黒髪ショートカット王子様系幼馴染のオレへの執着が怖い! 作:クリームパイ太郎
「まあ、大したことではないよ。
キミが貰ったというラブレターの件だ」
ボクはカレの瞳の奥を覗きながら、静かに訪ねた。
そう、本当に大したことではない。
カレと結ばれた今となっては、一笑に付す問題だ。
ははは、ボクは何を焦っていたのやら。
冷静になって考えてみれば、カレが
カレへの包囲網は完璧だし、毎日誘惑してるし、いざとなったら押し倒して既成事実を作ることも可能だったし。
そもそもカレはボクのことが大好きだし、ボクはもちろんカレのことが大好きだし!
生まれる前から決まっていたこの結末を、ぽっと出の女なんかが変えられるわけない。
まだまだボクも未熟だね。
焦りから強硬手段に出てしまうところだった。
予定とは違ってしまったが、穏便かつ平穏に、カレの意思を尊重しつつボクの理想に近い形で、収まるべきところに収まった。
「断るのは当然としても、きちんと返事をすべきだね。
……キミのカノジョになった余裕から言うわけでは決してないよ。
ああ、そうだ。
キミのカノジョであるこのボクが代筆してあげようじゃないか。
なに、大した手間じゃないさ。
なんせボクは断りの手紙は書き慣れているからね。
さて、まずはキミ宛の手紙を見せてくれ。
このボクの……ボクのカレシであるキミに恋文など出した愚か者が誰なのか教えてもらおうか」
あぁ、なぜだろう。
不安など消し飛んだというのに、胸の裡から、カレへの想いが溢れてしまう。
ボクの気持ちは大きく重たくカレを包む。
カレを汚すボク以外の女の視線ですら許せないというのに。
ボクは思わず入ってしまう力を制御できずに、恋人繋ぎしたカレの手を握りしめてしまった。
カレから動揺していることが伝わってくるけど、そんなに焦らなくても、もうキミとボクは結ばれたのだし結論はでているじゃないか。
「あー、その、なんだ……」
カレが何か言い淀む。
まさか、自分で書くなどと言うんじゃないだろうね?
優しいキミのことだから曖昧な返事になって相手を勘違いさせてしまうかもしれないよ?
こんなときはびしっと断るべきなんだ。
なんだったら、「おまえのような雌犬はオレに相応しくない。他を当たれ」という短文でも良いんだ。
キミの評判がちょっと下落してしまうかもしれないけど、ボクが調整可能だし、なんだったら地に落ちたままでも構わない!
なぜなら、ボクと結ばれたからだ!!
「あの手紙はオレ宛の物だと言ったな。アレはウソだ」
ん? なんだって?
カレが額に汗を貼り付けつつ放った言葉が、一瞬理解できなかった。
うそ?
なにが?
手紙が? カレ宛では……ない?
カレの目を見つめた。
動揺しているのか忙しなく揺れている。
回転速度が極端に下がったボクの脳みそにカレの言葉がゆっくりと浸透していく。
「……は?」
ボクらしからぬ、気の抜けた返事をしてしまった。
それほどの混乱をボクにもたらすだなんて、さすがボクのカレシだね。
はははははっ!
……で? なんだったかな? もう一度言ってくれないかな?
「だから、アレだ……その、アレはオマエ宛のラブレターであって、オレ宛の物じゃない」
「なぜそんな嘘を?」
激しく乱れる心を抑えるように、静かに尋ねた。
「で、出来心です」
「……」
ふむ、そうか、出来心か。
カレがなぜそんなことをしでかしたのかは、置いとくとして。
ふふふ、ボク自身の想いの大きさを自覚できたね。
想定外の事態でカレの冗談交じりの嘘も見抜けず、ただただカレを手に入れることに固執してしまった。
それもこれもカレを大事に思うボクの気持ちの巨大さ故だね!
自分の想いが誇らしいよ。
なんせボクが持ってるカレへの好意なんて呼吸と同じなんだ。
カレのことを考えていないと生命活動が止まってしまう。
カレが笑えばボクも嬉しいし、カレが沈んだ顔をすればボクも気分が悪くなる。
あぁ、あぁ、そうだとも!
カレが他の女子に話しかけただけでも耐え難いことなのに、ラブレターを貰っただなんて聞かされたら、ボクだって混乱の極みになってしまうだろう。
なんだったらカレが女子とすれ違っただけでもボクの心はざわついてしまうんだからどうしようもない。
この真っ黒に焦げ付いた想いを、ずっとこの身の内に押さえ付けていたんだ。
今日の放課後、びしりと罅割れ顔をのぞかせてしまったけど、時間の問題だったのかもしれないね?
こんな悪戯されてしまったら、多少の仕返しもキミだったら許容してくれるだろう?
キミの存在はボクだけのモノなんだから仕方ないよね?
まぁ、先程の会話で、キミが他の女子にまったく興味を持っていないことが知れたから良しとしよう。
兎にも角にもボクの胸に去来するのは……
「……はぁ~」
よかったの一言に尽きる。
ボクはようやく強張っていた全身の力を抜くことができた。
カレの指先どころか手首から先が紫になるほど強く握りしめていたみたいだ。
ふふ、申し訳ないことをしてしまった。
ボクは優しい気持ちが改めて溢れてきて、カレの指先をそっと撫でた。
「まったくキミというヤツは……」
ぐすっ、ホントによかった。
「う……」
カレがどこぞの泥棒猫に取られてしまう可能性は全く無く、単なるカレの悪戯心だったのだ。
渦巻いていたいろいろな想いが溶けて、安堵感に変わっていく。
結果として目尻に大粒の涙が溜まってしまったけど、やはり一番大きな思いは安堵だった。
うんうん、ボクの涙なんて滅多に見れないからね。
カレが動揺しているのがよ~~~~~~くわかる!
あぁ、でもこれからは毎日泣かされてしまうかもしれないね!
「キミが恋文など貰ったと聞いて、ボクがどれだけ不安になったかわかるかい?」
「す、すまん」
ホントに極大の不安だったんだ!
「キミがボク以外の誰かのモノになってしまうかもしれないと思ったときの、ボクの心境をどうすれば理解してくれるかな?」
「悪かったって」
埋め合わせを所望するよ!
まずは現物支給だ!!
具体的には汗の染み込んだタオルとか肌着とか、脱ぎたてのパンツとかっ!
あ、パンツはそこにあるね。
あとで回収しておこう。
「キミが学園の女子達から好かれないように、徹底的に好感度を制御していたのに失敗したのかと思ったじゃないか」
「……申し訳ございませんでした」
面倒くさいのを我慢して維持したコミュニティが、きちんと機能していてよかったよ。
キミのため以外にあんな労力を払うのは御免被るからね。
ん? なんでカレは不満そうなんだろう?
「ふふ、まぁ、こうして結ばれたわけだしね。
水に流してあげてもいいんだが、
「最近駅前のアーケードにオープンしました甘味処であんみつをご馳走させていただく準備がございます」
「ほほう、それはいいね。
でもちょっと足りないかな?」
これだけボクを不安にさせたのだから、カレにも労力を払ってもらおうかな?
「では、ぜんざいもお付けいたします」
「量の問題ではないね?」
「ではいかがすれば?
どうかこの愚か者にお教えいただけないでしょうか?」
「ふふ、ボクの恋人は愚者ではないよ」
「……降参だ。大抵のことは聞くから許してくれ」
よし!
言質はとったぞ。
カレとボクの関係性の変化を周知する場にさせてもらおうかな?
「ふむ、キミのおごりは確定として……
そうだね。
キミとボクであんみつとぜんざいを食べさせあいっこしようか。
なるべく親密な雰囲気をだして、ね!
最早余人の立ち入る隙間などないというくらい、アツアツの恋人同士であることを周囲へアピールしよう。
時間も指定しようかな?
なるべく人の多い時間帯がいい。たまたま学園の人間がいれば、なお良いね。
クラスメートなどに目撃されれば最高だ。
その甘味処をクラスで話題にしてみようかな。
きっと休みの日には見知った顔が溢れることだろう。
ふふ、何人に目撃されるかな?
そうすれば、あっという間に噂は広がって、キミとボクは公認の恋人同士であることが周知されるはずさ」
ふふ、カレはどの辺りまで付き合ってくれるかな?
今までもカレと一緒に遊びに出掛けて、クラスメートと会うなんてことは度々あったけど、その時のボクはおしゃれこそしていたけど、王子様を意識したパンツスタイルだったからね。
次にカレと出掛けるときには、それこそカレの心臓を鷲掴みにするような、
そんなボクと一緒にいるところを、クラスメートに目撃されてしまったら……
あまつさえ、カレとボクが食べさせあいっこなんてしているところ見せつけてしまったら!
あぁ、今から楽しみでわくわくしてしまうね!!
でもまぁ、カレのことだ。
「せめて一口ずつで勘弁してくれ」って感じで妥協点を提案してくるんじゃないかな?
それだってボクにとっては十分なんだけど。
「お、おおう、そんなことで良いんだったらお安い御用だ。
なんだったら、その場で甘いキス(物理)だってしてもいいくらいなんだが?」
と、思っていたのも束の間、カレは全面的にボクの要望を叶えてくれるどころか、ボクが望んだ以上のことを逆に提案してきたんだ!
「……え?」
甘い……キス?
カレが? ボクと? 公衆の面前で? 人がいっぱいいるところで?
「い、いいんだね?
ボクは妥協しないぞ。
甘いキスなんて言われてしまったら、すごいことをしてしまうぞ。
それはもう濃厚なキスになってしまう。
べろちゅーだ!
公の秩序や善良の風俗なんてどこ吹く風だ。
初めてできた恋人に舞い上がって四六時中ひっついているバカップルも裸足で逃げ出すようないちゃつき方をすることになるから覚悟をしておくといい!」
カレの言葉に全身が熱くなってしまう。
す、すごいぞ!
カレの内面にどんな変化があったのかは、今後詳しく聞くとしても、とんでもない心の変わりようだ。
まさか、カレの方から見せつけプレイの提案があるだなんて!
やはり、童貞を卒業したことで一皮むけたってことなのかい!?
男子三日会わざれば刮目して見よ、とはよく言ったモノだ。
まぁ、今までの人生でカレと三日も会わないなんてことはなかったけど。
この数時間であっという間に成長したってことかな?
「なんてことだ。
今までのキミだったら、慌てるなり照れ隠しで叫ぶなりしていただろうに。
早くもボクのカレシの自覚がでてきたってことでいいかい?」
「何度も言わせるな。
オレとオマエはもう恋人同士だ」
「はぅっ!」
不意打ちはずるい!
ボクの乙女回路が熱暴走してしまうぞ。
「ど、どうした?」
「何度言われても……いいね。
しばらくは慣れそうもない。
おなかの下あたりがきゅんってなる!」
「この辺か?」
「ちょ、あ、や、やめ……」
我知らず、カレからのちょっとした悪戯でも身体が正直に反応してしまう。
「……ふむ」
カレが思案顔になりつつも行為を止めることなく、人差し指と中指の第二関節で、ボクのおなかをぐりぐりいじめてきた。
「あ、ダメ!
また、声……でちゃう」
外からの刺激だけでもここまで蕩けてしまうとは。
「聞かせてくれよ、何度でもさ」
そう言いながら、ボクの体調を鑑みてかカレは素直に手を引いてくれた。
まぁ、破瓜したばかりの女の子への気遣いとしては正しいんだけど、もっと積極的に来てくれてもボクとしてはウェルカムだよ?
「まったく、油断も隙もないね、キミは」
ボクは呼吸を整えながら、ちょっと恨めしげなふりをしてカレを睨んだ。
カレはどこ吹く風で口の端を吊り上げる。
ふふ、ボクの心境はカレへ筒抜けかな?
ボクもキミの内心はよくわかるよ?
もっと、ボクを、求めてくれよ。
独占欲を丸出しにして、キミの我儘をボクにぶつけて欲しいんだ。
キミにしか見せないボクの
「まったく、キミときたら……
さっきまでボクは何も知らない清らかな乙女だったんだ。
もう少し手心を加えてくれてもいいんじゃないかい」
カレへと身体を預けて、もっと
「すまんな。オマエが魅力的すぎてつい加減を忘れて暴走してしまうんだ」
「そんな雑な褒め方でも、嬉しくなってしまう自分が恨めしいね」
「嘘じゃないぞ」
「うん、嘘じゃないってのはもちろん判っているよ」
もっとカレへと触れたくて、カレの骨ばった部分を順番に触れる。
首筋、鎖骨、胸板。
どこもかしこも
やっぱり王子様とかばかばかしい!
ボクの王子様が、やっと
今日限りで王子様ごっこなんて卒業だ!
コミュニティの維持くらいに抑えて、明日からは女の子を全面的に押し出して、ボクのカレシを改めて誘惑してあげようじゃないか。
「やっと安心できた」
「うん?」
「キミと結ばれたし……この状況まで持ってこれたなら、もう誰にも渡さない自信があるよ、ボクにはね」
もう、他の女なんかにカレを盗られる要素なんて、微粒子レベルどころかクォークレベルで存在しないぞ!
それに、カレの表情を見ていればわかる。
カレの目にはもう、ボク以外映ってないってね!
ちょっと誘えばすぐに反応してくれて、ボクの思うさま、カレに襲いかかってもらえるんじゃないかな?
そのためにも!
「さて、じゃあ続きを言いたいところだけど……訊いておこうかな?」
カレのホントのところを確認しよう。
「さっきは出来心ってことで誤魔化されてあげたけどね」
まぁ、改めて確認しなくてもいいんだけど。
「肝心なことが訊けてなかったよ」
でも、どうしても聞きたいんだ。
「なんでボク宛のラブレターを、キミ宛のモノだなんて偽ったんだい?」
「ぐ……」
痛いところを突かれたカレの顔がなんとも面白い。
ボク以外の誰かが同じことをしたら許せないけど、もうボクのモノなんだから良いんじゃないかな?
~つづく~