宇宙の情炎 作:プラズマ
アレキサンドリアの作戦室は、戦闘後の静けさに包まれていた。壁の星図には月面のグラナダ近郊が映し出され、マラサイの位置データとネモの襲撃記録が冷たく点滅している。ジェリドとライラは円卓の前に立ち、ティターンズの制服に汗と砂塵の跡が残る姿でジャマイカンの言葉を待っていた。カクリコンは彼らの隣に立ち、マラサイの損傷で少し肩を落としつつも、軽い笑みを浮かべている。士官たちの視線が三人に向けられ、作戦室の空気が重く張り詰めていた。
ジャマイカンが円卓にデータパッドを置き、鈍い音が静寂を破る。彼が鋭い目でジェリドとライラを見据え、嫌味と賞賛が混じる声で話し始めた。
「カクリコンを救ったことは認める。マラサイのデータも無事に持ち帰り、アーガマの航跡を確認した。お前たち二人の行動がなければ、我々は重要な情報を失っていただろう。よくやった、ジェリド、ライラ」
ジェリドが一瞬目を丸くし、ライラが軽く眉を上げる。カクリコンが「ほらな!」と小さく笑い、肩を軽く動かすが、ジャマイカンの声がすぐに冷たく続く。
「だが、命令違反は見過ごせん。お前たちは私の指示を無視して勝手に出撃した。ティターンズの規律を乱す行為だ。この作戦には参加させん。お前たちは戦艦ボスニアへ戻れ」
ジェリドの顔が強張り、一歩踏み出して反論する。拳を握り締め、骨が軋む音が微かに響く。
「少佐、カクリコンが死んでたらマラサイもデータも失ってた。命令違反でも結果を出したんだ、俺たちを外すのはおかしいだろ!」
ライラがジェリドの腕を軽く押さえつつ、冷静に続ける。声に鋭さが宿り、視線がジャマイカンを貫く。
「ジャマイカン、私たちの行動は勝利のためだ。それに、カクリコンのデータを見てると、グラナダに誘うような航跡が気になる。罠があるんじゃないか?」
ジェリドがライラに頷き、勢いよく付け加える。
「そうだ、少佐! エゥーゴがこんなわかりやすい動きをするなんて、グラナダに誘い込む気としか思えねえ。アーガマの真意を見極めるべきだ!」
ジャマイカンが二人を冷たく見つめ、鼻で笑う。
「疑問か……ならば、貴様らの勝手な行動を無駄にしないためだけに別の役割を与えてやろう。アンマン近郊で待ち構えろ。だが、勘違いするな。これはお前たちへの信頼ではない、ティターンズの損失を防ぐためだ」
データパッドを手に持ち、ホログラムにアンマンのクレーター群が投影される。アンマンの荒涼とした地形が浮かび上がり、冷たい光が部屋に揺れる。ジェリドとライラが顔を見合わせ、ライラが小さく頷く。
「了解した、少佐。アンマンで待つなら、私とジェリドでエゥーゴの裏をかいてやる」
ジャマイカンが満足げに頷き、会議を締めくくる。
「ボスニアへ戻り、アンマンで待機しろ。それ以外の者はグラナダ攻撃の準備を進めろ。解散だ」
士官たちが席を立ち、足音が金属床に響き合い、作戦室がざわめきに包まれる中、カクリコンがジェリドとライラに近づく。肩を軽く叩き、笑顔で話し始めた。
「なぁ、ジェリド、ライラ。ほんと感謝してるぜ。お前らが来てくれなかったら、俺、緑の野郎の餌食だったよ」
ジェリドが照れ隠しに咳払いし、ライラが軽く笑う。
「軽口叩けるなら元気そうだな、カクリコン。お前が無事なら、それでいいよ」
カクリコンがニヤリと笑い、二人の肩に手を置く。
「とりあえずこの作戦終わったら、また会おうぜ。お前らの話をもっと聞きてえよ。アメリアにも自慢してやるからな」
ライラが「アメリアに会ったらよろしくな」と返すと、ジェリドが笑いながら頷く。
「ああ、お前も頑張れよ、カクリコン。次は俺たちが助けられる番だな」
三人が軽い笑い声を交わし、カクリコンが敬礼して去る。ジェリドとライラは作戦室を後にし、ボスニアへの帰還準備を始めた。
ボスニアの作戦室は、アレキサンドリアより狭く、簡素な設備が並ぶ。艦長チャンが円卓に立ち、ジェリドとライラがその前に座っていた。すぐ近くに、ライラの部下であるMSパイロット二人が控えている。陽気なトミー少尉は壁にもたれ、腕を組んでニヤニヤしている。ぶっきらぼうなガルシア少尉はデータパッドを片手に渋い顔で立っている。アンマンのクレーター群がホログラムに投影され、エゥーゴの動きを警戒する作戦が話し合われている。艦の振動が床に低く響く中、チャンが落ち着いた声で説明を始めた。
「アンマン近郊で待機する以上、エゥーゴがグラナダ以外に動く可能性を想定せねばならん。ジャマイカンはグラナダ追撃に集中するが、我々はアンマンで裏をかく準備をしておく」
ジェリドが身を乗り出し、拳を軽く握って力強く提案する。
「艦長、エゥーゴがグラナダに誘うなら、アンマンで何か仕掛けてくる可能性もある。ハイザックとガルバルディをいつでも出撃できるようにしておきたい。俺ならすぐ動ける!」
トミーが口笛を吹き、肩を揺らして笑う。
「おいおい、ジェリド、また熱くなってんぞ。大尉の彼氏だからって気合い入りすぎだろ」
ガルシアがトミーを一瞥し、低く唸るように返す。
「黙れ、トミー。あいつらが命令違反でもデータ持ち帰ったから、お前が寝てる間に状況がが動いてる」
ライラがジェリドの肩に軽く手を置き、視線で制しつつ冷静に補足する。彼女の指先が一瞬ジェリドの制服に留まり、自然に離れる。部下たちに向ける視線は大尉としての威厳を湛えているが、どこか柔らかい。
「そうだ、チャン。常時警戒は必要ないが、定期的な哨戒なら私とジェリドで対応できる。アーガマの動きが読めない以上、油断は禁物だ。トミー、ガルシア、準備はできてるな?」
トミーが「了解っす、大尉!」と軽く敬礼しつつ、ニヤリと笑う。ガルシアも「問題ありません、大尉」と頷くが、視線はジェリドとライラの間にちらりと泳ぐ。二人の距離感に気づいているようだが、口には出さない。
チャンが二人を見やり、浅黒い顔に穏やかな笑みを浮かべる。
「その意気だ。哨戒は任せるが、常時ではない。自由時間も確保しろ、休息も必要だ。まあ、偵察ついでに半舷上陸でアンマンにでも出かけてくるのもどうだ?」
トミーが「おおっ!」と声を上げ、手を叩いて喜ぶ。
ジェリドが「了解!」と勢いよく応じ、ライラが小さく頷く。
「マジかよ、艦長! アンマンの酒場で一杯やるチャンスだぜ! 大尉、俺らも連れてってくださいよ!」
トミーが二人に近づき、肩を軽く叩いてからかう。
「なぁ、ジェリド、ライラ大尉。アンマンで二人で偵察って……いつも一緒っすよね。俺ら部下置いて仲良くしすぎじゃないっすか?」
ジェリドが一瞬顔を赤らめ、咳払いでごまかす。ライラは平然とトミーを一瞥し、軽く肩をすくめるが、彼女の耳朶が微かにピンクに染まる。ガルシアが鼻で笑い、ぶっきらぼうに締める。
「バカ言うな、トミー。大尉とジェリドが偵察するなら、俺らは後ろで待機だ。熱血漢が騒ぐ前に仕事しろ」
ジェリドがトミーに軽く睨みを利かせつつ、反論する。
「からかうならお前も連れてってやるよ、トミー。アンマンで飲むなら俺に勝ってみな」
ライラが目を細め、静かに諫める。
「ジェリド、熱くなるな。部下に負けたら私の顔が立たない。ほどほどにしろ」
作戦室に軽い笑い声が響き、チャンが咳払いで場を締める。
「ジェリド、ライラ。お前たちの命令違反は結果を出した。ジャマイカンには言えんが、俺は評価してるぞ。トミー、ガルシアも準備しろ。アンマンで何かあれば全員動く」
一同が敬礼し、作戦室を後にする。ボスニアのエンジンが低く唸り、アンマン近郊への移動が始まった。
作戦室を出た後、ジェリドとライラは居住区画の廊下を並んで歩く。トミーとガルシアが準備に戻り、二人の周囲は静かになる。艦の振動が微かに足元に伝わり、薄暗い照明が二人の影を長く伸ばす。ジェリドがライラの横顔をちらりと見て、口を開く。
「なぁ、ライラ。アンマンでの哨戒、トミーたちの言うみたいに二人でってのも悪くねえよな。からかわれてもさ」
ライラが足を止め、ジェリドを振り返る。彼女の金髪が照明に映え、柔らかい笑みが浮かぶ。
「悪くない、か。なら、お前がちゃんとエスコートしろよ。偵察ついでとはいえデートなんだから、私を楽しませてくれなきゃ困る」
ジェリドが軽く笑い、胸を張る。
「おお、任せとけ。連邦のエース様を連れて、アンマンの街でも見てやるよ。俺が守ってやるから」
ライラがジェリドの胸に軽く手を置き、からかうように目を細める。
「守るなら、まず熱くなる癖を抑えてくれ。疲れた体に鞭打って付き合ってやるんだから、楽しませてな」
二人の笑い声が廊下に小さく響き、戦いの疲れが一瞬だけ溶けていく。アンマンへの移動が進む中、束の間の休息と新たな任務が二人を待っていた。
違うVerのを投稿しちゃっていましたので。再投稿の修正です。
ボスニアにライラの部下を作りました。