黒髪ショートカット王子様系幼馴染のオレへの執着が怖い! 作:クリームパイ太郎
「何を調べてるんだい?」
「ん、あぁ……」
王子様の問いかけに、オレは生返事を返した。
「なんだよー。
可愛いカノジョがそばにいるんだぞ!
ボクの方を見ろよー」
王子様に肩を揺さぶられて画面が見づらい。
「わかったから、服を引っ張るな」
スマホから顔を上げると、膨れっ面の王子様が視界に飛び込んできた。
ふむ、不満顔も可愛いと思ってしまうのは、カレシとしての贔屓目だろうか。
王子様はオレの肩から手を離して、どすんと前の席に座った。
「やれやれだよ。
ボクはもうキミと付き合っているというのに、未だにラブレターを送ってくる輩がいるんだからね。
やはりまだまだ周知が足りないってことなんだろうか?」
「それを承知でラブレターを送ってきてるんじゃないのか?」
今日も女子から貰ってたしな。
イベント事にしたがったミーハーな女だろう。
「それはそれで質が悪いと思うんだけどね。
人の恋路を邪魔するってことに他ならないわけだし。
でも、今日の手紙の内容は違っていてね。
どうやらキミとボクが付き合っていることを知らないようだったんだ。
だから断るついでに、如何にキミとボクが親密かつ濃密な関係であり、通い合った心には他者が入り込む余地はカーボンナノチューブほどの隙間もなく、結ばれた絆は六方晶ダイヤモンドよりも固く、一日のセッ……夜の押しくら饅頭の回数は両手の指でも足りないってことを、滔々と語ってあげたんだ。
夢見る乙女の仕草でね!
なかなか気持ちよかったっ!」
「ほ、ほどほどにな」
王子様が最後に不穏当なことを言ったような気がするけど、聞かなかったことにしよう。
オレは恐る恐る教室内を見回したが、どうやら王子様の言葉はオレの耳にしか届かなかったようだ。
教室も放課後になると人はまばらだ。
まだオレと王子様を含めて数人は教室に残っている。
王子様はそんなクラスメートのことなど気にせず、愚痴を漏らした。
オレと王子様が付き合っているのは、すっかり広まってしまったと思っていたんだが、そんなこともないようだ。
「うん、やっぱり、学園内でももっといちゃついた方がいいのかもしれないね!
キミとボクが付き合い始めたことを知らない人間がいるってことはアピールが足りないってことだ。
よし、明日から腕を組んで登下校しようか?
お昼ご飯もボクが食べさせてあげるね?
飲み物は口移しでいいかい?
デザートはボクで決まりだね?
放課後は人気のない教室や体育倉庫、保健室や視聴覚室、屋上……はもう済ませちゃったけど、いろいろなところに
「か、勘弁してくれ」
普通に恋人らしいことをしていればいいのだ。
王子様は性急にことを進めたがるんだが、慌てなくてもいいだろうに。
「そんなことはない!
早ければ早いほどいいよ。
それに見せつけプレイはボクの好むところだ!」
「オレの心を読むなよ。
あとプレイって言うな」
「……見せつけ行為?」
「漢字にしろって意味じゃねーよ」
「まぁ、いずれにせよ、今日の出来事でアピールが必要なことは痛感した。
キミにも協力してもらうからね?」
一体何をさせられるのだろうか?
オレは戦々恐々としていたが、王子様は一通りしゃべり散らかして満足したようだ。
おもむろに机の端に置いてあったオレの缶コーヒーを取ると、自分の物であるかのように飲み始めた。
「む!
ブラックなのに何だか甘い感じがするね?」
「勝手に飲むな」
「キミのモノはボクのモノだし、ボクのモノはキミのモノだよ?
円環は閉じて最早キミとボク以外何もいらないね?」
「わけわからん!?」
「さぁ、さっきの宣言通り口移しで飲ませてあげよう!」
コーヒーを口に含んで身を乗り出してくる王子様。
「い、今はいいから!」
「ふふ、
「あ……」
思わず漏らしてしまった言葉に王子様は満足そうに頷くと、大人しく椅子に座り直した。
オレは安堵の息を吐きつつ、再度スマホの画面を操作する。
「で?
何を調べているんだい?」
「ん、あぁ……」
さっきと同じやりとりだ。
「なんだよー。
可愛いカノジョがそばにいるんだぞ!
ボクの方を見ろよー」
王子様もまったく同じ台詞を言って、オレの肩を揺さぶってきた。
まぁ、王子様もわかってやってるとは思うんだが。
なんか言い出しにくくなってしまったな。
何のことはない。
最近王子様と遠出してないなー、と思って日帰りできるデートスポットを検索していただけだ。
「ふむ」
「な、なんだよ?」
肩から手を離して、王子様はまじまじとオレの顔を覗き込んできた。
「で?
どこに連れて行ってくれるんだい?」
「わかってんなら大人しく調べさせてくれよ!」
なんか恥ずかしいぞ。
「まだ決められてないんだけど、リクエストある?」
オレはスマホを操作しながら王子様へと尋ねた。
お、ちょっと遠いけど海沿いにある甘味処の評判が良いみたいだ。
ここなんかどうだろう?
「むぅ……」
王子様がなんか不満そうだ。
むむ、これはカレシとして行き先を決めきれていないことに遺憾の意を表しているってことなのかな?
「あぁ、違うんだ。
デートの行き先を一緒に決めるとか恋人らしくて良いじゃないか」
王子様は腕を組むと、眉根を寄せて考え込んだ。
「ボクの方の問題だからキミは気にしなくていい」
んんん?
なんだ? 珍しいぞ。
王子様は気に入らないことは気に入らないって言うしな。
ここははっきりさせておいた方が良さそうだ。
「なんだよ。
気になるだろ?
言えよ」
「あー、うん。
ホントに大したことじゃない。
解決方法も思いついているし」
「ほほう」
「まぁ、なんだね。
キミがボク以外のモノを頼ることが気に入らないんだ。
それが検索アプリだとしても!」
「いや、オマエそれは……」
「わかってるよ?
さすがに無茶を言っている」
王子様は腕を組んだまま、目を瞑った。
「キミがボク以外の誰かから――何かから影響されることが気に入らない!」
「検索しただけで影響なんて受けないぞ」
王子様がクワっと目を見開いた。
「気に入らないっ!」
「あ、はい……」
「影響っていうか……
例えば、さっき探していたデートの行き先だって、キミはボクに尋ねれば良いんだ!
ボクなら検索エンジンよりも詳細な情報を提供できる。
ただしキミが関わっていることに限るけど」
要するに王子様としては、『自分を頼れ遠慮をするな』ってことなんだろうな。
うーん、今も頼り切ってるんだけどなぁ。
「いいや!
まだ全然足りないね!!
おはようからおやすみまで。
キミはもっとボクにいろいろなことをお世話されるべきなんだ。
朝はボクが優しく起こすまで起きなくていいし、夜はボクが添い寝して一緒に寝るよ!
着替えもボクが手伝う。
ぱ、パンツとか履かせたいかな?
もちろん、朝ごはんは食べさせてあげるし、お弁当も作ってあげるし、夕飯だってキミはただ口を開けて待っていれば良い。
お風呂だってボクが入れてあげるからね?
身体の隅々までボク
そしてお待ちかね!
知っての通り、夜のお世話もお手の物だよ?
あ、夜だけじゃないね?
もちろん朝からだって構わないし、学園でも
すぐにでも対処するぞ」
「も、もうちょっと声を抑えてくれ。
周りに聞こえるから」
あと、王子様の言う通りにしたらオレはホントに指一本動かせなくなりそうなんだが……
「大丈夫!
これもアピールの一環だ」
「あ、あんまり大丈夫じゃないんだが」
いつの間にかクラスメートたちは何処かに行ってしまったようだ。
帰宅したのかもしれないし、部活動に行ったのかもしれない。
オレと王子様の会話に、居た
「ふむ、ボク達もそろそろ帰ろうか?
それとも
「と、図書室に行って課題を見てくれないか?
英語の課題がちょっと不安で……」
「そうそう!
そうやってボクのことをもっと頼ってくれ。
それに……図書室ってことはアレだろう?
死角がいっぱいあるから、ボクに声を押し殺させて……ふふ。
キミもなかなか策士だね?
課題にかこつけて、屋上に続いて図書室も……ってことなんだろう?」
「そんなこと欠片も考えてなかったよ!」
「はっはっはっ!
さぁ、図書室も制覇しに行こうじゃないか!」
「課題をやるって言ってるだろうが!」
王子様はカバンを持って立ち上がると、意気軒昂に図書室へと向かう。
オレもカバンを引っ掴むと、王子様の後を追った。
~つづく~