宇宙の情炎 作:プラズマ
アレキサンドリアの作戦室は、冷たく静まり返った空間だった。薄暗い照明が投影された地図を浮かび上がらせ、円卓を囲むティターンズの士官たちが次の指令を待っている。淡い光が壁に揺れ、消毒剤の微かな匂いが冷たい空気に混じる。ジェリドとライラは並んで座り、制服の襟が微かに擦れる音が静寂に響いていた。
ジェリドの視線はホログラムに注がれ、月面下での戦い方を検討していた。ライラは腕を組み、冷静な表情でジェリドの横顔を一瞥する。
カクリコンはジェリドの隣に座り、軽く肘を当ててニヤリと笑う。カクリコンは二人を見るたびにニヤリとし、前回のからかいの続きを楽しんでいるようだった。その軽い肘の感触に、ジェリドが小さく肩を動かして応じる。
扉が重々しく開き、ジャマイカンが入室。金属が軋む音が響き、士官たちのざわめきが瞬時に止まった。彼の鋭い視線が一同を貫き、ブーツの重い足音が床に反響する。ジャマイカンが円卓にデータパッドを置き、鈍い音とともに嫌味な口調で話し始めた。
「諸君、アーガマが月へ向かったことは確認済みだ。奴らがいるのはグラナダかアンマンのどちらか。補給と再編成を企んでいるのは明らかだ。ティターンズとして、これを見逃すわけにはいかん」
指がコンソールに這い、月の詳細な地形を指し示す。ホログラムの光が彼の冷たい瞳に映り、不気味な輝きを添えた。
「我々の任務は、アーガマの位置を正確に捕捉し、追撃の準備を整えることだ。そのため、新型モビルスーツ、マラサイを1機投入する。性能テストを兼ねた偵察任務だ。グラナダ近郊の月面に先行させ、アーガマの動きを確かめる」
マラサイのスペックが投影され、オレンジの洗練された機体が映し出される。軽量で機敏そうなデザインに、ジェリドが身を乗り出し、目を奪われた。ハイザックより洗練されたフォルムに、戦士としての本能が疼き、心臓の鼓動が微かに速まる。ライラがその様子を見て、小声で囁く。
「新型に目が離せないみたいだね、ジェリド」
声に微かなからかいが混じり、彼女の吐息が耳元に触れる。ジェリドが小さく笑って返す。
「当たり前だ。この機体なら、ガンダムのパワーにも負けない」
ジャマイカンがそのやり取りに冷たい目を向け、鼻で笑う。
「立候補者はいないのか? この任務は危険だが、新型を扱う名誉もあるぞ」
ジェリドが即座に手を挙げ、力強い声で応じた。
「俺がやります、少佐。マラサイを試すなら、俺に任せてください」
声に自信が宿り、拳を握る手に力がこもる。だが、ジャマイカンの目が冷たく細まり、嫌味な笑みが浮かぶ。カクリコンも少し遅れて手を挙げ、ジェリドに軽く笑いかけた。
「俺も立候補するぜ、少佐。ジェリドと一緒なら最高だが、単独でもマラサイをしっかり試してやるよ」
ジャマイカンが二人を見比べ、ジェリドに冷ややかな視線を注ぐ。
「ジェリドか……お前は確かに30バンチでアーガマを見つけたが、逃がした失態やそれまでの失敗はどう説明するつもりだ? ティターンズの名を汚したお前に、新型のマラサイを任せる気はない」
ジェリドの顔が強張り、反論が喉まで上がる。拳を握り締め、指の関節が白くなる。
「30バンチでの失態は援軍が遅れたせいです、少佐! 俺とライラが命懸けで戦ったのに、増援が間に合わなかった。あの状況で逃がしたのは俺の責任じゃねえ!」
ジャマイカンが冷たくジェリドを睨み、声に苛立ちを滲ませる。
「言い訳か、ジェリド? 増援の遅れは作戦の一部だ。お前が無能だから逃がした。それ以上口を開くな」
ジェリドの目が怒りに燃え、さらに反論しようとするが、ライラが彼の腕を軽く押さえて制止する。彼女の指先がスーツに触れ、微かな圧力がジェリドを落ち着かせる。カクリコンがその様子を見て、小さくため息をつき、ジェリドに同情の目を向けた。
ジャマイカンが満足げに頷き、カクリコンに視線を移す。
「カクリコン、お前がこの任務を担え。前の戦いでも冷静さを保っていた。お前ならマラサイを無駄にはせんだろう」
カクリコンの表情が一瞬曇り、ジェリドをチラリと見る。彼が立ち上がり、少し申し訳なさそうな口調で応えた。
「了解しました、少佐。……じゃあ、俺がやってやるよ。マラサイでエゥーゴの尻尾掴んでみせる」
ジェリドが歯を食いしばり、拳を握り締めるが、言葉を飲み込んだ。ライラが肩に軽く手を置き、小声で囁く。
「我慢しろ、ジェリド。カクリコンなら大丈夫だ」
声に静かな信頼が滲み、ジェリドの胸の苛立ちを和らげる。彼が小さく頷き、ライラの手の温もりに一瞬目を閉じた。
ジャマイカンが会議を締めくくる。
「では、カクリコンがグラナダ近郊へ出撃する。それ以外の者はアーガマの捕捉準備を進めろ。解散だ」
士官たちが席を立ち、作戦室にざわめきが戻る。足音が金属床に響き合う中、カクリコンがジェリドに近づき、肩を軽く叩いた。
「なぁ、ジェリド。すまねえな。俺がマラサイ試すことになっちまって。お前がやりたかったのはわかってるけど……しかしジャマイカンの奴、お前を目の敵にしてるな」
ジェリドが苦笑しながら首を振る。
「いいさ、カクリコン。お前ならマラサイをしっかり扱える。俺は……次でジャマイカンを見返してやるよ」
ライラが二人のやり取りを見て、軽く笑いながら口を挟む。
「ジャマイカンの嫌味はいつものことだ。カクリコン、お前が選ばれたなら、私とジェリドの分まで活躍してこいよ」
カクリコンが「了解!」と笑顔で応じ、三人は作戦室を後にした。
格納庫に足を踏み入れると、整備員たちの声とモビルスーツの金属音が響き合っていた。オイルと焦げた鉄の匂いが鼻腔を刺し、ハイザックとガルバルディが整備中の脇に、新型のマラサイが堂々と立つ。
オレンジの機体が格納庫の照明に映え、洗練されたフォルムが戦士の目を引いている。カクリコンはパイロットスーツに着替え、ヘルメットを手に持って準備を進めていた。スーツが彼の体にフィットし、軽い汗が額に滲んだ。ジェリドとライラは少し離れた場所からその姿を二人で見守っていた。ジェリドの胸にはジャマイカンへの苛立ちが残りつつ、カクリコンへの信頼がそれを和らげ、ライラは腕を組んで立ち、ジェリドの横にそれとなく寄り添っていた。
カクリコンが二人に近づき、ヘルメットを手に軽く振って笑いかけた。
「なぁ、ジェリド。マラサイ、悪くねえ機体だぜ。グラナダでアーガマの尻尾でも掴めたら、お前とライラ大尉に自慢してやるよ」
ジェリドが小さく笑い、カクリコンの肩を叩く。叩かれた感触に記憶が一瞬重なる。
「お前ならできるさ。グリーンノアの時みたいに無茶しなけりゃな。あの時の叫び声、今でも耳に残ってるぜ」
カクリコンが「うるせえ!」と笑いながら返す。
ライラがそのやり取りを見て、カクリコンに視線を移す。
「カクリコン、マラサイで無事に帰ってこいよ。新型なら、私とジェリドが認める活躍を見せてくれ、あと大尉はもういいさ、ジェリドの親友なんだろう」
カクリコンがニヤリと笑い、ジェリドとライラを交互に見てから軽口を叩く。
「おお、ライラにそう言われたら頑張るしかねえな。ただなぁ、お前ら、俺がいない間にまた熱い夜でも過ごすんだろ? 雰囲気、隠しきれてねえぜ!」
ジェリドが一瞬目を逸らし、頬が微かに赤らむ。ライラとの夜——彼女の熱い肌と喘ぎが脳裏を掠め、声が少し上ずった。
「何だよ、カクリコン! 変なこと言うなって、ちゃんと任務果たしてこいよ!」
カクリコンがさらに笑い、ライラに視線を移す。
「ライラ、お前はどうだよ? ジェリドと二人で俺の留守を楽しむ気か? 恋人同士なら、そういうのもありだろ?」
ライラが軽く鼻で笑い、ジェリドの肩に手を置いて応える。
「楽しむかどうかは置いといて、カクリコン。お前が無事に帰ってくるなら、私とジェリドで祝ってやるよ。それに……ジェリドは私がいなきゃ退屈するから、仕方なく付き合ってやるだけさ」
ユーモアが滲み、ジェリドが「ライラ!」と抗議するが、カクリコンが腹を抱えて笑い出す。
「お前ら、最高だよ! ジェリド、ライラとそんな仲なら、俺がいなくても寂しくねえな。俺はマラサイで一人寂しくグラナダに行ってくるから、帰ったら熱い話でも聞かせてくれよ!」
カクリコンがヘルメットを被り、マラサイのコックピットへと歩き出す。整備員が最終点検を終え、ハッチが開く音が響く。スラスターの低いうなりが格納庫に響き合い、カクリコンの足音が金属床に反響する。ジェリドが背中に声をかけた。
「カクリコン、無事に帰ってこい。とりあえずそれだけは言ってやるよ」
カクリコンが振り返り、親指を立てて笑う。
「任せとけ、ジェリド。お前とライラのためにも、いい土産を持って帰るよ! アーガマの尻尾か、ガンダムの残骸かはわからねえけどな!」
マラサイのコックピットが閉まり、スラスターが低く唸り始める。ジェリドとライラは並んで立ち、出撃を見送った。格納庫のシャッターが開き、マラサイが月面へ向けて静かに発進する。オレンジの機体が星々の光に溶け込み、小さくなるまで二人は黙って見つめていた。ライラがジェリドの肩に軽く手を置き、低く呟く。
「カクリコンなら大丈夫だよ、ジェリド」
ジェリドが手を握り返し、力強く頷く。
「ああ。お前と一緒なら俺のほうが強いけど、カクリコンも負けちゃいねえよ。アーガマを見つけてくるさ」
マラサイが格納庫から消え、アレキサンドリアの静寂が戻った。ジェリドとライラは肩を並べ、作戦の次の段階を待つのだった。
ジャマイカンがやっぱり使いやすい・・・