「Rencontre fortuite(偶然の再会)」 作:木桜 春雨
山城が病室に入ると美月はエリック、あの作家と話していた。
内心ほっとした、ぎこちない会話にならずにすむと思ったのかもしれない。
そのとき、ドアをノックする音がした。
入ってきたのは白髪の杖をついた男性だ。
「終平っっ(しゅうへい)。」
水樹の声に山城は驚いた、驚いているだけではない、彼女が喜んでいるのを感じたのだ。
終平と呼ばれた男は山城とエリックを見ると軽く頭を下げた。
背を向けて出て行こうとするが、ドアの前で足を止めた。
「医者と話をしてくる。」
このとき山城もだが、エリックは彼女が男の後ろ姿を追っている事に気づいた。
多分、いや、医者と話して来るというのは嘘ではないかとエリックは考えた。
それだけではない、に彼女が名前を呼び捨てにしたのも気になる。
「体調に気を付けてください、水樹さん」
マスクの男が出ていくと程なくして山城も退出した、ところが。
廊下を曲がったところで呼び止められた。
「先生、帰ったはずでは。」
エリックは山城に近づくと、少し気になってと言葉を続けた。
「先程の男性は、彼女の父親ではないでしょう、親族にも見えなかった、あなたの知り合いですか?」
山城は首を振った。
小説家の言葉に迷った、昔からの知り合いだと水樹は言った。
だが、それだけではないように思える。
自分は六郷から頼まれたのだという自負もある。
足は自然と病室に向かつていた。
だが、そこに彼女の姿はない。
あの男もだ。
「もしかして、別の場所で、屋上とか。」
エリックの言葉に山城は歩き出した。
二人は屋上にいた。
並んでベンチに座っている。
だが、様子がおかしい。
水樹は顔を伏せている。
どうした、その男が何か言ったのか、もしかして泣いているのか。
理由を聞くべきか、だが、今二人の前に出ていくのは。
山城は迷った。
「ごめんなさい、嬉しくて、長く会えなかったから……」
すぐ側に、隣にいるのに顔を見ることができない。
終平自身、言葉をかけるべきなのに、それができない。
ゆっくりと杖を持つ手とは反対の手を伸ばし、彼女の手に重ねる。
「会えない時間は長かった、話したいことはたくさんある……」
それなのに、今、自分は何が言いたいのかわからない。
もどかしいと思いながら終平は目を閉じた。
9 二人の関係
「ところで、山城に見合いの話がきている。」
突然、話が変わり、水樹は驚いたようだが、はいと頷く。
「知っています、女性が会いにきました。」
「……知っている?」
彼女の言葉は予想しないものだったのか、終平の表情がわずかに曇った。
「邪魔ですね、私。」
それは彼女の出した答えなのかもしれない。
まるで恋人同士のようだ、知らない人間が見たら、そう思っても不思議はないだろう。
男が手を握っても、それを当然のように受け入れている彼女。
年齢的に言っても普通なら有り得ないだろう、不思議な関係だと思いながらエリックは側の山城を見た。
山城は二人に向かって行った。
突然、山城が現れたことに驚いたのか、彼女はわずかに顔を伏せた。
反対に男は少しも動じる様子はない。
いや、こうなること、まるで、山城が現れることを予想していたようだ。
「水樹、この男は昔からの知り合いというが、誰なんだ。」
顔を上げることはせず、無言のままの彼女に山城は困惑した。
「なんだ、怒っているのか、山城。だが、それはお門違いというものだ。」
男の態度と言葉に山城は不可解な表情になった。
「あの女もだが、お前に対しても怒っているんだ、俺は。」
六郷だ、男の口から出てきた名前に山城は、ハッとした。
「どういうことだ、何故、六郷が。」
言葉の意味がわからず、山城は男を見た。
「はっきりさせるか、ここで。」
緊張が走った。
「水樹を渡せ。」
たった一言、だが、それだけで十分だった。
「俺は六郷から……」
「六郷か、死んでも邪魔をするのか、あの女は……」
その言葉が何を意味しているのか、山城にはわからなかった。
俺は、六郷に頼まれたから水樹を預かった。それだけのはずだ。
わかっているのは、この男が自分を恨んでいるということだけだ。
だが、その理由がわからない。
突然、男は立ち上がると、山城を鋭く睨みつけた。
「しばらく、お前に預けておく。それまで、せいぜい家族ごっこを楽しんでおけ。」
「なんだと、それは——」
山城が語気を強めた、その瞬間、男は冷ややかに笑った。
そのとき、屋上のドアが静かに開いた。
男が姿を見せた瞬間、空気が変わる。
終平に一礼する男を見て、山城とエリックは息を飲んだ。
「お迎えにまいりました。」
シーン・ブロック、カード方式で書いています。