黒髪ショートカット王子様系幼馴染のオレへの執着が怖い! 作:クリームパイ太郎
日差しは程よく風は涼しく、さわやかな早朝ではあるんだが、今日は水曜日だ。
…火曜日は結局サボってしまった。
オレと王子様が我に返ったころには、とっくに夜が明け遅刻どころか三限目が終わるような時間だった。
王子様の機転でオレが風邪をひいたことにし、病気でふらふらのオレを見つけた王子様が学園に連絡を入れ、そのまま看病のために休むというシナリオを展開した結果、二人揃って休むということになったのだ。
その日はメシを食ったらエロいことして、風呂に入って(入りながら)やりまくって、流石に2日連続で休むのはまずいだろうと、早めに寝ようとしたけど止まらなくて、結局オレ達は寝不足だ。
今日、登校した感じでは王子様の取巻き達からの変な勘ぐりもなく、平穏無事に学園生活を送れそうだ。
クラスも中一日で変わったことなどない。
一週間の折り返し地点だ。月曜日ほどダルくはないが金曜日ほど気分も上がらないが、クラスの女子達のテンションは高い。
これもいつも通りだ。
きゃあきゃあと女子達の黄色い歓声が上がり、二日ぶりにそいつが登校してきたことをオレに知らせてきた。
まぁ、オレの登校前まで一緒にいたんだが。
「おはよう、ちょっと通してくれないか?
すまないね」
む、いつもとなんか違うぞ。
睡眠時間をギリギリまで削って王子様と致してしまったし、今朝は今朝でギリギリまで…ホントにギリギリまでイチャついていたしで、オレも王子様も寝不足のはずなんだが、アイツは元気そうだ。
ただ普段よりも遅めの登校である。
「ああ、おはよう。
すまない、ちょっと通してもらうよ」
モブ女子1、ギャル女子1(白)に声を掛けるが、いつものように褒めたりせず足早に通り過ぎる。
イケメン度合いは相変わらず…ではないな。
…なんだ?
オレの心境の変化なのか、なんか普段と様子が違う…ような?。
教室内の短い距離を、有無を言わせない気配を纏いながら歩いてくる。
ただならぬ雰囲気を感じ取ったクラスの連中は、普段と同じように道を空けた。
スマートな佇まいはそのままに、王子様のオーラもそのままに、クラスの男子も女子も王子様から目を離せない。
イケメンに見えない…だと?
なんだ、コイツ…メイクをしたわけでもないし、制服だっていつもどおりだ。
どこがどう変わったとは言えないのに、どこからどう見ても、誰がどう見ても女の子にしか見えなかった。
昨日までの王子様なら、男の格好すればあっという間にイケメン男子の出来上がりだったのに、今日の王子様は男の服を着たとしても、それは男装した美少女にしかならないだろう。
クラス全員、王子様の雰囲気の変化を感じ取り、男子は押し黙り、女子は声を失って見惚れていた。
教室にいたクラスメートの人並みが割れて、オレの席の前まで王子様はやってくる。
「やぁ、おはよう。
酷いじゃないか、ボクを置いて先に登校するなんて」
な、何を言ってるんだ、コイツは? オマエが、登校はいつも通りにして怪しまれないようにしようって言ったんだろう!?
なるべく、極力、おくびにも出さず、オレは朝飯代わりにゼリー飲料を食べながら、オマエに掛ける第一声を考えていたんだぞ。
正直に言えば、ちょっと…結構そわそわしていたのだ。
それもそうだろう。コイツとの関係性は一昨日までとは違いすぎる。
しかし、それはオレと王子様の間の話であるし、今のところ声を大にして言うことでもない。
王子様もそのあたりは心得ていて、なるべく穏便にオレと王子様の関係に変化があったことを周囲に広めていこうということで話を合わせていた。
だから別々に登校したというのに!
「置いてきぼりかい?
恋人であるこのボクを?」
ざわ…
「ちょ、おま!」
話が違うっ!?
「あぁ、そうか。
照れ屋さんのキミのことだから、恥ずかしかったのかな?
ボクはキミにゾッコンだというのにね」
そう言いながら、オレの手からゼリー飲料を取り上げて、残りの中身を美味そうに吸い上げた。
ヤバいだろう! 今の発言の後ではその行動は意味深なことになってしまうぞ。
「朝はもともと別々に登校してただろうが」
しかも、付き合い始めたことはまだ秘密にしておこうって提案したのオマエだろう!?
王子様は強気に笑っている。
首筋に貼った絆創膏を、びっと剥がした。
昨夜オレが調子に乗って付けたキスマークがあらわになる。
オマエ、隠すために態々オレに貼らせた癖に!
王子様の身振り、手振り、仕草、全てが芝居がかった大仰なものだが、似合いすぎていてクラスの連中は目を離せない。
そして、これみよがしに王子様は言い放った。
「それは一昨日までの話だよ。
恋人同士になったのだから、仲睦まじく手でも繋いで登校したいじゃないか。
まったくキミときたらボクに対して冷たいんじゃないのかい?」
大きな声でもないのに、朗々とした王子様の声は、ざわめきの中でもよく通る。
教室がどよめく中、王子様の小さなつぶやきは近くのオレに良く聞こえた。
「ボクで童貞捨てたくせに…」
クラス中にも聞こえてしまった。
水を打ったように静まり返る教室内。
反対にオレの心臓は、周囲に聞こえるんじゃないかってくらい爆音で鳴り響く。
ざわ、ざわ…
クラスのざわめきも一気に大きくなった。
男子には納得したような顔の連中もいるが、女子の反応は様々だ。
驚くもの。
顔を赤くするもの。
卒倒するもの。
言葉を失うもの。
放心するもの。
オレへ殺意を飛ばすもの。
教室にさまざまな感情が渦巻いた。
そんな異様な雰囲気をバックに、王子様が不敵に笑う。
謀ったな、王子様!?
甘味処で目撃させる作戦じゃなかったのかよ!
もっとこう…緩やかに噂を広めて、しめやかに付き合ってることを周知しつつ、穏便かつ平穏にすませるはずだったのに!
「ふふ、今日もお互い寝不足だね?」
「オマエ、何を言って…」
な、何か言い訳を考えるんだ!
深夜まで一緒にオンラインゲームをしてたことにする?
休んでしまった火曜日の分の授業に追いつくためにお互いに勉強を教え合ってたとか?
ダメだ…王子様の『ボクで童貞捨てた』発言で全てが台無しだ。
いや!
いっそ、あの発言自体をなかったことにしてしまえばっ!
クラスの連中もまずは己の空耳を疑うはずでは…?
よし、そうしよう!
オレが苦しい言い訳を発しようとした瞬間、ずいっと王子様はオレの眼前まで顔を寄せた。
「そんなことは無理だよ」
月曜日、放課後と同じ黒々としつつも爛々と輝く瞳で、王子様がオレの目を覗き込んでくる。
「もう我慢できなかったんだ。
デートまで待ってられない。キミとボクが恋人同士になったことを一秒でも早く周知したい。
噂なんて一気に広めて、害虫共からキミを守りたかったんだ」
今度は周りに聞こえないよう王子様はそっと、オレに耳打ちした。
最早この距離感を気にしている場合ではない。
「そんなことしたら、オマエ…」
オレも小声で返す。王子様のファンからの敵視が尋常な大きさではなくなってしまうぞ。
王子様はそんなオレの心配を無視して、声高に言い放った。
「恋人と過ごす学園生活の初日なんだ。
思わず気合が入ってしまってね。
準備に時間がかかって、遅刻ぎりぎりになってしまった。
さぁ、そろそろ一限目が始まるよ。
今日はキミの苦手な英語だったね」
だ、ダメ押しをするな!
と、ガラっと大きめな音を立て、一限目の英語教師が教室に入ってきた。
王子様の衝撃発言のせいで、教室内の全ての生徒が不意をつかれ、反射的にクラス全員の視線が教室入口に集まる。英語教師もクラスのただならぬ雰囲気に一瞬気圧される。
その時だ。
その刹那の時間。
数学教師よりもやっかいな教師の入室の瞬間、不意をつかれたクラスメートの視線が一箇所に集中する間隙をついて!
「…ん」
「…っ!?」
王子様は掠めるようにオレにキスをしてきた。
唇が一瞬触れただけ。
それでも、クラス全員集まっている教室ですることじゃないぞ!
オレの心臓はさきほどの爆弾発言のときよりも激しく脈打った。
「ふふ、今はこれくらいで勘弁してあげよう」
王子様はペロリと舌舐めずりをして、妖しく微笑んだ。
「ホントならもっと濃厚なやつをクラスメートに見せつけたかったんだけどね」
オレはショックで言葉もでない。
「まぁ、とりあえずキミとボクが恋人同士になったことはアピールできたので良しとしよう」
そうな。
もう誤魔化せそうにないし、そもそもやましいことは…してなくもないが…堂々とカレシカノジョの付き合いをすれば良い。
「ふふ、覚悟しておくといい!
今後はもっと激しくなるよ。
ボクが――学園の王子が誰のモノになったのか、この学園にあまねく知らしめてやる!」
自信満々の王子様に、オレはなんとか声を絞り出して言った。
「あ、ああ、お手柔らかに頼む」
「まずは屋上あたりで口淫してるのを誰かに目撃させるというのはどうだろうか?
恋人アピールと、ボクがキミのモノであることの周知と、ボクはカレシの立派なモノを自慢できて一石三鳥だ」
「初手からハードすぎるわ!」
~おしまい~