黒髪ショートカット王子様系幼馴染のオレへの執着が怖い! 作:クリームパイ太郎
予定では、ボクは男児として生まれるはずだった。
受精卵はそう制御されていた。
生まれながらの王を作る計画。
王というか管理者だ。
あらゆる知識を統合して使いこなし、感情は完璧に制御し、ただ人の世を豊かに運営するための存在。
欲のないヒトを管理者に据え権力を私利私欲なく
ボクはそんな存在になる予定だった。
実際のところは巨大になりすぎた両親の所属する企業の統治機構の一つになるはずだったみたいだ。
年老いた創業者が己が創り上げた王国の未来を憂い完全な統治者を求めた。
自分の子供達をきちんと教育しろよとも思うが、血で血を洗うような骨肉の争いが起きることを恐れたのだろう。
だからと言って何処の馬の骨ともつかない輩がいきなり後継者になっても……と思わなくもないが。
しかも、創業者は古い観念の持ち主で後継者は男性以外認めないときたもんだ。
カレとボクが住んでいる地域は、一企業が巨大になりすぎて、最早企業王国と読んでも良いくらい地域を支配しているからね。
末端とはいえ、僕の家は創業家の血族だ。
しかもちょうどいいことに
隠蔽さえしてしまえば、とトップの連中が考えてもおかしくない。
イカれているとは言え、ボクの両親は研究者としては優秀だったからね。
道徳感も倫理観も捨ててしまい、資金があって、世間からも隠蔽される。
利害関係が完全に一致している。
そんな環境が整ってしまったら、あとは目的に突っ走るだけだろう。
管理者を造り出す計画はスタートした。
おそらく一つの国家に匹敵するくらいに巨大な経済力を持ってしまったせいで、血族だけで運営していくのが不可能になったんだと思う。
創業者はともかく、次代がカリスマを持った人物とは限らないのだ。
後継者問題は古今東西どんな国でも組織でも家でも抱える問題だからね。
解決を模索するのは理解できる。
……馬鹿なのかな?
胎児に知識を焼き付けただけで、そんな存在が生まれてくるわけないだろう?
ヒトを人たらしめるのは正しい教育だ。
焼き付けただけの知識が教育になるわけないだろう!
しかも生まれた瞬間に覚えた感情は怒りだぞ?
もうこの時点で失敗していて、生まれたのは暴君になることが約束された小さな魔王だ。
ただ、ボクを含めた全人類がすごくラッキーだったのは、ボクのそばにカレがいたことだね!
カレと初めて出会ったのは15年と10ヶ月前。
ボクが生まれて猛毒を吐き出した2時間後だけど。
実のところ、カレの存在はボクが母親の胎内にいるとき……胎児の段階で感じていたんだ。
カレは自分の親を、子会社勤務のしがない技術者と思っているようだけど、所属が違うだけで、ボクの親と同じ部門にいる研究者だ。
そんな両親を持っているカレだ。
カレもボクと同じようにいくつかの実験を施されていたようなのだ。
ただし、カレの両親はボクの親のような狂人ではないようで、実験は常識的な範囲に収まっていたみたいだけど。
妊婦の感情と胎児の神経系を羊水、臍帯でリンクさせることで、母親の得た知識を感覚的に伝えることを試みた≪アフェクティブ・リンク≫。
胎児の見ていると言われる夢に強制割込をかけて仮想現実に接続し、シミュレートされた知識空間で学習を行う≪子宮内仮想現実
他にもあったみたいだけど、ボクの場合と違って、ちょっとすごい胎教みたいなもんだ。
まぁ、カレへの実験は悉く成果がなかったみたいなんだけどね。
その後の成長をみるに極々一般的な子供だったよ。
少なくとも、受精卵の段階からエンコードされた情報が展開されたりナノカプセルが封入されたりとかはない!
高いところから飛び降りて腹を打ったり、自転車で無茶な運転をして溝に落ちたり、今時珍しいくらい活発な男の子だった。
そう! ボクにとってはまさに天使のように愛らしい子供だ。
ボクも子供心に早く
それでだ!
胎教を究極的に進化させたような実験の、≪神経系音響プロジェクション≫については、カレの母親とボクの母親が同時に受けていたみたいなんだ。
おそらく母体の妊娠5~10週目の頃だと思う。時期としてはかなり早い。
異常に速い成長でその頃にはある程度意識があって、自覚的ではないにせよ知識も持っていたボクは、なんか喧しい音が鳴っているな、と認識しつつも何もできないから大人しくその音を聴いていたんだ。
どうやら、なんらかの知識を音によって覚えさせようとしてるようだ。
ただもうこの事柄は知っている。
意味はない。
興味もない。
でもこの時不思議な感覚もあった。
近くになにかある。
なにか……いる?
ボク以外のなにか。
その時ボク以外の別のもの、【ソレ】を初めて知覚した。
ほぼ同じ時期に受精した受精卵が、ほぼ同じ環境、栄養素や刺激やあれこれ、同じように育ったのかもしれない。
ほぼ近しい条件で成長した。
【ソレ】はボクの比較対象だった可能性もある。
音響プロジェクションという実験も功を奏したのかもしれない。
胎児が影響を受けやすいように調整された周波数。
そして、同環境で比較されるために近い条件で生育させられた胎児。
奇跡のような確率でカタチが似ていたのかもしれない。
【ソレ】とボクは共振した。
それからは常に【ソレ】を感じることができるようになった。
最初のうちは音響プロジェクションの音の反射を利用していた。
【ソレ】とボクに照射される音の波。
【ソレ】に反射した音を知覚することで、ボクは【ソレ】の存在を感じることができたんだ。
ただその時間は短くすぐに終わってしまう。
全然足りない!
もっと【ソレ】のことを感じさせろ!
動くことができていたら暴れていただろう。
だけど残念ながらこの時のボクはまだ人のカタチにすらなっていない状態だ。
動けないながらも解決策を模索した。
割と簡単なことだった。
わざわざ音の反射なんて使わなくても、【ソレ】が発する音を拾えばいいじゃないか!
【ソレ】の発する生命の鼓動は簡単に聴き取ることができた。
【ソレ】以外の雑音は聴く必要もないので、距離は関係ない。
それからは【ソレ】の成長をずっと見守っていた。
と言っても【ソレ】を直接見ることはできないし、まだ目もなかったけどね。
母胎の中で日々すくすくと順調に育っていく【ソレ】。
性別は男の子だね。
【ソレ】は『カレ』だと知ることができた。
胎児の成長度合いからすると母体の状態も問題無さそうだ。
無事に生まれる可能性は極めて高い。
喜ばしいことだ。
ボクも問題なく成長している。
まだ時間はかかるけど、すぐにカレと逢うことができるだろう。
……ん?
カレ?
その時のボクはまだ言語を解してはいなかったけど、ボクの脳内では思考の形としては確立していた。
カレは男の子だ。
それはなんとなく感じることができた。
そして、この時のボクも性別は男。
Y染色体を持ってしまっているじゃないか!?
背中にぶわっと汗が吹き出した。
……その時のボクにはそんな機能はなかったけどね。
そんな思いだった。
カレの性別が男でも女でも関係ないといえば関係ない。
カレは必ずボクと一緒に
幼児期なら問題ない。
むしろ同性の方が都合がよいこともある。
しかしだ!
思春期を迎えてカレが異性に興味を持ち始めてしまったら、どうなる?
当然、ボク以外の誰かと過ごす時間が増える。
ボク以外の誰かと番うことになってしまったら?
それをボクはただ見ていることしかできない。
そんなのダメだ!
絶対に許されない!!
もしも、そんなことになってしまったら、カレとボク以外の全人類を滅ぼしてカレと二人きりにならないといけない。
それはまずい!
膨大な知識など意味はなく、ボクは本能で理解したぞ!
カレとカノジョは番うモノ。
カレが『カレ』なのだから、ボクは『カノジョ』にならなければならない!
カレとボクは周囲も羨むようないちゃらぶカップルになって、くんずほぐれつ、ところ構わず、いちゃいちゃらぶらぶするって決まっているんだ!
そのためには、このまま生まれてしまってはダメだ。
まだ間に合う!
いや、間に合わなくてもカレのために成し遂げてみせる。
そもそもボクは外的要因で男児にされたのだ。
それをボク自身の意思で変えてやるだけだ。
幸いまだ胎児としては発生初期段階。
さらに幸いなことに、男児として調整された影響からか遺伝的モザイクが発生している。
XX染色体とXY染色体が部位によって混在しているのだ。
だったら、あとはYをXに変えるだけだ。
簡単だろう?
Yを紙に書いてみるといい。
右下にちょっと落書きすれば、あっさりXになるだろ?
そんなかんじ。
性別程度カレのためなら捻じ曲げてやる。
あとは自動的に性ホルモンの分泌が女児として生まれることを後押ししてくれるさ。
そして紆余曲折あってなんとか成し遂げる。
少し慌ててしまったけど、問題は解決した。
あとは生まれるのを待つばかりだ。
そこからはカレの存在を
骨と肉と血と、ボクがカタチを成していく。
カレと出会っていないから、ボクの中身はまだからっぽだったけど。
柔らかく温かな暗がりの中、ぼんやりとカレとの未来を夢見ていたような気がする。
さすがにあんまり覚えていない。
で、心地の良い微睡みの中、突然外の世界にひり出されれば怒りもするさ!
我も忘れて怒り狂って、呪詛を吐き出し、言葉にならず泣き叫ぶ。
周りの人間はやたら五月蝿いし、両親は女児だったことに驚いているし、刷り込まれた知識がどんどん理解できていって、情報は飽和状態だ!
世界に嫌気もさそうというものだ。
いいから一人にしてくれよ!
と思っていたら赤児用のベッドに入れられて、新生児室に連れて行かれた。
周りにボクと同じような赤ん坊が何匹かいたけど、臭いし五月蝿いしこれはこれでさっきとは違うストレスだ。
ただ、情報過多だった状況からは脱することができた。
そうなったら直ぐに気になった。
当然カレのことだ。
ボクが生まれたってことは当然カレも生まれてくるはずだ。
数日程度の誤差はあるかもしれないけど。
その時ボクは愕然とした。
生まれたての赤ん坊が感じる感情ではないね。
でもそんなことはどうでもいい。
カレの存在を感じ取れない。
ノイズが多すぎる!
赤児用ベッドのカバー、ボクを健康状態を監視する機械の出す音、周りの猿の鳴き声。
邪魔するものが多すぎるし、アレは母親の胎内にいたから出来た特別なことなのかもしれない。
もしくは母親の胎内と、この世界は別物という可能性も。
動けない我が身が歯がゆい!
ただ待つことしかできない。
カレの居ない世界なんて存在する価値すらない。
カレの存在が知覚できない世界は寂しすぎる。
いったいカレはいつこの世に生を受けるんだ!?
いくら同じような環境を用意したと言っても、母体は別の人間なんだ。
カレが生まれてくるのは数日後ってこともありうる。
それまでまたなきゃいけないのか。
ボクが悶々とこの世の不条理を嘆き、周りの子猿共にいらいらし、次第にこの世の中を呪い始めて、一日千秋どころから、一刻万秋、いやいや一瞬永劫のように感じていたら、それはきたっ!
カレが生まれた瞬間、ボクはカレの存在を知覚できた。
あと一秒遅かったら、この世の中の全てを呪い尽くしていたかもしれない。
ボクの片割れが、ボクの存在理由が、ボクが
ボクは今か今かと待ち望んだ。
〜つづく〜