黒髪ショートカット王子様系幼馴染のオレへの執着が怖い! 作:クリームパイ太郎
「ゲームなんかで、何か条件を満たさないと進まないことってあるだろう?」
「まぁ、あるな。
キーアイテムを手に入れる。
ボスを倒す。
キャラクターのお願いを聞くとか?」
「そうそう。
そんな感じ。
定番としては鍵を手に入れて開いた扉の先が新天地みたいな?」
「レトロRPGならよくあるイベントだな。
それが何かあるのか?」
「ふふ、いや、別に」
「なんじゃそりゃ?」
他愛のないことを喋りながら学園から帰宅して、王子様の部屋に遊びに行った日のことだ。
「上着を掛けるから脱いでくれ」
「お、サンキュー」
王子様がオレの上着を脱がして、そのままハンガーに掛けるかと思いきや、胸に抱いて顔を埋め匂いをしっかりと確認してからハンガーに掛けた。
そして王子様は自ら上着を脱いでハンガーに掛ける。
あまりにも自然にされてしまったので気が付かなかったが、これってなんか、その……甲斐甲斐しすぎないか?
旦那さんの上着を掛けるみたいなホームドラマで見たことあるようなシチュエーションだった。
なんか順調に毒されてしまっているな、この状況に。
まぁ、いい。
まずは課題を片付けようということで、オレも王子様も課題に取り掛かった。
今日は数学なのでオレもすいすいと課題を進めることができたが、王子様はオレの三倍以上の速さでさっさと終わらせてしまった。
普段ならうっとりとオレを見始めたんだろうが、その日は王子様は大量の書籍とタブレットを持ち出してきて勉強らしきことを始めたのだ。
何事かと思ったが、王子様だって何かに興味を持つことだってあるだろう。
オレは自分の課題を黙々と片付けた。
引っかかることもなく課題を終わらせて、ぷっつりと集中力も切れた。
休憩がてら王子様に問いかける。
「なんか飲む?」
「あぁ、麦茶を頼む。
冷蔵庫にあるから。
それとおやつを食べたいなら、冷蔵庫の中にいろいろあるから好きなものを食べてくれ。
ボクはどら焼きがいい」
「了解」
勝手知ったる王子様の家だ。何かに集中し始めていた王子様に気を使って飲み物を用意しようと思ったのだ。
「麦茶いれてきたぞ」
王子様が好んで飲む砂糖入りの麦茶だ。あと適当に和菓子。
なんか高級そうなどらやきがあったのでリクエスト通り持ってきた。
「……ありがとう。
そこに置いといてくれ」
タブレットを操作しながら顔も上げずに返事をする王子様。
勉強『らしき』というのは、端から見たらどう見ても勉強というよりは研究と言った方がいいくらい雑多な資料を広げ、データを収集し、確認し、分析しているように見えたからだ。
普通勉強って言ったら、教科書とノートを広げて辞書やスマホ片手に、宿題やったり予習と復習をやったりだろう。
ところが王子様がやってることは、タブレット端末こそ傍らに置いているが、印刷した仕様書に目を通し、論文、書籍、雑誌の記事を読み漁り、それらをレポートにまとめる。
先行事例を集めて要約しリスト化すると、それを眺めてじっと考え込む。
顎先に指を当てて真剣な表情で思索する王子様は、凛々しくドキッとしてしまった。
なるほど。
女子どもが騒ぐはずだ。
いつもだったらオレが見られる方なんだが、今日はオレが王子様を観察している。
好きな相手の真剣な顔ってのは見てるだけでも良いもんだ。
少し王子様の嗜好を理解できたかもしれん。
よし、オレも王子様に倣ってじっくりと美人な横顔を見ていることにしよう。
「うーん、ここはカレの激しい腰使いを検知して……
しかし、加速度センサーなんて腰につけたらカレも興ざめだろう。
やはりここはミリ波レーダーセンサーだな。腰使いをパターン登録していけば……」
……じっくりと眺めるんだ!
「カレのうめき声とボクの声は集音マイクで拾えば問題ない。
声もパターン登録かな?
いや、音響AIで解析してしまおう。
『あのとき』の声だときっちり判別できれば……」
い、いったい王子様は何をやっているんだ?
あまりにも気になりすぎたので、積み上げられた書籍の一冊を手に取る。
『センサーデータの深層学習入門:AIが感覚を手に入れる時代』
「なるほど」
わからん!
冒頭部分だけ読んでみたが、かなり専門的な書籍っぽい。
面白そうではあるが、今読むにはちょっと重たいな。
入門書も何冊かあるが、分厚い!
『動きを読む、意図を読む:行動認識AIの設計と理論』
『現場で使える!センサー×AI 実践レシピ100』
『身体を通して語るAI:センサーテクノロジーと人間理解の未来』
『スマート環境構築ガイド:AIとセンサーで空間に知能を宿す』
『見えない行動を捉えるAI:日常を解析するセンシング革命』
『つながる世界の設計図:IoTシステム構築のすべて』
『ゼロから始めるIoT開発:センサーと通信の実践入門』
『モノのインターネット思考法:IoTが変える未来のしくみ』
『スマートデバイスの頭脳:エッジ×クラウド連携によるIoT戦略』
『IoT実践レシピ100:現場で使えるセンサーとネットワークの技術集』
王子様の言葉の中にもあったがAIとセンサーで何かやろうとしている?
課題も終わっているし、王子様も集中している。
ゲームを始めてしまってもいいが、王子様の気を散らすのも申し訳ない。
オレもこの中の一冊を読んでみようか。
一番薄くて(それでも厚い)入門書っぽい本を選ぶと、オレも静かに読み始めた。
「よし、今日はこんなところかな?」
きっちり一時間後、王子様がやり遂げた感じで終了を告げる。
「おつかれさん。
……なんの勉強だ?
課題じゃないよな?」
「んー、物作りのための情報収集かな?
ふふ、きっとキミもびっくりするモノができあがると思うよ」
「ほほう」
コイツ、基本スペック高いから何かに熱中すると成果がでるのも早いんだよな。
しかもとんでもないものが出来てきたりする場合もあるし。
そう、あれはまだオレと王子様が付き合う前。
去年の、秋も終わりかけた時期。
落ち葉が舗道を覆い尽くし、踏みしめるたびにガサガサと音を立てる晩秋の帰り道のことだった。
~つづく~