※この作品はR-18です。

宇宙の情炎   作:プラズマ

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運命の場所へ

 アレキサンドリアのブリーフィングルームは、緊張と焦燥が入り混じった空気で満たされていた。長机の上に広がる戦術マップには、アーガマの予想進路が赤い線で描かれ、サイド1、月、サイド2へと分岐する矢印が不確定さを冷たく物語っている。ジャマイカンがマップを睨みつけ、熱が額にこもり、疲労で曇った瞳が鋭く光る。部屋にはジェリドとライラを含む数人の士官が集まり、壁に投影されたモビルスーツの損傷報告が淡々と映し出されていた。焦げた装甲の写真と赤字の数字が、戦場の傷跡を無言で訴える。ジェリドは無言で腕を組み、唇を固く結んでいた。

 

 ジャマイカンが重い声で口を開いた。

 

「このままだとアーガマがサイド1へ行くのか、月に向かうのか、サイド2に行くのかわからん」

 

 彼の指がマップを叩き、掠れた声に苛立ちが滲む。鈍い音が部屋に反響し、空調の低いうなりがその隙間を埋める。

 

 ライラが一歩前に出て、冷静だが力強い口調で提案する。

 

「ですから、艦隊を3つに分けて…」

 

 ジャマイカンが即座に彼女を遮った。声に怒気が混じり、眉が険しく歪む。

 

「大尉! 作戦参謀は私だよ」

 

 ライラは眉を僅かに動かし、視線をジャマイカンに据えたまま、言葉を続けた。

 

「ガルバルディ隊をアレキサンドリアで修理していただいた分だけ、我々は働かなければなりません。我々はティターンズではありませんからボスニアに戻り、別ルートでアーガマを追い、その足を止めます」

 

 熱が胸にこもり、金髪が照明の下で鋭く光った。戦士の気概が静かに部屋を圧する。

 

 ジャマイカンは鼻で小さく笑い、彼女の覚悟を試すように目を細める。

 

「いい覚悟だが、敵を捕捉したときに戦い急ぐなよ。大尉は戦争を好むタイプと聞いたぞ」

 

 ライラの瞳が一瞬鋭くなり、反論が口をつく。

 

「それは少佐の偏見です!」

 

 声に熱がこもり、拳が無意識に締まり、関節が軋む。

 

 ジャマイカンは片眉を上げ、しばし彼女を見つめた後、渋々頷いた。

 

「良かろう。もし接触ができたときの判断は君に任せる。我々との合流を原則にな」

 

 ライラは背筋を伸ばし、敬礼と共に短く応えた。

 

「はっ! 行くぞ」

 

 彼女のブーツが床を叩き、硬質な音がブリーフィングルームに響く。士官たちが動き始め、ジェリドも立ち上がった。

 

「俺も準備を急ぐ。ガンダムを逃がすわけにはいかない」

 

 ジェリドの声は低く、拳を握る手に力がこもり、骨が軋む音が微かに響く。ブリーフィング中、黙って聞いていた彼の瞳には、カミーユへの執念が宿っていた。

 

 会議が解散し、士官たちが退出する中、ジャマイカンがジェリドを呼び止めた。

 

「ジェリド、待て」

 

 ジェリドが振り返ると、ジャマイカンの冷たい視線が彼を貫く。低く唸るような声で警告を発した。

 

「お前は、ティターンズの人間だろう。だが連邦軍のライラと仲良くしすぎだ。ボスニアへ一緒に行くんじゃないだろうな? ティターンズの規律を理解しているのか?」

 

 ジェリドの胸が一瞬締め付けられた。その瞬間、頭に閃く幻視——ライラのガルバルディがガンダムMk-IIのビームに貫かれ、コックピットが爆炎に呑まれる。彼女の叫びが耳に響き、装甲が溶けて赤熱する光景が視界を埋め尽くす。爆風の熱が顔をかすめ、ライラの声が「ジェリド!」と絶叫に変わり、コックピットの破片が宙に舞う。背筋が凍り、熱が額にこもり、息が荒くなる。幻視が消えると、彼は目を瞬かせ、唇が微かに震えた。

 

「いや…俺は一緒に行く」

 

 声は掠れていたが、決意に揺るぎはない。ライラを見捨てるわけにはいかなかった。あの戦場で彼女に助けられ、彼女と共に生き残った絆が、彼を突き動かす。

 

 ジャマイカンの顔が歪み、怒りと諦めが交錯する。

 

「ならば結果を出せ。ティターンズの名を汚すような真似は許さんぞ」

 

 彼は踵を返し、ブリーフィングルームを出ていく。ブーツの音が遠ざかり、ジェリドは一人残された。

 

 通路に出ると、ライラが待っていた。彼女は肩にパイロットジャケットを引っかけ、ジェリドに視線を向ける。金髪が熱で僅かに乱れ、鋭い瞳が彼を捉える。

 

「決めたのか?」

 

「ああ。お前を…いや、アーガマを逃がすわけにはいかない」

 

 ジェリドは言葉を言い淀んだが、ライラは小さく笑って頷いた。

 

「なら、準備しろ。ボスニアで敵を捕まえるぞ」

 

 ライラの声には静かな信頼が宿り、二人は並んで格納庫へと向かっていった。

 

 戦艦ボスニアのブリッジは、静寂と緊張が交錯する空間だった。暗い照明の下、レーダーとモニターが淡い光を放ち、クルーたちの手がコンソールを忙しく動かしている。空調の低いうなりが微かに響き、金属とオイルの匂いが漂う。ライラは艦橋の中央に立ち、腕を組んで窓の外の暗闇を睨みつけていた。ボスニアがサイド1の外れでアーガマを追う中、彼女の焦りが声に滲み出る。

 

「まだか。まだ見つからんのか」

 

 ボスニアの艦長チャンが、コンソールの側から冷静に応えた。浅黒い肌に短く刈った髪、落ち着いた声にはどこか余裕が感じられる。

 

「急ぐなよ。サイド1ではなかったんだ」

 

 その時、ボスニアのクルーの一人が声を上げた。モニターに映るレーダーの点滅を見つめ、手が震える。

 

「いました!」

 

 ライラが振り返り、鋭い視線をクルーに突き刺す。

 

「本当か?」

 

 クルーが慌てて頷き、データを確認しながら報告を続ける。

 

「アーガマです。レーダーにそれらしき船影が。間違いありません」

 

 ライラの唇に薄い笑みが浮かんだ。

 

「当たったか」

 

 チャンが彼女に近づき、眉を軽く上げて問いかける。

 

「ライラ、勝算はあるのか?」

 

 ライラは一瞬目を細め、チャンと視線を合わせた。

 

「あるかどうかはわからないが、やってみせる」

 

 彼女はブリッジの隅に立つジェリドに視線を移し、力強く告げた。

 

「ジェリド、やるよ」

 

 ジェリドは腕を解き、コンソールに寄りかかっていた体を起こす。ブリーフィング中、黙って状況を聞いていた彼の瞳には、ガンダムへの執念が宿っていた。

 

「当然だ。アーガマを逃がす気はない」

 

 ライラが小さく頷き、クルーに指示を飛ばす。ボスニアのエンジンが低く唸り、静かにアーガマを追撃する態勢に入った。ブリッジに張り詰めた空気が流れ、誰もが次の展開を待つ。

 

 やがて、クルーの一人が新たな報告を上げた。声に緊張が混じる。

 

「アーガマが、30バンチに入港した模様です」

 

 ライラの眉が僅かに動く。

 

「30バンチへ? あそこは…」

 

 チャンが彼女の言葉を引き取り、静かに説明を加えた。

 

「例の作戦で住民が全滅したところだ」

 

 ライラの瞳が鋭くなり、思案するように呟く。

 

「あんな場所にエゥーゴが? エゥーゴの秘密基地が?」

 

 チャンが首を振って否定しつつ、冷静に分析を続ける。

 

「ううん、ああいう場所だからこそ、秘密基地の格好の場所と言えるな」

 

 ライラは一瞬考え込み、すぐに決断を下した。

「偵察する。こちらの動きを察知されぬよう、迂回して、工業用ハッチ側へ乗りつけてくれ」

 

 チャンが眉をひそめ、慎重な口調で提案する。

 

「アレキサンドリアを待った方がいいのではないか?」

 

 ライラは小さく笑い、自信を覗かせた。

 

「どうせなら、ジャマイカン少佐に戦況報告ができた方がいいだろう?」

 

 チャンが苦笑しつつ、渋々同意する。

 

「そりゃそうだが」

 

 ライラは視線をチャンに戻し、穏やかに続ける。

 

「様子を見るだけだ」

 

 チャンが念を押すように付け加えた。

 

「基地があるかどうか確認するだけだ。いいな」

 

 ライラが小さく頷く。

 

「うん」

 

 ブリッジのクルーが動き始め、ボスニアは静かに進路を調整する。ライラはジェリドに近づき、低い声で確認した。

 

「準備はいいな?」

 

 ジェリドは頷き、拳を軽く握る。骨が軋む音が微かに響く。

 

「ああ。30バンチで何が待ってるかわからないが…カミーユがそこにいるなら、見逃すわけにはいかない」

 

 ライラの唇が僅かに緩み、信頼の眼差しを返す。

 

 

「なら、行こう」

 二人はブリッジを後にし、モビルスーツ格納庫へと向かう。ボスニアの艦体が微かに振動し、30バンチの暗い影が徐々に近づいてきた。かつてのコロニーの廃墟が、秘密と危険を孕んで二人を待ち受けていた。

 

 

 

 

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