黒髪ショートカット王子様系幼馴染のオレへの執着が怖い! 作:クリームパイ太郎
冷たい風が突然吹いてきて、木の葉を舞い上げながらオレと王子様の間を通り過ぎていった。
一瞬の出来事ではあるが、首をすくめてしまう。
学校指定のピーコートは着てるが寒いものは寒いのだ。
「寒くなってきたな」
「そうだね。
そろそろ素足は辛くなってきた」
眩しいくらい白い王子様の生足に思わず目が行ってしまった。
「ふふ、キミならいくらでも見て構わないけど、ちょっと露骨すぎるかな?」
おっと!
オレは取り繕うように正面を向いて、わざとらしく手を擦り合わせた。
指先がかじかんでいるのは事実だ。
「黒タイツフェチのキミとしては早く履いて欲しいかもしれないけど?」
「そんなフェチもってねーよ!」
「でも、60デニールくらいが好きなんだろ?」
「……」
王子様のスラリと伸びた足なら上品なマットさがあって透けない方がいいだろう。
太もものラインなど黒タイツで強調されてしまったら目が離せないかもしれない。
膝を組んで座る姿など想像しただけで……
曲げた膝関節とピンとはった黒タイツの陰影なんて最高だ!
「……はっ!?」
気がついたら王子様の黒タイツ姿を想像してトリップしてしまっていた。
恐る恐る王子様を見ると、案の定ニヤついた顔をしている。
「ふふ、近いうちに履いてきてあげよう」
「さ、寒いんなら履いてきたほうがいいだろうな!」
「まぁ、そうだね」
この王子様、言葉では辛いなどと言ってはいるが、全然寒そうにしてないんだよな。
スキンシップが過剰な王子様から抱きつかれたときに、体温が高いのは感じていたが。
「しかし、キミは寒そうにするね」
「実際寒いしな」
背中を丸くして縮こまっていたオレに、王子様が確認するように言う。
「学校指定のピーコートじゃ寒い。
ダウンを着たい」
「まぁ、校則の至らない部分だよね」
「せめてマフラーが欲しいな」
「……キミ、マフラー持ってたっけ?」
「持ってない」
「ふむ」
大きな胸を持ち上げるように腕を組んで王子様が考え込む。
「次の休みに買いに行くか。
買い物付き合ってくれよ」
「それはもちろん構わないけど……」
「じゃあ、土曜日オマエんち呼びに行く」
「了解したよ。
でも今日は月曜日だ。
休みまで我慢するのかい?」
「まだ耐えられる。
これからもっと寒くなるだろうし」
また、考え込む王子様。
「それなら……」
「なんだ?」
「いや、なんでもない。
遊びに行くことには賛成だ」
そして中三日。
金曜日の朝、王子様がオレを呼びにきたのだ。
「今日は一緒に登校しよう!」
珍しいこともあるもんだと思ったが、たまには良いだろう。
下校時は一緒に帰ることも多いが、王子様と登校すると取り巻き達からの敵視がウザい。
当時のオレ達は別々に登校していたんだ。
「うん! やっぱりキミと一緒に登校できるとテンション上がるね!!」
言葉の通り王子様のテンションは高い。
スキップでもしそうな勢いだ。
冬直前の寒さもまるで気になっていないようだな。
反面、オレは朝の寒さが身に沁みて辛い。
それでも王子様のテンションに釣られて、普段よりも足取りは軽かった。
寒いけどなっ!
「ほら! 寒がってないでもっと背筋を伸ばしなよ。
血流が悪くなって身体が暖まらないよ?」
「そうは言っても寒いんだよ」
「ふふふ、そんなキミに渡したい物があるんだ」
「ん?」
言いながら、王子様は嬉しそうにカバンから何かを取り出した。
「……マフラー?」
「ご名答!
これで土曜日に買いに行く手間がいらなくなったね」
王子様は満面の笑顔でマフラーを広げて見せる。
「おお!」
恐ろしく手の込んだ模様と精密な編み目だ。デザインも裏表で色が違っていて、感嘆の声が出るほどかっこいい!
立体的な模様がいくつも編み込まれている。
ハートマークが多い!
「ほら、巻いてあげるよ」
オレの返事を待たずに王子様が、オレの首へとマフラーを巻いてくれた。
とても暖かい。
暖かい! すごく暖かいんだけど!!
分厚く重い。
これ、ものすごく高級なんじゃ……
「オマエ、これ大丈夫か?
すごく高そうなんだが……」
「いやいや、そんなことはないよ。
毛糸はごく一般的な価格で通販でも手に入る物だ」
にわかには信じがたい。
ここまで手の込んだ編み方をしたマフラーが安いはずがないぞ。
「……ん?」
なんで毛糸の話になるんだ?
そこでオレは、はたと気づいた。
「まさかオマエ、これ……」
「もちろん手編みだ!
キミが風邪なんてひいてしまったら大変だからね?
一日でも早く暖かくしてあげたかったのさ」
首に巻かれたマフラーをまじまじと見る。
既製品など比べ物にならない。精密機械で編んだんではないかと疑うレベルの精緻な編み込みをしたマフラーだった。
どう考えても人の手で編めるとは思えない複雑な模様だ。
よく見ると、王子様の名前が編み込んであるな。
なんでオレの名前じゃないんだ?
なんか良い匂いまでするし!
王子様から聞き出した所、インレチャートとダブルニッティングという手編みの技法らしいんだが、調べてみて卒倒しそうになった。
普通だったら完成するまで数ヶ月はかかるような手の込んだ編み方なのだ。
寒さとは別の意味で震えてしまった。
さらに、王子様はもう一枚マフラーを取り出す。
「ふふ、おそろいだね?
ちなみにこっちは練習で作った物だ」
デザインは同じだが色違いのマフラーだ。練習と言っているが色使い以外の違いがわからん。
王子様は嬉々として自分の首にもマフラーを巻いた。
「あ、ありがとう。
ありがたいんだが……」
ホントに貰っていいのか。
いや、返すほうがヤバいことになりそうだが。
「うん?
どうしたんだい?
キミのため
このときは気が付かなかったが、王子様の瞳の奥には暗く濁った重たい感情が渦巻いていた。
「もちろん使ってくれるよね?」
「お、おう!
ありがたく使わせてもらうぞ!」
「ちなみに
ん? 聞き間違いかな?
王子様が編んだのは強調しなくても判っているぞ。
「その、なんだ。
さすがにタダで貰うのは申し訳ないから、土曜日は買い物の代わりに何か食いに行かないか?
奢るぞ」
「ふふ、気を使わなくてもいいよ?
でも、キミからご馳走してもらうのは悪くないね」
この手の込んだマフラーに見合うかわからないが、王子様にちょっとお高いケーキセットと映画を奢った。
その時の王子様は「なんだかデートみたいだね?」などと冗談めかして言っていたが、まぁ、本気だったのだろう。
親友と遊びに行くって感じだ……と、当時のオレは思ったものだ。
さて、今回はどんな物ができてくるのか。
楽しみではあるが、若干不安でもある。
失敗するときは失敗するしな。
あと、そんなときは涙目になって悔しそうにするのだが、それがなかなか可愛らしいのだ。
「さて、そろそろ……」
すっかり氷が溶けて、水滴だらけのグラス片手に王子様がにじりよってきた。
「せっかく入れて貰ったのにべちゃべちゃだね?」
な、なんかエロく聞こえてしまうんだが!?
「そのつもりで言ってるから良いんだ」
「オレの心を読むな」
王子様はスマホを操作して、何かのアプリを起動する。
訝しんだ顔をしていたら、王子様から微笑まれた。
「ふふ、単なるデータ収集だから気にしなくていいよ」
気にするなと言われても無理な話だ。
何事かとオレが問いただそうとしたら、その気配を察したのか、王子様がオレを押し倒してきた。
「お、おい……」
「気にしない、気にしない」
なんというか……しっとりと微笑む王子様に抵抗ができない。
王子様は薄くなった麦茶を口に含んで、そのままオレへと唇を重ねてくる。
「ん……」
王子様が小さく喘いで、王子様味の麦茶が流れ込んできた。
「……甘い」
「うん、甘いキスだ」
いや、砂糖入りの麦茶が甘いだけなんだが……まぁ、いいか。
「さぁ、いつものようにボクに変態の限りを尽くしてくれ!」
「人聞きが悪すぎる!?」
「じゃあ、いつも通り……して?」
「最初からそう言ってくれ……」
濡れた王子様の瞳に見つめられて、簡単にスイッチが入ってしまった。
オレは王子様に言われるがまま、データ収集とやらに付き合った。
~つづく~