黒髪ショートカット王子様系幼馴染のオレへの執着が怖い! 作:クリームパイ太郎
「まったく!
なんなんだい、あれは?
何が悲しくて女子同士で壁ドンなんてやらなけりゃいけないんだよ!」
放課後の空は徐々に赤く色づき始め、きれいに瞬く星空を予感させた。
屋上の休息用のベンチに座り、不満をぶちまける王子様を微笑ましく眺める。
オレと王子様の他に誰もいないし、愚痴くらい幾らでも聞いてやるさ。
「まぁ、オマエが王子様だからだろうな」
「あぁ、そうさ!
自らそうあろうとしていたとも!
でも、もうそれは過去の話であって、最近はイケメン王子様っぽい振る舞いは控えているんだ!
いい加減理解しろよ!!」
コイツ今自分のことイケメンって言ったな。
まぁ、事実だからいいんだけど。
「最近は朝からきゃーきゃー言われることが少なくなってきたから良い傾向だと思っていたんだけど……
なかなか上手くいかないね!」
「そうな。
ここの所ずっとオレと一緒に登校してるしな」
そのせいでオレへの風当たりは若干強い。主に王子様の取り巻き達から。
「でも、久々にオマエのイケメンムーブを見れたのはちょっと楽しかったぞ」
王子様が得意げに胸を反らした。
「ボクはイケメンかもしれないけど、女の子なんだ!
キミはよくよく知ってるだろう?
昨夜だって、ボクを散々泣かしたんだからね?
まぁ、それは置いといて!
しかもボクはキミというカレシ持ちなんだ!
キミへゾッコンだっていうアピールがまだ足りないのかなっ?
……いっそクラスの中でディープキスでもしてしまおうか?」
「それは勘弁してくれ」
憤懣やる方ないって感じだな。
プンスカしてる王子様は久々に見るけど、これはこれで味がある。
本音を言ってしまえば、怒っている王子様も可愛いのだ。
あと余計なことはなるべく言わないで欲しい。
「きんつば食べるか?」
「うん」
「ほれ」
「ん」
昼休みに買っておいたきんつばを王子様に食べさせてやる。
きんつばの角に小さく齧り付く王子様。
目を閉じて甘味を堪能しているのをみると、味には満足しているみたいだ。
「もっと」
「はいよ」
王子様は高級品でも量産品でも美味そうに食べる。
「あーん」
「はいはい……っておい!」
きんつばは小さいから三口で完食だ。
オレが王子様の口の中へ残ったかけらを放り込もうとした瞬間、王子様に指ごと食べられてしまった。
指の根元から爪の先まで、オレの指の形を確かめるように丹念に舐められる。
「ん……これはなかなかの一品だね!」
「購買の安物だよ」
王子様が満足するまでしゃぶり尽くされた。
この程度で機嫌が治るなら安いものだ。周りに誰もいないから人目を気にする必要もない。
「ごちそうさま」
ペロリと唇を舐めつつ王子様は律儀に礼を言うと、改めてオレの方へと向き直った。
「さて、それじゃ壁ドンしてくれ!」
「……え?
なんだって?」
別に耳が遠くなったわけではない。
王子様の言葉の意味がわからなかっただけだ。
「だから、ボクに壁ドンしてくれよ?
このままだと壁ドンという行為が、ボクの中で悪いモノになってしまうだろう?」
知らんわ!
「壁ドン自体は悪くないんだ!
むしろボク好みの攻められシチュエーションだね。
それが嫌なモノになってしまうのは耐え難い。
今日の悪い思い出を、キミに壁ドンしてもらうことで良い思い出に上書きしてしまおうってことさ!」
王子様は嬉しそうに立ち上がるとオレの手を引き、わざわざ壁まで歩いていく。
屋上入口からは死角の壁に背中を預けると、準備完了とばかりにオレへと懇願した。
「さぁ、来てくれっ!!」
「来てくれって……」
え? オレが壁ドンするの?
うーん、これで拒否すると王子様がまた不機嫌になっちゃいそうだしなぁ。
別の方法で機嫌を取ってもいいけど、変にこじれるのも避けたい。
まぁ、王子様の望みを叶えることも吝かではない!
労うって決めてたし。
「さぁ!」
「わ、わかったよ」
王子様が今か今かと待っている。
ここまで期待されると悪い気はしない。
オレは王子様のような演技ができるタイプではないんだが、役作りからがんばってみるとしよう。
脳内に昼休みの王子様を思い出しつつ、なるべくその記憶に近づけるように振る舞う。
王子様ならともかく、イケメンでもないオレがやっても絵にならんだろうに。
「……いくぞ」
オレはごくりとつばを飲み込んでから、壁際に追い込むように王子様の前に立つ。
なるべくキリッとした表情になるよう顔面の筋肉に力をいれた。
そして、要望通り強めに片手を壁について、ドン! 王子様の目の前まで顔を近づけた。
王子様もオレに合わせるように、驚き、戸惑い、緊張、少しだけの羞恥を混ぜたような、男心をくすぐる表情をして、弱々しく俯く。
目の逸らし方とか、不安げに壁に添えた手とか完璧だ!
どんだけ演技が上手いんだコイツは!?
ちょっとどころではなく、ムクムクっときてしまった。
よ、よし、次はセリフだ。
昼休みに言ってた王子様のセリフは、たしか……
「オマエ、オレのこと好きなんだろ?」
「……っ」
王子様が息を飲むのが判った。何かスイッチが入ったように見る見る頬が赤くなっていく。
正直、可愛いし色っぽい。
こっちが別のスイッチ入っちゃいそうだよ。
「これでいいか?」
「……うん」
やれやれ。
王子様の様子からすると、十分お眼鏡にかなったみたいだな。
オレが切り上げようとした瞬間、
「もっと……」
「は?」
「もうちょっと……して?
別のセリフとか……」
えー?
この手の少女漫画系のネタはあんまり知らないぞ。
オレは見たことあるネタを思い出しつつ、セリフをひねり出す。
「お、オレのカノジョになれよ」
「……!!」
王子様の目が見開かれて、明らかに嬉しそうだ。
無言のまま人差し指を立てる王子様。
も、もう一回ってことか?
えっと……
「オレのことだけ見てろよ」
「……ぁ」
人差し指が再び差し出される。
なんかオレも調子出てきた……かな?
「オマエのこと誰にも渡さない」
「……ん!」
また人差し指。
く、レパートリーは少ないが、まだイケる!
「オレの気持ち、判ってるだろ?」
「うん」
期待する瞳でオレを見つめる王子様。
そろそろやばいけど、よしっ!
オレは変化を持たせるために、王子様の頭を囲むように両手をついた。
「オマエのこと、好きなんだよ」
「ふぁ……」
さらに期待する眼差し。
「もう、逃さない」
「ひぅ!」
少し顎を引いて、自分の唇をペロリと舐める。しっとりと濡れた眼差しを上目遣いでオレへと向けて、じっと見つめてくる王子様。
「ぅお……!」
くらっとするほど魅力的だし、わかりやすい。
わかりやすいけど!
ええい、ままよ!
ネタ切れだし、この際だ!!
幸い屋上にはオレと王子様しかいない。しかもここなら死角だし、突然誰か来ても取り繕う時間は稼げる場所だ。
オレは王子様の両手を掴んで押さえつけると、
「……んぅ!?」
王子様の唇を強引に奪った。
抵抗はなく、むしろ期待していたようにすんなり受け入れられる。
それどころか、王子様の方から積極的に動き出した。
「ん、ん、んぅ……ふぁ!」
ま、まずい! このままだと……
どんどん熱を増して、王子様が蕩けていく。
上唇を舐め、下唇を啄み、恥ずかしげに舌が絡まり、オレの思考も溶けてしまう。
気がついたら王子様の腰を抱きしめていた。
王子様の両手もいつの間にかオレの首へ回されて、王子様の方からさらに積極的に求めてくる。
息遣い、吐息、心臓の音、王子様の全てに心奪われて何も考えられない。
オレと王子様はただただお互いを求め続けた。
「ぷはぁ……」
時間も忘れて王子様と抱き合っていたが、満足したのか王子様がようやく口を離した。
「あ、ぅ、その、離してくれ……」
「え?」
「我慢……できなくなってしまう」
無意識のうちに王子様の胸に触れてしまっていた。
王子様は王子様でオレの首筋に顔を押し付けて、すんすんと鼻を鳴らしていて、自分からは離れようとしない。
オレは慌てて手を離した。名残惜しいが、抱いていた王子様を解放する。
「あん!」
「ぅ、あ、す、すまん」
「ふふ、悪くはないよ。
キミの迫り方、男らしくてボクもうたじたじだった」
「そ、そうか?」
「うん、やはり壁ドンはするよりもされる方が断然いいね。
すごくどきどきしたよ?」
王子様が何かを期待するような目をオレへと向けてくる。
だが、学園ではまずい!
柔らかくて温かい感触が手のひらに残っていて、意識せざるを得ない。
さ、さすがに学園ではまずいっっっ!!
「ボク、すごくどきどきしたんだ。
キミはどうだった?」
「オレ、は……」
が、学園では、まず……い……
「ボクを追い詰めて、気持ちよくなかったかい?」
「あ、ぅ……」
正直、気弱そうに俯く王子様を見て、めちゃくちゃに……
「……ちゅ」
王子様の唇がオレの顎先に触れて、脳が甘く痺れる。
「キミから壁ドンしてきたんだ。
ボクのどきどき……
ちゃんと責任取ってくれよ?」
……あぁ、そうだ。
オレが壁ドンして王子様へ迫ったんだから、きちんと責任を取らないと。
「
きっと誰も来ないよ?
だってキミとボクが二人きりでいるんだ。
逢瀬の邪魔する輩なんているはずないじゃないか」
そうだ、王子様の言うとおり。
放課後にわざわざ屋上に来る奴なんていない?
オレと王子様が二人きりでいるんだから、邪魔されることなんてあるはずがない?
あぁ、なんか考えるのが億劫になってきた。
再び王子様が壁へともたれ掛かり、オレのことを誘ってくる。
「もう一回してくれるよね?」
「あぁ……」
オレは王子様の望み通り、力強く拳で壁を叩く。
王子様も慣れてきたのか、さっきよりもより弱々しくオレを誘うように俯いて、まるで襲ってくれといわんばかりじゃないか。
オレは壁に肘までついて、より王子様に顔を近づけて、
「オレのモノになれよ」
「うん、ボクはとっくの昔にキミのモノさ。
ふふ……」
従順な返事と王子様の妖しい微笑み。
オレは肉食獣さながら犬歯を剥いて、王子様へ迫る。
後から思えば、これは王子様的にしてやったりの笑みだったのではないだろうか?
それとも壁ドンされることが、思ったよりも楽しかったのか?
……両方か?
オレは王子様の思惑通り、念願通り、希望に沿って、とうとう学園内で襲いかかってしまった。
~つづく~