社会不適合者な幼馴染は体で家賃を払ってくれる【電子書籍化】 作:猫屋敷てん
夕菜への説教が効いたのかはよくわからなかった。
バスの中で急にちんぽを取り出しシコシコしだした夕菜。無論そんなことが許されるわけなく、いかに間違ったことなのか言い聞かせてみたが、無表情の夕菜はコクコクと頷くだけだった。
その後も竜二郎にべったりで、寄りかかってきてスケッチブックに絵を描いていたり、寝るときも背中に抱きついてきたり。
説教した後の態度とは思えぬため、あまり堪えてはいないようだ。
しかし竜二郎の言葉はちゃんと聞いてくれる子であるはずだし、理解はしてくれたと信じるしかないだろう。
竜二郎は夕菜を社会に適合させる難しさを痛感し、地道にやっていく決意をした。
「……はぁ」
どうすれば良いのか。そう悩む竜二郎は、家の外でも思わずため息をついてしまう。
「あら、どうしたの? 溜め息なんかついて」
そんな竜二郎に、職場の先輩凪野優花は声を掛けた。
普段は元気な後輩が、溜め息をついていることが不思議なのだろう。
「あ、いや……何でもないです。すみません」
「ふーん。……彼女さんのこと?」
「っ! あ、いや。何で!? ……別に夕菜とは……いや」
一瞬で言い当てた凪野に竜二郎は大慌て。慌てて彼女ではないと否定しようとするが、そうすれば複雑な関係を説明しないといけないため断念する。
幼馴染でありながら肉体関係があり、同棲しているなど複雑すぎて言えるはずがない。
「まあ、いろいろあったので」
「男女の関係って大変よね。私もいろいろあったわ」
「先輩はモテそうですから、大変でしょう」
「ふふ。確かにそうね」
手を動かしつつ、そんな話を二人はする。
美しく優しい凪野は当たり前のようにモテるようで、過去の彼氏の愚痴やらが沢山口から出てくる出てくる。
思い返せば恋人なんていたことがない竜二郎にとって、それは新鮮で面白い話だった。
小学生の頃から側にはずっと夕菜がいて、他の女子とは友人止まり。
夕菜はとても素直な子で、竜二郎の言うことをなんでも聞いたためトラブルもほとんどなかった。故に今、悩むのだ。
「まあ相談には乗るわよ。そういうことは詳しいから」
「ありがとうございます。もしかしたら、相談することがあるかもしれません」
竜二郎はそう言いつつ、大きな段ボールを抱えた。
今居るのは会社の倉庫。凪野にどこになにがあるかを教えてもらいながら、整理整頓をしているところだ。
非常に物が多く散らかっており、二人では一苦労だろう。
「あ、それはそっちにしまって。で、これはこっち」
竜二郎が種目ごとに段ボールに片付けた物を、凪野の指示で棚に仕舞っていく。
「じゃあこれもお願い」
そうして凪野からも段ボールを受け取り、上の棚に置こうとしたその時だ。
「きゃっ」
「あ、大丈夫ですか!?」
散らかっている倉庫は床にも物が散乱しており、凪野はそれに
しかし丁度正面にいた竜二郎が抱き留めて、怪我することなく事なきを得た。
「あ、ごめんなさい。ありがとう」
腕の中の凪野は、そう言いながらゆっくり離れる。
女性に触れるというのは夕菜以外ほぼないことで、竜二郎の心臓もドキドキとしてしまう。
色香を放ち、とても良い匂いのする凪野を抱き留めれば、男なら誰だって鼓動が早くなるだろう。
「い、いえ。ここは、危険ですね。早く整理しないと」
「そうね。ほんと、誰がこんなに散らかしたのかしら。今日は一日整理しないといけなそう」
二人はそんな会話をしつつ、仕事に戻る。
しかしこの時の竜二郎は知るよしもなかった。
この出来事から、夕菜の新たな闇の一面を見ることになることを。
◇
「ただいま」
竜二郎が帰宅したのは、すっかり日も暮れた頃だった。
夕菜がいるためなるべく定時で上がるようにしている竜二郎にとって、ここまで帰宅が遅れるのは久しぶりだ。
それもこれも倉庫が想像以上に散らかっていて、整理整頓に時間が掛かったから。
その他諸々仕事があって、家に着いたのは夜になってからのことだった。
「あ、竜くん!!」
家には電気がついており、中に入れば不安そうな顔をしてうろうろしていた夕菜がいる。
帰ってきた竜二郎の姿に目を見開いた夕菜は、勢いよく飛びかかってきた。
「っと。ごめんな。遅くなった」
「無事で、よかった。何か、あったのかって、思って、怖くて……」
スマホなど連絡手段を持たない夕菜にとって、いつも通りに帰ってこない竜二郎はその身に何かあったのかと不安で眠ることもできなかったはずだ。
抱きついてきた夕菜の鼓動は聞こえてくるほど早く鳴っており、それだけで彼女がどれほどの恐怖を抱えていたか伝わってきた。
「一体何が――っ!?」
そして竜二郎に問いかけたその瞬間、夕菜はすんすんと鼻を鳴らしながら言葉を詰まらせた。
胸元に鼻を押しつけて臭いを嗅ぎ出す夕菜に竜二郎は困惑してしまう。
「ど、どうしたんだ夕菜?」
「……そっか。そうなんだ」
とても平坦な声だった。夕菜は先ほどと打って変わるように感情の消えた声音になる。
そしてすっと竜二郎から離れた夕菜の顔には、表情が何も浮んでいなかった。
「すまん。今日は仕事が遅くなってな。今すぐご飯を作るから待っててくれ」
「……うん」
お腹が減って機嫌が悪くなったとみた竜二郎は、あわてて腕をまくるとキッチンに立つ。
その背を夕菜はじっと見つめていた。
そんな幼馴染の姿を見るのは初めてで、竜二郎はおっかなびっくり料理をする。
スピードを重視し、保温してあったご飯。作り置きの味噌汁。冷蔵庫にあった副菜を皿に盛って準備は完了だ。
急いでちゃぶ台に料理を並べ、向かい合って夕食の時間。
しかし夕菜の機嫌が戻ることはなかった。
「ん、もぐもぐ」
「こんな簡単なのでごめんな。また今度手の込んだもの作るよ」
「気にしないで。いつも、作ってくれてありがとう」
そう言いつつ、夕菜の目はジト目であった。
これは多分食事関係で不機嫌になっているわけではないのだろう。夕菜が不機嫌になることは非常に珍しく、故に竜二郎も対処法を見出せない。
いつもより静かで気まずい食事となり、夕菜は最後まで不機嫌だった。
その後シャワーを浴びて諸々の家事をすれば穏やかな夜の時間がやってくる。
竜二郎は夕菜をそっとしておこうと、あまり構うことなく座椅子に座ってスマホの画面に集中した。
「ん……」
「夕菜、どうしたんだ?」
するとなぜか夕菜が近づいてきて、竜二郎の体に寄りかかりそのまま抱きついてくる。
とてもドキドキする距離であるとはいえ、漸く機嫌を直してくれたかと安堵の方が強かった。
しかしその目をよく見れば、変わらず竜二郎に何か言いたげだ。
「んぅ~」
夕菜は鳴き声を上げながら肩口にグリグリとおでこを押しつけてくる。豊満な胸も押しつけてきて、薄いTシャツ越しだからその柔らかさが伝わってきた。
夕菜の甘い香りも漂ってきて、柔らかな肢体が徐々に絡みついてくる。
「ど、どうした夕菜」
こんな積極的な夕菜など初めてで、竜二郎は動揺した。
彼女はとても奥ゆかしい少女のはずだ。ここまでベタベタ甘えてくることは珍しい。学生時代はほぼ記憶になく、同棲し始めて数度ほどある程度。
だが今日は今まで以上にベッタベタのベタベタだ。
「……ん、ちゃんと勃ってる。よかった」
「いや何が良いんだよ!?」
夕菜の体を感じて勃起し、ズボンを突き上げるちんぽを見て夕菜はほっと息をついた。
そのままサワサワとズボン越しに触り、とてもご満悦な表情だ。竜二郎は理解できない。
「竜くん、溜まってるでしょ。お礼しないと」
「い、いや。だからな、これはあまり社会的に褒められた行為ではないんだ。夕菜はただ生きているだけで俺の癒やしだ。だから無価値なんかじゃなくて、無理にこういうことはしないで良い」
お礼をしようとしてくる夕菜に、竜二郎は懇切丁寧に言い聞かせる。
自己肯定感が最低レベルの夕菜に生きているだけで素晴らしいと言ってもすぐには納得してくれないが、毎日のように竜二郎は伝えていた。
そうして夕菜を自立させるため頑張っているのだ。
しかし、夕菜の手は止まらない。
「最後におまんこに挿れたの、もう一週間以上前。その間、出したの、この前の一回だけだよね? ……まさか、出した? どこで? 誰に?」
「い、いや。確かにあの一回だけだが、問題ない。まだ我慢できる」
「我慢、してるの?」
「ま、まあそうだが……一人で発散することも簡単だ。だから、問題はない」
「……一人で? どうやってこーふんするの? もしかしてあの人? あの人とするの?」
声のトーンが徐々に上がっていき、夕菜は興奮して息を荒げる。
竜二郎にまたがり、グイっと顔を近づけてきた夕菜の目尻は吊り上がっていた。
「あの人?」
「この前の、女の人」
「い、いや凪野先輩はただの職場の先輩だ。何の関係もない」
「……ふーん。そう」
竜二郎は慌てて釈明するが、夕菜の疑いはまったく晴れていない。
それがなぜなのか、竜二郎はわからなかった。あるいはもう少し頭を回せばわかっただろうが、この状況で頭なんか回るわけない。
「まあ、いいや。スッキリ、させるね」
「夕菜、待て……!」
「待て? 体は、正直、だよ?」
夕菜の柔らかなお尻が、ズボン越しにグリグリと押しつけられた。
薄いショートパンツに包まれた大きめのお尻は、ちんぽをフル勃起させるに十分なエロさを持っている。
運動不足なためかムチムチとしたお尻に、竜二郎は逆らえるはずがなかった。
「夕菜、家賃のためとか、無理をする必要はないんだ。こんなことをしなくてもお前には価値がある」
歪んで育った夕菜を、竜二郎は正さねばならない。
だからそう必死に告げるが、夕菜には一切届いていなかった。
「まだ、そんなこと言うの?」
「夕菜?」
「竜くんが、そう言うから、私、頑張ったっ……でも、そしたら、こうなった!」
夕菜はとても辛そうに顔を歪めて、涙を堪えるように目元を滲ます。
「竜くん、他の女のところ行って、どっか行っちゃう!! 私に、飽きちゃったから、そう言ったの? 私のおまんこ気持ちよくない? あの女が、良いの?」
「な、何言ってるんだ他の女の所になんて――」
「なら何で、あの女の臭いがするの!」
その言葉を聞いた瞬間、竜二郎は背筋が凍りそうなほど全身に緊張感が走った。
そしてフラッシュバックする昼間の出来事。倒れそうになる凪野を抱き留めて、触れ合った。いつも香水の香りを身に纏う凪野の臭いは、それだけでいとも簡単に移るものだ。
嗅覚に優れた夕菜は、それを逃がさなかった。
「捨てないでっ……竜くん」
「捨てるわけないだろ。ちょっとハプニングがあって臭いが移っただけで、凪野先輩とは恋人とかそういう関係じゃない!」
「……そう。じゃあ、証明して」
そう言って夕菜は、大きなお尻でちんぽを踏み潰した。
「っ――」
「あの女と恋人じゃないんでしょ。だったら、私を使お? あの女より、絶対気持ちい自信ある。おっぱいも、私の方が大きい。竜くんがして欲しいこと、何でもしてあげる。あの女より、私の方が良いでしょ? いつでもムラムラしたら、使えるよ。私が何してても、射精したいと思ったら使えるおまんこだよ。もちろん竜くん専用。私は、竜くんのもの。だから、ね、しよ。嫌って言わないよね。まさかあの女が良いの? 私を捨てる? 役立たず? 生きてる価値ないかな? やっぱりゴミだよね」
「ちょ、ちょ、ちょ一旦落ち着こう夕菜!」
「竜くん……言葉じゃだめだよ」
夕菜は落ち着いてくれなかった。
竜二郎の頬を両手で包み込み、じっと顔を覗き込む。
「私の気持ち、教えてあげる。これは、本来いけない、気持ちだけど。私馬鹿だから、盗られるって思ったら、我慢、できなくなったんだ――」
――ちゅっ。
「むぐっ」
気付けば、夕菜とキスをしていた。
それは唇と唇が触れ合うだけのキスとはいえ、キスに違いはない。
キスは夕菜にとって大切なもの。性知識のない夕菜は、キスこそが恋人とする行為だと認識している。
それを、竜二郎にしたのだ。
それはつまり――
「私は、家賃のために、してないよ。好きだよ、竜くん」
夕菜は恋をしているのだ。
それは他ならない竜二郎に対して。
「私、誰とでも、セックスすると、思う? 違うよ。竜くんだからしてるの。竜くん以外なら、家賃のためでも、したくない」
「夕菜……」
「ごめんね、私みたいなのが、好きって、言って。でも、我慢できない。好き。好きだよ。大好き。ずっと好き。竜くんのためならなんでもできる。でもね、盗られるのだけは許せない」
夕菜は恋を知らないと思っていた。
竜二郎に向ける感情など、ただの親愛だと思っていた。
セックスなんてスキンシップの一種だとしか認識していないと思っていた。
性行為は夕菜にとって唯一他者に提供できる価値だから、よろこんでやっていると思っていた。
だけど、違った。
夕菜は竜二郎のことが大好きで、だからセックスをしていたのだ。
竜二郎が抱えていたのと同じ感情が、夕菜の中にはあった。
「竜くんは、私のこと嫌い? やっぱ、役立たずかな。迷惑、たくさんかけたもんね」
「なわけないだろ! 嫌いなら……世話なんてしねよ」
嫌いなわけがない。好きだからずっと夕菜の世話をしてきたのだ。
親に捨てられて死にかけていた夕菜を助けたのは、好きだから。大好きだから夕菜を助けた。本当にただ、それだけだ。
「でも、この恋は、駄目だろ――」
しかし竜二郎は、その恋を否定した。
この恋は叶えるべきではないものだ。そう、ずっと思っていた。
だから、隠しきった。夕菜がどんな思いを抱いているかを考えないようにした。
叶えるべきではない、恋だからだ。
「どう、いう、こと!? やっぱ、あの女の所行くの?」
「違う! 違うんだよ夕菜」
夕菜は竜二郎のことが好きだ。そして竜二郎も夕菜のことが好きだ。
まさしくこれ以上無い両想いだ。その上で、否定する。
「夕菜のことは好きだ。大好きだ」
「ほんと? なら、両想い?」
「……だけどさ、この恋は刷り込みだ。ずっと一緒にいたから、俺みたいなのを、好きになったんだよ!」
竜二郎は知っている。
東雲夕菜は天才であると。そして咲間竜二郎は相反する凡人であると。
夕菜は竜二郎にとっての憧れだ。
彼女の描く絵に魅了され、一番のファンになった。
夕菜は必ず世界に羽ばたける天才だと竜二郎は確信し、その隣に立つのは己のような凡人ではないと思っている。
「釣り合う、はずがないだろ」
だから竜二郎はそう告げた。
「…………」
夕菜は一気に泣きそうになり、しかし全てを押し殺して返答する。
「……そうだね。釣り合うはずが、なかったね」
竜二郎の言葉に、夕菜は同意した。
「ごめんね」
夕菜は竜二郎の両腕を掴む。とても、とても強く掴んだ。
竜二郎は、後ろめたさから目を逸らし、故に夕菜の目を見られない。
夕菜の目に映る激情は、とても深い色をしていた。
まるでコントロールできないものがあるようで、だから夕菜は――