※この作品はR-18です。

黒髪ショートカット王子様系幼馴染のオレへの執着が怖い!   作:クリームパイ太郎

50 / 92
王子様と甘味処4

 甘味処を出ると少し陽が傾いていた。

 

 けっこう長居したからな。

 

 隣にいる王子様が怪訝そうな顔でオレに問いかけてきた。

 

「なぁ、何処に連れて行くつもりだい?」

 

「ん、あぁ……」

 

 オレが生返事を返すと、王子様がちょっとむくれてしまった。

 

「む、えっちなところでも怒らないから言ってくれよ。

 むしろ望むところだ!」

 

「ち、違うから!」

 

 照れくさくてなかなか言い出せないだけだ。

 

 まぁ、到着してしまったら否が応でも目的は分かってしまうんだが。

 

「あ、このカラオケボックスなんてどうだい?

 学生が訪れることができるお手軽な密室なんてここくらいじゃないかな?」

 

「だから、違うって!」

 

 そんなところを使うくらいなら、オレの部屋に連れてくわ!

 

「ふむ。

 カラオケボックスを使うくらいなら、キミの部屋に連れ込むって顔をしているね」

 

「どんな顔だよ!」

 

 オレは王子様の手を取った。細くて柔らかい女の子の手だ。

 

「あ……」

 

 ちょっと力を入れて握ってしまったが、それが功を奏したのか、王子様が黙って着いてくるようになった。

 

 王子様の歩調に合わせてゆっくりと歩く。

 

 ……なんか言葉がでない。

 

 王子様も同じなのか、静かに寄り添ってきた。

 

 片手を繋いで、もう片方の手でオレの服を掴む。

 

 お互い何もしゃべらないが、悪くない沈黙だった。

 

 王子様の手があたたかい。

 

「……着いたぞ」

 

「ここは……」

 

 アーケード内にある、ちょっと大人っぽいアクセサリーショップだ。

 

 男一人で入店するには、かなり敷居は高いが王子様となら問題ない。

 

 同年代のカップルがちらほらと店内にいるのが見えた。

 

 王子様が不思議そうな顔をしている。

 

「誕生日にはまだ早いけど?」

 

「わかってる。

 なんだ、その……」

 

 かなり照れくさい。

 

「オレとオマエが付き合った記念というか……」

 

 ショップの外観を眺めていた王子様がオレの言葉に勢いよく振り向いた。

 

 そして、見る見る顔が喜色に染まる。

 

「うわ!

 キミが、そんな?

 え? キミが?

 なんだい、これは?

 ちょっと……ほっぺたが熱くなってきたよ?」

 

 王子様は混乱しているのか、言動がおかしい。

 

 誕生日やクリスマスにプレゼント交換とかはしてきたけど、オレがカレシとしてプレゼントしたいってのは王子様にとっても衝撃的だったようだ。

 

「は、入っていいかい?」

 

「オレに許可取ることじゃないだろ?

 入ろうぜ」

 

「う、うん」

 

 なんか王子様が夢現(ゆめうつつ)だ。

 

 王子様は、ほわーっとしながらオレに促されて入店する。

 

 自動ドアが開いて、店員さんの挨拶に迎え入れられた。

 

 ほのかな花の香りがする。フレグランスディフューザーで香りの演出をしているんだろう。

 

 シックな棚には照明が備えられて、小さなアクセサリーがキラキラと並んでいた。

 

 リング、ネックレス、髪留め、ピアスなどなど。

 

 誕生石や腕時計、財布のような小物もあるようだ。

 

 一人じゃとても入店できない、今まで味わったことのない雰囲気だった。

 

 決して悪い意味ではない。

 

 ……と、肝心の王子様はどうだ?

 

 隣に立つ王子様を見てみると、アクセサリー同様、王子様の目もキラキラしていた。 

 

 王子様がしっかりとオレの手を取り、迷わずペアリングのコーナーへ向かう。

 

 しまった!

 

 王子様へプレゼントすることばかり考えていて、いきなりそっちへ向かうことは想定していなかった。

 

「む、どうしたんだい?

 初デートの記念なんだろう?

 さて、どのリングにしようか?

 あぁ、心配しないでくれ、キミとボクの初デートの記念なんだ。

 ボクも費用は負担するよ?

 いやいや、キミのことだから全部出したいって言いたいんだろうけど?

 それは流石にキミの負担が大きすぎるね?

 全部出すのはザー……アレだけで十分だよ?

 キミとボクの二人の記念なんだから、負担は等分にさせてくれないか?

 さぁ、指を出してくれ!

 サイズを測ろうじゃないか!!」

 

 なんか変な言動も混ざっていたがオレは慌てて静止した。

 

「ま、待て!

 指輪はまだ早いって……あっ!」

 

 思わず出てしまったオレの言葉に、王子様は瞬きすら忘れたように見つめ返してきた。

 

 ギュッと胸元をで手を握り、頬を染める。

 

「そうだね……」

 

 王子様は少し考え、目を閉じ、口元に微笑を貼り付け、瞼を開いた。

 

「キミの言う通りだ。

 これはキミからボクに満を持して送るべきモノだったね?

 ふふ、ちょっと気持ちが逸り過ぎてしまっていたようだ。

 確かに、今日は()()早いね?」

 

「あ、う、お……

 そうだ!

 まだ早い!」

 

 最早開き直るしかなかった。

 

 いいんだ。覚悟はもう出来ているし、後は時間だけだ。

 

 きちんと成長していかないといけないってハードルはあるが、それも頑張るしかないのだ。

 

「ふふふ、あぁ、そうだ。

 まだ早い!

 早いね?

 あとどれくらいかなぁ?

 早く来るといいなぁ?

 明日かなぁ?

 明後日かなぁ?

 明々後日だったり?

 弥明後日でもいいよ?」

 

「早すぎるわ!」

 

 なんで数日後なんだよ! 年単位だよっ!

 

「はは、楽しみにしているからね?」

 

「お、おう」

 

 王子様の瞳の奥に黒くどろりとしたいつもの()()と、希望でいっぱいの輝くような煌きを同時に見たような気がした。

 

「さて、それじゃ、何を記念にしようか?」

 

「あ、えーと……そうだな」

 

 実はアクセサリーを買おうという所までは考えていたが、肝心の何を買うかはノープランだった。

 

「ふふ、まぁ、キミらしいね。

 時間はあるし、ゆっくりと見ていこうか?」

 

「ああ」

 

 ショップの入口近くから順番に見て回ることにした。

 

 なんというか、アクセサリーに興味津々な王子様というのがものすごく新鮮だ。

 

 基本的に服装には気を使うヤツではあるんだが、パンツスタイルが多かったし飾り物を身に着けている所を見た記憶はない。

 

 それを今日は服も靴もバッグまで、まるっと全身女の子な格好だ。

 

 さっき気がついたが、髪型も少しいじっている。

 

 おそらくというか確実にオレに意識改革を求めていた。

 

 「ボクは女の子だぞ!」って全力で言っているような感じだ。

 

 そんなことしないでも十分理解しているんだが……

 

 王子様的にはまだまだ足りないってことか?

 

「ふむ、この髪留め可愛いね。

 ボクの髪型でも使えそうだ」

 

「おう」

 

 シャープな輝きを放つシルバーのヘアクリップだ。

 

 ショートカットの王子様でも前髪を留めたりできるだろう。

 

 王子様を見ながら想像してみる。

 

 前髪を髪留めで留めて、ヘアアレンジされた普段と違う王子様。

 

 王子様のきれいに額が見えるのはかなりレアだ。

 

 わ、悪くない!

 

「こっちのチェーンがついてる髪留めもいいなぁ」

 

「おう」

 

 王子様の後ろ髪を纏めて、留める様を想像してみる。

 

 黒髪が一つにまとまりうなじが露わに!

 

 ボールチェーンのワンポイントがアクセントになっていて、こちらも良い!

 

「あ、このネックレスも綺麗だね。

 小さなハートが可愛らしい」

 

 王子様が指し示したのは金色のチャームのネックレスだった。

 

「チェーンが長めだと胸のあたりまでくるかな?

 短めだとちょうど鎖骨の上くらい?」

 

「おう」

 

 金色も王子様に似合いそうだ。

 

 長めのチェーンだと王子様の大きな胸の上に乗ってしまいそうだ。

 

 もしくは谷間に埋まる。

 

「うん、短めがいいかな?」

 

 オレの妄想を見透かされたのかとドキッとした。

 

「ふふ、ほら短めのチェーンでボクの首に、キミにつけてもらったら素敵じゃないか?

 ほら、首輪みたいで!」

 

 オレは思わず絶句してしまった。

 

「なんだよもう!

 そういうの嫌いじゃないだろ?」

 

 すっと目を逸らしたら、王子様からほっぺたを突付かれてしまった。

 

「あ、これなら無難じゃないかい?

 スマホストラップ。

 同じ物を買っておそろいにしよう!」

 

「おう」

 

「もう、さっきから『おう』ばっかじゃないか」

 

 王子様が苦笑しながらツッコんできた。

 

「あー、すまん。

 不慣れすぎてどうやって答えていいか判らなかった」

 

「ふふ、適当に答えてないのはわかっているけどね?

 やっぱりもうちょっと感想が欲しいかな?」

 

「大丈夫。

 アクセサリーは全部オマエに似合っているぞ!」

 

「あ、う、うん。

 ありがとう」

 

 そんな感じで時間をかけて、店内を見て回る。

 

 そして、王子様がある一角で足を止めた。

 

「……これ、すごく良い」

 

 銀の珠が輝くシンプルなピアスだった。

 

 確かに王子様に似合うだろうけど。

 

「ぴ、ピアスか……」

 

 校則で明確に禁止はされていないが、ピアスはけっこうグレーゾーンだ。

 

 優等生の部類に入る王子様が突然ピアスなんてしてきたら、またもやあらぬ憶測を呼ぶのでは……

 

「キミにお願いがあるんだ」

 

 オレが複雑な思いを抱えていると、王子様がピアスに魅入ったままオレへと声をかけてきた。

 

「ボクにピアス……開けてくれないか?」

 

「お……ぅ、おぉ?」

 

 変な声が出てしまった。

 

 王子様にピアスの穴を開けるってことか?

 

 えっ、オレが!?

 

「キミに……開けて欲しいんだ」

 

 知識としては知っているが。

 

 たしかピアッサーが通販とかで手に入るはずだ。

 

 しかし、それはちょっと……

 

「だ、ダメだ」

 

「どうしてだい?

 ピアスくらいよくあるオシャレの一つだろう?」

 

「あ、う、そうだけど……」

 

 どうする?

 

 王子様の言う通り、クラスメートでも何人かピアスをしてる奴らはいる。

 

 オレもオシャレの一つだとは思うんだが。

 

 如何せん、王子様を明確に、物理的に傷つけるのは気が引ける。

 

 だけど、オレ以外の誰かにやらせるのも嫌だ。

 

 それが例え医療機関だとしても。

 

「ふふ、いいだろう?

 キミに開けて欲しいんだ。

 それにもう、キミはボクの身体に穴を開けてるんだ。

 一つも二つも変わらないだろう?」

 

 王子様の雰囲気が一気にしっとりとした湿り気を帯びてくる。

 

「い、言い方!」

 

 確かに!

 

 オレは王子様に穴を穿ちましたけど。

 

 しっかり、きっちり、完璧に奪いましたけど!

 

 それとこれとはちょっと違わない?

 

 な、なんとか説得しなければ……

 

「あ、そのなんだ……」

 

「うん。

 きっとすごく甘美な体験になると思うんだ。

 キミに与えられる痛みなんだ。

 ふふ……」

 

 おおおおっ!?

 

 なんか今までと違う感じで、王子様がどろりとしてきた。

 

 王子様は自分の耳たぶを親指と人差指で触りながら、濡れた瞳でじっとピアスを見つめていた。

 

 どうする? どうすればこの窮地を脱出できる?

 

 オレは全力で頭を回転させた。

 

 一秒を100分割し、100分割した一秒を、さらに万に切り分ける。

 

 刹那の時間で鼻血が出そうなほど脳味噌を熱して答えを捻り出した。

 

「だ、ダメだ」

 

「え……」

 

 王子様の酷く落ち込んだ顔がオレを射すくめる。

 

「は、二十歳(はたち)の誕生日にプレゼントする!

 もちろんピアスの穴はオレが開けるっ!」

 

「あ……」

 

 脳が沸騰しそうなほど考えて出した結論は引き伸ばしと妥協だ!

 

 だが王子様なら判る……はず。

 

 自分のキャラクター性、学園での今の立場、最近のあらぬ噂の数々。

 

 王子様ならどうとでもしてみせるんだろうが、煩わしいことにはなるだろう。

 

「……そうだね」

 

 王子様もオレの断言で冷静になったようだ。

 

 冷えた頭で考えれば王子様ならきっとまともな答えを出すだろう。

 

 目の奥に光を取り戻して、王子様はオレに言い放った。

 

「うん、それでも欲しい!」

 

「おおおおお!?」

 

 王子様の出した溌剌とした答えにオレは面食らってしまった。

 

「ちょっ! おま……」

 

「ふふ、と言ってもキミを困らせるつもりはないからね?

 今日は妥協しようじゃないか」

 

 王子様がニヤリと笑う。オレはほっと胸を撫で下ろした。

 

「その代わり……」

 

「な、なんだ?」

 

 まだなにかあるのか!?

 

「キミとおそろいにしたいなー。

 でないと我慢できないなー?」

 

 そ、それはオレにもピアスを開けろということか?

 

「もちろん、キミのピアスはボクが開けるよ?

 ふふふ、キミの初めての穴はボクが開けちゃうよ!

 血も出るかもしれないね?

 ボクがされちゃったことと同じかな?」

 

「言い方!」

 

 このあたりが引き際か?

 

 正直、自分の身体に穴を開けるとかゾッとするが、これも王子様のためだ。

 

 おそろいというのも悪くない。

 

 数年後のことだし、王子様の気が変わる可能性だってあるだろう。

 

 ……極小の、それこそ天文学的な可能性だけど。

 

「わかった。

 OKだ。

 二十歳の誕生日プレゼントが決まったな」

 

「うん。

 まだ数年先だけど、今から楽しみだね?」

 

「それに『おう』とは言えないぞ」

 

 王子様がにっこりと笑って、気持ちの変化はありえないなとオレに確信させた。

 

「さぁ、じゃあ今度こそ記念品を決めようか?」

 

「そうだな」

 

 一難去ってまた一難といった感じのアクセサリーショップ訪問もどうにかこうにか達成することができた。

 

 ちなみに購入したのはペアバングルだ。

 

 商品名は「シナ・ヤ・ミナ」

 

 何処かの国の言葉で「キミとボク」という意味だそうな。

 

 王子様がゴールド、オレがシルバー。

 

 ゆるくカーブを描く洗練されたデザインで、もちろんおそろいだ。

 

 少し背伸びをし過ぎた感じもする。

 

 しかし、王子様はいたく気に入ったようだ。

 

 金色の腕輪は王子様の細い手首によく似合っていた。

 

「ふふ、これはなかなか嬉しいね。

 学園でもつけていたいけど、さすがに注意されそうだ」

 

「学園だとオレ、無くしそうで怖いんだよな」

 

 主に王子様の取り巻きのせいで。

 

「じゃあ、二人で出かけるときなんかは、なるべく着けるようにしようか?」

 

「おう!」

 

 王子様と手を繋いで帰路につく。

 

 オレと王子様の手首には、金と銀の細い輪が控えめに輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、帰ったら今日の可処分カロリーを消費しないとね!

 キミの部屋に行ってもいいかい?

 あ、もちろんボクの家でも構わないよ?」

 

「オレの部屋でいいが……

 今日、けっこう歩いたと思うんだけど」

 

「じゃあ、やめておくかい?」

 

「……そうは言ってないだろ」

 

「ふふ、今日のボクは機嫌がいいよ?

 なんでもしてあげちゃうかも」

 

「な、なんでも……!?」

 

 王子様は手首のバングルを優しげに眺めて、なんかエロいことを言い始めた。

 

 コイツはだいたいいつもご機嫌なんだがな。

 

 ここまで喜んだ王子様はめったに見れない。

 

 今日は王子様とデートできてホントによかったと思う。

 

 

 

~おしまい~

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。