黒髪ショートカット王子様系幼馴染のオレへの執着が怖い! 作:クリームパイ太郎
「そろそろ目を覚ますはずだが…」
なんとなくカレの気配が変わった気がした。
カレの状態を確認すべく、デスクチェアから立ち上がりカレの側へと歩み寄る。
「呼吸、脈は正常。体温も低下なし。
むしろ熱いくらいだ。
食事の影響かな」
栄養バランスは偏ってしまったけど、カレの精……遺伝子がたっぷり生産されるような食事をいっぱい食べてもらったからね。
呼吸にも脈拍にも異常はない。覚醒寸前なのかもしれない。
脇腹をくすぐったら起きたりして。
まぁ、そんなことをしなくてもいいか。カレが自然に目を覚ますまで、じっくりとカレを観察していよう。
起きる気配すらなかったから、さっきまでカレの各部位を測定していたんだけど、なかなかよいデータが採れた!
身長、体重など身体測定で把握できるデータは手元にあったんだけど、もっと詳細なデータを持っていないことに思い当たったのだ。
肩幅、身幅、袖丈、胴囲、腹囲、股下などなど。
オーダーメイドでカレの服を作れるくらいにはデータが揃った。
それでもまだ時間がありそうだったから、手のひら、足裏、指の一本一本にいたるまで思いつく限り採寸してしまった。
ボクサーブリーフの上からだったけど、通常状態の
機会があれば臨戦態勢のときのサイズも測らせてもらおう。
測定は一旦満足したから、改めて大人しく待っていたんだけど……
「こちらは準備万端だというのに、早く目覚めてくれないだろうか。
さっきから焦らすね、ボクの王子様は」
また辛抱たまらなくなってきた。
ボクはなるべくベッドが軋まないように体重を掛けて、カレの体温が感じられるくらい近くまで顔を寄せた。
首元のあたりでカレの匂いを確認する。
一日過ごしたからか、微かな汗の匂い。嗅ぎ慣れた安心する匂い。
あぁ、でも状況が違うだけで、こんなにも感じ方が違うんだね。
ボクはカレの体臭ですっかり欲情していた。
「はぁ……良い匂いだ。
この幼馴染、スケベすぎる。
頭がクラクラする」
ラッコ鍋を食べるとこんな感じなんだろうか。
「早く起きてくれよ、もう我慢の限界だ」
カレの耳元で囁くように言った。ちょっとだけ起きてくれたらいいなぁと思いながら。
案の定、この程度の声量では起きなかったけど、カレへの悪戯は楽しかった。
「眠り姫は王子様のキスで目覚めたという。
早く起きるように唇を奪ってしまおうか」
静かに眠るカレの唇をそっと奪ってしまうっていうのは、それはそれで良さげではあるんだけどね。
カレとはロマンチックにキスすると決めているのだ。
「まぁ、やめておこうか。手順はきちんと踏むべきだ」
こう、ボクのおとがいにカレが指を添えて、くいって感じで持ち上げて……とかいいよね!
ボクはカレから少し離れて、その寝姿を改めて眺めた。
「ボクサーパンツがセクシーだね。
早く中身が見たいものだよ」
そして、一秒でも早くボクをキミのモノにしてくれ!
「……脱がすか?」
早く見たいんだよ!
「あぁ、いけない。
ダメだね、まったく自制心が働かない。
もう俎上の鯉なんだ。籠の中の鳥だし、退路は塞いだ。
もうこの家のロックは何があっても明日の朝まで開かない。
脱出などさせない」
例え鍵なんて掛かってなくても、カレは逃げないだろうけどね。
「一旦落ち着こう。遅くともあと一時間もすれば目を覚ますはずだ」
一時間と予想していたけど、多少の誤差はあるだろう。
手持ち無沙汰で待っていても、焦れるだけだし、現状を確認しておこうかな。
ボクはスマホを取り出して、カレの
「ふふ、キミの最後の自慰は一昨日だね。
21:30から、業腹だが……オカズは『巨乳幼馴染と初めてエッチ』か。
幼馴染モノなので大目に見るが、2次元とはいえボク以外をオカズにするとは明確な浮気だ!
今後は許すつもりはないが、今はまだ仕方がないか」
実に腹立たしい。
カレがボク以外の女を見るだけでも、我慢ならないというのに。
あまつさえボク以外を性欲の対象にする?
「言ってくれればオカズの提供どころか、ボク自ら世話をすることもやぶさかではないのに」
えっちな自撮りだろうが、脱ぎたてパンツだろうが、カレの望むモノはなんでも渡すつもりだぞ。
……ちょっと恥ずかしいけど。
でも、これはマストだ。絶対にしなければならない。
カレの行動を縛ろうとしているのだ。カレの性欲を世話するのはボクの義務と言っても過言ではないね。
こんな感じはどうだろう?
ある日いつものように、ボクはカレの部屋へ遊びに行くんだ。
「やぁ、遊びに来たよ」
「お! ちょうど良かった。
ちょっとむらむらしてたんだ。
今から頼めるか?」
「まったくしょうがないね。
今朝も口でしてあげたばかりだろう?
もう溜まってしまったのかい?」
「あぁ、学校でのオマエを見てたらなんか……な?」
「ふふ、だったらボクの責任だ。
キミのカノジョとしてカレシの欲求不満は解消してあげないといけないね。
さぁ、どこでして欲しいんだい?
朝と同じで口?
シンプルに手なんてどうかな?
キミの大好きなボクの胸でもいいよ?
そ・れ・と・も……」
「全部に決まってるだろうが!
まずは壁に手をつけっ!」
「あ、そんな!
ちゃんとしてあげるから乱暴にしないでくれぇ!」
「うるさい!
さっさとこっちに尻を突き出せっ!
こっちはもう我慢できないんだよっ!!」
「ふあぁん!」
なんてね! なんてねっ!
望むところだよ!!
そのためにもカレには早く起きて欲しいんだけど……
ボクは大きくため息を吐いた。
「こちらの気も知らずに……キミの自慰を覗いていると、ついこちらも盛り上がってしまってね、同じタイミングで致してしまうのだが、終わった後の虚しいことと言ったら……
そもそもいい加減キミのシャツやパンツでは満足できなくなってきていたんだ」
それも今日までだ!
コレクションは続けるにしても、もう我慢なんてしない。
カレを目一杯満喫するんだ。
代わりにカレにもボクを好きにしてもらうぞ!
「ダメだな。
独り言が多くなってしまう。
……少しくらいなら味見してもいいだろうか」
乳首くらいなら舐めてしまっても構わないんじゃなかろうか。
いや、性感帯だった場合に起きてしまうかもしれないね。
ここは耳とか首筋とか……臍とか?
そんなことを考えていると、カレが身じろぎした。
「う、うーん……」
おおおお! ようやくカレが目を覚ましてくれた!
なんか不自然な呻き方なような気がするけど、大丈夫かな?
「ようやくお目覚めだね。気分はどうだい?」
部屋が薄暗くて分かりにくいけど、顔色は悪くなさそうだ。
目の焦点があってないけど、これは睡……恋の秘薬の影響が少し残っているのかな?
あぁ、寝起きのカレも可愛いなぁ。
この顔をこれからは頻繁に見ることができるんだね。
思ったよりもカレの意識ははっきりしてるみたいだ。
「ひでーなオマエ。幼馴染に薬を盛るとか。
睡眠薬?」
酷いと言いつつも、カレからは特に怒った様子は見られない。
やれやれといった雰囲気はあるけど、ボクの買い物で一日中引っ張り回したときと大差ない感じだ。
怒っていたらどうやってお詫びしようかと思っていたんだけど、一安心だね。
いや、お詫びはした方がいいか。
明日にはカレとボクは恋人同士になっているんだ。これから毎朝フェ……朝駆けするとかどうかな?
「ふふ、恋の秘薬とでも言っておこうかな?
まだ身体を動かすのは辛いはずだ。
無理はしないように大人しくしててくれ」
カレも無理をするつもりはないようで、ぼんやりとボクの方を見つめていた。
まだ痺れで手足は動かせないはずだ。
何度か瞬きを繰り返し、少しずつ視力が回復してきたのか、カレはゆっくりと部屋の中を見回した。
ちょっとげんなりしているけど、薄い反応だね。
もっとドン引きされるかと思っていたんだけど。
「ようこそ、ボクの
「すげー部屋だな」
「ふふ、この部屋を見てその程度の感想なのかい」
普通、四方の壁一面に自分の写真が貼ってある部屋に、眠らされて連れてこられたら、恐怖に慄くのではないかな?
特に部屋の隅にある隠しカメラ映像を映しているモニタと体操着が気になっているみたいだ。
それなのにカレときたら危機感の一つも抱かずに、普段通りにボクを見て、いつものようにボクへと話しかけるんだ。
うん! やっぱりカレもボクのことを……
確信は持っていたし、疑ってもいなかったけど、やはり嬉しいものだね。
カレの好意よりもさらに熱い想いに、ボクはどろりとした気持ちが胸の裡に溢れてきてしまった。
「ボク自慢のキミコレクションだよ。
いまだかつて誰にも自慢できたことはないが」
「当たり前だ」
「ここにあるモノはほんの一部だ。ごく最近のモノばかりだね。
キミの年齢ごとに保管してある。残念ながら、コレクションを始めたのは六歳からなのでそれ以前のものは少ない」
小学校一年生の時よりも、もっと前から始められなかったのが悔やまれる。
カレの使った哺乳瓶とか、カレの使ったおしゃぶりとか欲しかった!
お、おしめとか!!
「いやー、蒐集を始めたばかりの頃はキミが使っていた消しゴムだったり鉛筆だったりをもらっていたんだけどね。
ほら、よく交換してただろう?」
「あー、なんかそんなこともあったような」
「次第にキミが身につけているモノが欲しくなってきたんだ。
できれば肌に直接触れているモノや匂いが移っているモノが好ましいね」
「それで体操着?」
「体操着は中学生からだ。小学生の時は同じハンカチを用意してすり替えたりしていた」
『なにやってんだよ、コイツ!』という目で見られてしまった。
敢えてボクが持っていたハンカチを手渡して使用してもらったりもしていたんだぞ。
工夫を褒めてくれてもいいじゃないか!
「最近のお気に入りはなんといってもコレだね」
ちょっと調子に乗って、ボクは見せるかどうか迷っていたパウチされた袋をカレに見せた。
「まさか、オマエ……」
「そう、キミの洗濯前のパンツだね。遊びに行くたびに失敬していたんだ。
しかし安心して欲しい。
それではキミの履くパンツがなくなってしまうからね。同じメーカーの新品をきちんと置いてきているよ。
サイズはMだね。引き締まった尻がセクシーだ」
でも、パンツがなくなってしまって、カレが下着を付けずに登校することになってしまったらと思うと、ボクは……ボクはもう!
と、それは今は良い。
……今度お願いだけはしてみようかな。
「なんだい変な顔をして?
あぁ、目的なんて聞いてくれるなよ。
だいたいわかってるだろ?
ふふ、恥ずかしいじゃないか」
ボクのオカズはキミ由来のモノばかりだよ?
「幻滅したかい?」
「あー……」
カレの心境を語るなら「しょうがねぇなぁ」ってところかな?
嬉しいことにボクの予想に反して、とても好意的な眼差しだった。
ボクはほんのりと微笑んでしまった。カレの気持ちがとても嬉しい。
そうだ!
カレをオカズに一人でイケナイことをしてしまうボクを、今度カレに叱ってもらおう!
なかなかよいプレイなんじゃないかな。
「キミへの思いが強すぎた結果なんだ。
許してくれないか?」
「もうするなよ?」
「だが断る!」
コレクションはこれからも続ける所存だ! むしろもっと増やせると思っているぞっ!
「……せめて、隠しカメラを外してくれ」
「前向きに検討を加速しようじゃないか」
そんなことをしてしまったらキミを見守ることができなくなってしまうじゃないか!
あ、でもボクの部屋にずっと居てくれるならホントに検討してもいいかな?
やはり映像よりも実物を直に見たほうが良いに決まってるし。
「そういえば何時間くらい寝てたんだ、オレ?
っていうか今何時だ? 何日も経ってるとかないよな?」
「寝ていた時間は一時間程度だよ。
うまく調整できて何よりだ」
マウスで実験したからね。ほぼ想定通りの効果だった。
一応カレを安心させてあげよう。
「安心してくれ。こんなこともあろうかと、きちんと事前に学習して検証して実験したから問題ないよ」
途端にカレの顔が曇る。
むむ、逆効果だったかな?
まぁでも、実際不測の事態も起こらなかったから問題ないよね?
「どんなことがあると思ってたんだよ、まったく」
「……っ!?」
カレは軽い気持ちで言ったんだろうけど、ボクの心は一瞬で沸騰した。
カレを失ってしまうかも知れないという不安は、火刑台に処された魔女のようにボクの精神を火あぶりにするんだ。
もうどうしようもない。
どうすればこの気持ちがカレに伝わるんだ?
「どんなことかって?」
ボクは自分でもどうにもできない衝動に突き動かされて、カレに覆いかぶさった。
カレを押し倒しているみたいで興奮に拍車がかかる。
ボクの視界がカレの顔だけに占められる。
あとほんの少しでカレとキスできるくらいの距離だけど、今じゃない。
「決まってるだろう!」
カレの視界もボクで埋め尽くされていることだろう。
それでいい。
カレにはボク以外見てほしくない。
ボク以外の生物はカレの視界に映る権利なんてないんだ!
「万が一にもキミが……キミという男が、ボク以外の誰かのモノになってしまうかもしれないという事態だよ!」
一度、激してしまった感情は抑えることができなかった。
カレは相変わらず、ぼんやりとボクを見ているだけ。
指一本動かせないのに、眼の前で狂った女が喚き散らしているのに、薬を飲まされてボクにひどいことをされているのに、カレは怖くないのかな?
……嗚呼、カレからの信頼がここちよい。
「どこの雌犬だ! キミの価値に気付いたことは称賛してやってもいいが、キミはボクのモノだ!
キミの価値はボクだけが知っていればいい。
それを……それをっ!
畜生の分際で許さんぞっ、虫ケラが!
切り刻んで豚の餌にしてやろうか……」
「と、とりあえず落ち着け」
ボクらしからぬ言葉遣いにカレもちょっと動揺したみたいだ。
でも、吐いた言葉はキミへ向けたものではないことは理解して欲しい。
「落ち着いてなどいられるか!
由々しき事態だよ、ボクにとっては人生最大のピンチと言っても過言ではない。
まったくもって猶予がない。
強硬手段に出ざるを得なかった」
うん、わだかまっていた思いを吐き出したら少しすっきりした。
代わりにカレへの甘い感情が溢れてきて、熱したはちみつのようにカレに滴り落ちる。
蕩けて融かして食べてしまいたい。
動くことができないカレの頬へと指先で触れる。
それだけでも身体が熱くなって、下腹部の奥が疼く。
頸動脈の弾力を確かめ、鎖骨の硬さを楽しみ、胸板から伝わる心臓の音を聞いた。
カレも感じてくれているみたいだ。
「ふむ、良い感度だね」
動けないながらも、カレがぴくぴくと小さく震えていてボクの拙い愛撫にも反応してくれているのが判る。
これからどんどん勉強して、もっともっとキミを気持ちよくしてあげるからね。
教材はキミだし、教師もキミだよ! 練習したら即実践ね!
ボクがカレへの愛撫に酔い痴れていると、ぼんやりとしていたカレの雰囲気が次第にしっかりとした物に変わっていく。
カレの焦点が結ばれ、ボクの身体をしっかりと視認できたみたいだ。
「ん? あぁ、ボクのことを見たいんだね。
その体勢ではよく見えないだろう?
どれ……」
首だけしか動かせないせいで四苦八苦しているカレが愛らしい小動物のようで、ボクのお腹の奥をきゅんきゅんさせるよ!
ボクはカレの上半身を起こして、ヘッドボードへと寄りかからせた。
「いいね、とてもいいよ。
何もできないキミをボクの思い通りにできるなんて……
食事を食べさせてあげているときから思っていたんだ」
つい数時間前の甘やかな思いが、どろどろとカレへと注がれる。
ボクはカレのことを確かめたくて、頬に触れ顎先を撫でた。
「ボクがいなければ何もできないキミを、世話して、援助して、面倒を見て、介助して、全てを全部をボクに委ねなければならないなんて!
なかなか官能的な体験だよ」
カレにはボクだけを見ていて欲しい。
「ボク自身も気がついていなかった……違うかな?
押し殺していた、ボクの欲望だ」
ついに開放してしまった、すべてを壊すボクの独占欲だ。
カレを独り占めするためなら、何を犠牲にすることも厭わない。
もうダメだ。
カレに告げてしまった。
ボクは自分の肩を抱きしめて、カレへと襲い掛からないように全力で我慢した。
空気を入れすぎた風船みたいだ。
ぱんぱんに膨らんで、今何かカレに言葉を掛けられたら、それだけで破裂する。
「さっきね。キミが寝入ってから準備のために浴室へ行ったんだ。
その時驚いたよ?
下着が漏らしたみたいに濡れていたんだ。
全然気がついていなかった。
ボクとしたことが身体も頭もオーバーヒートしていたみたいだ」
身体が勝手に準備を始めてしまっていたんだ。
「ボクはそれほどキミにイカれているってことだね」
そんなボクでも、カレならきっと喜んでくれると思う。ちょっと恥ずかしいけど。
「さあ、見てくれよ。
キミのために努力したんだ。
この日のために勝負下着も用意した。
キミの好みに寸分違わずあっているはず……だと思う。
目が慣れてきた頃合いだろう?」
ふふ、勝負下着は厳選に厳選を重ねたよ。
カレにも色めき立つものが溢れてくるはずさ。
カレの視線を全身に感じる。
この日のために磨いてきた玉の肌。カレのために手入れも鍛錬も欠かしたことはない。
あとはカレの好みに添えているかどうかだけど。
「……」
「……」
言葉もなくボクを見ているカレに、少しずつ不安になってくる。
カレの嗜好からすれば、極端に太った体型が好きだとか、鶏ガラのように痩せていないとダメだとか、そういったことはないと思う。
部屋が薄暗いせいでカレの表情が読みずらい。
胸は大きい方が好きなはずだ。よくカレからの視線を感じるし。大きさと形には自信があるけど……
「……」
「な、なにかないのかい? 褒めるとか感想とか……」
相変わらず無言のカレに、情けない懇願が出てしまった。
ボクの不安を感じ取ってくれたのか、カレの表情が少しずつ真剣な感じになってきた。
顔色も赤くなってきたような?
身体は相変わらず動かせないようだけど、何か言いたそうにボクを見ていた。
何を言うつもりだろう?
ボクの至らないところを指摘してくれたなら、キミの好みになるように努力するよ?
そんな見当違いな考えをボクがしていると、カレは一言でボクの不安を消し飛ばしてくれた。
「……綺麗だな」
「……ぁ」
あっさりとした言葉だけど、ボクの深い部分に突き刺さり、全身に響いた。
カレがボクの容姿を好ましく思っているのは知ってたけど、面と向かって言われたのは初めてだ。
しかも今日のこの日のために準備した、カレのためだけに磨き上げたボクを褒められた。
想定していたし何度も夢想していたけど、実際に言われるとこんなに嬉しいだなんて……
あ、あれ?
なんか身体が変だぞ?
熱くて、奥のほうがぞわぞわしてきて、足に力が入らなくなって、あれ? あれ……?
「あ、ああぁ、あ、イっ、くッ!? ああああぁぁー」
ボクは床にへたり込んで、全身を震わせた。
「お、おい!?」
カレの心配そうな声が聞こえたけど、ボクは返事もできずに両手で自分を抱きしめて動けなかった。
そうしていないと、気持ちが溢れてどうかなってしまいそうだった。
制御できない感情で何もできなくなってしまうことがあるんだね。
落ち着くまでにどれくらいそうしていただろう。
「は、はは…」
ようやくボクは、カレへと返事ができた。
「ボクは今、キミに掛けられた言葉だけで……」
こんな恥ずかしいこと、言葉になんてできないよ?
カレも驚いて唖然としていた。
ふふ、まったくキミのせいでボクがこんな目にあっているっていうのに。
「……は?」
「ボク自身も信じられないくらい興奮しているよ。
感極まるってこういうことを言うんだろうね?」
あぁ、もうダメだ。言葉の通り、ボクは感極まってカレへと近づいた。
「なんて酷い奴なんだキミは」
こんな恥ずかしい思いをしたのはキミのせいだ。
でもカレの前でだったら、どんな痴態を晒すことになっても、それがカレの喜ぶことだったらボクは……
「何も知らない乙女であるボクをあんなふうにするなんて……
焦らすし、ツレないし、おまけにぶっきらぼうだし」
キミのことが好きすぎて、もうどうしようもない。
ボクは動けないカレにゆっくりと近づいた。
「何も知らないってことはないだろう」
「そんなことはないさ。
男女の閨事も知らない素人だ」
「そうな」
もう、カレの顔が目の前だ。
「む、キミだってそうだろうに」
「……そうな」
カレはちょっと言葉に詰まってから素直に返事をしたけど、見栄でも張ろうとしたのかな?
ずっと一緒にいるし、キミの動向は監視……見守っている。
見栄を張っても、すぐにわかるからね。
カレとボクの距離はほとんど0だ。
こんなにどきどきしてカレに近づいたことなんて――生まれたときから一緒にいるけど――なかったかもしれない。
「教えてくれるかい?」
「オレにも教えてくれよ」
ホントに映画のワンシーンみたいにできたかもしれない。
ようやく、カレとボクはキスを交わした。