黒髪ショートカット王子様系幼馴染のオレへの執着が怖い! 作:クリームパイ太郎
さて、カレに食べてもらう晩ごはんのメニューは何にしようか?
後ほど
精のつくものを振る舞おう。
冷蔵庫、冷凍庫、食品保管庫を物色し目ぼしい物を取り出す。
冷凍された牡蠣のグラタンは予熱したオーブンへ。
真空パックのうなぎの蒲焼は湯煎。
缶のすっぽんスープはプルタブを外し、スープ皿へ注いで電子レンジへ。
温めている間に山芋のサラダも作ってしまおう。
山芋の皮を剥いて短冊切りにする。
ふふふ、昼に続いてボク自身をカレに食べさせてしまおう。
作り置きしてあったお手製のドレッシングに、さらにボクの愛情――もとい、血液から精製したタンパク質の粉末を混ぜる。
これがまたカレの体内に吸収されることを想像するだけで、身体が熱くなってしまうね。
ボクの
ガラスの角皿に短冊切りにした山芋を乗せ、梅肉を添える。
愛情たっぷり特製ドレッシングと薬味を掛けて完成だ。
レバーのパテをスフレカップに移し、バゲットは適度な厚さに切る。
「ふむ」
こんなものだろうか?
それなりに豪華にもなった。
準備のできた料理から、ダイニングのテーブルに並べていく。
あ、そうだ!
食事は全てボクがカレに食べさせてあげよう。
ということは、カトラリーは一組だけでいいね。
前からずっとやってみたかったんだ。
カレが昼ご飯を食べているときに、毎度思っていた。
カレと一緒に食事をしているだけでも楽しいのに、ボクが直接カレに食べさせてあげられたら、それはどれほど甘美な時間になるか……
電子レンジ、オーブンが音を鳴らして料理の完成を告げる。湯煎もそろそろ完了でいいだろう。
料理は全て揃った。カトラリーは一組、椅子を左右に並べて準備完了。
うん、いいね。
とてもいい!
さぁ、カレを呼ぼう。
「ごはんできたよー」
「おー」
なにやらゲームを物色していたようだけど、カレは素直にダイニングにやってきた。
「さあ、遠慮なく食べてくれ」
「30分で準備したにしては手が込んだ料理ばっかなんだが、どうやったんだ?」
椅子に座ると目を丸くして驚いていた。
「手料理を期待したのかもしれないが、まだまだ勉強中でね。冷凍だったり真空パックだったりの加工品だが味は保証するよ。
ああ、ドレッシングはお手製だ」
「へー」
ごくりとつばを飲み込んでいたので、カレのお眼鏡に叶うような料理を用意できたようだね。
善哉、善哉。
ボクもカレに続いて隣の椅子に腰掛けた。少しだけ椅子をずらして、カレへと寄り添う。
ふふ、良い感じだね。
カレにはもっとボクを意識してもらおうか!
さらに追い打ちを掛けるべく、カレの肩へと頭を乗せようとした瞬間、カレがこちらへと振り向いた。
そして、一言。
「なぜ、オマエはオレの隣に座るんだ?」
「え?」
意味がわからない。
せっかく二人きりなんだから隣に座るべきだろう!
もしくは膝の上に座って対面座位だ!!
「食事のときはいつもキミの隣に座っているじゃないか?
それに隣じゃないと、食べさせてあげにくいだろう?」
「??!?!!」
カレはなぜか混乱しているようだが、まぁ豪華な料理を前にして食べ方がわからないだけかもしれないね。
大丈夫だよ、ボクが食べさせてあげるから。
ボクはカレの首元に鼻をつけて、思いっきりカレの匂いを堪能した。
「美味しそうだね?」
ボクは心の中で舌舐めずりして、これから訪れるすぐ先の未来に涎を垂らした。
「そ、そうだな、どれも美味そうな料理だ!」
「ふふ、それじゃあ何から食べるんだい?
ボクのオススメとしてはサラダかな?
さっきも言ったがドレッシングはお手製で、キミのためだけに、ボクで作った特別製だ」
昼と違ってヒントを出したつもりだったんだけど、カレは何も気づかずスルーしてしまった。
それは別にいいんだけど……
「いやいやいや、子供じゃないんだからじぶ…んで…」
そんなに嫌がらなくてもいいじゃないか。
ボクに食べさせてもらうのが、嫌なのかい?
ボクはカレをじっと見つめて、なるべく可愛らしく見えるようにおねだりした。
こんなこともあろうかと鏡の前で練習してきたんだ。
なんだかんだ言って、カレはボクのしたいことは大概受け入れてくれるからね。
でも、ホントに嫌なことなら無理強いなんてしないよ。
カレの望むことこそボクの望みなんだから。
あぁ、でも、カレを、手に入れるためなら、ボクは、どんなことでも、してしまうかもしれない。
「さあなにからたべる?」
「や、山芋のサラダからで」
素晴らしいチョイスだね。
昼に続いてボクを味わってもらおうか。
「はい、あーん」
「…あーん」
カレは素直に口を開いて、ボクの差し出した山芋のサラダを頬張った。
途端に、カレの緊張していた表情も緩くなる。
すぐに表情に出てしまうのはカレの美点の一つだね!
とても美味しそうに咀嚼しているので、こちらまで嬉しくなってしまう。
しかも食べているのは
「どうだい、ボクのドレッシング……」
正直、どろりとした気持ちが抑えられない。
このまま、押し倒して、キスして、ボク自身を食べて欲しい。
そんなボクの内心なんて知らずにカレは、呑気な感想を教えてくれた。
「美味い。やたら美味いな。不思議な味だ。シンプルなのに懐かしい? なんか昼の卵焼きと共通してるような? 全然違う料理なのになんでだ?
なあ、レシピ教えてくれよ」
「ふふ、今は教えられないかな。
でも言ってくれればいつでも分けてあげるさ、キミにならね。
それにしても卵焼きとの共通点を感じ取るなんて、鋭い味覚だよ」
ボクには確信がある。
ホントのことを打ち明けても、カレなら受け入れてくれると。
唖然とはするかもしれないし、仏頂面くらいはするかもしれないけど、そのまま食べ続けてくれるだろうね。
「そうか?」
「ああ、キミの味覚はとても確かだ。さあ、次は何を食べるんだい?」
「もう一口サラダ」
「っ!! キミは本当にボクを喜ばせることが得意だね。まいってしまうよ」
ボクの言葉にカレは不思議そうな表情をしていた。
理由がわからなければそんな顔にもなるだろうけど……
正直な所、下腹部が勝手に熱くなって、ボク自身ホントにまいってしまっているんだ。
ボクの表情には出ていなかったと思うけど、内心ではとろとろに溶かされてしまったような気持ちでいるボクに、カレは二口目を求めて大きく口を開けた。
ふふ、いいね。
少しずつボクの奉仕に慣れてきている。
このまま指一本動かせないくらい、どっぷりと浸かってもらうよ。
ボクはカレの望み通りに、たっぷりとドレッシングがかかった山芋をカレに食べさせてあげた。
さて、次は何を食べたいんだい?
「取り寄せた物だけど、この牡蠣のグラタンもなかなか美味しい。呉の牡蠣だ。
本当なら生牡蠣がいいんだけど、さすがに準備ができなかった。
亜鉛が豊富だ。
濃くするんだよ、亜鉛は……」
ボクの準備は着々と進んでいるんだ。
キミの方もたっぷりと用意してもらわないとね。
「な、何を…?」
「さぁ、なんだろうね?
ほら、熱いから注意して」
ボクは牡蠣の身をフォークで掬い、ふーふーしてあげてからカレの口元へと差し出した。
最早抵抗感もなく、ボクの給仕に素直に従うカレ。
もうね、身震いを抑えるのでボクは必死だよ。
このままカレを食べてしまいたい。
「うまいな」
「そうだろう? どれボクも一口…」
せめて、カレが口を着けたフォークで我慢しよう。
「いいね。美味いね。やはり最高の調味料だ!」
「そうだな。一人で食うよりも誰かと一緒にする食事のほうがいい」
「ははは、そうゆうことではないんだけどね。
だがキミと一緒の食事は、たとえそれがレトルトだったとしてもボクにとってはどんな高級なレストランよりも勝っているよ」
キミ成分が添加されていれば、なお最高だ!
「あいかわらず大げさな物言いだな。
どれ、じゃあ次はうなぎの蒲焼を……」
と、カレはどさくさに紛れて箸を取って自ら食べようとしたので、ボクは素早くカレの手首を掴んだ。
ふふ、甘いよ。
今日の食事中は、指一本動かせると思わないことだ。
今からキミにできるのは、ただただ口を開けてボクにご飯を食べさせてもらうことだけさ。
「うなぎだね。ボクが食べさせて、あ・げ・る・よ」
ボクはカレに向けて微笑みかけた。
「……お願いします」
納得してくれたようだね。
ボクは固く箸を握ったカレの手をゆっくりと解きほぐしてあげてから、指を絡め合って恋人のように手を繋いだ。
カレの耳元で囁く。
「あきらめろ……」
ボクのうっとりとした視線を受けて、カレは大人しく口を開けた。
あぁ、なんて楽しいんだ。
カレの世話を焼くことがこんなに甘美だったなんて……
嬉しすぎてどうしても顔がほころんでしまう。
無理矢理にでも理由をつけて、もっと早くしてあげればよかった。
ごはんを食べさせるだけで、これだけ心が満たされてしまうんだ。
朝起こしてあげたり、着替えさせてあげたり、お風呂に入れてあげたり……
あ、あまつさえ……その、は、はは、排泄の世話までしてしまったり……
ぼ、ボクは何を考えているんだ!
食事中だぞ。
でも、でもでも、カレばボクに全てを委ねて、カレの全てをボクが賄うことができたなら、それは言葉では表せないほど幸せなことだぞ!
しかも、食事が終わったら――終わってしまうのも残念だけど――健全な十代男子が最も困っているであろう性欲のお世話までしてしまえるんだ。
ボクはカレが美味しそうに食事する様から目が話せなかった。
「浜名湖産のうなぎだね。真空パックだが焼き加減に丁寧な職人の仕事を感じられるね。
精の付く食べ物といえばうなぎだ」
こんなに甘美な体験が、まだほんの入口に過ぎないだなんて。
ボクの全身を使った肉体奉仕が待っているんだ。
究極的には全てをボクに委ねて欲しい。
食材を食べるなんてまだるっこしいことなんてせず、ボクを食べて欲しい!
それはさすがに無理だとしても、せめて食器なんて使わずボク自身が食べさせたいなぁ。
はちみつを指で掬って舐めてもらうとか、食べ物は箸なんて使わずに、ボクの指で食べさせて上げたいね。
飲み物は常に口移しとか!
「次はすっぽんのスープはどうだい?
口移しで飲ませてあげようか?」
「さすがにそれは勘弁してくれ」
おっと、思わず今の思考が溢れてしまった。
今すぐにでもしてみたいけど、食事が終わればそれはそれで超重要イベントが待ち構えているんだ。
ムード作りも大事にすべきだ。
「ははは、さすがにすっぽんでは色気がないね。
唇を重ねるならもっとロマンチックなほうがいい。
ここは素直に食べさせるだけにしておこうか」
ホントは手で食べさせてあげたいなぁ。
「さぁ、おかわりもあるからどんどん食べるといい。
遠慮はいらないよ」
「……あんまり食いすぎると鼻血でそうだな」
大丈夫、ボクが舐め取ってあげるから!
「ふむ、確かに精のつく料理が多いね。
気が付かなかったよ」
確かにカレの言う通りだ。カレの準備に専心するあまりホントに食事バランスの悪さに気が付かなかった。しまったなぁ。
「量的には十分だ。スープくれ」
「ふふ、はいどうぞ」
そんなボクのミスにも寛容なカレに感謝しつつ、ボクはその後もとても良い気分でカレに給仕を続けた。
「ごちそうさん」
「はい、おそまつさま」
キレイに食べ尽くしてくれたね。
カレも空腹が満たされたようで、至福の顔だ。
ボクも満腹だ。
今、おなかを見られるのはちょっと恥ずかしいかな。
ボクはカレをソファーに移動するように促しつつ、後片付けをする。
カレは律儀に片付けも手伝おうとしてくれたがさり気なく断り、カレをなるべくリビングへと誘導した。
ここから先はカレに見られるわけにはいかない。
ボクは決意も新たに食後のコーヒーの準備を始めた。
まずはドリップケトルでお湯を沸かそう。ボクはIHクッキングヒーターの電源を入れた。
「いつも通りブラックでいいかい?」
「あぁ、濃いめで頼む」
「了解した」
2人分のコーヒー豆を適量よりも多めに取る。
手挽きのコーヒーミルへ投入して、早すぎず遅すぎず丁寧に挽いていく。
深煎り豆だから香ばしく焦げたような香りだね。
濃いめとのリクエストなので、やや細挽き。
抽出時間も長めにしよう。
ケトルのフタがかたかたと揺れて沸騰を知らせる。
ヒーターの電源をオフし、湯が落ち着くのを待つ。
「……待てない」
カレを待たせるのも嫌だし、ちょっとボク自身が焦れてきてしまっている。
水を足して湯の温度を下げてしまおう。
これからのことに思いを馳せると、どうしても気持ちが急いてしまう。
あぁ、ダメだ。こんな気持ちでコーヒーを淹れたら失敗する。
ボクは深呼吸して心を落ち着かせた。
大丈夫。カレはもう逃げられないし、逃さない。
それに、カレもボクのことを
カレの方を見やれば、食後の満足感に浸りきって、ぼんやりとしている。
警戒心ゼロ。
これからボクのやろうとしていることだって、おおよそ気がついてるはずなんだけど……
まぁ、まずはコーヒーを淹れてしまおう。
金属フィルターとドリッパーをサーバーにセットしコーヒーの粉を入れる。ちょうど良い温度になった湯を粉の中心へとゆっくりと注ぐ。ふんわりと粉が膨らんで蒸れていく。
とても良い香りが漂ってきた。
その香りはリビングの方へも流れていき、ぼんやりしていたカレも反応していた。
頃合いを見計らって、小さな円を描くように湯を注ぐ。抽出された黒い液体がサーバーへと溜まっていった。
おしゃれなコーヒーカップに入れてもいいけど、リラックスしてほしいからマグカップの方が良いだろう。
カレは量もけっこう飲むしね。あと、ボクの分はカフェオレにしたい。
いつか使うつもりだったおそろいのマグカップだ。
カレのマグカップはそのまま、ボクのマグカップには牛乳が半分ほど入った状態で、サーバーからコーヒーを注いだ。
そして、最後の仕上げだ。
ボクはカレの方へと細心の注意を払いながら、キッチンの引き出しから小瓶を取り出した。
そう、ボクはこの事態も予想はしていた。
極小の可能性ではあったけど起こってしまったのだ。
カレが他の
強硬手段にでるための秘密兵器。
睡……恋の秘薬だ!
ボクは
効果は速攻。時間はおおよそ60分。
よし、完成!
トレーにカレとボクのマグカップ、お茶請け、余ったコーヒーの入ったサーバーを乗せ、ボクはカレの待つリビングへ向かった。
「おまたせしたね。
お茶請けはひとくちチョコレートだ」
ボクがローテーブルへとコーヒーを置くと、カレが物珍しげにカップの中身を眺めていた。
ふふ、美味しく淹れられたと思うよ。
ボクはカレの隣に座って、すぐにカレへと身を寄せた。
カレのぬくもりがとても心地よい。
早速カレはマグカップを手に取り、香りを楽しんでいるようだ。
さぁ、早く飲んでくれよ。
「オマエ、そのチョコ好きだよな」
と、ボクがわくわくしながらカレを見ていると、カレの方から話題を振られた。
まぁ、まだコーヒーは熱いからね。ほどよい温度になるのを待っているんだろう。
「ん? そんなこともないけど、どうしてだい?」
「あぁ、よく食べてるのを見ると思ってな」
ふふ、ボクが甘党なのは良く知っているだろう?
「それはキミの家に常備してあって、遊びに行くとおやつで出してくれるからじゃないかい?」
「それもそうか。でも、オマエは明らかに多めに食っている」
「ふふ、ボクのことをよく見ているね」
ボクがカレのことをよく見ているように、カレもボクのことをきちんと見ているんだね。
生まれたときからの付き合いなんだ、ボクの知らないボクのクセの一つや二つ知っているかもしれない。
「そういえば、このソファー昔はなかったよな」
「ん? ああ、春先に大きな物に変えたんだ。
四人掛けだね。部屋をカジュアルにしたくて布製にしたんだ。
キミとボクの二人が横になってもけっこう余裕がある。
素肌でも布製だから心地よい。
あぁ、汚れてしまっても気にしなくていい。
記念になるだろう」
キミにこのリビングで押し倒された場合のことを想定して、広くて肌触りの良いものに替えたんだよ。
しかし、なかなかコーヒーに口をつけようとしないね。
そろそろ良い頃合いの温度になっただろう。
「さぁ、冷めないうちにコーヒーを飲んでくれ。なかなか上手く淹れられたと思う」
カレのために練習をしているので、コーヒーを入れる腕前はそれなりになったと自負している。
ボクはさり気なさを装ってチョコレートを取りながら、カレにコーヒーを飲むように促した。
さらにカレへと密着する。素肌がカレへと当たってしまいそこだけが妙にむず痒い。
これから起こることを想像して身体も熱くなる。とっくにパーカーも脱いでしまった。
「どうしたんだい? コーヒーが冷めてしまうよ?
あぁ、そうか! 口移しで飲ませて欲しいんだね。
少々待っててくれ」
まったく、そうならそうと早く言ってくれればいいのに!
飲み込まなければ恋の秘薬の影響もないだろう。
ボクは素早くカレのコップを取ると、勢いよくコーヒーを口にふくもうとしたところでカレに止められた。
「やめとけ。すっぽんスープよりはマシだが、コーヒーじゃ熱すぎるわ」
「ふむ、それもそうだね。どうせなら映画のワンシーンのように劇的に、コーヒーよりも熱いモノにしようじゃないか」
む、確かに。それにボクは猫舌だしね。
ボクはカレの言うことに素直に従いながらも、コーヒーを飲むように促した。
カレに近寄る。
カレとボクの膝先が触れ合い、なんだか接触した部分が熱い。
カレの手を取りマグカップの取っ手を持たせ、マグカップとカレの手をボクの両手で包みこんで、ボクはカレをじっと見つめた。
「冷めないうちに……」
「あ、あぁ……」
もう、カレに触れられずにはいられない。
ボクはつま先でカレの足先をなぞる。指先でカレの太ももを突付く。
カレから目を離せない。どうしてもどろりとした感情が制御できず、カレがコーヒーを飲むのを今か今かと待ち望んでしまう。
気がついているのかいないのか、ボクのそんな気持ちなんてお構いなしに、カレはゆったりとコーヒーの香りを楽しんでいた。
そして、とうとうコーヒーに口をつけようとして、
「すっげーいい匂い。どこの銘柄?」
「っ! インドネシア産のマンデリンだね。フレンチローストでカフェオレに良く合う。ブラックで飲んでも美味しいはずだ」
息すら止めて見入っていたボクを、するりと躱すように質問してきた。
一瞬苛ついてしまったが、いけない、いけない。
短気は損気だ。
「へー、ウチじゃ近所のコンビニの粉だからなー」
「コンビニコーヒーも十分美味しいけどね。100円程度で飲めるコーヒーとしてコスパは最高だと思うよ。
さぁ、冷めないうちに飲んでくれ、上手く淹れられたと思うんだ」
これは本音だ。バリスタの動画で勉強もしたし、自分で味も確かめている。
早く飲んでほしいのも本音だけど。
ボクは焦らしてくるカレへせめてもの仕返しに、いじらしく太ももに触れていた指先をカレの内股まで這わせ、さらに膝先を押し付け、足の指を動かしてカレの爪先を責め立てた。
ダメ押しに、すごく恥ずかしかったけど胸の先をカレの二の腕に押し付けてあげた。
うぅ、ここまでやったんだから早く飲んでくれよ。
「お、おう、どれどれ…」
ようやくカレがマグカップの縁に口をつけた!
ボクは目を見開いて凝視してしまい……
「そういえば、今日の授業でさ……」
「早く飲め!」
「……はい」
そして、今度こそカレはコーヒーを口に含み、一口飲み込んだ。
カレの喉仏が上下し、ボクの
「うまいなー」
カレ好みのコーヒーだったんだろうね。しみじみと感想を漏らした。
「すげーうまい」
つづいて二口目。
「確かにこれならカフェオレにしてもよさそうだ」
三口目。
「何と言っても香りがいい。蒸らし時間が絶妙だ」
四口目。
「抽出も時間もちょうどいいのは間違いなくオマエの技術だな。豆が細かく挽かれているから苦みが濃い」
カレは一度ボクの方を見てから、満を持して残ったコーヒーを一気に飲み干した。
「さぁ、飲んだぞ」
ボクの内側からどろりと溢れ出る歓喜。
黒くねっとりとした欲望がカレを包む。
「……あぁ、飲んだね。とうとう飲んでくれたね」
さぁ、始まりだ。
カレとボクの二人だけの祝宴だ。
洗礼の秘跡は既に済み、供物を具えて、寿ぐだけ。
供物とはボクだ。
カレに捧げ尽くして、ボクのものにしてやるんだ!
「さぁ、もう少しこっちに来てくれ」
カレの目が少しだけ揺れていた。
早速効果が現れてきたかな?
カレは手を上げて、何かをしようとしたのだけど、そのまま身体が倒れてきた。
半ば予想していたので、ボクは慌てずにカレの身体を誘導して、そのままボクの太ももへと収める。
ふふ、膝枕だ。
昼の続きがようやくできたよ。
カレも表情を緩めてボクの太ももを楽しんでくれているみたいだ。
「キミが焦らしたりなんかするから、ボクはもう暴発寸前だったよ?
あまりにも間をもたせるものだから、ホントに口移しで飲ませてやろうかと思ったんだけど」
ボクはカレの頭を撫でながら、心が満たされていくのを感じた。
どろどろと満たされる。
ボクの方を見ている目は空いているけれど、カレはぴくりとも動かない。
カレは無言。
ボクも無言。
少しの時間沈黙が流れる。
そんなことも苦痛ではない。カレをこんなに間近で見ていられるのだ。
至福の時だ。
カレの頭の重さが心地よい。
ようやくカレが口を開いた。
「盛ったな?」
やっぱり理解してくれていたんだね。
ボクがやろうとしていたこと。
そして実行してしまったこと。
カレがなんの躊躇いもなく付き合ってくれたこと。
「ふふ、わかっていてそれに付き合ってくれるキミが……」
ボクはカレへと微笑みかけた。
「ボクは大好きさ」
残念。
カレは意識を失ってしまったようだ。