南雲ハジメ…
記憶の欠落が目立っていたが、奈落に落とされた事…友達を巻き込んだ事に対する自分への怒り…それ等が封じられていた力の覚醒に繋がった
再臨するは、
彼に久しく湧いてきた感情は怒りだった。
元より違う世界へと神と宣う奴らに連れてこられてこの世界の為に戦えと命令された。
周囲のヤツらは彼や、先生の制止も聞かず、生命の奪い合いすらも理解せずに戦争に参加することを決めた。
そのうちの一人は、彼を目の敵にして皆の前で嬲ってやろうと考えていたが彼に蹴られ、焼かれ、懲りたかと思っていたが決してそんなことは無かった。
かつての
魔獣は見てくれだけの肩透かしであり駆逐する事が出来た。
そこからは油断してしまった彼の落ち度だ。
生半に生かしておいたのが仇となったらしく、こちらに向かって
ソレは偶然近くを走っていた親友に庇われ、さらに橋の崩落で落ちた自分に巻き込ませてしまった。
久遠の彼方で、かつて抱いた怒りという名の感情が赫怒の烈火の様に噴き上がってグツグツと揺らいでいた。
ー[オルクス大迷宮:???階層]ー
水が流れる空間の中でハジメは目を覚ました。
その眼は度重なる身体の損傷と再生により変質し蒼い三白眼となっている。
更には迷宮内に多数存在する緑光石により、周囲は明るく状況を把握する事が出来た。
掌を閉じたり開いたりを繰り返している内に自分の力が普段より滾っている事が判明。
切欠はともかく、生前に戻っているらしい。
『しまった!!"八重樫雫"は!?』
しかしそれも束の間、自らを助けようと共に奈落へと堕ちてしまった彼女…八重樫雫を探そうと辺りを見回した。
ふと、確認していなかった左の手になにか柔らかいものを握り締めてる感触がした為、引き上げてみると…水の中から八重樫雫の手が出てきた為慌てて引っ張り出す。
引き揚げた彼女の身体はとてつもなくボロボロで、南雲ハジメの手を握り締めてるその手は食らってしまった火の魔法の影響で焼けた部位が目立っていた。
徐に肩にかけていたポーチの無事を確認するとそこにある程度入れていた簡易サバイバルキット(ハジメ作)を取り出すとその中から乾いた布や大迷宮に入る前に行商人から購入した貴重品…フラム鉱石の一欠片を取り出すと……
自らの喉から高温の火息を鉱石の欠片に吹き付ける。
スピットフレア。
本来なら敵を焼き尽くす業火となるはずの炎は調節を覚えた今だからこそ他者に温もりを齎す灯火となった。
ちりちりと焼け付く喉がジワジワと再生していく様を他所に火がついたのを確認したハジメは、息を吹き込んだり布を焚べたりして、充分に焚き火が大きくなったのを確認すると、八重樫雫の頬を軽めに叩く。
『起きろ〜雫〜…駄目か?』
「……んん?…南雲……君?」
『…良かったε-(´∀`;)ホッ…痛むところは無いか?』
「少し足首が痛いわね……寒っ!?」
『焚き火は用意したから…後はホレ、毛皮の毛布だ。』
「……有難…(グゥ〜〜)……///…」
目を覚ました八重樫雫の反応を確かめて以上が無いことを確認した後、暖を取ろうとした雫のお腹が可愛い音を立てた。
…参った事に食料の類は持ってきてない…自らが食べる分には問題が無いかもしれないが……トップクラスに困った事態になった。
「ココはオルクス大迷宮?」
『…あぁ…しかも、かなりの深層…若しくは未踏領域まで落ちたか…』
『…兎に角、ここから脱出したい…迷宮は最下層まで行けば出られるポータルくらいあるだろうから取り敢えず、下を目指す。アレ共には死んだ扱いされてるだろうな。あの
「…やっぱり檜山なのね…貴方に火球当てたの…」
『雫。一応、慰めにもならんがナイフだ。持っとけ……ふーむ…』
「有難う…キャア////!ちょっと南雲君?!」
数分程暖をとったあと、此処を発とうとした南雲ハジメは焚き火に砂をかけて消し、八重樫雫を横抱き………つまるところお姫様抱っこし始めた。
八重樫雫にとっては初めてにも程がある女の子らしい扱いにびっくりしたがほんの数秒後には羞恥で顔が林檎のように真っ赤になって俯いてしまった。
頼みの刀は無いし、オマケに足を捻ってしまい移動が覚束無い為にされるがままなのはしょうがない。涙目になりながら頬を膨らませて抗議するが、紅くなった頬が説得力を台無しにしかけてる。
大迷宮は、彼等を歓迎する様に巨大な通路が広がっていた。
天井が40〜50m、横幅が25mはあり上層とは格が違う敵が居る事が見て取れる。
迷宮の中である以上はどこから魔物が飛び出して来るか分からない為、鼻と眼の聞くハジメに横抱きにされている雫。
岩や結晶があちこちから迫り出しており、歩き辛い場所もあったが隠れる場所は豊富で、いざと言う時に全力で暴れることも視野に入れながら、抱き抱えた雫を守る為に岩に隠れながら進んで行った。
暫くした後、ハジメの嗅覚が何かを捉え暗い洞窟の先を睨む。
この時、雫はハジメの両眼が空色に変わっていた事、肉食動物の様な眼に変わっていた事に初めて気付いた。
「南雲…君…どうしたの?その眼…」
『眼?…そんな事より雫、隠れてろ何かが来る。あの
「!どうしたらいいの?」
『…そこに洞穴が有る。そこに隠れて、成る可く深く身を潜めろ。俺は来る奴らを食い止めてやる。』
「それじゃ南雲君、貴方が!!」
『いいから大丈夫だ。手立てはある。』
そう言われた雫は、渋々と横穴の奥に身を滑らせて完全に隠れた。
その数秒後、気配の主が姿を現す。
それは二匹のうさぎと5匹の狼だ。
但し、兎は中型犬のサイズをしており、異様に発達した後脚、全身を走る赤黒い血管は脈動を繰り返し、地球産と違い可愛さを彼方に放り棄てた有様だった。
そして狼の方は猫又と言われる妖怪の様な尾をしており5匹ほどの群れとなって二匹のうさぎを追い立てていた。
刹那、二匹兎は助走をつけて飛び、地面を蹴り砕きながら、ハジメに向かって挟み込む様に飛び掛る。
後脚の蹴りでハジメを粉砕するつもりの様だが、ハジメは一方の兎を掴み上げると、自分の脚を振り上げてもう一方の兎を蹴り飛ばす。蹴られた事に気付いた兎だったが次の瞬間に頭を掴まれる感覚と共に、地面に叩き付けられ赤いシミと成り果てた。
もう一方の兎は一匹の有様に逃げようとしたが、万力の様に締め上げて来るハジメは瞬間的に力を込めて兎の頭部を圧壊させた。
それを目視した狼が5匹の群れでハジメに襲いかかる。
狼は雷を纏うことが出来たのかその身体からは青い雷光が迸っており、その姿にハジメは縄張りの王座をかけて何度も争った
だけどハジメは怯まない。何せ、彼と比べたら温いにも程がある火花だから。
一丁前に、力だけ模倣しているのにイラッと来たハジメの口元から炎が零れると、息を吸い、狼に容赦無く豪炎を放射した。
高温の炎を直接浴びた一匹は、悲鳴をあげる間も無く、焦げた肉塊となった。
『(力が戻っている?火炎は吐ける。怒りが引き金なのか?)』
獲物の返り血と辺りを焼く炎の匂いがハジメの感情を昂らせる。
爛々と輝く両眼を光らせ口から溢れた炎をチラつかせながら未だ襲いかかって来ない狼共を睨みつける。この瞬間、獲物を狩ろうとする捕食者としての立場は逆転。狼達は恐怖でその脚が竦みかけていた。
口ほどにも無いと、ハジメは自らの手をゴキリと鳴らして狼達に歩み寄る。
突如、狼達が切り裂かれて肉塊となった。
何事だと感じたハジメは切り裂かれた狼の後ろに大きな影を確認。
その影は、白い体毛をした熊の魔物で、地球で見た図鑑に載っていたグリズリーや北極熊と名乗る陸生哺乳類よりも大きく、前脚には中々のサイズの爪が生えていた。
『(鳥竜種の
後になって知るが、この熊は[爪熊]と呼ばれている。
爪熊は狼の肉をひと口齧ると吐き捨て、ハジメに狙いを定めた。
熊とハジメに距離があるにも関わらず、何か手段でもあるのか爪熊は自らの前脚を振るった。すると見え辛いが空気の層がぶれ、真空の斬撃と化してハジメめがけて襲いかかった。熊は勝利を確信しその顔を歪めて嗤った…その様は、ハジメに火玉を当てた檜山と同じく下卑た笑みにも似ていた。
どうやら獲物を弄ぶ知能は有る様だが、ハジメは熊を睨みつけるとその斬撃をあえて受けた。
凄まじい音と共に、勝利を確信した爪熊だったが、その表情は直ぐに驚愕に変わる。
斬撃が直撃したはずのハジメは上半身の衣服が破けただけで何ら変わりない姿で立っていたのだから。それにさっきの熊の表情により八重樫雫との会話で鎮まりかけていた怒りの炎が再燃。
『俺に挑むか!!頂点を知らない獣畜生が!!!それを後悔させてやる!!』
ハジメは竜種としてのプライド、頂点捕食者としての矜恃…何よりもこの世界で出来た初めての友達を護る為、目の前の熊を排除せんとばかりに吠えると同時に、ハジメの身体から吹き上がる白熱光が全身を包む。
爪熊は初めて味わう恐怖で恐慌状態に陥ったのか突進して来たが、白熱光の殻は割れずに爪熊をその場に押し留めた。
やがて、全身を包む白熱光はそのサイズを20m近くまで膨らませると爪熊が突進して来た地点からヒビが走り割れ始める。
割れた殻がガラスのような音を立てると共に現れたのは、御伽噺に出てくる神話の竜。
その身は典型的なワイバーン骨骼だが、違うのは全身を覆う銀の鱗や甲殻、空を飛ぶ事に特化した骨太で雄大な翼。重厚な尾とハンマー状の尾先。後脚は巨大な体躯を支える様に太く頑丈で、獲物をガッシリと掴める爪熊の前脚と同等の爪を生やしていた。
その眼は蒼空を示す様に蒼く、爛々と輝いてる。
かつて、古代樹の森の頂点に君臨し、単身で生ける災害となった死を纏うヴァルハザクを仕留め、古代樹の森を壊滅の危機から救いその功績を持って五期団やハンターズギルドから[蒼空の炎帝]と呼ばれた[銀火竜リオレウス]が再臨したのだ!
彼は爪熊の爪を受けながらも余裕とばかりに頭の力のみで弾き飛ばすと、爪熊に向けて自らの存在を示す咆哮を放った。
ゴォォァァァァ!!!!!!!
その姿と自らに向けられた敵意と言う名の咆哮に、爪熊は耐え難い恐怖を覚えて固まってしまった。無理も無い、先程まで楽な獲物と思って襲いかかった獲物が逆に自分より巨大で圧倒的な威圧感を放つ存在に変わったのだから……
だが、この熊は自らの爪に引き裂けぬものなど無いと思い
リオレウスは、圧倒的速度で振るわれる前脚にあっさりと噛み付いて、動きを止めた。その間生じた斬撃が顔を襲うが、彼を覆う銀の装甲には傷も入ら無かった。
そして彼は首の筋力のみで爪熊を持ち上げ、地面に叩き付けた。
…前脚は、抵抗しようとするがガッチリと喰い込んだ牙は離れず、更に踏ん張ってもまた持ち上げられて叩き付けられる。更に、爪熊の前脚に食い付いたまま、大きな両翼を広げ、重さなどなんて事ないとばかりに飛翔。
その間、自由な後脚で爪熊の顔を力を篭めて掴むと噛んでいた前脚を離す。
鋭利な牙で噛み付かれた爪熊の前脚はズタズタに引き裂かれており、爪熊はこの時初めて挑む相手を間違えたと理解したがもう遅い。
爪熊の自重と、リオレウスの重量が乗った落下攻撃はあっさりと爪熊の命を奪い、物言わぬ骸となった。
グォォォォォォ!!!!!!
戦いとは言えない蹂躙の後、リオレウスは勝利と自らの糧となる生命に感謝する様な咆哮を上げた。
一方、洞窟の奥に身を滑らせた雫は、自らを恥じていた。
雫自身は気付いてい無いが、
ふと、穴の中で雫は口元に水滴が流れ込む事に気付いた雫。
身体は、危機的状況なのか水分を求めており、雫は無いよりは良いと水滴を舐めとった。
ある程度飲み続けると、身体の痛みが徐々に和らいだ。
その事に気付いた雫は、教会での講義で習った[神水]と呼ばれる存在を思い出し水滴が漏れてる箇所を辿ってその場所を何とか動く腕で掘り始めた。
幸いにもハジメに持たされた小型ナイフで掘り進めると段々と水滴はその量を増し、やがて……
真珠色の石が姿を覗かせた。
その周りを傷付けぬ様に掘り続けると、バスケットボール大の真珠が現れた。その鉱石を慎重に身体で受け止めて良く見ると、水はその鉱石から漏れており同時に自らの傷や痣が消えていき、更に消費した魔力も蘇っていくのが解った。
……後になって知るが、この鉱物は[神結晶]と呼ばれる神代に登場した伝説の鉱物だ。
神結晶は、偶然に出来た窪みに何千年もの時をかけて濃度の濃い魔力がミルフィーユの様に層となって、鉱物化した結晶で、その上に更に魔力が集まり飽和状態となった魔力が液体となり溢れて来た物だ。
その液体は[神水]と呼ばれ、飲んだ者にどんな傷も病も癒す奇跡を齎すとされている。流石に欠損した部位を再生させる程の力は無いが、湧き出る液体を飲み続ける限り長生きが出来るとされる所詮、[不死の霊薬]とも言われている。
鉱石の放つ色に見惚れていると、どんな魔物よりも恐ろしい咆哮が迷宮内に轟いた。
そこから凄まじい轟音と衝撃が鳴り響き、何かが弾ける音と共に終息した事を確認した雫は、身体を動かして洞穴の外に出た。
外に出て、ボロボロのストールを外し神結晶を包むと雫はハジメを探す為に先程の轟音がした場所へと歩み出す。
そしてその地点を見た雫は言葉を失う。
バチパチと音を立てて燃える焦げ臭い肉の様な物体と何か強い衝撃で叩かれたのかシミとなった兎?…更に圧倒的重量に潰されて圧死した熊の様な魔物……その中心には、ベヒモスより大きな体躯の竜が器用に座りながら羽繕いをしていた。しかし、雫はその竜に……その青空の様な瞳に見覚えがあった。
「もしかして……ハジメ君?」
一方のエヒト様……
黒龍・煌黒龍・煉黒龍・紅龍
「「「「か〜ご〜め〜、か〜ご〜め、か〜ごのな〜かのと〜り〜は〜……」」」」
ミラルーツの世界に手を出した為、地獄が泡吹いて自害しそうな面々に滅し尽くされて囲まれていた。
(干渉も出来ないし、何なら神域はゴミ屑に成り果てていた。)
等のミラルーツは……
「(ディスフィロアも呼んだ方が良かったかしら…)」
ゴミを見るような目でエヒトを見ながら恐ろしい事を考えていた。