黒髪ショートカット王子様系幼馴染のオレへの執着が怖い! 作:クリームパイ太郎
「お、終わったぞ!」
「ふふ、すごい早かったね。
じゃあ答え合わせをしようか?」
王子様はオレのノートを一瞥すると、あっさりと答えた。
「うん。完璧だね。
スペルミスもないし、ただ早いだけじゃなかったのは素晴らしいよ」
か、解答を見なくても解るのか?
「まぁ、さっきボクも解いたばかりだからね」
そんなもんだろうか。オレはとにかく暗記が苦手なので、素直にすごいと思うんだが。
昔からこの王子様は物事をすぐに覚えるし、ずっと覚えているし、コツを掴むのも極端に上手いしで、素の能力差にオレを愕然とさせたものだ。
「さて、ボクの想定を超えて課題を早く終わらせてくれたから、だいぶ時間に余裕ができてしまったね?」
読みかけの雑誌を閉じて、オレの隣やってくる王子様。
タオルケットは被ったままだが、オレの肩へ身を寄せてきた。
「まったく、そんなに急いでボクにどんなことをするつもりなんだい?」
こ、このまま始めてしまっていいのか?
あんまりがっつくと王子様に申し訳ないのでは?
察するに王子様としてはもっとこう……イチャイチャしていたい雰囲気を感じる。
王子様の言う通り、時間はある。
タオルケットの布地越しに感じる王子様の体温にドギマギしていると、王子様はオレの首筋へ顔を寄せて、すんすんと鼻を鳴らした。
「石鹸の匂いしかしない……」
なんでちょっと残念そうなんだよ!?
相変わらずの王子様の嗜好に、少しだけ気持ちに余裕ができた。
オレは気を取り直して、王子様へと話しかけた。
「そういや何を読んでたんだ?」
王子様は連載を追わない。コミックス派だったはずだ。
だいたいオレのスマホで電子書籍を読むことが多い。
今気がついたが、オレの読んでる漫画を王子様が検閲してた?
まぁ今更だ。
……念の為、王子様に見られたくない漫画はシークレット設定しておこう。
「ん?
あぁ、これだよ?」
賃貸情報誌?
「スマホで調べた方が早いんだけどね。
傾向を知るなら情報誌の方が把握しやすい」
ぞわりと、オレの背中が粟だった。
「お、オマエ引っ越すのか!?」
コイツがオレのそばからいなくなる?
想像したこともなかったが、王子様のいない日常なんて、オレにとってありえるのか?
えっと……朝は何時に起きるんだっけ?
朝飯ってどうしてたっけ?
一人で食事ってどうやってするんだっけ?
む、どうやって生活してたっけ?
王子様と付き合う前は一人で登校していたはずなんだが、登校も下校も一人で歩くことすら想像できん。
いや、落ち着け。
学校もあるし遠くってことはないだろう。
「……」
そうだな。
王子様がオレから離れられないようにしちまうか?
「いやいや!
そんなことあるわけないだろう?
ボクがキミのそばから離れる?
はっはっはっ!
あるわけがない!
万が一、億が一、兆が一離れることがあったとしても、キミのことは首に縄をつけてでも……おや?」
王子様がそれはそれは嬉しそうに、にんまりと笑顔を浮かべた。
ん? あぁ、そうか。オレの勘違いかな?
「おやおやおや?
なんだいなんだい?
ふふふ、キミはボクと離ればなれになるのがそんなに嫌なのかい?
学校もあるんだ。
引っ越するとしても近所になるし、学園でも会える。
徒歩でも自転車でもすぐに会えるだろう?
少しくらい住む場所が遠くなっても……」
「ダメだ!
オマエはオレのそばにいろ!
許せるのは隣の家までだっ!
それ以上離れた場所に住むのは許さんっ!!」
「え? あ、う、うん!
ふふ……」
コイツ、マジで何言ってんだ? 引っ越すとかありえないし、オレの近くにいるのが当たり前だろうが!
「……それで?
なんで賃貸情報誌なんて見てたんだ?」
問いかけるオレに、王子様は先程よりも更に身を寄せる。
オレの耳の後ろに鼻先を擦り付け、強めに抱き付き、足まで絡ませてきた。
ねっとりとしなだれかかってきて、タオルケット越しの王子様の柔らかさが心地よい。
「ふぇ?
あ、あぁ。
えっと、うん、ほら、あぁ……」
なんか要領を得ない。
何のツボに入ったのかわからないが、王子様の全身から嬉しげな雰囲気が伝わってきた。
王子様から首のあたりをしきりにすんすんされているのでこそばゆい。
「ちょ、くすぐったいんだが」
「もう! キミは……もう!
なにかしてあげないとボクの気がすまないよ?」
な、なんだ?
「なにかしたい!
キミのために何かしたい!」
「わ、わかったからとりあえず落ち着けって!」
「何を言っているんだい?
こんなの落ち着いていられるわけないだろう?
ボクをこんなに……こんなに!」
そこまで言うと、王子様は感極まったように身体を震わせてゆっくりと脱力した。
「ふふ、ホントにキミはボクを喜ばすことが上手だね?」
よくわからんがとりあえず落ち着いたようだな。
「それでなんだっけ?
キミがあまりにもボクにえっちなことをするものだからちゃんと聞いてなかったよ?」
「心当たりがないんだがっ!?」
最後にオレのほっぺたに、ちゅっと唇を押し付けてようやく王子様がオレから身体を離した。
「で、引っ越す予定もないのになんで賃貸情報なんて見てたんだ?」
「ん?
あぁ、なんだそのことか」
王子様は賃貸情報誌の表紙を指さした。
『二人暮らし特集!
どきどきの新生活をキミと!!』
「……ふむ」
やっぱりオレの勘違いか。ちょっと慌てた自分が恥ずかしくなってしまった。
しかも情報誌は三ヶ月も前の古い物だ。
「なぜか教室に置いてあったんだ。
クラスメートの誰かが引っ越しでもしたのかもしれないね。
ふふ、まだ気が早いのは自覚しているよ?
でも、進学先によっては二人で暮らすのもありだよね?」
「な、なるほど……」
王子様が何に興味を持ったのかはよく理解した。キャッチコピーは確かに王子様の興味を引きそうなものだ。
表紙をめくると冒頭に特集がある。キャッチコピーの通り、広く明るく清潔で小洒落た感じの、いかにもキラキラした部屋ばかりだ。
新生活への期待が膨らむページ作りは、眺めているだけでも楽しい。
ふむ、王子様が気に入ったのはどんな部屋かな?
王子様は意外と乙女なところもあるからな。ファンシーな小物とかをいっぱい飾った可愛らしい部屋なんて好きそうだ。
逆にシックな感じのシンプルな部屋も悪くないな。統一感のある家具でミニマルに仕上げる方向とかも良いかもしれない。
「ほらほら、このページの部屋なんてすごく良いと思わないかい?」
そう言うと、王子様は嬉しそうに折り目をつけていたページを開いた。
どんな豪華な部屋かと思ったがそこにあったのは!
「……四畳半」
狭い! 古い! しかも和室! 風呂なし! かろうじてトイレあり。
ただし、家賃は恐ろしく安い!
あ、注釈に銭湯が近いと書いてある。
逆に今時珍しいくらい悪条件の賃貸物件じゃないのか、これ?
「あぁ、良いなぁ、この部屋……
キミと一緒に住んだら部屋が狭すぎて、二人の距離は物理的に近づいてしまうね?
ベッドも置けそうにないから、お布団かな?
冬場は寒そうだから、身を寄せ合って温め合うのが定石だよね?
お風呂もないから銭湯に通わないとならないね?
二人で一緒に銭湯に行くなんてまるで歌詞の一節のようだよ?
銭湯に行った帰り道なんてすごく素敵だね?
手ぬぐいがマフラー代わりだ!」
神田川か!
「い、今も似たようなもんじゃないか? ほとんどオレとオマエしかいないし……」
「ふふ、似たようなものってことは本物とは違うってことさ」
「きっと部屋の壁なんてペラッペラだ。
あのときの声はちょっと抑え気味にしないといけないね?」
「し、知らんけど?」
「恥じらうボクにあれだけ大声を出させておいて、知らないはないんじゃないかな?」
王子様はオレとの二人暮らしを想像しているのか、うっとりと頬を染めて虚空を眺めていた。
なんかいつもと違う調子で黒目が深い!
楽しそうに話す王子様に戦々恐々としながらも、オレも王子様との二人暮らしを想像してみる。
オレと一緒にスーパーへ買物へ行く王子様。
エプロンを身に着けて台所に立つ王子様。
もちろん尻は丸い。
王子様も言っていたが、銭湯帰りに腕を組んで帰るなんて歌詞の一節みたいだ。
一組の布団で一緒に寝るのもなんか良いな。
たしかにあの家賃なら、大学へ通いつつバイトしながら暮らすこともできそうだ。
ただし……
「知ってると思うが、うちの学園って大学も併設なんだよな」
「もちろん知ってるよ。
成績を落とさずこのまま行けば順当に進学できるだろう。
そうなると、わざわざ別の場所に部屋を借りるなんて無駄な出費をする必要もないね。
まぁ、ちょっと想像してみたら思ったよりも楽しくなってしまっただけさ」
「なるほど」
いろいろ想像するのは楽しいよな。オレも王子様との二人暮らしは悪くないって思ったし。
「うん。
まぁ、キミとだったらどこで暮らしてもボクは楽しいんだけどね」
「あ、お、おう!」
変な返事をしてしまったが、王子様は満足そうに頷くと改めてオレの方へとにじり寄ってきた。
さっきからタオルケットをずっと被っているが、暑くないのか?
「さて、それじゃあ……」
王子様は全身に被っていたタオルケットをがばっと開いて、オレを捕食するように抱きついてきた。
驚きながらも抱き止めたが、勢いを受け止めきれずに王子様と一緒に倒れ込んでしまった。
だって、王子様は……
「おま、オマエっ……!」
「ふふ、キミが普段使っているタオルケットに包まれているのはなかなか心地よかったよ!
キミの匂いがして、まるでキミに抱きしめられているみたいだった」
「な、なんで裸なんだよ!?」
タオルケットの下の王子様はなぜかすっぽんぽんだった!
滑らかな肌と柔らかい王子様に押し倒されて、オレの血圧が一気に高まる。
「キミが課題に集中しすぎていて寂しかったんだよ。
ボクが服を脱いでいてもぜんぜん気づいてくれないし……」
なんか前にも同じようなことがあったような……
「ふふ、キミの前でこっそり脱ぐとすごくどきどきすることを発見してしまった」
前よりもエスカレートしてるじゃねぇかっ!
「さぁ、ボクを嬉しくさせてくれたご褒美だ。
二人暮らしをしたときの予行演習をしようじゃないか!」
「具体的には?」
何をするつもりだ?
「あー、えっと……声を抑える練習?」
「……じゃあ、大きな声を出させるようにがんばるぞ」
勘違いだったし解消はされたが、さっき抱いてしまった不安が燻っているせいか、ちょっと情動が抑えられそうにない。
「え? あ、それは……」
オレの部屋は一般的な六畳間だ。
四畳半とはいかないが、広くはない。
オレと王子様はタオルケットに包まれて、床の上。
畳でもなく絨毯だ。
壁は……ごく一般的な木造建築の壁だな。
布団一組ではないが、まぁ、予行演習にはなる……かな?
「……えっち」
王子様が恥ずかしげに呟いたのを合図に、オレと王子様は予行演習を始めた。
~おしまい~