再就職先は、ホロライブに決まりました外伝 作:DXフルーツパフェ
如月 鉄平は悩んでいた。
花菱 栄一の企みを阻止したのは良かったが、その手先である大川 清が原因でホロメンとマネージャーの信頼が崩壊してしまい、ゲーマーズ担当の長谷川 純以外は左遷となってしまった。
急遽、えーちゃんは0期生のマネージャーとして担当するが、それ以外のホロメンは個人でスケジュール管理を行なっているのが現状だ。
社長相談役に就任した鉄平は、この問題を解決しようと全社員の履歴書を目を通してマネージャーに適切な人物を見つけようと必死に探していた。
一方その頃。
ホロライブの事務所にあるスタジオでは、久しぶりに2期生の癒月 ちょこと6期生の鷹嶺 ルイが主演の「ちょこっとクッキング」の収録が行われようとしていたのだが、トラブルが起こりディレクターの怒鳴り声が響いていた。
「おい、有栖川! 頼んでおいた食材が足りないぞ! どうなっているんだ!!」
ディレクターに怒鳴られてた新人スタッフの有栖川 俊太郎は、困った表情で言葉少なめに弁明する。
「本村先輩に言われたように食材を買ったんですが……」
俊太郎はそう言うと、ディレクターが本村を睨みつけるが、本村は薄ら笑いを浮かべながら反論する。
「はぁっ!? 俺はお前にちゃんと教えたぞ! 自分のミスを俺のせいにするなよ!」
そう言うと、今度はディレクターは俊太郎を睨みつける。
(コイツ……。まだ、あのことを根に持ってやがる……)
俊太郎が心の中で本村に毒づくのも無理はなかった。
本村は公言するほど1期生の夏色 まつりの熱烈なファンだ。
まつりが楽屋で頭を悩ませながら高校の宿題をしていているところに、俊太郎が居合わせて勉強を教えたのをきっかけに仲良くなり、雑談を交わせるような間柄になった。
それを知った本村は激怒し、俊太郎を解雇させようと上司達にウソの悪評を流すようになった。そして、俊太郎のミスを誘発するように今回の伝言もわざと間違えて彼に教えたのだ。
そんなことを知らないディレクターは、俊太郎に詰問する。
「おい、有栖川! 本村は伝えていたと言っているぞ! お前はちゃんと聞いていたのか!!!」
唾を飛ばしながら怒鳴るディレクターに、さすがの俊太郎も顔を顰めた。その態度が気に入らないディレクターは手に持っていたメガホンで彼の頭を叩こうとしたが、メガネをかけた女性がスタジオに入って来て周囲に聞こえるように大きな声で呼びかける。
「すみませんが、有栖川 俊太郎さんはここにいますか?」
「えーちゃんさん!? 有栖川はここにいますが、どうしましたか?」
意外な人物の登場でディレクターは驚きつつも、彼女の質問に答えた。
「申し訳ありませんが、如月さんが有栖川さんをお呼びです。至急、社長相談役の部屋に来てもらいたいんですが……」
「相談役が有栖川を……。分かりました。有栖川、ここはもういいからさっさと行って来い!」
「わっ、分かりました」
周囲が騒つくなか、俊太郎は戸惑いつつもえーちゃんと共に鉄平がいる部屋に向かうのだった。
「如月さん、有栖川さんをお連れしました」
「ああ、お入り」
如月の了解を得て、えーちゃんがドアを開けると重役椅子に座った老人が笑みを浮かべていた。
中途採用枠で雇用された老人が社長の信任を得て、社長相談役という役職に就いて、今や飛ぶ鳥を追い落とす勢いのある人物だ。しかも、元刑事でありながら経済界にパイプを持っている噂もあり、社長相談役の就任に重役達が反対することが出来なかったとスタッフ達の噂話を聞いたことを俊太郎は思い出す。
(この人が如月 鉄平か……。ただの好々爺にしか見えないんだけどなぁ……)
俊太郎は、鉄平の姿をまじまじと見ながら第一印象を心の中で呟くと、鉄平がえーちゃんに感謝の意を述べる。
「忙しいのにすまなかったね、えーちゃん」
「いいえ。では、私はこれで失礼します」
えーちゃんはそう言うと、会釈をして部屋を出て行った。
「さて、有栖川くん。君と話がしたいので、そこのソファに座ってくれるかね?」
「はっ、はい。分かりました」
鉄平に指定されたソファに俊太郎は緊張しながらも座り、それを見た鉄平は部屋の冷蔵庫を開けてペットボトルのお茶を取り出しソファに座る彼に渡した。
意外な行動に俊太郎は驚きながらも感謝を述べて、鉄平は向かい合ってソファに座った。
「さて、単刀直入に聞くが、君はマネージャーになる気はないかね?」
鉄平の言葉を聞き、俊太郎は戸惑いつつもどうして自分がマネージャーにならないといけないのか正直に分からなかったので質問する。
「あの……。どうして僕なんかがマネージャーを……」
「理由は三つある。まず一つ目は、君はいくつかのパソコンの資格を持っている。二つ目は、事務所に所属しているタレントの熱烈なファンではないこと。最後の三つ目は、夏色さんが君のことをマネージャーにしたいと言っておるのだよ」
「まつりさんが僕をマネージャーに!?」
「ふむ。夏色さんが君のことを気に入っていてな。さて、君はどうするね? まぁ、数日考えて……」
「なります! マネージャーになりたいです!!」
間髪入れないで俊太郎は返事をする。なぜなら、この話を断ってしまったら本村の嫌がらせで、いずれはこの事務所を辞めさえられる可能性があること。そして、数日考えてしまうと、まつりの気が変わり「やっぱり、やーめた」と言い出すだろうと思い、俊太郎は即断即決で決めてしまったのだ。
そんな事情を知らない鉄平は、彼の決断を純粋に喜んだ。
「おおっ、引き受けてくれるかい。では、今日はもう帰ってゆっくり休みなさい。明日からは研修を行うので、朝9時にまたここに来なさい。ところで君はスーツを持っているのかね?」
「はい。何着かあります」
「よろしい。では、明日からはスーツを着てここに来なさい」
「分かりました。では、失礼します」
鉄平からもらったお茶のペットボトルを持って、俊太郎は会釈してから部屋から退室した。
俊太郎は自然と口元を綻ばせて、心の中で歓喜の声を上げる。
(タレントのマネージャーなんて、大出世じゃないか! ホロライブを辞めないで良かった……)
彼が喜ぶのも無理がなかった。ホロライブに入社してパソコンと事務関係の資格を持っていたので、事務関連の部署で働くのかと思っていたのだ。だが、現実はスタジオのスタッフとして来る日も来る日も雑用に明け暮れていた。もちろん、悪いことばかりでなくタレント達を間近に見られたり、夏色 まつりのような気さくなタレントと雑談を交わせるほど仲良くなったりとそれなりのメリットもある。
だが、まつりと仲良くなったせいで、本村のような熱烈なファンに恨みを買ってしまうという理不尽な目にも遭ってしまうのだが、彼女のおかげでマネージャーになれたので俊太郎としては複雑な心境だ。それでも、明日からは先輩やディレクターの怒鳴り声を聞かずに済むので彼女には感謝しているのだ。
(今日はもうさっさと帰って、明日に備えて美味いもん食って寝るか)
俊太郎は、自分のロッカーに向かい預けていた鞄を肩にかけて、帰るためにタイムカードが置いてある場所へ向かった。途中、あのスタジオを通り過ぎるのだが、先輩である本村がミスを犯してしまいディレクターが本村の頭をメガホンで叩きながら怒鳴り散らしていた。
スタジオの空気も最悪で、スタジオ入りしている主演の癒月 ちょこや鷹嶺 ルイはディレクターの怒号に表情を曇らせ、ゲスト出演の大空 スバルに至っては心配そうな表情で本村を見ていた。
この光景を見た俊太郎は、地獄の日々からようやく解放されたのを確信して、表情を綻ばせながら馴染みの食堂に向かうのだった。
人物紹介
有栖川 俊太郎……外伝の主人公。入社1年目のホロライブの社員。大学2年生の頃、父親がリストラになり仕送りはストップされてしまい、さまざまなアルバイトで学費や生活費を稼いでいた経験がある苦学生だった。身長は160cmの中肉中背。お酒を嗜んでいるが、童顔が原因で居酒屋などでお酒を注文すると必ず免許証を提示を求められるのが悩み。