※この作品はR-18です。

黒髪ショートカット王子様系幼馴染のオレへの執着が怖い!   作:クリームパイ太郎

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王子様と乗りたい車

「珍しいね?

 中古車情報サイトを見ているのかい?」

 

「んぁ!?

 あ、あぁ、そうだけど……」

 

 スマホを見ているオレに、向かいに座っている王子様が図星を突いてきた。

 

 なんでオレのスマホ画面を見てもいないのにわかるんだよっ!?

 

 ニコニコとした笑みをオレへと向けてきているけど怖すぎる!

 

「ふふ、キミの行動はボクが全て監……見守っているからね。

 安心安全!

 この世全ての悪いことからキミを守護するよ?」

 

「あ、ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 アフラ・マズダーかな?

 

 組んだ手にあごを乗せて小首を傾げる仕草はとても可愛いんだけど。

 

 とろりとした視線はオレを身震いさせるくらいには重たかった。

 

「…………」

 

 まぁ、いいか。

 

 相変わらず王子様の部屋で課題をこなした後、今日は何をするでもなく過ごしていたんだけど。

 

 まだ夕方だしね。

 

「で、どうしたんだい?

 車に興味なんてなかっただろうに。

 ここ最近キミの日常に車に興味を持つようなイベントごともなかったし。

 ゲームでもアニメでも漫画でもね。

 ボクが知らないうちに他の人間の影響を受けた……なんてこともありえないし。

 ……許さないし」

 

「あぁ、別になんてことはないぞ。

 遠出するのに便利だと思っただけだから」

 

 まぁ、まだ免許を取れる年齢でもないし、車を購入できる経済力もないんだけどね。

 

 考えるに至った発端は王子様と遊びに行ったことがきっかけだった。

 

 先日、あとは結果を待つばかりとなった試験明け休み。平日に王子様とのデートで県外の遊園地に行ったんだが、帰り道にちょうど帰宅ラッシュに巻き込まれてしまったのだ。

 

 世の中の社会人はとても大変だと痛感させられたが、なによりも……

 

「なるほど。

 ボクを満員電車に乗せたくないってところかな?

 ふふ、ボクとしてはキミが必死になって満員客から庇ってくれる様を眼前で見せられて身体が熱くなってしまったよ?」

 

「あ、あんまり見透かさないで欲しいんだけど……」

 

 あと電車内で無駄に挑発してくるのも如何な物かと。

 

 胸は押し付けてくるし、下半身にはイタズラしてくるし!

 

 熱っぽい濡れた瞳でおねだりしてくるし!!

 

 デート先でも散々っぱらヤンチャかましてくれたのに!

 

「見知らぬ土地で開放的になってしまったんだ。

 ふふ、今思い出してもなかなか良い塩梅だった」

 

 行ったことのない場所だったし、顔見知りにあう可能性も低いしね。

 

 オレもテンション上がったし、王子様とのデートなんだから楽しくないわけないしな!

 

 ただ遊園地内ではことあるごとに接触というか、密着というか、乳繰り合いというか……

 

 お化け屋敷の暗がりで!

 

 ジェットコースターで!

 

 メリーゴーランドでさえ!

 

 さらに巨大迷路の片隅では!?

 

 極め付けは最後に乗った超定番の巨大観覧車!!

 

「一周30分程度だからね。

 ふふ、ほんとはキスだけで終わるつもりだったんだけど?

 急げばぎりぎり間に合うと思ってたんだ。

 大体計算通りだったよ?」

 

 暮れなずむ夕日をバックに、観覧車の頂点でロマンチックに決めたはずだったんだけど、そこで王子様のスイッチが入ってしまったのだ。

 

「だってしょうがないじゃないか。

 あんな夕日の角度まで計算されたシチュエーションを用意されてしまったら、ボクもキミの労力に応えたくもなるだろう?

 キミの画策したロマンチックな演出にボクはもうめろめろさ」

 

 遊園地の混み具合から観覧車に並ぶ時間を緻密に計算した結果、観覧車の頂点で、狙い通りのロケーションを王子様と迎えることができたんだが。

 

 あんなに蕩けた王子様を前にしたらオレも抑えが効かなくなってしまっても仕方がなかったんだ!

 

「なんと言ってもガラス張りのカゴというのが新鮮だった。

 キミと二人きりの密室だというのにあの開放感!

 あれは素晴らしいね!!

 なんとか応用して我が家の設備にも導入したいものだよ」

 

 マジックミラーの部屋でも作るつもりか?

 

 まぁ、あのガラス張りのゴンドラは確かに楽しかった。

 

 観覧車の高度と共にドキドキも上がってくみたいな?

 

 王子様もおっかなびっくりな笑顔でオレにしがみついてくるし!

 

 ……観覧車の頂上で致してしまった伏線ではあったんだけどね。

 

「ボクの大好きな見せつけプレイにはぴったりのアトラクションだったね!

 おそらく後ろに並んでいたカップルも、キミとボクのらぶらぶっぷりに当てられてハッスルしたに違いないよっ!」

 

「見せつけプレイとかいうな!」

 

「ふふ、なんだったら全世界にアピールしたいくらいなんだ!

 無理な相談だね?」

 

「い、イチャつくくらいで勘弁してくれ」

 

 王子様は意味ありげに口の端を釣り上げて、特に明確な返事をしてこなかった。

 

 いいんだけどね、別に。

 

「それで、お気に入りの車はあったのかな?」

 

「うん?」

 

 あぁ、中古車情報サイトなんて見てたら車の購入欲があると思っても自然だろう。

 

 オレとしては王子様に言われた通り、満員電車に王子様を乗せたくないってだけなんだよな。

 

「あぁ、そうだな……」

 

 王子様ならどんな車に乗るのが似合うだろうか?

 

 スポーツカーとか?

 

 自動車なんてまったく詳しくないんだが、スポーティーなクーペとか似合いそうだ。

 

 オープンカーで真っ赤なヤツ。

 

 あとは可愛い系の車も似合うかもしれない。

 

 レトロデザインのコンパクトカーとか?

 

 この場合、カラーリングはポップな方が良いだろう。

 

「これとかどうだ?」

 

 先程からチェックしていたURLを再度開き直して王子様にスマホの画面を見せた。

 

 とりあえず値段には目を瞑る。

 

 王子様に似合いそうな国産のオープンツーシーターだ。

 

「ふむ」

 

 王子様はあごに人差し指を当てて、ページに表示されている車の画像を吟味しているようだ。

 

「キミに似合いそうだね。

 軽快な走りが想像できる取り回しの良さそうな車だ」

 

「い、いや……」

 

 王子様向けの車をチョイスしたつもりだったんだが、なんか喰い付きが悪い……?

 

「うん?

 どうしたんだい?

 いい車だと思うよ。

 男子の心をくすぐるよいデザインだ」

 

 そ、そうではなくて……

 

「こ、こっちはどうだ?」

 

 今度は外国車だ。

 

 某ハンターの愛車。これも王子様に似合っている……と思う。

 

「あぁ、こっちもかっこいいね。

 こんな車からキミが降りてきたら、ボクは思わずどきっとしてしまうよ!」

 

「そ、そうか。

 ありがとう」

 

 なんか王子様の反応が思ってたのと違う!

 

 にこにこと嬉しげに返事してくるんだけど、もっとこう……車に乗って何処其処に行きたいとか。

 

 王子様なら車を所持してからの建設的なデートプランとか出てきそうなもんなんだが。

 

「ふふ、キミのナビシートに座るのはボクだからね。

 二人乗りってのはありよりのありだ!

 こっちの外車の方も小さいけど、密室に二人きりって感じは悪くないかもしれない。

 でもちょっと狭いのは……」

 

 ん? 狭い?

 

 あぁ、なるほど!

 

 王子様の好みは大きな車種だったのか。

 

 これは意外だ。

 

 可愛いもの好きだと思ってたんだが、車に関しては厳つい系が好きだったりするのか?

 

 ってことはSUVとかかな?

 

 四輪駆動のマッチョな車から王子様みたいなのが降りてくるとか、ギャップ萌はありかもしれない。

 

 ふむ、素直に王子様の好みを聞いてみようか。

 

「オマエだったらどんな車を選ぶんだ?」

 

「ボクかい?

 そうだね……」

 

 そう言いながら王子様はオレのスマホを操作して中古車情報サイトを見始める。

 

 け、検索履歴とか見ないよな?

 

「あ、これいいな……

 ボクはこれがいい!」

 

 そう言いながら、スマホの画面をオレへと向けてきた。

 

「こ、これは……」

 

 そこには王子様にはあまりにも似つかわしくない、ほぼ飾り気のない真っ白なバンが表示されていた。

 

 超有名自動車ブランドの商用車だ。

 

 過酷な使用環境にも耐え、積載量の多さから運送、送迎にも使われ、モデルチェンジしつつ今なお売れ筋のロングセラー車。

 

 かろうじてルーフにキャリアが着いているけど、中古車なせいか、正直なところ表示されてるバンにはおしゃれ要素のひとつもないぞ。

 

 ラインナップとしてはファミリー向けもあるようだが。

 

 王子様とのギャップにも程があるんじゃないか。

 

「荷物スペースが大きいんだ!

 シートを倒せばフルフラットになるみたいだね」

 

「ほぅ」

 

 キャンプとかに活用できそうだな。

 

 王子様にキャンプの趣味はなかったはずだが、二人で行けばきっと楽しいだろう。

 

 さらりと冷えた水が流れる川ではしゃぐ王子様とじゃれあったり、前日に二人で準備した具材を慣れない火起こしでバーベキューしたりとかな。

 

 キャンプ場を散策するだけでも王子様とならわくわくするんだろう。

 

 夜は焚き火をしながらマシュマロ焼いて。

 

 自然の中で虫の声を聞きながら、王子様と星空を見上げるなんてなかなかいいじゃないかっ!

 

「なるほど」

 

 自動車にかっこよさよりも利便性を求めるあたりが、王子様らしいといえばそのとおりだ。

 

「ふふ、キミも気に入ってくれたみたいだね」

 

 得心しているオレに、王子様も我が意を得たりって感じで上機嫌だ。

 

「この広さだったら内装にこだわりたい」

 

「おお、いいんじゃないか?」

 

「うん!

 できれば可愛い系の内装がいいんだけど……」

 

「おう、もちろんオマエ好みで構わないぞ」

 

 出た! 王子様の乙女全開ムーブ。

 

 やっぱり可愛い物が好きなんじゃないか。

 

 外見こそイケメンそのもの(最近は女子全開の時もある)だし、いかつい車から降りてきてもそれなりに絵にはなるんだろうが、基本的な好みは乙女そのものなのだ。

 

 王子様を意識して演じてきた反動かもしれない。

 

「ふふ、明るめの内装がいいかな。

 カーテンはピンク? シックな色もいいかもしれない。

 車内に照明を設置して少しムーディーにしたいところだ。

 インテリアには力を入れたいね。

 LEDイルミネーションとか良い。

 荷物スペースがフラットになるんだから、そこにマットレスもあったほうが良いよね?」

 

「そうだな。

 横になれるんだったら、その方が快適だろう」

 

 車中泊キャンプだったらアリだな。

 

「うんうん!

 ポータブル電源も用意すればさらに便利だ。

 車載用の冷蔵庫なんてのもあるみたいだから、これで水分補給もぬかりなし!」

 

「おお!」

 

 あんまり便利過ぎるキャンプってのもオレ的にはNGなんだが、王子様を熱中症にするわけにはいかないし、緊急事態にも備えておいた方がいいだろう。これくらいは許容範囲だ。

 

 なかなか夢が膨らむぞ。

 

「キミが運転して、ボクがナビシートに座る。

 いろいろな場所を観光したり、遊びにいったり、それこそ旅行もそのまましたり!」

 

「あぁ、すげー楽しそう」

 

「宿をわざわざ取らなくても経済的だ。

 お風呂は温泉や銭湯なんか探せばいいし」

 

「それもありだな!」

 

「ふふ、なんといっても誰にも邪魔されずにキミとボクの二人きりの空間を家の外でも作れるってのは素晴らしい!」

 

「お、おぅ!」

 

 まぁ、王子様の癖も今に始まったことじゃない。

 

 王子様は己の理想通りの旅行を想像したのか、両手を組み合わせてうっとりと虚空を眺めて……

 

「これでボクオリジナル!

 移動型ラ◯ホテルの完成だ!」

 

「アホカー!」

 

 まさにアホ車になっちゃうじゃないか!

 

「いやいや、考えてもみてくれよ?」

 

「何をだよ?」

 

 王子様は何が根拠なのかわからんが、自信満々に胸を張る。

 

「時も場所も選ばずキミと色々と致すことができちゃうんだ!

 こんなに素晴らしいことが他にあるかい?」

 

 あるだろうが! 名所を巡るとか、郷土料理を満喫するとか!

 

「わ、わざわざ車の中で……」

 

「旅先で、むらっときたら、即解消!

 キミの下半身のお世話はすべてボクにまかせてくれっ!」

 

 王子様はオレの言葉を遮って、満面の笑顔をオレへと向けてきた。

 

 オレは王子様のあまりにも堂々たる態度に、二の句が告げず口をパクパクさせるしかなかった。

 

 ……あとちょっと良いかもって思ってしまったし!

 

「ふふふ、夢が膨らむね!

 胸も膨らむね!

 ついでにキミの股間も膨らんじゃうかな?

 この車はオプションもカスタマイズパーツもたくさんあるみたいだね。

 これはいっそボク自身でいろいろカスタムパーツを作ってしまうのもありだ!」

 

 お、王子様ならホントにやりかねん!

 

「あぁ、どんな改造をしようか?

 窓は当然マジックミラーにして擬似的な見せつけプレイを実現しよう!

 ってことは車体自体は注目されるようなギミックが欲しいね。

 キミとセック……()()()()いるときはヘッドライトをピンクで点滅させるとか?

 いや、いっそフロントガラスに()()()とか表示してしまおうか……」

 

「や、やめてっ!」

 

「待てよ……

 そもそも移動時間が勿体なくないか?

 カレと二人きりの空間とは言え、カレは運転に集中しないといけないし。

 ここは自動運転をさっさと実用化して、移動中もカレと()()できるように……」

 

 待つのはオマエだよ! 

 

 でかい車はダメだ。

 

 王子様が何をしでかすか全く読めないっ!

 

「こ、こっちはどうだ?」

 

 オレは自分が気になっていた車のページを表示して王子様に見せた。

 

「ふむ、どれどれ」

 

 今度は一斉を風靡した軽クロスオーバー車だ。

 

 日本を代表する漫画家がイメージイラストを描いていて、車に興味がなかったオレでも知っているくらいだ。

 

「可愛らしいデザインだ。

 車内はそこまで広くなさそうだけど、キミが好きならこっちもありだね。

 後ろのドアは開け放ってしまえば開放感もありそうだ」

 

 だ、ダメだ。

 

 どうしても車内でその……致すことが前提になってしまっている。

 

「オレ的にはスポーツカーもありなんだ!」

 

 二人乗りの車を表示すると、王子様からも意見が出始める。

 

「うーん。これだと流石に狭すぎないかい?」

 

「いやいや、二人で出掛けるんだし問題ないだろ?」

 

「ちょっと仕様を確認してみようか」

 

 王子様がオレからスマホを取り上げると詳細を確認し始めた。

 

 出力だの燃費だのいろいろ細かな情報が記載されているが、王子様が気にしているのはやはり車内空間のようだ。

 

「むぅ、なかなか狭いね。

 これだとキミの苛烈な腰使いに翻弄されたボクが頭をぶつけてしまうかもしれない。

 キミから与えられる痛みは甘美なんだけどね?

 でも天井にぶつかっちゃうのは興醒めかも知れない。

 あ! でも壁に押し付けられて力強く後ろから小突き回してもらうのはありだよ?」

 

「か、苛烈とか言うな……」

 

「でも、実際容赦なくボクのことを責め立てる様は苛烈の一言で表すにはあまりにも貧弱な表現だと思うんだ」

 

「あ、う……」

 

「ねっとりとしつこく!

 弱点を付く時は容赦ないのに、焦らす時はこれでもかってくらいねちっこく焦らされるし!

 ボクが涙ながらに懇願するまで……」

 

「わ、わかったから!」

 

 これ以上は藪をつついて蛇がでてきてしまう。

 

「ふふ、まぁ、いいよ?

 ボクとしてはキミからの責め手はご褒美のようなものだからね」

 

「お、オレそんなにしつこい?」

 

 王子様は意味ありげに口の端を上げて、にやりと笑った。

 

 そして、オレへの質問には回答せず勢いよく立ち上がる。

 

「よし!

 じゃあ、まずは試してみようじゃないか?」

 

「試す?」

 

「少し待っていてくれ」

 

 そう言うと、王子様は部屋から出ていってしまった。

 

 何をするつもりだ?

 

 王子様の行動に追いつけず、ポツンと一人部屋に残されてしまった。

 

 しょうがない。王子様を説得する材料でも探そうかな。

 

 と、さらに中古車情報を検索しようとしたら、王子様はすぐに戻ってきた。

 

「む、ボクの部屋に一人で居るのに、キミはなんでボクの部屋を物色していないんだい?

 隙あらばブラジャーをメガネ代わりに、パンティーを被ってお面ライダー!

 ……くらいのことはしたっていいんだよ?」

 

「しないわ、そんなことっ!」

 

「ボクの下着がいつのまにか減っていないことには遺憾の意を表明するよ」

 

「だから、しないって!」

 

「いいかい?

 キミとボクは健全な恋人同士なんだ。

 カレシであるキミがカノジョであるボクの下着をはむはむしたって、それは恥ずべきことではないんだよ?」

 

 そんな真面目で真摯な表情で説得するように言うんじゃないよっ!

 

 今のオレの顔は苦虫でも噛み潰したような、渋い表情だろう。

 

 だが、王子様はそんなことはお構い無し。

 

「さぁ、そのどろどろとしたマグマのように滾る欲望をボクにぶつけるんだ!

 いや、むしろボクとしては大歓迎と言っても過言ではないね」

 

 過言だよ!

 

 胸の谷間を強調しつつ、オレに迫りくる王子様にオレは極力平静を装って、先を促した。

 

「で、オマエは何をしたいんだ?

 ……座椅子?」

 

 王子様は2つの座椅子を抱えて戻ってきたのだ。

 

 流石に荷物を抱えて迫られても、いまいちノれないぜ。

 

「うん。

 これは運転席と助手席だ」

 

 小さめでパステルカラーの座椅子。イエローとピンクが可愛らしい。

 

 王子様の部屋にあっても違和感はないが。

 

 運転席?

 

「配置はこんな感じかな?

 そして、このテープを張って……」

 

 王子様は機嫌よく2つの座椅子を並べ、さらに黒と黄色の危険を警告するテープを絨毯に貼り付ける。

 

 珍しい物を持っているもんだ。

 

 並列に並べた2つの座椅子と、それらを囲む警告テープ。

 

 なるほどね。

 

「囲ったテープはさっきキミが見せてくれた車の車内空間の広さと概ね同じだよ。

 で、この座椅子が運転席と助手席だね。

 さぁ、キミは運転席の方に座ってくれ」

 

「まぁ、いいけど」

 

 オレは王子様に促されるままに、座椅子へと座る。

 

 王子様も嬉しそうに隣の助手席に座って、なぜか洗面器を渡してきた。

 

「なにゆえ洗面器?」

 

「うん、ハンドル代わりだね」

 

 オレは洗面器を構えて、なんとなく運転している感じを出してみる。

 

 同じ方向を向いて、並んで座るオレと王子様。

 

 ありあわせだし良いんだけど、なかなか間の抜けた光景かもしれない。

 

「で、どうだい?

 ちょっと狭くないかい?」

 

「確かに……」

 

 四方を囲ったテープを見回せば、たしかに狭い。

 

 運転席代わりの座椅子のすぐ近くにテープが貼り付けられているのが判る。

 

「ふふ、でもボクとしては前言を撤回しないといけないかな?」

 

「ふむ?」

 

「この狭さは逆にありかもしれない」

 

「まぁ、こじんまりとしたスペースって秘密基地感があってオレは悪くないと思うんだけど」

 

「いや、それには同意するんだけど……

 えっと、まずはキミは運転するふりをしてくれ」

 

「了解だ」

 

 ごっこ遊びかな?

 

 付き合うことはやぶさかではないぞ。

 

「デートの帰り道、はっちゃけすぎたキミとボクはちょっと遅くなってしまって高速道路の渋滞に捕まってしまうんだ」

 

 この前のデートでも想定外はあったからな。移動手段が車に変わると満員電車から渋滞に変わることは想像できる。

 

「でも、キミとボクの二人だけの空間だからボクとしては楽しくないわけもなく!」

 

 そう言いながら、王子様は満面の笑顔で手を伸ばしてきた。

 

「ちょっ!?」

 

 オレの股間に!!

 

「ふふ、こんな感じでキミのちん……キミを労い放題だね!

 デートでもがんばってくれたし、ボクとしてはいち早く感謝を伝えられて満足できるだろう」

 

「運転中はダメだからな!

 危ないだろう!」

 

「まぁまぁ、ホントにするかどうかは置いておいて今はシミュレーションみたいなものだし」

 

 さらに今度はオレの下半身へ向けて、王子様が上体を倒してくる。

 

「ちょ~~~っ!?」

 

「と、このように狭い車内だとフェ……フェ……尺八もすぐに実行可能だねっ!」

 

「言い方が古いっ!?」

 

 尺八ってのは日本の木管楽器であって決して変な意味ではないんだからねっ!

 

 王子様はさらに体勢を整えたり、腰を曲げる角度を調整したりシミュレーションに余念がない。

 

 すんすんと鼻を鳴らして、

 

「ふふ、良い匂いだ」

 

「ちょ、やめっ!?」

 

 このまま放置してると王子様に強引に()()()()させられてしまいそうだ。

 

 オレは慌てて王子様を起こして、ハンドル代わりの洗面器で下半身を隠した。

 

「確かに狭いことは判ったぞ!」

 

「うんうん、それにはそれでメリットがあることもわかったね!」

 

「別に車ってのは移動手段なんだからな?

 決してセッ……その手のことをするための道具じゃないからな?」

 

「でも世の中には車内で致すというカーセッ……」

 

「それはそれ!

 基本的に危ないことはしちゃダメだ」

 

「むぅ、それはそのとおりなんだけど……

 サービスエリアとか巨大ショッピングモールの駐車場のすみっこなら大丈夫だと思うんだ」

 

 王子様は不満そうに口を尖らせた。

 

 もちろん王子様と同じでオレも()()()のことを考えないわけじゃないんだが、そもそも車すら持っていないのに、いきなりそっち方面に行くのは間違っているだろう。

 

「じゃあ、次のシミュレーションにいってみようか?」

 

「次って……おお!」

 

 オレの上に影が落ち、王子様の美麗な顔が間近に迫る。

 

 助手席から立ち上がって王子様はオレへと跨ってきたのだ。

 

「ふふ、狭いとどれくらい()()しにくいかのテストだね

 テープの枠外に出るのはルール違反ってことにしようか」

 

 だから、わざわざ車の中を想定しなくても……と思ったのも束の間、王子様の大きな胸が押し付けられた。

 

 顔に。

 

「ほらほら、柔らかいだろう?

 ボク的には助手席ごと押し倒して欲しいとこなんだけど、これはなかなかありだね?

 ……そして、()()()もあっという間に準備完了だ」

 

「いや、オマエこれはしょうがないというか……」

 

 柔らかいし、あったかいし、良い匂いだし。

 

「ふむ、車内は狭いから必然的にボクが上の体勢になってしまうね?

 でも密着できるのは素晴らしい!

 これは新発見だ」

 

 新発見も何もこの体勢以外に取りようがないのは、一目瞭然だろうが。

 

「この体勢だとオマエの頭が天井にぶつかると思うんだけど」

 

「じゃあ、オープンカーって設定で!」

 

 都合のよいことだ。

 

 オープンカーの方が王子様好みなんだろうけどさ。

 

 丸見えだし……

 

「あ、もしかしてキミはこれも想定内だったのかな?

 頭をぶつけないようにキミにしがみつくしかないボク!

 弱点を知り尽くしたキミのいじわるな腰使いにボクは抗うことも叶わず、為すすべもなく翻弄され続けるって寸法だね!

 なかなかの策士だ」

 

「違うわいっ!」

 

 ぐぬぬっ! 王子様の言葉に、想像しただけで下半身が熱くなってしまったじゃないか。

 

「よしよし!

 さっきよりも準備が進んでしまったね?

 じゃあ狭い車内と広い車内のどちらが良好か比べてみようか?」

 

「広い車内の準備は?」

 

「そこに使い慣れたベッドがあるね?」

 

「さいですか」

 

 返事を受けて、王子様の嬉しそうな顔が近づいてくる。

 

 オレと王子様は車内の広さ比べを始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ!

 ちょ、ちょっと待ってくれ!!

 テープからはみ出てしまってるじゃないかっ!

 ルール違反……ひんっ!」

 

「いいから、いいから」

 

「ひぅ!

 ホントに! ちょっと待ってくれ!

 これ以上は……

 ボク、最近キミの前で粗相させられてばかりだからっ!」

 

「大丈夫、大丈夫」

 

「大丈夫じゃな……っあぁ!」

 

「お、なぜかこんなところに洗面器があるぞ?

 今日はシーツの洗濯しなくていいようにしような?」

 

「あぁ、それはいつもキミがやめてくれないから!

 ひぃっ! もう、ボクもう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

おしまい

 

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