宇宙の情炎 作:プラズマ
格納庫でのジャマイカンの詰問が終わり、重い空気を背負ったまま、ジェリドは自室へと戻っていた。通路に響く彼の足音が鈍く反響し、まとわりつく疲労が不快感を増幅させる。熱を帯びたパイロットスーツが肌に響き、戦場の残響が体に染み込んでいた。
自室の扉を乱暴に開け、彼はベッドに腰を下ろした。静寂が部屋を包む中、戦場の記憶が頭をよぎる。ガンダムMk-IIのビームがハイザックの装甲をかすめた瞬間、けたたましい警告音、焼けた金属の匂い——それらが脳裏に鮮明に甦り、拳を握り締めると爪が掌に食い込み、微かな痛みが現実感を取り戻させる。
「勝てなかった…」
ジェリドの喉から掠れた呟きが漏れる。悔しさが胸を締め付け、鉄の味が口に広がる。だが同時に、生き残ったという事実が僅かな成長の証のように感じられた。あの戦場で、ライラと共に死線をくぐり抜けたのだ。額の汗を拭い、深く息を吐くと、心が少しずつ落ち着きを取り戻していく。それでも、悔しさは消えない。カミーユという名が頭を掠め、彼は歯を食いしばった。
しばらくして、彼は立ち上がり、ライラの部屋を訪ねることにした。ジャマイカンの前でかばってくれた彼女に、感謝を伝えなければならない。通路を進み、ライラの部屋の前に立つと、ドアを軽くノックした。返事がない。もう一度叩くと、中から「入れ」と短く声が返ってきた。
扉を開けると、室内に漂う湿った空気とシャンプーの微かな香りが鼻をついた。ライラはシャワーを終えたばかりで、タンクトップとショーツという軽装で立っていた。濡れた金髪が肩に張り付き、水滴が首筋を伝って鎖骨に溜まる。タンクトップが水分で体に密着し、彼女のしなやかな肢体が際立ち、戦士らしい筋肉と女性らしい曲線が柔らかな照明に浮かび上がる。
ジェリドは一瞬目を逸らし、心臓が跳ねるのを感じた。胸の鼓動が耳に響き、喉が乾く。だがライラはそんな彼の視線を意に介さず、濡れた髪をタオルで拭きながら近づいてくる。動きはどこか挑発的で、彼女の存在が部屋を支配しているようだった。タオルの擦れる音が静寂に混じり、水滴が床に小さく落ちる。
ジェリドは喉を鳴らし、言葉を探した。
「さっきは、ジャマイカンからかばってくれてありがとう」
声が僅かに上ずり、彼は自分の不甲斐なさに内心舌打ちする。汗ばんだ手が制服の裾を無意識に握り締めた。
ライラはタオルを放り投げ、ベッドの縁に腰掛けた。膝を軽く組み、ジェリドを見上げる。瞳に宿る鋭さは戦場と同じだが、そこに微かな柔らかさが混じっている。シャンプーの甘い香りが彼女の周りに漂い、タンクトップの肩紐が僅かにずれて水滴で光る肌を露わにする。
「感謝されるようなことじゃない。私はただ、真実を伝えただけだ。あの戦場で敵が特別だったのは事実だろ? ジャマイカンが認めようが認めまいが」
彼女の口調は平然としていたが、どこか嘯くような響きがあった。
ジェリドは一歩近づき、真剣な眼差しで彼女を見つめた。
「それでも…ありがとう、ライラ。お前がそう言ってくれなかったら、俺はただの無能扱いで終わってた」
言葉に熱がこもり、掠れた声に決意が滲む。熱が胸にこもり、彼の瞳がライラを捉えて離さない。
ライラは小さく笑い、立ち上がるとジェリドに近づいた。彼女の吐息が近く、彼の鼻先にシャンプーの甘い香りが漂う。タンクトップの薄い生地が湿って肌に張り付き、水滴で光る鎖骨が艶やかに映る。彼女は首を傾げ、軽く酔ったような口調で呟いた。
「お前がさ…もっと良い男になってくれりゃ、私もこうやって寄りかかって酒でも飲めるんだがな」
その言葉に、ジェリドの頭がフリーズした。言葉が頭の中で反芻され、信じられない思いが胸を駆け巡る。瞳が揺れ、心臓が激しく脈打つ。ライラはそんな彼の反応に小さく溜息をつき、呆れたように目を細めた。
ライラが突然一歩踏み込むと、彼の首に手を回し、唇を重ねた。ジェリドの目が見開かれ、心臓が一瞬止まったかのように感じる。柔らかく湿った感触が彼の唇に残り、熱が顔にこもり、唇が微かに震えた。彼女の吐息が頬を撫で、シャンプーの香りが鼻腔を満たす。
「鈍い奴だな、お前は」
ジェリドは呆然と立ち尽くし、顔が赤く染まる。頭が混乱し、言葉が喉に詰まって出てこない。唇に残る温もりが現実感を増し、心臓が再び激しく鼓動を始める。ライラはそんな彼を一瞥し、タンクトップの裾を軽く直しながらベッドに戻る。背中を向けた彼女の声が、静かに部屋に響いた。
「次は勝てよ、ジェリド。私もお前も…あのガンダムに負けるわけにはいかないだろ」
ジェリドは唇に残る感触を意識しながら、掠れた声で頷いた。
「ああ…次は、絶対に」
部屋を出る時、彼の胸には新たな決意と、ライラへの恋慕が渦巻いていた。扉が閉まり、通路の静寂が彼を包む。遠くでアレキサンドリアのエンジン音が低く唸り、次の戦場への準備が始まっていることを告げていた。ジェリドの足音が通路に響き、戦場の記憶とライラの温もりが交錯する中、彼の瞳にはカミーユを倒す決意と、彼女への想いが静かに燃えていた。