黒髪ショートカット王子様系幼馴染のオレへの執着が怖い! 作:クリームパイ太郎
その日、オレは久々に……本当に久しぶりに一人で下校していた。
別に王子様と喧嘩したわけではない。
一人で帰るのっていつ以来だ? 記憶を掘り起こしてみても、ちょっと思い出せない。
なんか帰り道が長く感じてしまうのは、隣に王子様が居ないからなんだろうな。
授業も終わり放課後、いつものように王子様と帰宅しようとしたところ、
「すまない。
今日は準備があるので先に帰るよ。
キミは17時くらいにボクの家へ来てくれ。
……あ!
できれば着替えはしないで制服のままで。
ふふ、待ってるよ?」
語尾に甘ったるい響きを残しつつ、王子様は疾風の如く帰って行った。
あっけに取られるオレと……クラスの連中。
普段なら誘う時は抑えめの声で話しかけてくる王子様なんだが、今日は異常に高いテンションとそれにあわせて声量も高くなってしまったのか、周りに丸聞こえだった。
数秒の空白の後、ざわめき始める教室内。
大半のクラスメイトはいつものことかと、それぞれの予定に向かって行くが、取り巻き達の敵意がオレへと突き刺さってくる。
これはオレもさっさと帰った方が良さそうだ。
「おつかれー」
近くにいた級友達に挨拶してオレも帰宅の途についた。
体感時間はともかく、寄り道もしていないので直ぐに帰宅できた。
「さて……」
軽く準備を済ませて、隣の王子様宅を訪れた。
玄関へ続くアプローチで王子様の家を見上げる。
「なんかオーラが……」
不吉……と言うほどではないが、何かありそうな予感がする!
時刻は16:55。
約束の時間まで5分ある。
オレが逡巡していると、ポケットのスマホが鳴り響いた。
王子様からの着信だ。
『何をしているんだい?
早く入ってきてくれよ?
ボクはもう待ちきれないよ?
あぁ、それとももっと色っぽく言った方がいいかな?
……早く、きて?』
「わ、わかったから!」
早くも反応してしまったが、否やはない。
合鍵を取り出すまでもなく、電子音と共に入口の施錠が自動的に開く。
ドアを開けて一歩、家の中に足を踏み入れた。
オオオォ……
な、なんか雰囲気が……
いつかの時のように通路の奥から異様な気配を感じる。なんか『オオオォ』とかなってるし。
まぁ、王子様がオレに危害を加えることはない……なくはないが……ホントにないか?
ここ最近は基本的に二人でいることが多いし、王子様が暴走するようなこともしていない。
大丈夫だとは思うが……
靴を脱いで
ビクッとしてしまったが、これはいつも通りのオートロックだ。
そして追い打ちをかけるようにスマホが着信を伝える。
またもやビクッとなってしまった。
連続は心臓に悪いぞ。
スマホを見れば王子様からメッセージが届いていた。
『二階の一番奥の部屋まで来てくれ。
床に矢印、ドアに目印を付けたのですぐわかるはずだ。
待ってるよ』
メッセージの通り、床に矢印があった。二階へ行く階段を示している。
な、なんで家の中の照明を落としてるんだ?
王子様の家はかなり広い。人の気配がないのはいつものことだ。王子様が隣に居ないだけでこうまで雰囲気が変わってしまうとは。
「……ままよ!」
オレは矢印が示す通り二階へ上がる。さらに二階の床にも矢印があった。その通りに進むと目的の部屋へ到達する。
ドアには確かにわかりやすい目印があった。
『Welcome♡』
これは王子様の字だな。
まぁ、いいんだけど。
しかし、王子様の意図がわからんな。
最近勉強していたことと、関連があるのは間違いなさそうだが。
……前みたいに部屋の中がオレの写真だらけとかないよな?
あの部屋とは別の場所だし。
オレはゴクリと唾を飲み込んでドアノブを捻った。
ドアを開けると、
「いらっしゃい。
ふふ、待ちくたびれてしまったよ」
機嫌良さそうに笑う王子様が居た。
王子様の格好は、準備があると言ってたわりに制服のままだ。
オレにも着替えてくるなと言っていたし何か意図があるのか?
べ、別にえっちな格好をして待っているのでは?なんて期待をしたわけじゃないぞ!
軽く室内を見回してみても……特に怪しい所はない。
クイーンサイズのベッド、ソファー、テーブル、ディスプレイなどなど。
なんというかビジネスホテルか客間って感じだ。
あ、枕が『YES!』枕だ。
「なんか普通だな」
「もう、まったく何を警戒していたんだい?
キミの思った通り、ここは来客があったときに泊まってもらうための部屋だよ。
まったく使われたことはないけどね」
ただし、照明だけやたらムードがあるというか、暖色系というか赤っぽい!
「さぁ、こっちに来てくれ」
王子様に誘われ、一緒にソファーへ腰を下ろした。
飲み物と軽食が置いてある。
準備ってこれのことじゃないよな?
照明のせいでとにかく
「それで、これから何が始まるんだ?」
「ふふ、なんだい?
ずいぶん気が早いね?」
王子様はグラスにミネラルウォーターを注ぎ、オレへと差し出してきた。
素直に受け取り口をつける。
うむ、普通のミネラルウォーターだ。
王子様も自分のグラスに注いで飲んでいるので、なんの仕掛けもないだろう。
「そのチーズはすごく美味しいから食べてみてくれ」
「へぇ」
王子様お奨めのやたら高級そうなチーズを摘んだ瞬間、
ガチャッ!
重たい音を響かせて、入口の扉が施錠された。
「ふふふ……」
王子様が妖しく笑い始める。
あっけにとられるオレを見つめて、爛々と目を輝かせていた。
「入口のドアを見てくれ」
茫然自失としていたオレは言われるがまま、入口の方へ目をやる。
【◯ックスしないと出られない部屋】
ポロリとチーズを落としてしまった。
言葉が出ない。
入ってきたときは気が付かなかったが、ドアに手作りとは思えない看板が掛けてあった。
王子様の方を振り返ると、意味ありげな笑みのままオレをじっと見ていた。
「オマエ……」
「どうだい?
キミが所持していたコンテンツの中にあったモノを再現してみたよ?」
ここ最近ずっと何かやっていると思っていたが、これを作り上げるためだったってことか?
なんか細々した物を買い込んでいるなぁとは思っていたが。
「キミの多種多様な性癖に応えるのはなかなか楽しいね!」
「出られない部屋系はオレの性癖じゃないから!」
どっちかというと王子様の琴線に触れる部分があったんではないか?
男女二人が閉じ込められるとか、王子様の好みのどストライクなのでは?
王子様のことだ。
ただ単にオートロックで施錠されるだけってことはないだろう。
読んでいた書籍から類推するに、結構なシステムを作り上げたんではないか?
センサーの類を通販してたのも知っているし、シングルボードコンピュータにも手を出していた。
突然プログラミングを手伝ってくれと言われて、理由もわからずシングルボードコンピュータにデータ受信する部分を作ったりしていたのだが。
うーん、部屋をざらっと見回してみても、そこかしこにセンサーっぽい機器があるな。
このあたりはまだテスト運用ってことか?
このセンサーから受け取ったデータで動作判定するんだろうが、判定自体はどうやってやるんだ?
あぁ、それでここ最近データ収集とか言って、
パイでズったり、口で淫れたり、前から後ろから、下から上から……ふむ、めくるめくって感じだな!
センサーからデータを集めて判定し、最終的にはドアに解錠信号を送るだけだ。
難しそうなのは、セッ……交……えっと、アレの判定部分なんだろう。
オレがどんなシステムかを考え込んでいると、王子様がオレの肩を揺らしてきた。
「もう、仕組みのことはどうでもいいじゃないか!
今はこの状況を楽しんでくれよっ!」
「いや、オマエ……楽しむって言われても」
これって端的に言って閉じ込められただけだぞ?
「そこはそれ!
わざわざキミに制服のまま来てもらったんだ。
ほら、ボクも制服のままだろう?
まずはシチュエーション作りからだね?」
王子様がウキウキしながら説明を始めた。
「やはり、◯◯しないと出られない部屋の定番としては、気がついたら部屋に閉じ込められていたってところから始めるべきだとは思ったんだけどね?」
なんかうっとりとし始めたぞ。
「拘るんなら、キミに
どっちがよかった?」
「こっちでお願いします」
また恋の秘薬とやらで眠らされるのは勘弁してほしい。
「さて、それじゃあ、キミが目覚めるところから始めようか?
ベッドに横になってくれ」
え!? そんなところから始めるの?
「ま、待て!
そもそもちゃんと機能するのか?」
その、セッ……致したらちゃんと解錠されるのか?
「システム的には問題ないはずだ。
解析もOK!
AIでの判定も申し分ない結果だった!
きっちりキミが
「て、テストとかは?」
「ん?
それはこれからだね。
単体テストは問題なかったよ?
この部屋への機器設置も昨夜終わったばかりでね。
おそらく動くはずだ」
でたっ!
天才特有のやつだ。
数学でいうと簡単な計算を途中でやめちゃって、最後の答えを間違えるやつ!
オレが不満を言おうと口を開きかけた瞬間、王子様に遮られた。
「わかってるよ。
みなまで言わなくてもいい。
万が一ドアが開かなくなったらどうするんだって言いたいんだろ?」
「……まぁ、そうだ」
王子様が自信ありげに、大きな胸をこれでもかと張って言った。
「問題ない!
一週間分の食料と水は用意してある!
その期間があればさすがに誰かは異常に気がつくはずさ」
解決策になってねぇ!
一週間この部屋に閉じ込められるってことだろうがっ!
「オマエ、それ……
トイレとかどうするつもりだよ」
王子様の瞳が真っ黒に染まる。
とろりと綺麗に微笑まれた。
「どうするんだろうね?」
て、手に負えないっ!?
「あぁ、ボク……我慢できないかもしれない!
キミとこのままずっとここで……
二人だけで!」
自分の肩を抱きしめて王子様は陶酔したように語り始める。
「いいね……
誰にも邪魔されない空間でキミと二人きり。
ただただキミと睦み合って過ごす時間のなんて甘美なことか」
熱っぽい視線で訴えてきた。
「どうかな?」
どうかな?じゃねぇよっ!?
授業とかどうするんだ! 問題が多すぎるわっ!!
ただ、まぁ……
「夏休みに入ったら、準備した上で一週間くらいなら付き合ってやる!」
「ホントかいっ!?
約束したからねっ!!」
まぁ、夏休みの一週間ぐらいなら付き合うのも吝かではない。
「ふふ、じゃあご褒美だ。
緊張感がなくなってしまうかもしれないから言うつもりはなかったんだけど。
フェールセーフはちゃんと用意してあるよ。
一応今回は12時間後にはロックが解除されるように設定してある。
さすがのボクも安全装置なしなんてことはしない。
キミを一週間も休ませるわけにはいかないしね」
正直な所まだ不安なんだが。
その安全装置の詳細が判らんし、ホントに動作するのか?
まぁ、見た所普通のドアだ。
ドアノブの部分を分解か、最悪ぶっ壊せば脱出は可能だろう。
「一応、他のフェールセーフとして、音声入力での解錠も用意してあるよ。
キミの声紋を登録してある。
キミの声でボクに好きだって十回言ってくれたら開くはずさ。
あ、バリエーションは豊富だと嬉しい!」
なんだよ、嬉しいって!
ホントにそんなの判定できるのか!?
まぁいい。王子様が急病になるとか万が一もあるし、さっさと解錠してしまおう。
「オマエが好きだ。
世界で一番好きだ。
好きだ、オマエのことが、どうしようもなく。
オマエの全てが好きだ。
オレ、オマエのこと好きだぞ。
ずっと好きだ。
本気で好きだ。
好きすぎてどうにかなりそうだ。
オマエが大好きだ!
……好きだ」
王子様がうっとりと身体を震わせていた。
そして、ドアはうんともすんとも言わない。
「あれー?
おかしいなー?
本当ならがちゃりと錠前が開くはずなのになー?
ボクとしたことがどうやら設定をミスしてしまったみたいだね?
失敬、失敬!
次までに直しておくよ?
あっ!
最後に情感が籠もった『好きだ』がすごくきゅんってきた!!」
そんなことだろうと思ったよっ!!
「ふふ、カノジョの可愛らしいイタズラじゃないか。
大目に見てくれよ?」
猫撫声で甘えてくる。
王子様はオレの胸にしなだれかかって、顎先を撫でてきた。
ドキッとしたが、この程度のことで怒ったわけではない。
実際、惚れた弱みってやつでもあるけど。
それを見越してか、王子様がにんまりと笑った。
「よし、それじゃぁ始めようか?」
「……は?」
「さぁ、ベッドに横になってくれ。
キミはいつの間にかこの部屋に連れてこられていてボクに起こされる、ってところから始めよう!
せっかくキミもボクも制服のままなんだしね」
えー、シチュエーションプレイってこと?
オレは王子様に促されるまま、ベッドに横になった。
「目を瞑ってくれ。
ボクがキミを揺すって起こすから。
キミの最初のセリフは『ここは……』だ。
あとは流れで!」
雑っ!
まぁ、いい。ここは王子様に付き合おうじゃないか。
オレは王子様に言う通り目を瞑る。
「…………………………………………………」
……長くない?
オレは辛抱強く王子様から起こされるのを待った。
――ちゅっ!
何の前触れもなく、柔らかな感触が唇に触れる。
「ちゅっ、じゃねーよ!
なんでいきなりキスなんだよ!!」
気持ち良いだろうがっ!
「す、すまない。
目を瞑っているキミを見ていたらどうしても我慢できなくて」
あー、もう!
オレは王子様の手首を掴んで、一気に引き寄せた。
そのままベッドに押し倒して、王子様の両方の手首を掴んでベッドへ押さえつける。
「んぁ!
あぁ、せっかくシチュエーションを整えたのに」
「挑発したオマエが悪い!」
満更でもなさそうに、王子様は頬を染める。
そして、そっと目を閉じて控えめに唇を差し出してきた。
了解を得たオレは、少し強引に唇を重ねようとした瞬間……
ガチャっ!
重たい金属音が鳴り響いた。
「……」
「……」
せっかく盛り上がりかけたオレと王子様も止まってしまう。
確認しなくても判るくらい明確な音だ。
扉の施錠が開いたんだろう。
「……」
王子様は無言で立ち上がると、ドアまでツカツカと歩いていってサムターンのつまみを回した。
ガチャリと音がして再び鍵が閉まる。
「さぁ、続きをしようか?」
王子様は何事もなかったかのように、オレへ振り向いた。
まぁ、王子様がそれでいいなら、オレとしては構わないが。
邪魔が入ったせいで少し盛り下がってしまったが、王子様はやり直す気満々だ。
ベッドに座り直したオレの膝へと、王子様が当然のように跨ってきた。
オレの首へ腕を回して、息が詰まりそうな距離で見つめてくる。
王子様の太ももが柔らかい。
制服を押し上げる豊かな胸が目の前にあって、思わず見入ってしまった。
王子様が満足そうに目を細めて、
ガチャっ!!
再び重たい金属音が響き渡った。
「うぅ……」
王子様が再度ドアまで歩いていって、掛けてあった看板を、どこかから取り出したマジックで修正した。
『◯ックスしないとだしてもらえない部屋!」
涙目になりながら、ほっぺたを膨らませた王子様が目で訴えてきた。
――文句は言わせないぞ!――
まぁ、いいけどね。
閉じ込められるよりよっぽどマシだ。
部屋に設置してあるセンサーは目に見えるだけでも、けっこうな数だ。
セッ……致しているときの各種反応、例えば、体勢だったり、声だったり、振動だったり、そのあたりの判定の閾値が、まだまだ調整不足ってところか?
王子様も判っているだろうし、解錠しやすくするという安全マージンを十分取った証左だろう。
人間の特定の動きを検知、解析して解錠施錠するシステムとしては、真っ当に動作している。
「ぼ、ボクだって失敗することくらいあるんだ!」
早足でベッドに戻ってきて、オレを押し倒してきた。
「ボクとセッ……えっちなことしないと部屋から出さないからなっ!」
「はは、わかったよ」
下唇を噛んで、悔しそうにする王子様。
その表情が堪らなく可愛い。
「む、なんか余裕ある……って、きゃっ!?」
細い腰を抱きしめて、王子様の可愛らしい悲鳴を聞きつつ、強引に体勢を入れ替えた。
「オマエこそ、オレとエロいことしないと部屋から出してやらないぞ」
「……うん」
王子様がそっと目を閉じた。
今度こそ、始められそうだ。
オレは王子様の身体へと体重を掛けて、艶のある柔らかな唇へと優しく……
「あ、一応データ取得も継続してるから一通り流れをよろしく。
んんっ!?」
乱暴に王子様と唇を重ねた。
~つづく~