「え……どして? どゆこと?」
「ミナが首チョンパしたのに、何で生きてんの?」
ヤリマーンさんとアバズレンさんが、困惑と、あと怯えを含んだ声でそう言いました。
正直、私もほぼ同感でした。
……確かに私は、魔王の首を刎ねましたし。
そして魔王を倒した証である黄金の魔晶石を拾ったんです。
それなのに……どういうことでしょうか?
「オイ! とりあえず逃げるぞ!」
そんなとき。
チャラオウさんが素早く行動を起こしたんです。
魔術師はパーティーで一番クールでなければならない。
魔術師の常識として、師匠に叩き込まれたって彼はいつも言ってて。
それはこの状況でもブレませんでした。
何か分からないことが起きている。
何をすればいいのか分からない。
ならばとりあえず生還を目指すしかない。
逃げるのは当然の選択です。
しかし……
「……あ……開かない!」
チャラオウさんの驚愕の声。
鍵が掛けられている!?
ここに入るとき、鍵なんて掛かってなかったのに。
そこでほとんど喋らないパーティの盗賊のヤリーチンさんが飛び出してきました。
「ボクに任せてくれ!」
その声には焦りしか無かったです。
いつもの余裕が無かった。
ヤリーチンさんは鍵開けと罠外しに人生を掛けてる人で。
高レベルの罠を外したいから最下層に潜るんだっていう人。
盗賊という職業の求道者。
そんな彼の頭が
「マナ デンジ ボルフ ヴィータ」
私たちの見ている前で、木っ端みじんに吹っ飛んだんです。
……これは……
魔力魔法第1位階の攻撃魔法……魔力の矢。
ごく初歩的な攻撃魔法。
魔力で作った光の矢で、敵を撃つ魔法です。
それで、戦闘能力が学者に次いで最も低い職業である盗賊とはいえ、最下層に潜れる冒険者を即死させたんです。
誰がやったのか……
私たちは見ました。
後ろを。
そこには……
「慣らし運転だ。死んでくれ」
魔王が居ました。
顔が変わっていましたけど。
前の魔王は、禿げ頭に角が生えたガチムチ顔をしてましたけど。
今の顏は……整った金髪の若者の顏。ハーフエルフの。
ハーフエルフ……ヒュームとエルフの混血児。
ヒュームとエルフは種族的に近いらしく、混血が可能なのです。
あまり実例は見たことは無いのですが。
種族的特徴は、整った容姿と、少し尖った耳。
その寿命は約500年。
ヒュームより遥かに長く、そしてエルフの半分程度の寿命。
妊娠確率が低めなのと、寿命の問題で親子間の悲劇が起きやすいから、避けられる組み合わせのカップリングです。
……話を戻します。
とにかく、前の角の生えたガチムチおじさんの顏から、ハーフエルフの若者の顏に変わってしまったんです。
彼は言いました。微笑みながら。
……潰され、切断された腕を再生させながら。
「……魔王の心が折れるまで、約300年か……長かったな」
感慨深そうな声を出し。
そのときには完全に再生した4つの腕を。
彼は大きく伸ばして、こう叫んだんです。
「来るがいい! 私の新しい使い魔……邪神たちよ!」
そしてその4つの腕で印を組み、詠唱しました。
「エアイー ショサル ユス ダイワール」
すると
その瞬間、部屋の4隅の空間が歪みました。
そして出現したんです。
4柱の邪神が……
パオオオ!
激しく鳴く1柱は漆黒の象。
ただし単眼。
漆黒で、灰色の縞模様が身体にある邪神です。
「……ようやく呼んだか。召喚主よ」
風を巻きながら、背中の4枚の翼を羽ばたかせる人型の邪神。
その顔は鶏冠のある骸骨のよう。身体は人間なのだけど、その手足の先は鳥のそれになっていました。
「オオオオオオ!」
吼え続ける燃え上がる巨人の邪神。
その大きさは4メートルはありました。
その手には、炎の大剣を持っています。
「……ブラケル……だいぶ掛かりましたね」
豊満な肉体の、赤毛のヒューム美女の姿をした邪神。
その身長は女性としてはかなり高かったです。
衣装としては、肩の出た赤いドレスを着ていました。
ほとんどヒューム女性と一緒の容姿。
……ヒュームと違うところは、その肩から2頭の竜の首が生えていること。
その2頭の首は、鎌首を擡げてこちらを睨んでいます。
って……
「ブラケル……?」
私はその言葉を聞き逃しませんでした。
ブラケル……!
この魔界の穴の迷宮を作った、邪悪な魔法使いの名前じゃないですか!