黒髪ショートカット王子様系幼馴染のオレへの執着が怖い! 作:クリームパイ太郎
目的の食玩はすぐに見つかった。
うむ、パッケージは当時のものを踏襲しつつ人気キャラが満載だ。
コンビニなんてどこも似たりよったりの作りだからな。
売り切れてなくてよかった。
と思ったのもつかの間、
「げっ!?」
「どうしたんだい?」
後ろから着いてきていた王子様がオレの肩越しに覗き込んでくる。
「値段が2倍になってる」
「ホントだね。
復刻だし便乗値上げかな?」
むむ、当初は三個くらい買うつもりだったが、一個にしておこう。
このウェハースの菓子が結構好きだったんだが仕方ない。小遣いは無限ではないのだ。
王子様は手に取る気配がない。
まぁ、オレも集め直す気はないしな。王子様もさして興味がないのかもしれない。
「さて、他に買うものは……」
夕食前だしホットスナックを買うのもなんだな。
「インスタント食品は買ったらダメだからね?」
「はいはい」
最近、王子様がオレの食生活を厳しく見張っている。
いや、悪いことじゃないんだ。
オレへの気遣いなのだから、邪険にするのは間違っている。
とはいえ……
「良質な精……アレは良質な食事から作られる!
キミの食事管理はボクの義務と言っても過言ではないからね」
この調子で朝飯、昼飯、夕飯と完璧なメニューを用意されるのだ。
昼飯なんて桜でんぶでハートマークが描かれた白飯から始まり、ブロッコリー、卵焼き、プチトマトの彩り、かぼちゃの煮物、鮭の塩焼き、鶏の照焼、牛ごぼうのしぐれ煮、濃いめの味付けのメインディッシュと非の打ち所のない弁当を渡される。
文句なく美味いが量が多い! そりゃ、漆塗りの重箱になるはずだ。
まぁ、王子様と二人で食べるので適量と言えば適量だ。
王子様も良く食うしな。
「ジャンクフードを食べたいという気持ちも判るから、たまになら構わないよ?」
いいんだ。
これだって王子様の好意の現れなんだ。
正直な所、煩わしいかというとそうでもなく、王子様からの好意を受け止めることが嬉しいという気持ちの方が大きい。
自分でも普通じゃないと思うけどな!
さて、コンビニとはいえ何か変わった商品が見つけられるかもしれないし、一周しよう。一直線に菓子コーナーに来てしまったが、コンビニの意図したルートではないしな。
王子様もオレの後に着いてくる。
雑誌は……今日はいいか。
そういえば、オレの家の消耗品は大丈夫か?
コンビニだと高くついてしまうから、後からドラッグストアへ買いに行くにしても、商品を見ていたら足りない物が思いつくかもしれない。
最近は王子様の家にいることも多い上に、両親不在の日が多すぎる。
気がついたらトイレットペーパーがなくなってましたとか、後から困ったことになりそうだ。
「大丈夫。
キミの家の消耗品ならボクがチェックしているよ?」
「そ、そうか」
オレの視線で全てを看破しないで欲しいんだが、大丈夫らしい。
そういえば、最近オレの家の管理ってどうしてたっけ?
その瞬間オレは戦慄した。
無意識のうちに王子様を見やる。
「どうしたんだい?」
相変わらずニコニコとしているし、周囲の人間すらも明るくしてしまうような陽の気を放っている感じがするけど……
「オレ、最近、洗濯、してない。
掃除も……」
「うん、そうだろうね?
全部、ボクが済ませているし。
なんでカタコトなのかはわからないけど」
こ、これはいかん!
まずいぞっ!
知らない間に王子様に依存しすぎている。
そういえば食事だって、いつの間にか三食とも王子様お手製の食事になってしまっているじゃないか!?
ちょっと前まで朝飯はブロック型の携帯食だったのに。
「ふふ、どうしたんだい?
目的の物はあったんだ。
早く買って帰ろうじゃないか?
ちなみに今日の夕餉はハンバーグだよ?
昨夜のうちに用意してあるから、後は焼くだけだ。
ソースはデミグラスと大根おろしだね。
デザートはスイカ。
シトルリンを摂って濃く多くしよう!」
何をっ!?
ああああ、もう王子様の家で夕食を食べるのが決定している!
そして、王子様に依存していることに思い至っていなかったら、自然に普通に当たり前のように王子様の家に行っていたはずだ。
そして箸は出してもらえず、「あ~ん」とかされてしまうのだっ!
というか、オレはいつの間にこの状況を受け入れてしまったんだ!?
「あ、う、その、今日は……」
流石に申し訳無さすぎる。
王子様に問いただしたところで、
「ボクが好きでやっているんだから、キミが気にすることじゃないよ?」
とか嬉しそうに言うに決まっている!
これはよろしくない!
王子様が喜んでいるからと言って、全てを依存して良いわけがないのだ。
「ん?
どうしたんだい?
まさか、一人でごはんを食べるなんて言うんじゃないだろうね?
そんなの許さないよ?
だってキミはボクと一緒に夕餉を摂ることは決まっているんだ!
さぁ、買い物を済ませて帰ろう?
キミとボクの家にね?」
「そ、そうだな」
せめてこれからは洗い物だけでも……いや、それだけだと足りないから、オレの家でも王子様と一緒に飯を食うことにしよう。
その場合はもちろん夕飯はオレが準備するぞ!
手抜き料理ってわけにもいかないから、がんばらねば。
……王子様、オレの作った物なら何でも喜びそうだから手抜きなんてできない。
「よ、よし!
アイス奢ってやる」
即物的だが、まずは王子様への感謝の気持ちをあらわすのだ。
「なんだい、藪から棒に」
「いいから!
好きなアイスを選んでくれ」
「ふむ……」
王子様が思案顔。人差し指を顎に当てて考え込む。
「なるほど。
ちょっと露骨にお世話をしすぎたかな?
お返しをすることで、心の安寧を図るってところかな?」
「あ、あんまり図星を刺されると辛いんだが……」
「ふふ、キミから依存されることが、この上もなく心地よかったんだ。
食事のお世話はもちろん。
汚れ物の洗濯なんかは実益も兼ねているので、むしろこれからもやらせてほしいんだけど?」
「実益!?」
「うん! 趣味と実益だね。
匂いを……おっと!
まぁ、次からはもっと上手くやるようにするよ?
キミが気が付かないうちに……ふふふ」
「お、オマエまさか……未だにオレのパンツとかを……」
王子様は妖しく微笑むと、件の食玩を一つ取ってオレに渡してきた。
これも奢れということだろう。
もちろん一向に構わん!
「さぁ、どうだろうね?
アイスを奢ってくれるんだろう?
選んでくるよ」
王子様はにこやかにはぐらかして、アイスのコーナーへ行ってしまった。
……オレが気付かないうちにってどういう意味だ?
まぁ、いいか。
王子様がアイスを選んでいる間に、消耗品を物色しておこう。
といっても王子様が全て管理しているらしいので、おそらく補充が必要な物などなさそうだ。
制汗スプレーやデオドラントペーパーが目に留まったがスルーする。
「キミの匂いが台無しになってしまうだろうっ!」
こんな感じで使うと怒られるのだ、王子様に!
さっぱりして気持ちいいんだけどな……
と、製品を眺めていたら、王子様がアイス片手に戻ってきた。
「アイスを選んできたよ。
お高めのバニラアイス!
キミの信条からするとアイスを奢るだけだと心苦しいんだろう?
一つ提案があるんだけど、このアイスをボクに食べさせながら、ボクへの想いを囁いてくれるってのはどうかな?
ボクが一口アイスを食べるたびに、
『好きだよ』とか、
『オマエはオレのモノだ』とか、
『今夜は穴という穴に
アイスが無くなるまで言ってほし……いん、だけ、ど……」
オレの物色していたデオドラント製品を見て、王子様が動きを止めた。
え!? そんなに衝撃的なことか?
この手の製品を使うと、王子様が嫌がるから買うつもりはないけど、オレが見てるだけで絶句するほど!?
「き、キミ、まさかそれを……」
声を震わせながら、次第に顔が赤くなっていく王子様。
「え? いや、別に……」
見てただけだ、と言葉を続けようとしたところで、王子様がビシッと指さした!
「そ、それをボクに買わせようって魂胆だね!」
『幸福の0.001ミリ 5コ入り』
デオドラント製品の下の棚に並んでいた。
「ちがうわっ!」
「ふふふ、皆まで言わなくてもいいよ!
もちろん使うつもりはないんだけど……
アレだろ?
ボクにレジまで持って行かせて買わせるっていうプレイっ!
恥じらうボクを悦に浸りつつ、背後から見ているんだろう?
まったくキミにも困ったものだよ!
どれ、それじゃ、早速買ってくるから、キミは後ろから見ててくれ!!」
まるで考えたことがなかったよっ!
王子様は嬉々として『幸福の0.001ミリ 5コ入り』を手に取ると、意気揚々とレジへ向かおうとした。
欠片も恥じてないじゃないかっ!
「ま、待てっ!
やらなくていいから!
使わない物を買うのはもったいないから!!」
「いやいや、使い道はあるだろう?」
オマエが使うつもりはないって言ったんだが?
「ど、どうやって?」
「咥えゴム……見たいんじゃないか?」
……く、否定できない!?
王子様が
「よし、ついでだ!
この凄+って精力剤も買っていこう」
アイスと一緒に手渡された。
「お、おい!?」
オレの手首を掴んで、元気よく機嫌よく軽やかな足取りでレジまで連れて行かれた。
タイミングよく他のお客さんはレジに並んでいない。
店員の女性が定型文のように挨拶する。
そして、レジ前に着くやいなや、王子様から先程までの溌剌とした気配が消え去る。
「あ、あの……」
陰鬱としたしっとりと湿った空気を醸しつつ、頬を染める王子様。
店員さんの顔をまともに見れず、おずおずと『幸福の0.001ミリ 5コ入り』を差し出して、羞恥に彩られた表情を悟られまいと俯き気味に言った。
「こ、これください。
袋は……いりません。
すぐ使いますので……」
さらに背後に立つ……背後に立たされているオレの方へ振り向き「これでいいの?」って感じの眉尻を下げた弱々しい表情で訴えかけるように見やる。
――うぉ……!?
オレは何も言えず、ただただ立ち尽くした。
店員さんの視線が痛いっ!
会計を済ませると、王子様は逃げるようにレジを離れていった。
な、なんて胴に入った演技なんだ!
これではまるで、いやらしいカレシから無理やり『幸福の0.001ミリ 5コ入り』を買いに行かされた命令に逆らえない哀れなカノジョのようではないか!!
あっけに取られたオレは何も言えず、ただ王子様を見送るだけだった。
「……はっ!?」
お、オレもさっさと会計を済ませて王子様を追いかけねば!
食玩とアイスと精力剤を差し出し、電子マネーで支払いを済ませる。
素早く商品をカバンに仕舞って、王子様とは違って本当の意味で逃げるようにコンビニを出た。
……店員さんの目は、まるで汚物を見るような目だった。
コンビニの外には、当たり前だが王子様が待っていた。
その顔は、何かやり遂げた後のようにさわやかな物であった。
「ふふ、どうだった、ボクの演技は?
自分で言うのもなんだけど、なかなかえっちな雰囲気を出せていたと思うんだっ!」
そのとおりだよ!
正直、大興奮だったよっ!
あんな顔を見せられたら、ぐっと来るに決まってるだろ!!
ただ……
「お、オマエ、なにしてくれるんだよ!
もうあの店員さんがいるときこのコンビニ来れないぞ!!」
「うん、ボクの記憶ではあの店員さんは月、木の夕方くらいまでがシフトみたいだから、それを外せばここのコンビニは使えるね?」
確信的な答えが返ってきてしまった。
まぁ、言うほど怒ってないけど、心臓に悪すぎる。
「ふふ、じゃあこれでボクがキミへお世話してたことはチャラってことにしてくれよ?
アイスと合わせてプラマイゼロってことで!」
「ぐっ!」
それを言われると弱い。あとこの程度で王子様からの世話分を返せたとも思えない。
「……はぁ」
オレはわざとらしくため息を吐いて、王子様へ手を差し出した。
「帰るか。
暗くなってきたし」
「うん、そうだね」
王子様はオレの手を取り、さらに腕を組んで寄りかかってきた。
大きな胸がとても柔らかい。
茜刺す夕暮れはもう僅かで、宵闇が迫る。
並んで歩くオレと王子様の影は一つに重なり長く伸びた。
昼間の名残は未だ温く、王子様のスカートを揺らした風もまだまだ心地よいとはいえない。
王子様は手を取り腕を組むだけでは飽き足らず、指をしっかりと絡めて恋人繋ぎ。
まぁ、暑苦しいけど、それもまたよし!
家まで数分の距離だが、オレも王子様も歩調は遅く、なんとなくゆるゆると歩いた。
「ハンバーグのソースはデミグラスと大根おろしのどちらがいいんだい?」
「岩塩」
「ふふ、意地を張るものじゃないよ。
カラ・ナマクって岩塩がある。
ハンバーグにあうと思う」
「じゃあ、それで」
「うん、承知したよ」
まぁ、デミグラスソースも大根おろしも食べると思うけどな。
楽しみだ!
「うん、精力剤の効果も楽しみだね?」
「……そんなのいらんわ!」
十代嘗めるなよ!
「舐めるのアレだけかな?」
心を読むな!
「じゃあ、今日はこっちだけだね?」
王子様は手に持っていた『幸福の0.001ミリ 5コ入り』をこれ見よがしに振ってみせた。
「し、仕舞っとけ」
そんな会話をしていると、あっという間に王子様の家に着いてしまった。
「とりあえず、キミはゲームでもしててくれ。
焼くだけだからすぐに準備できるよ。
おなか空いてるだろ?」
「腹は減ってる。
今日からオレも手伝うぞ!」
王子様がスマホを操作して家の鍵を開ける。
王子様に依存しっぱなしではダメだとさっき気づいたのだ!
思い立ったが吉日……というか、すぐに取り掛からないと、またいつのまにか王子様の手のひらの上になってしまいそうだ。
「うーん。
ホントに焼くだけだからなぁ。
付け合せも温めるだけだし。
それなら……サラダを少し凝った物にしようか?
キミは料理がからっきしってわけでもないしね」
「おう。
一通りこなせるから、サラダくらいオレが作るぞ」
「ふふ、それは楽しみだね」
そうして、コンビニで一波乱あったものの、オレと王子様は無事帰宅した。
ハンバーグは美味しかったし付け合せのキャロットグラッセも見事だった。
サラダは切っただけになってしまったが、野菜の品質がよかったし、王子様の
……ちなみに、『幸福の0.001ミリ 5コ入り』は使ったけど使わなかった!
~おしまい~