社会不適合者な幼馴染は体で家賃を払ってくれる【電子書籍化】 作:猫屋敷てん
東雲夕菜という少女について
「ただいま」
静かな家の鍵を開け、真っ暗な部屋に向かって帰宅の挨拶をする。
それは
特に返事はないが、家に上がり鞄を置く。
するとその音に反応するように、暗い部屋の奥から小さな物音がした。
「ん……うぅ」
眠たそうな少女の声だ。透き通るような可愛らしい声と共に、ゴソゴソと身じろぎする音が聞こえてくる。
それに苦笑しながら竜二郎は明りをつけて、部屋の様子に呆れ果てた。
「……風邪ひくぞ、夕菜」
「あ、うぅ…………ごめん」
床に散らばるのは大量の画用紙。そしてその上に丸まって眠る一人の可愛らしい少女がいた。
夕菜と呼ばれた少女は、腰まで届くほど長い髪を床に散らばらせ、下着にオーバーサイズのTシャツ一枚というラフな格好で眠っていた。
竜二郎の呼びかけにゆっくり起き上がった夕菜は、胸の谷間を見られているとも気づかず口を開く。
「眠ってた」
「今日も一日描いてたのか?」
「…………うん」
「じゃあ後で見せてくれ」
「っ……うん」
竜二郎の言葉に、夕菜は微笑みながら頷く。
そしてそれで目が覚めたのか、夕菜はゆっくりと起き上がって竜二郎を見つめた。
「竜くん、おかえり」
そう嬉しそうに言った夕菜は、トコトコと歩くと竜二郎に思いっきり抱きつく。
「うおっと。急だな」
150センチほどの小さな体を思いっきり擦り付けて、深い抱擁をしてくる夕菜。
背丈に反するような大きな胸が潰れるほど強く抱きつき、夕菜の頭は首元にスリスリと甘えてくる。
「夕菜……。よしよし」
「んー……」
抱き着いてきた夕菜を抱き返して、その頭を撫でる。そうすれば夕菜は気持ちよさそうに声を上げ、さらに強く密着してきた。
そうして愛し合う男女のように抱擁を交わす二人だが、恋人というわけではない。夫婦でもないし、まさかセフレでもない。
ただの幼馴染。あるいは家主と居候。
しかし誰がそんなことを信じるだろう。その二人の距離を見れば、全員恋人以上の関係を想定するだろう。
「お腹空いてるだろ。晩御飯作るから。今日は焼きそばだ」
「焼きそば……。うれしい」
長い抱擁をしたのちに、竜二郎は帰宅途中に買った材料を台所で並べる。それで夜ご飯の準備を始めた。
焼きそばは材料費が安く美味いということで、咲間家の定番メニューである。高卒社会人の給料だと二人暮しは厳しく、食費も切り詰めないといけない故の定番メニューだが。
「竜くん、なにか、手伝う?」
「あー。じゃあ皿を出してもらうか」
「うん……!」
手伝いを申し出る夕菜であるが、彼女は基本的に料理ができない。できるのは皿を出すぐらい。それすらも落とすのではないかとヒヤヒヤする。
夕菜にとって、生きることすら難しい。
そしてそれも結局は、
そんな竜二郎の複雑な表情には気づかず、皿を並べ終えた夕菜は小さく口を開く。
「竜くん。ご飯食べたら、さ」
「っ――」
夕菜から紡がれたその言葉に、竜二郎は息を呑んだ。
「今日は、お礼する日」
「あ、ああ。そうだったな」
お礼という単語に、竜二郎は動揺を隠しながらも返答する。
「あー。あんま無理するなよ。最近は取り決めた頻度より多いだろ。別に見返りを求めてるわけじゃないんだ」
「でも……私。何もできない。役立たずだし。だめだと、思う」
そう言って夕菜はゆっくりとTシャツを脱ぎだす。柔らかで真っ白なお腹が見えたところで、竜二郎は慌てて叫んだ。
「夕菜!? 分かった。ご飯を食べたらな。今はご飯を楽しみにしていてくれ」
「……? うん。分かった」
その言葉に夕菜はまたゆっくり服を戻す。
昔から竜二郎のことを男として認識していないのではという場面はあったが、最近はそれが顕著になっていた。
「ほらできたぞ~。食べような」
「わ。美味しそう」
手早く焼きそばを完成させて食卓に並べる。何度も作ったものだと言うのに、夕菜は目を輝かせてくれた。
いつもそんな反応をしてくれるからこそ、作る甲斐があるというものだ。
「ん……美味しい」
「俺も少しは成長してるかな」
「いつも、美味しい、よ」
夕菜と食卓を囲むのは中学の頃から続けてきた日常だ。
家庭が崩壊し、料理ができない夕菜が餓死しかけた頃から、食事の面倒を見る日々が始まった。
学生の頃からやっていること故に、その味も夕菜の好みが多大に反映されている。
「ごちそうさま……」
「おう。……それと、胸見えてるぞ」
「ん……?」
手を合わせて食事を終えた二人。ほっと一息つけけば、夕菜の服装に目が行く。
オーバーサイズ故に肩の部分が外れて、ブラジャーに包まれた大きな胸が竜二郎の眼前に晒されている。Gカップのブラがキツくなったと言っていたほど大きなおっぱいだ。
真っ白で柔らかな胸肌が目に飛び込めば、さすがの竜二郎でも目を逸らした。
「竜くんの服、おっきいから」
「……それ、俺の服かよ」
「そだよ。昔、の」
「どうりで見覚えがあるわけだ」
恐らく高校時代に無くした物だろう。学生時代は夕菜の面倒を見る関係上、互いの部屋に私物が多くあった。そこから一つ無くなったぐらいじゃ気づかないほどに。
「サイズあってないし、自分の服を着たらどうだ?」
「えっ……? でもこれ、お気に入り」
「楽そうではあるがな……露出が」
楽な服装が好きな夕菜にとっては最適な格好だろう。しかしすぐ隣には竜二郎という男がいる。
こんな無防備な格好、狼の前に美味しそうな子羊を置くようなもの。非常に危険だ。
「竜くん、私のおっぱい、好きじゃない?」
「……その聞き方はずるいだろ」
嫌いなどと言うわけがなかった。だって
「まあ慎みを持とうと、そういう話だ」
「つつしみ?」
「そう。女の子として。いや、人間としてな」
竜二郎がそう言い聞かせれば、納得したのか服を正す。しかし谷間が露出していることには変わりなく、どうしても危険な格好だった。
そもそも長い裾によってギリギリショーツを死守しているような服で慎みを求めるのは無理があることだろう。
「それよりさ……」
話が一段落すれば、夕菜はじりじりとにじり寄ってくる。
「……何だ?」
「お礼する。家住まわせてくれて、ご飯作ってくれて。そのお礼、しないと」
夕菜はゆっくりと竜二郎に抱き着く。柔らかな体を押し付けて、自分の雌の部分をアピールするように媚びを売っていた。
「私には、これしかないから」
「夕菜……」
竜二郎はそれを拒むことはない。大事な幼馴染の弱みに付け込んで体を貪る罪悪感はあった。しかし健全な若い男が拒めるはずがない。
そして夕菜のためにも、拒むわけにはいかない。
「竜くん、いくらでも、使って、いいよ」
己の肉体を道具と見なして差し出す夕菜。その目には嫌悪感など一切なく、喜びがあった。
そんな夕菜を、竜二郎は抱き寄せる。歪んだ男女の営みが今日も始まろうとしていた。