黒髪ショートカット王子様系幼馴染のオレへの執着が怖い! 作:クリームパイ太郎
カレから好きって言って欲しかったから、軽い気持ちでお願いしたんだけど、思わぬ反撃にあってしまった。
ボクは誤魔化すようにカレへと確認する。
「キミ、ボクのこと好きすぎだろう」
「ああ」
ボクも好きだ!
「ベタ惚れだね?」
「……ああ」
ボクもベタ惚れだ!!
カレのまっすぐな想いに、心の整理が追い付かない。
いや、ボクの脳内はカレへの『好き』しかないんだから整理なんて必要ないんだけど。
「なんだいこれは?
感情の制御がまったくできないね?
顔が勝手にニヤけてしまうよ」
ボクはだらしなく顔の筋肉が緩みそうになるのを必死で堪えた。
指先で頬肉を支えていないと制御不能だ!
さぁ、カレはボクのお願いを聞いてくれたんだ。
ボクも約束通りカレの要望を叶えてあげなくちゃいけないね?
「ふふ、じゃあキミの不安を消してあげようじゃないか。
なんとも……なんとも可愛いことだ」
食べてしまいたいくらいに!
「教えてくれ」
カレの真剣な声音に、ボクからの解答はシンプルだった。
「実に簡単なことだよ。
一言で言えば……運命、だね」
「……えー」
15年間、片時も離れないでずっと一緒にいたけれど、見たことないくらい微妙な顔をされた。
まぁ、そんな顔にもなるよね?
でも、ボクがキミとの出会いに運命を感じたのはホントなんだ。
ただそのときに、キミはまだ新生児ですらなかったから、ボクとの出会いを覚えていないのも無理はないね。
「そんな顔しないでくれよ。
ボクにしてみれば、そう言うふうに考えたくなることなんだ」
もしもキミがいなかったら、ボクの世界はこんなに平穏にはならなかったんだ。
「今から遡ること十五年と十ヶ月まえのことだ」
「……オレ達の生まれた日?」
キミとボクの出会った日だ!
「うん、その通り。
閉じた世界ではあるけれど、母親の胎内という完成された世界で心地よく微睡んでいたボクは突然外の世界に放り出されたんだ。
出産だね。
せっかく気持ちよく眠っていたのに、狭く苦しい思いをさせられて、なんでこんな目にあっているんだと……
第一声は、ふざけるな!だ。
まぁ、そのときは声帯も未発達だったしオギャーだったと思うけどね」
「オマエ、流石にそれは創作がすぎるだろ」
「そんなことはないさ。覚えているもの」
生まれてきた新生児はみんな世界への不満を表明しているんじゃないのかな?
少なくともボクはそうだった。
カレには判りやすく『ふざけるな!』と伝えたけど、言葉のニュアンスとしてはもっと怒気を孕んだ攻撃的な意思だったよ。
「あとね、うちの両親は変わり者でね」
「あぁ、知ってるよ」
ボクの両親は研究者だ。
しかもちょっと……どころではなくかなり倫理観の欠如した知の探究者。
「胎教というやつがあるだろう?
何をトチ狂ったのか、うちの親はね、ありとあらゆる知識を胎児のうちから教え込もうとしたんだよ。
クラシックでも聞かせてれば穏便だったろうに」
どうやらボクの親はどちらも狂人のようで、自分達の子供を実験動物かなんかだと思っていた節がある。
ボクが施された実験は胎教なんて穏便なものではなかったからね。
父親と母親の専門分野を統合したような実験ばかりだった。
両親も自ら志願して人体実験してるんだから始末に負えない。
母体の完成した神経系と胎児の未発達の神経回路を羊水を橋渡しとして接続し、母体からの電気刺激で知識の記録痕跡を転写する≪ニューロバイオ伝送≫。
精子と卵子のDNA非コード領域に脳の神経結合パターン(知識)を模倣した情報構造を埋め込み、細胞分裂時に保持され胎児脳の発達とともに展開されていく≪遺伝子記憶エンコード≫。
知識情報を書き込んだ細胞をナノカプセル化し精子と卵子へ結合させ、着床後に時間経過でナノカプセルが開封されて特定の学習構造が、自然形成される≪ジーンエンベッド・システム≫。
胎児の聴覚が正確に捉えることができるように調整された周波数と、母体と羊水を介して『全身で聴く』ことで未発達でまっさらな脳に知識の刷り込みを行う≪神経系音響プロジェクション≫。
などなど。
この実験のどれが成功したのか?
全部成功したのかもしれない。
ボクはほぼ完成している状態で産声を上げたんだ。
「嘘くさいが、オマエのスペックを知っていると、あながち否定もできん」
「産まれたときには大卒程度の知識はあったと思う」
実はそんな程度ではない能力が付加されていたわけだけど。
カレが何やら考え込んでいる。
思い当たることもあるんじゃないかな?
カレがボクと過ごしてきた記憶を思い起こせば、いろんなところで子供らしからぬことをしていたと気が付いてもおかしくない。
まぁ、それもカレとの仲を邪魔させないようにするためには仕方のないことだったんだ。
小学校に上がるまではよかった。
カレとボクの両親に繋がりがあったせいか幼稚園は一緒だった。
おそらく観察でもしてたんじゃないかな?
ボクの家名の関係で幼稚園も特別な所に通ったからね。そのせいかクラスも一つしかなかったから常にカレと一緒にいられた。
小学校はいろいろ根回しが必要だった。
カレとボクが同じクラスになるように、硬軟織り交ぜて教師連中を説得したり、脅は……お願いしたり。
中学校も同じだね。小学校と同じ要領で三年間カレとは同じクラスだった。
一度くらいは別のクラスになっておくべきか? と検討もしてみたけど、学校とか外出先とか、カレが15分以上視界のからいなくなったり、カレの状況をボクが把握できなくなったりすると、ボクの情緒は激しく乱れてしまうんだ。
やはり、余計なことはすべきではないね、うん。
この学園では簡単だったよ。成績順でクラス分けされているから、カレの入試対策を面倒見るだけでよかった。
「でだ、無理矢理焼き付けされたような知識はあるけど理解はしていない…そんな状態だったからね。
かなり歪な脳の発達をしたんじゃないかな。
赤児用のベッドに寝かされ、さまざまな検査を受けながら」
カレの手がボクの髪の毛を撫でてくれる。
こ、これは初めての体験かもしれない。
物語の一節では読んだことがあったけど、ここまで気持ちいいなんて……
「この世を呪ったよ」
カレがボクのことをじっと見つめている。
なんというか、感情のわからない瞳だったけど、ボクを憐れんでいるということはなさそうだね。
「看護師のつぶやき、医者の指示、そして両親の会話。
耳から入ってくる音が言葉としてどんどん理解できていく。
刷り込まれた知識が知能として急激に発達したんだ。
生後数分でこの世に嫌気がさした」
あ、ちょっとイラついているね?
ふふ、ボクが不遇を被っていたことが気に食わないって感じかな?
ボクのために怒ってくれているんだ。
って、耳を引っ張られた。
「痛っ!?」
……けど気持ちいい!
「生まれたての赤ん坊がそこまではっきりとした意識があるとか、にわかに信じられんのだが」
実験の詳細まで説明したらますます嘘っぽくなってしまうかな?
「まぁ、今言語化するとそんな感じのことを考えていたんだ。
とにかく嫌で嫌で仕方がなかった。
こんな世界はまっぴらだ!
こんなところに居たくない。
よし、終わりにしよう。
そんな感じだった」
「……自殺でもしようと思ったのか?」
キミに会えなくなってしまうんだから、そんなことするわけないだろう!
「なぜボクの方が終わらなければならないんだい?
終わらなければならないのはボク以外だろう?
まぁ、終わらせるというのは語弊があるかな。
変えてやろうと思ったのさ、ボクがいても不快にならない世界にね。
そう考えなければやっていられなかったという心境だった…と思う」
キミとボクの二人だけの世界とかいいよね!
でも、そうするといちゃらぶしているところを誰かに目撃させることができないか……要検討だな。
「話が大げさすぎる」
「まぁ、それくらい呪詛に満ちた誕生だったということだね」
「そんなふうに言うな」
耳たぶをふにふにされる。
う、これはまた新たな感覚だ!
さっきから耳ばかり責めてくるね?
耳も性感帯にしようって魂胆かな?
「キミにそう言ってもらえると本当に生まれてきた甲斐があるよ」
月並みだけど、ボクはキミと出会うために生まれてきたと言っても過言ではないよ、ホントに!
「まぁ、そんなことを考えながら、まだ動くこともままならないから、大人しくしていたんだ」
カレは何も言わない。カレの中で咀嚼しきれない何かを飲み込んでいるのかもしれない。
「なんとも痛ましい時間だった。2時間だよ! 2時間!!」
本来なら知能の発達とともに情緒や感情が育つはずなのに、発達しきった脳にはその余地がない。
そして、生まれた時に得た感情は怒りだ。
喜怒哀楽の怒しかないんだ。ボクがまともな人間になれるはずがないんだよね。
まぁ、カレとの出会いは確定していたことだから、カレが生まれてくるまで我慢していればよかっただけなんだけど。
「……オレが生まれるまでの時間?」
「そう、そのとおり!」
カレの存在が感じられない世界が、あれほど苦痛だったとは……
「キミがこの世に生を受けるまでの時間。
ボクがこの世を呪い尽くした時間でもあるけど、キミが生まれた瞬間、世界が一気に色づいたんだ。
虚ろな白と虫食いの黒と炎症した赤だけだったボクの世界が正しく色彩を持った」
ボクはカレの顔を両手で包み、カレの視界いっぱいにボクが見えるように迫った。
カレにはボクだけを見てほしい。
「近くにいるのはすぐに感じたよ。
今か今かと待ち望むボクのところに、ようやくキミがやってきたんだ」
ボクはカレがどうしても欲しくなってしまって、カレへと馬乗りになった。
ふふ、完全に捕食者と非捕食者だね。
すごくいい!
今度はボクがカレをいただく番だ。
「ひと目見て理解した。
この生き物がボクの片割れだと」
っていうか、知っていたんだけどね。
でも実際にカレを目にした時の感動は
「偶然じゃねぇか」
「いや、違うね。
キミが生まれる前に何匹か猿が運ばれてきていたが臭いし煩いし、気持ち悪いだけだった」
「赤ん坊なんてみんな猿みたいなもんだろう」
「キミが、キミだけがボクに祝福をくれた」
「オレは何もしてねぇよ。
なんせその時のオレは赤ん坊だ」
「負号を正号に。
暗闇を光に。
劇薬を良薬に。
怨嗟を福音に。
世界を壊す汚濁を人を寿ぐ清澄に。
陰鬱だったボクの舞台は一気に華やぎ、幕が上がったんだ。
登場人物はキミとボク。
ボクという醜悪な生物はキミがいて初めて人間になれたのさ」
「醜悪? オマエは鏡を見たことがないのか?」
「外見はキミのために磨いているからね。
中身の話さ」
「オレはオマエの皮を好きになったんじゃねぇよ」
「ふふ、ありがとう」
本当にありがたい。
なんせ、ボクはキミのために女の子になったんだからね。
〜つづく〜