黒髪ショートカット王子様系幼馴染のオレへの執着が怖い! 作:クリームパイ太郎
「配信か……」
休日の昼下がり。
王子様の部屋でのんべんだらりと過ごしていると、タブレットを眺めていた王子様がポツリとつぶやいた。
ゲームの攻略動画を見ていたオレは、一瞬、王子様が何を言ったのか理解できなかった。
スマホに映されたゲームキャラはボスの攻撃をタイミング良く避けながら、攻撃をヒットさせていく。
――王子様が、配信……?
王子様から漏れ出た言葉が脳内に染み渡り、攻略動画が終わる頃にようやく理性が追いついた。
「は、配信って……SNSとか?」
「そうだね。
今、ボクを放っておいてキミが見ている動画も配信といえば配信だね」
ちょっとだけ頬を膨らませて、オレを見つめてくる王子様はわかりやすく不満を現していた。
が、今はそれをフォローすることも出来ない。
「きょ、興味あるのか、配信に?」
スマホを持つ手が震える。
制御しきれない身体の動きに、混乱を自覚しながら尋ねずにはいられなかった。
コイツが配信なんかしたら大変なことになるのでは?
少なくとも学園の連中はこぞって視聴するだろう。
コイツの取り巻き連中から誘われているのは何度も耳にしている。
『王子は配信とかしないんですか?
チャンネル開設したら絶対視ます!』
なんて声は漏れ聞こえるどころか、チャンネル運営したがる奴らから明確な要望として上がってきているのだ。
王子様ははっきりと固辞していたから安心していたのだが。
オレは動揺を隠すようにスマホの画面に視線を落とした。
「いや、まるで興味がない」
その言葉を聴いた途端に、あっさりと震えが止まる。
「そ、そうか!」
「なんで好き好んで見ず知らずの人間に己自身を晒したいのか、この辺りがいまいち理解できないんだよね」
「あー、それはなぁ」
オレとしては配信者になりたい気持ちは理解できなくもない。
ゲーム配信とか楽しそうだし。
ただ、世の中は出たがりばかりではないのだ。
王子様なんかは、その派手な外見とは裏腹に目立つことを良しとしないしな。
……実際は言動も行動も能力も目立つことこの上ないんだが。
「承認欲求の現れなんだろうけど。
ボクのそれは十分に満たされているからね」
「そうなのか?」
スマホの画面を消して王子様を見やれば、強い視線をオレへと向けてきていた。
火傷するほど熱く、ねばりついてオレを絡め取り、甘ったるく湿り気を帯びた眼差しだ。
まるで腐り落ちる寸前の爛れた果実のよう。
「ボクはキミに見られたいんだ。
キミと付き合う以前のボクは、常に欲求不満だったと言っても過言ではない。
キミに見られたい。
キミと触れ合いたい。
キミと通じ合いたい。
キミに押し倒されて、王子様なんて言われているけどキミという男には敵わないんだって判らせられた挙句に、女の悦びを徹底的にボクの肉体に刻みつけられたい。
……そんな感じ湧き出るぐつぐつとした思春期の欲求を抑えるのに必死だったんだよ?」
「そ、そうか」
「うん!
でも、その欲求ももう解消されたからね!!
なんせ昨日の夜だって、息も絶え絶えのボクへさらに追い打ちをかけるように激しく責め立てた上に!
おねだりまでさせたのに、焦らしに焦らして、ボクの限界を見極めてとどめを刺す!!
そんなことされてしまったら、それはもう思春期特有の青い欲求なんて強制的に解消されちゃうよね?」
「ど、同意を求められても困るというか……」
「ふふ、そんなこと言ってもキミの欲求も同時に解消されてるだろう?
上と言わず下と言わず、ボクのあらゆる場所へ物理的に吐き出してるわけだしね。
ホントに味でキミの体調が判るようになってしまったよ?
ちなみに昨日の体温は36.4度で、脈拍の上は108、下は78、胃腸の動きも活発で、まさに絶好調!
それを証明するかのように昨夜の回数も……数え切れないほどだったね?
濃厚かつまろやかな味わいで鼻を抜ける青く芳醇な香りにボクもくらくらさ!
さらに何と言ってもボクが飲み込む時にはキミからの許可制をとったことが何よりもボク好みだね!
口の中に溜まった
「そ、そこまでだ!」
うっとりと昨夜のことを語りだす王子様を、オレは慌てて静止した。
「む、なんだい?
キミの責め手の妙手具合をもうちょっと語りたいんだけど……」
「じゅ、十分わかったから!
それよりもだ!」
喋り足りなそうな王子様をなんとか遮って話題を変える。
「なんか面白い配信でも見つけたのか?
オマエにしちゃ珍しいと思うんだが……」
「あぁ、別に面白くはないんだけどね……」
と、王子様はオレの方へタブレット画面を見せてきた。
「……カップル配信?」
「うん」
意外というか何というか。
オレの知っている王子様の嗜好からは、かなりかけ離れたチャンネルだった。
微妙な顔をしていたせいか、王子様からフォローが入る。
「いやいや、ボクも興味があったわけじゃないんだ。
そもそもこの手のチャンネルは好きではなかったしね」
「なんで視てたんだ?」
「あぁ、ほら、最近はよくデートに行くようになったろう?」
「そうだな」
まぁ、デートでなくとも付き合う前から王子様とは、ほぼ毎週のように遊びに行ってたんだが。
「デートコースをキミにばかり決めさせていては申し訳ないと思ってね。
ボクもリサーチしてたんだ」
「ふむ……」
全く持って申し訳ないなんてことはないんだが。
王子様と何処かに行くのは楽しいし、そのための遊び場所を探すことも苦ではない。
連れて行ったときの王子様のはしゃぎっぷりを見ただけで、オレ自身、お釣りがくるほど満足できるのだから。
ただ、王子様からのリクエストがあればありがたいのも事実だな。
「それでリサーチしてたら、たまたまカップル配信のチャンネルに辿り着いたんだ。
このカップル自体はどうでもいいんだけど、行っている場所には興味があってね」
「なるほど」
配信の内容は、カップルの二人がキャンプ場へ訪れているようだ。
SUVをそのまま利用してサンルーフを張ったり、大きめのテントを設営したり、BBQの様子を流している。
まぁ、これと言って面白くはないな。
キャンプ自体は良いと思うけど。
「そうなんだ。
キミとキャンプに行くのはありだなー……なんて思ってね。
でもまぁ、道具の準備もあるし、肝心の車がないし、学生の身ではなかなか難しいかもしれない」
「あー、そうだな。
親が暇なら家族ぐるみでキャンプなんてのもありなんだけど」
「まぁ、無理だね。
ボクの両親は言わずもがな。
キミのところのご両親も忙しいみたいだし」
小学校低学年くらいの時には、王子様の家族とうちの家族とでキャンプした記憶がある。
楽しかったのはよく覚えてるし、王子様と一緒にBBQをやったのも覚えている。
今思えば、やたらめったら豪華だったな。
キャンプっていうよりグランピングという方が相応しいはずだ。
「それに重要なのはキミとボクの二人きりでキャンプに行くことなんだ!」
「ふむ、その心は?」
「それはもちろん!
雄大な自然の中で、開放的になったキミから獣のように襲いかかってもらって青か……」
「襲いかからんわっ!」
「目の前に広がる大自然は、もはや景色なんて生易しい言葉では到底片付けられない雄大さだ。
空は果てしなく高く、その青さは視界いっぱいに広がって世界を包む天蓋のごとし!
流れる雲は悠久の時を刻む大河さながら、巨大な威厳をもって空を渡る。
連なる山々は大地の背中であり、荘厳さを称えて神々の眠る玉座めいた威容に、人の営みなんてちっぽけなものだと実感させられるんだ!」
「お、おい」
「しかしキミはその天地開闢の畏怖にすら逆らうように、己の中の獣性に目覚め!
目の前にいたボクという生贄の雌に、今まさに食べ頃の女の子に、たわわに実った果実に、その野性的な剥き出しの衝動をぶつけるんだっ!
さぁ、きてくれっ!!」
「いかねぇよっ!」
「でも、美味しそうだろう?」
「それは否定しないけどっ!?」
「狭いテントの中で……とかもボク的にすごく良いと思うんだ!
ナイロン生地を一枚隔てただけで、周囲にはキャンパーも多いってことは、必然的にキミとはこっそりと静かに密やかに致さないといけないだろう?
ひじょーにボク好みのシチュエーションだ!」
「ひじょーにじゃねぇよっ!」
「む!
あぁ、なるほど!
キミ的にはキャンプ場みたいな場所では満天の星空の下、ボクを背後から抱っこして責め立てつつも一緒にきらめく星を眺めたいってわけだね?
ふふ、ボクそんなことされちゃったら星空を見ている余裕なんてないよ?
やはり開放感っ!」
「ロマンチックなのは良いんだけど!
普通に見ろよ!?」
一向に襲いかかろうとしないオレに、王子様は不満そうな視線を送ってきた。
「むぅ、しょうがないね。
まだ陽も高いし、夜まで待つよ」
「そうしてくれ」
「ふふ、夜はきてくれるんだね?」
「あ、う……」
つい本音が漏れてしまい王子様からにやりとされてしまったが、まぁ、王子様の機嫌が治ったのでよしとしよう。
「キャンプはいずれ計画を立てて行きたいね。
でもBBQだけならうちの庭でできるよ。
倉庫に道具も一通りあったはずだ。
シュラスコなんてキミの好みだろう?」
「あぁ、塊肉を串に刺したやつな」
「うん、工夫はあんまりできないし
「……ん?
あぁ、そうだな。
庭でBBQってのもアメリカンな感じでいいな。
オマエんちの庭なら広いし。
せっかくの庭を使わない手はないな。
昔はいろいろ遊んだけどなぁ。
子供の頃にビニールプールでずぶ濡れになったのは良い思い出だ」
「あぁ、よく覚えているよ。
子供用のビニールプールは可愛らしくて好きだった。
キミときたら服を着たままプールに飛び込むものだから。
せっかちさんだね?
せめて服くらい脱げばいいものを。
キミもボクも当時は小さな子供だったんだ。性も未分化だったし、お互い全裸でも問題ないだろうに。
お陰でキミの子供の身体をじっくりと観察する機会を失ってしまったじゃないか。
まぁ、今もまったくもって問題ないんだけど」
「問題あるわ!」
「むぅ、昨日だって一緒にお風呂入ったのに……
入浴なんだからもちろんお互い全裸だね!」
「……さて、BBQの話をしようか」
「お互い汗濡れだったし、いろんな液体まみれだったしね?
特にボクはキミの出した……」
「腹減ったなー!
オマエの作った食事を食べたいな―!!」
王子様が優しく微笑んだ。
「今ならちょうど冷蔵庫に良いお肉があるよ。
ピッカーニャ、アルカトラ、コントラフィレにクッピン、フラウジィニャと一通り揃ってる。
野菜もあったかな?
トウモロコシもあるよ」
王子様も本題に戻ることに異論はなさそうだ。
聞いたこともない肉の名称は気になるが、コイツの言うことなら間違いないだろう。
むむ、安心したらホントに腹が減ってきたような……
「ふふ、今から準備すれば余裕で夕餉の時間帯に間に合いそうだね?」
「おお!
今日はちょっとだらけちまったし、イベントっぽくていいな!」
「鉄串に食材を刺していくだけの料理だけど、分担して一緒にやろうか?
ボクは材料を切っていくから、キミはお肉を串刺しにしていってくれ。
得意だろう?
昨夜だって散々ボクの
「言い方!」
やったけど! やりましたけど!!
調子に乗りすぎて、王子様と深夜まで夢中になっちゃったけどっ!
そのせいで立ち上がれなくなった王子様と、一緒に風呂に入ることにもなったんだけどっ!!
話題が反らせてなかった!?
「ボクとしては激しさの中にある気遣いと、ボクを気持ちよくしてくれつつも弱いところは的確に責めてくる意地悪さがすごくツボだった!」
「わ、わかったから!」
「今夜も期待しているよ?」
「お、おう!」
「よし!
それじゃさっそく機材を準備してくるのでちょっと待っていてくれ。
冷蔵庫に食材が入っているから適当に出しておいてくれると助かる」
「お安い御用だ」
機材?
あぁ、BBQのコンロかな?
「あ、重たいだろ?
オレも手伝うぞ」
「え?
いや、大丈夫だ。
重たい物じゃないから」
「まぁ、オマエがそう言うなら」
と、王子様はスタスタと部屋から出ていってしまった。
まぁ、いいか。
オレもキッチンへ向かおう。
王子様と一緒にBBQか……
楽しいに決まっているし、美味いに決まっている。
思い立ったが吉日って感じでスタートしたけど、フットワークの軽い王子様らしいじゃないか。
火の始末にだけは気をつけないとな。
つづく