※この作品はR-18です。

宇宙の情炎   作:プラズマ

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カクリコンの危機

 月面の荒涼とした大地が、マラサイのコックピットスクリーンに広がっていた。灰色の砂塵と無数のクレーターが続く風景は、静寂と孤独を湛え、人工的なコロニーの喧騒とは対照的だった。カクリコンは新型モビルスーツの操縦桿を握り、グラナダ近郊の偵察任務に没頭していた。

 

 マラサイのスラスターが低く唸り、月面の低重力を活かした軽快な機動が彼の手足のように反応する。ハイザックとは比べ物にならない加速と操作性に、カクリコンの口元に笑みが浮かんだ。スラスターを微調整し、機体をクレーターの縁に着地させると、振動がコックピットに心地よく響き渡り、汗ばんだ掌に操縦桿の冷たい感触が伝わる。

 

「思った通りだ…こいつ、すげえ機体だぜ。軽くて速い、まるで俺の考えを読んでるみたいだな」

 マラサイのビームライフルを構え、月面の起伏を跳び越えると、機体の反応速度に感嘆の声が漏れる。ハイザックの重々しい動きとは違い、マラサイは羽根のように軽やかで、スラスターの出力が一瞬で機体を宙に浮かせる。彼が旋回させ、砂塵を巻き上げながら進むと、ヘルメットの中で汗が額を伝い、バイザーに微かな曇りが広がる。

 

「こいつなら、ガンダムだって簡単に倒せる。ジェリドに自慢してやるぜ! あの猪野郎、ハイザックで満足してる場合じゃねえよ!」

 

 月面を進む中、アレキサンドリアでの記憶が脳裏を掠めた。ジェリドとライラの姿——格納庫で肩を並べ、軽い笑い声を交わしていた二人の様子が鮮やかに浮かぶ。ジェリドの照れた笑顔とライラの鋭い目つきに隠れた柔らかさ。ジェリドの赤らめた顔とライラの軽い返しが蘇る。彼が小さく笑い、ヘルメットのバイザーを調整しながら呟く。

 

「なぁ、アメリア…俺もお前に会いてえよ。ジェリドとライラみたいに、お前と一緒に笑って過ごせたら…こんな任務も悪くねえな」

 

 地球の基地で医療士官として働く彼女の姿が鮮やかに蘇る。医務室で傷の手当てをしてくれた時の温かい手と、『無茶しないでね、カクリコン』と笑いながら言った柔らかな声。ある夜、基地の展望デッキで二人で星を見た時の記憶が重なる。アメリアが彼の肩に寄り添い、『戦争が終わったら、どこか静かな場所で暮らそう』と囁いた言葉が、耳に残っていた。彼女の髪から漂うシャンプーの香りと、星明かりに照らされた穏やかな笑顔が、カクリコンの心を強く打つ。

 

「この任務終わったら、アメリアに連絡してみるか…いや、会いに行ってやる。ジェリドたちみたいに、俺だって…」

 

 その時、マラサイのセンサーが微かな熱源反応を捉えた。カクリコンが目を凝らし、スキャンデータを拡大する。月面の砂塵の中に、戦艦の航跡らしき熱の痕跡が浮かび上がる。細長いパターンがグラナダ方向へ伸び、心が跳ねた。スクリーンに映るデータを何度も確認し、興奮が抑えきれなくなる。

 

「これだ…アーガマだ! グラナダに向かってるな。この航跡、戦艦クラスの出力に間違いねえ。ジャマイカンに報告して、追撃の準備を…!」

 

 通信パネルに手を伸ばし、アレキサンドリアへデータを送信しようとした瞬間、レーダーに赤い点が3つ点灯し、警告音がコックピットをけたたましく満たす。カクリコンの目が鋭くなり、反射的に機体を後退させる。

 月面のクレーターの陰から、エゥーゴのMSが3機飛び出してきた。緑の機体がビームライフルを構え、マラサイへ向けて一斉に発射する。オレンジ色のビームが月面を焦がし、砂塵が舞い上がる中、カクリコンがスラスターを全開にし、機体を旋回させて回避した。衝撃波がマラサイを揺らし、歯を食いしばる。

 

「くそっ、エゥーゴの新型か! 待ち伏せかよ! どこに潜んでたんだ!」

 

 マラサイのビームライフルを構え、反撃の一撃を放つ。ビームが1機のネモの肩装甲を掠め、火花が散るが、敵の連携が素早く、残り2機が左右から挟撃してきた。低重力を利用して高度を取り、跳躍するが、敵のビームが盾を直撃し、装甲が赤熱して溶け始める。警告音が鳴り響き、コックピットの赤い光が顔を照らす。

 

「3対1か…マラサイの性能でも、これはきついぜ! ジェリド、ライラ…援軍頼む!」

 

 通信を開き、叫ぶように報告する。

 

「こちらカクリコン! グラナダ近郊で敵の新型MS、3機に遭遇! 援軍を頼む、アーガマの航跡も確認済みだ! グラナダ方向へ向かってる!」

 

 通信の向こうからノイズ混じりの応答が返るが、状況は悪化する一方だった。ネモの動きが統率されており、1機が正面から牽制射撃を続け、残り2機が背後を取ろうと旋回する。カクリコンがマラサイの機動力を頼りに回避を繰り返すが、ビームが脚部を掠め、スラスターの出力が不安定に落ち始めた。額に汗が流れ、ヘルメットの中で息が荒くなる。

 

「くそっ、このままじゃ…!」

 

 ネモの1機が接近し、ビームサーベルを振り上げる。カクリコンが盾で受け止め、衝撃で機体が大きく揺れる。アメリアの顔が脳裏を掠め、歯を食いしばった。

 

「まだ死ねねえ…アメリアに会うまでは…ジェリド、ライラ、頼むぞ!」

 

 アレキサンドリアの作戦室では、緊張が張り詰めていた。壁にマラサイの位置データが映し出され、カクリコンの通信が断続的に届く。ジェリドとライラは円卓の端に立ち、スクリーンに映る赤い点と警告信号を注視していた。カクリコンの声がノイズに混じって響き、新型MSの襲撃を知らせると、ジェリドの顔が一瞬で強張る。円卓を叩き、鈍い音が部屋に響き、声を張り上げた。

 

「カクリコンがピンチだ! 新型3機に囲まれてる、援軍を出さないとやられるぞ! 今すぐだ!」

 

 ライラが即座に頷き、ジェリドの隣に立つ。目が鋭くなり、冷静さと焦りが混じる声で続ける。

 

「アーガマの航跡も見つけたって言ってる。カクリコンがこんな状況で頑張ってるのに、見捨てるわけにはいかねえよ、少佐!」

 

 ジャマイカンが冷たい視線で二人を見やり、鼻で笑うような表情を浮かべる。データパッドを手に持ったまま、ゆっくりと口を開く。

 

「過剰な戦力投入は余計だ。カクリコンがマラサイで対処できんようなら、その程度の男ということだ。アーガマの位置は確認できた、それで十分だろう」

 

 ジェリドの目が怒りに燃え、一歩踏み出して反論する。

 

「十分じゃねえ! カクリコンは俺の親友だ、見捨てるなんてありえねえよ! 30バンチでも援軍が遅れて苦戦したろ、今回も同じ過ちを繰り返す気か? あんたの命令で仲間が死ぬのはもう嫌だ!」

 ジャマイカンがジェリドを冷たく睨み、声に苛立ちを滲ませる。

 

「感情に流されるな、ジェリド。お前が勝手に出撃しても、過剰に戦力が失われたらティターンズの損失だ。命令に従え」

 

 ライラがジェリドの腕を掴み、彼を抑えつつジャマイカンに鋭い視線を向ける。声が低く、だが力強く響く。

 

「命令より仲間が大事だ、カクリコンは私たちの力だ。少佐、あんたがそう言うなら、私たちが動くしかない」

 ジェリドがライラの手を握り返し、彼女の目を見て決意を固める。

 

「ライラ、行くぞ。カクリコンを見捨てるなんて、俺にはできねえ。お前と一緒なら、絶対助けられる」

 

 ライラが力強く頷き、ジェリドと共に作戦室を飛び出す。士官たちのざわめきが広がり、ジャマイカンが「勝手な行動は許さんぞ!」と叫ぶが、二人の足音はすでに遠ざかっていた。作戦室の扉が閉まる音が響き、ホロに映るマラサイの信号が点滅を続けていた。

 

 格納庫に駆け込むと、整備員たちの慌ただしい声とモビルスーツの金属音が響き合っていた。オイルと焦げた鉄の匂いが鼻を刺し、ハイザックとガルバルディが整備台に並ぶ。エンジンの低いうなりが空気を震わせ、ジェリドとライラは息を切らせながら機体に飛び乗った。ジェリドがコックピットのハッチを閉め、操縦桿を握りながら叫ぶ。

 

「カクリコンを助けるぞ、ライラ! 急げ! 奴がやられる前に間に合わなきゃ!」

 

 ライラが通信越しに応じ、ガルバルディのエンジンを起動させる。スラスターが熱を帯び、力強い声が響く。

 

「当たり前だ、ジェリド。カクリコンを死なせるわけにはいかねえよ! 私とお前なら、絶対間に合う!」

 

 整備員が驚いた顔で二人を見上げるが、ジェリドが通信パネルを叩き、命令を無視して出撃準備を進める。ハイザックのハッチが閉まり、スラスターが唸りを上げる。ライラのガルバルディも、整備員が慌ててケーブルを外す中、起動を完了させた。ジェリドが通信を開き、カクリコンに呼びかける。

 

「カクリコン、持ってろ! 今、俺とライラが行く! 新型なんかにやられるなよ、親友だろ!」

 

 通信からはノイズとカクリコンの荒い息遣いが返ってくる。

 

「ジェリド…ライラ…頼む、急いでくれ…!」

 

 月面の灰色の大地が視界に広がる。ハイザックとガルバルディのスラスターが全開に点火し、二機が一斉に発進した。砂塵を切り裂き、アレキサンドリアを後にする。ジェリドの胸にはカクリコンへの友情が燃えていた。スクリーン越しに月面を見つめ、ライラに通信で語りかける。

 

「ライラ、俺たちでカクリコンを助ける。お前と一緒なら、どんな敵でも怖くないからな」

 

 ライラが隣を並走し、ガルバルディのビームライフルを構えながら力強く応じる。

 

「そうだ、ジェリド。お前と一緒なら、カクリコンを必ず助けられる。アーガマだろうが新型だろうが、ぶっ潰してやるよ!」

 

 ハイザックがクレーターを跳び越え、ガルバルディがその横を疾走する。

月面の静寂の中、ジェリドがライラに一瞥をくれ、低く呟く。

 

「お前と俺なら、最強だ」

 

 ライラが小さく笑い、通信越しに返す。

 

「当たり前だよ、ジェリド。私とお前で、カクリコンを救うぞ」

 二機のモビルスーツが月面へ躍り出て、灰色の大地を疾走していった。

 

 

 

 




アメリア秘書説はなんか違う
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