※この作品はR-18です。

ライナは負けヒロインなんかじゃないっス!   作:情緒不安定ゾンビ

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耳かき=実質セックス!

「というわけでライナ、そこ座ってもらって良いか?」

「はい、っス……?」

 

 疑問符をいっぱいに浮かべながらも、ライナは俺の勧めるままにベッドに腰掛けた。

 ……危ないなこいつ。

 常識的に考えて、女の子がこんな時間に男の部屋まで来てあっさりベッドになんか座っちゃいけないだろ。いや、夜這いしに来たって言ってたからには、覚悟はできてるってことなんだろうけどさぁ……。

 

 複雑な気分になりつつも俺はライナの少し距離をとった隣に腰掛け、よいしょと靴を脱いで横になり、頭をライナの太ももに乗せさせてもら……うわけだが、いや膝枕ってけっこうえっちでは? などと、今更ながらに思い至る。

 いや夜這いを受け入れるよりはマシ……なはず。

 でもライナって、ショートパンツ派なおかげで今も思い切り太ももをむき出しにしているんだよな……。

 そして、こうして無防備に自分のベッドに腰掛けられるとライナの太ももが妙に眩しく見えるのだが、このくらいの接触なら平気……だろうか。平気だと思いたい。

 いやでもここに? 頭を乗せる? それでも理性が保てるか??? い、いや、グンとリードした実感を与えるにはそれくらいやっとくべきだ。夜這いを受け入れるよりは……!

 

「モングレル先輩、どうかしたっスか?」

 

 中途半端な姿勢で固まる俺に、不思議そうにライナが声をかけて来た。

 

「いやあの、耳かきをしてもらうにあたってだな、いわゆる膝枕をしてもらうわけだが、ライナが嫌じゃないかなぁ……、なんて、思ったりしまして、はい。あ、布! 間になんか布とか敷くか!?」

「いっスよ! 布とかいらないっス! はいドーン!」

 

 ライナは元気いっぱいに言い切ると、グイッと俺の肩のあたりをひっぱり倒し、無邪気に俺の頭を自身の太ももへと乗せる。

 

 耳に、頬に、ライナの太ももが! ダイレクトにあたった! あたって、いる!

 うっわなんでこんなすべっすべしてるんだよコイツの肌! 本当にこの時代の人間のものか!? 大したボディクリームも除毛手段もないはずなのに……。なんかいい匂いまでするんですけどぉ!? 毎日風呂に入れる生活のおかげか!? そこは心底うらやましいぜアルテミス……!

 

「で、これで耳かきをすれば良いっスね? ……いやモングレル先輩、私、夜這いしに来たんスけど」

 

 一度は素直に耳かきを構えてから、はた、と冷静になった声でライナは不満を漏らした。

 ああそうだよ、夜這い回避のための耳かきなんだよ……! これでなんとか満足して帰ってくれ……! なんて言ったら確実に泥沼になるから言わんけど。

 図星を突かれた気まずさとすべすべ太ももに対する動揺を悟られないよう内心必死で繕いながら、俺は説得をしていく。

 

「それは、わかった。わかっている。いやでも、交際即合体っていうわけではないだろ、普通は。そういう人もいるだろうけどさ。何事も段階を踏むべき、というか。ああいうのは、場所とかタイミングとか雰囲気も大事だしさ……」

 

「まあそうかもっスけど……。いやでも段階を踏む~とか悠長なこと、既に敵に引き離されている今言ってる場合じゃなくないっスか?」

 

「だから敵なんかいないって……。いたとしても、もうこれでお前がぶっちぎりだよ、ライナ。今日の所は、お前のかっわいい声とぷりっぷりの太ももを存分に俺に味わわせてやって虜にしてやってくれよ。な?」

 

「……モングレル先輩、なーんかはぐらかそうとしてないっスかぁ? 子ども扱いは、もういい加減嫌なんスけど」

 

 実に不満げな声が、頭上から降って来る。

 見なくてもわかる。今のライナははっきりとジト目だろう。

 若干気まずさを覚えながら、俺は説得を続ける。

 

「ライナ、お前はスケベな事にそう詳しくはないようだが、耳だって性感帯なんだぜ?」

 

「そ……、うなんスか? “キスする時に相手の耳を塞いでやると音がよく聞こえて雰囲気が上がる”とか言ってたのを聞いた事はあるっスけど……」

 

「それ確かウイスキー猥談バトルの時だな……。意外とちゃんと聞いてたんだな、ライナ」

「悪いっスか!?」

「いや悪くない悪くない。そんなの聞かせた方が悪い。そう、音ってのは興奮を高めてくれるし、耳に息を吹きかけられたりするとこう、ぞわっとするだろ。触られるとくすぐったかったりしないか?」

 

「あー。髪を切ってもらう時に指が耳をかすめたりすると、ちょっとくすぐったいっスね」

 

「ライナ、くすぐったいところってのはつまりは肌が敏感な部分なわけで、ほぼイコールで性感帯なんだぞ。ディックバルトにでも聞いてみ……いや聞いてみなくていい」

 

「やめとくっス。絶対余計な事まで教わることになるっス。というか、普通にあの人とそういう話するの、なんか嫌っス」

 

「だよな。ともかく、耳ってのは性感帯だし、鼓膜でも傷つけばえらい事になる場所だ。そこを任せるってのは、よほど信頼しているか親密な関係でしかあり得ない。つまり、耳かきとは、もはや性行為の一種と言っても良い!」

 

「そ……、そう……スかぁ? そんなことないと思うっスけど……。でもそこまで力強く断言されると、そんなような気もしてくるようなこないような……? 信頼とか親密とかは、まあ、確かに……」

 

 耳かき=実質セックス!

 そう言い張っては見たものの、ライナは今一つ納得のいっていない様子だ。

 

「いやいや、耳かきなんてそこらの恋人同士だってそうはしないだろ。家族ってくらい近い間柄でする行為だと思うぞ、俺は」

 

 適当に言ってみた言葉だったが、家族という単語が出た途端に、ライナがハッと息を呑む。

 

「家族……、もしや、モングレル先輩のご両親が、こういう感じで……?」

 

 そんな事実はない。

 今の俺の亡くなった両親も、前世の両親も、そういったことは少なくとも子どもである俺の前ではしていなかった。

 だが、ここで乗っておけば乗り切れそうな空気がしている……!

 

「うん……、まあ、その……」

 

「そっスか……。……わかったっス! 私に任せて欲しいっス! やるっスよ、耳かき!」

 

 曖昧にもごもごしただけだったのだが、ライナはそれを照れているか両親の事は話しづらいのだろうと捉えてでもくれたのだろう。

 殊更明るい声音で、朗らかに耳かきを引き受けてくれた。

 なんだか騙したようで申し訳ないが、ともあれ夜這いから耳かきに軟着陸できたのだから良しとしよう。うん。

 

「……ふふ、そういえば、こんなに近くでモングレル先輩の顔を見るの、初めてかもしれないっス」

 

「あー、そうかもな」

 

「モングレル先輩の髪って、けっこうちくちくしてるんスねぇ……」

 

 そう言いながら、ライナは俺の髪を手櫛でとくように撫でていく。

 

「やっぱ俺の頭の下に布でも敷いておくか?」

「いらないっス」

 

「……そうか」

 

 提案をすかさず却下された俺の声は、自分でもはっきりとわかるぐらい苦渋に満ちていた。

 心から、布を敷かせて欲しかった。

 ダイレクトに太ももの感触が味わえているのは、やっぱりマズイ。

 

 しかも俺の髪をやわらかく撫で続けるライナの手つきと空気がひどく慈愛に満ちていて甘やかで、こっちがバブみを感じてオギャりそうだ。

 さっきライナは『子ども扱い』なんて言っていたがとんでもない。俺こそが幼児退行してしまいそうだ。

 どうすんだ俺が『ライナママぁ……』とか言い出したら。

 百年の恋も冷め……た方がライナのためには良いのかもしれないが俺の中の何かが死ぬ。冷めなきゃ冷めないでマズイし。勘弁して欲しい。

 せめて太ももの攻撃力を削らせてくれれば、確実にそんな悲劇は避けられると思うんだが……。

 

「……ああ、耳かきをするんだったっスね」

 

 ライナはぽつりとそう呟きすーっと長めの一撫でをしたかと思うと、彼女の手は俺の頭から離れていってしまった。

 少し安心したような、ちょっと名残惜しいような、名残惜しいと思ってしまった自分自身が気持ち悪いような腹立たしいようなと、複雑な思いが一気に去来する。

 

「モングレル先輩の耳の形なんて、今初めて意識したっス……」

 

 そっと耳に触れられ、そんな風に囁かれ、いよいよ耳かきが始まるのかと思いきや。

 ライナは実際に耳の形を確かめるかのように、もどかしいくらいに優しく耳の淵を指で辿ったり、ふにふに、とソフトタッチで耳たぶをもんだりなどしてくる。

 それだけでぞわぞわと快感めいた物が背中を駆け抜け、やはり早まったかもしれないと焦りを抱いた。

 耳は性感帯だと、先ほど言ったのは自分自身なのだが。その事を改めて思い知らされている。

 うん、耳って、性感帯だなぁ……。夜這いに来たと言った相手に、任せていい部位じゃなかったかもしれん。

 

「おいライナ、そろそろ……うわっ!」

 

 そろそろ耳かきを始めてくれと願おうとした瞬間、ふー……、と耳に息を吹きかけられて、情けなくもビクンと身体を跳ねさせてしまった。

 耳を片手で隠しながら、俺は訴える。

 

「ライナ、おまっ、そういうのはやめてくれよ……!」

「んふふ、私は本当は、耳かきなんかじゃなくて、もっと過激な事をしたいんスよー? “そういうの”をしたら、モングレル先輩はどう困るんスかー?」

 

 ムラムラするんだよ! って返したらドツボだよなぁ、これ……。

 

「いやもう、こんなおじさんの耳の形とかどうでもいいだろうがよ……。変なからかい方してないで、ちゃかちゃか耳かき始めてくれ……」

 

「ンー? 私は、好きな人のことなら、耳の形だって興味ありありっスよ。あ、耳真っ赤! モングレル先輩、照れてるんスかー?」

 

 耳から手を離してため息交じりに懇願すれば、実に楽しそうなからかいが返ってきた。

 やけくそ気味に、叫ぶ。

 

「ああ照れてるよ! 認めるから、さっさと耳の掃除を始めてくれ! 耳はもう片方もあるんだから、ほら、さっさと!」

 

「…………それもそうスね」

 

 ライナが妙に静かな声ですんなりと引き下がったのが、なんだか怖い。

 こいつ、今一瞬なにか考えたような間があったよな……? いったいなにを考えた……?

 

「じゃ、始めるっス。そっとやるっスけど、人の耳かきをするなんて初めてのことなんで、なんか変だったり痛かったりしたらすぐ言って欲しいっス」

 

「お、おう、わかった」

 

 若干引っ掛かる部分はあったものの、至って真面目に注意をされて、俺も神妙にうなずいた。

 

「モングレル先輩、動かないでくださいねー……」

 

 ライナの囁き声と同時にそろりと耳かきが侵入してきて、カリ……、サリ……、と優しく耳の内部の皮膚を撫でていく。

 人に耳を任せるのって、若干の怖さもあってえらいぞわぞわするんだな……。

 

「んん、掃除っても……よく見えないっスね……。モングレル先輩、どこかかゆいとことかあるっスかー……?」

 

 この世界、現代日本ほど照明器具が発展しているわけではない。

 夜ともなれば、人のいる屋内だって普通に暗い。

 一応ベッドサイドにたまに本を読む時なんかに利用している光源を置いてはいるが、耳の中まではっきりとは見えないだろう。耳掃除は定期的に自分でしているし、何もガチで耳垢を取って欲しいわけではないから別に良いのだけれども。

 

「特にない。から、そのままこう全体ぐるっと掻いてくれれば……」

 

「りょーかいっス」

 

 ぞわぞわに対する動揺を押し殺して軽く返事をすれば、ライナも軽く了承してくれた。

 そのまま彼女は、手探りで俺の耳の内部を掻いて行く。

 こちらを傷つけないようにという気遣いなのだろうが、ひどく優しく撫でるようにされるばかりで、自分で正に搔くようにするのとはあまりに勝手が違って落ち着かない。

 同時に時折耳たぶや耳の縁をすりすりともむように弄られたりもして、いやらしい気持ちが湧き上がりそうになって困る。

 

「んー……、こんなもんスかね?」

 

 若干身を固くしながら我慢していたら、ようやく片耳終わったらしい。

 

「おう、ありがとな、ライナ」

 

 無事生き延びた。

 そんな心地で一息吐きつつ礼を告げてから身を起こす。

 

「どういたしましてっス。さ、モングレル先輩、次は逆の耳っスよ」

 

 ベッドの上に胡坐をかいた俺に向かって、ライナはそう言ってにんまりと笑った。

 

「だな。じゃあ移動する……「ていっ」かぁっ!?」

 

 俺は一旦靴を履いてベッドを降り、ライナの逆側に移動をしようとしたのだ。その目前でライナに『ていっ』と靴を蹴り飛ばされ、素っ頓狂な声が出てしまった。

 俺の靴は、部屋の隅まで転がされてしまっている。

 いきなり何をするんだ。

 

「ら、ライナさん……?」

 

 そろりと名前を呼べば、ライナはニヤーっと笑みを深め、煽るように言う。

 

「モングレル先輩、そのまま、そこで、頭だけ逆に向けたら良いじゃないっスか。ささ、ほらほら、ごろーんってしてくださいっス」

 

「いや、おま、ごろーんってしたら、さっきまでは頭の後ろにライナの腹があったのが……、逆になるわけでだな!?」

 

「っスねぇ! 逆の耳をしてもらうには、私の腹と胸の側に顔を向けなきゃいけないっスねぇ!!」

 

「そ、それが狙いか! さっきいやにすんなり引き下がったのは、こうして逆側を攻める方が効果的だと気が付いたからか!」

 

「っスねぇ! しかも、その状態で耳を覗き込むためにはさっきより密着する必要があるんじゃないかなって思うっス!」

 

「こ、この……!」

 

 ライナの意外な策士ぶりに、俺は何も言えなくなってしまった。

 

 這ってライナの後ろを通りベッドの上を移動しても、と一瞬考えたものの、このノリだとタックルしてでも止めてきそうな気がする。

 ベッドの上でそのじゃれ合いは、かなりマズイだろう。

 下手な動きをして、若干だがゆるく勃ちかけているブツを見られるのもマズイ。

 

 俺は、ライナの腹筋と向き合うしかないのか……!?

 頭の中でディックバルトを数えれば冷静になれるか……!?

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