のようにうろたえる山岸に対してヨーコが分からないと言った様子で問い返す。
七槻はヨーコを見て答えた。
「藤江さんの日記の内容を読む限り、藤江さんは今でも沖野さんのことが好きだった。確かに別れた女性がアイドルとして大成したときに下心を持って復縁を迫るケースはありますが、あの日記の内容が警察が判断した通りにストーカーによる妄言ではない可能性も考えた」
「でも、彼は私を…もしかして…」
「ええ、当時沖野さんが学生アイドルとして活動しているのなら彼氏の存在は事務所としてはたとえ健全な付き合いだとしても今後の活動に支障が出る。それにアイドルとして売り出すなら彼氏の存在は人気にも影響する。それで藤江さんを説得したのかはわかりませんが、問題は【藤江さんが望まない状態で別れていた】という事実があるのならあの日記の読み方も変わる。あくまで推察ですが、どうなんでしょう」
「…そう、です。学生アイドルのスキャンダルのネタになる可能性は全部、俺が…」
「そんな…!」
まさか、事務所のせいで別れさせられていたとは思わなかったヨーコはショックを受けたようで体がふらつく。
それを高木が慌ててが支えて「大丈夫ですか?少し座った方が…」と寄り添ってソファへと促す。
「もしかして、被害者と当時のことでトラブルになって…!」
「ち、ちが」
「いえ、アリバイからして犯行は不可能です。そもそもこの事件の重要な点は一つ――どうやって背中を刺したのか」
そう言って七槻はフローリングのへこみを屈んで指をさす。
「このへこみ、なんだと思います?」
「それは、何かを落としたのかと…」
「いえ、沖野さんに聞いたところ事件前にはこれはなかったと。荒らされた室内で偶然ついたものだとしてもここ以外にへこみがないのも不自然過ぎる。それともう一つ、遺体発見時についていたエアコンに沖野さんが覚えのない高く設定されていた温度」
そう言われて目暮がエアコンの温度を見れば確かに30℃と真冬以外は使わないような温度設定だった。
しかし、それがどう結びつくのか目暮は分からなかった。
「これは刃物を固定する氷を溶かすために設定されたもの。ブロック状の氷に柄を突き刺す様にして包丁を立てるためのね」
「ブロック状の氷に包丁を?犯人は何のために、そんなことせずとも被害者の後ろから…いや、まさか」
「そう、今回の事件は他殺ではなく自殺――つまり、被害者である藤江さんが自分で刺したんですよ。床に氷で固定した包丁に背中から飛び込むようにして」
※
「あっという間だったのね」
「警察としても【被疑者不明】でずっといるのも体裁が悪かったんでしょうし」
越水探偵事務所でお茶を飲む夏美と七槻。
七槻の推理はあくまで【第三者の探偵としての話】でそこから先は警察の捜査に委ねると2日後には【自殺】として発表された。
それまでまるでヨーコを犯人扱いしていたマスコミも手のひらを返したかのようにヨーコへの同情論や最初から巻き込まれた悲劇のヒロインだったという報道などに変わっていく。
「でも、沖野さんはまだ大変じゃないですか?」
「ええ、妃先生とマスコミや事務所を名誉棄損や強要で訴えを出してるところですね。確かそのことで今日、記者会見するって言ってたような…」
そう言われて七槻はテレビをつけるとちょうどニュース番組の速報でヨーコが会場に入って記者たちの質問を受けているところだった。
その横には今回の裁判の弁護を請け負った英理が座っている。
『――の頃にお付き合いをしていましたが事務所マネージャーに別れを強要されました。ですが、彼は今でも私のことを想ってくれていたことが今回の悲劇に繋がりました』
「全部赤裸々に話すんだね」
「人の恋愛に口を出すのは無粋すぎますからね」
アイドルが恋愛していたというのは相当なマイナスイメージだが、ヨーコは全てを明らかにすることで藤江の行動を守ろうとしていた。
確かに山岸の行動が今回の悲劇の発端と言っても過言ではない。そこに法律的責任はないにしても社会的に責任を取らせる必要があるからだ。
それに、今回のヨーコのように無理に別れさせられたというアイドルは少なくないはずだからだ。
『事件発生後にAV女優として活動していたようですが今後の活動については?』
「懲りてないの、このマスコミ」
明らかに悪意を持った質問。おそらくは【AV女優に転身した元アイドル】みたいな見出しの記事を書く気なのだろう。
散々訴えられたのに何も成長してないなとコーヒーを口にする七槻。
画面ではヨーコの代わりに英理がマイクを持って説明をしていた。
『【ルドアイ・プロダクション】より現所属の【ピンクムーン】への移籍は当人に対して強要があったため、現在その移籍に関する契約無効の手続きを行っています』
『では再び【ルドアイ】へ?』
しかし、事務所はヨーコをAV業界に売ったとされて今は大炎上中だ。
そして同じように当時付き合ってたのに急に別れたタレントが複数おり、纏めて訴えの準備がされているという報道もあった。
それに自殺した藤江のことでヨーコが不信感を持ったままルドアイで活動するわけもない。
アイドルに復帰するとしても一体どうするのだろうか、と七槻も思案しながら見ていた。
『その後は【シンデレラ・メモリーズ】へ所属します』
「こふっ!?」
ヨーコの発表に七槻は咽た。同様に記者会見場のマスコミたちも大きくざわめいていた。
それもそのはず、【シンデレラ・メモリーズ】と言うのは新進気鋭のAVタレント事務所だからだ。
「けほっ、けほっ、けほっ」
「七槻さん、大丈夫?」
AV関係なくタレント事務所と言えばピンキリだが【シンデレラ・メモリーズ】は別格だった。
規模も小さいが所属するAV女優の質に販売している作品の評判、果てには購入者特典のサービスに至るまで大手と並ぶと言われるほどだ。
もちろん、そんなことをアダルトビデオなんて見ない七槻は知らない。
だが、その名前に反応したわけがあった。
「夏美さんっ、知ってたの…?」
「ええ、それはもちろん」
ティッシュを差し出す夏美に咽ながら七槻が聞く。というのも何を隠そう、夏美が所属している事務所が【シンデレラ・メモリーズ】なのだ。
元々は阿笠博士が日本でAV女優として活動するように洗脳した夏美が菓子職人と兼業するために鈴木朋子の命じて鈴木財閥傘下の下請けの子会社のとだいぶ下のAV事務所。
営業内容としては夏美のマネジメント以外は全員フリーランスのAV女優のプロデュースをメインとしていた。
『ではAV女優として活動を方向転換をするということで?』
『方向転換、とは少し違います。今回の事件で事務所やマスコミを含めて私を信じてくれる人は誰もいませんでした。事務所からも負債の埋め合わせとしてAVに出演を自主的にやるように強要され、精神的にも限界だった時に現場の先輩の人だけが私を気にかけてくれました。そこで言ってくれたんです。今辛いことでも、後で運がよかったと思える時が来る、って。その通りでその先輩が助力してくれたおかげで私の容疑も晴れてここにいる妃先生も紹介してもらい、AV業界に関わったことが運がよかったことになりました」
そう言われて当の本人の夏美、そして「助力ってほどでもないんだけどね…」と疑いを晴らしたことを謙遜するも七槻も嬉しそうに笑った。
『AV業界に入ることを嫌悪するファンの方もいるかもしれません。でも、私はこの運の良さを捨てて今後成長はできないと思います。タレントとしての活動を続ける上で、どんなことでも挑戦してみたいし、それを支えてくれる人たちがいる、その気持ちに答えたいんです』
強い意志を秘めた目。そして、堂々として言い切る姿はかつてのアイドル沖野ヨーコよりも強く、凛としていた。
質問をしたマスコミもこれを面白おかしく書き立てると批判されるのが目に見えたのか『…ありがとうございます』とそれ以上の追求をせずに逃げるように終わらせた。
「けど、大変だね。AV女優をしながらのタレント業…前例はないとは言わないけど、険しいよ」
「大丈夫よ、ヨーコさん強い娘だから」
その後、【シンデレラ・メモリーズ】から発売された沖野ヨーコのデビュー作品はディスク版は発売直後に完売、ダウンロード版は販売サイト堂々1位を記録した。
はい、というわけで沖野ヨーコの導入…導入かなぁ‥?
明美のように毛利探偵事務所に依頼するのは「眠りの小五郎が有名になってから」と言うことにした場合、この世界で小五郎の代わりに有名になっている七槻に依頼が流れるとします。
それ以前の依頼はどうなるか、というのが今回の話。
はい、小五郎では解決できませんでした。
今現在ならともかく、当時の小五郎は目暮にとっては「名探偵眠りの小五郎」というより「面倒な元部下」という感じだろうし、原作と同じように小五郎が「マネージャーの山岸が犯人」という言いがかりも「はいはい」と流してる感じでそのまま時間が経過しました。
その他、現場でコナンが見つけたイヤリングも後になって警察が発見、山岸が藤江の手から髪の毛を抜き取ったのも確認されなかったです(遺体周囲に落ちててもヨーコの部屋だから不思議ではない)。
警察としてはアリバイが成立してない沖野ヨーコを犯人と疑っていたが決定的な物的証拠がなくて状況証拠だけしかなくて起訴できないでいた感じです。
あとはもしかしたらマネージャーの独断だったかもしれないですけどアイドルの交友にも口を出す事務所でストーカー被害も無名の小五郎に依頼するほど…いや、逆に小五郎に【依頼した】ことで放置するつもりだったのかも?殺人が判明したときも「内密に…」と言ってたから…まあ、そんな感じで問題を起こしたタレントはすぐに放流させるかトレードするかみたいな感じのイメージでAV事務所へ。
そこからは今回の話。
いつものように設定
沖野ヨーコ
元アイドル
自宅マンションで発生した殺人事件の最重要容疑者になったことで業界から干されて事務所からも厄介払いのようにAV事務所へと売り渡された。
引退も考えたが、「ここでやめたら自分が犯人だと思われるのでは?」と思って踏みとどまっていた。
移籍先のAVタレント事務所の環境も劣悪で、唯一「メインで顔を使った作品を撮影した後で逮捕されたらお蔵入りする」とのことであくまでエキストラ的役割だったことが幸いしていたが、現場空気にもなじめずにいた。
そこで手を差し伸べてくれた夏美に七槻を紹介してもらい、最初は小五郎のこともあり探偵を信用していなかったが事件を解決してくれたことで年齢も近くて慕うようになる。
夏美の励ましの言葉から「AV事業に関わることでタレントとしてのスキルアップ」のきっかけと思うことで今までの苦労をバネに「テレビタレント兼AVタレント」となる。
色々と作者の都合のいい展開も含んでるけど、あの世界でのIFの一つかなと思ってます。
もしも事件が解決できなかったら、最悪の展開では証拠不十分ながらも逮捕という可能性もありますし…
ちなみに「そもそもストーカーの調査依頼を毛利探偵事務所ではなく越水探偵事務に依頼する」という可能性は限りなく低いです。
というのも、以前の明美の依頼の際に阿笠が作っていたネットの「東都の探偵ランキング」を仮にマネージャーの山岸が見て「あまり名が知られてない探偵」を選んでいたとしたら越水は選ばないからです。
さて、今回は導入として次回はヨーコの本格的R18展開です。