宇宙の情炎 作:プラズマ
シャトルの客室は、低いエンジンの振動音に満たされ、窓の外には果てしない宇宙が広がっていた。アレキサンドリアへ向かう短い移動時間。ティターンズの制服に身を包んだジェリドは、隣に座るライラの肩にそっと手を置き、指先で彼女の制服の襟を軽くなぞった。ボスニアの居住区画で迎えた朝、彼女の部屋で交わした熱い夜の記憶がまだ彼の胸に残り、その温もりが指先にまで伝わってくるようだった。
ジェリドは彼女の横顔を見つめた。戦場での鋭い表情とは異なる、穏やかな美しさがそこにあった。ライラは視線を星々に投げかけていたが、その瞳には情熱と、どこか重い影が宿っているように見えた。ジェリドの手が彼女の肩から背中へと滑り、制服越しに感じる彼女の体温に、彼は小さく息を吐いた。
「なぁ、ライラ。お前ってさ、家族のこととか全然話さないよな」
ライラは彼の方へ顔を向け、唇の端に微かな笑みを浮かべた。
「必要がないからね。任務に影響するなら別だけど……お前がそんな気分なら、聞いてやるよ」
彼女の声は低く、掠れた甘さがまだ残っていて、ジェリドの耳に心地よく響いた。
「そうか。まぁ、お前らしい答えだよ。でもさ……昨夜お前がそばにいてくれたから、こういう話もしたくなるんだ」
ジェリドはそう言って、彼女の肩に置いた手を軽く握り、指先で制服の布をそっと摘んだ。ライラは小さく首を振ったが、その目には拒絶ではなく、興味と優しさが混じっていた。彼女が身を少し寄せると、シャンプーの香りと彼女の吐息が微かに漂い、ジェリドの鼻腔をくすぐった。
「俺の親父、軍艦乗りだったんだ。連邦の巡洋艦でさ、ジオンと散々やりあってたらしい。子供の頃はそいつの話ばっかり聞いてたよ。『地球を守るのが俺たちの仕事だ』って、偉そうに言ってたけど、家にはほとんどいなかった。母ちゃんが寂しそうにしてたのを覚えてる」
ジェリドの声には皮肉が混じりつつも、どこか懐かしさが滲んでいた。彼の手がライラの背中を軽く撫で、彼女の体温を感じながら言葉を続けた。
「で、爺さんは北米で畑やってたんだ。穀物育てて、連邦に卸してた。頑固な人でさ、宇宙なんかにゃ絶対行かねえって笑ってたよ。でも……デラーズのコロニー落としで全部終わった。あの星の屑作戦で、爺さんの畑も、爺さん自身も、跡形もなく消えた」
彼の声が一瞬低くなり、拳を軽く握った。ライラがその手をそっと掴み、指を絡めてきた。彼女の温かい掌がジェリドの緊張を解き、彼は彼女の瞳を見た。
「0083年か。北米の穀倉地帯がやられた時だね。あの事件、連邦全体が揺れたよ。表には出なかったけど、みんな分かっていた」
ライラの声は静かで、どこか遠くを見るような響きがあった。ジェリドは小さく頷き、彼女の手を握り返した。
「ああ。あの時、俺はまだガキだった。親父が通信で怒鳴ってるのを聞いてたよ。爺さんの畑が吹っ飛んで、何も残らなかったって。親父はそれでスペースノイドを憎むようになった。俺も……正直、同じ気持ちだった。あのコロニー落としのせいで、爺さんの笑顔も、畑の匂いも、全部奪われたんだ」
ジェリドの瞳に苦い光が宿ったが、ライラの手の温もりがそれを和らげた。彼は彼女の指を軽く撫で、彼女の柔らかな肌を思い出すように触れた。ライラが小さく息を吐き、彼の肩に頭を寄せた。金髪がジェリドの頬をくすぐり、シャンプーの香りが再び漂った。
「それでティターンズに入ったのか?」
ライラの問いかけは穏やかで、優しさが含まれていた。ジェリドは少し考え込むように視線を落とし、やがて小さく笑った。
「半分はな。親父みたいに連邦のために戦うってのもあったけど……ぶっちゃけ、出世したかっただけだよ。ティターンズなら上にいけるって思った。でもさ、あのコロニー落としのことを思い出すたび、スペースノイドを叩きのめすのが正しいって気持ちが湧いてくるのも事実だ。全員が悪人じゃないとはわかってるんだが……」
ライラは彼の言葉を聞き終えると、首を振って微笑んだ。
「個人的な恨みと任務をごっちゃにするのは感心しないね。けど……気持ちは分からなくもないよ。私だって、30バンチを見てから頭が整理しきれなくてさ」
彼女の声が一瞬震え、瞳に驚きと怒りが混じった。ジェリドがその変化に気づき、彼女の手を強く握った。
「お前、あの時叫んだよな。『嘘だ!』って。あの廃墟と死体を見て、どう思ったんだ?」
ライラは軽く目を伏せ、静かに呟いた。
「信じられなかったよ。ティターンズがそんなことするなんて……ずっと連邦の正義を信じて戦ってきたのに、あんな虐殺が隠されてたなんて。バスクやジャマイカンが平気な顔してると思うと、腹が立って仕方ない」
彼女の声に怒りが滲み、ジェリドはその重さに息を呑んだ。彼が彼女の手をさらに強く握り、低く問いかけた。
「俺もだ。あれをティターンズの正義って言われても、納得できねえ。どう立ち向かうべきなんだ? 上に言ったって、反逆者扱いで終わりだろ」
ライラが顔を上げ、鋭い視線でジェリドを見つめた。彼女の声に決意が宿った。
「だから、私たちだけで動くしかないよ。30バンチの真実を隠してる連中が、ティターンズを腐らせてる。上に逆らえば切り捨てられるけど、黙って従うのも違う。証拠を集めて、いつか暴く。それが私たちのやり方だ」
ジェリドが目を細め、彼女の提案に深く頷いた。
「証拠か……確かにそれなら、上に潰される前に動ける。俺とお前なら、なんとかやれるかもしれない。でもさ、俺はただ……お前と一緒にいたい。そして、こんな虐殺が二度と起こらないようにしたいんだ」
ライラが小さく笑い、彼の胸に手を置いた。制服越しに感じる彼の鼓動が、少し速くなっていた。
「お前らしいよ、ジェリド。私だって同じだ。上に媚びて生きるのは嫌だ。ティターンズが腐ってるなら、私たちで変えるしかない。お前と一緒なら……そのために戦える」
彼女が身を寄せ、二人の唇が自然と近づいた。柔らかく、だが確かな意志を込めたキスが交わされた。昨夜の情熱とは異なり、深い信頼と決意がそこに流れていた。唇が離れると、ライラがジェリドの額に自分の額を押し付け、静かに囁いた。
「これからが本当の戦いだ。二人で乗り越えよう」
ジェリドが力強く頷き、低く応えた。
「ああ。お前がいてくれりゃ、どんな敵でも怖くねえよ」
シャトルは目的地に向かって静かに進み続けていた。窓の外では、星々が遠くで瞬き、アレキサンドリアの戦場が近づく中、二人の間に流れる決意は、闇に立ち向かう強さを秘めていた。ライラの手を握るジェリドの掌に、彼女の温もりと共に、新たな道への意志が宿っていた。
最初に考えたシーンがここ
30バンチをスルーしすぎてたので、アップデートしました。