黒髪ショートカット王子様系幼馴染のオレへの執着が怖い! 作:クリームパイ太郎
というわけで、王子様とゆっくり歩いてもすぐに甘味処に到着してしまった。
時刻は14:00。
おやつの時間にはちょっと早いが、王子様の希望通り、なるべく人の多い時間帯だ。
とりあえず、店の周りにはクラスメートなど顔見知りはいない。
行列もできていないし、わりと空いているのか?
店舗自体は新しいが、老舗っぽい作りの店構えだ。
紺碧の暖簾がとくに老舗っぽい。
その暖簾をくぐると、店員さんの丁寧な挨拶で迎え入れられた。
和菓子がメインの店だからなんだろうが、店内は畳敷きなど和室を意識しつつ、今風のレイアウトも取り入れている。
店の中はお客さんでそれなりに賑わっているが、静かで上品な雰囲気だ。
店員さんに席まで案内されて、オレは言葉に詰まった。
「こ、これは……」
カップルシートってやつか? 二人用の隣り合って座るタイプの席だった。
店員さんが気を使ったのかもしれない。
いや、正真正銘オレと王子様は恋人同士なので店員さんの気遣いは正解だ。
しかしこれだと……
「良い雰囲気の店だね」
王子様はかなり気に入ったようだ。
おそらく、これから行うことを想像してテンションが上ったのだろう。
窓際で外がよく見えるし、外からもよく見える。
店内に顔見知りがいなくて残念がる様子もないが、この席だと店の外を通りがかっただけで、目撃される可能性が高いぞ。
まぁ、付き合い始めたのはもうバレてしまったし、王子様も目撃されることは今となってはどうでもいいのかもしれない。
王子様はさっそく品書きを取って、内容を確認している。
いや、いいのだ!
オレと王子様の関係はもう恋人同士なのだから、この程度のことを尻込みしてどうする!
「あんみつとぜんざい以外にもいろいろあるね」
王子様がオレにも見やすいように、テーブルの上に品書きを広げた。
「ぜんざいはキミの好きな白玉ぜんざいだね、しかもつぶあん」
「おお、ホントだ!」
オレは気を取り直して……開き直ってともいう……王子様と品書きを眺めた。
ぜんざいの写真はかなり美味そうだ。
む、こっちのみたらし団子も良い。タレのツヤツヤが最高だ。
さらにこの芋羊羹も捨てがたい。尖った角が実に素晴らしい。
そしてわらび餅はいつか必ず食うぞ。プルプルしていて口の中に入れたらとろけるだろう。
「ふふ、迷っているね?
キミの好きな物を頼めばいいじゃないか」
「いや、初志は貫徹する。
オマエと来るのもこれっきりってわけでもないし」
「うん、そうだね。
ボクも最中とか食べてみたい」
「食えばいいだろ?
今日はオレが奢るんだし」
「む!
さっき太るって言われたから気にしてるんだよ。
もう、デリカシーがないなー」
「悪かったよ。
そんな簡単に太る体質でもないだろ?」
というか、過処分カロリーは全部胸の成長にいってない?
「その通りなんだけど……
まぁ、今日はやめておくよ。
キミの財布の中身くらい把握してるしね。
ぜんざいとあんみつで充分だ」
コイツ遠慮してるな? 小遣いが苦しいのは確かだが、今日のためにきっちり準備はしてきたぞ。
「あ、すいません。
注文をお願いします」
手を上げて店員さんを呼び寄せる。
「抹茶のセットをぜんざいとあんみつで。
それと、この最中もお願いします」
王子様がちょっと驚いた顔をする。
店員さんは静かに注文を受けて下がっていった。
「最中は半分こな」
「ふふ、キミも一緒に太ってしまうね?」
「この後運動するんだろ?」
オレはそっぽを向いた。照れくさくて王子様の顔をまともにみれない。
「だったら大丈夫だね。
まったくもうキミはえっちだなぁ!」
それは全くもって否定できない。
ただ、オマエも嬉しそうに言ってたらオレと一緒だからな!
ちょっと不満そうな顔をしていたら、隣に座る王子様から肩をつつかれてしまった。
「きっちりカロリー消費できるようにつきあってもらうからね?」
王子様の首筋から鎖骨にかけての肌が、妙に艶めかしく見えた。
「視線がいやらしいよ?」
「ぐっ……」
王子様が挑発するようなことを言うからなんだが、反論しても藪蛇な気がする。
「構わないよ?
なんせボクはキミのカノジョなんだからね」
そう言いながら、ワンピースの胸元を引っ張って谷間を露わにしようとする王子様。
清楚な白いブラジャーがチラ見えしたところで、オレは慌てて王子様の手を押さえた。
「やめろって!
他の奴に見られたくない……ぅあ……」
途端に王子様がニヤリとした笑顔をオレに向けた。
しまった! つい本音が……
「そうだね。
ここからだと外から丸見えだ」
王子様が嬉しそうに胸元を直して、カーディガンのボタンまで止めてしまった。
「む……」
これはこれでちょっと物足りないと感じてしまうのは、悲しいかな、男の性かもしれない。
「ふふ、そんな顔しないでくれよ」
思いっきり顔に出ていたようだ。
王子様はオレの耳元へ顔を寄せて囁いた。
「後でいっぱい見せてあげるから」
「……っ!?」
オレは何も言えず固まるしかなかった。
「それともやっぱりここで……」
尚もオレへと追い打ちをかけようとする王子様だったが、注文していた品が届いたことで中断した。
正直助かった!
「あ、ありがとうございます。
あんみつはそっちに」
店員さんにお礼を言いながら、ぜんざいを受け取り事なきを得る。
そして店員さんの接客態度が格別だ。オレ達とそう年齢差があるとは思えないが、洗練された所作が好ましい。
しかも服装が可愛いぞ。
明治時代っぽい感じ? 着物と馬乗り袴の組み合わせで足元はショートブーツだ。
店員さんが下がっていく姿を見送った。
この店、店員の服装にかなりこだわりを感じる。
うむ、王子様が着たらすごい似合うだろうな。
「……痛っ!?」
そんな邪なことを考えていたら、ものすごい握力で手を握られた。
もちろん握ったのは王子様だ。
「ふふふ、キミは何を見ているのかな?」
しまった!?
数日ぶりに見る王子様のどろりとした深い黒目が現れていた!
「ボクを見るべきだと思わないかい?
それともなにかい?
キミはカノジョを放っておいて、他の
まったくボクは悲しいよ?
キミの目に映るのはボクだけでいいって、あれだけ言ったじゃないか?
やっぱりキミの視界に雌猿が入るのは不愉快だね?
ふふふ、でももう恋人同士なんだから、カノジョのご機嫌を取るのはカレシの努めだよね?
さぁ、ボクだけを見てくれよ?」
がっしりと両手で顔を挟まれた。
ピクリとも顔を動かせないが、かろうじて喋ることはできた。
ここで慌てたら王子様が暴発しかねないぞ!
こうしている間にも挟む力がどんどん強くなっていく
オレは努めて冷静に、なんでもないことのように王子様へ言った。
「いやいや、他の女なんて見てないぞ。
くっ……こ、この店の制服って可愛いよな?
オマエが着たらさぞかし似合うだろうって思ったんだ」
じっとオレの目を覗き込む王子様。
黒々とした瞳で、オレの心の底まで見透かされている気がする。
しかし嘘は言ってないので大丈夫……なはずだ。
「……ふふ」
王子様の目に光が戻った。同時にオレの顔への圧迫も一気に緩む。
「もう、せっかく美味しそうな料理が出てきたっていうのに……
キミはまたえっちなことばっかり考えて!」
うっとりとオレの頬を撫でて、王子様の手がそのまま胸まで降りていく。
指先をぐりぐりとオレへと突き刺しながら、王子様は照れくさそうに言った。
「確かにキミのコレクションにはコスプレモノもあったけど。
まだちょっと……早いよ?」
……ことなきを得たようだな。
「最初はもっとこう……一般的な」
「例えば?」
「え? あ、えっと……ブルマとか?」
リアルじゃ見たこともねーよ!
その昔存在したという女子用の体操着らしいんだが、文献(エロ)でしか見たことがない。
王子様に着てもらうのはなかなかよいかもしれない。
「まぁ、キミがえっちなのは今に始まったことじゃないしね。
いつでも相談してくれよ。
キミの望みならボクはどんなえっちなコスプレでもする所存だ!」
「そ、そんなこと頼まんわっ!」
たぶん……
「ふふ、まあ、今はそういうことにしておいてあげるよ」
見透かされたような笑顔は腹立たしいが、断言できない上に、王子様から提案されたら喜び勇んで乗ってしまいそうだ。
「さぁ、せっかく注文したんだから早く食べよう」
「……そうだな」
オレは気を取り直して、白玉ぜんざいと向き合った。
炊き上げた小豆の艷やかさと白玉の輝きにごくりとつばを飲み込んでしまった。
匙を取って、白玉と粒あんを掬い一口目。
優しい甘さの後に小豆独特の風味と白玉の食感が合わさって実に美味い。
「このあんみつ、すごく美味しい。
黒蜜と寒天が実にボク好みだ。
こしあんも甘すぎないのが実によい」
王子様も気に入ったみたいだな。
端から見ていても美味そうだ。特に求肥に心惹かれる。
「うん、このお店は通うことになりそうだね?」
同感だ。
「そうだな。
食べてみたいメニューも多いし。
オマエも気に入ったみたいだし」
王子様も嬉しそうだ。そして更に嬉しそうに王子様は、うずうずしながらオレへと向き直った。
当然、手には匙を持って。
「さて、それじゃ……」
舌なめずりをせんばかりだな。
「ほれ、あーん」
不意打ち気味に、オレの方から王子様へ白玉とつぶあんをたっぷり乗せた匙を差し出した。
「ふぇ? あ、うん。
……あーん」
自分が食べさせる側だと思っていたのだろう。
王子様はオレの方から「あーん」されて、おずおずと口を開けた。
真っ白で小さな歯。歯並びもきれいだ。
目を瞑り、小さく口を開けた姿がなんとも可愛らしい。
ツヤのある唇を見ながら、こんな小さな口にアレを咥えさせてるのか、とぞくぞくしてしまった。
あまりにあまりなことを考えながら、オレは王子様へぜんざいを食べさせた。
「ん……」
「美味いか?」
「うん、美味しいけど……」
「ほら、もう一口」
「あ、うん。
あーん……」
なるほど。
餌付けしているような気持ちになる。
見ているのが楽しい。
再度、オレからぜんざいを食べさせられて、もにゅもにゅと口を動かしている王子様が小動物のようで愛らしい。
王子様がごくりとぜんざいを飲み下した。
さらにもう一口食べさせてやろうとしたところで、王子様はへの字にして口を噤んだ。
「……」
「あ、あんみつも美味そうだな。
オレにも食べさせてくれよ」
「うん!
もちろんだよ」
王子様は心底嬉しそうにあんみつを掬うと、手皿と一緒に差し出してきた。
こしあん、寒天、赤えんどう豆、ホームページ用の写真を撮るとしたらこの塩梅だろうというくらい完璧なバランスだ。
「はい、あーん」
「あー……」
先程から周りの視線が痛いほど刺さっているが、王子様との約束が最優先だ。
オレの羞恥心と引き換えに、王子様の喜んだ顔が見られるのなら、恥の一つや二つ、いくらでもかいてやろう。
「ん!」
正直なところ王子様と付き合う前と、やってることは変わらない。
遊びに行けば、以前の王子様はからかい半分でオレに同じようなことをしてきた。
「美味しいかい?」
「あぁ、美味い」
カレシカノジョの関係になっただけで、ここまで感じ方が違うとは。
周りの視線が気にならないと言えば嘘になるが、それ以上に王子様と過ごす時間が楽しかった。
ようするにバカップル丸出しなのだ、オレと王子様は。
「はい、もう一口」
「あーん」
次は求肥、こしあん、みかん。求肥の食感とこしあんの甘さとみかんの酸味が絶妙だ。
「じゃあ、もう一口……」
「次はオレの番だ」
「ふふ、そうだね」
そんな感じで、オレと王子様は頼んだ品が無くなるまで、お互いで食べさせ合うことを繰り返した。
王子様はご満悦だ。
「食べ終わったら次はいよいよ……べろちゅーだよね?」
「あ、はい……」
オレの恥ずかしさがなくなったわけでは……決して、ない!
王子様が言い出したことなんだが、なぜかべろちゅーは却下された。
代わりに、不意打ち気味の軽いキスをされたが。
オレは呆気にとられた後、慌てて周囲を確認した。こちらをガン見してる奴もいなければ、よそよそしく目を逸らした奴もいない。
この王子様は周りの人間の隙を突いて、キスしてきたようだ。
「ふふ、ごちそうさま」
「なんだ、その……しなくてよかったのか?」
「うん……」
なんか言いたそうだ。
王子様は見せつけたがっていたはずなんだが、どうした?
オレが不思議そうな顔をしていると、王子様が照れくさそうに頬を染めた。
「キミのキス顔を他の人に見られたくなかったんだ」
な、なるほど。
男のキス顔に価値なんかあるか?
「あんなえっち顔を他の
ボクだけが見たことがあるキミのえっちな顔なんだ。
独占したいんだよ」
お、王子様の価値観なので尊重しよう。
「まぁ、今日は十分にキミとボクの親密な関係は見せつけることができたんで、大満足だよ!」
王子様が納得したなら、それでいいか。
オレは抹茶を飲みながら、次に行く場所のことを考えていた。
王子様も楚々とした感じで抹茶を飲んでいる。両手で丁寧に椀を包んで、伏し目がちに。
睫毛がすげー長い。
昔からなんだが、ふとしたところで妙に女の子らしい仕草をするんだよな。
「ん?
どうしたんだい?」
「いや、なんでもない。
この後、どうする?」
王子様に見惚れていたとは言えまい。ただなんとなくバレている気がする。
その証拠に王子様は意味もなく微笑んでいるのだ。
「そうだね。
今日の目的は達成してしまったし。
さっきも言った通り、キミの部屋でもボクの家でも構わないけど……」
初デートなのだ。もう少しこう……なんかあるだろう?
「だったら行きたい所があるから着いてきてくれ」
「了解だ。
どこに行くんだい?
ホテルの利用は学生の身分では厳しいよ?」
「ホテルじゃねーよ!」
残った抹茶を勢いよく飲み干し、オレと王子様は店を後にした。